サイバー老人ホーム

315.「自作製本出版」設立

  「自作製本出版」を設立した、といえば超大袈裟だが、実は一年以上前のことである。しかもサブタイトルが「世界一小さい出版社」ですときているから、更に大袈裟である。場合によっては公正取引委員会か、消費者センターとかの怖いおばはんたちから苦情が寄せるのではないかと期待していたが見向きもされなかった。

 そもそも何で世界一かと言えば、まず、執行者が一人と言うことである。それならば、社では無くて個人ではないかと言う事になるが、複数の理解者を含めてという人格なき法人と勝手に考えている。

 それでは、世界には同類もいるだろうし、世界一とはいえないのではないかと言われそうである。ここで最後の決め手は、執行する人間は使えるのは左手一本であり、ここにおいて決定的に世界唯一と自負している所以であると、屁理屈を用意したが、だれも見向きもしなかった。

 然らば、何故このような無意味なことを初めてかと言うと、本人はいたって大真面目である。それと言うのも、この「孤老雑言」で長々と駄文を書いてきたのは何もこのサイトが始まってからではない。

 この「孤老雑言」の100号「豚 木に登る」にも書いたが、最初は高校の修学旅行記「駆け抜けた青春の旅立ち」であり、その後会社に入って、会社の同人誌に書き続けた。その後、仕事が面白くなり出して暫く途切れたが、四十代に入り仕事上の様々な疑念を感じるようになり再び書き続けたものを五十代に入って出版したものが「空洞」である。

 この当時から、新聞の広告欄に出るようになった「あなたでも本が出せます」という広告に乗ったということであったが、この時は、「共同出版」と言う事であったが、出版費用はハードカバーの新書版で百五十万であった。

 ただ、当初は百八十万と言う事であったが、電話で値切ったところ一発で三十万を値引きし、その後、朝日新聞の三面にかなり大きな見出しで広告を載せてくれ、この費用も出版社側で負担したので、出版社側でもそれなりの評価をしていたのであろうと勝手に考えている。後で知ったことであるが、このハードカバーと言うのは、出版費用が全く違うと言うことである。

 そして、本格的に書き出したのは定年を前にして、当時、ウインドウズ95が立ち上がったばかりの頃で、パソコンに対して並大抵でない興味を持った。間もなくホームページを立ち上げ、このコンテンツの一つに「孤老雑言」を加えたのである。以来、毎月一・二回の割で更新を繰り返してきた。

 ところが、定年五年後ぐらいして脳梗塞を患い右半身まひの障害者になってから、パソコンは日常生活の必需品となった。

 なぜなら、現在の私にとって、身の廻りの事は別にして、出来ることと言えば自動車の運転、読書、パソコン、ペタンク、今は休止している油絵、それに最近加わった囲碁ぐらいのものである。この中で、ペタンクと言うのはナポレオンの兵隊が開発したと言われるゲームで、障害のある私が出来る唯一のスポーツ(ゲーム)である。

 パソコンには様々な用途があるが、毎日のように使うのは専らワープロ機能である。私の場合、利き腕は右手であり、これを左手に変えるのはかなり苦労した。取り分け、左手では絵は画けるが、字を書くと言うのはかなり難儀である。その為、ワープロが必要不可欠になったのである。

 更にもう一つ、読書は私の重要な要素であり、その中で読んだある本をきっかけに、ふるさと史に興味を持ち、発症後四年目の平成十七年に出版したのが「ふるさと史物語『三寅剣の謎』」であった。

 この『三寅剣』出版に当っては、さして名も知られていない故郷に何かを残して置きたいとの思いから、出来るだけ費用を切り詰める事にし、普通の出版社ではなく、印刷・製本を主体とする会社(ブイツーソリューション)に依頼したのである。

 この会社の場合、通常の出版社のほぼ三分の一以下の費用で四十万前後であった。更に希望すれば書店流通も斡旋するというもので、しかも、売れた場合は、あっせん手数料を除いて本の価格のほぼ五十パーセント戻ってくると言う事であった。ただ、精算方法にやや難点があるが、本を作りたいと思う人にはかなり魅力的な内容であった。

 プロを目指す人ならいさ知らず、もともと、本を作りたいと思う人は印税など出版することによって得られる利益などは念頭にはなく、先ず出版することに主眼がある。但し、最近はやりの、「あなたでも出版できます」では、まず百五十万以上は覚悟しなければならない。二・三十万であれば、食い詰め老人が、思いっきり食い詰めれば何とかなりそうだが、それ以上は無理である。

 そこで思いついたのが、江戸時代のある下級武士が、自ら執筆したものを自ら製本にした話を見て、自分で執筆し、自分で製本し、自分で販売したらと考えたのである。(別掲「生計(たつき)」参照)

 しかし問題は、どうやって冊子にまとめるかと言うことである。勿論、ホッチキスなどと言うわけにはいかない。そこでインターネットで調べてみると、これがあるんだなあ、同じ必要性を感じている人が・・・・、「手作り製本機『製本屋さん』」と言うのがすぐに見つかった。更に調べてみると、一台一万円そこそこで、しかも、用紙を手配するための「紙名手配」の方法まで教えてもらった。

 早速手配し、製作にかかったが、これだけでは作れない、そこでホームセンターに出向き適当に選んで作り始めたが、印刷は、一枚一枚裏表印刷するが、表裏間違えたり、一度に片面だけを印刷したり、途中工程を飛ばしたりとてこずった。その後改良を重ねた結果、執筆、印刷を除いても、完成する迄に十五工程を要する迄になった。これらをシコシコと、左手だけで進めると言うのは私にとっては、究極のパフォーマンスと言う事になる。

 それで、どの位の費用がかかるかなどと言うのは論外である。もともと、我々暇老人は、暇は持て余しているので、手間暇はお金をつけて差し上げたい様なものである。ただ、材料費はそうはいかな、先ず、用紙代であるが、概ね一枚一円以下と言う事になるが、前記のように歩止りがかなり悪い。

 しかし、最も費用のかさむのは、プリンターのインク代である。純正では、一セット四千円近くもかかり、最近はプリントメーカーの非合理化により、インク容器が一段と小さくなった。おまけに、モノクロ印刷を選択しても、なぜかカラーインクも同じように減って行く。しかもその減り方が、まさにあれよ、あれよの勢いである。斯くして、ほぼ書店本並みの直接原価がかかる。

 そこでつらつら考えた。印刷・製本の会社が、四・五十万で出来るなら町の印刷屋でやったらどうなるか。さっそく街で見かける小さな印刷屋に行って聞いてみると、なんと、四六版300ページ、百冊で十五・六万と言うではないか。

 ただ、この場合は、執筆は勿論、校正も自分でやることになるが、こんな事は全く問題にならない。なまじ出版社の半端な若造が、屁理屈をこねまわされるより、自分の考えに最も合った表現方法を自ら決められるのだから。しかも、本の販売価格と、直接製造原価にほぼ拮抗することになる。

 さて、これをどうやって販売するかについて、思いついたのがNETショップである。設立方法は、これもインターネットですぐに見つかった。多少てこずる事もあったが、かなり合理的な手順を経て、間もなく開店した。

 ただ、だからと言って、これがあれよ、あれよ、あれよという間に売れる等と言う事は全く考えていない。ただ、時々セールスプロモーションの誘いがあるのには参った。むしろ、ほっといてくれと言いたい、なぜならそんなに売れたら作る方が間に合わない。

 従って、一年を経過して、売り上げはと言うと、予想通り、ほぼ製本能力に見合う売り上げで、NETショップの管理料並みと言うことで、こちらも予想通りで楽しみの範囲と言う事になった。(11.10仏法僧)

参考:
「製本屋さん」http://book.geocities.jp/nyytq825/book88/
「紙名手配」http://www.shimeitehai.co.jp/