サイバー老人ホーム

325.主治医

 特定の医師を指して、自分の主治医と云えば何んとなくセレブになったような気がする。それと云うのも、医師と云う者、昔から高い教養と、専門知識を持った職業で、先生と呼ぶのがごく当たり前であった。こう云う人を意のままに使うと云うのは何んとなく優越感に浸れるからではなかろうか。

 この主治医と云うのは、辞書によると、「ある患者の疾患の診療方針全般に対して主たる責任を有する医師のこと」と云うことである。然らば、外来診療や入院診療における「担当医」とどう違うかと云うと別に違いは無いらしい。

 何年か前に、ある民放で、「主治医が見つかる病院」と云う番組があったと云う事だが、私は見た事もない。

 ところで、先月から、私の「主治医」を換えることにした。もともと私にはどこか痛いとか、調子が悪い等と云う病気はない。それならばなぜ「主治医」がいるかと云えば、十一年前に、脳梗塞を患い、右半身麻痺の障害者になった事は、「孤老雑言」でも何度か取り上げたので、当然御存知だと思う。

 従って、障害二級のれっきとした身体障害者である。ただ、身体上の障害はあるが、どこかが痛んだり、不調で有ると云うことではない。勿論、身体障害は紛れもない身体不調ではあるが、日常生活では、これと云った支障はない。

 それならば、何故「主治医」が必要かと云えば、身体障害を引き起こした脳梗塞と云うのが、糖尿病の余病として発症したからである。ところが、この糖尿病と云う病気は、痛くもかゆくもないから厄介な病気である。

 つらつら考えるに、糖尿病の予兆は若かりし頃から絶え間なく繰り返していたと、今更ながら痛感している。斯くして、平成十三年六月に、それまでの悪しき生活習慣の報いから脳梗塞を発症し、今の様な体になった次第である。

 今更発症当時の事を振り返っても仕方がないが、その後は、一にも二にもリハビリに励み、加えて、発症原因の引き金となった生活習慣を改めることに日夜精励努力してきた次第である。

 その間、懸り付けの病院は、発症時は近くの救急病院に運ばれ、半年間の入院の後、市内のリハビリ病院に移り、以来リハビリを受けていたが、二・三年たったところで、「小泉改革」で追い出されてしまった。

 ところが、リハビリは追い出されても自力のリハビリを続けたがが、持病ともいえる糖尿病を押えなければ、再発の危険性を常に抱えている事になり、ここで再発したらもう一度再起する自信は全くない。従って、糖尿病をどのようにコントロールするかと云うのは、まさに死活問題であった。

 そこで選んだのが、それまでリハビリを受けていたリハビリ病院である。なぜ、この病院を選んだかと云えば、糖尿病と云うのは、食事療法と、運動と、薬で血糖値をコントロールする以外に方法はないと聞かされていたからである。

 それに加えて、どこの病院に通院する場合でも、あの無駄な待ち時間をどうやって短縮するかと云うのが大きな課題であった。私が通ったリハビリ病院は、当然リハビリ専門病院であるが、その中に内科もあり、医師に聞いてみたところ、内科の外来診療もすると云うことで、以来十一年間、待ち時間零のこの病院に通い詰めたのである。

 ただ、血糖値が高と云うだけで、痛くも、かゆくもないので始末が悪い。糖尿病の薬が街の薬局で購入出来れば敢えて病院等の世話になる事もないが、これだけはどうにもならない。

 以来、十一年かにわたって、三カ月ごとに通院し、その間も担当医師も変わらなかった。従って、私のとっては、「主治医」と云うことになる。

 通院し、「主治医」から「どうですか」と聞かれて、「絶好調です」と答え、血液検査をして、薬を処方してもらうことを十一年間続けてきたのである。

 さすがにこの間、それまでには余り使った事もない健康保険を使い続けてきたことに気が引けたけれど他の手当ての方法もないので仕方がない。勿論、食生活、健康管理については自己責任としてやれるものはすべてやってきた。

 この中で、近頃は、「健康食品」と云うのがあって、あれやこれやと試して見たが、明らかなる効果があるものはついに出会わなかった。最近も、新聞の折り込み広告で、「荷花掌」という植物からつくったと云う「健康食品」があり、可なり食指を動かされたが、試験的に服用したがはっきりした効果は認められなかった。

 こうした「健康食品」は、効果もさることながら、値段が非常に高い。尤も、ある程度高くないと買ってくれないのかもしれないが、「荷花掌」等は半年分で十五万円以上もする。栄養士に聞いたところ、健康保険による処方が一番だろうと云う事であった。中には宗教的紛いのものまであって、大枚何十万円を払い試した事もあったが、気は心ほどの効果も認められなかった。

 ところで、今度なぜ「主治医」を換えたかと云うと、十一年間「主治医」のもとに通いつめて、血液検査の結果を、毎回パソコンで一覧表にして眺めてきたが、状況は徐々に悪化の一途をたどっていたからである。

 この病気の性格から、病状が改善に向かうと云うのはあまり期待していなかったが、悪化の一途と云うのはショックである。少なくとも、現状維持程度であったなら、納得もいくのであるが、このまま行ったら最も恐れている余病再発への道をまっしぐらと云うことになる。

 糖尿病の最終的な治療方法はインスリンを直に注射すると云う事は聞いていたが、具体的な処方については今迄の「主治医」は何もしなかった。

 そこで、インターネットで調べてみると、これがあるんだなあ、豊中市千里に・・・・、問題は我が家から通院できるかどうかである。六月下旬にものは試しに行って見たところ、ところがあっちで迷い、こっちで間違えて、病院に着くまでに三時間もかかった。

 これでは無理だなと思いつつ、折角行ったのだからと看護師(婦長か?)いろいろ話を聞き、道順を聞いて家に帰ると、何んと三十分程度で行けることが判明した。即、翌週から通院することにした。その決め手は何であったかと云うと、前の「主治医」からら処方されていた「ダオニール」と云う薬をこの病院は一切使っていないと云う事であった。

 この薬、膵臓を刺激して、インスリンの分泌を促すと云う薬で、かなり一般的な薬である。新しい病院が云うのには、確かに血糖を下げることには効果があるが、長年使った場合は、膵臓の働きが鈍り、効果が薄れると云う事であった。これは、ほぼ、私が体験していた結果と同じであったのである。

 斯くして、「主治医」も病院も替え、翌週から通院を始めたところ、即、翌日から検査入院をする事になり一週間の入院生活を送ってきた次第である。

 その結果、インスリン注射を毎食前にする本格的な糖尿病患者となった次第である。ただ、このインスリン注射と云うのがどの様なものかかなり心配していたが、痛くも痒くもないと云うのはこの事で、しかも入院したその週に、NHKの「朝イチ」と云う番組で、「インスリン注射治療」は糖尿病の初期段階での治療方法としても有効と云う事で注目されていると云う事であった。

 尤も、以前、NHKの「試してガッテン!」と云う番組で、インクレチンと云う薬が糖尿病には有効だと云う話を聞いて、早速、前の病院の薬局で聞いた所、「グラクティブ」と云う薬があると聞かされた。前の「主治医」に強引に頼み込んで試したところ、血糖を下げる前に、全く私の体には全く合わず「ガッテン」するまでには至らなかった。

 医師と云うもの、もともと高い知識と教養と経験を積まれた私などでは及びもしない神様みたいな人達だと思っていたが、ただ、医学の世界も、治療の方法も薬も日進月歩で進化している事も間違いはあるまい。

聞いたところによると、現在、人間が罹る病気は二万数千件にも及ぶと云うことである。これ等全ての病気の治療方法について精通している医師と云うのもそれほどいまい。

 結局、医師自身がどの様に日夜努力しているかが優れた医師であり、「主治医」というのは人で選ぶものではなくて、診察してもらう病気によって最も精通した医師を選ぶことが最も適切な「主治医」だろうとしみじみ思わされた次第である。(12.08.01仏法僧)