サイバー老人ホーム−青葉台熟年物語

57.プロジェクトX

 NHKの番組で「プロジェクトX」という番組がある。さまざまなビックプロジェクトに携わった人々をノンフィクションストーリー風にまとめた番組であるが、毎回感動させられる。こうしたプロジェクトに参画した人には共通して言えることがある。あれだけのビックプロジェクトに参画しながら、決して気負ったものは感じられず、淡々と仕事に取り組み、振り返ってみたときに始めて成し遂げたことの大きさを実感しているような爽やかさを感じるのである。

 勿論この番組の製作意図もあり、ある程度は脚色しているのかもしれないが、こうしたプロジェクトに参画するには見栄や外聞、名誉や肩書きなどの俗人的なことを気にしていたなら実現できないのかもしれない。
 ただ仕事一途であって、成し遂げたあとといえども決して恵まれた処遇を受けたわけではない。いわゆる生き方の下手な人々であったのかもしれない。
 しかも参画した人々の中には悲劇的な結末に終わった方もあり、そのことが余計に感動を生むのかもしれない。

 それにしても人間、誰しも一度だけの人生の中で、あのように完全燃焼した時期に遭遇した人達の人生を羨ましく思うのである。先日再放送されたビデオの世界規格を成し遂げた日本ビクターの高野鎮雄さんが会社を去る時に言われた「何かに夢中になれ」という言葉が間もなく老境を迎える今になってしみじみ身にしみてくる。多分、あの番組で取り上げられたさまざまなビックプロジェクトに携わった方々は誰もが「夢中」で生きてきたのではないかと思っている。残りの方が少なくなった我が余生を考えるとき、無為には生きたくないという思いが日増しに強くなってくるのである。

 ところで、一年間という契約で取り組んできたシルバーの仕事が3月で終わった。間もなく世界に例を見ない高齢社会を迎える日本において「高齢者」というものがどうあるべきかというものをしみじみと考えさせられる一年であった。
 このことは以前にも触れたことがあったが、日本には定年制というものがあり、これを過ぎたとたんに「シルバー」への仲間入りとなるが、この場合も自ら志して加入しないとシルバーの会員とはならない。ならなければ何になるかといえば大方は「濡れ落ち葉」かさもなければ、「中高年の山登り」組みか「温泉めぐり」、余裕のあるところで「海外ツアー」組みとなる。

 勿論このことが悪いわけではないし、国内消費の一翼を担っていることであり、消極的ながら日本経済支えの一部であることは間違いない。問題は間もなくこの国を支える生産人口の方がこれらシルバーエージを下回ってくることである。勿論シルバーエージを迎えた方でも第一線で頑張っている方もあるが、このこととは少し意味が違うのである。時には「老人の跋扈(ばっこ)」言われながら頑迷に現職にしがみついている老害も無いではないが、問題は定年という枠からはじき出された大部分のシルバー達で,これをいかに生産人口といわないまでも社会保障制度の負担を軽減する側に引き止めていくかにあるかである。

 日本人というのは不思議な人種で、組織を離れると途端に全ての能力も意欲も失ってしまうのではないかと勝手に考えている。例えば私の属する西宮市のシルバーでも会員の中では中小企業診断士、一級建築士、各種工事士、薬剤師、栄養士等々さまざまな資格をもった人が居り、実務経験者でもコピーライター、デザイナーなど豊富な経験を持った様々な人がいる。更にこれはシルバーエージの独壇場とも言える毛筆筆耕などでは芸術の域に達している人もいるのである。

 しかし現実はシルバーの仕事といえば清掃、駐輪指導、ビラ配り、カート整理などという脇役的な仕事が多いのである。仕事に貴賎があるわけでもなく、これらの仕事がいやだというわけでは勿論無い。ただ世間全般にシルバーの仕事はこういう仕事という固定観念みたいなものがあるのが情けない。

 シルバーの仕事をさせてもらうに当たって、会員のキャリヤや知識を前提にした仕事の開拓というテーマを持ってこの一年取り組んできたのである。現実はこの固定観念を打ち破るほどの成果は得られなかったが、小さな成果はあったのである。
 例えば小さな不動産屋の経理事務を簿記会計一級の資格をもつ会員に紹介したところ、大いに双方から喜ばれたのである。この仕事、月に十時間程度であり、収入といっても微々たるものであるが、苦労して身につけた知識や経験を生かせる仕事というのは何にもましてうれしいものである。

 シルバーに対する固定観念を打ち破る試みとして以前にも取り上げたパソコン同好会e-silverの結成である。この目的は会員相互の情報交換と親睦であるが、共通の意志をもつ会員の組織化であったのである。
 シルバーと言うのは全国で1000団体以上が結成されているが、加入会員数は100万人にははるかに及ばなく、シルバーエージ全体から見た場合、微々たる存在である。その伸び悩みの一因として考えられるのは、シルバーに対するイメージにあるのではないかとこれも勝手に考えている。

 そこでシルバーといえども最近の最先端の仕事もできるとアピールして始めたのがe-silverの中に「ホームページ研究会」であったのである。その成果が昨年の暮れに実現し、3月に納入が完了したのが市の商工課から受注したホームページで、URLは次のとおりである。

西宮市産業振興:http://www.nishi.or.jp/~sangyo/index.html
 この受注より3ヶ月前にe-silverのメンバーによる「シルバーパソコン教室」を提案したのである。これは実感として最近のパソコンはシルバーにとってこそ有用であるという認識からであり、会員の中にも強い意欲を感じていたからである。
 巷には掃いて捨てるほどのパソコン教室があるが残念ながら使われる用語についての常識が若い人たちとシルバーエージとは根本的に異なるのである。シルバーが習得するのに苦労した中身をシルバーの言葉で教えることに意義があるのである。

 幾多の変遷を経ながらようやく2月に入って承認され、女性1名を含む5名ほどのインストラクタが応募してくれたのである。ただ、残念ながら設備は自前というわけには行かず、市商工会議所の設備を借りてのスタートとなったが、インストラクタ予定の方々とのメール上での度重なる打ち合わせを通じて「シルバーパソコン教室」として、ようやくこの4月10日から第一歩を踏み出したのである。

 続いて社会福祉事業団から受注したホームページ制作のプロジェクトには7名の会員が参加し、4月23日にはアップロードする見込みである。
 かくして夢中で過ごしたこの一年が過ぎ、私の小さなプロジェクトXも終りを告げたのである。(01.04仏法僧)
西宮市社会福祉事業団:http://www.nishi.or.jp/~sukoyaka/