ベートーヴェン 交響曲第9番「 合唱 」
天才が、生涯、闘い培ってきた芸術を投げ捨てて
一人の人間として訴えた、「平和と自由への思い」
音楽家が、「音楽よりも大事なものがある!!」と、心の底から叫んでしまった曲!
◆ 祈りと願い、星のかなたに!
「楽聖」と呼ばれるベートーヴェンにとって、最後の交響曲となる「第九」は、
音楽家としてではなく、一人の人間として完成させた曲です。(1824年)
それゆえ、「歓喜の歌」(シラーの詩)と呼ばれる、第4楽章の合唱は、誰にでも親しみやすいメロディーで、全人類的に愛を、自由を、平和を、歌い上げているのでしょう。
◆ 楽曲解説
全楽章は、彼の人生の、そして、音楽の集大成。
第一楽章
「闘争と努力」 彼のソナタ形式の頂点。
第二楽章
「熱狂」 彼の考案した「スケルツォ」の完成作品。
この曲は、ティンパニー・ソロが大変印象的で、第4楽章以外では、非常に人気のある楽章です。
何年か前、テレビコマーシャルにも使われました。
第三楽章
「安静」 穏やかな変奏曲形式。ベートーベンは、変奏曲も得意とし、たくさん残しています。
第四楽章
「歓喜の歌」 An die Freude
管弦楽 プラス 4人の独奏者と、4部の合唱を加えた大編成の演奏。
全人類で、自由と平和を歌い上げてほしいというベートーベンの願い、祈りが込められています。
◆ 一口聴きどころ (第4楽章、「歓喜の歌」 より)
合唱は、何と言っても、ドイツ語ーー!これが、難問!
しかし、違和感あっても、やはり・・・!はじめにシラーの詩ありきですから。(シラーの「歓喜に寄せて」という詩に感銘を受けたベートーヴェンが曲をかいた。)
日本語で言う、「歓喜」と “Freude” の違い、「神」と “Gott ” の違い・・・。“
binden”(結ぶ)という言葉に込められた全人類的な理想。ドイツ語は、ある意味、不可欠でしょう。
詩は・・・
◆ 第九の「合唱」というと、学校で習った「晴れたる青空、漂う雲よ。・・・」を思い浮かべます。
でも、この曲は、実は、もっと壮大な歌詞でできているのをご存知でしょうか?!
◎ まずバリトン(ソロ)が次のように、朗々と謳い、人々に呼びかけます。
(この部分は、シラーの詩にベートーヴェンが付け足した所。)
「おお、友よ、この様な調べではなく、もっと快い、喜びに満ちた調べを歌おう!」
何と彼は、今まで演奏してきた自分の音楽を「もうやめよう。」と言っているのです。
ここからが、一人の「人間ベートーヴェン」の心の歌のはじまり!
◎ 次に、シラーの「歓喜に寄せて」の詩が続きます。
(詩の一部を 下の「二重フーガ」の所に載せました。)
全人類の「平和、自由」への祈りが、感動的に歌われます!
ベートーヴェンが、自分の音楽を否定してでも言いたかったこと・・・・
「人は皆、兄弟!・抱き合おう。愛し合おう。平和と自由のために!」
そして、「様々な苦しみを通り抜け、浄化して、歓喜に至れ!!」と。
音楽は・・・
≪途中の二重フーガ≫←音楽的聴きどころはまさにココ!
「フーガ」とは、イタリア語で「逃げる」。すなわち、「フーガ」は、解決を遅らせる芸術です。
ベートーヴェンは、第4楽章の合唱で二重フーガという手法を使ってます。
一つは、Fruede, schöner Götterfunken ・・「歓喜」のテーマ(晴れたる青空、漂う雲よ・・という日本語のあのメロディー)
もう一つは、Seid umschlungen, Millionen ・・「抱き合おう」のテーマです。
各パートが、それぞれにこの独立した2つのテーマを、各声部、重なり合いながらくり返します。
男声、女声が複雑に絡み合い、二つのテーマは時に対立しながら、また、とけあいながら・・・綾なす織物のように進みます。( えも言われぬ、ハーモニーの美しさです。)
フーガを演奏する時は、合唱各パート、オーケストラ、指揮までも、皆その動かしがたい構造の一部となって、音楽の中に身を捧げるのです。
「フーガ」の音楽的意味は、人間よりも神の造形に近い・・・音楽の絶対的品格にあるでしょう。
Fruede, schöner Götterfunken ・・「歓喜」のテーマ
歓喜よ、美しい神の閃光よ、楽園の娘よ、
われらは情熱に満ち、天国に、なんじの聖殿に踏み入ろう。
なんじの神秘な力は、引き離されたものを再び結びつけ、
なんじの優しい翼のとどまるところ、人々は皆、兄弟となる。
Seid umschlungen, Millionen ・・「抱き合おう」のテーマ
いく百万の人々よ、互いに抱き合おう!
この口づけを全世界に与えよう!
兄弟たちよ! 星空のかなたは、愛する父が必ず住みたもう。
◆ アマチュア大歓迎のしくみ
ドイツ語ということを除けば、(でもこれがかなり難問ではあるが)、第九は、アマチュアが合唱参加できるように、実は、工夫がこらされています。
ベートーヴェンは、この曲のテーマ(全人類の自由、平和)の為に誰もが歌いやすいように、覚え易いように、参加出来るように、と、作っています。
まず、歌詞のくり返しが多い事。
そして、各パートの歌いだしの音を、その前に必ずといっていいほど、オーケストラの楽器に同じ音を奏させている事。
その点、バッハの受難曲やヘンデルのオラトリオの合唱とは、大きく異なるのです。
最後に・・・・・、
年末に、第九が演奏されるのは、日本だけで、ヨーロッパでは、そのような事は、ないようです。
ちょっと、意外ですね。