MISES, L. v. M.,
Theorie des Geldes und der Umlaufsmittel,München und Leipzig, Verlag von Duncker & Humblot, 1912, 8vo., pp. xi+476

 ミーゼス『貨幣及び流通手段の理論』初版。
 彼の初期代表作といっていいだろう。貨幣需要を商品需要のように効用理論から導出したこと及び貨幣的景気循環理論とを含む独創的な書物とされている。
 オーストリア学派は、当初から彼らの限界効用理論を貨幣理論に適用しようとしていた。しかしながら、個人個人は、自らの所有する貨幣が何を購入できるかを予め知っていなければならないので、自分たちが貨幣に対し何らかの主観的価値を付与する以前に貨幣の交換価値を知っている事になる。このため、貨幣の交換価値を限界効用曲線あるいは函数表から導出することは、循環論法めいた困難がある。
 ミーゼスは、貨幣の歴史的連続性の強調により貨幣の限界効用説の立場を守った。ヒックスの言によれば、貨幣の限界効用理論はミーゼスによって試みられ「貨幣は金の幽霊であるという結論に達した—―というのは貨幣そのものは外見上は限界効用を有しないからである。」
 杉本栄一によると、限界効用説では、貨幣に限界効用逓減の法則が適用できないこと等を説明できず、オーストリア学派は商品価格論では主観価値説、貨幣理論では客観価値説(貨幣巣量説)を取る不統一な理論体系なままであると。その後の理論の発展は、選好理論により価格を説明する方向に向かったようだから、効用理論の不備などは問題にされなくなったのだろうか。よく解らない。
 景気循環論としては、ミーゼスの説は、貨幣的景気循環理論に属し、ヴィクセルからハイエクを結ぶ中間的著作とされる。
 銀行の信用創造を通じ投資が実行される時、均衡利子率と貨幣利子率の乖離が、生産財価格と消費財価格に及ぼす影響を調べ、ヴィクセルの理論を論理的に整備された信用循環理論にした。

(参照:ブローグ 中矢俊博訳『ケインズ以後の100大経済学者』p.199-200、マルシャル・ルカイヨン 菱山泉訳『貨幣分析の基礎』p163、シュンペーター 東畑精一訳『経済分析の歴史』p.2292-3、ヒックス 鬼木甫他訳『貨幣理論』p.87、杉本栄一『近代経済学の解明』(上)文庫版p.131)

 紙装である。フランス装だけでなく、ドイツでもこの時期は紙装が元装で、購入者が各自装丁したのだろうか。私が持っているこの時期の本で、ルクセンブルグの『資本蓄積論』が同様の紙装であるが、シュンペーターの『本質と主要内容』なんぞも、元々は紙装だったかも知れない。

 不思議な入手経緯の本である。長らく探求書であったが、ネット上でドイツの本屋で見つけた。antboとZVABに搭載されていたが、ZVABは既にオーダー済の表示が出ている。これは既に売却された印だが、念のためantboで注文を出し、本屋に直接、是非欲しいとのメールを出しておいた。結果は予想どうり、売却済の返事が来た。
 やはり、縁が無いかと一旦諦めた。しかし、1週間ほどして検索すると、同じ店で同じ本が同じ記述で出ている。消し間違ったのだろうと思ったが、半信半疑で再度発注をいれると、何事もなかったように、順調にプロセスが進み、無事本が届いた。狐につままれた感じである。あるいは、発注の取り消しでもあったのだろうか。

 これまでの行掛かり上、解説文を付けましたが、手元の文献でこの本に言及したものが少なく四苦八苦です。誤りをご指摘下さい。




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