桟 敷 岳 (1997.2.9) 晴れ

「ふっ」としたわずかな空気の動きに、常緑樹の上に積もっていた雪が滑り落ちた。
そして、落葉樹の小枝に当たって細かな粉雪になって散っていく。
それは、冬の光に輝きを増して虹を映し出した。
粉雪になる雪音は、息づかいの音といっしよになって谷を流れるように降りてゆく。

踏跡をはずさないように慎重に右足を送り出す。
スパッツに払われた雪は、雑木の斜面に筋をつけながら落ちて行く。
そして、きらきらと輝く雪面に残っていた小さな動物の足跡を覆った。

笹藪は、雪につつまれて柔らかそうな白い丘になっている。
「もうしばらく登れば頂上だよ」と白い丘が告げていた。

尾根を横切る風に舞いあがった雪が、登り坂で汗ばむ私の顔に当たる。
頬をつたわり融ける雪は心地よく感じられた。

冬の木立の間から「武奈岳」と「蓬莱山」が、澄んだ空と幾重の白い山々の中に青く見える。
少し尾根をさがり風を避けて腰を下ろす。昼食の海苔の香りが、あたりの空気と交わった。

午後の2時をまわって、冬の日は西の斜光に変わった。
植林された杉の木の根に積もった雪々は、少しずつ融けて祖父谷に集まり、やがて加茂川へと流れ出る。 岩谷橋から志明院までの途中で伏見から「自転車」で来られたご夫婦に出合った。
時間にとらわれずに山歩きができるからだそうだ。 伏見から岩谷橋までは、相当の距離である。肉体的な苦労よりも時間にとらわれない方を選ばれたのだと思う。

桟敷岳より下っての帰り、山歩きの心地よい疲れとともに自由であった1日をふり返ってそのことに気付いた。



ゥらだそうだ。 伏見から岩谷橋までは、相当の距離である。肉体的な苦労よりも時間にとらわれない方を選ばれたのだと思う。

桟敷岳より下っての帰り、山歩きの心地よい疲れとともに自由であった1日をふり返ってそのことに気付いた。