三 国 岳 (1999.4.17)くもり

1.春の山の思惑

近辺の山々には、もう春の花が咲いているだろうと言うのに、ここの所の週末は天気が悪い。
出張からの帰りだから気分的には、日曜日の山歩きとしたいのだけれど、 日曜日は、雨の予報が出ています。谷や尾根に咲く花々を思うと、もう土曜日に山歩きするしかないのです。
それに出張からの帰り道、空から眺めた山々は、すっかり春の様相だから来週まで待つのは精神衛生上よろしくない。
鈴鹿のコグルミ谷から尾根に上がればカタクリが咲いているだろうし、御池岳から鈴北岳を回って春の山の景色も魅力的です。

2.春の山は大混雑

やはり前日の疲れ(ハイ。ご想像の通りの飲み疲れです。)もあって、出発が少々遅れてしまいましたが、天気は花曇りでまずすまず、 鞍掛トンネルに9時過ぎに到着しました。
が・・・・。三重県側のトンネル出口の駐車場は、満杯!!。仕方なく、コグルミ谷の登り口まで駐車場を探すのですが、あふれた車がズラリと並んで道路に駐車しています。
これはいくらなんでもマナーが悪い。
おまけに三重県警のパトカーが巡回しているではありませんか。
さすがにあつかましい私でもパトカーの前で違法駐車をするわけにも行かず、「ウーン困った」。

思案のあげく今日は、目的地を変えるのが妥当とハラを決めた時には、もう10時を過ぎていました。ナント未練がましく決断の遅い男かと我ながらあきれかえる始末。
トンネルの滋賀県側の駐車場に車を停めて、サーテと・・・。ここでも決断が遅く、あきれながら三国岳方面に「ぶらりのんびり」とすることにしました。 と言うより、なりゆきでそのようになってしまった、と言う方が正確でしょうか。

3.春の花の歓迎

「今日はあかん。ついてへん。もう知らん。途中で帰ったろ。ホンマあほらし。ガソリン代損した。」と極めて男らしくなく、かつ関西人のあさましい性格を丸出しにした「内心」をひた隠しに隠しながら、「ぶらりのんびり」と三国岳への急坂を登ります。

しかし、山々の景色は案に違わず、春です。緑の芽吹きにはもう少し先で、その前のピンクかかった微妙な色合いは、春ならではの味わいです。ほんに、のんびりできます。「のほほん」なのでしょうか。

自然のおおらかさと、急登のおかげで「関西人のあさましさ」も影をひそめたころ、三国岳のピークに到着しました。
ピークの先に目をやるとなにやら花が咲いている気配がします。「なんやろ」
心がはやります。
岩団扇の様です。しかも尾根伝いにも、崩れた斜面にも群生しています。
「世の中それほどひどいものでは、ありません。結構うまく出来ているところもあるものです。」と、登りだした時の「あさましい心」と同一人物とは、とうてい思えない「内心」が出てくるのですから、我ながらあきれ返って物も言えません。

4.春の不審人物

そのようなことは、いっさいお構いなく、体が勝手に、リュックを降ろして三脚とカメラを出し撮影の準備に取掛かっています。
とにかく一面に群生しているのですから、どの花を撮ればいいのか、あっちの花を撮れば、こっちの花がひがむ。こっちの花を撮れば、あっちの花がひがむ。と言った状態ですから「モテル男」の私としましては、ずいぶん悩むのであります。

やっと、花との出合いの感動が落ち着いたとき、崩れた斜面で鍬を打つ男が居るのに気が付きました。不審人物の発見です。
「草花を盗掘するヤカラ」が居ると常々雑誌などで読んでいるものですから、この時、私は、この人物を瞬間的に「草花を盗掘するヤカラ」と考えました。
「けしからん」白昼堂々と草花を掘り出すとは。「ここは一番、注意の一言でも発しないと男として情けない。」と登山口で違法駐車をやりそこなった男とも思えない「正義感」を持った男に変身するのですから、つくづく私としましても説明がつきません。

「何をしているのですか」と、心とは裏腹にずいぶんやさしい口調で尋ねました。
「樹を植えているんですワ」。(だまされんゾ。盗掘するヤカラが、「盗んでいます」とは先ず言うまい。)
「営林署の方ですか」(実に良い質問ダ。これでこの男も困り果てるダロ。)
「イヤ。この山は、ワシの山やから自分で植えんとイカンのヤ」(アレエー。この人の山ァ。と言うことは、三国岳のオーナーと言うこと。アレェー。)

そう言われてあたりを注意深く見れば、束ねた苗木も置いてあり、既に斜面に何本かの樹も植わっています。
「ご苦労さんですネー。それに一面の花は、きれいですネー」(全く、私という人間は理屈に合わないことを平気で考えるから困ったものです。)

5.春の山談議

とりあえず、自分の思い込みを照れ隠すように挨拶しながら、本音では「盗掘するヤカラ」に注意する危険が去ったことを安堵して、花の撮影に取り掛ります。
「山のオーナー」は、私に花の写真を撮る目的を尋ねますが、私はそれどころではなく「ムニャムニャ」と答えながらせっせと写真を撮ります。 (実にけしからん男です。私は。お話になりません。)

一通り写し終わったころには、お昼近くになっていました。
岩団扇の群生している、見晴らしの良い尾根で昼メシをはじめることにしました。
しばらくして、「山のオーナー」も私の側に腰を下ろして、昼食を始めます。
・先代までは炭焼きで生計して行けたこと。
・岩団扇の群生場所は石楠花が多かったこと。
・石楠花の葉の色でこの一帯を「焼け尾」と呼ぶこと。
・石楠花を人間がひとつ失敬、また失敬して行き、崩壊が始まったこと。
・崩壊を修理する目的で樹を植えているいること。
など、素朴で人を疑わないすばらしい人のお話を聞きながらの昼メシを楽しみました。
よくよく考えてみれば、私は、他人の土地に無断で入り、かつ、その持ち主を「盗掘するヤカラ」に間違え、写真の目的にも答えずに、勝手に花の写真を撮って帰るのですから 困ったものです。

すっかり気を良くして鈴北岳まで足を伸ばして、満足した「山歩き」の帰途に付いたのは午後の3時でした。



よくよく考えてみれば、私は、他人の土地に無断で入り、かつ、その持ち主を「盗掘するヤカラ」に間違え、写真の目的にも答えずに、勝手に花の写真を撮って帰るのですから 困ったものです。

すっかり気を良くして鈴北岳まで足を伸ばして、満足した「山歩き」の帰途に付いたのは午後の3時でした。