Vivien's CINEMA graffiti 11




永遠の僕たち


珠玉の青春映画 / ★★★★☆


『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』(1971)にインスパイアされたと思しき作品。ひきこもり少年とヒッピー婆ちゃんの恋を描いた『ハロルドとモード』はちょっとブラックコメディ風味の、しかし愛らしい佳品でしたが、主人公が十代の少年少女で生と死を主題に据えた本作は、ちょっと奇妙な、しかし心に染み入る珠玉の青春映画になっています。

日本映画にも頻出する、いわば定番の物語にヒネリを加えた脚本が秀逸、さらに説明を排した繊細な演出で一篇の映像詩のようにも思える本作、実は何もかもが好みでした。

まずキャストが素晴らしいです。不思議な役柄を好演する加瀬亮を含めて、主役の三人の瑞々しい演技が見応えたっぷり。少年役のヘンリー・ホッパーは登場シーンで息を呑みました。超級美少年・・・・。少女役のミア・ワシコウスカは第一印象はそれほどでもなかったのですが、やっぱり超級美少女。生のきらめきを放つ彼女から目が離せなくなります。エンドロールでやっと気がついたのですが、デニス・ホッパーの息子と「アリス」だったのですね。

その「アリス」つながりなのか、音楽がダニー・エルフマン。最初のうちは、ここは音楽がなくてもいいのではと思うところもあったのですが、物語の進行につれ、控え目で優しい音楽がそっと寄り添うような風情に魅せられました。ソフトで美しい映像も心地よいです。『パラノイドパーク』と同じく、舞台はポートランド、その秋から冬にかけての情景がしみじみと心に響きます。

衣装も特筆ものでした。母親のお古を着用しているという設定なのかな、ちょっと懐かしい感じの、でもとてもお洒落な少女の衣装が素敵でした。いちばん好きだったのは、シックなサンドベージュのワンピースにヒョウ柄のフェイクファーのコートを重ねたスタイル(私事ながらフェイクファーのコートは大好きなアイテムのひとつ)。一瞬しか映らない衣装にも素敵なものがありました。もっとじっくり見たいです。

もう一度観に行こうかな。2012年の映画始めに・・・・。

(2011.12.27 TOHOシネマズ西宮OS・4)






CUT


映画愛宣言 / ★★★★


西島秀俊演じる主人公が多額の借金を返済するために殴られる話です。何回も何回も何回も・・・・。同じようなシーンが続くので、ちょっと眠気を催したりもしたのですが、そんな私を救ってくれたのが常盤貴子。登場シーンの顔のアップから魅惑的で、今まで見たことのない常盤貴子。髪も短い、化粧気もない、まるで少年のような顔にたたえられた表情に魅せられました。

主人公は映画狂。ある時は路上で拡声器を手に映画への愛を叫び、ある時は自分の住むビルの屋上で映画会を開催する。上映されるのは『キートンの探偵学入門』、野外の風と無声映画についての気の利いた挨拶にちょっと微笑したりして、こんな主人公と友達になりたいなんて思いました(でも友達になっても、映画に対する見解の相違で絶交したりして。笑)。

『キートンの探偵学入門』は20代の頃に観た大好きな作品。あの頃、チャップリンやキートンの回顧上映が盛んだったのですが、映画をめぐる状況が一変してしまった今、若い映画ファンは、このむき出しの映画愛を描いた作品に共感できるのでしょうか。「シネコンで上映されるクソ映画」といったセリフがありましたが、みんなシネコン好きですよね。いや、実は私も好きなんです。家から近いし、スクリーンは観やすいし・・・・。しかし、シネコンで上映される作品には興味の湧かないものが多いのも事実。

さらに主人公のセリフをあげると、「かって映画は真に芸術であり、同時に真に娯楽であった」。そんな主人公の愛する100本の映画が引用される終盤にはワクワク(英語で示されるタイトルと監督名を読み取るのは大変でしたが)。古典になると未見の作品もありましたが、近年のジャームッシュとかカウリスマキとかにはもちろん異議なしです。チャン・イーモウの『紅夢』やツァイ・ミンリャンの『HOLE』が出てきて、ホウ・シャオシェンを忘れてませんかと思っていたら、ちゃんと『童年往事 時の流れ』が出てきてニッコリ。日本の監督では小津と黒澤が別格という感じでしたが、寺山修司とかも出てきたりして、何か楽しかった(作品は『書を捨てよ町へ出よう』でしたが、私なら『田園に死す』を選ぶ)。

・・・・映画についての昔の記憶を、いろいろ思い出したりしている今日この頃です(微笑)。

(2011.12.20 シネマート心斎橋・2)






アジアの純真


問題作 / ★★★☆


デビュー当時から気になっている韓英恵の主演作ということで、前情報なしで観たのですが、双子の姉を殺された在日朝鮮人の妹が無差別テロを実行するという内容にビックリ。しかし、姉が殺される現場で「見て見ぬふり」をしていた高校生が、その後ろめたさを抱えながら妹と関わって行くうちに、ふたりの心が通い始めるというストーリーは、美しいモノクロの映像もあいまってなかなかに魅惑的でした。

強い意志を持った少女を好演する韓英恵。彼女の持つエネルギーに触発されて変化して行く高校生を演じる笠井しげも好演でした。最初はイライラさせられるほどのヘタレで、そのあたりは気の弱い関根勤風だったのが、だんだん堺雅人に見えてくるのです。ずっとふたりの顔に見とれていたような気がします。同時に、自転車、雨、空、ビニールの海、降り積もる雪など、ひとつひとつのシーンの瑞々しさに魅せられます。

ファンタジー風になってしまうエピローグにはちょっと疑問を覚えました。最初と最後はちょっと唖然として、真ん中の部分に魅せられたという感じでしょうか。中盤のリリカルな雰囲気のままで終わってもいいと思うのですが・・・・。

特別出演の若松孝二が無差別テロのニュースに「この少女に共感する」といったようなコメントを述べる一般人を演じていますが、わたくし的にはとうてい共感はできません。しかし、幼い主人公たちが「世界を変える」と叫んだ時、ちょっと涙が出そうになりました。でも、どう変わればいいのでしょうか?

(2011.12.6 第七藝術劇場)






ハードロマンチッカー


ワルのヒエラルキー / ★★★★


ちょっとR-15の気分じゃないかもと思いながらも、昼の上映は今週までなので観に行きました。暴力描写はストレートで過激、痛くて怖かったのですが(特にいも屋での乱闘の鉄パイプが怖かった)、それほどグロくはなく、わたくし的には楽しめる作品でした。

下関を舞台に在日の不良たちを描いた青春映画。不良同士のもめごとから生じた殺人事件を発端に、やったりやり返したりの暴力の連鎖が描かれますが、冒頭のあたり、ちょっとクスクス笑ってしまったのがワルたちの階層序列。不良のなかでも腕力の強い者が上位になり、しかしそのワルも本物のヤクザには敵わない。そのヤクザも刑事には頭が上がらないといったヒエラルキーを一気に見せるシークェンスが秀逸です。

一般社会と変わりのないそんな弱肉強食の世界で、群れることなく一人で生きる主人公のグーに魅了されます。彼は自分の中に他人に譲れない規範のようなものを持っており、それが顕著に現れるのが男女関係なのですが、それがロマンチックな幻想と化しているところ、わたくし的には泣けてしまいました。

グーを演じる松田翔太が素晴らしいです。黒のダスターコート、細身のパンツにチャッカーブーツという衣装で、立ち姿も歩く姿も美しく、一見暴力的な、しかし心の中に純情を宿した若者を体現しています。その他の若いキャストも、ただ眺めてるだけでも楽しかったのですが、落合モトキと川野直輝が特に印象に残りました。淡路恵子、渡部篤郎、中村獅童がベテランらしい好演を見せ、特に渡部と中村はいい意味で役を遊んでるところがあり、その遊びの部分がとても楽しめました。

弱い人間が恐怖心に駆られて人を殺してしまったり、自分には力がなくても強いバックがあるから威張ってみたり、粋がっていてもいざとなれば逃げ出したり・・・・、過激な暴力描写の中から哀しい人間喜劇の趣きも滲み出し、共感するところがなきにしもあらず。もう少し説明がほしいと思ったところも確かにあったのですが、鑑賞後にじわじわと染みてくる作品。青みがかった映像と美しい構図も魅惑的。そして何より下関弁が飛び交う不良映画というのが新鮮でした。

(2011.12.3 MOVIXココエあまがさき・4)






新少林寺/SHAOLIN


主題歌に心の中で合掌しました。 / ★★★★


『香港国際警察/NEW POLICE STORY』や『コネクテッド』といった水準以上の娯楽作品を放ってきたベニー・チャンですが、わたくし的には明快すぎるというか、ちょっとハリウッド的なところが気になっていた監督。カンフー映画は大好きなのですが、そのへんで期待値を低めて鑑賞。しかし本作では、その明快さがプラスに働いた気がします。自己の誤りに気づいた男の覚醒と成長という重厚な物語を、見せ場たっぷりのアクションを絡めて描き、見応えのある娯楽映画に仕上げていました。

キャストも好演。主演のアンディ・ラウとニコラス・ツェーが対照的な役柄で魅せます。顔にも身体つきにも無駄がないアンディ・ラウにはほれぼれ。作詞と歌唱を担当した主題歌も心に染みます。ニコラス・ツェーの悪役ぶりがまた雰囲気たっぷりでトキメキました。その他、少林寺の修行僧や子役さんから悪役にいたるまでそれぞれの個性が楽しいです(修行僧の一人は『花の生涯〜梅蘭芳』の少年梅蘭芳)。紅一点のファン・ビンビンの美しさにはうっとり。特別出演のジャッキーは、料理人という役柄を生かしたコミカルなアクションで、緊張感のある物語に笑いを添えてくれます。

配給のブロードメディア・スタジオさんは、よく入場者プレゼントをくれるので、最近注目しています。しかし、本作でジャッキーの絵葉書というのはどうよ(笑)。そのへんを売りにするしかないのかなあ。内容的にももっとヒットしてほしい作品でした。

PS 役名と役柄を字幕で挿入するのは新機軸でした。スクリーンの真ん中にドンと出た時はちょっとビックリしましたが、役名の漢字が分かるのはイメージが湧いていいですよね。カタカナだと覚えられなかったりもするし。ついでに俳優さんの名前も入れてくれればなおよかったのに(笑)。熊欣欣、何という名前だったっけと、しばし考えてしまったもので(笑)。

(2011.11.30 TOHOシネマズ西宮OS・5)








ハロルドとモード/少年は虹を渡る


70年代気分 / ★★★☆


「ZIGGY FILMS '70s」と銘打たれて上映された本作と『パード★シット』は、どちらも青春の思い出です。そして私のかってのアイドル、バッド・コートの主演作でもあり、ロードショーされている時にも観たいとは思ったのですが、昔夢中になった作品を再見するとガッカリすることも多く、上映館が遠いことを理由にパスしました。ところが近くの映画館で上映されることになって・・・・。

バッド・コートはやっぱりチャーミングで見ているだけでニコニコでした。天使のようなブルーの瞳に胸キュン、カメラ目線でいたずらっぽく微笑むところにも頬がとろけました(笑)。そうした外見的なところだけでなく、傷つきやすいひきこもり少年を繊細に体現する個性にも得難いものがありました。

作品自体については愛らしい佳作といった印象が残っていましたが、その印象通りで楽しめました。ただ、ルース・ゴードン演じるモードお婆ちゃんはちょっとやり過ぎ。老いてなお自由に生きるヒッピー婆ちゃん、確かに魅力的なキャラですが、今見るとステレオタイプな感じもなきにしも・・・・。いつのまにか、私も保守に向かいつつある今日この頃です(笑)。

全体としてはファンタジックな作品。軍人や警官を虚仮にするところはいかにも70年代的ですが、時折現れるリリカルなシーンに胸を突かれます。衣装や小物なども素敵。特にバッド・コートの衣装が金持ちの息子ということでお洒落なのですが、ネクタイの幅の広さにはちょっとビックリでした。

(2011.11.29 宝塚シネピピア・2)






カイジ2〜人生奪回ゲーム〜


ちょっと単純 / ★★★☆


前作と同じく、藤原竜也がお目当てだったので、これぐらい面白ければ文句はありません。ただ、比較すれば前作の方が面白かったと思います。格差社会を漫画的にデフォルメして強調した世界観が新鮮でもあり、また共感するところもあったのですが、本作ではそれが背景に退いている分、面白みも共感度も薄れた感じでした。ハラハラドキドキ度も前作のほうが上、「沼」をめぐる攻防戦がかなり物理的要因で左右されるところが、わたくし的には減点でした。

キャストの演技は前作同様マンガチックですが、藤原竜也、伊勢谷友介、生瀬勝久は三者三様で楽しめます(生瀬はちょっとうるさいけど)。香川照之の怪演は見飽きた感があるので、今回の控えめの演技には好感が持てました。

(2011.11.24 TOHOシネズ伊丹・4)






ハラがコレなんで


ヘタウマ映画 / ★★★★☆


何が可笑しいかというのは個人差が大きいようで、いつも賛否両論の石井作品。図書館で古いキネ旬を拾い読みしていたら、石井監督もその辺のことは承知の上というインタビューがあってちょっと安心。本作もわたくし的にはクスクスの連続。そしてクライマックス、一堂に会したキャストの呼吸が絶妙で笑い転げてしまいました。

笑って泣けた『川の底からこんにちは』、笑いながら泣いた『あぜ道のダンディ』。そして本作では、観ている間は一度も泣かなかったのですが、仲里依紗が消えエンドロールが始まったとたん、涙ぼろぼろでした。「頑張れ、光子!」と心の中でエールを送りながら、自分自身も励まされているような・・・・。大仰にいえば本作には、生き辛い世の中を生き抜くための処方箋が提示されているような・・・・。

貧乏人のやせ我慢というか、持たざる者の美意識というか、石井作品にはいつも共感してしまいます。本作も原光子の名言集にうなずきながらニコニコでした。前作の「ダンディ」にしても、本作の「粋」にしても、そんなのダンディでも粋でもない、言葉の意味を取り違えているのではないかと怒る人がいて・・・・。しかし自分的にはわざとズラしてあると思うんですよね。そしてそこに石井監督の現実に対する批評ないしは批判が込められていると思うのです。

貧乏長屋を舞台に、一番困った状況にあるはずの、家なし金なしダンナなしの妊婦が、「粋か、粋じゃないか」を行動原理に、困っている人々を元気づけるというストーリー。「私も迷惑かけるから、あんたも迷惑かけていい」になぜか感動。昔は「迷惑は、かけるのもかけられるのも、真っ平ごめん」が信条だったのに・・・・。いゃあ、それでいいんじゃない。世の中、持ちつ持たれつ、助け合えばいいんじゃないなどと思っている、今日この頃でございます(笑)。

超ポジティブシンキングの原光子をチャーミングに魅せる仲里依紗を筆頭に、キャストも好演。ただし、ヘタウマ風味のコメディ演技は独特なので、馴染めなくて怒る人もいるかもですが・・・・。特に印象に残ったのは稲川実代子と石橋凌。子役さんたちも好演でした。

(2011.11.16 シネリーブル神戸・1)






木洩れ日の家で


チャーミングなふたり(?) / ★★★★☆


年を取るということは喜劇なのかもしれない、とふと思ったりしました。チャーミングな老婦人の静かな日々、そこに生まれる巧まざるユーモアに何度も微笑んでしまったのです。ひとりの女性の最晩年を描いたポーランド映画、コントラストのはっきりしたモノクロ映像が美しく、それだけでも高得点でした。

内容から思い出したのは中国映画の『胡同の理髪師』。北京の路地裏、猫と暮らす老人を描いた作品ですが、金銭のやり取りや日常会話などで社会の変化をも描いています。本作の舞台となっているのは郊外の林に囲まれた一軒家、社会の変化は直接の主題にはなりませんが、ひとり息子が家と土地の売却を画策しているらしいということが、ストーリーに動きをもたらします。

定期的に、しかし義務として訪れる息子と老婦人の指輪にしか興味がない孫娘。双眼鏡で近隣の家を盗み見る老婦人の心を捉えているのは、どうやら音楽クラブの子供たちで、庭のブランコを目当てに侵入してくる子供もいたりする。今風に悪ガキだったりする子供の描写も面白いのですが、それ以上に心ひかれるのが犬のフィラデルフィア(名前の由来が気になる)。作品の半分以上が老婦人と犬のふたり芝居(?)、ワンちゃん(食いしん坊で酒好き、笑)も名演を見せてくれます。老婦人がある決断を下すまで、そんな日常生活が繊細に描写されて行きます。

そして、時に老婦人の脳裏をよぎる過去の甘美な思い出、その映像も美しいのですが、それは現在の悔恨へとつながったりもします。私はまだ思い出にひたるような境地には至っていないのですが、もっとこうすればよかったと軽い後悔を覚えたりもする今日この頃、共感するところがありました。

(2011.11.12 宝塚シネピピア・2)






ステキな金縛り


メガネコレクション / ★★★☆


十分面白かったのですが、やはりちょっと長い気はしました。私なら(笑)、タクシーの運ちゃんと陰陽師さんのところは削って130分ぐらいにします。

個人的に楽しかったのはメガネ。幼少の頃から黒縁メガネフェチなのです。男性キャストの半分ぐらいがメガネ着用、それも黒縁メガネが多くてニコニコでした。

(2011.11.10 TOHOシネマズ伊丹・1)






ウォーリアー&ウルフ


不思議な顔合わせ / ★★★☆


監督は中国第五世代の田壮壮、主演はオダギリジョーとマギー・Qという何とも不思議な(変な)顔合わせ。さらに原作は井上靖の「狼災記」。田壮壮の作品は『青い凧』や『春の惑い』の頃が好きで、近年の『呉清源〜極みの棋譜』は美しい映像に魅せられたものの、いまひとつ不得要領なところがありました。

本作も映像は素晴らしく、時とともに表情を変える大自然が見応えありです。秦の時代、匈奴との戦いに明け暮れる兵士たち、その男同士の絆や主人公と異部族の女との愛が描かれますが、過酷な戦いの日々に生まれる、そのような人間同士のふれあいには共感するところがありました。厳しい自然環境の中で、身体の温かさに触れるだけでもどれほど癒されるだろうか、というのが実感として伝わってくるような・・・・。ただストーリーの時制が前後したりするので、やはりちょっと不得要領な感じが残りました。

驚いたのはオダギリジョーとマギー・Qのセックスシーン。作品全体の四分の一ぐらいは濡れ場なのです。ただ暗闇の中の上半身の絡みだけなのでエロティックではありません。そこで表現されるふたりの心情の変化が見所です。しかし、マギー・Qは辺境の女には見えないし、オダギリジョーもちょっとミスキャストのように思いました。

PS タイトルにもあるように狼も登場しますが、子供の狼がとても可愛かった。

(2011.11.8 梅田ガーデンシネマ・1)






密告・者


香港ノワールの傑作(大推薦!) / ★★★★☆


初めて観るダンテ・ラム作品でしたが、見応えたっぷりの香港ノワールで、ヴァイオレンスやカーチェイスなど見せ場がテンコ盛り(ロマンスもあり)。見せ場たっぷりの香港映画としては、ここでも評価の高かった『コネクテッド』を思い出しますが、『コネクテッド』は見せ場のための見せ場という感じがして、わたくし的にはあまりノレなかったのですが、本作ではそれがストーリーと有機的に絡まっていて、すっかり引き込まれてしまいました。

重要犯罪人を逮捕するために警察が犯罪組織の中に密告者を潜入させる、それが主筋です。「密告者は友人のように扱え」、「友人が危機に陥ったら?」、「友人のように扱っても友人ではない」。もうこの会話だけでドキドキです。服役中に密告者としてスカウトされたチンピラとスカウトした捜査官。チンピラには大金が必要な事情があり、捜査官には消し去ることのできないトラウマがあると、アクションに人間ドラマが絡んでくるのです。

密告者がニコラス・ツェー、彼と恋に落ちるのがグイ・ルンメイ(犯罪人の情婦)、このふたりが今までのイメージを覆す汚れ役を好演。特に台湾の清純派グイ・ルンメイには、こんな役も出来るんだとビックリ。捜査官はエキセントリックなワルが印象に残るニック・チョン。今回は黒縁メガネで変身し、非情に徹し切れない捜査官を熱演しています。

テンポが早くて演出も秀逸、何度か身体がビクッと硬直しました。そして心に染みる若いふたりの触れ合いと非常に人間くさい捜査官の葛藤。そんな何やかやで終盤は涙ぼろぼろ。エモーショナルな終盤は香港映画の十八番ですが、ここまで泣かされたのは久しぶりでした。

季節はクリスマスの頃で「ホワイトクリマス」が効果的に使われています(「月亮代表我的心」も心に染みる)。香港のクリスマスは季節感が希薄ですが、それでも皆が幸せであるべき時期という背景が切なさを倍加させています。こうして振り返ってみると、ちょっと詰め込みすぎの感もあるかも。しかし観ている間は感情を揺さぶられ放しの115分。アクションもヴァイオレンスも感情もとてもリアルな作品なのでした。

(2011.10.31 梅田ガーデンシネマ・1)






東京オアシス


俳優さんの無駄使い / ★★★


冒頭のコンビニでの思わせぶりな長回しにちょっと悪い予感が・・・・。市川実日子が一瞬だけ出てきたあと、その予感がさらに強まり・・・・。もしかして「それだけの映画?」と思ったら、「それだけの映画!」でした。このシリーズが好きだったので、好きだからこその苦言です。これじゃ、あまりにもミニマム過ぎる。

もたいまさこも光石研も一瞬だけの登場。お馴染みの顔ぶれでまた、さりげなくも温かい世界が味わえるのかなと思っていたので、ちょっとガッカリでした。小林聡美も好きなのですが、今回は思わせぶりなおばさんにしか見えなかったのが残念。もっと素敵に撮ってあげてください。

音楽にも違和感あり。海辺でのドラマチックな音楽は大げさだったし、動物園でのコミカルな音楽は狙いすぎに思えました。といいながら、それなりに心地よい時間が流れ、何気ない会話にも時折クスッとさせてはもらいました。三話の中では、映画館が舞台の第二話が好き。カウリスマキの二本立てを居心地のよい名画座で観る、私もそんなことがしてみたい。

(2011.10.31 梅田ガーデンシネマ・2)






一命


三池監督のシリアス時代劇 / ★★★★


小林正樹の旧作は未見ですが、ストーリーを知っているので、あまり鑑賞意欲が湧かなかった作品。しかし賛否両論に興味津々で観に行きました。三池作品としては『忍たま乱太郎』のようなおちゃらけた作品の方が好みの私ですが、本作もなかなか見応えがありました。

中盤の貧しい生活の描写、病弱な娘を思う父の気持ち、妻を思う夫の気持ちのやるせなさが・・・・。金さえあればどうとでもなる、その金を工面することもかなわぬ己の不甲斐なさ・・・・。涙が出るというよりはため息でした。そんな暮らしの中にもたらされる小さな幸せをも含めて、三池監督の丹念な描写が光ります。

その前段、後段も見応えがありましたが、特に終盤の、静けさの中に激しさを秘めた殺陣シーンが素晴らしかったです。海老蔵にも賛否両論なのが意外。もともと海老蔵の声が好きなのですが、舞台とは違って抑え目のセリフ回しに伺える、男のさまざまな心情に泣けました。

生き辛い現代、リメイクの意義は十分にあると思いますが、青木崇高、波岡一喜、新井浩文の演じる三人の武士の想像力の欠如、それが本作の要諦であると思います。

(2011.10.25 TOHOシネマズ伊丹・7)






スマグラー おまえの未来を運べ


「プロフェッショナル・仕事の流儀」裏社会編 / ★★★★


終盤の痛い描写に貧血気味になり、ちょっとフラつきながら帰りましたが、「痛いけれど、面白い」。PG12というよりはR-15の感じ、あまり他人には薦められませんが、わたくし的には楽しめました。

オープニングタイトルの映像と音楽がカッコよくてワクワクしましたが、さらに超スローモーションのアクションシーンに魅了されます。原作は未読ですが、漫画が原作というのは本作ではプラスに働いたのでは。暴力描写も音楽も過剰の感ありなのですが、それが見事にユニークな世界観を造形しているのです。アクション以外にも、マフィアのアジトのレトロな美術(のぞき部屋のあちらとこちらの悪夢的様相)など、印象に残るところがたくさんありましたが、特にヴァイオレンスとユーモアの表裏一体というのがまさに好みでした。

フリーターの青年がヤクザとチャイニーズマフィアの争いに巻き込まれるというストーリー。中国語のセリフがかなり多かったのは、中国語学習者の私にとってはうれしいサプライズ。美しすぎる殺し屋・安藤政信(その動きの素晴らしさ)、安藤と並ぶと「美女と野獣」という感じのテイ龍進(しかし野獣の咆哮、「我愛NI」に泣けた)、そしてイケメンだけどろくでなしの阿部力、トリオ・ザ・チャイナには楽しませてもらいました。

彼らを含めてキャストが素晴らしいのです。キャラにピタリとはまった個性的な俳優陣の快演、怪演が見応えたっぷり。それにしても「MASAHIRO TAKASHIMA」が高嶋政宏だと最後まで気づかなかったのはうかつ(笑)。満島ひかりの役名が「ちはる」と知った時にはクスッ。今回の満島ひかり、千秋に似てるとずーっと思っていたのです。永瀬正敏、松雪泰子はその仕事ぶりにほれぼれ、何もとカッコよかったのでした。

そんなキレキレの連中に囲まれ、『マイ・バック・ページ』に続いて受けに徹する妻夫木聡。しかしさすがの好演で、あの情けない砧にはちょっと共感してしまいました。○○に憧れる役者志望のフリーター、その設定だけで個人的には泣けちゃいました。

(2011.10.24 MOVIXココエあまがさき・7)






アクシデント


疑惑の影 / ★★★★


言葉の通じない三人の男女が追いつ追われつの逃亡劇を展開する『ドッグ・バイト・ドッグ』、日本のコミックを実写化した『軍鶏 Shamo』など、これまで異色のバイオレンス・アクションが紹介されてきた香港の鬼才ソイ・チェンの新作。製作をジョニー・トーが担当しているということで、今回もアクションを楽しむつもりだったのですが、ちょっと予想がはずれました。

予告編の感触から、事故を装った殺人を遂行する犯罪グループの殺人百科(!)といった内容を予想していたのですが、実は、そのグループのリーダーがある事故をきっかけに心理的に追い詰められて行くという不条理劇でした。予想とは異なるものの、主人公の心の闇が今日的で、これはこれで見応えあり。ただストーリーを知らずに観たほうが楽しめる作品、あまり触れずにおきます。

かすかな違和感を覚えながらも、途中までは核心がつかめないまま、しかし終盤・・・・。ささいなミスも許されない任務、自分の事だけでなく、グループの成員の動向にも注意を払わなければならない主人公、現代社会に生きる者なら共感できるところがあるのではないでしょうか。少なくとも妄想体質の私はかなり共感しました。

冒頭のシークェンスが『プレイキング・ニュース』を思い出させたり、『MAD探偵 7人の容疑者』を連想させるところもあり、香港の夜やそぼふる雨の映像などとともに、ジョニー・トーの影響が強く感じられる作品でした。

(2011.10.15 心斎橋シネマート・1)






レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳


全てが過剰 / ★★★☆


抗日映画とヒーロー物を合体させたような作品ですが、日本軍の非道ぶり、派手な爆破シーン、男性コーラスを使った荘厳な音楽など、何もかも過剰の感ありでした。しかし、黒マスクのヒーローの活躍、娯楽映画と割り切れば楽しめます(全裸の拷問シーンもサービス過剰かな。見事な肉体でした!)。

そして題名から予想されるように、『ドラゴン怒りの鉄拳』の続編というか、後日談というか、ブルース・リーの演じた主人公をドニー・イエンが演じるという趣向。ブルース・リーは大好きだったので全作品を観ていますが、『怒りの鉄拳』が一番好き。あの悲壮美に魅せられたのです。全くテイストの異なる本作ですが、クライマックスにブルース・リーへのオマージュのようなシークェンスがあり、そこは見応えたっぷり。ドニー・イエンのアクション、冒頭にもすごくカッコいいシーンがあり、そこも思わず拍手でした。

上海が舞台ですが、華やかなナイトクラブの場面など、暗い映像の多かった『シャンハイ』よりも楽しめます。ナイトクラブの経営者アンソニー・ウォンもチョウ・ユンファより味があった感じ。香川照之を間抜けにしたような警部にも楽しませてもらいました。ナイトクラブの歌姫スー・チーが実は・・・・。ドニー・イエンとスー・チーの切ない恋はちょっと心に染みました。

(2011.10.10 心斎橋シネマート・1)






中国娘


三大映画祭週間2011−2 / ★★★★


二本目はロカルノ映画祭で金豹賞を獲得した『中国娘』。中国の小さな村で育った娘が、村から重慶へ、重慶から英国(!)へと移動するロードムービー、同時に男性遍歴記(!)にもなっています。

鑑賞中に心に浮かんだのが昔観た映画のタイトル、『もっとしなやかにもっとしたたかに』。この主人公はその中間ぐらいのスタンスで世界を漂って行くのです。一言でいうなら「たくましい」になるのでしょうか。それがなかなか面白いのです。

小さな村の中では美人の方、わりと男にちょっかいを出されるのですが、その誘い誘われるさまも何だか楽しいのです(笑)。海賊版DVDで儲けてるアンチャンとかトラックの運ちゃんとか、でも実はみんな身体が目当て、結婚相手になりそうなのは退屈そうな公務員。

というわけで村を飛び出し大都会へ。またそこでいろいろあってロンドンへと、流されているようで意外にしっかりと生きて行く主人公にいつしか共感を覚えたりして・・・・。逃亡というか飛躍というか、あるシーンでは涙が出たりもしました。

印象に残るシーンもいくつか。都会の怪しげな店で働くことになり、ブルーの鬘をかぶって店先で雨の降る屋外を眺めているシーン(ギドクの『悪い男』を思い出した)、終始無愛想な彼女の満面の笑顔(Vサインつき)、ロンドンの街角でサンドイッチマン(着ぐるみ)をしている静止画風のシーンなど、淡々とした時の流れの中に一瞬にしてもたらされる抒情に胸を突かれます。

重慶のシークェンスがいちばん好きでした。相手の男が遠藤憲一みたいな渋いヤクザ者でぐっと来てしまった(笑)。

時々、字幕(英語と中国語)が挿入されるのですが、それにつけられた日本語の字幕にちょっと違和感がありました。英語の字幕までは読み切れなくて、中国語と日本語を見ていたのですが、もっと原文のままでいいのにと思ったところがありました(英語から訳されていたのかもしれませんが)。

(2011.9.28 テアトル梅田・2)






我らが愛にゆれる時


三大映画祭週間2011−1 / ★★★☆


ミニシアターの減少で上映機会の失われた秀作を一挙公開というありがたい企画。映画祭で賞を獲得した作品が必ずしも面白いとは限らないのですが、この企画が来年以降も継続されるようにアジア系の二作品を鑑賞しました。

一本目はベルリン映画祭で脚本賞を獲得した『我らが愛にゆれる時』。ワン・シャオシュアイ監督の『北京の自転車』は私の去年のベストワンということで期待していました。

白血病に罹った四歳の娘を救うために、離婚した夫婦が子供を作ろうとするのですが、ふたりとも新しい家庭を作っているため、その二組の夫婦の人間関係が揺れ動くというストーリーです。

娘が熱を出す発端から回想はひとつもなく、ただ時間軸の流れにそって、登場人物の会話から彼らの人柄や今までの経緯が明らかになって行くという脚本は確かに秀逸。

夫が再婚したのはかなり年下のスチュワーデスで尻に敷かれているのですが、元妻も頑固な性格であとに引かない。別れた夫と子供を作るなんてと、胸に一物のスチュワーデスが妹分の同僚とともに妻の家に乗り込むとあいにく妻は留守。人の好い夫と可愛い娘の顔を見ているうちに何も言えなくなって・・・・。

そういう心の動きが繊細にリアルに描き出されて引き込まれました。強い女たちに比べると、ふたりの男が人が好いところも面白いのです。ふたりきりになるのを避けているのにバッタリ出くわして、煙草をやりとりしながら気を遣いあっているところなどもとてもリアル。

と、観ている時は面白く感じたのですが、テーマが答えの出ない問題で、翌日どっと疲れが出ました。

(2011.9.13 テアトル梅田・1)






女と銃と荒野の麺屋


色&欲 in 中国大景観 / ★★★★


コーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』をチャン・イーモウがリメイクした作品。『ブラッド・シンプル(血迷宮)』は未見なので比較はできないのですが、そういえばコーエン兄弟風味のブラックコメディ、なかなか楽しめました。

荒野にポツンと建つ麺屋の老主人、金で買われた若い女房、彼女と密通している使用人、デブ男とチビ女の使用人、巡回警官が織り成すドタバタ喜劇。

妻の浮気を知った老主人が警官に妻と相手の殺しを依頼し・・・・、ところが死体になったのは・・・・、その死体を巡って登場人物たちが右往左往。みんな後ろ暗いところがあるもので、誰もが戦々恐々。その身振りがいちいち可笑しくてクスクス笑いの連続でした。

俳優さんがみんな日本人の誰かに似ているような・・・・。若い女房はちょっとタイプは違うけれど観月ありさ。警官は前川清、この前川清が夜陰に乗じて麺屋に出たり入ったり、しかしあくまで無表情なのが可笑しくて、可笑しくて・・・・。しかし、欲に操られた人間たちの行き着く先は・・・・。おもろうて、やがて哀しき人間喜劇でした。

舞台となっている嘉峪関の壮大な景観、極彩色のカラフルな衣装など、ビジュアル的にも見応えたっぷり。使用人三人による麺作りの場面も楽しくて、出来上がった麺がすごく美味しそうでした。

PS 誰が誰に似ているか、ずーっと考えてたんですけど(笑)、結論が出ました。

老主人・・・・笑福亭松之助
密通している使用人・・・・品川祐
デブの使用人・・・・桂南光
チビの使用人・・・・松野明美

あーっ、スッキリした(笑)。

(2011.9.25 シネリーブル神戸・2)






アジョシ


アクションスター・ウォンビン! / ★★★☆


美しすぎる、カッコよすぎる、裸体も見事なウォンビンのスター映画。意外と深みのないアクション映画でしたが、それなりに満足しました。しかし不満点もいくつか。

ヴァイオレンスは嫌いではないけれどグロが苦手な私には暴力描写がちょっと辛かったです。『チェイサー』や『悪魔を見た』などの韓国映画も過激ですが、あちらは暴力もテーマのうち。大仰にいえば、そこから哲学的考察へと導かれたりもするのですが、娯楽映画である本作ではあそこまで過激にする必要はないように思えます。

キム・セロンももっと魅せてくれるかと期待していたのですが、案外とパターン演技でちょっとガッカリ。あれぐらいでほだされるなんて、ウォンビン、甘すぎるやん、と意地悪な私は思いました。しかしこれはセロンちゃんの責任ではなく、演出の問題でしょうね。

最後にもう一度繰り返しますが、ウォンビンは素晴らしかったです。アクションもできるところが高得点。ベトナム人の用心棒など、個性的な脇役陣も見応えありでしたが、私のお気に入りはビジュアル系バンドのヴォーカルが似合いそうなマンソク・弟。変態チックな敵役にときめいてしまいました(笑)。

(2011.9.24 TOHOシネマズ西宮OS・7)






ハウスメイド


韓流傾向映画 / ★★★☆


官能サスペンスという触れ込みでしたが、官能の方はちょっと期待はずれでしょうか(笑)。チョン・ドヨンの個性のせいか、セックスシーンもそんなにエロくなくて、むしろバスタブにつかるドヨンを真上から撮っているシーンやパンチラにドキドキしたりしました。

しかし、彼女が演じるウニという女性が興味深いです。バカがつくほど人の好い女、身持ちはよくありませんが、それも人の好さからきているような・・・・。人に必要とされることに歓びを感じる女、エゴ肥大人間が氾濫する現代では絶滅危惧種とも思えるような女性像に、確かな存在感を与えるチョン・ドヨンが素晴らしいです。

そういう女がメイドとして雇われ、主人のお手がついたばかりに引き起こされる悲劇。「現代韓国の階級問題を正面から描きたかった」というのは監督の弁ですが、その言葉通り、実は持てる者と持たざる者の対立が主題です。そのあたりも興味深かったのですが、富豪一家の描写がちょっと戯画化が過ぎて残念でした。

それに比べて、持たざる側の描写はリアルです。古株のメイド、ビョンシクが実はキーパーソン。長年富豪一家に仕え、家内のことは知り尽くし、内心では富豪一家も自分自身をも軽蔑しながら生きてきた女。最初はウニに事務的に接していた彼女が、ウニのあまりの人の好さにほだされて行く終盤、女優ふたりの好演もあいまって引き込まれました。

とかなり共感していたので、最後は涙でした。しかし見方を変えれば、あのラスト、ふたりのメイドが人間としての尊厳を取り戻したと解釈することもできます。それでも、ウニの場合はあまりにも悲し過ぎましたが・・・・。

(2011.9.10 TOHOシネマズ梅田・6)






レイン・オブ・アサシン


愛に舞い、宿命を斬る。 / ★★★★☆


武侠映画は大好きなジャンル、久々に堪能しました。アクションはもちろん見応えありですが、武術の奥義に関わる達磨大師の遺体をめぐって、謎の刺客たちが死闘を繰り広げるという荒唐無稽なストーリーが、東洋思想をからめて展開されるところが好みのド真ん中でした。

中華圏と韓国から召集された俳優陣も豪華。『ポリス・ストーリー3』(1992)の超絶アクションで観客の度肝を抜いたミッシェル・ヨーがいまだ健在、流麗なアクションを見せてくれます。ジョニー・トー映画でお馴染みのケリー・リンが花を添えますが、顔立ちの似たふたりが交互に登場する冒頭、「このふたりは別人と、みんな分かっているかな」と心配していたのですが、実は同一人物だった(笑)。ふたり一役、この趣向が面白いです。

加えて韓流イケメンのチョン・ウソン。彼の演じる「人の好い男」、『きみにほほえむ雨』でも好感大だったのですが、今回もとても和めます。この主人公ふたりのラブストーリーが中間部にはさまれるのですが、ミッシェル・ヨーとチョン・ウソンの温かい個性が生かされニコニコでした。

刺客の面々も個性派揃い。台湾の演技派レオン・ダイが演じる魔術師もどき、生意気小娘バービー・スー、堅気になりたいショーン・ユー。ショーン・ユーのエピソードは既視感があったのですが、他二名は突っ込み所満載の役柄。心の中でいろいろ突っ込みを入れつつ楽しませてもらいました。あっ、忘れてはいけない、首領のワン・シュエチーも・・・・。

最後に東洋思想。あくまで荒唐無稽風味の東洋思想ですが、これがなかなか心に染みるのです。人と人の縁、自己犠牲、寛容、赦しなど、これまた心の中でうなずきつつ楽しませていただきました。「石橋の五百年」や主題歌には思わず涙、何ともたまらない世界でした。

PS 今回の見出しは宣伝コピーを借用しました。あまりにも言い得て妙なので・・・・。

(2011.9.7 テアトル梅田・2)








エッセンシャル・キリング


わたくし的には微妙 / ★★★


『アンナと過ごした4日間』のスコリモフスキの新作。前作がとても好きだったので観に行ったのですが、オープニングがアフガニスタンでの戦闘シーン。「あれ、こういう映画だったら、別に観たくなかったなあ」と思ってしまい、ちょっとノリ損ねました。

砂漠地帯で捕えられた主人公が、移送の途中、雪深い森林地帯で脱走し、過酷な大自然の中で生き抜くために闘うさまが描かれますが、ノレないまま観たせいか、ご都合主義なところが目についたりしました。

それでも、人間くささとユーモアが増す終盤はちょっと面白くなりました。必死の逃亡者とのほほんとした一般人の対比は今日の世界のアナロジーのようにも思えます。さらにラストはがらりと趣きが変わり、その静謐で美しいイメージは強く印象に残るのですが、全体としては微妙な感じでした。

(2011.8.31 第七藝術劇場)






サンザシの樹の下で


究極の初恋映画 / ★★★★


『LOVERS』あたりからそれほど好みでなくなったチャン・イーモウの新作、上映館が遠いこともあり敬遠していたのですが、近場で上映が始まったのを機に観たところ、『初恋のきた道』を思わせるような作品でとても心に染みました。

主演のふたりが好演。特にヒロインが素晴らしいです。一筆書きで似顔絵が描けそうなあっさりした顔ですが、そこに浮かぶ豊かな表情に魅せられます。ふたりきりになって、見つめ合うのも恥ずかしく、しかしチラチラと視線を交わすうちに、緊張感のあまり笑い出してしまう・・・・。いゃあ、あまりの初々しさに頬が緩んでしまいました。

写真だけだとそれほど魅力を感じなかった男性の方も、素朴な中に情熱がにじんで素敵でした。一本の木の枝を握るふたつの手が・・・・。これも微笑でしたよね(ちょっと変態ぽい感じもあるのですが、それがかえって彼の純粋さに説得力を与えているというか・・・・)。

文革時代を背景にした禁断の初恋物語。大きな障害にいや増す恋の愉悦・・・・、ふたりの恋の成り行き、あるいはふたりを取り巻く状況など、色々な意味でドキドキするシーンがテンコ盛りの、切なくてみずみずしい青春映画でした。

(2011.8.29 梅田ガーデンシネマ・1)






シャンハイ


見ものはセットとコン・リー / ★★★☆


上海を舞台にしたサスペンスものでタイトルもそのものずばり。魔都・上海と聞いただけで、何だかワクワクしますよね。さらにコン・リーとチョウ・ユンファの出演も、わたくし的には鑑賞動機のひとつでした。

そして見ものはやはり上海のセットとコン・リーでした。コン・リー、何歳になったんだろう。年齢を重ねてますます魅惑的。黒社会のボスの妻という役柄で衣装も豪華、胸元の谷間がのぞく女盛りのそのお姿にほれぼれいたしました。

チョウ・ユンファはまあまあだったかな。というか、男優陣はみんなまあまあだったかな。話も少し複雑で、歴史ものが苦手なせいもあり途中で飽きそうになりました。でも、最後はちょっとグッと・・・・。このあとがもっと観たいよねという感じのラストでした。

(2011.8.27 MOVIXココエあまがさき・7)






一枚のハガキ


麦秋 / ★★★★☆


描きたいことがある人の作った作品であることにまず感銘を受けますが、さらに映画を観る歓びも感じさせてくれる一作でした。戦争に翻弄される庶民を描いて、これは正しく反戦映画なのですが、そのジャンルに収まりきらず、時に人間喜劇の様相さえ見せる、悠然として自由自在な語り口に魅せられます。

戦争で夫を亡くした女と、その夫に一枚のハガキを託された男の出会い。戦争のもたらした悲劇を描きながら、最終的には人間賛歌へと到るその物語が素晴らしく、正も負も含めた人間のさまざなま在り様を断罪することなく包み込む、その懐の深さにも胸を打たれます。

省略と反復、さらに飛躍も交えて綴られる物語。時に怒りや悲しみに涙を誘われ、時に破天荒なユーモアで笑いをも誘発する、その闊達さに思わず心の中で拍手。特に大杉漣の絡むシークェンスは場内が笑いで満たされる楽しさでした。さらに何度か、「あっ!」と驚くようなシーンも(そのあと何だか微笑んでしまうんですよ。お神楽とか・・・・)。

キャストも好演。特に大竹しのぶの体現する女性像が見応えあり。夫の弟と再婚し三度繰り返される濡れ場のシーンで表現される女心のゆらめき、周囲の人間に対する振舞いから伺われる度量の広さなど、山深い村の一農婦の、しかしその豊かな内面の表現から目が離せませんでした。出演シーンの少ない川上麻衣子も印象に残ります。キャバレーの場面と船の場面、その対比に胸を突かれるのでした。

(2011.8.15 テアトル梅田・1)






忍たま乱太郎


100パーセント元気! / ★★★★☆


「忍たま」とは「忍者のたまご」のことだったのか。それも知らずに、久々の加藤清史郎クン目当てに観に行きました。

忍者学園の一年生である清史郎はもちろん、同級生も上級生も、いっぱい出てくる子供たちが、誰が誰だか分かりませんが、みんな可愛くてニコニコ(ガキに混じる大人、三浦貴大も可愛かった)。コスプレ大会の大人のキャストも、誰が誰だか分かりませんが、みんなノリノリの怪演で、これまたニコニコ。

三池監督は基本的に嫌いではないし、遊び心満載でガキっぽい(笑)本作、実は好みのド真中。「人生とは・・・・」。最後は思わず拍手、元気をもらって帰りました。

エンドロールのクレジットをじっくり見ようと思ったのですが、クレジット横の撮影風景から目が離せず(ジャッキー映画のNG集なみに楽しい)、いまだに誰が誰だか・・・・(笑)。

オープニングの緑の中を旅する清史郎、カリスマ髪結いのミュージカルシーンの艶やかな色使い、手作り感のある山道での追いかけっこなどが、特に印象に残りました。

(2011.7.28 TOHOシネマズ伊丹・7)






海洋天堂


幸せの記憶 / ★★★★☆


末期ガンで余命を悟った父親と自閉症の息子を描いた、その真摯さに思わず背筋が伸びるような作品。しかし、ただ真面目なだけではありません。クリストファー・ドイルの撮影と久石譲の音楽で映像詩のような作品になっています。舞台となっている緑と坂の多い青島の街の風情も見ものです。

自閉症の息子がひとりで暮らして行けるように、残り少ない日々を奮闘する父親。演じるジェット・リーの抑制の利いた、しかし人間味あふれる演技が秀逸。現実はもっと厳しいはず、とは思うものの、これは希望の物語なのでしょう。近所の雑貨店の女主人、養護学校の元校長、水族館の上司など、ふたりを取り巻く人々の温かさも、真面目で懸命な父親の人となりがそこに説得力をもたらしています。

脇役陣も豪華です。グイ・ルンメイとカオ・ユアンユアン、主演級の女優さんが好演。特に透明感のあるグイ・ルンメイ、彼女と息子の言葉少ないふれあいが切なく心に響きます。

彼女が息子にもたらした幸せの記憶、そして父親が息子に残す幸せの記憶・・・・、終盤は大泣きなのでした。

(2011.7.25 梅田ガーデンシネマ・2)






コクリコ坂から


夕暮れ胸キュン / ★★★★


ファンタジー色のないジブリ作品。ふたりの高校生と彼らを取り巻く人々の群像劇が日常生活の中で展開されます。アニメにする必要がない題材という意見にも頷けるところはあるのですが、主人公たちのひとつ下の世代である私は、懐かしさもあいまってすっかり引き込まれました。そして、終盤に触れられる社会背景にはちょっと胸を突かれたりしました。

高校生の純愛とメロドラマチックな展開。いかにも少女漫画らしい筋立てですが、1963年という時代背景や登場人物のキャラなどで清々しくまとめたところが好感大。古い建物の取り壊しをめぐる高校生たちのやり取りやお掃除大作戦など、牧歌的なシーンも楽しかったです。

わたくし的に特筆したいのは「夕暮れ」。宮崎吾朗の前作『ゲド戦記』でも印象に残った夕暮れの海の情景、それが本作では何度も出てきて、そのたびに胸キュンキュン。東京からの帰り道、微妙な関係にあるふたりが車窓から見る夕暮れも忘れがたいですね。

最後に不満もいくつか。長澤まさみの声がキャラと合っていないような・・・・。登場人物の女子高生が歌い出す時、その声が手嶌葵(でしたよね?)だったところも違和感がありました。「白い花の咲く頃」の風間俊介には清々しさを感じたのですが、普通の女子高生が手嶌葵のように歌うのは・・・・!?。それ以外の手嶌葵の歌はもちろん素晴らしかったのですが。

(2011.7.21 TOHOシネマズ伊丹・2)






大鹿村騒動記


追悼・原田芳雄さん / ★★★★


19日の夕方、原田芳雄さんの訃報に接して大ショックでした。映画ファンになった頃はアメリカ映画一辺倒だった私が、洋画並みに邦画も観るようになったのが1974年で、その年のベストワンは『竜馬暗殺』。それ以前に製作された『八月の濡れた砂』や『赤い鳥逃げた?』もその頃に観て、松田優作、桃井かおり、そして原田芳雄が、私の中ではワンセットで「同時代を生きる人」という感覚だったのです。同じ時代を生きてきた人も死んじゃうのかと、ちょっと呆然としました。71歳は早すぎます。

遺作となった本作は山の中の小さな村を舞台にした人間喜劇。熟年男女の三角関係というのは、わたくし的にはあまりノレない題材だったのですが、超豪華な俳優陣のふところの深い演技がとても楽しめました。

オリジナル脚本による上映時間93分の作品。現在の主流であるTV局製作の2時間を越える作品群に対するアンチテーゼのような、こういう映画をもっと作ってほしいです。

(2011.7.20 MOVIXココエあまがさき・4)






小川の辺(ほとり)


程のよさに味わいが / ★★★★


予告編で大まかなストーリーは分かっている作品、それほど期待せずに観たせいか、予想以上に楽しめました。

藩命によって妹の夫である親友を討たねばならなくなった主人公朔之助が、使用人の新蔵を連れて江戸への旅に。その途上、新緑の季節を迎えようとしている山々の情景、船で下る川沿いの景色など、美しい自然描写が魅惑的。その間に流れるように挿入される過去の回想など、なめらかな語り口にも魅せられます。

同時に朔之助と新蔵とのやり取りなどで朔之助の人となりが了解されてきます。予告編ではそれほど触れられなかった新蔵が実はキーパーソン。そのあたりの思いがけない展開を面白く見ました。

ひとりの武士が置かれた不条理な状況、抗うことは不可能なその状況の中で、しなやかな振る舞いが結局は静かな異議申し立てになっているようにも感じられ、東山紀之の凛としたたたずまいが心に残ります。

実は鑑賞の動機は菊地凛子。時代劇とはいかにもミスマッチな凛子がどう見せるか。確かに適役とは言いがたいですが、それほど違和感は感じませんでした。

(2011.7.14 TOHOシネマズ伊丹・8)






127時間


観なくてもよかった / ★★☆


前作『スラムドッグ$ミリオネア』にもあまり感心しなかったダニー・ボイル作品。他の映画を観に行った時に、ちょうど時間が都合よかったので観ました。世評は高いですが、わたくし的には、前作同様、あまりノレませんでした。

MTV風の演出が元々苦手。そのうえ、オープニングの大音響の音楽に「うるさいな」と思ってしまったために、ノリそこねました。しかし、遭難した直後の恐怖感は切実で、今までに読んだ一番怖い小説を思い出したりしました。この状態で、あと一時間強の上映時間をどう見せるのかと思ったら、またも始まるMTV風映像。主人公の悔恨などを含めた過去の出来事が展開されるのですが、いまいち重みが感じられません。

一日に15分ほど差し込む陽光や、空を横切る鳥の映像など、好きなところもあったのですが、そのあと正視できないグロ描写などもあり、わたくし的には観なくてもよかった作品でした。

(2011.7.5 シネリーブル神戸・3)






あぜ道のダンディ


父の気持ち、子の気持ち / ★★★★


石井監督の前作『川の底からこんにちは』も笑って泣ける作品でしたが、本作は笑いと涙の同時攻撃です。

中学時代からの親友である、主人公の宮田淳一と真田のやり取りが可笑しいのです。酔って突然大声で怒鳴り始める宮田淳一、なだめる真田。宮田の矛先が真田に向かい、今度はむくれる真田に素直にあやまる宮田。オヤジふたりが何やってんだか、思わずフフフと笑ってしまうのですが、そのオヤジの気持ちには共感するところが多々あり、同時に涙も出てくるのです。

生き辛い現代社会、世間的にはうだつのあがらない父親が、家族の前では精一杯の見栄を張る。その切なさや哀しさが、石井流のオフビート風味で描かれています。そして、そんな不器用な男の懸命さに励まされたりもする一作。

キャストも好演。元々ミツケンは好きなので、それで観に行ったところもあるのですが、田口トモロヲとのコンビが最高。さらに息子と娘を演じるふたりも好演でした。母親(西田尚美もぴったり)というクッション役を早くに亡くして、父親とコミュニケーションを取れなくなった子供たちの複雑な心情・・・・。最後はそれが染みてくる展開に心温まりました。一生懸命な親父の背中を子供はちゃんと見ているものなのですね。

染谷将太、綾野剛がワンシーンだけ登場と、脇役陣も何気に豪華。友情出演の藤原竜也は三回ぐらい出てきますが、登場シーンは頬っぺたのアップ(笑)。でも、声で藤原クンだと分かりました。

(2011.6.30 テアトル梅田・2)






東京公園


リップスティックと瞼の母 / ★★★★★


予告編の透明感のある映像に期待がふくらんだ本作、その期待を裏切らない作品でした。ただ、その魅力を言葉にするのは難しい。一言でいうなら、わたくし的には「映画を観る歓びに満ちた作品」。

秋の公園、木洩れ日、梢を揺らす風、色づいた木々、何とも心地よい時間が流れます。主人公の下宿、バイトしているバーなど、室内シーンの光と影、その心地よさもまた格別。

さらに俳優陣にも魅了されます。オープニングの字幕に名前が出る三浦春馬、榮倉奈々、小西真奈美、井川遥、それぞれに素晴らしいのです。井川遥はセリフのない役ですが、その美しさが格別。突然の涙に胸を突かれた小西真奈美、長回しにも息をのみます。

そして最も心惹かれたのが、三浦春馬と榮倉奈々の会話シーン。小津調の会話劇が展開されるのですが、終始驚いている三浦春馬の表情に見ほれ、榮倉奈々の「いびつな魅力」にニコニコ。三浦春馬がなぜ驚いているかというと・・・・。それは映画を観てください(笑)。あまり馴染みのなかった、このふたりにビックリでした。

染谷将太がサプライズな役で出演。影の主役ともいうべき重要な役で楽しませてくれます。あと歯医者の高橋洋がコメディリリーフで、これまた楽しいのです。

ネットではあまり評価が高くないようですが、途中まで話が見えないせいでしょうか。しかし、中盤以降、薄皮をはぐように話が見えてくる、その展開もスリリング。そして、静かに心に響く余韻・・・・。

登場人物がみな地上からちょっとだけ浮いているような感じもあります。そこがリアルじゃないとマイナス評価されるのかもしれませんが、わたくし的には高評価。現実のヘタな模倣ではなく、ひとつの創造された世界と受け止めました。

音楽も素敵だし、ちょっとフランス映画風味です。正直、「スカしてるんじゃねーよ」と思ったシーンもなきにしもあらず(笑)。でも許します。大好きな映画でした。

観客にはシニアの男性も多かったのが意外、青山監督のファンなのでしょうか。その方たちの感想も聞いてみたい気がします。ネットは若い人が多いと思うので・・・・。

PS 結局、この作品は三回観ました。デジタル上映が二回、フィルム上映が一回ですが、デジタルカメラで撮影しているせいか、デジタル上映の方が好みでした。ソフトなのにクリア。フィルム上映だとそのクリアさが幾分あいまいになる感じでした。

(2011.6.20 TOHOシネマズ西宮OS・9)






あなたの初恋探します


見栄晴と相田翔子 / ★★★☆


恋に臆病なヒロインのラブコメディ、こっち系の韓流映画は普通ならパスするのですが、イム・スジョンが出ているので、『東京公園』のついでに観ました。

序盤がちょっとゴタゴタしていて、笑いもスペリ気味のような気もしましたが、途中から楽しくなりました。同時に、最初は見栄晴に似てるかなと思った主人公もだんだん素敵に見えてきました(笑)。インドでロケしていたり、ミュージカル・シーンがあったり、盛り沢山な作品。けっこう大作でした。

イム・スジョン、こういう役柄は初めて観ましたが、なかなかチャーミングなコメディエンヌぶり。ちょっと相田翔子に似ているかな。童顔だけど32歳。父親(よく見る顔)が婚期の遅れにヤキモキします(笑)。

年増の歌手(この人、素敵)とか、主人公のお姉さんや義理のお兄さんなど、脇役陣もいい感じでした。

『東京公園』と同じスクリーンで一日二回上映だったのですが、大き目のスクリーンでのシネスコは見応えがありました。そのかわり朝9時からでしたが(ご苦労さん、自分)。

(2011.6.20 TOHOシネマズ西宮OS・9)






奇跡


子供の世界に魅せられる / ★★★★☆


序盤、「意味、分からん」を連発する前田兄の鬱屈や、何気ない日常の淡々とした描写に、正直、ちょっと退屈していたのですが、前田弟の夢の場面で一気に引き込まれました。両親のケンカの仲裁をする兄を背景に、ちょっと目を泳がせつつもたこ焼きを食べ続ける弟の表情・・・・。

このような胸を突くシーンを、時に交えながら綴られる子供の世界。子供たちの夢や願望、さまざまな感情が自然なタッチで捉えられ、生き生きとした表情に魅せられます。

そんな中で、思春期の複雑な感情を表現しなければならない役柄を、前田兄が好演。この子の言うこと、やること、けっこう胸キュンでした。バスの中の表情や泣いている母への視線に切なくなったり、久しぶりの弟との再会に邪魔者がいて、自分も友達連れてるくせにムッとするところでは、何だか可笑しくてクスッ(「他も早よ来い」。他って・・・・、笑)。しかし、思わず子供の頃に返って共感するところもなきにしもあらず。

そんな風に、大人の気持ちと子供の気持ちを行ったり来たりする作品ですが、旅に出るところでは完全に子供気分。心はずむ冒険をともに経験するような、ワクワクで、ドキドキで・・・・。この旅のシークェンスが素晴らしいです。

(このシークェンスを観たくて数日後に再見。「新幹線で九州に行きたい病に罹っている母親を誘い、開業間もない大阪ステーションシティシネマにて」、というイベント的鑑賞でしたが、涙もろい母親につられたせいもあり、二度目は大泣きでした)

老夫婦の人情、兄弟のふれあい、子供たちの友情、そんなかけがえのない体験を経て、失われた過去に拘っていた兄も前を向いて歩き始める予感が・・・・。温かい印象を残す成長物語でした。

あとから振り返ると、兄はいつも自分の気持ちをストレートに出し、天真爛漫に見えた弟の方が、実は気配り上手な「大人」だったような気もします。その龍之介がとってもキュートなのでした。

PS 子供の世界が活写されていること、電車が出てくることで、ホウ・シャオシエンの『川の流れに草は青々』を思い出したりしました。

(2011.6.12 MOVIXココエあまがさき・10)








軽蔑


評価に困る / ★★★


新宿歌舞伎町のチンピラとダンサーが手に手をとっての逃避行、その序盤にはワクワクしたのですが、チンピラの実家についたところで小さな疑問符が。そしてラストで疑問符はさらに大きく・・・・。何がいいたいのか、よく分かりませんでした。

しかし退屈だったわけではありません。魅力的な俳優陣、手持ちカメラによる長回しなど撮影も見応えあり。映像とシンクロして独特のムードを生み出す音楽の使い方も面白く、135分という上映時間もそれほど気になりませんでした。

川のそばに建てられたカフェのセットが素晴らしいです。アンティークなランプが灯る室内、あるいは室内から捉えた外景の透明感など、魅惑的なシーンがいっぱい。

主演のふたりも熱演でクライマックスでは思わずもらい泣きも。ただ、その登場人物に共感できるかというと、また疑問符。山畑の尋常でない憎しみ、終盤では主役のふたりよりそちらの方が気になったりしました。

(2011.6.5 TOHOシネマズ西宮OS・4)






昼間から呑む


オフ・ロード・ムービー / ★★★★


鑑賞後に製作費が100万円に満たないと知ってビックリ。そういわれれば、確かに手作り感が満載の作品でした。

運命の女に失恋した主人公を慰めるべく、悪友三人が企画したペンションへの旅。しかし、待ち合わせの場所に現れたのは主人公ひとり。そこから始まる脱線続きの旅。「過剰な親切には下心あり」、「インテリ女を怒らせるとあとが怖い」、そして何より「人生とは目的地にたどりつけない旅である」など、さまざまな教訓が得られる「爆笑ロードムービーwith酒(チラシより)」。まあ、爆笑とまでは行かないのですが、クスクス笑いっぱなしの116分でした。

全編のほとんどがグダグダした会話で成り立っているのですが、そのグタグタぶりが楽しく、一癖も二癖もある登場人物と、演じる俳優陣も愉快です。特に若い頃の小川真由美と風吹ジュンを足して二で割ったような色っぽい酒飲みねえちゃんに目が釘付け(笑)。

主人公は漫才コンビ・オードリーの若林に似た憎めないヤツ。台湾映画『台北の朝、僕は恋をする』の主人公も若林似でしたが、あちらはもうちょっと頭よさげ。こっちの主人公はバカではないけどマヌケ感ありあり。誘惑に弱く警戒心ゼロで痛い目にあうくせに、全然懲りずに・・・・と書いているうちにまた笑けてきました。

「人生、なるようになるさ」、本作から得た最大の教訓です(笑)。

PS 『春の日は過ぎゆく』のロケ地が出てきます。みんな映画に出てきたベンチで写真を撮ります(微笑)。

(2011.6.1 心斎橋シネマート・2)






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極めて特殊な、しかし普遍的でもある青春の蹉跌 / ★★★★☆


ファン雑誌を卒業してキネマ旬報を読み始めたのが1973年、そのキネ旬もとっくに卒業しましたが、あの頃好きだったのが川本三郎の映画批評でした。アメリカ映画の、土臭い田舎のプアホワイトの若者や、都会のうらぶれた私立探偵など、負け犬に心を寄せるその文章にひそかに共感を覚えていたのです。そんな川本さんの原点ともいえる出来事を描く本作、興味も感慨もひとしおでした。

若者たちが自分たちの力で世の中を変えられると信じていた時代、過激派の活動家と週刊誌記者が出会い、共鳴しあったことによって起こった悲劇的な出来事。

「安田講堂の陥落をテレビで見て、これだと思った」という梅山にとっては、革命は目的ではなく自己顕示欲を満たすための手段だった。女にモテたいからバンドを組むロック青年のような、イマドキの若者ともそう大差のない精神構造ですが、その思想が100パーセント嘘だったとは思いたくない。

大手新聞社の発行する週刊誌の記者である沢田も、その陥落を傍観していたことがうしろめたかったという理想主義者。CCRの「雨を見たかい」や映画「真夜中のカーボーイ」を通して共感を抱いてしまった若者に裏切られ、「どうして信じてしまったんだろう?」と自問するが、「それは信じたかったからでしょう」と、私なら答える。

時代の熱狂の渦に巻き込まれ、最悪の結果を生み出してしまった梅山もまた、自分を信じたかったにちがいない。「自分は何者かになり得るのだ」と。エセ革命家のそんな気持ちにもいくらかの共感を覚えてしまう。

しかし、そんなセンチメンタルな想いを粉砕するひとりの人間の死。甘っちょろい若者たちの青春の蹉跌は他人事ではなく、その痛みがズシンと心に響くのでした。

あまり馴染みのない脇役陣も含めて、キャストが好演です。天性の嘘つきにして天才的な人たらし、梅山を演じる松山ケンイチから目が離せませんでした。終始受けにまわりながらも存在感を失わない妻夫木聡もすごい。そして、忽那汐里。沢田に対して核心を突く言葉を吐く女子高生モデル、そのまっすぐな瞳が忘れがたい印象を残します。

(2011.5.31 MOVIXココエあまがさき・9)






ブラック・スワン


少女ホラー / ★★★★


『レスラー』がダメだったので、観る予定はなかったのですが、「妄想女が主人公のホラータッチの映画」という噂に、「それなら面白そう」と映画館へ。ほぼ噂通りの作品でしたが、主人公は、正確にいえば妄想女ではなく妄想少女、それも清純で繊細な少女でなかなかに魅惑的。

抜擢された役を演じ切るための不安や苦しみ、母娘一体ともいえる濃密な親子関係からの自立、そして大人への階段を上る痛みなど、少女の心理的葛藤をホラー風味で視覚化するという着想が面白いです。

対象に肉薄してグワーンとうねるカメラ(ツイ・ハークのカンフー映画を思い出したりした)、突然大音量で鳴り響く音楽など、かなりあざとい演出もこの題材なら納得。舞台監督の誘惑やライバル(この女優さんも魅力的)との確執など、まるで少女漫画のような展開も面白く、ナタリー・ポートマンの好演もあって、ドギドキしながら楽しみました。

とても印象に残る衣装、ピンクの乙女チックなコートはヒロインの少女性を象徴しているのでしょうか。白いドレスの上にそのコートを羽織り、広いロビーにひとり佇む。パーティのあとのシーンですが、鑑賞後に振り返ると、その固い蕾のような少女の姿が切なく思えてきました。誰も無垢ではいられない・・・・。

(2011.5.24 TOHOシネマズ伊丹・2)






GANTZ PERFECT ANSWER


満足できる続編 / ★★★★


GANTZスーツのニノとマツケンに「残酷な対峙」というコピー。ミスリードを誘うポスターに、何がどうなってそういうことにと、複雑な話を予想していたのですが、前編と同じくいたってシンプルな、しかし期待を裏切らない続編でした。

全然「PERFECT ANSWER」じゃないじゃん、とお怒りの方がいても当然ですが、わたくし的には納得の行く「PERFECT ANSWER」、ストンと胸に落ちる結末でした。しかしそれを明かすことはできません(笑)。

ということで、見所をいくつか。前編と趣向を変えたアクションが楽しめました。見せ場はふたつ。前半の地下鉄内での大立ち回り、久々に大興奮で胸がドキドキ。ちょっとキルビル風味!

後半の商店街での追跡劇も見応えあり。エンドロールで神戸の名前が出たので、神戸のどこかでロケしたのかなあ、などと考えていたのですが、TVの特番によると、中央卸売市場跡地にオープンセットを組んだらしいです。破壊するためのオープンセット、道理で派手にやらかしてくれたわけだ(笑)。

余談ですがこの特番、肝心のニノとマツケンの映像は少なかったのですが、神戸フィルムコミッションや韓国の映画事情(ポン・ジュノまで出て来た!)などが取り上げられていて、興味深いものになっていました。神戸でロケした映画とその場面も紹介されていましたが、観ていない作品が多くて残念。事前に知っていたら、観に行ったのにな。

キャストも印象に残る方が多くて楽しませていただきました。ニノとマツケン、個人的に大好きなふたりは相性もいいみたい。次回は普通の青春映画で、また共演していただきたいものです。


PS 再見しました。

終盤がちょっと長い感じはしたものの、またまた楽しんでしまいました。いくつか感じたことをメモしておきます。

意識したわけではないのですが、一回目はデジタル上映、二回目はフィルム上映(MOVIXココエあまがさき・5)で観ました。二回目の方が陰影が濃い印象で好みでした。

綾野剛クン、前は気持ち悪かったのですが(ごめん)、今回は何だか可愛いかった。特にしゃべり方が。

地下鉄のアクションは一回目以上にドキドキしました。

レビューにシンプルと書きましたが、それはストーリーの印象。枝葉の部分は複雑で謎も多いのですが、それを考えながら観るのも楽しかったです。

レビューに書き忘れましたが、川井憲次の音楽が素晴らしいです。特に前編・後編で趣きを変えたエンドロール。

(2011.5.13 TOHOシネマズ伊丹・2)






生き残るための3つの取引


全員灰色 / ★★★★


再起を賭けた中年ボクサーと、少年院でボクシングに目覚めた非行少年の、壮絶で爽快な勝負を描いた『クライング・フィスト』が印象に残るリュ・スンワンの新作。同じような「男の世界」を期待したのですが、全然予想と異なる作品で、警察と検察、その組織で生き残ろうともがく人間ドラマでした。しかし、これが拾い物と呼びたいような面白さ。

序盤、情報量が多いのでついて行くのに必死、その勢いのままラストまで引き込まれてしまいます。発端は連続殺人事件の容疑者を射殺してしまった警察が、世論の納得する真犯人のでっち上げ(!)を画策したこと。その真犯人をめぐって、叩き上げの刑事、コネで検察庁に入った検事(!)、彼らとつながりのある建設業界の大物たちが濃厚なドラマを繰り広げます。

出世して自分の仲間にも陽の目を見せたい刑事。同僚からは軽んじられ、上司からは疎んじられている検事は大きな手柄を立てたい。そこにヤクザから成り上がった建設会社社長(!)が絡み・・・・。

互いに相手の弱みを探りあい、その立場が二転三転、息もつかせない展開ですが、演じる俳優陣がまた濃ゆいです。端的にいって、その面構えだけでも見応えあり。『クライング・フィスト』で非行少年だったリュ・スンボムが何と検事役。やり過ぎスレスレの怪演で笑かしてくれます。犯人に仕立てあげられる哀れな男、誰かに似ていると思ったら、帰り道ではたと気づきました。ジョージ秋山の「銭ゲバ」や!。

主要登場人物がみな劣等感のような思いを抱いていることも重要なポイント。警察大学出身者から見下されている刑事。強力なバックを持ちながら実力のない検事。業界内であからさまに蔑視されているヤクザ社長。その負のエネルギーに操られるまま、堕ちて行く男たち・・・・。

おもろうて、やがて哀しき人間悲喜劇。ちょっと『アウトレイジ』を連想したりしました。

(2011.5.2 心斎橋シネマート・2)






素晴らしい一日


一日の終わりに / ★★★☆


一年ぶりに現れて借金の返済を迫る不機嫌女と、金も職もなく、おまけにいい加減そうなテキトー男の一日。借金を返すために友達に借金をするという男に、逃がすものかと側を離れない女。女の車でふたりは街を漂い流れ・・・・。

ふたりが出会う人々とのやり取りや街の情景が淡々とスケッチされ、退屈とはいわないものの、さほど面白いとも思えなかったのです。ところが、そんな風に気だるい時間を過ごしたあと、終盤、急に温かい気持ちに満たされてビックリ。不思議な映画でした。

いつの間にか登場人物に共感させる、主人公ふたりの演技が素晴らしいです。

(2011.5.2 心斎橋シネマート・2)






阪急電車 片道15分の奇跡


ご当地映画は大盛況 / ★★★★


関西の私鉄、阪急電車を舞台にした群像劇。実は地元なので、原作も出版されてすぐに読みました。サクッと読める軽めの、しかし共感するところが多々ある小説で、映画化も楽しみにしていました。平日の朝の回で観たのですが、さすが地元。七割ほど埋まった客席からはワクワクしている感じが伝わってきて、こんな雰囲気は初めての経験かも(微笑)。

一台の電車に乗り合わせた乗客たちの人生模様。片道15分の今津線を1往復する16話からなる原作をシャッフルして巧みにまとめた脚本は岡田恵和。一番最初のエピソードが割愛されていたのは少し残念でしたが、笑いあり涙あり、ハートウォーミングな作品に仕上がっています。もっと甘口になるかと思ったのですが、適材適所のキャストの好演もあり、予想外に爽やかな作品になっていました。

「矜持のある生き方」というのが隠しテーマでしょうか。毅然とした女性陣に共感してしまいます。原作ではもっと若い設定だったと思う翔子ですが、中谷美紀がさすがの好演。そのピンと伸ばされた背筋、ちょっと力が入っている感じにまず涙でした。

玉山鉄二も特筆もの。今までとは一味違う役柄で、柔らかい関西弁も心地よく、人の好いイケメンにすごーく癒されました(笑)。軍オタ・勝地涼(私もヘリコプター好きです)と野草オタ・谷村美月(雑草という草はない、ですよね)のパートも微笑ましく、かつ遊び心もたっぷりで楽しかったです。

PS 傍若無人なおばさん軍団が出てきますが、阪急電車にはあんなおぱさんはいません(きっぱり断言。笑)。

(2011.4.28 TOHOシネマズ伊丹・4)






まほろ駅前多田便利軒


再生途上の男たち / ★★★★☆


端的にいえば、ふたりの男の「再生」の物語ですが、その再生はいまだ途上、その変化は決してドラマチックには描かれません。そしてテーマは「人はひとりでは生きられない」ということだと思うのですが、それも声高に主張されるわけではなく、小声でささやかれているような感じです。そんな含羞に満ちた作品、わたくし的にはとても好感が持てました。

訳あり男がふたり。大阪の人間がふたり寄れば漫才になるなどと申しますが、このふたりの組合せも絶妙。松田龍平演じる行天の奇妙なパーソナリティと、瑛太演じる多田の生真面目なパーソナリティ、そのふたりがぶつかりあう様や、その結果生まれる空気感が実に面白いのです。全編に漂うユーモアも印象的。何分にも訳あり男の物語ですので、そのユーモアには当然ペーソスが含まれ、その分心に染み入ります。

世の中の半端仕事を引き受ける便利屋の目から眺めた現代社会、そしてそこに生きる人々。親に愛されない子供、売春婦、チンピラ、ヤクの売人など、社会からはみ出しているような登場人物に関わるふたりの男もまたはみ出し者です。互いに心に傷を抱えた男たちの、しかしその根底にある優しさのようなもの・・・・、それが今の自分の気持ちにぴったりとフィットしました。

演者を信頼した長回しの多用とその信頼に応えた演技が見応えあり。個性派がそろった脇役陣も魅力、ベテランから若手まで、それぞれが印象的な好演で楽しませてくれます。監督の父上と弟も出演しており、一家総出という感じが何とも微笑ましい。言い忘れるところでしたが、由良公を演じた子役さんも印象に残りました。由良公のエピソードは思い出すと泣けてくる・・・・。

(2011.4.25 MOVIXココエあまがさき・9)






わたしを離さないで


静謐な映画 / ★★★☆


SF的設定の純文学、カズオ・イシグロの原作の映画化。悪くなかったのですが、原作を読んだ時の圧倒的な衝撃と比べると・・・・。ちょっと綺麗にまとめ過ぎたような気がします。キャストは好演だったと思いますが、成人してからのトミーはちょっと私のイメージとは違っていました。

(2011.4.5 TOHOシネマズ西宮OS・5)






トゥルー・グリット


期待はずれ / ★★★


コーエン兄弟の作品で、もっとエキセントリックな味わいを期待したのですが、きわめてオーソドックスな語り口の西部劇。正直、前半は眠たかった。終盤の映像はちょっと面白かったのですが・・・・。それと、私はどうも西部劇は合わないみたいです。

(2011.3.22 TOHOシネマズ西宮OS)






英国王のスピーチ


演技が楽しめる / ★★★★


地震前に観ましたが、感想が書けないまま今になってしまいました。それほど好きなタイプの映画ではなかったということですが、端正な演出、上品なユーモア、キャストの好演と楽しめる作品ではありました。主役のふたりの演技はもちろん素晴らしかったのですが、そこに時々アクセントを添えるようなヘレナ・ボナム・カーターが、わたくし的には評価が高かったです。

ひとつ意外だったのは、シンプソン夫人。ちょっと毒婦か妖婦といった扱いで、昔見たテレビ番組などのイメージとは大違いでビックリ。恋愛からセックスの要素を抜くとお伽話になっちゃうのか!?

(2011.3.8 TOHOシネマズ梅田・1)






トスカーナの贋作


男と女のラブゲーム / ★★★★


キアロスタミが初めて描くラブストーリーは、いろいろな解釈が可能な興味深い作品でした。主人公はイギリス人の作家とギャラリーを経営するフランス人女性、そして舞台はイタリアで、複数の言語が飛び交います。序盤のうちは話が見えないのですが、芸術におけるオリジナルとコピーについての議論(作家の見解にはちょっと異議あり)や、女性の妹の「マ、マ、マ、マリー」の話(微笑)など、面白い会話に引き込まれます。

他人同士のふたりをカフェの女主人が夫婦と勘違いしたところから、ストーリーは意外な展開に。随所にミスリードを誘う仕掛けがあり、ちょっと混乱した私は鑑賞後にひとつの物語をでっち上げそうになりましたが、それが狙いだったのでしょうか(私だけの贋作、笑)。

それはそれとして、一組の男女の永遠に交わることのない平行線を描いたコメディ(!)と捉えることも可能です。男女(ふたりの人間と言い換えてもよい)のその違いを微笑しながら眺めているような感もあり、その温かさが心地よかったりしました。

そしてなにより、ジュリエット・ビノシュを愛でる作品です。可愛さ、哀しさ、可笑しさ・・・・、女性の様々な側面を懐の深い演技で表現しており魅了されます。ビノシュが苦手な人には苦痛の106分になるかもしれません(昔は私も苦手だったので、その気持ちは分からなくもない)が、わたくし的にはとても楽しい時間を過ごさせていただきました。

(2011.3.31 梅田ガーデンシネマ・2)






台北の朝、僕は恋をする


みんな誰かに恋してる / ★★★★☆


食堂の息子と本屋でバイトする女の子が主人公の台湾のラブストーリー。若い監督らしい瑞々しい青春映画ですが、ロマンチックなラブコメディやドタバタ喜劇といった、古き良き昔の映画の香りもします。全編クスクス、ニコニコの連続、ちょっと沈んだ気持ちで観たせいか、その温かみがとても心に染みました。

キャストも好演。ヒロインのアンバー・クォがキュートです。男性陣は個性派ぞろい。でもみんなチャーミングで、それもニコニコ。オカマチックな小悪党と手下の三バカ大将が愉快。特に主人公の親友とのラブホテルでのやり取りが楽しいです。あっ、その親友クンもいい味を出してました。

主人公のふたりが出会うのは誠品書店。立ち読みはもちろん、座り読みもOKの大型書店ですが、個人的にも思い出のあるところで懐かしかった。夜市も楽しそうだし、水餃子は美味しそうだし、台北に行きたくなってしまいます。

夜の台北を捉えた魅惑的な映像と軽妙な音楽も素敵。ラストは幸福感を感じて、ちょっと涙が出ました。

(2011.3.16 シネマート心斎橋・1)






4枚目の似顔絵


大阪アジアン映画祭−2 / ★★★★☆


一昨年の大阪アジアン映画祭で『停車』が上映された台湾のチョン・モンホンの作品。『停車』と同じく、本作も秀作でした。

父親が死んで孤児になり、父親と離婚して別の男と再婚した母親に引き取られることになった少年の物語がメインですが、少年にかかわる人々の群像劇にもなっています。彼らのさまざまな境遇や人間性が説明的にではなく、徐々に明らかになって行く語り口に見応えがあり、少年の母親は大陸出身者であるとか、義父には秘密があるなど、キャストの好演もあいまって引き込まれてしまいました。

子役さんも含めて、俳優陣が本当に素晴らしく、時に暴力的になる義父のレオン・ダイや、ホステスをしている母ハオ・レイの存在感が抜群。『停車』でもコメディリリーフだったナードゥの演じるチンピラが可笑しくて、暗い物語の息抜きになっているところも好感大。

結末も決して明るくはないのですが、子供には成長して行くという希望があり、彼に手を貸してくれる人もいるだろうと感じさせる温かみが心に残ります。

独特の色調の美しい撮影も特筆ものでした。

(2011.3.13 シネヌーヴォ)






ドリーム・ホーム


大阪アジアン映画祭−1 / ★★★☆


香港のパン・ホーチョンのブラックコメディ風味のスプラッターホラー。海の見える高級マンションを手に入れるというオブセッションに憑かれた女が取るある行動。前情報なしで観たので、ちょっと唖然の一作でした。

ヴァイオレンスの耐性はある方ですが、グロは嫌い。香港映画の中には、時々、生理的な嫌悪感を催す作品があるのですが、途中まではこれもその一作かなと・・・・。しかし、あまりにも過激なので最後には笑けてきました。

なぜ彼女がそういう行動を取ることになったのか、その理由が回想形式で挿入され、それが香港の社会状況を表してもいます。経済の変化に翻弄される庶民の思いや、家族を思う彼女の気持ちに共感できないわけではなかったのですが・・・・。

ドキドキさせ方はなかなか巧み。見えるものより、見えないものが怖いです。もうちょっと、もうちょっと、というジリジリ感も怖かったです。・・・・って、けっこう楽しんでいたのかな。

(2011.3.13 シネヌーヴォ)






MAD探偵 7人の容疑者


サイコ探偵 vs 多重人格殺人者 / ★★★★☆


あいかわらず技ありのジョニー・トー作品ですが、今回は「男の世界」シリーズとは一味ちがう犯罪映画。人間の内面を透視できる(!)元刑事が主人公で、容疑者は7つの人格を持つ(!)刑事という、キワモノ映画のようなアイディアを見応えのある作品に仕上げています。主人公に見えているものが、何の説明もなくスクリーンに映し出されるという展開に、何度も「エーッ、何これ?」と驚かされながらも楽しめました。

複数の人格が入れ替わり立ち替わり現われ、また相棒の刑事にも別の人格があり、主人公には妻の幻が取り付いていて・・・・。実に面白いのですが、だんだん混乱してきます。そして、その混乱が頂点に達した頃にクライマックス。それがまためくるめくようなシークェンスで、いゃあ、参りました。

謎解きの面白さだけでなく、妻がからむシーンのエモーショナルな味付けも利いています。切なかったり、温かかったり・・・・。オートバイのシーンとそれに続く妻の言葉には泣けてしまいました。

キャストが好演。あまり機会は多くないですけど、主人公のラウ・チンワンは、見るたびに味のある役者さんやなあと思います。今回の役柄はおっさんなのに無垢。妻のケリー・リンも容疑者のラム・カートンもけっこう好きだし、トー映画の常連さんが多重人格として登場するのも楽しかったです。

(2011.3.2 シネマート心斎橋・2)






悪魔を見た


黒サイコ vs 白サイコ / ★★★★


18禁の韓国映画ですが、主演がイ・ビョンホンとチェ・ミンシク、そして監督がキム・ジウンときては、わたくし的には見逃せない作品。

いゃあ、凄まじいヴァイオレンス描写。エンドロールが終わるまで残っていたのはみなビョンホンファンのようで、知らないグループ同士でも「怖かった」と顔を見合わせていたので、私も思わず参加してしまいました(笑)。あるおばさん曰く「怖かった。でも、カッコよかった」。

確かにビョンホン、カッコよかったですよ。私は別にファンじゃないですけど、認めます(笑)。猟奇殺人者に婚約者を惨殺された国家情報院捜査官。不条理な状況に突然投げ込まれた男の葛藤と反撃。役柄は異なりますが、同じジウン監督の『甘い人生』と共通するところがあります。実は『甘い人生』で、私はビョンホンのカッコよさに開眼しました。シャープな回し蹴りにハートを直撃されたのです(笑)。本作でも何度か、あの回し蹴りが・・・・。

ミンシクもさすがの名優。悪魔のような殺人鬼をねちっこく、いやらしく演じていて目が離せません。しかし、こんなヤツいるかもとリアリティを感じさせるところが怖いのです。このふたりの闘いがいかにも韓国映画らしい残虐さを交えて描写されますが、筋立てがシンプルでスリラーの一面もあり、ドキドキしながら楽しみました(エロい場面にもドキドキ。特に看護婦さんの・・・・)。

しかし、いちばん怖いのは人間性の中に潜む闇。序盤で感じるひとつの疑問の答えが最後まで物語を引っ張ります。有能な捜査官が、婚約者の受けた苦しみを、殺人鬼にも味あわせてやろうと考えたために・・・・。そしてその殺人鬼が、予想を越える怪物であったために・・・・。延々と繰り返される死闘の過程で、自己の能力を過信した捜査官もまた・・・・。

あまりの凄まじさに、途中でちょっと笑けてきたりもしたのですが、最後は泣けました。ある意味では倫理的ともいえる人間ドラマ。この種の韓国映画を観るといつも、今という時代を生きる人間の哀しみが身に染みてきます。

(2011.2.28 MOVIXココエあまがさき・8)






GANTZ


漫画週間−2 / ★★★★


『あしたのジョー』と違い、本作の原作については何も知りません。ニノとマツケンに召喚されて映画館へ(笑)。

序盤のグロ描写にちょっとたじろぎましたが、だんだん面白くなって行き、最後のPart2の予告映像にワクワク。あっ、これは『デスノート』と同じ感じ、続編が尻すぼみにならないようにお願いしますよ。

奇想天外なストーリーが面白く、頭を空っぽにして楽しめる娯楽作。さらにわたくし的には、愛嬌のあるユーモアがとにかくツボで、「0点、岸本見すぎ」とか「田中星児ん」に吹きました。ヘンなかな表記にも興味シンシンですが、ああいう表記、台湾でよく目にしました。たとえば「美空ひばソのソんご追分」とか。もしかしたら、GANTZは台湾人!?(笑)。

存在感のない玄野が調子に乗って行くところや、偽善者加藤の悲しい過去とか、ほとんど記号と化しているようなシンプルさが、反って心に染みるのは、俳優さんに共感しているせいもあるかもしれませんね。

ニノのイマドキの男の子ぶりが楽しく、スクリーンに大写しの小鹿のようなルックスにもとろけました。マツケンの見せ場が少なかったので、それはPart2に期待しております。

(2011.2.17 TOHOシネマズ伊丹・3)






あしたのジョー


漫画週間−1 / ★★★☆


少年マガジン連載時に原作をリアルタイムで読んだ世代で、本作のクライマックスとなっている力石の・・・・は「生涯の三大ショック」のひとつに数えられるぐらいの衝撃でした。で、登場人物のイメージも固まっているので、実は鑑賞するつもりがなかったのですが、伊勢谷友介の減量の記事を読んで、「これは観なあかん」と映画館へ。

不満もなくはないのですが、全体的には楽しめる作品となっていました。ストーリーを知っていても全然大丈夫というか、知っているからこそ感激も大きいようで、途中から涙々・・・・。命を懸けてでも倒したい唯一無二のライバルに出会った男たち。これってほとんど恋みたいなものと、腐女子的発想で眺めていたもので、裸で闘うその姿にドキドキ。

山下智久と伊勢谷友介、ふたりが素晴らしかったです。肉体も含めて、とにかく美しいふたり。山Pは原作よりクールな感じでしたが、2011年的(21世紀的)には相応しい人選だと思います。なぜ今「あしたのジョー」なのか、その意義がこもったセリフにも泣けました。

不満はやはりCG。顔面パンチのCGは不要です。あれで作品の格がひとつ下がったような・・・・。せっかく主役のふたりが頑張っているのに、そりゃないぜって感じでした。

白木葉子の設定を変えて、微妙にいい人にしているのも不満。お嬢さまはもっと高ビーでいけすかない女でないと(笑)。そんな女にも男は惹かれるのだと知った十代の頃の衝撃。「生涯の十大ショック」ぐらいには入るかもしれません(笑)。

PS 顔面パンチはCGではないそうです。超スローモーションらしいのですが、どちらにしてもこれ見よがしの演出は好みではないので、あのシーンは不要だと思います。

(2011.2.16 TOHOシネマズ伊丹・1)






ハーブ&ドロシー


最強のオタク夫婦 / ★★★★☆


『ソーシャル・ネットワーク』はITオタクの実話に基づいた劇映画ですが、本作は1000点を越える作品を美術館に寄贈した美術オタク夫婦を捉えたドキュメンタリーです。夫は郵便局員、妻は図書館職員という庶民的な夫婦がいかにしてそれだけの作品を収集できたのか。87分という小品ながら、おもしろエピソード満載の驚きの一作でした。

ハーブとドロシーのヴォーゲル夫妻。一時は画家を志したこともあるハーブが、どうやら収集の主導権を握っているようで、自分の美意識に適う作品を自分のものにすることに情熱と執念を燃やします。一方、結婚当初はさほど興味のなかったドロシーも、夫の導きによって美術に開眼しますが、どちらかというと購入するさいの手続き一般を担当し、その夫唱婦随ぶりは「最強のコンビ」と呼びたいような趣き。

自分たちが美しいと思える作品を求めて、休日には画廊巡り。つつましい収入で購入できるのは無名のアーティストの作品。後に有名になる人もいれば無名で終わる人もいる。しかし、それは発見する喜びに満ちた行為だったことは想像に難くありません。作品を凝視するハープの前のめりの姿勢、それだけ夢中になれるものがある幸せ・・・・。

購入を決めた作品の価格交渉は撮影禁止。夫妻を嫌うアーティストもいたという証言などから、夫妻の人間くさい側面もうかがえますが、投機目的ではなく、ただ自分たちの好きなものを集めたかったというオタク魂には感銘を受けずにはいられません。

そんなふたりのなれそめはダンスパーティ。知的な感じに惹かれて、ドロシーに声をかけたハーブ。確かに若い頃の写真に見るドロシーは知性的な美女。一方、ハーブはどちらかというと個性的な風貌ですが、ドロシーにいわせると「キュート」なのだそうです(微笑)。さらに「指図されるのがいやで高校を中退した」という反骨精神にも惹かれたのかも。ともあれ、マンハッタンのアパートで猫や亀とともに老後を過ごす、夫妻の仲むつまじい様子にもニコニコなのでした。

(2011.2.6 シネリーブル神戸・1)






ソーシャル・ネットワーク


オタクの逆襲 / ★★★★


リアルの生活でつながるのも億劫なのに、ネットでつながるなんて、さらに気の進まない私ですが、ITの世界を描いた本作はとても面白く観ました。

映画ファンなら多かれ少なかれオタク的なところがあるはずで、主人公マークにけっこう共感してしまいます。少なくともエリートを絵に画いたような双子兄弟よりは好感が持てる、などと思いながら、前半の「オタクの逆襲」から、遊びの延長のようなそれがビジネスになって行くところを楽しんでいたのですが、終盤のパーティうんぬんのシーンでガーン。頭どつかれました。それはちょっと人としてどうよ(笑)。

現在の最先端の世界で生きるさまざまな人間像がけっこう百鬼夜行で(同時に子供っぽい)、彼らが織り成す人間ドラマに興味シンシン。しかし、他人事とかたづけられない部分もあります。主人公のマークは、人を傷つけることには鈍感なのに、人に傷つけられることには超敏感。ちょっと極端ではありますが、現代人のひとつの典型でもあるような・・・・。つまるところはエゴの肥大に帰結するような感触もあり、きわめて今日的な作品でした。

(2011.2.2 TOHOシネマズ伊丹・8)






イップ・マン


久々のカンフー映画 / ★★★☆


ブルース・リーの師匠であったという武道家イップ・マンを描いた作品。冒頭に日中戦争時のエピソードが唐突に挿入されるのでヘンだなと思って調べたら、『イップ・マン序章』という作品の続編にあたるみたいです。というわけで、唐突に思える部分は他にもあったのですが、わたくし的にはカンフー映画が観たかったわけで、まあモーマンタイですかね。

ただ、弱きを助け、強きをくじく、武道家の模範のような人物を、ドニー・イエンが大真面目に演じていて、全体としてはあまり面白みのない感じでした。1950年の香港、世の中は不況、弟子入りした若者も職がなくて月謝が払えず、奥さんが、「これでは生活できません」と泣きついても、人の好いイップ・マンが強く言えないなど、生活感のある前半は和みましたが・・・・。

前作では日本人が敵役らしいのですが、本作では英国領香港ということで英国人が悪役です。このあたりも型通りの展開。中華圏の人なら熱くなれるのでしょうが、日本人の私は・・・・。

しかし、お目当てのアクションはいろいろ見せ場があって楽しめました。前半の魚市場での大乱闘が特に見応えあり。中盤の見せ場は香港の武道界に受け入れられるためのトライアルの場面。線香が一本燃え尽きるまで、円卓の上で、並み居る武道家の挑戦を受け続けるというもの。ちょっとアップが多かったのですが、最後に出てくるサモ・ハンとドニー・イエンの激闘はやはり見応えありでした。

あと良かったのは1950年の香港を再現した美術と川井憲次の盛り上げる音楽。川井さんは以前も香港映画の音楽を担当されていましたが、相性抜群の感じですね。

(2011.1.27 シネマート心斎橋・1)






嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん


不思議可愛い青春映画 / ★★★★


公開前日に新聞広告でその存在を知った作品。女性新人監督による染谷将太主演の青春映画というだけでもそそられたのですが、たまたまとなりのページに掲載されていた監督のインタビューに、私の好きなホウ・シャオシェンやジャ・ジャンクーの名前が引用されていたので、思わず観に行ってしまいました。

「キュートでポップで残酷な青春ラブストーリー」という広告コピーにも惹かれたのですが、その言葉通りの作品で、わたくし的にはとても楽しめました。ただ「残酷」がちょっと予想外の形で出てきて、一瞬、たじろぎます。みーくんを嘘つきにし、まーちゃんを壊してしまった過去のある事件。しかし、それをリアルな怖さではなく、シュールな怖さとして描き、作品の世界観を損なっていないところも高評価です。

現実と幻想の間で、現在と過去を行き来しながら紡ぎ出される物語、理詰めで追っていると混乱するかもしれませんが、主人公ふたりの気持ちに寄り添って行けば、多少の疑問も気にならず(むしろアクセントになってる感じ)、最後に待っているのは温かいラスト。一風変わったラブストーリーですが、とても心に染みました。

主演の大政絢と染谷将太がとてもチャーミングで、そのさまざまな表情に魅せられます。鈴木京香と田畑智子が脇役というのも豪華で、その個性的な演技も見応えあり。田畑智子と三浦誠己の刑事コンビ、関西弁のやり取りが楽し過ぎると思ったら、瀬田監督は大阪出身なのですね。これからも期待しています。

(2011.1.27 なんばパークスシネマ・8)






海炭市叙景


悪くないけれど / ★★★☆


ちょっと感想の書きづらい作品。北海道の地方都市を舞台にした人間ドラマ、季節は冬、暗くて重くて寒いです。そのうえ152分という長尺。しかし、途中で退屈することもなく、その淡々と描き出される人間の営みに見入ってしまいます。ただ、共感できる登場人物もなく、わたくし的にはカタルシスのないまま終わってしまった感じでした。

(2011.1.23 第七藝術劇場)






僕と妻の1778の物語


2011年の映画始め / ★★★★


草なぎクンと竹内結子、主演のおふたりが好きなのでけっこう楽しみにしていました。テレビ局製作の泣かせ系というのは不安材料だったのですが、そのあたりもくどくなく温かい印象が残る作品、予想以上に楽しめました。

夢見がちの作家と、彼の作品の大ファンである妻、互いを思いやるその夫婦愛を寓話的なタッチで描き、ほのぼのと心地よく、しかし心に染み入ります。

不治の病にかかった妻を笑わせるために書かれる一日一編の小説。その映像化がまた楽しいのです。ブリキのロボットが登場したり、全体的にレトロなタッチが懐かしいのですが、手作り風のCGにニコニコしたり、含蓄のあるお話に頷いたり、登場人物を演じる竹内結子の粋な美しさ(スパイ映画が似合いそう)に見ほれたり、見応えたっぷり。

キャストも好演で(風吹ジュンと竹内結子は本当の母娘みたい)、初春にふさわしい好感の持てる作品でした。草なぎクンが原稿を書くシーンもたくさんありましたが、早書きのきれいな字がキャラにぴったりでしたね(と、些末なことに言及するのは、『ノルウェイの森』の松山ケンイチの字がキャラに合ってなくて、一瞬気持ちが冷めてしまったことを思い出したからです)。

(2011.1.20 TOHOシネマズ伊丹・4)





星取表点数

★★★★★ 100点
★★★★☆  90点
★★★★    80点

以下略




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