Vivien's CINEMA graffiti 10




武士の家計簿


魚心あれば水心 / ★★★★


算盤バカが主人公の幕末ホームドラマ。森田芳光はそれほど好きではないのですが、興味深い題材が楽しめました。

バカはバカなりのというか、バカだからこその揺るがない生き方に納得しました。ある意味、怖いものなしの生き方ですよね。息子が失くした四文銭をめぐるエピソードが興味深いです。本音と建前のせめぎあい、父の立場、母の立場、これが終盤で効いてくるところは涙でした。

三代にわたる夫婦の物語でもあります。上の二代は似た者夫婦、中村雅俊と松坂慶子の大らかさに和み、堺雅人と仲間由紀恵の互いを思いやる細やかな心遣い、そして夫が発揮する意外なリーダーシップとそれを支える妻の気働き、「魚心あれば水心」といいたいようなふたりのやり取りが心に染みました。キャストも好演で見応えあり。あっ、忘れてはいけない、草笛光子。おばばさまの存在感も光ってましたね。

(2010.12.18 MOVIXココエあまがさき・3)






ノルウェイの森


性と死をめぐる青春映画−2 / ★★★★


村上春樹はデビュー当時からのファンで、本作の監督のトラン・アン・ユンも撮影監督のリー・ピンビンも好き。ということで、わたくし的には本年最大の期待作。ただ社会現象にもなった「ノルウェイの森」は特に好きな作品ではなく、出版当時に一度読んだきりです。映画を単体として楽しむべく、あえて原作を読み返さずに鑑賞しました。

やはり撮影が素晴らしいですね。後半の自然を捉えた圧倒的に美しい映像はいうまでもなく、室内シーンの心地よさがやっぱりリー・ピンビン! と、最初のうちは感心しながら観ていたのですが、そのうち物語に引き込まれ、徐々に細部も思い出されてきて、先が読めるためにいっそう切なさが強まったりしました。

青春時代の喪失感や今とは違う種類の生き辛さなどが、懐かしい時代背景とともに描き出され涙々。その懐かしさは、実は現実そのままではないのかもしれないけれど、映画作品としては、だからこそ楽しめるといった感じ。外国人スタッフによる異化効果が面白かったと思います。

しかし、不満点もなきにしもあらず。人間の記憶というものは勝手なもので、ワタナベと直子の人物像はおぼろ気になっているのに、緑とレイコさんの印象は今でもくっきり、私なりのイメージが残っていたため違和感を覚えました。緑はもっとボーイッシュで活力にあふれた女の子、レイコさんももっと中性的な感じだったと思います。特に緑は本作の要ともなる登場人物であり、この不満はかなり大きいかも・・・・。

PS 余談ですが、村上春樹の最新作「1Q84」、わたくし的にはイマイチだったのですが、それでも登場人物が魅惑的でした。青豆、ふかえり、タマル・・・・、もう顔かたちまでイメージが固まっています。

(2010.12.15 TOHOシネマズなんば・1)






スプリング・フイーバー


性と死をめぐる青春映画−1 / ★★★★☆


中国で映画製作を禁じられたロウ・イエの最新作。ロウ・イエは「ふたりの人魚」以来で久しぶりです。ゲイの主人公を中心にした5人の男女の群像劇、郁達夫という作家の文章が引用された文学的な趣きのある作品。

文学的であると同時に、きわめて今日的。男同士の恋愛や、それによって崩壊する夫婦関係などが、携帯電話やカラオケやゲイバーといった現代的なアイテムを絡めて描かれており、特に手持ちカメラによる撮影が特徴的。絶えず揺れ動くカメラが登場人物に肉薄し、次々と変わるその対象の生の感情を切り取ります。

題材は特殊ですが、登場人物のそれぞれの感情には共感できるものがあり、ヒリヒリとした渇望感や絶望感、寄る辺ない喪失感や無力感など、社会の表層を漂って行くような感覚が胸に迫ります。

俳優陣が魅力的。特に主人公のジャン・チョン。ヘビースモーカーの役なのですが、その煙草の吸い方や歩き方に見惚れてしまいました。

時折挿入される中国語字幕や、木々の緑や春の雨などの風景描写の効果も大きく、日常生活を捉えた映像から詩情さえ漂ってくるかのような作品でした。

(2010.12.15 シネマート心斎橋・1)






SPACE BATTLESHIP ヤマト


赤い小さなお守り袋 / ★★★★


映画版『宇宙戦艦ヤマト』公開時の大騒ぎはうっすらと記憶していますが、内容は全然知らないまま、予告編でけっこう熱くなれそうと思って観に行きました。

期待通り熱くなれたし、予想外に大泣きでした。アニメチックなヒロイズムや自己犠牲の精神を、実写版で成立させているところはなかなかの健闘ではないでしょうか。その底流に流れているのは、意外や、日本的な情緒。池内博之のおふくろさんのお守りに見られるように、ちょっと浪花節なんですけれど、メイド・イン・ジャパンのSF映画ならこれもありだと思います。

キャストも健闘。キムタクと黒木メイサ、ふたりとも好きなので、年齢差?才の恋に泣かされました。適材適所の脇役陣も安心して観ていられます。

ただ、キムタクはいつものキムタクでしたね。鑑賞後、「余分な演技しなくてもいいのに」とうちの母がツッコんでました(笑)。しかし、キムタクはキムタク。他にこの役をやれる人、ちょっと思いつかないです。

(2010.12.10 TOHOシネマズ伊丹・1)






森崎書店の日々


ちょっと違和感 / ★★★


失恋した女の子が、神保町にある叔父の古本屋に身を寄せ、元気を取り戻してゆく日々を綴った作品。窓辺で本を読む主人公を捉えた温かみのあるシーンや、全体の穏やかな雰囲気に好感を持ちましたが、物語には若干の違和感を感じました。

叔父の姪に対する愛情を理解できないわけではないのですが、あの行動はちょっと「余計なお世話」ではないでしょうか。子供のケンカに親が口を出すような居心地の悪さを感じました。

恋愛の場では、どちらかが一方的に悪者ということはないのでは・・・・。最初のシーンでも分かるように、主人公は相手のことをちゃんと見ていない人。彼の言動もちょっと呆然とするぐらい酷いものでしたが、そういう風にさせたのは主人公かも・・・・。

と、ちょっと冷たく考えてしまうのは、主演女優さんがあまり好きなタイプではなかったからと、自分でも自覚しております(ごめんなさい)。しかし、古本屋の客や喫茶店のバイトくんなど、点描風の周囲のエピソードが楽しめ、特に生き生きとした田中麗奈が印象に残りました。

(2010.12.5 テアトル梅田・2)






行きずりの街


大人のラブストーリー / ★★★☆


ハードボイルド・ミステリーの外見を装いながら、実は大人のラブストーリーでした。中盤あたりの仲村トオルと小西真奈美のラブシーンが濃密かつ切なくて、男の気持ち、女の気持ちに、思わず涙。

仲村トオルが不器用というか、抜けているというか、ちょっと情けない男を好演。同時に男の色気も感じさせて、ちょっとトキメキました。そんな男に対するさまざまな感情の変化を表現する、小西真奈美の表情も見逃せません。

脇役陣も充実。佐藤江梨子や谷村美月も登場する意外な顔ぶれ、ワンシーンだけ登場の江波杏子やARATAを含め、それぞれが適材適所の出過ぎない演技で楽しめます。中でも窪塚洋介が実に面白い役を怪演していて印象に残りました(この人が何か言うたびにフフフ・・・・)。

そんなに複雑な話ではないのに、語り口でややこしくなっている感もあり、少し残念な気もしましたが、登場人物がみんな人間くさいあたりに見応えありでした。

東京の夜景に赤字の英題、白字の邦題が浮き出るタイトルが素敵でした。

(2010.11.23 MOVIXココエあまがさき・3)






義兄弟 SECRET REUNION


感傷的な奴ら / ★★★★


デビュー作『映画は映画だ』が面白かったチャン・フンの第二作。前作では、鬼才キム・ギドク原案の虚実入り乱れる異色の物語を、娯楽映画として成立させている点に感心しましたが、本作も、南北朝鮮の対立を背景とした人間ドラマを、ユーモアもアクションもたっぷりの娯楽映画に仕上げていて楽しめます。

スタンドプレーのあげくに大失敗で国家情報院をリストラされたソン・ガンホ、冷酷になり切れないために北の組織から見放されたカン・ドンウォン、主演のふたりが素晴らしいです。ドンウォンは初めて見ましたが素敵でした。終始シリアスな表情を崩さないストイックな北の工作員、シビレます。ガンホ兄さんはいつものようにコミカルで人間味あふれる愛すべき人物像を見せてくれます。

ベクトルは正反対ながらも、国家の要求よりも人間らしさが過剰だったために切り捨てられたふたりの男。寝食を共にするうちに、互いの足りないところを補うように心が通い始め・・・・。「感傷的な奴らめ」と揶揄されたりもするふたりですが、「それが人間やんか」と私の心の声。硬直した体制より個人の柔軟さに希望を託した物語といったところでしょうか。文字通り寝食を共にする、その生活描写のあれこれが、工作員対情報部員の腹の探り合いともども見応えありでした。

ただ、面白くしすぎて深みがないような気もして、比較すると前作の方が高評価です。80点はちょっとおまけ。

(2010.11.17 シネマート心斎橋・1)






ラスト・ソルジャー


梁衛同舟 / ★★★★


背中に哀愁の師匠役もいいけれど、ジャッキーにはやはりユーモアとアクションがお似合いです。戦国時代の中国を舞台にした時代劇、演出もつなぎもちょっと荒っぽい気もしましたが、軽快でスピーディーで楽しめる作品。上映時間も95分と、大作仕様でだらだらと2時間越えにされるよりはよほど気が利いています。梁国の一兵士が敵方の衛国の将軍を捕虜にし、帰郷の旅で苦難を共にするうちに・・・・。ストーリーも温かくて好感大。

ことあるごとに将軍に「小さい奴め(小人物)」と馬鹿にされるジャッキー。しかしその口癖は「上等だ」。「小人物で上等だ」、「生きてさえいれば上等だ」。無事に帰郷できたら、5畝の畑に何を植えるか夢想して楽しんでいるような好人物は、強欲全開の現代中国へのアンチテーゼでしょうか。それを上から目線の説教としてではなく、楽しく面白く見せてくれるところがジャッキーの真骨頂。画面いっぱいに広がる菜の花ともども胸に染みました。

衛国の馬面の将軍(王力宏)が時々松田優作に見えたり、皇太子が堂本光一に似ていたり、いろいろと楽しかったです。もちろん工夫をこらしたアクションとラストのNG集も楽しめました。

(2010.11.17 TOHOシネマズ梅田・6)






北京の自転車


ささやかな希望、ささやかな欲望 / ★★★★☆


「中国映画の全貌2010」の目玉作品。「幻の名作」という惹句に、最近はとんとご無沙汰の映画館まで遠出しましたが、2000年製作の旧作ながら、今でも全然色あせていない秀作でした。自転車というきわめて映画的な、しかし牧歌的でもある乗物を通して社会を描く、そのアイディアが秀逸です。

中国の急激な経済発展を背景とした都市部と農村部の格差、都市内にも存在する階層や貧富の格差。一台のマウンテンバイクを介して交錯する、宅配便会社に職を得たグイと高校生のジェンの人生がその格差を明らかにしてみせます。一台の自転車が、農村出身のグイにとってはよりよい未来を象徴する希望となり、あまり裕福ではない北京っ子のジェンにとってはガールフレンドの好意や仲間内での地位を勝ち取るための道具、いわば欲望の象徴となります。上の階層の人間からすればささやかとも思えるその希望や欲望が、本人たちにとってはどれほど切実なものであることか・・・・。

ストーリーがとても面白いのですが、何も知らずに観た方が楽しめる作品なので、あまり触れないでおきます。私も内容は何も知らずに、スチル写真から青春ラブストーリーを予想していたのですが、意外な展開に魅了されました。

主人公のふたりが十七歳なので、もちろん青春映画の趣きもあります。ジェンのパートにはガールフレンド(『きみに微笑む雨』の高圓圓)に対する「青春の悶々」が描かれ、グイのパートでは「高嶺の花」の美女(周迅)をめぐる意外な展開が・・・・。

主役のふたりの個性が見どころです。ハンサムなのに朴訥を絵に描いたようなグイ。劇中で何度か「意固地」(『秋菊の物語』みたいにしぶとい、とも)と笑われますが、盗まれた自転車を探して一心不乱のさまは「暴走する朴訥」と形容したいような健気さ。容姿は並、しかしどこか香港ノワールの主人公を思わせる雰囲気のジェン。都会っ子のジェンは無意識にそういうものを模倣する環境にあるということなのでしょうか。とにかく、この子が憂愁の表情を浮かべるたびに、くすぐったいような甘酸っぱいような気持ちになりました。

田舎者のグイが回転ドアに戸惑うようなカルチャーショック的ユーモアも含め、全編にそこはかとないユーモアが漂っているところも面白く、ある意味では人間喜劇と括れる作品。さらに、憧れの自転車で疾走するジェンの高揚感や、入り組んだ胡同での追跡劇の躍動感も楽しく、何よりも中国の現在(2000年当時ではありますが)を活写しているところに見応えあり。10年後の今観ることで、さらに興味が増したようにも思いました。

(2010.11.10 シネヌーヴォ)






マザーウォーター


ゆるやかな共生 / ★★★★


「柳の下の何匹目の泥鰌?」と思いつつも、小林聡美が好きなので観に行きましたが、これはもう「シリーズ」になっているのですね。で、回を重ねるごとに過激さを増している感もあり、わたくし的にはそこが高評価です(『プール』も好きだったし)。

本作もストーリーらしいストーリーがなく、七人の登場人物の背景も語られず、半径1kmぐらいのご近所に、ゆるやかな共生の輪が徐々に形作られる過程をただ追って行くだけの作品。ところが、これが心地よくて見応えありなんです。

このシリーズ全部にいえることですが、人と人の距離感が絶妙。個人的に、日本的な「内か外か」、「0か100か」という人間関係が非常に苦手。顔見知り程度の時には挨拶もちゃんと返さないくせに、ちょっと親しくなるとベタベタとまつわりついてくるような人間関係、ああ、おぞましい(笑)。

適度な距離感を保ちつつ、共感できる時は共感すればよいし、一緒に楽しめる時は楽しめばよい。単身者と赤ん坊から出来上がった、親切を押し売りしないような、しかし温かい人間関係は、これからの生き方のモデルにもなり得るような世界観でした。

いつもと同じ顔ぶれながら、やはりキャストが楽しいです。小林聡美には勝手に共感を抱いている私ですが、今回のセツコさんも他人との距離の取り方が見事。タカコさん、小泉今日子には馴染みが少ないので、ちょっと正体が分からない感じ(もしかしてぶりっ子、笑)。市川実日子、加瀬亮、永山絢斗は見た感じのままですね。若いからそれで当然。年は喰っていても、光石研も多分見たままです。素直な人なんですよ(笑)。で、MVPはやはりもたいまさこかなあ。「伊達に長く生きてないよ」という感じの市井の賢女。「今日も機嫌よくやんなさいよ」、その一言に頬が緩んでしまいました。

ただ、このシリーズの持ち味でもありますが、かなりお洒落。もたいさんの家とかお料理とか、お金かけすぎじゃないですか。食材、あんなに買い込んで、一人暮らしで無駄にしているのではと心配。あっ、残り物はちゃんと下ごしらえして、冷凍庫にストックしているとか。私らは貧乏ヒマなしで、そこまでの余裕はないので、ちょっと羨ましいです。

それにしても、空豆入りのかき揚げがおいしそうでした。でも、油を無駄にしてそうやな(って、しつこいですね。笑)。

(2010.11.8 梅田ガーデンシネマ・1)






冬の小鳥


清冽なリリシズム / ★★★★☆


児童養護施設に預けられた九歳の少女がひとりで立ち向かう絶望と孤独、そしてそれを乗り越えるまでの心の軌跡。大仰なドラマ性を排した淡々とした描写、しかし、そこから自ずとにじみ出す清冽なリリシズムに、心を捉えられ、胸を打たれます。冒頭、1975年という時が明示されるので、原作ものかと思ったのですが、何と、監督自身の「実体験」を基にしているのだそうです。

人里離れた冬の養護施設を舞台に、愛する父に捨てられるという不条理な状態に、突然投げ込まれた幼い少女の怒りや不安が、子供の感情に寄り添うようにリアルに描写されています。子供の気持ちに同化しやすい方は、号泣しないようにご用心。私も危ないところはあったものの、何とか切り抜けたのですが、帰り道、思い出したら、声を上げて泣いていました(人通りが少なくてよかった、笑)。

しかし、それは決して「かわいそうに」という外側から眺めた涙ではないようなのです。自分もその少女になったかのような、内側から湧き出す涙・・・・。

施設の寮生は女の子ばかりで、一番年長らしいソッキが11歳。というのも、そこは一時的な待避所のようなところで、寮生の多くは国際養子縁組によって外国人の養女になるのです。韓国のそんな事情を見聞きするのは初めてで、その是非は別として興味深かったのですが、寮生の中に年頃の娘がひとり混じっているのは、足が悪いためにもらい手がなかったことなども、映画が進むうちに明らかになって行きます。

その娘を演じるのが『グエムル/漢江の怪物』のヒョンソ(ソン・ガンホの娘)だったことにビックリ。彼女も含めてキャストが好演。特に、いたいけな表情、強い光を帯びた瞳など、主人公ジニを演じるキム・セロンが忘れがたい印象を残します。

『冬の小鳥』という邦題も秀逸。春に向けて飛び立つ小鳥のように、幸せになってほしいと願わずにはいられません。同時に、子供が内包する強さにも励まされる一作でした。

PS 児童養護施設はキリスト教の教団が運営し、国際的なネットワークによって養子縁組が行われているようでした。ジニの父がなぜ娘を捨てたのか、多くは語られていませんが、その施設に預ければ、外国人の養女となり高等教育も受けられることをどこかで知り、再婚した妻(ジニにとっては継母)にいじめられるよりは、その方が娘のためになると考えたのかもしれません。自分に都合のよい身勝手な考え方ではありますが、娘の幸せを願っていなかったわけではないと・・・・。

(2010.10.25 梅田ガーデンシネマ・1)






ペルシャ猫を誰も知らない


イランのミュージシャン群像 / ★★★★☆


『亀も空を飛ぶ』で号泣させられたバフマン・ゴバディの新作は、イランの若者たちの音楽への情熱を活写した作品。西洋文化が厳格に規制されているため、自由に音楽活動ができない状況をドキュメンタリータッチで描いています。

主人公はバンドのメンバーを探すミュージシャンのカップルと、ハリウッド映画の海賊版販売から偽造パスポートの手配まで、何でも請け負う便利屋の青年。この三人に導かれて、観客はイランのアンダーグラウンドのミュージックシーンを目撃するという趣向。

地下室、アパート屋上の小部屋、牛小屋、建設現場、あるいは野原など、人目を避けた音楽活動のシーンが面白いです。アパートでは、住人が外出するのを待たなければならなかったり、大家である父親に電気を止められたり、近所の子供に警察に通報されたり、いろいろ大変なんですが、「ひとりで留守番させられたガキが腹立ちまぎれに通報しちゃってさあ」と話すメンバーが何だか楽しげだったりして(笑)。禁止されていることに情熱を傾ける喜びって確かに存在するよねと、こっちも何だかニッコリ。

演奏シーンにコラージュされている映像も見所です。テヘランの街角、男、女、老人、子供・・・・、イランの今を捉えた映像の断片に想像力を刺激されます。

ロック、ヘビメタ、ブルース、ラップ、ワールドミュージックなど、多彩なジャンルにもビックリ。ラップの兄ちゃんが「カッコよく撮ってくれよな」って感じで粋がっているので、私はまたもやニッコリ(しかし、このラッパーは有名な人らしい)。

イランの現状に異議を申し立てている作品でもあり、決して楽しいだけでは終わらないのですが、『亀も空を飛ぶ』とも共通するタフなユーモアに感動させられる一作。便利屋ナデルのキャラも秀逸で、愛をこめて「口から出まかせ王」という尊称を献上したいと思います(笑)。

大きな椅子に2人で座り、くだらない番組をテレビで見るの−−ヒロインの歌う歌詞に胸を突かれました。テレビでくだらない番組を見る自由・・・・。

(2010.10.18 梅田ガーデンシネマ・1)






シングルマン


処女作?! / ★★★★☆


完璧に構築された建造物のような、とても処女作とは思えない作品でした。スタイリッシュな映像、美しい男優陣、瀟洒な衣装や美術、洗練されたセリフ、流麗な音楽など、表層的な部分だけでも充分に楽しめます。

さらに骨格も堅固。ゲイの大学教授のある一日を、彼の心象風景と過去の出来事を交えて描くドラマが、キャストの好演もあいまって見応えたっぷり。序盤はさまざまなイメージの断片に戸惑いますが、現在と過去がないまぜになって進行するうちに、8ヶ月前に最愛のパートナーを事故で失った、主人公の悲しみや虚しさが他人事でなく胸に迫ってきます。

ゲイである主人公は特殊ですが、愛する人を失った喪失感には普遍性があり、深い孤独感の果てに、生きることの輝きが仄見えてくる展開に涙があふれました。その切なさは、主人公の特殊性でさらに強まっているのかもしれません。

主人公と対比されるのが隣家の中産階級一家。1962年という時代背景を考えれば、現在よりもさらに生き辛かったであろう主人公像をより明確にしていると思います。体裁だけを取り繕う妻、小憎らしい息子、ただ、おしゃまな娘には少し気を許しているらしい主人公に頬が緩みます。この少女を捉えたいくつかのショットが奇妙なほどに魅惑的。

それにしても、男と女だったら一瞬で了解できることを、穏やかに緩やかに視線を交わしながら、相手の気持ちをさぐりあうシーンにドキドキ。同時に、そこに存在する温かさに心ひかれたりもして、男たちの微笑が心に残ります。

(2010.10.11 シネリーブル神戸・2)






ナイト・トーキョー・デイ


いろいろと残念 / ★★★☆


東京を舞台に、孤独な女殺し屋の恋を、録音技師のモノローグで綴った作品です。築地、ラーメン博物館、花やしき、カラオケ、ラブホテルなど、いかにも不思議の国日本といった描写や、殺し屋が標的であるスペイン人男性と恋に落ちるというストーリーが、陳腐といえば陳腐ですが、奇妙な味わいに捨て難いものがあります。

わたくし的には、ウォン・カーワイの『天使の涙』やホウ・シャオシェンの『珈琲時光』を思い出したりして、けっこう好みの作品でした。異国人の目が捉えた東京の情景が魅惑的。既成の曲が使用されている音楽も楽しめます。「ラ・ヴィ・アン・ローズ」がとても味わいがあると思ったら、美空ひばりだったりして。

と、映像と音が命の作品なのに、押尾学の出演シーンをカットした関係か、プロジェクター上映だったのが残念。劇場ロビーに掲示してあったスチル写真がうっとりするほど美しかったので、ぜひともフィルム上映で観たかったところです。

娘に自殺された会社社長、その男性秘書、娘の夫であるスペイン人男性、彼らのすべてが心の中に不在者への愛を抱き、映画全体もまた不在者へのラブレターになっているような・・・・。

菊地凛子が好演、大きく見開かれた瞳に魅せられます。官能的なセックスシーンと少女のような声、そのアンバランスにちょっとヤラれました。録音技師を演じる田中泯もいい味を出していて、そのモノローグにしびれます。ただ、スペイン人男性に魅力を感じなかったので、凛子が突然恋に落ちる展開に共感できず、これも残念でした。

(2010.10.10 シネリーブル梅田・2)






十三人の刺客


お命頂戴つかまつる / ★★★★


単純明快な娯楽時代劇、三池監督らしいグロ描写やナンセンスな笑いも散りばめられてはおりますが、幸か不幸か工藤栄一のオリジナルも未見のため、面白く観ることができました。暴君討つべしの証拠固め、刺客集め、木曽路の密名行、そして落合宿での決戦という四部構成。

第一部、暴君の悪行の数々に観客の心も一となり、第二部、刺客として加わる男たちの顔ぶれにワクワク。室内の暗いシーンが続いたそのあと、山間の緑や幽玄な沼など、自然を捉えた美しい映像に目を奪われ、そしていよいよ最後の死闘。

ラスト50分も長さは感じませんでした。飽きそうになると、ドッカーンと次の趣向が始まり、肉弾相打つ男たちの奮闘にやはりワクワク。伊原剛志とそのお弟子さんが大活躍でしたが、しかしそこにはまた悲惨さも滲んで・・・・。それまで目立たなかったキャストにも、この50分の中でそれぞれに見せ場があり、特に高岡蒼甫の笑顔が忘れがたい印象を残します。そして暴君にも一分の理。

セリフはオリジナルと同じなのでしょうか。「天下万民のため」、「迎え火を焚いてくれ」、「もうすぐそちらに行くぞ」など、名セリフの数々にしびれっぱなし。無為の人生を送る若者が不意に手にする大義のために命を賭ける誇り、敵味方となって対峙する無二の親友たちの葛藤、敵方の重臣の本音と建前の相克など、現代の観客にも共感できるものがありますが、それをくどくどと説明することなく、的確なセリフで決めるところに一種の様式美を感じました。

豪華なキャストが好演。東映、歌舞伎、ミュージカル、そしてジャニーズなど、出自は違っても、日本の役者さんには侍が似合うと再認識。全体のアンサンブルもよかったと思います。あっ、悪目立ちしていた人が約一名。賛否の分かれそうなところですが、私は嫌いじゃなかったです(笑)。

PS ロケ地は庄内ということで、思い出したのが『座頭市 THE LAST』。あれもヘタにラブストーリーにするより、痛快なチャンバラ映画にしたらよかったのに。阪本監督のリベンジを期待します。

(2010.9.29 TOHOシネマズ伊丹・3)






セラフィーヌの庭


天使の物欲 / ★★★★


フランスの実在の女性画家セラフィーヌ・ルイを描いた作品。貧しい生活の中で絵を描いていた彼女は、ドイツ人の画商ウーデに才能を見出されますが、第一次大戦や大恐慌のために世に出ることが叶わず、社会的に認められたのはその死後。私も今までセラフィーヌのことを知らなかったので、その生涯や人となりなど、とても興味深い作品でした。

家政婦や洗濯女として働いても食べて行くのがやっとの生活、教会の聖油をくすねたり、臓物の血液や泥など、手に入る物で手製の絵の具を作り、それで木切れに描く。その絵は果物や木の葉などの自然がモチーフ。まず私の心を捉えたのは、木に登り風に吹かれていたり、梢の間にきらめく陽光を眺めていたり、自然と語らっているかのような彼女の姿でした。

聖歌を歌いながら、上から降りてきたインスピレーションに従って絵筆を動かす。天使のお告げで絵を描き始めたという彼女は、正常と異常のあいだにいる境界人という印象を受けますが、それだけにその無垢な魂に魅せられたりもします。

第一次大戦後のウーデとの再会により、金銭的な援助を受けるようになった彼女は、今まで手にすることのなかった物質的な豊かさを手に入れることになりますが、その物欲はその無垢な魂にふさわしく無邪気なまでに際限がなく・・・・。

そこには原始の心を近代が侵食して行くような痛ましさが感じられ、豊富な物質に囲まれている私たちは、最初から何かを失っているのではないかといった感慨を覚えたりもしました。

しかし、本質的には常に自然と語らう人であったセラフィーヌ。素朴派に分類されるその作品が劇中でも紹介されていますが、2メートルのキャンバスに描かれた樹木の絵画に圧倒されます。

(2010.9.27 梅田ガーデンシネマ・1)






瞳の奥の秘密


情熱の諸相 / ★★★★


あちこちで評判がよいので観に行きましたが、観る予定のなかった作品で前情報はほとんどなし。最初のうち、舞台はスペインだと思っていて、ブエノスアイレスでアルゼンチンと気がついたウッカリ者です。

巧妙に伏線の張られたミステリー映画で、同時にラブストーリーでもあり、とても見応えがあります。定年退職した元検事が25年前の事件を小説にする過程で、過去の秘密が明らかになって行くというストーリーに思わず引き込まれました。

印象に残る登場人物ばかりで、そこも面白いのですが、特に気に入ったのは主人公ベンハミンの同僚パブロ。アル中気味ながらも何とも愉快な男で、ベンハミンとパブロで凸凹コンビといったところ。容疑者の実家にふたりで忍び込むシーンのユーモア描写に思わず吹き出したりもしましたが、ふたりの間に交わされる男の友情も胸にしみます。

暴行殺人事件を扱っているので、かなり陰惨なところもある作品。しかし、それもある意味では人間性の発露であり、さまざまな姿を取って現れる情熱の諸相に圧倒されます。

犯人が自白するところや、サッカー場での追跡劇など、びっくりするシーンもいくつか。ちょっと混乱したのは、劇中で引用されるテレビ番組。「三バカ大将」とか「ナポレオン・ソロ」とか、私も見ていた番組ですが、日本ではもっと前、60年代後半に放送されていた記憶があります(アルゼンチンでは人気があってしつこく再放送されていたのかな)。

(2010.9.22 シネリーブル梅田・2)






悪人


期待はずれ / ★★★


馬鹿女が軽薄男に車から放り出されたことを発端に、現代日本の地方都市の不幸や悲惨や孤独やその他もろもろの暗部がテンコ盛り。六人の主要登場人物のやりきれないエピソードが延々と140分間。

確かに力作であることは認めますが、ちょっと力入りすぎではないでしょうか。すべての出来事が同じ比重で並列され、ちょっと平板な印象。原作は未読ですが、原作の内容を取捨選択して、結局そのダイジェストになってしまっているのではないかと思います。

個々の出来事にはインパクトがあるので、胸を突かれるところもありましたが、全体としての感銘がいまひとつ。主人公ふたりの心情を描き切れていないのが、その一因かと。

祐一の殺人にしても、ふたりの馴れ初めにしても、ちょっと納得行きませんでした。「そんなことで人を殺す!?」とか、「そんな男とすぐにホテルへ!?」とか、心の中で独り言をぶつぶつ・・・・。

真摯な社会派作品でもあり、あまり貶したくはないのですが、わたくし的には映画的な感興をあまり覚えない作品でした。

(2010.9.20 MOVIXココエあまがさき・7)






ベスト・キッド


物極必反 / ★★★☆


ジャッキー・チェンは好きですが、アメリカ映画の場合は好みに合わないこともあるので観たり観なかったり。本作も140分という上映時間で迷っていたのですが、舞台は中国だし評判がよいしで、やっと重い腰を上げました。

型通りのストーリーですが、ツボを押さえた演出で楽しめます。ただ、やはり上映時間は長過ぎると思いました。途中でアクビが・・・・。しかし、終盤のトーナメントで眠気が吹っ飛びます。子供たちが大奮闘で迫力満点。最後はもちろん涙でした。

子供たちの演技も見応えあり。主役のジェイデン・スミスも敵役の中国人少年も素晴らしかったです。女の子、最初は微妙な気もしましたが、見ているうちに味が出てきたので、スルメ少女と呼びましょうかね(笑)。

ジャッキーも渋くてよかったけれど、本音をいえば、アクションやユーモアをもっと見せて欲しかったです。

見出しの「物極必反(wu ji bi fan)」はジャッキーが口にしていた成語で、「すべて物事は極点に達すれば必ず逆の方向に動く時が来る」という意味。家に帰ってから中日辞典を引きました。ご参考までに。

(2010.9.14 TOHOシネマズ伊丹・6)






シルビアのいる街で


妄想男 / ★★★★


6年前に出会った女性を求めてフランスの古都ストラスブールを訪れた青年の数日を描く本作、ストーリー性の希薄な映像詩のような作品でした。夏の陽光の中に捉えられる、古都の美しい街並み、近代的な路面電車が走る大通り、生活感のある道など、その映像が魅惑的です。

カフェでビールを飲みながら、そこに居合わせる客たちを眺める青年。男、女、その顔や表情、髪やうなじ・・・・。ちょっと粗忽なウエイトレスやアフリカ系の物売りが行き来するその場面に、突然挿入される音楽。それは劇伴ではなく、大道芸人の女性ふたりが奏でるバイオリンの音。といった風に、現実音が印象的に捉えられています。

明確なストーリーはないので、解釈は観客の思いのまま。鑑賞後、映画のシーンを思い巡らしていると、頭の中に浮かんできたのが「妄想男」という言葉。

彼の捜し求めるシルビアは、彼が出合った女性が原型ではあるが、その実体が6年という時間と彼の観念というフィルターを通して純化された永遠の女性像なのではないか。つまり、彼女は彼の観念の中にだけ存在するイメージであり、見方を変えれば、妄想のようなもの。

しかし、それはまた恋愛の本質の一面を表してもいるような。つまり、私たちが愛するのは彼、あるいは彼女の実体そのものではなく、実体プラス自分の望むイメージ。

と、観客である私もあれこれと妄想を巡らしたくなる(笑)興味深い作品でした。主人公がシルビアと思しき女性のあとをつけて彷徨う街、同じ場所や通り、同じ人たちが何度も現れるので、自分もそこにいるような感覚を覚えたりもしました。

(2010.9.12 第七藝術劇場)






オカンの嫁入り


家族の時間 / ★★★★


『オカンの嫁入り』というタイトルや15才年下の恋人という設定から、ノーテンキな母に振り回される娘を描いたコメディと思ったのですが、いい意味で予想を裏切る作品、描かれているのは、何気ないように見えて、実はかけがえのない時間の愛おしさなのでした。

父を早くに亡くした母娘ふたりきりの生活に闖入してきた青年。金髪のリーゼントに赤いブルゾンという、その風体からして異物的な母の恋人に猛反発する娘。前半はまさにコメディ風味ですが、実は母、娘、青年、三人それぞれが訳ありの人たち。その三者三様の事情が有機的に絡まって行く後半は大泣きでした。

実力派ぞろいのキャストが素晴らしいです。母娘と家族同然の町医者と大家さんが國村隼と絵沢萌子、そして母の恋人が桐谷健太。脇を固める三人は関西出身者ということで本場ものの関西弁が楽しく、主演の宮崎あおいと大竹しのぶには関西訛りの標準語程度に留めたところが好感大。大阪らしさを出そうとして、かえって違和感を感じさせる作品が多い中、その自然な空気感がとても心地よかったのです。

大阪の空気感も秀逸です。舞台は京阪沿線、大阪と京都の間にあるちょっと昭和にタイムスリップしたような人情味のある町の風情が懐かしくてほのぼの。ふたりが暮らす縁側のある日本家屋も見ものです。

大泣きと書きましたが、決してお涙頂戴ものではありません。どちらかというと抑制気味の演出で見せる、母と娘の情愛や、ふたりを取り巻く人々の人情の機微、その細やかな描写にとても共感できる作品でした。

(2010.9.9 MOVIXココエあまがさき・7)






カラフル


思春期の心の軌跡 / ★★★★


生前犯した罪のために霊界をさ迷っている魂に与えられたラストチャンスは、自殺した少年の肉体へのホームステイ。それは自分の罪を認識するための、地獄巡りならぬ日常生活の冒険。いじめ、親の不倫、級友の援助交際など、生き辛い世界を生きる少年の心のゆらめきとその成長を、何気ない日常描写を積み重ねて描いた、真摯で温かい作品でした。

プラプラと早乙女君、とても魅力的なキャラが登場します。大阪弁の天使(らしき者)といえば、『東京上空いらっしゃいませ』の鶴瓶師匠を思い出したりするのですが、このプラプラは青い目をした小学生。生意気だけど何ともキュートで一目で好きになりました。そして主人公の親友となる早乙女君、最初のシーンから心和む笑顔で登場してましたよね。ふたつに分けた肉まんの大きい方を差し出す友、あのシーンから泣けてしまいました。

早乙女君とふたりで訪ねる玉電の跡地巡り、そして人の好い父親と出かける渓谷へのドライブ、ふたつの移動シーンが美しい風景描写も含めて心に染み入ります。

ひろかちゃんとの逃亡シーンは音楽が印象的。主人公のドキドキと高揚が伝わってくるような・・・・。ひろかちゃんは最後まで好きになれなかったけれど、床に落ちた黒い絵の具にはやはり胸を突かれます。

それでも世界は生きるに値するところ、生きるということは素晴らしいこと。ポジティブなメッセージがしっかりと心に届きました。

(2010.9.1 TOHOシネマズ梅田・10)






トイレット


前作の9掛け / ★★★☆


相変わらずふんわかと温かい荻上ワールド、十分に心地よい時間を過ごしましたが、『かもめ食堂』から『めがね』、そして本作と似た題材の作品が続き、この三部作における感動(共感)は、わたくし的には「前作×0.9」ぐらいで減少している感じです。

前半のモーリーがミシンを見つけるエピソード(足踏式シンガーミシン!)などは思わずニッコリで好きだったのですが、後半は正直、予想通りの展開、オチも含めて全然意外性がなかったような・・・・。

とはいっても、もたいさんをはじめとする登場人物が荻上さんらしくて楽しめ、風格のある猫ちゃんが最高でした。

(2010.8.31 MOVIXココエあまがさき・8)






ハナミズキ


お目当ては生田斗真 / ★★★☆


テレビ局製作の泣かせ系映画、普通なら敬遠です。生田斗真が好きなので鑑賞しましたが、キャストの演技と撮影が素晴らしく、予想以上に楽しめました。

北海道、東京、ニューヨーク、カナダを舞台にした十年愛。特に序盤の北海道の美しい四季を背景にしたなれそめ編が甘酸っぱくて愛おしい(年がいもなく胸キュンキュン、笑)。そのあと、さまざまな出来事に翻弄されるふたりが、いわば一生懸命に生きることですれ違って行くのが切なく、生田斗真と新垣結衣のその瞬間、瞬間における瑞々しい感情表現に少なからず共感。

と、見応えたっぷりだったのですが、友人の結婚披露パーティで再会するシーンで、ある香港映画を思い出しました。その後の展開もその映画に似ているような・・・・。同時にそれが、結末に向けて障害を取り除いて行く段取り仕事に見えてしまったのが残念でした。

漁業の衰退や就職難などの社会問題、9.11からイラク戦争といった世界情勢を取り入れているところは二重丸。若い知人の中に、卒業時期が悪くて正社員になれなかった女性や海外に職を求めた女性がいたりしたので、特に紗枝の物語には他人事でなく身につまされるものがありました。そんな生き辛い世の中で信じられるものは・・・・。

素朴で純な青年に意外やぴったりはまった生田斗真、夢に向って頑張る女の子の十年の成長を体現した新垣結衣、このふたりだけでも一見の価値あり。さらに薬師丸ひろ子や松重豊のベテラン勢はもちろん、向井理や蓮佛美紗子も好演。ワンシーンだけ登場のARATAも強い印象を残します。

(2010.8.26 TOHOシネマズ伊丹・4)






太陽がいっぱい


ドロンにとろける。 / ★★★★☆


暑いから映画館に涼みに行こうと思っても、観たい映画がなかったりして。「午前十時の映画祭」、今週は『太陽がいっぱい』だって。そういえば、お母さん、アラン・ドロンが好きだったね。

というわけで、「午前十時の映画祭」に母と初参加。もちろんテレビでは見たことがあり、ストーリーの分かっているサスペンス映画、それほど期待していなかったのですが、いゃあ、堪能しました。

今では古典と呼んでもよい作品、もっと古臭く感じるかと思ったのですが、奇を衒うことのない端正な演出が見応えあり。丹念な心理描写に思わず主人公に感情移入させられ、ドキドキのシーンでは何度か息をのみました。

完全犯罪を目論む貧乏青年の野望、その題材自体も魅惑的ですが、演じるドロンが超・超・超魅惑的。子供心では感受できなかったその魅力に翻弄され、今回は完全に魅了されました(『冒険者たち』のドロンは好きだったのですが、それとは全然別もの。鋭利なナイフのような美貌が大画面で・・・・)。

哀愁のにじむテーマ曲はあまりにも有名ですが、ニーノ・ロータだったんだ。撮影はアンリ・ドカエ、荒れる海に浮かぶヨットでの迫真のシーン、あるいは魚市場をぶらつくドロンを捉えたシーンなど、ドキュメンタリー風の映像が印象に残ります。

イタリアの青い海と空もこの季節にぴったりで大満足でした。

(2010.8.22 TOHOシネマズ西宮OS・1)






闇の列車、光の旅


親身になれない−2 / ★★☆


『セントラル・ステーション』の頃から、中南米の映画は苦手です。命の重さ(軽さ)が自分の価値観と異なり、観ていてどうにも居心地が悪いのです。本作も観るつもりはなかったのですが、他に観たい作品がなかったので、つい・・・・。

冒頭から簡単に人を殺す描写があって、また気分が悪くなりました。香港映画や韓国映画の過激なヴァイオレンスは平気なのに、勝手かもしれませんけど、現実を反映しているかのようなリアルな感触が体にこたえます。ちょっと貧血気味になってしまい、身が入りませんでした。

集中してなかったので、あまり偉そうなことはいえませんが、けっこう図式的なストーリーのようにも思えました。ヒロインの行動は意外だったのですが、自分ならそうはしないという意味で意外だったので、そこはビックリ。しかしそこからラストまでの終盤はほとんど予想通りの展開でした。

ただ列車から風景を捉えた映像は美しかったです。

(2010.8.18 シネリーブル梅田・2)






告白


親身になれない−1 / ★★


かなり前に観ました。好みに合わなかったので、感想を書くつもりはなかったのですが、本年度最大の問題作らしいので、メモだけ残しておきます。

中島監督の作品は『下妻物語』と『嫌われ松子』しか観ていません。『下妻』はとても好きでしたが、『嫌われ』は観ている間は面白いようにも思えたのですが、何日かしたら「あんなのは映画じゃない」という気になってきました。あざとすぎる。というわけで、本作も観るつもりはなかったのですが、あまりにも世間の評価が高いのでつい観に行ってしまいました。

でもやっぱり楽しめませんでした。あざとい作風は相変わらずで、全然ノレなかったし、さらに登場人物がエゴの肥大した人間ばかりで共感度ゼロ。心の中で悪態をつきながら帰りました。

何を訴えたいのかもよく分かりませんでした。「真の教育うんぬん」(冗談はよしこさん、笑)とかブラックコメディ(そう思えないこともないが、それなら、松たか子の最後の台詞を志村けん風に言って欲しかったな、笑)とか、いろいろ言われていますが、ただ単に、ショッキングな題材をどこまでスタイリッシュに料理できるかが眼目だったのでは、と邪推したりして・・・・。とにかく、わたくし的にはどうでもいい映画でした。

(2010.6.20 MOVIXココエあまがさき・6)






ちょんまげぷりん


時を翔るお侍 / ★★★☆


ほんわか、ほのぼの、楽しめる作品、ジェイ・ストーム製作配給のアイドル映画がなかなかの健闘でした。

180年前から現代へタイムスリップしてきたお侍が乱れた世の中に物申す。その言葉のひとつひとつが正論で、思わず頷いてしまいます。居候させてもらう代わりに奥向きの用一切をお引き受け申す、その律儀さも気持ちよく、家事をキチンとこなして行くその清々しさが二重丸。

欲をいえば、資源ゴミの分別も加えてほしかった。というのは、空き瓶の回収日に掃除当番だった時、使いかけのラー油の瓶がそのまま出してあって・・・・。そういう不埒者を一喝するシーンが見たかったです(笑)。

錦戸亮がそのお侍を好演。ピンと伸びた背筋が気持ちいい。中村監督の誠実で温かみのある演出も、まさに手作りプリンの味わいですが、わたくし的にはちょっとあっさり味だった気もします。しかし、中村監督のおかげで客層が広がったのは確実です(チケットを買う時、となりの中年オヤジが不機嫌そうな小声で「ちょんまげ」。笑)。

原作者の荒木源は主夫作家で、本作のアイディアは、当時流行していた「ギター侍」にインスパイアされたとか。波田陽区、この頃見かけないのが残念!(けっこう好きだったのに)。

(2010.8.9 梅田ガーデンシネマ・2)






祝(ほうり)の島


28年間の原発反対運動 / ★★★★


瀬戸内海に浮かぶ祝島。海を隔てた対岸の長島に、原子力発電所を建設する計画が持ち上がった1982年から28年間、この島では原発反対運動が続いていますが、本作はその反対派の人々を追ったドキュメンタリーです。実は母親の故郷の近くということで、一緒に観に行きましたが、わたくしたち的には言葉や風景だけでも懐かしく、一見の価値あり。しかし、他にもいろいろ見所のある作品でした。

祝島には猫が多く、岩合光昭さんがここで撮影した猫写真が雑誌に載ったこともあり、猫好きの間では知っている人も多いはず。本作でも二ヶ所、猫のシーンがありましたが、隣席のお母さん、思わず「大きな猫」。ちょっとヒヤッとしましたが、スクリーンに向って声をかけたくなる気持ちは分からないでもない。観客をくつろがせるような、インティメートな雰囲気のある作品だったのです。

小学校の入学式や神舞祭など、ハレのシーンを挿みながら、農業や漁業で暮らしを立てている住民の日常が淡々と捉えられているのですが、高齢者の多いその人々の素朴な風情、どことなくユーモラスな会話などが魅力的。四人の独居老人がひとつのコタツを囲み、紅白歌合戦で年を越す情景などはほのぼのします(実は大晦日だけではなく、その家では毎晩お茶会です、笑)。

その暮らしぶりや、「今までも海や山の恵みで暮らしてきたのだから、子孫にそれを残さねばならない」という言葉、あるいは美しい海や山の風景そのものから、都会の利便性のために、そこに原発を建てることの理不尽さが浮かび上がってきます。

反対運動を捉えた映像にも、デモ行進に混じる犬(はち巻をしていたような)や、反対派主催のライブに飛び入りするひょうきんな女漁師さんの姿など、思わず笑ってしまうシーンもありましたが、基礎工事の着工を実力で阻止しようと海に居並ぶ漁船の群れとコンクリートの塊の対照はやはり衝撃的。

作品の中で、原発反対を声高に主張するわけではないのですが、それが反って効果的だったと思います。

(2010.8.5 第七藝術劇場)






川の底からこんにちは


足で電灯を消す女 / ★★★★


笑って、泣いて、元気のもらえる一作、とても楽しめました。

オープニングの腸内洗浄士とのやりとりや派遣OLトリオの会話が漫才みたいで、笑いのツボをくすぐられ忍び笑いの連続。さらに真打・健一の登場で、ついにタガが外れて笑い声が。その可笑し味がまさに好みでした。

ところが、加代子(子役さん、好演)の「大丈夫?」という一言から、今度は涙が。黄色い花の一輪挿しとかメガネおばさんの抱擁とか、泣きのツボ直撃です。特に佐和子と加代子の連帯には涙しながら、思わず心の中で「がんばれ、サワカヨ」と声援を送ってしまいました(ついでに「がんぱれ、自分」)。

問題は健一。もう笑ってしまうようなダメ男です。でも、妙に憎めなかった(容姿が好みかも)ので、健一もがんばれ(笑)。健一だけではなく、お父さんもシジミ漁師さんも、男はみんなダメ男。それを肯定するようなシジミ漁師さんのセリフもありましたが、そこは言わぬが花ではないでしょうか。ですので、ダイオキシン調査の女子大生のエピソードは不要な気がしました。

しかし、オフビートな独特のテイストがわたくし好みで、ちょっと山下敦弘の『松ヶ根乱射事件』を思い出したりもしましたが、女性が主人公の分ポジティブで、そのあたりも気持ちがよかったです。

足で電灯を消していた女が、立って消した方が早いと気づく物語、かな!?

(2010.7.29 梅田ガーデンシネマ・2)






借りぐらしのアリエッティ


夏時間の庭の初恋物語 / ★★★★


小品ですが、とても愛おしい珠玉作。イギリスの児童文学を日本に置き換えた本作、その美しい自然描写にまず目を奪われます。

舞台となるのは古いお屋敷の広大な庭。季節は夏。陽光に包まれた庭に咲き乱れる花や草、そして雨や風など、繊細な描写に心ひかれます。身長10cmの小人さんの目で見る世界は、見慣れているはずの蔦の葉や朝露もきらめくばかりに鮮やか。

狩りぐらしでもなく、仮りぐらしでもなく、借りぐらし。必要な物をほんの少しだけ借りてきて、工夫をこらしながらささやかな幸せを紡ぎ出す、小さな家族の堅実な生活。厳しくも穏やかな父と、働き者の優しい母と、14歳の少女アリエッティ。勇敢で凛々しい少女の勝負服は赤! その冒険の日々に心躍ります。

借りて来るといっても、返してはくれないみたい(笑)。でも、別にいいじゃないですか。小さな持たざる者たちを優しく抱きとめるような世界、映画の中にはあってもいい。そして実は私も、資本主義社会の片隅に寄生しているような存在でありますから、そのつましい生活に共感せずにはいられません。

そして何よりも本作は、「ボーイ・ミーツ・ガール」の初恋物語。病弱な少年の想いが導いた、異なる世界に住むふたりの出会い。お手紙つきの届け物、網戸越しのシルエットなど、印象的なシーンがいっぱいです。しかし、千尋と白が結ばれないように、アリエッテイと翔もまた、最初から結ばれるはずのない運命(さだめ)。その切ない初恋に乙女心が波立ちました。

音楽も素敵。ちょっとバロック風にも思えたのですが、ケルト音楽とのこと。ひそやかで親密なこの世界観にぴったりの音楽でした。

(2010.7.26 TOHOシネマズ伊丹・3)






キッズ・リターン


悪ガキどもが夢の跡 / ★★★★☆


北野作品の中でもマイベスト3に入る本作、某ミニシアターの20周年フェスティバルで上映されたので、久しぶりに再見しました。

96年作品。フィルムに雨が降ってるところもあって、時の流れを感じます。オフィス北野の「K」のロゴもなし。あのロゴはどの作品からつくようになったのでしょう。と、ちょっとフィルモグラフィーを眺めてみると、『あの夏、いちばん静かな海。』が三作目で、そのあとが『ソナチネ』。『みんな〜やってるか!』をはさんで六作目が本作。『みんな〜』を除いた三本が、実はマイベスト3。『みんな〜』はあまりにもくだらなくて脱力しましたが、私の記憶が正しければ今は亡き淀川長治さんが褒めてらしたんですよね。最近の『監督・ばんざい!』がけっこう楽しめたので、見直したら楽しめるかもと思ったりもするが、見直す気はない(笑)。

雑談はこれぐらいにして、本作の話。悪ガキたちの栄光と挫折を描き、笑って泣いて、また感動してしまいました。何がいいって、冒頭の自転車のシーンひとつとっても「これぞ映画!」って感じです。この自転車やランニングのシーンなど、運動の反復、あるいはエピソードの反復でストーリーを成立させ、無駄な説明を省いた展開。時折挿入される脇役たちのシーンや無人の風景などが、また絶妙の間合い。ハードボイルドな描写からリリシズムが滲み出す青春映画、やっぱり大好きでした。

主演のふたりも好演ですが、端役までぴったりのキャストが印象的。モロ師岡はこの作品で初めて意識したと記憶していますが、悪意の塊のようなあの役、怖かったなあ。下條正巳も、当時、話題になりましたが、『ソナチネ』の南方英二(合掌)とか、北野映画の意表をついた配役は面白いですよね。

一番でないと気がすまないマーちゃん、その後をついて回るシンジ、その他の悪ガキ群像、いろいろと共感するところがありましたが、いちばん共感するのは窓際の生徒たち。私も高校時代、あんな風に外を眺めていたものです(笑)。

(2010.7.20 テアトル梅田・1)






エレクション 死の報復(エレクション2)


和を以って貴しと為す / ★★★★


2007年に公開された『エレクション』の続編。首を長くして待っていた一般公開はなしとのことで、レンタルDVDで鑑賞しました(タイトルは『エレクション 死の報復』)。

前作から二年後、会長ロクの任期切れが近づき、新しい会長の選挙戦が始まろうとする頃。権力の座に恋々と執着するロクの画策、次期会長を狙うロクの手下の面々など、前作でもお馴染みの顔ぶれが権力闘争を展開します。

衆目の一致する会長候補は中国本土で大金を稼いだジミーなのですが、彼の野望は実業家として成功を収めヤクザから足を洗うことで、会長選には目もくれません。長老からは「金儲けにしか興味がないのか。組織はどうなってもいいのか」と詰られるのですが、その言葉通りであるところがニュータイプ、とても興味深いです。

しかし、仲間のトラブルの巻き添えで一大計画が頓挫し、その再開のために会長になることが必須条件になったところから、抗争は血みどろの様相を呈し始め、しだいに人間性を喪失してゆくジミー・・・・。

比較するとレオン・カーファイとサイモン・ヤムの演技合戦が見ものだった前作のほうが評価は高いのですが、前作ではその他大勢の位置づけだったロクの手下のキャラがより鮮明になるあたりに見応えあり。単純な実働部隊といった感じのラム・カートンがやる気満々(会長の器じゃないよ、笑)、ロクに美味しいことを言われて殺しばかりやらされている、まるで「人斬り以蔵」のようなニック・チョン(昔気質のところ、私はけっこう好き)。ロクの弱虫の息子も小林亜星似の長老も登場しますが、そのシーンが・・・・。新らしいキャラでは拝金主義者の雇われ用心棒が面白いです。「追加料金くれたら」が口癖(笑)。しかし、功夫の素養があるようでその立ち回りには見惚れました。

前作でも時代の変化がひとつのテーマになっていましたが、本作ではそれがより鮮明になり、中国の影響がはっきり描かれているところが特長です。

上映時間は約90分、その中味の濃い緊張感あふれる展開に引き込まれますが、家で観るには凄惨すぎて(笑いの要素は前作よりもさらに希薄)、映画館の暗闇で堪能したかったと、返す返すも残念でした。

(2010.7.11 レンタルDVD)






スリ(文雀)


香港の街も主役 / ★★★★


2008年東京フィルメックスで上映されたジョニー・トー作品。一般公開はないとのことでレンタルDVDで鑑賞しました(タイトルは『スリ』)。

特典映像の監督インタビューによると、『シェルブールの雨傘』が好きで、ミュージカルが撮りたかったのだけれど、予算の関係で無理だったとのこと。というわけで、全編に軽快な音楽が流れるミュージカル風の作品になっています。音楽担当はフランス人なのですが、非中華圏の人による中華風メロディは細野晴臣の『泰安洋行』などを思い出させて、わたくし的にはとても和めました。

四人組のスリに謎の美女が絡むストーリーですが、例によって序盤は話が見えません。しかし気にしないで、毎朝同じ食堂に集合しては街に繰り出す四人の仕事ぶり(ワンカットで見せます)や、重そうなバーキンバッグを提げてハイヒールで逃げ回る美女の姿を楽しんでいればいいです。その逃げ回る街の風景、あるいはスリのリーダー(カメラが趣味)が撮影する街の人々や建物などが見もの。監督によると、香港の街から消えて行こうとしているものを映画の中に残しておきたかったそうで、街も主役になっています。

トー作品にしては珍しく誰も死なない(怪我はします、笑)小粋なコメディ。四人の男のひとりひとりに近づく謎の美女。これは絶対何か裏があると思うわけですが、みんな馬鹿で鼻の下を伸ばすんです(笑)。馬鹿だけど愛おしい野郎ども、トー作品にはお馴染みのキャラが男気を見せてくれる愛すべき作品。四人で一台の自転車に乗るシーンが可愛かったです(自転車、何台も駄目にしたとか、笑)。

PS1 美女は大陸出身という設定で北京語を話しますが、何分「謎の女」なので多くは語りません。中国語初級程度のフレーズばかりで、ヒアリングの勉強に最適かも。

PS2 『シェルブールの雨傘』は私の母の生涯ベストワンで、去年のリバイバル上映もふたりで観に行ったのですが、子供の頃に観た時はそれほど印象に残らなかった作品に去年は大感激しました。

(2010.7.11 レンタルDVD)






こまどり姉妹がやって来る ヤァ! ヤァ! ヤァ!


Hard days を乗り越えて / ★★★★☆


昭和13年生まれの現役デュオ、70歳を越えた今も舞台に立つこまどり姉妹を追ったドキュメンタリー。「一部で話題沸騰」の本作がやっと大阪へ回って来ましたが、その辺の事情も知らないで、のんびり日曜のモーニングショーに出かけたら、整理番号が79番でビックリ。結局、立見も出る盛況でしたが、20代の若者からご老人まで、観客の幅広い年齢層が印象的でした。

戦後、樺太から引き揚げてきた一家の貧困、その生活のために始めた歌が、ついには明日への希望となった現在まで、本人たちの話と資料映像で綴られるその半生は、幾多の苦難に満ちていても自己憐憫とはまったく無縁、どこまでも清々しくて引き込まれます。

北海道から東京へ、流しから売れっ子歌手へ、頂点からどん底へ、歳月の重みとしかしそれに負けないポジティブな生き方は、同時に昭和という時代を浮き彫りにし、さまざまな感慨に思わず涙の場面もありました。

おふたりがとてもチャーミングです。舞台でのユーモアたっぷりのMCには思わずニコニコなのですが、自分を戯画化できるのは客観性があるということで、そんな聡明なおふたりの人柄と人生を歌ったヒット曲の数々も心に染みて、ファンになってしまいました(ライブが観たい)。

監督の片岡英子さん、2007年の『歌謡曲だよ、人生は』の『ラブユー東京』編はぶっ飛びすぎてちょっと理解不能だったのですが、今回は感激しました。こまどり姉妹の若い頃の写真をコラージュしたタイトルも「昭和のポップ」という感じで素敵でした。

笑って泣いて楽しめて、そのうえ元気を一杯もらえる作品です。

(2010.7.11 第七藝術劇場)






ケンタとジュンとカヨちゃんの国


キャストは好演 / ★★★


遅れたきたニューシネマといった感じの青春映画。現在の若者をめぐる閉塞的な状況を描き、甘さは微塵も感じられない硬派の作品で、その意気込みは評価したいと思います。しかし、終盤の展開には首をかしげるところもあり、上映時間が長いこともあって、鑑賞後はちょっと疲労感を覚えました。

ケンタとジュンが旅立つまでの前半は面白く観ましたが、正直、後半はちょっと辛気くさい気がしました。ただ、細部に宿るリアリティーには心を捉えられるところもありました。たとえば、カヨちゃんの太股と二の腕を巡るエピソード、雨の中の喧嘩、離れようとしても離れられないふたり、などなど。

ロードムービーにしては、風景があまり重視されていないのも勿体ないような。そんな中で、フェリーの船上から捉えた海の映像がとても印象に残りました。

キャストは好演。主演のふたりが見せるさまざまな表情が心に残ります。登場時からすでに異物的な空気感を漂わせる宮崎将と、ブスでバカなだけではないカヨちゃんを演じた安藤サクラの存在感が素晴らしかったと思います。

(2010.6.30 シネリーブル梅田・2)






パーマネント野ばら


女優さんが見もの / ★★★


ここではわりと評価が高いようですが、わたくし的には演出に馴染めないところがありました。パンチパーマのおばさん達、電柱おじさん、みっちゃん夫婦の大騒動、ともちゃんの恋愛騒ぎ、コメディにしてもアクセントが強過ぎるように思います。内心「漫画みたいやな」とブツブツ、原作は確かに漫画ですけど・・・・。

ただし、菅野美穂、小池栄子、池脇千鶴の持ち味を生かした好演は見応えあり。特に菅野美穂が醸し出す独特の雰囲気には、「この人、(年齢は)いくつだった!?」なんて思いました。

そして終盤、それまでの違和感がすーっと収まるところに収まり、どっと押し寄せる切なさ・・・・。ということで、ちょっと評価に困る作品でした。

(2010.6.30 シネリーブル梅田・2)






FLOWERS −フラワーズ−


今そこにある幸せ / ★★★★


六大女優競演ということで、ずっと前に予告編を見た時、母と一緒に観る約束をした作品。しかし、この顔ぶれはよく考えたら資生堂のCMに出ている人たち、興行成績も今ひとつということで、あまり気が進まないながらも鑑賞しましたが、期待度が低かったせいか、思いのほか楽しめました。個人的には義務感から観た某大ヒット映画よりもよほど好きでした(あのあざとい演出が前から苦手で観る気がなかったのに、世間の高評価につれられて、つい・・・・)。

お話は今までにどこかで見聞きしたようなものばかり、新味も深味もありません。しかし、思いがけない喜びも、思いがけない悲しみもある人生において、自分の置かれた境遇から幸せを紡ぎだす女性たちの姿、しみじみと心に響きました。

竹内結子と鈴木京香、どちらかというと悲しみ度の強いエピソードが心に残りますが、その中で、会社の屋上やトリスバーといった小津的背景でコメディを見せた田中麗奈のパートが溌剌として楽しかったです。そういえばあんな女の子、実際にいた、いた、という感じ(笑)。

美しい女優陣は眺めているだけでも楽しめます。それに比べると、男優陣は影の薄い感もありましたが、塩見三省と平田満のお父さんはさすがの存在感。平田満の若い頃がイノッチというのも、全然違和感がなくて適役。登場した時には、内心「似てる」と呟き、思わず微笑・・・・。

(2010.6.24 TOHOシネマズ伊丹・6)






クレイジー・ハート


人生に手遅れはない。 / ★★★★☆


『デス・プルーフ in グラインドハウス』のレビューでも触れたましたが、ジェフ・ブリッジス主演の『ラスト・アメリカン・ヒーロー』というアメリカ映画は私のお気に入りの一本。まだ20代だったブリッジスが演じるのは、純朴でウエット、しかし向こう気の強い、何とも愛おしいカントリーボーイでした。

その頃から演技賞候補になっていましたが、とうとうアカデミー主演男優賞を獲得した本作では、57歳のカントリー歌手。その57歳という年齢に、自分もそれだけ歳を重ねているのを棚に上げて、涙が出たりしました。かっては一世を風靡したものの今は落ちぶれてドサ回り、アルコール依存症で体にもガタが来ているという役柄。

ウィスキーの飲み過ぎでライブの途中に気分が悪くなったり、年増のファンと一夜を共にしたりの自堕落な日々。そんな彼が、シングルマザーの新聞記者と知り合ったことを契機に再起を果たす物語といえば、それほど新味はなさそうですが、キャストの好演と丁寧な演出によって大人向けの佳作になっています。

吹き替えなしの俳優の歌声にも味があり、コリン・ファレルが演じる後輩歌手とデュエットする場面、ブリッジスのいぶし銀のような声にファレルの若い勢いのある声と、とても聞き応えがあります。同時に見応えもあります。かっては何もかも自分が教えてやった後輩が今では人気の絶頂。その「前座」を務める仕事にいささか躊躇したものの、12000人の観客と聞いては断れなかった、その胸中やいかに。男のプライド、男の哀感・・・・。しかし、その後輩がまた男気のあるヤツで泣かせるのです。

ミッキー・ロークの『レスラー』にも似た話ですが、あちらよりはずっとマイルドな雰囲気。どういうわけか『レスラー』は、わたくし的には徹頭徹尾他人事で、ほとんど心を動かされなかったのですが、本作には共感のあまり涙々。逆に『レスラー』に感動した人は、本作を甘いと感じるかもしれませんね。

自分勝手で弱さもあるけれど、どこか愛嬌があって憎めない男を優しいタッチで描き、特に終盤はそよ風に吹かれているような心地よさが心に染みる作品でした。アメリカ南西部の風景を捉えたシネスコの映像も魅力的で、もっと大きなスクリーンで観たかったなと、少し心残り・・・・。

(2010.6.23 TOHOシネマズ梅田・7)






ブライト・スター いちばん美しい恋の詩


貧乏詩人の恋 / ★★★★☆


『ピアノ・レッスン』で一世を風靡したジェーン・カンピオンの新作。実在の詩人ジョン・キーツの恋を描く伝記映画ですが、痛みと甘美さに満ちたラブストーリーがこの上なくロマンチックでした。

いろいろ見所があったのですが、まず目を奪われるのは映像。まるでフェルメールの絵のような室内シーン、あるいは四季の移ろいを捉えた屋外のシーンなど、その美しさに魅せられます。

荘重な音楽とともに始まるオープニング、針に通される糸を大写しにした映像も興味深いです。勝気で情熱的なヒロイン、ファニーの情熱は裁縫に向けられているのですが、自分でデザインしたという設定の衣装の数々、フリルやステッチなど入念な細工が美しく、これもまた見ものになっています。

感受性も豊かな彼女が恋したのは、生活費にもことかく貧乏詩人。ふたりの境遇の違いが障害となり、さらに燃え上がる恋の愉悦。年頃の娘が過ちを犯さないよう、恋人たちには常に弟や妹がつきそっている19世紀イギリスの恋愛事情。妹たちの目を盗み、木陰で交わす接吻の甘さやいかばかりか・・・・。

ファニーがキーツへ贈った枕カバーに施された刺繍の精緻な美しさ、キーツがファニーを謳った詩の甘美さ、あるいは窓のカーテンを揺らす風、野花の咲き乱れる情景などを通して、ふたりの想いが繊細に綴られて行きます。

ヒロインの情熱のうねりに翻弄された『ピアノ・レッスン』とは異なり、本作では、慎ましい振る舞いの下から抑えられない情熱が顔をのぞかせ、禁欲的であるからこそ、さらに魅惑的な愛の姿に心を捉えられたような気がします。

意志の光を宿した瞳が印象的なファニー、繊細で儚げなキーツなど、俳優陣も魅力的。ファニーの妹の愛らしさも格別で、その表情に見とれるあまり、最後までその名が覚えられませんでした(笑)。

もうひとり重要な登場人物がいますが、それはキーツを支援する編集者ブラウン。主人公のふたりとある種の三角関係を形造り、負けず嫌いのファニーと事あるごとに衝突して、物語を牽引して行くあたりも面白く観ました。

(2010.6.16 シネマート心斎橋・1)






アウトレイジ


巡る因果の人間悲喜劇 / ★★★★☆


ヤクザ社会の権力闘争を描く北野武の新作、暴力とユーモアが混在しているさまが、ちょっとジョニー・トーの『エレクション』を連想させます。さしずめ加瀬亮の演じるインテリヤクザはルイス・クーあたりかな。と、香港映画ファン以外には通じない前振りで失礼いたしました。

わたくし的には今年上半期いちばんの期待作でしたが、その期待を裏切らない快作でした。観ている間も楽しめたのですが、鑑賞後のムフフ感がいやはや何とも。ちょっと現代社会の縮図のような趣きがありますよね。暴力バーのいざこざの場面、同席するホステスたちの無表情・・・・、ああ、これは、部下を怒鳴るのが趣味だったあの部長のあの場面に似ている(笑)。翌日、いろいろと思い出すことがありました。

世のお父さんたちは、本作を観て社会勉強などいかがでしょうか。「調子に乗りすぎると怪我の元」とか「目下の者にあまり理不尽なまねはするな」とか、教訓がいろいろ学べます(笑)。

いゃあ、「巡る巡る、巡る因果は風車」でした。金と権力のために、殺る者がいつしか殺られる者へ。権力者の書いた台本のままに、あやつり人形のように右往左往させられる人間の悲劇を乾いたユーモアで描き、これは喜劇と呼んでもよいような。発端は暴力バーのささいな一件、そこから雪だるま式に一人、また一人と。間に『ゴッドファーザー』を連想させるようなエピソードもはさまれますが、それが何ともしょぼいところや、またカッターナイフやラーメン屋の間合いのおかしさはビートたけし的といえるでしょうか。

キャストも最高でした。楽しげに演じている主演の11人、そのそれぞれの個性はもちろん楽しめましたが、柄本時生など脇役陣も好演(くわしい配役表、どこかにないですかね)。哀愁漂うたけしさんもとても素敵でした(衣装は山本耀司)。

(2010.6.15 MOVIXココエあまがさき・2)






座頭市 THE LAST


女性向け座頭市 / ★★★☆


昔日曜の午後に、TVで大映映画が放送されていたことがあって、父親の隣で一緒に見ていたのはやはり面白かったから。「兵隊やくざ」とか「悪名」とかが特に印象に残っているのですが、「座頭市」の印象が薄いのは、子供にはあまり面白くなかったのかも。しかし、あのうさんくさい勝新のキャラはしっかり記憶に刻まれています。

で、今回の市は香取クンということで、勝新とは全然別物です。鑑賞後の第一声は「今回の市は善人やねえ」。それが悪いというわけではなく、ちょっとばかし腕が立つばかりに、普通の人間として生きることも叶わなかった青年の悲哀は伝わってきました。

しかし、不満がないわけではありません。ちょっと泣かせ(愁嘆場)が多すぎるような・・・・。テレビ局さんの意向なのかもしれませんが、あれを削って2時間ぐらいにまとめていたらと、少し残念です。話ももっとシンプルな方がベターでは。

よかったのは映像と音楽と殺陣。市の息遣いが印象に残るオープニングをはじめとして、竹林や雪の積もった山道といった自然が生かされた殺陣が見応えあり。豊原功補との対決シーン、雪はCGだったのでしょうか。その微妙な動きに、内心、おおっ・・・・と感嘆。

キャストは豪華でしたが、無駄に豪華な気もします。とにかく登場人物が多すぎる。ただ、前情報入れずに観たので、勘三郎とARATAの登場はうれしいサプライズでした。香取クンがお目当ての母と一緒だったのですが(私はいちおう阪本監督が目当て)、切ないシーンのてんこ盛り、母には好評だったようです。

(2010.6.10 TOHOシネマズ伊丹・6)






シーサイドモーテル


地獄の202号室 / ★★★☆


コメディとしては、イマイチ弾け切れていない感もありましたが、豪華なキャストの顔ぶれと、その演技が楽しめる作品でした。

玉山鉄二と山田孝之のキレ味対決に、温水洋一と柄本時生の変キャラが絡み、紅一点が何と成海璃子という顔合わせで、ヤクザのイザコザを描く「202号室」が見応えあり。

生田斗真と麻生久美子という美男美女の騙し合いを描く「103号室」も楽しめましたが、他の二つのエピソードは不要な気も・・・・。予告編ではインパクト抜群だった古田新太のエピソードは何か拍子抜けだったし、もうひとつのエピソードは全然笑えなかったし・・・・。

人が出会えば、何らかの関係が生まれ、しかし、そのあとは・・・・。そこはかとない哀愁の漂うラストは悪くなかったと思います。

(2010.6.8 MOVIXココエあまがさき・2)






冷たい雨に撃て、約束の銃弾を


くわえ煙草もほろ苦く、愛すべき馬鹿野郎ども / ★★★★☆


今回の見だしは邦題に合わせて長くしてみました(笑)。『ザ・ミッション 非情の掟』、『エグザイル/絆』に続くジョニー・トーの「ノワールアクション3部作・完結編」。

トーお得意のスタイリッシュでハードボイルドな作品、もちろん楽しめたのですが、主役はフランス人というのが実は気に入らなかった。で、帰り道では「絆は国境を越える、ですか!?」と、内心ツッコミを入れたりして・・・・。しかし、翌日になると胸に染みてきて、結局、一週間のうちに2回観に行ってしまいました。やっぱりいいわあ、ジョニー・トー。

『エレクション』など、黒社会のダークサイドを描いた作品がいくらかは現実を反映しているとすれば、男の絆を描くノワールものはその反転、ある意味ではファンタジーですよね。友情、約束、復讐、銃撃戦などに彩られたクールでホットな「男のロマンチシズム(夢)」、堪能させていただきました。

今回はフランス資本ということで、撮影前に脚本が出来上がっていたらしく、前作『エグザイル/絆』のユルさに比べてずっとタイトな印象です。どちらが良いというわけではなく、それぞれの持ち味の違いがまた一興。

しかし、細部の楽しさは共通しています。庭でパスタを食べるシーンがなぜあんなに気持ちよかったのか、二度目に分かりました。そこまで暗いシーンが続いているからなんですね。でも、ホテルのシーンの冷たい質感も捨てがたいし、コステロが娼婦に囲まれる街のシーンも美しかった。パスタに続く自転車のシーンがまた秀逸で、三人の男とコステロの間に芽生える絆も納得できるような・・・・(カメラを低くして画面いっぱいに空を捉えたシーンも印象的)。

でも、いちばん好きだったのはゴミ集積場のシーン。強風のせいで紙切れが舞い、そこで圧縮したゴミをゴロゴロなんて・・・・(笑)、アイディア賞ものでした。陽光の下での銃撃戦というのも珍しいですが、詩情さえ漂う名場面になっていたと思います。

キャストでは、新入りのラム・カートン(前作では敵側の小ボス)が新鮮味もあいまっていちばん印象的。ポーカーフェイスの中にも、「どこまでも兄貴たちについて行くぜ」という気持ちが透けて見える表情がたまりません(でも、時々ナンチャン)。ジョニー・アリディ、実は顔が嫌い。昔はもっとチンピラみたいだったけど、まあ少しは渋くなったかなあ。でも、アラン・ドロンだったら、もっとよかったと思います。

PS1 男たちの絆について妄想をたくましくすれば(笑)、三人はビッグママの子供たちのように孤児として一緒に育ったのかも。親の顔も知らない天涯孤独の男たちは、娘のために復讐するコステロの「父性」にほだされたのかもしれません。あっ、そういえば、バーベキューのシーンも泣けました。妻子持ちの・・・・。

PS2 余談ですが、娼婦たちは北京語を話していました。大陸からの出稼ぎでしょうか。『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』の香港の娼婦も北京語でした。このあたり、現実を反映しているのかも。コステロの娘も冒頭で北京語を話していました。夫の会計士は大陸出身者という設定なのでしょうか。

(2010.5.31 シネリーブル梅田・2)






トロッコ


光の表情、子供の表情 / ★★★★


台湾ロケで芥川龍之介の「トロッコ」。 あの短編が一体どんな映画にと首をひねりながらも、撮影が李屏賓(マーク・リー・ピンビン)ということで楽しみにしていました。

監督のインタビューを読むと、製作のきっかけがまさにその李屏賓。日本ではもう見当たらないトロッコも「台湾にはあるよ」という彼の一言から始まり、台湾を訪れるうちに物語が膨らんで行ったという経緯が興味深いです。

トロッコのシーンを核に、台湾と日本の歴史を絡めて、家族の絆や子供の成長が描かれますが、やはり撮影が見ものです。深い森の緑や夕刻の青い情景、あるいは灯りのともる室内など、美しい映像が見応えたっぷり。とくに印象に残るのは、窓辺の食卓を囲む家族を窓越しに捉えたシーン。何度か出てきますが、時間によって異なる光の表情に魅了されます。

侯孝賢の映画で母親を演じた梅芳など、キャストも充実していますが、物語の軸になるのは八歳の少年敦。原田賢人クンという子役が演じていますが、そのさまざまな表情が素晴らしく、子供が主人公の侯孝賢作品、『冬冬の夏休み』や『川の流れに草は青々』を思い出したりしました。

(2010.5.25 梅田ガーデンシネマ・1)






カケラ


女の子の気持ち日記 / ★★★★


新人女性監督ということに興味をひかれて、前情報なしで観たのですが、何と、女の子同士の恋を描いた作品でした。突然リコという女の子に一目惚れされた主人公ハルの戸惑いや揺れる気持ちを綴り、「女の子の気持ち日記」といったところ。

ハルは歩き方に特徴あり。恋人の後ろをトボトボとヒョコヒョコの間のような歩き方で追いかける姿にまず目を引かれるのですが、それは彼女の世間に対する立ち位置を象徴しているのかも。都合のいい女扱いされているのに恋人と別れられず、大学に通っているものの勉学に身を入れるわけでもなく、まだ何者にもなり得ていない女の子。

対するリコは、自分の仕事に愛着も誇りもあり、エネルギーに満ち満ちて、正々堂々の正論を吐く女の子。ふたりの出会いから友情(愛情)を深めて行く前半、リコのエキセントリックな振る舞いににニコニコで、ハルがリコに惹かれて行くのに共感したり・・・・(恋愛においては、押しの強い人がけっこう好きなので、笑)。

しかし、どんな恋愛もただ楽しいだけでは終わりません。気持ちが行き違ったり、相手の想いが負担になったり、そんなふたりの感情の揺らめきが繊細に描かれた後半は、涙がじわっと滲んだりもしました。特に無敵に思えたリコちゃんが・・・・。

というわけで、わたくし的には共感度の高い作品だったのですが、ストーリー性が希薄なので、好き嫌いは分かれそう。しかし、ハルの歩くシーンに着目したら、「他者の背中を追いかけていた女の子が、ひとりでいることの心地よさに目覚める物語」と思えて来ました。もちろんリカがその媒介となっているわけで、「ハルがリカから勇気のカケラをもらう物語」といってもいいかもしれません。そして、そこから新たに何かが始まる・・・・。

キャストの好演、下町の情景や石段の坂道などを生かした映像、クスッと笑えるユーモアなど、いろいろと楽しめる作品でした。安藤監督にはこれからも期待しています。

(2010.5.18 梅田ガーデンシネマ・1)






17歳の肖像


1961年の青春 / ★★★★


16歳の女子高生が、年上の男性との恋愛を経験して成長する姿を描いた本作、共感するところもあり、心に染みるところもありで、見応えのある作品でした。

まず1961年という時代背景が興味深いです。ビートルズが登場する直前のイギリス、まさに時代の変り目にあたる頃。最近、原作者のアラン・シリトーの訃報に接した『長距離ランナーの孤独』や『土曜の夜と日曜の朝』、あるいはリタ・トゥシンハムという主演女優が印象的だった『蜜の味』などのイギリス映画がちょうどこの頃の作品。二十代の頃に観て、今も心に残るこれら青春映画の主人公たちは、一様に労働者階級に属していましたが、本作のヒロイン、ジェニーの家庭はもう少し上の階層なのでしょうか。しかし、父親がお金のないことを冗談の種にするぐらいで、富裕であるとはいえません。

未来を切り開く手立てとして、オックスフォード大学へ進むことを両親からも教師からも期待されていた成績優秀な女生徒が、年上の洗練された男と恋に落ち、華やかな世界に触れるうちに、あっさりとその進路を変更してしまう展開。何かよからぬことが起こりそうな予感はあっても、共感してしまいます。利発なジェニーは「恋は盲目」というほどおバカさんではないのですが、説得されるのを待っているあたり、自分の過去を思い出したりして身にしみます(笑)。またその男、デイヴィッドの巧言令色ぶりが・・・・。

「あの頃に戻っても、私は私を止めたりしない」。本作の宣伝コピーですが、言い得て妙。大人になってから振り返ってみれば、いかにも愚かと分かることも、その時の自分にとってはその選択しかなかったというような、誰もが共感しえる青春の出来事。

ただ、そのほろ苦さだけで終わらず、最初は俗物に思えた父親の親心や、いかにも退屈そうに見えた女教師の思いやりが、終盤で姿を現すところが心に染みます。ヒロインが成長したからこそ、そういうものが実感できてくるという構成も秀逸でした。

教師の目を盗んで煙草を吸い、サルトルやカミュを論じる生意気盛りの女子高生たちの描写やジェニーとデイヴィッドが訪れるパリのシーン、あるいは懐かしい音楽やファッションなども楽しかったです。

ヒロインはどちらかというとファニーフェイスだと思いますが、途中で劇的変身。あのシーンでは息をのみました。

(2010.5.12 TOHOシネマズ梅田・6)






ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲


里依紗が天晴れ! / ★★★★


二十歳の乙女にあんな格好させるなんて、発案者は誰? 場合によっては「責任者出て来い」とボヤくつもりだったんですけど、何これ、面白いやん。舞台は2025年という近未来なのに、はるか昔に見たテレビドラマのようにキッチュでB級臭ぷんぷんの怪作、一般受けはしそうもないですが、ヘンな映画大好きの私には楽しめる作品でした。

それにしても、仲里依紗が素晴らしい。女優魂見せてもらったなあと、ちょっと感動です。究極の悪を体現する女王様キャラ、アクションも歌もダンスも頑張って見応えたっぷり。「衣装は本当に面積が少なくて恥ずかしかったけど、慣れてきたら解放感があって楽でした」(by 里依紗)。うーん、天晴れ!

ところで、この私も実は女王様体質だと気づきました(笑)。ゼブラクイーンが「ウザい」と切り捨てる手下の言動、私も内心「ウザい」と呟いていたのです(誰に向って言ってんのよ、と)。しかし、そのウザい行為も貫徹すればカッコよさに転じるところ、けっこう好みです。

使い古されたようなクリシェを、いかにもの場面で言わせる展開も、そのセリフ担当のすみれちゃんがニュアンスの感じられる美少女で、微笑を誘われたりもしました。

ラストは微笑よりも苦笑って感じだったのですが、哀川翔の顔を眺めていたら和んできたので、これもアリかなと・・・・。脇の男優陣もイケメンぞろい、それも楽しかったです。

振り返ってみれば、全体的にユルい展開に和める一作でした。洗濯機って・・・・、菅田美穂って・・・・、タバコのポイ捨てって・・・・、思い出し笑い必至。

(2010.5.1 MOVIXココエあまがさき・10)






アリス・イン・ワンダーランド


豚の足置き、欲しいかも(笑) / ★★★☆


ディズニー作品ということで、ちょっとお子様向けなのでしょうか。個人的にはもっとグロテスク風味が欲しいところですが、軽く楽しめるバートン版ワンダーランドでした。

既成のミュージカルを映画化した前作『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔』は、私の2008年度期待ハズレ賞で、全然楽しめなかったのですが、今回は音楽がまたダニー・エルフマンということで、オープニングからワクワクでした。

それ以上にワクワクしたのはマッドハッターが踊りだすところ。心の中で歓声をあげてしまいました。このマッドハッター、そして赤の女王、白の女王など、キャストの好演で見応えたっぷり。その他のキャラの造形、美術や衣装なども楽しかったです。

19歳のアリスを演じる新人さんも好演。大人でも子供でもない乙女そのもののアリスが凛々しくて素敵でした(伸びたり縮んだりするところでは、服はどうなるのとドキドキ、笑)。

終盤、隣席の十代の女の子が鼻をすすっていたのにツラレて、私もちょっと涙。ただ、最後の最後が・・・・。結論はそこですか!?、とすごくガッカリしたので10点減点です。

3D初体験でしたが、まぁ、300円分の価値はあったかなあ。でも、別にどっちでもいいや(近所のシネコンは3Dだけだったので、今回は選択の余地がなかったのです)。

(2010.4.28 TOHOシネマズ伊丹・1)






息もできない


殴る男 / ★★★★☆


パク・チャヌクなど先達のバイオレンス映画とは一味違う、「殴る男」を主題にした韓国映画。台湾の侯孝賢が「強烈なリアル感だ!」というコメントを寄せていますが、確かにそのリアルな表現が新鮮です。

主人公ヨンフンは他人を殴ることと悪態をつくことしか知らない。子供時代に、父親の暴力によって理不尽に奪われた母と妹。そして父は服役。自分を取り囲む世界とコミュニケートする術を学ぶ前に、たった一人でその世界に放り出され、拳ひとつで生きてきた男。言葉で表せない感情を暴力で表現する。

暴力描写の多い作品ですが、登場人物に肉薄する手持ちカメラの映像からは、その行為のまがまがしさよりも、登場人物の心情が伝わり切なくなります。その荒々しさの陰からふと顔をのぞかせるユーモアや瑞々しさに心を捉えられたりもします。

そして何よりも胸を打つのは、そんな男の中にも愛への欲求が息づいていたということ。異母姉の息子への不器用な愛は微笑を誘い、父親への憎しみと表裏一体の愛には心乱され、自分と同類の女子高生、心に傷を負ったヨニとの、互いに相手を丸ごと受け入れるような愛には涙々。漢江の岸辺、遠く街の灯りを望むシーンが心に染みました。

(2010.4.14 シネマート心斎橋・1)






抵抗 死刑囚の手記より


リアル脱獄映画 / ★★★★☆


ロベール・ブレッソンの1956年のモノクロ映画ですが、現在の秀作と比べても全然遜色のない作品。ぎりぎりまで研ぎ澄まされた脚本や演出に、映画の原型を見る思いがします。

1943年、ナチス占領下のフランス。抵抗活動によって監獄に囚われた男が脱獄を企てる。盗み取ったスプーンを砥いで鋭利にし、それでドアの木板を削ったり、ベッドのスプリングと裂いた布でロープを作ったり、着々と計画を進める男をドキュメンタリータッチで捉えた画面には緊張感がみなぎり、すっかり引き込まれてしまいます。

看守の動向を見張ってくれる向いの独房の男や、一日に一度、手洗い場で顔を合わせる際に情報をやり取りする男たちとの間に生まれる絆・・・・。表情も変えずにささやきを交わす男たち、その寡黙な姿にも心引かれます。とてもクールで曰く言いがたい風情があり、「男の世界」が大好きな私はそこも楽しめました(隣の爺さんの言葉も忘れがたい。"Adieu, mon ami")。

それにしても終盤の緊張感は只事ではなく、映画が終わった瞬間、「ヘヘッ」と笑ってしまいました。極度の緊張が解けた時には笑ったりするんだと身をもって体験。そのあっけないほどの幕切れ、無駄な説明を排した展開や感情を抑えた演技などに、映画に必要なものは何かといった問題を考えさせられたりもしました。

キャストは素人を起用しているようですが、その顔がまたいいのです。主人公と途中から加わる少年が特に印象に残りました。

(2010.4.5 梅田ガーデンシネマ・1)






時をかける少女


駆ける少女 / ★★★★


序盤のムリヤリ感がちょっと気になりましたが、過去に戻ってからは快調。ノスタルジックで温かくて切ない青春映画でした。

吉田拓郎にもかぐや姫にも思い入れはないのですが、『神田川』は別格。この曲を聞くと、過去にタイムスリップできます(笑)。本作の舞台は、その『神田川』が発表された1973年から1年後ということで、なあるほど。お金はないけど懸命に生きている若者たちの幸福感が胸に染みました。

涼太たちが映画を作っているという設定はちょっと反則。もうそれだけで胸キュンキュンです。ブルース・リーに『2001年宇宙の旅』、涼太の部屋に頬がゆるみます。

どちらかというと、あの頃に青春を送ったおじさん、おばさんが喜びそうな・・・・。しかし、いかにもイマドキの女子高生、ヒロイン仲里依紗の感じるときめきや悲しみは、きっと若い人たちの心にも届くはず。

走る、笑う、泣く、水を飲む、仲里依紗のさまざまな姿が楽しめます。昔風の美少女石橋杏奈との対比も効果的でした。

気になるところもあったので、80点はちょっとおまけ。仲里依紗、好きなので・・・・。

(2010.3.31 MOVIXココエあまがさき・1)






倫敦から来た男


最初は眠かった。 / ★★★☆


モノクロームの映像美が話題の本作、大阪ではプロジェクター上映でした。劇場のHPの告知を引用すると「上映プリントがモノクロの質感を再現するための特殊な材質のフィルムで極めて脆く、これまでの上映による劣化が激しく上映出来る状態ではない。また、配給側で別フィルムの手配ができない現状のため、デジタル素材での上映に変更した」とのこと。

「モノクロの質感を再現するための特殊な材質のフィルム」で上映するものとデジタル素材で上映するものと、どれほどの違いがあるのか分かりませんが、すごく損した気分。そんなことは、事前に調べておいて然るべきことですよね。あまりのお粗末さに、これでもう10点マイナスです。

というわけで、フィルムで観た人が傑作だといっても、わたくし的には素直にはうなずけません。しかし、モノクロや長回しは嫌いではないので見応えはありました。カット尻が異常に長いのですが、ボール遊びをしている子供やアコーディオンの伴奏に合わせてダンスを踊る老人たちを、延々と捉えているシーンが奇妙に頭の中にこびりつきます。

しかし、どちらかというと感情移入型の観客である私、それほど引き込まれたとも思っていなかったのですが、138分という上映時間は苦になりませんでした。鑑賞後に、そんなに長かったんだと夢から醒めた思い・・・・。

寒々とした港町や寡黙な登場人物が湛える非現実感に、あるいは魅了されていたのかもしれない。思いがけなく大金を手にした男の恍惚と不安に、我知らず共感していたのかもしれない。これも鑑賞後に思ったことです。

(2010.3.24 第七藝術劇場)






渇き


異形のラブストーリー / ★★★★☆


パク・チャヌクの前作『サイボーグでも大丈夫』は現実世界から疎外された少年と少女のラブストーリーでしたが、本作はバンパイアというやはり現実世界から疎外された大人の男女のラブストーリー、とても可愛かった前作からは官能度がぐーんとアップ。単にエロいだけの作品は好みませんが、バイオレンスやユーモアが加わったヘンな映画は嫌いじゃない(笑)。いかにもチャヌクらしい世界観、とても楽しめました。

いつものことながら序盤は話が見えません。しかし、過剰と逸脱を繰り返しながら、やがてスピードが速まり、観終ってみれば切なささえ胸に迫る技ありの一作。

心に響くシーン(ハッピーバースデーに泣いちゃいました)や夢のようなシーン(まるで『ハウルの動く城』)も見られる中盤、「女性解放映画」にもなっているのが感激です。抑圧から解き放たれたテジュの歓びに満ちた暴走、ちょっとやり過ぎですけど共感せずにはいられない(笑)。

しかし人間って哀しいですよね。その欲望には限りがなく肥大して行くばかり。それを看過できない元神父の苦悩。そのグロテスクな外見とは裏腹に、チャヌク作品には倫理の筋が一本通っている印象を受けるのですが、本作も例外ではありません。

キャストも最高です。今回のソン・ガンホ、イケメンなので驚いた。もっとビックリしたのは、可笑しさと哀しみをまとって光り輝くキム・オクビン、その魅惑的な姿から目が離せませんでした。

(2010.3.23 シネリーブル神戸・2)






ニューヨーク,アイラブユー


期待はずれ / ★★★


大好きだった『パリ、ジュテーム』の姉妹篇、岩井俊二も参加しているということで楽しみにしていたのですが、期待はずれでした。

『パリ、ジュテーム』は、各18話が5分という持ち時間の中でアイディアを競い、中身の濃い粒ぞろいのオムニバス映画になっていました。笑いあり、涙あり、社会的な視点もありで好感大。しかし本作は、男女の出会いを描いたテイストの似た話ばかりで途中で飽きてしまいました。

端的にいうと、『パリ、ジュテーム』は独立した18の話が、全体としてはパリの街を主題にしたひとつの作品を形作っていたのに対し、本作はつなぎを工夫して群像劇としてまとめているにもかかわらず、「"I love you"s in New York」で終わってしまったという印象。つまり、ニューヨークが主題ではなく単なる舞台にすぎなかったことが、わたくし的には不満でした。

それでも、元オペラ歌手とホテルのボーイが織り成す幻想的な話は素晴らしかったです。柔らかい白を基調とした映像が魅惑的、ジュリー・クリスティ、シャイア・ラブーフ、ジョン・ハート、役者さんも好演でした。

そういえば、俳優陣はとても豪華。イーライ・ウォラックとクロリス・リーチマンの老夫婦なんて、エンドクレジットでビックリ。久しぶりに見る顔もあって、その辺は楽しかったです。

(2010.3.16 TOHOシネマズ西宮OS・6)






聴説


大阪アジアン映画祭−2 / ★★★★


2009年台北デフリンピックの開催に合わせて公開され、年間興行収入第1位となった台湾映画。弁当屋の息子天闊と聴覚障害者の秧秧の恋を描いた青春ラブストーリーですが、笑いあり涙あり、障害があることは特別なことではないといったテーマも絡めて、とても楽しく爽やかな作品でした。

主人公のふたりがとにかくキュート。天闊(ティエンクォ、空のように広々しているの意)は名前どおりの単純だけど人のよい愛すべき男の子。演じるエディ・ポンは二宮和也とタカアンドトシ(欧米か!)のタカ(ライオンの絵)を合わせて2で割った感じ、イケメンだけどコミカルなところが愛らしい。秧秧(ヤンヤン)はオセロの松嶋をもっと若くあっさりした感じで、体がしなやか。天闊は秧秧の歩く姿に一目ぼれするのですが、それも納得。私も最初にそこに目が行きました。「生きているのが楽しいのよ」と身体全体で表現しているような歩き方。食べっぷりにも特徴あり。弁当の容器に口をつけてかっ込むんですけど、チャーミング。そんなふたりが手話ではぐくむ恋物語に、上映後、若者たちの間で手話が流行したそうです。

天闊の両親もいい味出してました。上映前と上映後に監督と製作者が登壇したのですが、中国で上映した際には、「台湾人はこんなに善良で温かいのか」といった感想が中国人から聞かれたと、製作のペギー・チャオが話していました。どこの国民性にも長短ありますが、本作は確かに台湾人の美質をよく表現していると思います。「日本人の反応はちょっと控えめ。台湾では中年男も号泣した」とも話してましたが、どこで号泣したのか分かるような気がします。この両親が××するところ、私も笑いながら泣けてきて、大泣きしそうになりましたもの。

監督のチェン・フェンフェンは若い女性と思ったんですけど、年令調べたら40歳でした。化粧気のないさっぱりした顔で、20代のお嬢さんでも通りそう。製作のペギー・チャオは台湾ニューウェイブの頃から活躍している映画評論家でもあります。尊顔を拝見できて感激でした。

今回のアジアン映画祭の観客賞を獲得したということなので、もしかしたら一般公開されるかも。そうしたら、もう一回観てもいいなあ。

(2010.3.14 ABCホール)






KJ 音楽人生


大阪アジアン映画祭−1 / ★★★★


ドキュメンタリー作品ながらも2010年香港電影評論学会大賞グランプリを獲得した秀作です。

主人公は17歳の男子高校生KJ。恵まれた家庭環境と優秀なピアノ教師との出会いによって、ピアノの才能を開花させた彼は、11歳の時にヨーロッパのコンサートツアーに出かけたという神童。その11歳の頃の映像と現在の映像を織り交ぜながら、彼の生活や人となりを捉えています。

かっての輝きを失ったとはいえ、やはり音楽の才能を存分に発揮して、今では高校の音楽部で指揮をしたり、ピアノを弾いたりしながら、コンクールに参加する日々。その練習風景にかなりの時間が割かれているのですが、これがなかなか見応えがあります。他人より才能に恵まれていることを自覚している彼にとっては、他の生徒を厳しく指導するのは当然のことで、容赦なく飛ぶ叱責の声。「音が外れた、テンポが遅れた、やる気がないなら出て行け」。ついでに「音楽家である前に、人間であれ」と説教を垂れたりもする。

そんな彼に辟易しながらも、やはりその才能には一目置いている級友たち。いつしか練習にも熱が入り、コンクールで優勝することに。しかし、興奮する級友たちから離れて佇むクールなKJ。彼の目的は「完璧な音楽を追求することで、優勝することではない」。

そんな彼の純粋さを示すエピソードがいくつか捉えられていて、その青年らしい真摯さに胸を打たれたりしましたが、彼がそういう人間になったのは父親の影響、それも父親への反発が大きかったことが、後半明らかにされて行きます。彼曰く「父には人間性が欠けている」。

しかし、KJの兄曰く「弟と父は似ている。弟の方がより頑固だ」。私も頑なな印象は受けていたので、その言葉に頷いたりしましたが、KJもまだ発展途上人、その17歳なりの心情や葛藤が胸に染みてくるのでした。

日本での一般公開は決まっていないようですが、公開される可能性もなくはないようなので、これ以上は触れませんが、最後にもうひとつ、彼の言葉を紹介しておきます。「音楽があるということは神が存在するということ。しかし、神がいるなら世界はなぜ不公平なのだろう」。

(2010.3.13 ABCホール)






フローズン・リバー


北の国境 / ★★★★☆


「フローズン・リバー」というタイトルは何かの比喩かと思っていたのですが、文字通り「凍河」。アメリカとカナダの国境にある、冬季には凍りついて車の通行も可能になる河が舞台。

まず一面の氷に覆われたその河の景観に目を奪われます。メキシコとの国境地帯の枯れ草色の荒涼さとはまた異なる白色の世界。南の国境を描いた作品はアメリカ映画の定番、近年でも『ノーカントリー』や『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』などの秀作がありましたが、北の国境を描いた作品は珍しいような気がします。

主人公がふたりの女性である点も新鮮です。ひとりは、大金を夫に持ち逃げされて途方にくれる白人女性。冬には氷点下にまで気温の下がる酷寒の地、生計を立てるための満足な職もなく、犯罪に手を染めることに・・・・。もうひとりは先住民モホーク族の女性。その河を挟んだ両岸にモホーク族の居留地があり、その女性の手引きによって、偶然出会ったふたりは密輸の共犯者に・・・・。

そんなハードボイルドな出だしからは想像もつかない結末が待っていました。キーワードは「母であること」と「共感」。貧困や人種差別といった諸問題を新しい切り口で描きながら、最後には温かみまで感じさせるシンプルで力強い作品でした。

登場人物のほとんどは女性と子供。荒涼とした風景の中、その表情がとても印象に残ります。白人女性を好演しているメリッサ・レオ、見覚えのある顔だと思っていたら、『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』でトミー・リー・ジョーンズのガールフレンドを演じていた人で、あのいなせな大年増も雰囲気あったよねと思い出したりしました。

(2010.3.10 シネリーブル梅田・1)






ゴールデンスランバー


信頼が武器 / ★★★★


伊坂幸太郎×中村義洋の第3弾。前作の「フィッシュストーリー」がわたくし的にはちょっとガッカリで、本作も実はあまり期待していなかったのですが、さすがに東宝作品ともなるとキャストが豪華。もちろんストーリーは面白いし、切なさとユーモアを利かせた演出も快調、とても面白かったです。

主人公の「底抜けに人がよい」というキャラ設定が秀逸。そのために暗殺犯に仕立て上げられることにもなるわけですが、そんないい人だから助けてくれる人もいるというもの(笑)。で、信頼を唯一の武器としていろんな人の手を借りながら、権力という巨悪の裏をかく主人公が痛快。

表街道を行く人、はたまた裏街道を行く人、個性的なキャラが満載で見ているだけでも楽しいです。中でもやり過ぎすれすれのエキセントリックな濱田岳は出てくるたびにニコニコ(笑ってる場合じゃないんですけど、笑)。伊東四朗やベンガルなどが演じる一般人の真っ当な感覚もきちんと描写しているところがまたよくて、その部分がご飯とすると、逃亡劇がオカズ、濱田岳や永島敏行はスパイスといったところ、実に美味しくいただきました。

ヒロイン竹内結子にもけっこう共感。吉岡秀隆と劇団ひとりを含めた青春グラフィティーの部分も伏線になっているわけですが、それを抜きにしても、あの甘酸っぱいような切なさは胸キュンもの。四人で花火を見上げるシーンでは思わず涙でした。

(2010.3.9 MOVIXココエあまがさき・8)






今度は愛妻家


冬でもサンダル、やさぐれ男 / ★★★★


苦手なトヨエツと131分という上映時間で敬遠していた本作、評判がよいので遅ればせながら鑑賞。なるほど、大人のためのウェルメイドなラブスートリー、楽しめる作品でした。

前半、倦怠期夫婦の軽妙なやりとりを楽しみながらも、違和感ありあり。何かヘンだなあと考えながら、その後の展開を予想したりしましたが、方向は間違っていなかったものの見事に裏切られました。

ガラッと雰囲気の異なる後半は、主人公のふたりとオカマの文ちゃんの心情に共感するところが多々あり涙々。同時にそれまでの違和感(伏線)がひとつひとつ解消されてゆくのが快感でした。

元はお芝居のようですが、沖縄や雑司ヶ谷の鬼子母神あたりという魅力的なロケーションで映画的な広がりを持たせ、また前半から後半への転調を、映像的な工夫で見せたところも秀逸でした。

キャストが好演。年長組はさすがの巧演で若手は爽やか。石橋蓮司と濱田岳が相変わらずいい味出してました。

(2010.3.1 池田中央第1シネマ・1)






パレード


掲示板のような人間関係 / ★★★★


行定作品はそれほど熱心に観ていないのですが、本作を含めて「モラトリアム三部作」と位置づけられるという『ロックンロールミシン』と『きょうのできごと』はたまたま観ており、前者はあまり印象に残っていないのですが、若者たちの何気ない日常を描きながら、最後にはぼんやりとした幸福感が感じられる後者はかなり好きな作品でした。

東京のマンションの一室で暮らす4人の若者たちの日常を描いた本作は、その『きょうのできごと』の裏バージョン、ダーク篇といったところ。平穏が保たれていた生活に異物的な少年が紛れ込んだために、若者たちが抱える暗部が露わになって行きます。自分のいちばんデリケートな部分は他人に見せず、見せられることも回避することで成り立っている人間関係、それはきわめて今日的で、青春群像のそれぞれの孤独に共感を覚えないわけでもない・・・・。しかし、ラストはどう解釈すれぱよいのか、今でもちょっと悩んでいます。

けれども、本作のいちばんの見所は若いキャストの素晴らしい演技。コメディリリーフの小出恵介は儲け役ですが、まず彼に注目。男娼という難役をビビッドに演じた林遣都にも瞠目しましたが、藤原竜也、貫地谷しほり、香里奈を含めた5人がそれぞれに見せるナチュラルな気配、とても見応えがありました。

(2010.2.23 シネリーブル神戸・1)






人間失格


堕天使・葉蔵 / ★★★★☆


思い切った省略と単純化によって映像化された『人間失格』、なかなか意欲的な作品でした。自意識過剰の独白が生み出す滑稽味は原作の大きな魅力ですが、それをばっさりと削った大胆な脚本。主人公の葉蔵と悪友の堀木を「天使と悪魔」に見立てた単純な設定にも驚きました。

セットも戦前の雰囲気を感じさせながらも、どこか小綺麗で、いく分、夢の中のような気配があります。そこで展開される物語は原作に忠実なのですが、ただ出来事の外面のみがゆったりとしたペースで描写されるだけ。本を読む代わりに映画ですまそうと考えた観客には、若干不親切な作品だったかもしれません。

しかし最近、予習のために原作を読んだ私には、なかなか楽しめる作品になっていました。映画オリジナルの部分が、原作から省略されたものを補う役目を果たしているという感じで、終盤のあたりでは「えーっ、こういう風にするのか」と少し興奮、同時に「生きることにまつわる哀しみ」のようなものが心に染みてきました。

俳優陣も豪華で大作の風格も感じられる作品、時おり現われるケレン味や前衛風味も楽しく、堪能させていただきました。個人的には葉蔵と中原中也の鎌倉行のシークエンス(ここも映画のオリジナル)が、映像も美しく特に印象に残りました。

(2010.2.25 TOHOシネマズ西宮OS・7)






きみに微笑む雨


新緑と男の猫背に癒される。 / ★★★★


ホ・ジノの新作は、かって想いを寄せあった男女の再会を描く、さほど新味のないラブストーリー。恋愛を通して人生や幸福の意味を問いかけた、これまでの作品に比べると若干肩透かしですが、情感あふれる演出がやはり楽しめる一作でした。

アメリカ留学時に知り合った韓国人男性と中国人女性が四川大地震後の成都で出会うという設定も効果的。新緑の頃なのでしょうか、舞台となる杜甫草堂の木々の緑がとにかく美しい(さまざまな諧調の緑)。

主役のふたりにも好感が持てます。朴訥で穏やかなチョン・ウソン、私はその猫背がとっても愛おしかった(186cmという長身のせいで生じる他人との物理的な距離を、少しでも縮めたいという心理の現われと解釈しました。いい人なんです。笑)。ヒロインは清楚で気立てのよい四川美女、しかしその振る舞いは謎めいていて・・・・。

そんなふたりの心理の綾、揺れる感情が繊細に描写されていて引き込まれます。ホテルの部屋でふたりきりになった時のぎこちなさなど、こっちもドキドキしてしまいましたが、何だか可愛いふたりでもありましたねえ。何度も笑わせてくれるお邪魔虫の支社長がまた楽しかったわ。

ラスト10分の涙と高揚、余韻の残る幕切れでした。

「中国の観光映画みたい」という悪口をどこかで目にしましたが、その辺も私は楽しかったです。パンダや臓物入の麺などのご当地アイテム、おばさんたちの路上ダンスといった風俗もうまく取り入れてあったと思います。

(2010.2.9 三宮シネフェニックス・3)






おとうと


川口浩とは大違い(笑) / ★★★★☆


寅さんとさくらを弟と姉に置き換えたような、しっかり者のお姉さんと出来の悪い弟の絆を描く本作、山田監督の巧みな語り口が情感を生み出し、安直な感動ものとは一味ちがう作品です。

オープニングはニュース映像という意外な幕開け。主人公のふたりが生まれた頃から現在までの時代の変遷に、「ああ、そんなこともあったっけ」と感慨にふけったりしましたが、タイガースが優勝した1985年あたりでは涙が・・・・。阪神の優勝に感激したわけではなくて(笑)、わたくし的にエポックメーキングな年だったので思い出すことが・・・・。と、初っ端から涙だったのですが、本筋に入ってからはもちろん大笑いで大泣きの山田流人情劇、とても楽しめました。

振り返ってみれば、寅さんのような人間が自由気ままに生きられた時代ははるかに遠く、今は貧困といった問題でさえ「自己責任」の一言で切り捨てられる冷たい時代。鉄郎が河川敷で暮らす人に声をかけるシーンや終盤の「みどりのいえ」の描写には、そんな社会に対する山田監督の異議申し立てといった側面がうかがえます。

前作『母べえ』のメッセージはあまりに直截的で戸惑ったのですが、本作の静かで温かいメッセージはしっかり心に届きました。家族を通して社会を描く山田監督の面目躍如の作品だったと思います。

(2010.2.4 TOHOシネマズ伊丹・4)






黄金花−秘すれば花、死すれば蝶−


人生は回り舞台 / ★★★★


映画美術界の重鎮・木村威夫さんの長編第二作。第一作の『夢のまにまに』が好きだったので本作も観に行きましたが、前作以上にアヴァンギャルドな作品。明確なストーリーは存在せず、ただイメージだけで成り立っているような作品に感歎です。時おりクスッと笑ってしまう茶目っ気もあり、何だか可愛らしい作品でもありました。

主人公は山あいの老人ホームで暮らす80歳の植物学者・牧。彼のホームでの日々や過去の記憶が描かれますが、一緒に暮らす老人たちは悔恨や夢の残滓を抱きながらもいく分狂躁的で、スケッチ風に描写される彼らから生きる力を感じます。牧の記憶は断片的に、まるで夢か幻のように描かれますが、そんな脈絡もないエピソードの全てがやがて生と死を巡る連環を形作り、そこに見られる穏やかな死生観にちょっと共感しました。

しかし本作のハイライトは、ビニールと角材で作られた回り舞台で展開される牧の青春時代。他の登場人物も総出演のそのシークェンスは、アメリカ国旗と黒のビニールで表現される原爆投下といった過激なシーンもありますが、全体的にはコミカルな無声映画みたいで、次々と変わる音楽とともにその自由奔放さが楽しいです。特に三條美紀と原田芳雄のツーショットがカッコよかったあ!

久しぶりに見る顔も混じったキャストが豪華です。何かというとシェークスピアの台詞を口にする役者老人・川津祐介(最後に出典も言ってくれる親切さ!)、老人たちを見守る婦長の松坂慶子(まるで観音さまのよう)が、私の大のお気に入りでした。

(2010.1.27 第七藝術劇場)






すべては海になる


キャストは充実 / ★★★


本屋の女店員・佐藤江梨子と男子高校生・柳楽優弥のラブストーリー。女店員にはセックス依存症だった過去があり、高校生の家庭は崩壊しかけているという深刻な話を、どちらかというと軽快に描こうとした作品なのでしょうか。しかしその結果、どっちつかずの中途半端な作品になったように思います。

女店員は書評を書いたりもするという設定で、彼女の読む本が映像化されて、映画内映画になっているのですが、それがちょっと陳腐。まるで女子高生の妄想みたいと思っていたら、著者が大の男(村上淳)だったので、ビックリ。わたくし的には、このあたりから話にノレなくなったようです。

ただキャストが充実していて退屈はしませんでした。主役のふたりは演技的には不満がなくもないのですが、ビジュアル的には満点、その表情に魅せられます。松重豊や吉高由里子など、脇役陣も個性派ぞろい。中でも、高校生の母親を演じた渡辺真起子と軽薄な編集者の要潤が印象に残りました。

(2010.1.27 梅田ブルクセブン・4)






板尾創路の脱獄王


脱獄こそ我が人生 / ★★★★


去年の『空気人形』と『女の子ものがたり』で、ちょっと俳優・板尾創路のファンになったので、本作も観ることにしたのですが、現在主流の作品群とは一線を画すユニークな作品、監督・板尾も好きになってしまいそうです。

昭和初期を舞台に、初犯は無銭飲食という軽犯罪ながらも脱獄を繰り返し、ついには脱獄王と呼ばれるに到った鈴木雅之の半生。前半の1時間は、繰り返される脱獄を延々と描いているだけなのですが、いったい彼の動機は何なのかという疑問から、その淡々とした展開に引き込まれます。そして動機が解き明かされる後半の30分、それを観たあとでは、前半の印象がガラリと変わってしまいます。

たとえば表層的なところでは、先輩芸人監督へのオマージュかと思われたシーンに深い意味があったり、本質的なところでは、観てから数日たった今、「幸せって何やろね?」なんて考えている自分がいたりする哲学的な感触。マゾヒスティックなまでに自己を痛めつけながら、脱獄を繰り返した苦難の人生が、実は・・・・。ひとつの事実の開示によって意味の逆転、意識の変化を生み出すアイディアが秀逸でした。

94分という上映時間やタイトルの字体が昔のプログラムピクチャーを彷彿とさせますが、そういう既製の枠組みの中で異形の作品を成立させたところも、わたくし的には高評価。ちょっと中島貞夫や鈴木則文を思い出したりしました。

PS 笑い所は意外と少なかったのですが、「脱獄王ごっこで子供がけが」という新聞の見出しには大受け。「そのガキ、いったい何やらかしよったんやろ」と内心大笑いでした。笑い事ではないんですけど(笑)。

(2010.1.20 梅田ブルクセブン・7)






海角七号 君想う、国境の南


2010年の映画初め / ★★★★


台湾金馬奨を獲得した本作、中国政府が上映禁止にしたとかしないとかで、映画ファンよりも右寄りの人たちの間で話題になったのが一昨年のこと。ようやく上映という感じですが、その間に絶賛の声とともにそれほどでもないという噂も聞こえてきて、期待度低くして観に行きました。

結果は日本映画でいうなら『ALWAYS 三丁目の夕日』、香港映画なら『ミラクル7号』といった感じの笑って泣ける群像劇、ツボを押さえた脚本と演出でとても楽しめる娯楽映画でした。ただ笑わせ方はかなりベタで、最初の方では私も「あれれ」と思いましたが、「茂じいさん、田んぼに転がるの図」でなぜかお笑いモードが起動し、そのあとはやたらと面白かった(笑)。憎めない登場人物が織り成すドラマの、明るさと軽味が心地よい作品でした。

場内は中高年の男性が多かったのですが、あの人たちも楽しめたのか、ちょっと心配。日本統治時代のエピソードはあくまで背景で、現代の日本人歌手の前座を務めることになった寄せ集めバンドの話が主筋。というわけで音楽映画でもあり、野外ライブのシーンは大いに盛り上がってちょっと感動。でもいちばん好きだったのは、手紙のバックに流れる日本風の曲。三度目ぐらいからは、その抒情的な美しいメロディだけで泣けてきました。

キャストも、「自称人間国宝」の茂じいさんを筆頭に、みんなとても個性的で愉快です。その中で主役のふたりはちょっと演技が硬かったような・・・・。「マラサン」の兄ちゃんは見たことある顔やなあと思っていたのですが、馬念先という名に心当たりがあり検索したらビンゴ。十年ぐらい前の『ラブゴーゴー』という作品で、ミュージシャンになる夢が破れ帰郷する青年を演じていた人でした。で、今はお酒のセールスマンとして頑張っているという、まるで続編のような設定(笑)。余談ながら、『ラブゴーゴー』もとってもキュートな群像劇で、手紙のシーンもあったっけと、ちょっと思い出にふけってしまいました。

台湾人の話す日本語があまりにもヘタで聞き取れなかったのは残念、ここも字幕がほしかった。しかし台湾語には印をつけて区別するというのはグッドアイディア。普段は北京語なんか使わないローカルな町の、いかにも台湾らしい大らかな(いい加減ともいう、笑)温かさに、帰り道ではぽかぽか気分の冬の一日でした。

(2010.1.12 梅田ガーデンシネマ・1)





星取表点数

★★★★★ 100点
★★★★☆  90点
★★★★    80点

以下略




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