サイバー老人ホーム-青葉台熟年物語

155.近頃老人考

 4月から始まった連続朝ドラの「天花」で久しぶりな元気な老人が描かれている。ヒロイン天花の祖父役財津一郎さんと、その友人の中村梅之助さんである。財津さんと中村さんは戦友同士ということだか、家族を含めて複雑な人間関係が絡み合って面白い。

 それに加えて、この二人の大ベテランが、存分に持ち味を出しているからドラマの厚みを盛り上げている。財津さんは田舎で一人農業を営む頑固で寡黙な老人と言うことであり、中村さんは東京にお寺の住職と言う役柄で、財津さんの頑固な中の軽妙さと、中村さんの持つホッコリした温かみのある役どころがぴったしだと思っている。

 近頃、こういったベテランの俳優さんが活躍する場面が少なくさびしく思っていた。かつて黒澤明監督作品には志村喬さん、左卜全さん、加藤大助さん、藤原釜足さん等、そうそうたるメンバーが活躍していて、取り分け志村喬さんなど理想の老人像と思っていた。風格があり、沈着冷静でしかも目がなんともいえない温かみがあった。

 また、小津安二郎監督作や山田洋二監督の「男はつらいよ」シリーズに出演していた笠智衆さんの飄々とした姿は最近の忙しない世相の中で一服の清涼剤のような存在だった。
 最近では女優の北林谷栄さんや菅井きんさんなどが頑張っておられ、取り分け北林谷栄さんなどは九十を超える高齢ながらかくしゃくとして活躍されているのはむしろ驚異である。もっとも、この方たちは活躍しだしたときから老婆役が似合っていたが、先般叙勲された岸恵子さんなどはもともと美人女優であり、今もその容色は衰えることがなく多方面に活躍されているが、お婆さん役というにはむしろ気の毒な感じである。

 男性では森繁久弥さんの姿を最近見かけないが、この方はむしろ演技力に他の追随を許さぬものがあったが、なんとなく男の悲哀を感じさせる役どころが好きだった。
 現在なお活躍されている人といえばなんと言っても三国連太郎さんではないだろうか。この人に始めてお目にかかったのは中学のときの修学旅行で、東京日劇で見た「戦国無頼」と言う映画であった。

 その後も時々三船敏郎さんと競演されていたが、三船さんの男らしい豪快な役柄に対して、三国さんの場合はどちらかと言えば屈折しただらしない役柄が多かったような気がする。そのためか若い頃はあまり好きな俳優ではなかったような気がするが、最近は「釣りバカ日記」などで気品とユーモアを兼ね備えた理想の老人像を演じているが、時により屈折したところが見えるのは三国さんの持ち味と言うことだろうか、ただ、ああいう経営者の下で働きたいかと言えば少し首を傾げたくなる。

 なんと言っても大好きなのは、大滝秀治さんである。あの怒りを表すときの顔はまさに全力投球で怒っている顔であり、典型的な一徹老人である。ただその後に見せるはにかんだような笑いと目の温かさがなんとも好きだ。なかなかああはなれないが、全力投球で孫を怒るときなどなんとなく大滝秀治さんに私にダブらせているのかもしれない。

 私より少し先輩では最近亡くなったいかりや長助さんなどもいい味を出していた。取り分け晩年になっての刑事役など、男の孤独と悲哀を感じさせるものがあって、若かりし頃のバカ騒ぎよりむしろこちらがはまり役ではなかったかと思うのであるが、人生なかなかストレートと言うわけには行かないようである。

 田中国衛さんも確かいかりやさんと同じ年齢ではなかったかと思うが、近頃ますます目じりも下がり好々爺を好演されている。この人は若大将シリーズの加山雄三さんに対抗する青大将役が始まりだったと思うが、この当時から悪役と言うイメージはなく、どちらかと言えば間抜けなお人よしと言う感じで、初めからこの人の人柄であったかもしれない。

 この年代ではなんと言っても仲代達也さんが好きだ。この方は寡黙の中に強烈な主張があると思っている。この方が演じられた「三屋清左衛門残日録」が藤沢周平さんの作品にのめりこむきっかけになり、仲代さんと清左衛門をダブらせてみているような気がする。

 ただ、どちらも私とそれほど年齢も変わらないことから憧れとか理想の老人像とは思っていない。加山雄三さんもあの伝説のヒーロー石原裕次郎さんも今の若い人にとってはどのように写っているのか分からないが、同じ世代を歩んだ私にとっては単なる憧れと言うことではなくて、われらがヒーローと言う感じである。

 これが取り分け私が自慢するほどの事でも無いが、私と同年代の芸能人の中には何故か飛び切り図抜けた人が多い。歌手では美空ひばりさん、江利チエミさん、雪村いずみさんの元祖三人娘を筆頭に島倉千恵子さんという押しも押されない大スターがいる。男性では前述の加山雄三さんに加え緒方拳さん、伊藤四郎さん、柳生博さん、山本学さん、常田富士夫さん、室田日出男さん、加藤剛さん、梅宮辰夫さんなどなど個性的な方が目白押しに並んでいて、特異年ではないかと思っている。

 これらの人達を要約すると我々が育った時代が見えてくるようで、物心の付いた頃は戦争の真っ只中、少年時代は貧困と食糧不足にさらされ、青春時代は行け進めの時代をすごした。それだけに一見豪放そうに見えるが、見栄やてらうことを嫌い、手放しではしゃげないナイーブな一面があるのが共通しているような気がする。同年代の阿久悠さんの詩の一節に「不器用だけどしらけずに、純粋だけど野暮じゃなく」と言うのがあるが、なんとなくこれが我々世代の生き様を言い当てているような気がする。

 結局、「飾った世界に流される」ことはなかったが、この方々が歳を経るにしたがって重厚さが増して、わたしなどが若かりし頃、究極の老人像と思われた志村喬さんのような存在になっていくのかもしれない。

 ところで、政治の世界では橋本、森、小渕という三人の首相が輩出しているが、その実績はいかほどのものであったかは此処で語るまでの事でもない。ただ、これを漫画を通して痛烈にこき下ろしているのも同じ年代の山藤章二さんということで何れも我々世代の共通項かもしれない。(04.05仏法僧)