サイバー老人ホーム‐青葉台熟年物語

80.バラエティ番組

 最近のテレビ番組を見ると何所のチャンネルでも、昼でも夜でもやたらと「バラエティ番組」というのが目に付く。そもそもこの「バラエティ番組」とは広辞苑によると、「落語・漫才・曲芸など諸種の演芸を取り混ぜた放送番組」ということである。通常寄席と言う場所でお目にかかる内容と言うことになるが、「バラエティ番組」で活躍している芸人は本業であるはずの落語や漫才と言うのをあまり見たこともない。

 この種の番組が始まったのは、公開生放送で、予定にないタレントを番組の最中に電話で呼び出す某昼番組ではなかったかと思う。その意外性がうけて今でも続いている長寿番組になった。それと共にスタジオと客席が一体となった構成が、今までにない新鮮さがあり、全くの素人が番組に参加する番組が増えて、国民総タレント化し、猫も杓子も「バラエティ番組」となったのではないかと勝手に思っている。

 この種の番組が始まった最初の頃に、Y沢さんという優れた製作者がいたことが最大の理由かもしれないが、世の中規則やしきたりにがんじがらめになっていたことへの大衆の反発もあったような気がする。そんな中で筋書きのないストーリーが、ある意味ではスポーツ的な感覚で楽しめたのかも知れない。それと出演タレントが、いわゆるお笑いタレントで、少々の事をしてもタレントのイメージに影響しないためか、かなり際どいことをやらせる。

 この代表的なのが、かの「たけし軍団」であるが、あれが芸なのか地なのか分からないが、始めに出てきた時はこの連中一体何者だろうと思ったが、やることはかなり凄まじい。実際は厳しい稽古をつんでやっていることなのだろうが、なんとなくかつて会社の旅行やアフターファイブなどではしゃぎまくった自分達の姿を見ているような気がして奇妙におかしい。もしかしたら一度はやって見たかった憧憬みたいなものがあるのかもしれない。

 ところが最近の「バラエティ番組」は、演出意図が深く入り込んできているのか、画面にテロップと言う文字がやたらに出てくるのも気になるところである。それに、最近はかなり政治問題にまで首を突っ込んできて、「たかがお笑い」で済ませられなくなってきた。尤も出演者にはお笑いタレント並みの政治家も現れて、この面でも国民総タレントの傾向にあるようだ。

またこれが「バラエティ番組」の範疇に入るのかどうか分からないが、むやみに食べ物番組が多くなったのも気になる。若い女性タレントが大口を明けて料理を頬張り、決まって甲高い声で「オイシイー」と叫ぶのである。昔は女性が物を食べている時に大きな口を開けたり、大声でしゃべるのははしたないこととされていたはずである。

それに食べた後の感想が決まって「オイシイー」であるのも気が利かない。最近はこれに「アマーイ」が加わった。確かに日本語には食べ物を誉めるのにあまり豊な表現がないのかもしれない。それでも「歯ざわり」「舌ざわり」「のど越し」などは日本人独特の感性や、「小味」、「風味」、「香ばしい」などと言う表現などもあるのである。
これ以外のも「お袋の味」や「故郷の味」など人や土地をイメージする表現方法もあり、せっかく調理人が心をこめて作った料理であるならもう少しまともな誉め方を用意するべきではないかとやっかみ半分に思っていたら、ある若手漫才が、「煮物」というのをオジンネタとして使っているのには参った。今時日本の味なんてことに拘っていたら時代遅れなのかもしれない。それと最近は食材に季節感がなくなり、誉める言葉もなくなってきたのかもしれない。

 最近の「バラエティ番組」で気になるのは、やたらと出演者がはしゃぎまわり、何をやっているのか分からなくなった。更に出演しているタレントの会話が意味不明なのである。その上瞬間芸と言うのか、納得がいく頃には話は大分先に行っている。見ていると会場に来ている聴衆は一緒になって笑っているので、今の若者達には通用するのかもしれないが、これも歳の成せるところかと思うとなんとも情けない。

 今度、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」がベルリン映画祭で金熊賞を受賞したが、本来は全く日本固有の作品のように思われるこの作品が世界的な映画祭で受賞したのは、あの作品の持つ人間全てに対する普遍的なものをアニメと言う手法で描ききっていることによるものだと言われている。

 「たかがお笑い」ではないかと言われればそれまでだが、「バラエティ番組」に普遍性を求める方が、アホと言うものなのかもしれないが、今度のオリンピックのように、関係者だけが、はしゃぎまわっているのはしらけた気分になる。尤も、記憶の薄れた年寄りがお笑いネタにされているのを見ると、間もなくわが身であり、国民総タレントとは言え、おかしくもあり、情けなくもある。

 ところで、この「雑言」にどれほどの普遍性があるかと言われれば、雑言以外の何ものでもなく、ごめんなさいと言うことになる。たかが「バラエティ番組」、それほど小難しく考えないで、笑いこそ脳の中枢疲労を和らげる効果があると言うではないか、妙な屁理屈をこねまわすより単純に面白がって見ていたほうが脳梗塞なんかにならないよ、と言う忠告が聞こえそうである。(02.04仏法僧)