サイバー老人ホーム-青葉台熟年物語

162.大いなる単調4

 翌朝、少し早めに起きて付近を散歩する。目の覚めるような鮮やかな緑と新鮮な空気が心地よい。今から考えると昨日の予定は少しハードだった。支笏湖はもう少し時間の余裕を持って過ごすべきであった。

 今日もまたかなりハードであり、朝食後ガソリンスタンドの開くのを待ちかねたように宿を出る。ガソリンの残りは3リッターであり危うくセーフだった。支笏湖から苫小牧までは白樺や蝦夷松に覆われた樽前国道を今度は落ち着いて通過する。
 苫小牧港前の広大な道路から日高自動車道に入り、更に通称サラブレッド街道の浦河国道に入る。

 ただこのサラブレッド街道は今までの大いなる単調ではなく、道路にはいたるところに規制が入る。信号や交通量もかなり多い。その上、道の両側には原色の商業看板が溢れ、ここは紛れもない生活道路である。

 多分、内陸部に入ると優駿を育む日高山地が展開しているのだろう。この混雑は浦河あたりまで続き、次第に交通量も減ってくる。浦河は瀟洒な町であった。この浦河や隣の絵笛は「天国への階段」というベストセラー小説の舞台になった街であるが物語りの暗いイメージな微塵も感じさせない明るい雰囲気の町である。

 全般にサラブレッド街道は明るい雰囲気の通りであるが、ところどころにある小さな漁村で、昨日の台風で寄せられた昆布採りの光景が見られたが、高波にもまれながらも必死で漁をする姿がこの地方の原点であるのかも知れない。

 えりも町に入るがここも整った町で、町並みは綺麗に整備され、宗谷街道で見た不機嫌そうに押し黙ったままの家は目に付かない。取り分けこの時期が厳しい季節を過ぎた後だからだろうか、「北の街ではもう 悲しみを暖炉で 燃やしはじめてるらしい」のイメージはどこにも感じさせない。

 街中を抜けて、草原に覆われたなだらかな起伏を越えると襟裳岬に着いた。襟裳岬は断崖絶壁の端にあった。既に季節は「襟裳の春は何もない春」ではなく、岬を吹き抜ける風も既に夏の風、おおらかな起伏ときれいに手を加えられた草原には厳しい岬のイメージではなかった。

 襟裳岬でガイドブック推奨の「ツブ丼」の昼食をとり、通称「黄金道路」と言われる336号線に入ると様相は一変する。黄金道路は狭い崖下に造られていていたるところに覆道という洞門がる。工事中のガードマンの説明によると金のかかった道路のためにこの名前が付いたとのことである。

 広尾町から十勝平野に入るが、途中工事中のため迂回路に入ってから少し方向感覚がずれたようである。馬鈴薯やピート畑の畑作地帯を、どこまでも続く道路をただ一人わが道を行く感じで、音別町を目指して進む。

 それにしてもいたるところ、道の両側に生えている蕗には驚かされる。私の地元のスーパーでは一掴みほどのものでも結構な値段であり、割り箸程度のものでも喜んで採取する。これは宿の着いてからの事であるが「北海道の人は蕗を食べる習慣はないのですか」と聞いてみたら「ある」と言う返事であった。

 結局、たとえ食べる習慣があってもこれだけ多ければどうにもならないことかもしれないが、美味しそうに青々と茂った蕗の葉っぱを見るにつけ、夫婦して「もったいない」と思いながら走り続けた。

 釧路郊外の宿には意外とすんなりとほぼ予定通りの午後5時過ぎに到着した。ちなみに釧路の宿で買った「蕗味噌」はすこぶる美味であった。(06.24仏法僧)