サイバー老人ホーム-青葉台熟年物語

20.還暦野球

 プロ野球に続いて、我等が「還暦野球」も開幕した。「たかが年寄りの道楽」と思うかもしれないが、さにあらずである。
 品質管理ではないが、目的に対して、P(計画)、D(実行)、C(評価)を組織的に行う組織体は立派に管理された集団である。ただ、暇に任せて集まって野球というゲームに興じているわけではない。

 私が属している兵環連(兵庫県還暦軟式野球連盟)の場合、正月も半ばを過ぎるとそろそろ気心の知れたメンバーと声を掛け合って自主トレーニングを始める。もっともこの自主トレーニングは各人それぞれに、何らかの形で年間を通して続けている。

 2月に入ると各チームとも総会を開き、その年の監督以下の役員を決める。そしていよいよチームとしてのトレーニングが始まるのである。さすがにトレーニングはプロのように毎日というわけにも行かないし、キャンプを張るということにはならない。しかし、練習は基礎体力と基本動作の涵養のために4時間の練習時間をみっちりと行う。

 そもそも、この「還暦野球」にはどんな人が参加しているかといえば、このホームページの中でも採り上げているが、かつて甲子園を経験した人は勿論、そこまでは至らなかったが、同じ頂点を目指して火の出るような練習に励んだ人、更に実社会に出て社会人チームで活躍した人に加え、プロ野球経験者まで多種多様である。中には私のような中学、高校と野球らしい野球をしたことのない「ド素人」もいることはいる。それだけ実力の差があったら危険ではないかと思われるが、そこは良くしたもので、神様は公平に歳をとらせてくれていて現役当時ほどの格差はない。

 現役当時では間違いなく球拾いもさせてもらえなかったであろう人とも公平にキャッチボールをさせて貰えるところに、「還暦野球」の良さがある。その代わり、年をとるに従い口のほうは達者になって、私などは格好の指導対象になり、一挙手一投足、一投一打に「叱咤激励」が飛ぶ。お陰で去年は我が人生で最も多く野球に取り組んだ年であり、自画自賛ながら「長足の進歩」をした年であったと自覚している。ただ、メンバーに共通していることは例外なしに野球が好きなのである。それも並外れて好きな「野球少年」なのでのである。

 兵環連の場合、4月の初め(今年は5日)に開幕し、加盟8チームの4試合総当りを毎週1回ダブルヘッダーで11月いっぱいまで続ける。今年から1チーム増えたことから試合方式を変えて、1試合は公式戦、もう1試合はオープン戦として、公式戦出場者のメンバー入りを制限して機会均等を図っている。おかげで今年は多少試合に出る機会が増えそうである。

 これはあの真夏のかんかん照りの中でも休むことがない。その間に、地方で開催される大会にも参加するので、休む暇はない。中には1塁に駆け込んだ途端にバッタリなんて話がないわけではないが、そんなことには頓着ない。いわゆる誰かが言った、PPK(ぴんぴん生きてコロリと逝く)であれば良いのである。

 試合のほうは、さすがに投打足とも口ほどにいかないところもあるが、これが還暦を過ぎた人のプレーかと思わせるプレーが随所にあり、かつての「野球少年」の面目躍如である。

 シーズンも終わり、最後の打ち上げ練習ともなれば時間の許す限り、イニング無制限の紅白戦で打ち上げとなる。面白いことにこれだけ元気な年寄りが集まっていると酒のほうもさぞかしと思われるが、これは我がチームに限ったことかもしれないが、意外や意外、圧倒的に酒を飲まない人が多い。それだけ節制しているからこれだけのハードな運動についていけるのかもしれない。しかし、一方で豪腕剛打の人は例外なく酒豪が揃っているのもまた面白い。

 要は酒など飲もうが飲むまいがどちらでも良いのであって、今年の4月から始まった介護保険制度で、この保険だけは掛け捨てで終われば大満足と痛切に願っている面々である。言うなればPPKである。(00.4仏法僧)