サイバー老人ホーム-青葉台熟年物語

45.裏切り新庄

 阪神タイガースの新庄剛が事もあろうに大リーグのニューヨークメッツに入団することになった。「馬鹿め!」と一括したい心境である。しかもその記者会見の発言がいかにも「アホ新庄」の地を丸出しである。「自分に最も合った環境の球団が見つかりました」だと、「ケッ」と言ってやりたい心境である。なにが「最も合った」である。マスクもスタイルも関係のない実力だけの世界である大リーグ行きが何が「最も合った」である。
 そもそも今日の新庄があるのはあのいじらしいまでに純真なタイガースファンがあったからではなかったか。実力も実績もない一野球少年が全国的に注目されるようになったのは一にも二にも愚かしいタイガースファンあってのことである。なるほど守備についてはある程度の実績は認める。しかし過去においても現在でも新庄の守備が図抜けており、これ目当てに野球を見にくるわけでもない。ヤクルトの宮本を始め、守備の名手などいくらでもいる。
 肝心の打撃となるとからっきしである。絶好球のファーストストライクを手もなく見逃し、続いてジャンプしても届かないようなハイボールを思いっきり空振りし、最後は手の届かないような外角か、地面にたたきつけるようなローボールを投げれば間違いなく空振り三振である。
 阪神ファンはこの新庄のふがいなさをどれほど見せ付けられてきたことか。もちろんたまにはまかり間違ってオーバーフェンスもあることはあった。ただ、たまにあるからこそ我がタイガースファンとしたら、新庄の一発を期待していたのである。
 ところが結果はご覧のとおりであり、十中八九は期待を裏切られてきたのである。それでも我が「愛しのタイガースファン」は「いつか実もなる、花も咲く」こと信じてきたのである。それがどう狂い咲きしたのか、今年に限っては、まあそこそこの打率を残したのである。残した途端にFA宣言である。
 まさか自分の実力を誤解したわけでもなく、事実今までの記者会見でも「それほどの選手でもない僕に・・・」などというところは一応自分というものを正しく認識していたことになる。しからば何が不足であったのかということになるが、報酬ということも考えられるが、これはタイガースの選手全員が不満ということになる。こうしたものは上下の格差があるから不満が生ずるのであるが、全員が下だけであればそれは不満というものではなくそれが人生ということになる。
 すると「お金よりロマン」ということになり、どこぞで聞いたことのある台詞で、これだけなら立派な「男の美学」であり、拍手喝采したいのである。ところがもともとタイガースの選手は「金ではない」のであるから、ロマンを求めてということになる。そうなると少し変である。不遇を囲っている選手が、そのまま留まれば豊かな生活が保障されているのに、敢えてそれをなげうって荒海に出て行こうとか、強気をくじくためになどというのがこの言葉の本来の意味である。ところが新庄は我がタイガースの看板選手であり、常に日の当たる場所にいるのである。
 それならばなにが不足かということになるが多分彼はタイガースの唯一の財産である人気球団にいることではなかったかと思うのである。彼はあの大声援の中で野球をすることが苦痛だったのである。それならそれでロッテか日ハムにでも行けばよかったのである。それならば立派な「男の美学」があったのである。ところが大リーグを選んだところに「アホ新庄」の面目躍如たるところである。
 テレビで見ていても、大リーグには新庄程度の守備力をもった野手は佃煮にしたいほどいる。第一、スピードの違う野球の中で新庄の守備がどれほど通用するかはなはだ疑問である。それに外角で勝負する大リーグで外角を打てない選手に大リーガーが勤まるわけがなく、スタイルや足の長さとくれば全員が新庄以上である。マスクなどといっても平べったい顔の多い日本人の中にいたからこそ多少は注目もされたろうが、アメリカに行けば右を向いても左を向いてもどれも新庄である。
 そうなればいったい彼は何を売り物にするのかというと正直に言って何もない。ただ全てのタイガースファンや肉親の願いすらを裏切り、単にアメリカに行ってみたかっただけではなかろうかと思っている。
 今後、彼にとって、唯一救いとなるのは観客のいないマイナーリーグのベンチの片隅で、誰にも注目されることもなく、ひっそりと彼のあこがれていた「静かな野球」に打ち込めるということではなかろうか。
 それにしても日本の他球団に移ってがんがんやられるよりはよかったが、私の予想を裏切って、大リーグに移ってがんがん打つようであれば、タイガースの応援スタイルを根本から変えなければならないことになる。(00.12仏法僧)