あの人こそ、私の『英雄』なのかしら――?
(――彼女こそ 私のエリスなのだろうか……)















  ield
〜 Elysion in Tales of Destiny 〜 LION ver.














この頃の自分は何かがおかしい、自分らしくない。


リオンがそのことに気付いたのは、ほんのつい最近のことであった。



気が付けばその姿を目で追っていて、何かにつけて話しかけてくれるのを心待ちにしている自分がいる。
一人娘は せっせと種を蒔く

そして会話の中でも、口では何だかんだ言いながら、結構楽しんでいたりして。
変わらぬ過去に 訪れぬ未来に


その傾向はカルビオラを発ってから一層顕著になったと自覚している。
不毛な行為と 君は笑うだろうか?

魔物から庇われたことがきっかけだとは解っていて、やはり自分らしくなく単純だと思っていた。
それなら君は 幸せなんだろうね…


今まで他人と共に居ることが苦痛で、誰かが隣に居ることが恐怖でなかったのに。


シャルティエやマリアン以外の誰かに、“自分”をさらけ出すことが怖くて仕方なかったのに…。
根雪の下で春を待つの 夏が過ぎれば実りの秋ね…


旅のメンバーと打ち解けてきてからというもの、誰か…特にスタンと一緒に過ごす時間が何よりの楽しみになっていた。


マリアンに会えないことによる寂しさも、彼といれば簡単に紛らわせることが出来た。



でも…今までの十六年の月日を、“感情”や“本音”といったものとは縁遠く生きて来たせいか、


リオンは今、自分がスタンに対して持っている“感情”の名前を知らないし解らない。
成果…収穫…それは果実を産む (harvest harvest it yields fruits. )


それに解ったとしても、スタンにこの“感情”を気取られてはいけない。



彼には…スタンにはすでに、自分の実姉でもあるルーティがいるのだから……。
最も遅い収穫…それは甘い果実を産む (lala latest harvest it yields sweets. )


「リオン、大丈夫か?」



いつものように野営で見張りのために起きていると、唐突に話しかけられて驚いた。


絶望的に寝汚く、また破滅的に寝起きの悪いあのスタンが、まさに今起きて自分の隣に居るのだから。



「……何の話だ?」


「いや、なんか…最近のリオン、いつも考え事してるみたいだから……。」



図星をさされてリオンは微かに肩を揺らしたが、スタンは気付かなかったようだ。


そのことに安堵しながら、いつものように憎まれ口を叩いてしまう。



「お前には関係ない。 明日は早いんだ、さっさと寝ろ。」


「うん……。 でもさ、リオンは何でも一人で背負い込もうとしちゃうから、心配なんだよ。」


「何故この僕が、お前なんかに心配されなければならないんだ。」


「だって俺、リオンのこと好きだし。」



勿論それは、『友人として』という意味でしかない。
一夜限りの 情事(ゆめ)でも構わない

だがリオンの持つスタンに対する感情と、同音異義語であるその単語は、彼の顔を赤くするのには充分だった。
それをも女は 永遠に出来るから


さすがにその顔色の変化は、スタンも気付いたようで。



「どっ、どうしたリオン!? 熱か!?」


「うぅ…うるさい! さっさと寝ろ!」



今にもシャルティエを抜かんばかりに怒鳴られて、風邪を疑ってまだ心配ではあるものの、
不毛な恋と 君は笑うだろうか?

スタンはすぐに自分の毛布の中に引っ込んだ。
やっぱり君は 幸せなんだろうね…


「ちぇーー。


…あのさリオン。 俺でよかったら、いつでも頼ってくれて構わないから。」


「っ!?」



それだけを言い残して、スタンは再び夢の中へ戻っていった。
凍える夜は夢を見るの 夏が過ぎれば想いが実る…

相変わらずの寝付きの良さで、リオンが反応を返す暇もない。



あまりのその素早さに、さすがに呆気に取られて二の句が継げなくなってしまう。
結果…収穫…それは果実を産む (harvest harvest it yields fruits. )

低年齢向けの本にある挿絵のように、大きな鼻ちょうちんまで作っている始末だ。
最も遅い収穫…それは甘い果実を産む (lala latest harvest it yields sweets. )


「………。」



底抜けのお人好しで、人を疑うということを知らないスタン。


自分とはまったく正反対の性格で、生きてきた環境も全然違う。



なのに、その隣がとても居心地が良いという事実。
(「3」)…不安定な数字 (「3−1」)…模範的な数式


出来ればずっと側にいたい、離れたくない。


ずっと隣にいて、自分を支えていて欲しい。
問題となるのは個の性質ではなく 唯…記号としての数量


だが家出同然でリーネを出て来たらしいスタンは、いつか必ず、故郷に帰らなければならないだろう。


そして自分が、リーネに行けるはずもない。



第一、明日にはもうモリュウ城へ行く予定になっている。


グレバムとティベリウスから『神の眼』を取り戻したら……。
世界が安定を求める以上 早くどれか一つを引かなければ…


ダリルシェイドに帰って、セインガルド王に報告後パーティーは解散。


そしてその後の自分には、拒否権のない『任務』が待ち受けている……。



『あまり深く考えない方がいいですよ、坊ちゃん。』


「……わかってる。」



これはあくまで一時の、仮初の感情でしかない。


自分にはマリアンしかいないのだと、自分に言い聞かせる。



そこまでしなければ…現実から目を背けて、スタン達と共に居ることの心地よさに甘えてしまいそうになる。



まんじりとしない気持ちを持て余したまま、リオンは自分の体をきつく抱き締める。


そしてそのまま、夜を明かした。

















自らの運命と対峙する覚悟は、とうの昔に出来ている。
何故人間(ひと)は恋をする 相応しい季節(とき)に出会えないの?

…出来ていたのに……。
嗚呼…お父さん(dad)…お母さん(mam)







「――それでも私は幸せになりたいのです……」









「待て!」



再会したのは父の経営する会社の、廃工場地下にある海底洞窟。


それも、敵同士という形で。



久し振りにその姿を見た瞬間に、諦めていたはずの想いが再燃した。


その焔は以前よりも激しさを増しており、もはや、消える術を持っていない。



「何故来たんだ…どうしてお前だったんだ……。」


「リオン…?」



譫言のように何かを呟き続けるリオンに、スタンは首を傾げた。


全員の足止めを命じられていたのに、気付けば視界にはスタンとルーティしかいない。



他のメンバーはみな、一足先にヒューゴの後を追ったのだろう。


けれどもう、そんな事はどうでもいい。



マリアンを守れて、尚且つスタンの傍に居られる方法。
恋心 甘い果実 真っ赤な果実 (sweets lala sweets lala まっかなfruits.)

姉に気兼ねすることなく、ずっと二人で居られる方法は……。
もぎ獲れないのなら 刈り取れば良いと…


(あぁ…あの手があったか……。)


『坊ちゃん!?』



リオンは音もなくシャルティエを構えると、持ち前の俊足を活かして、目の前の二人の背後に回り込んだ。
恋心 甘い果実 真っ赤な果実 (sweets lala sweets lala まっかなfruits.)

そして相手が振り返る前に、その片方の人物の首を狙って……。
嗚呼…でもそれは首じゃないか……












選ばれた男、選ばれなかった女。 一番不幸なのは誰?
二人の♀(おんな) 一人の♂(おとこ) 一番不幸なのは誰?

落ちた『果実』、転がる音。 余剰な『数字』、引かれる音。
落ちた果実…転がる音 余剰な数字…引かれる音

「3−1+1−2」
(「3−1+1−2」)

――最後に現れたのは『一人の少女』。
――最後に現れたのは『仮面の男』

彼らが消え去った後、海底に一人取り残されるのは誰……?
彼らが消え去った後 荒野に一人取り残されるのは誰――












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