サイバー老人ホーム−青葉台熟年物語

125.スカパン

 最近、不思議な現象に気が付いた。街で見かける若い女性の九割以上がズボン姿のである。尤も、今ごろになってこんな事をいっているから時代遅れといわれそうだが、今までにこれほど極端なことは初めてのようなきがする。

 ここでズボンと言うのはパンツと言うのが正確らしいが、パンツと言えば我々にとっては下着であり、もう少し平たく言えば「猿股」と言うことになる。ところが今は猿股というのはトランクスと言い、パンツと言えばかつてはズボンと言った外衣とういうことらしい。

 そもそもこのズボンと言うのはフランス語が語源であり、「本来は『女子の下裾着』の意味で、 下肢を別々に覆う外衣の総称、今では主に男物についていう」ことで、ズボンと言ってもあながち間違ったわけでもない。ただ、ズボンと言えばズボン下のイメージにつながり、途端にじじむさくなる。

 ところで、わが国の服飾史で大多数の女性が「下肢を別々に覆った服装」は、先の大戦の戦中、戦後にモンペ姿と言うのがあったが、これ以外ではあまり思い浮かばない。我々が高校生の頃は女子生徒はスカートと言う人もいたが、大方はズボンだったように記憶している。尤も、当時これをスラックスといったか定かではないが、これはファッションと言うことより専ら気候と経済的事情のほうが大きかったのではないかと思っている。

 このスラックスと言うのは、ズボンと同じであって、「主に普段着用の替えズボン」と言うことで、呼び方だけの相違であるらしい。ただ、呼び方から来るイメージとしたら何となくスラッとした感じで、ズボンのズボッとした感じより洗練した響きはある。

 昭和四十年代に入って「ピンキーとキラーズ」というグループサウンズの今陽子さんが裾の大きく広がったパンタロンを着て出演した頃から、女性のズボン姿が急速にひろがっていったようである。パンタロンと言うのは、「イタリヤの道化役者がはいた長ズボンが語源で、日本では特に女性の裾の広がったもの」をいうらしいが、一時、男性も裾を翻してはいていたような気がする。

 この頃までは男性用の前ボタンありに対して女性用は前開きではなかったようであるが、これがジーンズと言うズボンが流行するようになって男女の服装が交錯してきたようである。
 尤も、このジーンズの時代になって、ズボンとは呼ばず、パンツと言うようになったのではないかと思っている。ちなみに、パンツと言うのは「ズボン風の下ばき」ということらしいが、なんともややこしい話である。

 最近、このパンツの時代になって女性のパンツ姿が急速に増えたようである。女性のパンツ多用の背景には、安全、軽快、経済的という背景があったと思うのであるが、そればかりではないようである。

 最近、新聞広告に載っていた「Domani」と言うファッション雑誌に「夏のHappy通勤革命」と言う見出しに続いて「デコルテ&ヒップコンシャスなセクシーアイテムで大人の「女力」を手に入れる」と書いてあった。

 デコルテと言うのは首周りを大きく開いた衣服らしいが、このヒップコンシャスと言うのが分からない。多分ヒップと言うことだから腰周りを指しているのだろうと思うのだが、これとセクシャルアイテムとあわせて、何となくセクシーな衣服と言うことかもしれない。それにしてもこれでもって「女力」を手に入れると言うのだから近頃の女性は恐ろしい。

 言われてみると、最近の女性のパンツ姿と言うのは我々そろそろ人畜無害になろうとする世代にとってもいささかセクシーであり、男盛りの男性にとっては何処かの知事と言わないまでもかなりの理性を強いられることになる。体の線に極めて密着したデザインになっていて、入れ物より中身のほうがでかいものを押し込むのだから、さぞや着替える時や用足しの際には難儀しているだろうと見て見ぬ振りをしながら気をもんで見ているのである。

 その上、「女力」を備えた女性たちが多少の外股など意にも介せず、ボディーラインを露わにして大挙して街を闊歩しているのだからたまらない。

 ところで最近、これに加えて奇妙なファッションが目に付くようになった。以前、この雑言の「ガングロ」で、女子高校生がハーフパンツの上にスカートをはいたアンパンスタイルと言うのを紹介したが、最近はこれがなんと大人の女性がしているのが目に付くようになった。これを「スカパン」と言うらしいそうだが、最近の女性はファッションに対してはなんとも大胆不敵である。

 このスタイルが、戦艦大和のような巨大な「ケツ」を覆い隠すためかと思ったらそうでもないらしい。我々の場合、下着と言うものは上着の下に着るものと思い込んでいたが、最近は下着、上着の定義が崩れて自分の気分の趣くままに着るのがナウいファッションだと言うから世の中も変わったものである。

 先日、NHKの生活ホットモーニングと言う番組で、熟年者が「背広を脱いでおしゃれでいたい」というのを取り上げた。この中で、三国連太郎さんがズボンにシャツを入れないスタイルを紹介していたが、我々の場合、シャツと言うのは下着であり、下着を上着からはみ出させるなどはだらしのない格好の最たるものと考えていた。

 ところが最近、街で見かける若者達の殆どは、いわゆる着流しであり、それで取り分けだらしがないとも思えないから不思議である。結局、シャツのデザインがそうさせたのかはたまたズボンのスタイルのためかは分からないが、それでいいのなら片手で無理をしてシャツの裾をたくし込まなくて済むのだからと考えて、早速実行に移すことににした。

 やってみるとこれが結構涼しいし、楽だし、いいことずくめである。考えてみると、高校生達のあの団子虫スタイルもそれなりに意味もあるようだが、世の中、規制緩和の時代、全てに少々だらしなく構えたほうが良いのかも知れない。

 それにしても、最近の女性のセクシャルパンツスタイル、外反母趾に代わって、今度はパンツをはくための食生活の影響や下半身の「鬱ケツ症候群」でも起きないかといらぬお節介をしたくなるのである。(03.06仏法僧)