サイバー老人ホーム-青葉台熟年物語
最近久しぶりにスーパーの衣料品売り場を歩いていて、むやみに「美脚パンツ」という看板が目に付いた。何のことだろうと目を凝らしてみると着せ掛けたマネキンから想像して、これを着用すると足が綺麗に見えるパンツということらしい。
そういえば近頃電車の中で見かける若い女性の足がむやみに長くなって、お尻がぴちっとフィットしたところは老いぼれの目から見てもスマートであり、セクシーである。いささかひがみ根性で言うならば、多少上げ底はしていると思うのであるが、ひざの高さが私の大腿部の中ほどまで来ているのを見るとかなりの脅威を感じていた。
もっともこれは何も足の長さだけではない。先日、トランクス（猿股）を買おうとしたところ適当なサイズが無い。以前はだいたいＭサイズであれば間に合っていたが、Ｓでもでかすぎるのである。
勿論、自分が大男と思っているわけではないが、近頃見かける中学生らしい男の子でも軒並み見上げるようであり、今時１６０センチそこそこなんていうのは小男の部類に入り、同じ日本人でありながら民族の相違を感じさせられる。
こうした中で、男女とも美脚や美尻を強調させるファッションが出てきたのだから太刀打ちできるはずも無い。太刀打ちもできないから黙って引っ込んでいればよいのであるが、悔し紛れに一言呈するとすれば、そもそも脚でも尻でも美しく見せるためについているわけではない。
子供の頃「そんな蚊の脛みたいな脚をして力仕事ができるのか！」なんてよく大人になじられたことがあるが、当時は食糧事情の悪い頃であり、誰もが栄養不良で貧弱な体をしていた。河原での水浴びの後などに骨と皮だけの力瘤や胸の筋肉の張りを自慢しあったがいかにも貧弱であった。
今の若者に「力仕事」などというものを要求しても無理なことかもしれないが、文明の進歩というのは人間を後退させるために行うものらしい。脚というのはより早くより力強く動き回るためのもので、長ければよい、真っ直ぐなら良いということでは無いはずである。
勿論、長くてかっこよければそれに越したことは無いが、今始まっているオリンピックのアスリートたちのように、鍛え抜かれた結果、より細く、より長く、そしてまっすぐに伸びたしたいというのは美しいが、偏った食生活で、さしたる運動もしないでモヤシのように伸びた結果と言うことになればいささか先行きが心配である。
近頃、街中で余り駆け回っている若者も見かけないが、あるテレビドラマで可憐で美脚の若い女性タレントが、役どころで走る様を見たが、どう見てもあれは若者の走りではない。
せっかく持ち上がった美尻を落とし、長い美脚を折り曲げて引き摺るようにどたどたと走る様は、どう見ても我々と同じ年齢の老婆の走りである。これが、あの人間の動きを考慮に入れない「美脚パンツ」のせいだと言うならよいが、筋肉の発達の遅れが原因だとすれば亡国のファッションと言うことになる。
だいぶ以前のことになるが、あの森英恵さんが女性のパンツについて「今のパンツは以前に比べて比較にならないほど着易くなっている」といわれたのを聞いたことがあるが、なるほどデザイナーというのはそこまで考えているんだなあ、と感心したことがあるが、最近の若者のファッションは少し違う方向に行っているようである。
もっとも、着易いほうのファッションは中年以上のオバサン連中が愛用し、着易く、ゆったりしたところで食欲も増し、ますます着易さを求めるところとなり、民族的隔絶を思わせる体型を作っているのかもしれない。
最近、老若を問わず、日本の女性にとって韓国の男性が注目されているらしい。誰に注目されようがもうこの歳になれば関係のないことであるが、近年日本人男性の体力の低下というのは明らかで、人間であっても動物であっても、究極の魅力というのは体力である。
韓国男性が、若い日本人女性に魅力的に写るのは、韓国には兵役義務があり、そこで一旦男の価値を公的に見極められるためである。多分韓国の若者はこの試練を突破するためにそれぞれに鍛錬を積んでいるに違いない。
勿論、すべての日本人男性が何もしていないというわけではないが、本来は十分鍛錬を積んでいるはずの自衛隊の諸君ですら、隊列を組んで行進する様は外国の軍隊と歴然たる差が有る。
今更兵役義務を課せなどとはいわないが、今の若者の「蚊トンボの脛の四つ割」にしたみたいな美脚を見るにツケ、これで果たしてこの国の未来を背負って立てるのかと思うのである。
とは言え、若かりし頃、どのような鍛え方をしたのか忘れたが、脳梗塞の後遺症をもつ身になってしまった現在、「美脚パンツ」が履けない腹いせに、余りで過ぎたことは言わないほうがよさそうである。それにしても又一つ適用不能の商品が現れたことになり、忌々しい限りである。（０４．０８仏法僧）
