サイバー老人ホーム‐青葉台熟年物語

81.ラスプーチンの笑い

 あっはっはぁ……天空から大きな笑い声が響いた。《あっラスプーチンの笑い声だ!》私が「日本にも、ラスプーチンと呼ばれていた、男がいるのを知っているか? 外務省の佐藤優という前主任分析官だが」と、心の中に架空のインタービューで質問したときだ。

  天空の声は続いた。
 「あの鈴木宗男と言う男にべったりくっ付いていた奴か? 大学院で神学を専攻し、ロシアの情報に通じていたらしいが、あんなのがラスプーチンだなんて、おかしくて笑ってしまう」

 「鈴木宗雄はどうだ?」

 「彼も、外務省のラスプーチンなど言われて、『光栄です』なんて言って喜んでいた時があった。あんな男と並べられても迷惑だ」

 「本当のラスプーチンとは?」

 「それでは、語ろう。一八七〇年の初め、シベリアに生まれたわしは、広大な原野と神秘の森林に囲まれた生活をしていた。それがわしの原点だ。幼少時より予知能力や治癒能力があった。成長すると聖職者になるため修道院で厳しい修行を積み、二〇歳の頃、父親と妻を残して、巡礼の旅にたった。三〇歳頃には不思議な治癒力をもつ放浪の説教師として評判になっていた。一九〇三年ペテルブルグで一年以内にロシア皇帝の後継ぎが誕生すると予言した。そして生まれた皇太子アレクセイが病弱だったことから皇后に治療のため召し抱えられた。アレクセイは血友病の持ち主だった。
 一九〇七年、彼が出血をおこしたとき、祈祷により出血を止めて幼子を救った。わしは自信のある予知能力と治癒能力で、ロマノフ王家に尽くしたのだ。ただそれだけだ」(写真はラスプーチン)

 「怪僧・悪党・君側の奸と言われているが?」

 「実権のあったアレクサンドラ皇后は、わしを心底から信頼してくれた。内政やその人事などについての、わしの意見はほとんど取り上げてくれた。そうなると陰謀家や金権主義者たちがわしの回りにウヨウヨ集まってきた。富や権力には無頓着だったわしは、彼等の依頼を断ると、とたんに、悪口を吹聴して悪党に仕立てあげられたのだ」

 「醜態の限りを尽くした淫蕩な生活をしていたと言われていたが?」

 「わしの身の回りの世話は、全て修道女たちが行い、セックスは宗教儀式として行っていた。貴族の夫人たちもこぞって、その儀式に参加して肉体を差し出してくれた。男どもはうらやましそうに遠吠えで、悪口を言った」

 「ユスポフ公爵の家で暗殺されるのは分かっていたのか?」

 「一九一六年、わしは年内に死ぬだろう。と予言した。また、わしを殺すのが貴族であれば、彼らの手は永遠にわしの血に染まり彼らは祖国を追われるだろう。そしてわしの死の鐘が打ちならされてから、一年以内に、皇帝も皇后もみな死ぬ。ロシアの民衆が彼らを殺すだろう。と、予め皇帝夫妻宛に手紙を書いた。革命が起こり、その通りになった」

 「毛布でくるまれネス河に、捨てられてからも生きていたとか言われているが?」

 「接待の最初に出された、青酸カリ入りのワインとケーキでは、わしには効かなかったので、ユスボフたちは拳銃を何発も撃ってきた。倒れたところを棍棒でめった打ちして毛布でくるみ、河の氷に穴をあけて、投げ込まれたのだ。河の中でも生きていたが、氷のため、浮き上がれず遂に溺死したのだ」

 「本当のラスプーチンの、凄い生命力と、予知や治療の超能力は良く分かった。今後の日本とロシヤの交渉を予知すればどうなる?」

 「鈴木宗雄や佐藤優を日本のラスプーチンなどといっているようでは、日本の外交は軽薄で、ロシヤに負けてしまっているではないか。日本の交渉の読みは浅く、政治家も官僚も目先の利害にとらわれ、真にリードする人物がいない。これでは千島の四島が、そちらに返ることは絶対に無いわ! あっはっはぁ!」(写真はラスプーチンを暗殺したユスボフ」公爵とその妻)
(02.04  ☆ 宙 平 ☆)