SAY, J.P., Traité d’Économie Politique, ou Simple Exposition de la Maniére dont se Forment, se Distribuent, et se Consomment les Richesses., In two volumes, Paris, Deterville, 1803, pp.xlvi+527; 572, 8vo. J・B・セイ『経済学概論』初版。 セイの評判は、はなはだ芳しくない。ふつうアダム・スミスのフランスにおける祖述者の位置づけである。ケインズとマルクスという経済学の両巨頭からは、ほとんど敵役にされている。 ケインズは、(彼のいう)「古典派」の基礎にある「供給はそれみずからの需要を創造する」学説を「セイの法則」の名の下に一括した。「セイの法則」という言葉もケインズ作ったものらしい(溝川喜一氏)。それは完全雇用の実現にはなんの障害もないという命題と同じものであると切り捨てている。(『一般理論』第3章)。 マルクスからは、俗流経済学者とされた。ちなみに、『剰余価値学説史』でセイの出てくるところを拾い出してみると、いわく「みずからの愚かな浅薄さ隠そうするセイは」、いわく「愚かなセイが問題そのものをさえどんなに理解していなかったかは」、またいわく「そのさい彼は、彼のいつもの論理をもって、自分の言ったことを再びみずから放棄する」(邦訳マルクス・エンゲルス全集版第26巻)。ほとんどが罵倒の言葉に満ちている。 しかしながら、セイはなかなか気骨のある人物なのである。本書初版出版後その評判のゆえか大ナポレオンから自己の経済政策に沿うように内容を改めるよう求められた。しかし、曲筆を拒んだため弾圧を受け、原稿を隠すことまでした。よって、本書第2版の出版が、ナポレオン没落後まで遅れたという。 セイの主著である本書は、序論を別として、全体は富の生産、分配、消費を扱う3部で構成されている。 さきにセイをスミスの祖述者といったが、彼独自の見解がないわけではない。 生産は効用の創出とし、労働価値説を否定して交換価値は、労働のみならず、自然と資本の協力の結果であるとした。が、生産費説と効用価値論の並存したままの中途半端なままで終わったというのが定説のようである。 生産と分配を生産要素市場での交換とし、消費を消費財市場での交換とし、価格決定をそれら市場での需要供給の法則で説明する経済均衡的理解は、シュンペーターが「カンティヨンおよびチュルゴーからワルラスにつながる連鎖のなかの最も重要な一つの環である。」とするところだろう(経済分析の歴史邦訳第3巻)。 セイの経済学上の貢献としては、スミスの事物の価値を生み出す労働を勤労(インダストリ、industrie)に拡大したこと。いわゆる労働の他に、学者による知識の探求および企業者による知識の応用を含ませたのである。これにより「企業者」概念が明確となった。 また、スミスが不生産的労働とした生産即消費の無形的生産(医師・芸術家等のサービス生産)を価値を生むものとしたことである。 昭和の初年に本書邦訳本が刊行されています。古書目録でよく見かける本屋さんで、すごい値が付いてます。原書の初版本には及ばないが第二版に負けないくらいです。図書館でも禁帯出で困っていたところ、下記山口著作の前編がこの本の概要となっていましたので、それによりました。均一棚で随分前に買った本です。これだから本は捨てられない。最近はどこにあるか探す方に時間を取られていますが。 この初版本は、フランスの古書店から購入。割安だと思ったが、今まで買った本の中で、一番高価だった。ボーナスもあと数回しか貰えないと思ったらつい買ってしまいました。 (参考文献)
(H19.3.11記、H21.6.形式変更) |