あの人こそ、私の『英雄』なのかしら――?
(――彼女こそ 私のエリスなのだろうか……)
StarDust
〜Elysion in Tales of Symphonia 〜
お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ……
(「StarDust」)
“幼なじみ”というものは、小さい頃からほとんど常に一緒にいるためか、
女は物言わぬ 可愛いだけの《お人形(Doll)》じゃないわ
何も言わずとも互いの考えがわかってしまう程に繋がりが深くなりやすい。
――愛しい貴方解って?
それは共にした時間が長くなるに比例し、時には、わかりたくないものまでわかってしまうこともあるという……。
「コレットー」
「あ、グミならそっちの袋だよ♪」
合流して以来ずっとこんな熟年夫婦のような調子で、コレットはロイドのことなら聞かずともわかってしまう。
ちっぽけな自尊心(もの) 満たす為の道具じゃないわ
必要としているのは何か、今どんなことを考えているのか。
――月夜の《別人格(Another)》は勝手?
同じ幼なじみとはいえ、数年のブランクがあるせいか、ジーニアスでさえここまでは来れない。
本人にしてみれば、別になりたくもないだろうが。
またそれは逆もしかり。 現にコレットが天使化の影響で声を失った今でも、
首を絞めれば 締まるに決まってるじゃない
通訳をする側とされる側の立場が入れ代わっただけで、二人の関係に変化は起きていない。
――《月(Luna)》が貴方を狂わせたの?
「………」
「料理の材料ならこっちの箱じゃなかったか?」
と、まぁこんな具合に。
他の者は掌に字を書いてもらわなければ意志疎通が出来ないため、コレットも次第に遠慮してしまい、
だってしょうがないじゃない 愛してしまったんだもの
ロイドと二人でいることが多くなっている。
――《星(Stella)》が私を狂わせたのは何故?
そのためか、コレットの中での彼の存在は、とても大きな物へと変わっていた。
一緒に旅をしているという状況のせいか、今まで以上に時間を共有することが増え、
真っ赤な衣装(Dress) 真っ赤な洋靴(Heel) 真っ赤な口紅(Rouge) 真っ赤な薔薇(Rose)
また他の仲間がそっちの気遣いもしているせいか、妙に気恥ずかしい時もそれなりにあった。
すれ違う男達 誰もが振り返る…
結果現在、ロイドの存在はコレットにとって、“親友”以上の物に昇華されつつある。
左手には花束 右手には約束を 疾りだした衝動は もう止まらない…
『ねぇ、ロイド』
救いの塔へ行く前夜、二人は宿を抜け出して高台に散歩に来ていた。
お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ…
ここはシルヴァラント全土でも数少ない、塔が一望出来る場所である。
貴方の白い衣装も 今は鮮やかな深紅(Scarlet)
また、明朝自分達が、塔に向かって飛び立つ予定の場所でもあった。
お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ……
「平気かコレット? 寒く…って、悪い、感じなかったんだよな」
『ううん。 ロイドと一緒にいると、何かあったかい感じがするの』
正しく伝わったかどうかはわからない。
(「フフ、屑でも構わないわ! いつか星になれるなら… 輝いてる?
ねえ、私輝いてる!?」)
ロイドの表情が固いままだったため、手に字を書いて改めて伝えると、彼はすぐに安心したように表情を崩した。
『ロイドは大丈夫?』
(「綺麗な星空ね」) …それは艶やかな女のため息
「ヘーキヘーキ。 俺、体だけは頑丈だしな」
(「君のほうが綺麗だよ」) …それは甘い男の囁き
今度は書かなくても伝わった。
夜空を見上げる恋人達 ありふれた風景
標高の高さもあって気温はだいぶ低いはずなのだが、ロイドは本当に平気そうに笑ってみせる。
繰り返される恋模様 ほんの些細なこと
ドワーフに育てられたせいか、今時珍しいくらいの熱血漢。
そんな気紛れなひと時を 永遠だと信じたりして
おまけに感情の起伏が激しく、何より間違ったことは絶対に許せないという性格。
そんな不確かなものを 運命だと信じたりして
それがコレットにとって、何よりの救いだった。
シルヴァラントの人間全員のために、コレット一人が犠牲にならなければならないという“世界再生”。
泣いたり 笑ったり 愛したり 憎んだりして
リフィル達でさえ「仕方ない」と半ば諦めてしまっているのに、ロイドだけは諦めずに、別の道を探してくれている。
その束の間 遥か過去の光に想いを馳せたりして
“世界再生”も出来て、コレットも助かる方法を。
『ロイド』
「ん? どうした、そろそろ皆んトコ戻るか?」
『うん。 ……ありがとね』
結局自分は記憶と感情を失って、ただの生きた人形になってしまうけれど。
あの星々はもう滅んでしまっているのだろうか?
最期にロイドの顔が見れただけで幸せだった。
それとも今もまだ滅びに向かって輝き続けているのだろうか?
どんな状態になってしまっても、彼だけは自分の味方でいてくれて、いつも傍にいてくれると。
光年という名の途方もない尺度の前では 人の一生など刹那の幻に過ぎないのかも知れない…
……そう、信じていたのに。
「ねぇ、ロイ…」
「悪いコレット! ゼロスと約束あるから、また今度な!」
テセアラに来て、奇跡的に回復したコレットが見た物は。
――そんな些細なこと されど偶然とはいえ 嗚呼…偶然とはいえ彼女は見てしまった
「ハニー! 早くしねぇと、俺様先に行っちまうぞー♪」
「だぁー! ちょっ、待ってくれって!」
自分には目もくれないロイドと、彼と仲良さ気に笑う新参者。
こちらの世界の神子の姿……。
お揃いの白い服を着て幸せそうに寄り添い歩く 彼と見知らぬ女の姿を……
「(…あ、そっか。 そういうことだったの……)」
コレットは無意識の内に、新調したての自分の武器を取り出した。
お揃いね私達 これでお揃いね あぁ幸せ… 貴方の白い衣装も 今は――
「好きだったのは、私だけだったんだね……」
(「なぜ? なぜなの!? なぜなのよぉぉぉぉぉお!!」)
元々赤かった服は更に深みを増し、やがては黒へと変色していった。
酸素に触れた赤は やがて黒に近づき示す
その後になってから“世界統合”には彼の力が必要だと判明したが、もうそんなことなど、彼女の興味の範疇ではない。
二人はもう永遠に 一つにはなれないという事実を…
「…大好きだったよ、ロイド」
そのまま、彼女は仲間達の元から姿を消した。
凍てついた銀瑠璃の星々 燃え上がる滅びの煌きよ
レネゲードが総力を挙げて両世界を隅々まで捜索したが、その消息は知れないままだった…。
失くした楽園の夢を見る 私を導け《星屑の幻灯(The
light of stardust)》
――秘めた想いを思い出に昇華出来ない限り
――想い出を過去の光として埋葬出来ない限り
少女は一人テセアラを彷徨い続けるだろう
孤独な亡霊は荒野を彷徨い続けるだろう
彼女の腕はあまりにも短くシルヴァラントには届かない
女の手には悲しい程に短く星屑には届かない
嗚呼…その手を握り返したのは 『一人の少女』だった――
嗚呼…その手を握り返したのは『仮面の男』だった――
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