Vivien's CINEMA graffiti 7




中国の植物学者の娘たち


小さな革命 in エキゾチック・チャイナ / ★★★★


『小さな中国のお針子』のダイ・シージエの最新作。「自我や人間性の解放は旧体制から見れば抑圧の対象となる」という主題は前作と共通しているのですが、同性愛を絡めて描かれた本作、非常にロマンチックで耽美的な作品になっています。

ダイ・シージエは下放の経験もある中国人監督ですが、フランスに長く滞在し、祖国を見る視線に幾分エトランゼじみたものが感じられるのが興味深いところです。同性愛という題材から、中国での撮影を拒否され、また主役をオファーした周迅にも出演を断られた経緯があるのですが、それもプラスに転じています。ベトナムでの撮影や中仏混血女優の起用などが、エキゾチックなムードを生み出し、衣裳や美術もさりげなくお洒落で、厳密なリアリティという点からすれば、疑問もなくはないのですが、目には心地よくとても楽しめました。

さらに欠点をあげるなら、物語はちょっと図式的で、男性キャラクターの描写にも深みはない。しかし、ふたりの女性のラブストーリーという側面に魅了されました。同性愛といっても、異性に出会う前に、同性の中に最上の理解者を見つけてしまったという感じで、互いの孤独を慰めあううちに、友情が愛情に深まって行くふたりに共感するところがありました。それは同時に、男性優位社会の中では人間性の解放にもつながるものであり、厳格な父親にふたりが反旗を翻すところなどは、さながら小さな革命といったところ・・・・。湖に浮かぶ小島(ボートで行き来するところがギドクの『春夏秋冬そして春』を思い出させます)、そのむせ返る緑や流れる水の間で展開されるラブシーンも官能的で美しく、思わずうっとりでした。

キャストではリー・シャオランが印象に残ります。香港映画『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート』の悪女役もけっこう好きだったのですが、今回は全然違う役柄で好演。ボディラインも美しく、特にお尻の曲線にため息が・・・・。ちょっと誤解を招きそうな発言ですが、本当なんだから仕様がない(笑)。

(2007.12.19 梅田ピカデリー・3)






花蓮の夏


永遠のトライアングル / ★★★★☆


少し前に読んだ金城一紀の小説『映画篇』の中に、ビデオ屋さんのアルバイト店員から、毎日おすすめのビデオを借りることになった女性の話があるのですが、ある日貸してもらったのは『ラブ・ゴー・ゴー』という台湾映画。「薦めてもらわなかったら、一生見ることのなかった映画」という彼女のセリフにもあるように、普通の人には遠い存在のようですが、実は私が一番好きなのは台湾映画。一昔前には「侯孝賢と楊徳昌(合掌)の映画があれば、他の映画なんてどうでもええやん」なんて豪語していた時期もあったぐらいで、その後沈滞が続き寂しい思いをしていたのですが、去年あたりから上映本数が増えて喜んでいます。

前振りが長くなりましたが、もうベストテンもそろそろ固まってきたこの時期に、またも現れた衝撃の台湾映画。わたくし的には今年のベストスリーに入るほど心ひかれる作品でした。

男ふたりと女ひとりの青春恋愛映画。同性愛も絡めてあるので好き嫌いが分かれるかもしれませんが、自己に対する不安や他者への揺れる想いなど、青春期のみずみずしい感情が鮮やかに刻印された作品でとても共感しました。ラストが意外で、「えっ、ここで終わり」と思わず心の中で叫んでしまいましたが、一拍置いて猛烈な切なさに襲われ、エンドロールの間、声を殺して泣きました。この痛いほど切ない感じ、王家衛の『欲望の翼』を初めて観た時を思い出させます。

鑑賞後に読んだチラシに、「王家衛の洗練と侯孝賢の文学性を併せ持つ作家」と紹介されていた陳正道、1981年生まれだそうで、いゃあ、若いですねえ。確かに映像のセンスは際立っており、林志堅の撮影も素晴らしく、シネスコを効果的に使った画面に何度かため息が・・・・。××さんが指摘されているように、アップも多用していましたが、俳優陣が魅力的かつ好演で、その表情にも引き込まれました。

同性愛という題材は異色ですが、普遍的な感情が描かれた、「年齢を重ねる前に、“若さ”のにおいと、愛に対する“純粋”と、そして“迷い”が消えてしまう前に、この映画を撮りたかった」という監督のメッセージ通りの、心をゆさぶる青春映画になっています。

音楽には過剰の感もありましたが、この独特の青春メロドラマの世界には相応しかったと思います。と、書いてはみたものの、夢中だったのでよく覚えていないのです。ピアノの音がずっと聴こえていたような・・・・。確かめるために、多分、もう一度観に行くことでしょう(笑)。

(2007.12.1 シネマート心斎橋・1)







転々


そこそこ楽しい。 / ★★★


三木聡の作品は『イン・ザ・プール』を観ただけ。それがあまり好みじゃなかったので、その後はパスしていたのですが、本作は主演のオダギリジョーと三浦友和に興味があって観に行きました。

ふたりの顔合わせによるある種の化学反応を期待したのですが、今回のオダジョーはちょっと冴えない感じ、三浦友和も案外普通。ふたりとももっと底力のある役者さんだと思うので、その辺はちょっと不満です。でも、ふたりが歩く東京の風景、特に下町系の風景に和みました。それに続々出てくるヘンな人たちも楽しかったですね。特に「さすらいのギターマン」、私も絶対ついて行くと思います(笑)。

『時効警察』風の小ネタ満載も楽しめましたが、二列ぐらい後に馬鹿笑いする人(男)がひとりいて、雰囲気ぶち壊しでした(笑)。「ギャハハ」と笑うような可笑しさじゃないですよね。「ムフ」とか「グフッ」って感じですよね。私の隣の人はついに一度も笑わなかったのですが、心の中では笑ってたのかな。けっこう周りが気になったということは、それほど集中していなかったということで、三木監督との相性はあまりよくないみたいです。

(2007.11.25 梅田ガーデンシネマ・1)






この道は母へとつづく


非情の中のリリシズム / ★★★★


久々のロシア映画。ちょっと泣かせ系の映画なのかなと観るのを躊躇していたのですが、お涙頂戴とは無縁のとても気持ちのよい作品でした。

主人公は孤児で舞台は孤児院なので、もちろん楽しい映画ではないのですが、子供の心情に寄り添う物語はみずみずしく、厳しい状況にある子供を捉える映像もリリカルで、とても心に響きました。

イタリア人夫婦の養子になることが決まったワーニャ、他の孤児からは羨望と嫉妬を込めて「イタリア人」と呼ばれるようになりますが、ある出来事をきっかけに実の母を捜し出そうと決心します。「僕が行かないと、ママは死んじゃう」、居ても立ってもいられなくなったワーニャ・・・・、その子供っぽい想像力の飛躍に、自分の子供時代を思い出してしまうような実感があり、何だか共感してしまうのでした。そんな彼を助けてくれる孤児院のお姉さん、あるいは旅の途中で出会う人々の温かさ。混乱した社会情勢、決して楽ではない人々の暮らし、そんなロシアの現状を描きつつ、それでも生きる子供たち、大人たちの姿に励まされました。

音楽も印象的。モビールに吊るされた硝子の破片が触れ合うような断片的な音で、決して盛り上げようとはしない演出とともに新鮮でした。

(2007.11.25 梅田ガーデンシネマ・2)






クローズ ZERO


男気炸裂、熱くて爽快! / ★★★★


原作の漫画は知らないし、前情報もほとんどなしだったのですが、野球少年が甲子園を目指すように、秀才が東大を目指すように、喧嘩に強い男子がその頂点を極める場としての鈴蘭男子高校、そこで男はいかにあるべきかが主題。私なりにそう解釈して観ていたのですが、男気炸裂、熱くて爽快な本作、とても楽しめました。

不祥事を秘書のせいにする政治家や、偽装事件をパート従業員のせいにする老舗のぼんぼんとかを試写室に集め、『時計じかけのオレンジ』のように目を閉じられないようにして、この映画を見せてやるとよいのではないでしょうか(笑)。

一番上に立つ人間は体を張らなあかんのよ。たとえ部下が自分の一存でやったことでも責任を取らんとあかんのよ。それが男ぞ、それが人間ぞ、と私も熱くなってしまいましたが(笑)、それにプラス、度量の大きさも併せ持った鈴蘭の悪ガキたちにシビレました。喧嘩に明け暮れる不良を描きながら、意外にマジに人の生き方を納得させてくれる本作に感動です。

キャストも最高。演技力にはすでに定評のある小栗旬と山田孝之、今回は意外な役柄で新しい魅力を見せています。とにかく、ふたりのカッコよさにドキドキ。その周りにたむろする面々も個性派ぞろいでニコニコ。わたくし的にはマッキーとリンダマンが特に好きでした。しかし、キーパーソンはやっぱり拳さんでしょうね。悪ガキに混じる中年チンピラに涙々! なのでした。

アッという間という感じで、鑑賞後に上映時間130分と知ってビックリ。そういえば終盤の乱闘シーンがかなり長かったのかな。でも、武器を持っての接近戦は生理的にイヤだけど、素手でのファイトシーンは反って爽快、もっと長くてもかまいません(笑)。若干カメラでカバーしている感はありましたが、若い俳優陣の本気のガチンコは見応えたっぷりだったし、雨や夕陽など、演出もケレン味たっぷりで楽しめました。

登場人物が多くて把握しきれていない部分もあるかもしれませんが、人物の紹介などもストーリーに織り込み、観ているうちにだんだん了解されて行くという語り口にも引き込まれました。三池作品としては、お楽しみテンコ盛りで反って間延びした『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』より、タイトでシャープな印象のある本作の方が、わたくし的には高評価です。でも、どっちも好きなんですけどね。

(2007.11.21 TOHOシネマズ伊丹・8)






オリヲン座からの招待状


前半は○、後半は△。 / ★★★


宮沢りえと加瀬亮が好きで観に行ったので、内容はほとんど知らなかったのですが、ある映画館の衰退を過去の名画を絡めて描くという題材はわたくし的にはまさにツボ。さらに劇中で上映される映画の中には、とても好きな作品もあってうれしくなりました。

ただ、その題材が十分に生かされていたかというとちょっと疑問。特に後半、単なるエピソードの羅列になってしまった感があります。作り方によっては、単なる物マネではなく、本当に「ニュー・シネマ・パラダイス in 京都」にもなり得る素材だったのにと、残念な気がしました。

掲示板で×さんが指摘されている年齢、私もとても気になったのですが、私は加瀬亮の方がミスキャストだったと思います。年齢を聞かれるシーン、頭の中で「24歳ぐらいかな」と思ったので、答えを聞いてビックリ。どう見ても17歳には見えません。ここはやはり、本当に十代に見える俳優さんを起用して、年齢差15才の純愛を納得させていただきたかったと思います。

しかし前半は、宮沢りえの好演もあり情感たっぷりでとても好きでした。特に鰹節から自転車までのシークェンスが素晴らしかったです。宮沢りえは全体の感じも好きなのですが、各パーツも魅力的。今回は特に袖なしの服から伸びる細い腕にうっとりでした。綿レースのブラウスなど、衣裳も素敵でしたね。加瀬亮も年齢的な問題を別にすれば健闘だったと思います。その他、仄かな光に満ちた古い映画館や京の町屋の風情など、とてもよい雰囲気でした。というわけで、やはり後半が惜しまれます。

PS 蛇足ながら、二人が喪服で渡る木造の橋も気になりました。小津作品に登場したこともある有名な橋ですが、わたくし的には『ZIPANG』の百人斬りのインパクトが強くて、橋が画面に映ったとたん高嶋政宏の顔が・・・・。いいシーンだったのに、気が散って残念でした(笑)。

(2007.11.14 池田中央シネマ・3)







父子


大阪アジアン映画祭で観ました。 / ★★★★☆


もう観る機会がないと思っていた本作、大阪アジアン映画祭で上映されたので観て来ました。パトリック・タムの作品は数年前に『烈火青春(レスリー・チャン 嵐の青春)』を観たことがあるのですが、唐突な展開に場内には失笑が洩れたりして、正直、私もその良さがよく分からなかったのですが、本作は噂通りのとても見応えのある作品でした。

性格の破綻した父親と無垢な息子の物語。私はその物語以上に語り口に魅了されました。クラシックのピアノ曲からマレーシア歌謡まで、使用されている音楽も魅惑的で、2時間39分という長尺ながら、全然弛緩するところがなかったという印象です。××さんも言及されているベッドシーン、私もとても印象に残りました。二度目の方、まず音楽が突然大音量で始まってそのあと・・・・。ドキドキうっとりって感じでしたが、主人公の心情も確実に伝わって来ます。冒頭の母親の家出騒ぎやクルーズに出かける朝のやりとりもヘタな犯罪映画よりもよほどサスペンスフル、演出と編集の妙を堪能できます。

李屏賓の撮影も特筆ものでした。途中で気がついたのですが、舞台は香港ではなくマレーシア。その南国の空気感が魅惑的に捉えられており、美しい自然やエキゾチックな街並みといった外景はもちろん、陰影に満ちた室内シーンも素晴らしかったです。

キャストも最高でした。アーロン・クォックは意外な役柄でしたが、ろくでなしが見せる子供への本能的な愛情には胸が痛くなります。それ以上に胸をゆさぶるのは子供の健気な表情。役になりきっていた子役が素晴らしかったです。役名は楽園、字幕にその名を見た時、境遇とのあまりの落差に呆然・・・・。女優陣では、主演のチャーリー・ヤンも好演でしたが、娼婦を演じるケリー・リンがそれ以上に印象に残りました。

「父と息子の相克」というのは普遍的な題材ですが、息子を年端も行かない子供に設定したところに作劇の妙を感じます。物語が行き着くところまで行っても、いくらかの余白が残るという感じで、非常に重い物語であるにもかかわらず、かすかな甘美ささえ残ります。ラストは東洋的といってもよいのでしょうか。それまでの描写が冷徹であった分、さらに心に染みるようでした。

(2007.11.6 そごう劇場)






サイボーグでも大丈夫


保障期間、一生。 / ★★★★☆


オープニングのタイトルバックと音楽に「シザーハンズ」を連想したのですが、作品全体のテイストも、ブキミ可愛い「ビートルジュース」とか、初期のティム・バートンを思わせるものがあります。実はこういうテイストは大好きなもので、映画が始まる前に感じていた眠気(寝不足の上にその日の二本目の鑑賞)も吹っ飛んでしまいました。

精神クリニックを舞台にした、人間をやめサイボーグとして生きることに決めた女の子ヨングンと、母親に捨てられアンチ・ソーシャルになった男の子イルスンの、ちょっと奇妙ではありますが、すごーく可愛いラブ・ファンタジー。パク・チャヌクがこんな映画を撮るなんてビックリしましたが、その意外さもあり、またワルツに乗って展開される真昼の殺戮シーンなど、いかにも彼らしいシーンもありで、とても楽しめました。

ただ、語り口はやはりトリッキーで、妄想も現実も区別なしに並置されたり、中盤までは話がよく見えないんですけど、登場人物のやることなすこと、ヘンだけどとても可愛いんですよね。わたくし的にはすっかり引き込まれました。同好の士がいらしたら、「伝達」とか「靴下スリスリ」とか、一緒に遊びたいです(笑)。

チャヌク作品を観終わっていつも感じるのは、「今という時代を生きる哀しみ」と名づけたいようなものなのですが、本作ではそれが出発点。現実に傷ついた無垢な子供の悲しみを体現するヨングンとイルスン、観ているだけで切なくなります。しかし、ヨングンはイルスンに救われ(このシークェンス、すごくすごく好きです)、ヨングンを救うことでイルスンもまた救われる・・・・。世界の片隅で傷ついた心を触れ合わせるふたり、そんな彼らを包み込む温かさに胸を打たれる作品でもありました。

主演のふたりが素晴らしかったです。自動販売機と会話する姿に思わず微笑んでしまう不思議少女は「箪笥」のお姉さん、全然別人になっていました。天真爛漫な笑顔が愛おしいお面少年はピ。韓流にうとい私でも名前だけは知っていたけど、春の陽光のような歌声が素敵でした。

・・・・帰り道、頭の中はヨーデルだった(笑)。

(2007.10.31 シネマート心斎橋・1)






ミリキタニの猫


兄ちゃん、猫の絵を描いて。 / ★★★★☆


ホームレスの画家のドキュメンタリーと聞いて、もっと牧歌的なものを想像していたのですが、あまりに濃い中身に驚きました。「ひとりの人間の数奇な人生」という私的な部分と、「第二次世界大戦から9.11までの歴史的背景」という社会的な部分とが分かちがたく絡み合って、74分という上映時間にぎゅっと詰まっているという感じです。

主人公のジミー・ミリキタニは日系アメリカ人、80歳。ニューヨークの路上で絵を描く姿に、本作の監督リンダ・ハッテンドーフがカメラを向けたのがすべての発端。9.11を契機として彼女の部屋に同居(居候)することになり、その過去が明らかになって行きます。

ブロークンな英語でアメリカを罵る老人にはそれだけの事情があったわけで、自ら市民権を捨てた反骨の人生、その頑固さ、その一徹さ、我が日本では絶えて久しいサムライが異国の路上には生き続けていたのか・・・・という感慨を覚えますが、「アイツはサムライだ」と揶揄されるようなちょっと傍迷惑な部分もあったりするお人柄(笑)、その人間味あふれるパーソナリティにまず魅了されてしまいます。

そして後半、日本語で歌う望郷の歌に猫がミャーオミャーオと唱和したりする微笑ましいシーンを交えながら、国家に傷つけられた魂が人との出会いによって癒されて行く過程が描かれ、涙なしでは観られません。誇り高い路上画家と心優しい映画監督の偶然の出会いがもたらしたもの、その大きさに胸を打たれ、そして勇気づけられる作品でした。

(2007.10.31 シネ・ヌーヴォ)







めがね


たそがれ教!? / ★★★★


予告編の印象が「完璧に二番煎じ」で、少し迷いながら観に行ったのですが、その予想通りだったにもかかわらず、やっぱり心地よい荻上ワールドでした。個性たっぷりの役者陣が醸し出す絶妙の雰囲気に、おいしそうなお料理やゆったりとした音楽、吹き過ぎる風や波の音もあいまって、すっかりリラックスしてしまいました。特に画面いっぱいに広がる海にうっとり・・・・。

その後、みなさんのレビューを拝見していたら、カルト宗教とかYHとかオルグとか、穏やかでない言葉が散見されてちょっとビックリ。でも考えてみると、宣伝コピーが「何が自由か、知っている」ですから、知っている人が知らない人を啓蒙しようとする映画なわけで、上記の言葉もあながち的外れではないのかもしれません。

しかし、実はたそがれることがけっこう得意な私、反発を感じるどころか、さりげない手練手管を繰り出す教祖サクラ&一番弟子ユージと、抵抗しながらもついには説得されてしまうタエコさんとの攻防を楽しんでしまいました。で、結果的にはタエコさんも心地よい時間を手に入れることができたわけで、めでたし、めでたし、じゃないですか(笑)。

前作「かもめ食堂」は人づきあいの苦手な私にはとても感動的だったのですが、それほどの有難味はなかったにしても(笑)、本作もいろいろと示唆に富む作品でした。

(2007.10.22 梅田ガーデンシネマ・2)






長江哀歌


浪奔浪流 / ★★★★☆


本作は、国家的プロジェクトのダム建設により、破壊されて行く街の相貌を捉えた叙事詩であり、運命を受け入れ、しかしそれでも生きて行く人々を描いた叙情詩でもあります。同時に、映画や流行歌といった大衆文化に彩られた庶民列伝でもあり、市井に生きる人々が忘れられない印象を残します。主人公は人を捜してその街を訪れたひとりの男とひとりの女。彼らと、彼らが出会う人々の間にひととき生まれる温かさにも胸を打たれます。

前作「世界」で、ある種の自由を手に入れたかのような印象を受けた賈樟柯、本作ではさらに大きな自由を手にしたかのようです。人間の営為を見つめるその眼差しには、慈愛めいたものまで感じられ、そこに何よりも感銘を受けました。とにかく映画を観終えた時、私の心を捉えたのは、何もかもが愛おしいといった感情でした。

(2007.10.10 テアトル梅田・1)






包帯クラブ


柳楽ファンです。 / ★★★★


柳楽クン目当てで行ったので、作品そのものにはそれほど期待していなかったのですが、なかなかに愛おしい作品でした。高校生の優しさごっことその成長、物語は多分に予定調和的ですが、軽いユーモアを交えつつ描かれることで清々しい青春映画になったように思います。単なる「ごっこ」ではなくなって行く後半、若いキャストの好演もあり、胸が熱くなりました。

心に負った傷のせいで自分を傷つけずにはいられないディノ、その奇矯さと繊細さのミックス具合が絶妙の柳楽クン(怪しい関西弁も楽しかった)、今回、大器の片鱗を見せてもらったという感じで、うれしくなりました。普通の女の子の成長を繊細に演じた石原さとみも印象に残りました。

画面に漂う冬の空気感が心地よく、また青い空と包帯の白の対比も美しく、図らずも癒されてしまった私です。

(2007.9.27 梅田ブルクセブン・5)






サッド ヴァケーション


青山真治の女性賛歌!? / ★★★★☆


「EUREKA」が初めて観た青山作品ということで、「Helpless」は未見のまま拝見した本作でしたが、2時間16分という長尺にもかかわらず、すっかり引き込まれました。予測のつかない展開、興味深い人間描写、光石研と斉藤陽一郎の漫才めいたやり取りは今までにない味わいですが、それらを含めた語り口にも魅了され、わたくし的には映画を観る歓びに満ちた作品でした。

石田えりの演じる母親がやはり圧巻。性格的にはわりと男性度の強い自分としては、浅野忠信の演じる健次に共感することしきり、胸の中で「たまんないよねえ」なんて呟いたりして・・・・。その健次の、中国人の子供に向ける優しさと相反する、実の母親に対する憎しみ。この母と息子の確執は悲劇をもたらし、しかしそれでも揺らぐことのない母性。物語は神話的な様相まで帯び始め、もう呆然としてしまいました。

そんな私を救ってくれたのは(笑)、中村嘉葎雄の体現する父性や宮崎あおいの少女性。社会から落ちこぼれた人々とその吹き溜まりのような場所、そこに存在する温かさや優しさにも癒されました。

脇でも光るオダギリジョーを始めとして、個性派ぞろいの脇役陣が出過ぎない好演で、素晴らしいアンサンブルを見せています。初めて見た俳優さん(健次の異父弟、片言の日本語を操る中国人ヤクザ)も強く印象に残りました。

(2007.9.26 シネリーブル梅田・2)






プラネット・テラー in グラインドハウス


B級的感動! / ★★★★


ロバート・ロドリゲスはそれほど好きじゃないし、ゾンビ映画も好んでは観ない。そんな私ではありますが、セットもんの片方を観ないというのは、どうにも落ち着かないし、片足マシンガンのおねえちゃんにはちょっとそそられる(笑)。で、気が進まないながらも観に行ったんですけど、けっこう感動しちゃったんですよ、これが。

泣き虫のゴーゴーダンサーが最強のヒロインに・・・・。チェリー・ダーリン、ホント、カッコよかったですねえ。片足を失うことによって、自分の足で立つことになる。何かを失って、本当の自分を見つける・・・・。泣けるじゃないですか。

安っぽいストーリーの中で、最低のヒロイン(ヒーロー)が放つ最高の輝き! これぞ、B級的快感、B級的感動で、二本立てとか三本立ての映画館に通っていた昔を思い出してしまいました。

医者とダンサー、普通なら出会うこともないふたりの女の間に、迫り来る危機を前にして生まれる友情。あるいは、今までヤバい道を歩いてきたであろうアウトローが最後に見せるヒロイズム。もう、終盤はずっと泣き続けていた私。まさか、ゾンビ映画を観に行って、泣かされるなんて思わなかったですよ(笑)。

アメリカ映画では久々のマイケル・ビーン(去年、香港映画「ドラゴン・スクワッド」で再会してビックリした)、兄貴との最期の会話には泣き笑いでした。タラも出てたけど、何も言いたくない(笑)。そのあたりのユーモア描写も楽しかったです。

グラインドハウスの再現という点から見れば、「デス・プルーフ」よりもその趣旨に合致しているような気もする本作、わたくし的には涙と笑いに満ちた何とも愛おしい作品でした。

(2007.9.24 伊丹TOHOプレックス・4)






スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ


What's the hell? / ★★★★


題名を聞いただけで思わず笑ってしまう本作、期待していた通りのヘンな映画(笑)で楽しめました。ちょっとヤリすぎのところがなきにしもあらずでしたが、そのデタラメさこそを楽しむ映画、たまにはこういうのもいいんじゃないでしょうか。

何といっても役者さんたちが最高。みんな楽し気にのびのびと怪演していて、観ているこっちまで楽しくなりました。なかでも佐藤浩市(どこがヘンリーやのん?)VS伊勢谷友介(いょお、ナルシスト義経!)のナンバーワン対決と、その横でうろうろしている堺雅人(微妙な表情に笑けた)VS安藤政信(今回も行っちゃってます)のナンバーツー対決にニコニコ。でも一番好きだったのは、やっぱり裏主役(笑)の桃井かおりやねえ。いゃあ、カッコよかったわあ。その他、塩見三省(先住民が似合いすぎ)や松重豊(泣かされた)といった個性派ぞろいの脇役陣も素晴らしかったです。

中盤ちょっとダレるのが惜しいけれど、終盤はちゃんと盛り上がり、それも大盛り上がり大会でワクワクドキドキ。ラストを締めるサブちゃんの歌もキマってたし、観終わった印象は悪くなかったです。あそことあそこを削って(観た人にはどこか分かりますよね)1時間40分ぐらいにしたらベストだったのでは・・・・。美術、衣裳なども見応え充分でした。

そうそう、タラちゃんと某ゲストスターの対決する、清順テイスト(CGの使い方に「オペレッタ狸御殿」を連想)のプロローグには大笑い、これも楽しかったです。で、点数はちょっとオマケして80点。

(2007.9.17 伊丹TOHOプレックス・6)






シッコ


他人事ではなかった。 / ★★★★


ムーア先生、今回はアメリカの医療事情に突撃! ということで、自分には関係のない話でパスしようかなと思ったのですが、評判がよいみたいで観に行きました。

結果は、おもろうて、やがて哀しき・・・・、って感じでした。アメリカには日本のような国民皆保険制度がないというのは知っていたのですが、あまりにも理不尽な医療事情に怒りさえ湧いてきました。

比較のために例示される他国の実情が確かに良い面ばかりで、まゆつばな感はあったのですが、アメリカ国民の覚醒を促すためのプロパガンダとしては成功していたのでは・・・・。

我が国でも、保険料が払えなくて健康保険証を取り上げられたという事例などを見聞きする今日この頃、決して他人事ではないと思ったりもしました。

(2007.9.5 テアトル梅田・1)






ドッグ・バイト・ドッグ


死屍累々の社会派アクション / ★★★★


香港製の異色アクション。主人公はカンボジア人の殺し屋と彼が逃走中に出会う中国人の少女、そして彼らを追う刑事。この言葉の通じない三人の追いつ追われつが、緊張感を伴って描かれます。

三人とも社会から疎外されている人間。殺し屋は子どもの頃から訓練され、人を殺すことに何の葛藤も感じない。父親を英雄視して同じ職業を選んだ刑事は、その父が犯罪に手を染めていたという衝撃から立ち直れないでいる。そして中国から密入国してきた少女。そのような人間を生み出す社会の混沌に対する怒り、それが基調にあるような感触を覚え、見出しを社会派アクションとしました。

前半の香港での逃走劇は、色調を抑えた映像がスタイリッシュで見応えがあり、また終盤のカンボジアでの死闘にはただただ圧倒されました。しかしラストは、希望を示そうとした意図は分かるのですが、完全に成功したとはいい難い気がします。

殺し屋のエディソン・チャンと刑事のサム・リー以外に、ジョニー・トー作品の常連たちが脇を固め、それぞれ人間味のある刑事を好演。主演のふたりも熱演だったと思いますが、サム・リーの驚愕顔(ムンクの「叫び」みたい)はちょっとワンパターンな気がしました。

でも実は、私もあんな顔していたかも(笑)。何度も驚いて呆然としたから。何か訳の分からない熱気に満ちた作品でした。一見の価値ありです。

(2007.9.5 天六ユーラク座)






デス・プルーフ in グラインドハウス


「ごめんなさい」ではすみません(笑) / ★★★★☆


いかがわしいけど、面白い。いやいや、タラちゃんの場合、「いかがわしい」はほめ言葉。「いかがわしくて面白い」と言い直します(笑)。セクシーなおねえちゃん、スリルとサスペンス、そしてユーモアに満ちた本作、とても楽しめました。

弛緩1、緊張1、小休止、弛緩2、緊張2という構成の、緊張2からラストまでのエンディングが秀逸でした。大いなる解放感に誘発された馬鹿笑いのうちに、突然訪れる「The End」が小気味よく、映画作家タランティーノの本領発揮といったところ。そのあと、タラの映画魂に感動したのか、それとも時代遅れの変態男に同情したのか、ちょっと涙も出たりして・・・・(笑)。

弛緩1、弛緩2には確かにダラダラ感が濃厚。しかし、ここでのタメがあるせいで、その後の緊張感が倍増したような・・・・。緊張1には、心臓が凍りつく思い。そして、緊張2にはハラハラドキドキ、まさに手に汗握りました。

オープニング・タイトルで「自分自身を演じる」とクレジットされた、ゾーイ・ベルという人がなかなか登場しない。一体、何者? と思っていたら・・・・。いゃあ、やってくれました。そのスタントだけでも一見の価値ありです。CG全盛、「リアルな嘘」が氾濫する現在の映画界に、タラが挑戦状を突きつけられるのも、こんな凄いおねえさんがいたから。同時に、それが女性賛歌になってしまうのも、タラの面目躍如ですよね。

ダラダラ続くガールズトークも、話題が映画だと面白い。自慢じゃないけど、「ダーティ・メリー クレイジー・ラリー」はリアルタイム、映画館で観ました(って、やっぱり自慢してるじゃん。ごめんなさい)。「バニシング・ポイント」もテレビで観ました。でも、この頃のカーアクションだと「ラスト・アメリカン・ヒーロー」がいちばん好き。家業の密造酒を運ぶためにテネシーの山中でパトカーと追いかけっこしているうちにドライビングの腕をあげ、ついにはカーレースのチャンピオンになった実在のレーサーをモデルにしたジェフ・ブリッジス主演作です。と、古い映画のことなんか思い出してしまうのも、タラ効果なんですねえ(笑)。

長い間映画ファンをやってる人間に、時々、ビッグプレゼントをくれるタランティーノ、私はやっぱり大好きです。

(2007.9.1 伊丹TOHOプレックス・5)






22才の別れ〜Lycoris葉見ず花見ず物語〜


大林監督の世代論 / ★★★★☆


大分三部作?の第一作「なごり雪」は、私の2002年度ベストワンだったのですが、振り返ってみれば賛否両論だったのでしょうか。本作も賛否両論の気配がありありですね。

「なごり雪」ほどは馴染みがない「22才の別れ」、二番の歌詞も知らなかったのですが、その歌詞にそって紡ぎ出される物語、若干のムリヤリ感も何のその、すっかり引き込まれてしまいました。好き嫌いが分かれそうな、ロマン過剰ともいえる大林ワールド、私は断然大好き派です。

前作の「なごり雪」では、捨て去ってしまったものに対する主人公の悔恨に胸をゆさぶられましたが、本作でもそのテーマは踏襲され、さらに世代論が付け加えられているのが興味深いです。今を生きる若者たちや各世代へのエールとも思えるような本作、ノスタルジーに涙しながら、励まされるところもありました。

ふたりの新人女優さんには多少の覚束なさを感じましたが、それでも、脇を固めるベテラン陣の演技ともども楽しめました。特別出演といった感じの根岸季衣、南田洋子、左時枝、それぞれのワンシーンは涙腺を直撃。市井に生きる人々の優しさが身にしみます。

大分、福岡、東京、各地の風景も楽しめました。特に電車が何台もすれ違う東京のシーンと九州の野焼きには息を呑みました。

(2007.8.23 テアトル梅田・2)






怪談


見所多し / ★★★★


ホラーは好きじゃないのですが、怪談と来れば懐かしくもあり・・・・。しかし実をいうと、お目当ては菊之助さん。で、女優陣にはさほど期待していなかったのですが、黒木瞳が素晴らしかったです。わたくし的にはあまり馴染みのない女優さんだったのですが、菊之助と質感が似ているというか(変な言い方ですいません)、要するに、とてもお似合いでした。ふたりの出会いの段、背景となる江戸情緒や情感たっぷりの演出もあいまって、とても楽しめました。そこで引き込まれてしまったので、その後の豊志賀さんの嫉妬も身につまされ、最後はもちろん涙々でした(怪談、観に行って、泣いちゃったよお。笑)。

井上真央も好演で、前半は見応えがありましたが、中盤から少し失速したのが残念でした。他の女優さんも悪くはなかったのですが、役柄が地味で損をしていますよね。瀬戸朝香は儲け役だと思うので、もっと怪演すればいいのにと思いました(あだなお姐さん、着物が素敵でした。衣裳デザインは黒澤和子)。

菊之助さんはもちろん素晴らしかったですよね。登場のシーン、思わず心の中で「いろおとこ」と呟いてしまいました(笑)。ちょっと微笑んでいたりするのは、自分の魅力を充分意識してるからなの!? でも、この段階ではまだ無垢なんですよね。そんな男が己が美貌と因縁に操られ、堕ちて行くさまが何とも怖い。しかし、共感するところがなくもない。惚れた女でも面相が変わればうとましい、自分の子供でも・・・・。自分にもそういうところはなきにしもあらずで、そんな人間の弱さにも泣けてしまうのでした。

美術は種田陽平、音楽は川井憲次、意外な人選ですが、これがまた楽しめました。なかなか見所、聴き所の多い作品だったと思います。

(2007.8.18 梅田ピカデリー・4)






プロヴァンスの贈りもの


深みはないけど楽しめる / ★★★★


普通なら観に行かないタイプの映画なのですが、ラッセル・クロウがけっこう好きなもので、同じ映画館でやっている「天然コケッコー」のあと、つい連チャンしてしまいました。しかし、ラッセル・クロウ主演のリドリー・スコット作品がミニシアターで公開なんて、ちょっと寂しい感じ。こういう作品の観客層というのは限定されるのでしょうか。

それはともかく、すぐにストーリーが読めてしまうような作品なんですけど、そこに到るあれこれがなかなか楽しめました。プロヴァンスの陽光や趣きのあるシャトーなど、ロケーションがまずいいんですよね。それだけでも一見の価値ありですが、さらに時折挿入される子供時代のエピソードが心地よい隠し味になっていて、思わず感じる幸福感にウルウルしてしまいました。

キャストがとてもよかったと思います。ラッセル・クロウはこういう役をやるにはちょっと優雅さが足りない気もするのですが、それを補うかのように、今回は稚気全開でとてもチャーミング、もうニコニコでした。さらに女優さんが老いも若きも個性派ぞろいで、これもニコニコでしたね。みんな素敵だったんですけど、私の一押しはロンドンの秘書嬢。脇役なんですけど、インド系のエキゾチックな雰囲気がよかったですよ。

で、ラッセル・クロウの子供時代がフレディ・ハイモアで、叔父さんがアルバート・フィニー、なかなか豪華なキャストでした。

ただ難をいうと、音楽が過剰だったように思います。しかし、暑気払いにはぴったりの肩肘張らずに楽しめる作品でした。

(2007.8.16 梅田ガーデンシネマ・2)






天然コケッコー


和みポイントが一杯 / ★★★☆


四季が移ろう一年という時間、その中で成長する少女を描いた本作、当初は山下監督らしくない題材と思ったのですが、意外や、正攻法でゆったりと描かれる物語は心地よく心に染み込みました。思わずニコニコするエピソードや、はっとするシーンなど、印象に残るところがいくつもありました。ただ、わたくし的には、主役のふたりの初恋にあまり共感できなかったのでちょっと減点です。

すごく個性的なのに、ちゃんと自分の持ち場に納まっている役者さんたちが素晴らしかったです。中でも学校の男先生が、私は大好きでした。顔を見てるだけで和みました。さっちゃんを始めとして、子供たちもみんな素晴らしかったです。

猫がいっぱい出て来るんですよね。おじいちゃんやおばあちゃんや猫ちゃんに和みました。あっ、方言にも和みました。

大沢クンの母とそよちゃんの父のエピソードは「松ヶ根」の方に行ってしまいそうで、ちよっとドキドキしましたが、こういう映画にもそういうテイストを盛り込んでしまう山下監督が好きです(笑)。

(2007.8.16 梅田ガーデンシネマ・1)






インランド・エンパイア


Where am I ? / ★★★☆


リンチは特に好きな監督というわけでもないのですが、前作「マルホランド・ドライブ」には魅了されました。で、本作も前情報を入れないようにして楽しみにしていたのですが、観に行く直前に上映時間が3時間と知ってビックリ。リンチの3時間は苦痛か快楽か、ちょっとビクビクしながらも(笑)、この目で確かめて来ました。

前作の主題が女優志願の見た夢なら、本作の主題は落ち目の女優の妄想といえるでしょうか。幾層にも分かれた妄想、映画は現実と妄想の間を行き来し、現実と妄想は互いに侵食しあい・・・・、もう何が何だか、訳が分かりません(笑)。しかし、惨劇の起きそうな予感だけは確固として存在し、それへ向かって内圧がじわじわと高まって行く・・・・。わたくし的にはそういう感じで、すっかり引き込まれ、3時間も苦にはなりませんでした。

役者さんたちの超アップの顔、暗闇に包まれた階段や廊下、ウサギ人間の部屋、「ロコモーション」、いろいろ見所がありましたが、全体としては何か物足りない感もなきにしもあらず。「マルホランド・ドライブ」は、やはり傑作だったと改めて思いました。

(2007.7.31 梅田ガーデンシネマ・2)






街のあかり


ワンちゃんにテヘッ / ★★★☆


カウリスマキの映画は大好きなのですが、今回はちょっと物足りないような気もしました。あまりにもミニマムな描写、あまりにもあっけないラスト。敗者三部作でいえば、「浮き雲」ほどの昂揚感もなく、また、ひとりの女性のために身を犠牲にするという主題に即していえば、「白い花びら」ほどのドラマ性もない。そうはいっても、音楽の使い方や風景の切り取り方が、あいかわらず心地よい作品ではありましたが・・・・。特に気に入ったのは犬の顔。情けない顔のアップには、思わず「テヘッ」と笑いが洩れました。

(2007.7.19 梅田ガーデンシネマ・2)






アヒルと鴨のコインロッカー


彼の物語、僕の物語 / ★★★★


予告編から受ける印象を鮮やかに裏切る本作、とても面白かったです。青春映画としても異色、ミステリーとしても異色、一種のオールタナティブと呼んでもいいような、主流から距離を取ろうとしている、その姿勢をまず評価したいと思います。

キャストがまた最高でした。主演のふたり、瑛太と濱田岳が素晴らしかったです。瑛太の前半と後半、一回観ただけでも唸りましたが、再見して、じっくりその違いを味わいたいという気になります。そして、けっこうシビアな物語の中心で、絶妙の雰囲気を醸し出す濱田岳(彼の発する「はあぁ?」に和みました。笑)。彼がいなかったら、この映画は成り立たなかったのでは・・・・。松田龍平や関めぐみもぴったり役柄にはまっていたし、全体のアンサンブルもよかったと思います。

そして見終わってみれば、本作はやはり心に染み入る青春映画でありました。とても切ない、しかし、共感という主題がもたらす温かさも感じられる・・・・。帰り道で、その物語を反芻しながら、新たな意味を持ち始めたひとつひとつの動作や言葉に胸が熱くなりました。

全てのきっかけになるのが「風に吹かれて」。いまどき、ディランというのにも泣けます。高校時代、私もその歌詞を覚えたりしました(今でも歌えるよ。笑)。

PS 原作は未読でしたが、これはぜひ読みたいと思います。

(2007.7.24 梅田ガーデンシネマ・1)






それでも生きる子供たちへ


子供たちの表情に魅せられる / ★★★★☆


普通なら注目されることのない子供たちに光を当てたオムニバス映画。7つの国の監督が自分の国の子供たちを描いています。ユニセフやWFP(国連世界食糧計画)が製作に協力しているということで、問題意識から出発していると思うのですが、同時に各監督の個性的な作風や豊かな表現に、映画を見る喜びが味わえる一作で、とても感激しました。

ここに描かれる子供たち、生きる境遇は違っても、その現実は一様に過酷です。しかし、それをただ嘆いたり、憤るだけではなく、強靭にしなやかに紡ぎ出される物語・・・・。どれもよかったのですが、とりわけ好きだったのはクストリッッア編とヴィネルッソ編。

クストリッツア編は少年院に収容されている少年が主人公なのですが、たくましいユーモアと楽しい音楽がまるで主人公を励ましているかのよう。思わず私も音楽に合わせて身体が揺れたりしましたが、だからこそ、苦い結末にいっそう胸を衝かれました。クストリッツアは実は苦手で、長編だと疲れてしまうのですが、今回はその過剰さが生み出す奇妙な味わいがとても楽しめました(余韻が深くて、直後のスパイク・リー編の冒頭、身が入りませんでした。ちょっと間がほしかった。リー編も素晴らしかったので)。

ヴィネルッソ編も家庭環境から非行に走る少年を描いているのですが、透明感のある抒情が主人公に寄り添い、胸に染みる切なさを残します。ここで特筆すべきはヴィットリオ・ストラーロのカメラ。影絵や夕暮れの遊園地など、美しい映像が強い印象を残します。

アジアの映画が特に好きな私のお目当てはジョン・ウー編だったのですが、賛否両論のようですね。確かに物語は図式的で、描写もちょっとあざといんですけど(笑)、最後を締めくくるのにふさわしい温かさがありました。とにかく、少女たちの表情に降参(!)、すっかり魅せられてしまいました。

ジョン・ウー編に限らず、子供たちの表情から目が離せない作品でした。もしかしたら、それが一番の見所かもしれません。

(2007.7.16 梅田ガーデンシネマ・2)






サイドカーに犬


思い出の夏休み / ★★★★


どこかへ出かけて何かと出会う、それが夏休み映画の定番だと思うのですが、本作では、何かが向うから自転車に乗ってやって来る(笑)。その何か、変な女・ヨーコさんが素敵でした。けっこう賛否両論のようで驚いたのですが、久々の竹内結子、今までのイメージと異なる役柄を好演していたと思います。

映画全体は淡彩の絵画のようで、アクセントになるユーモアや苦味もくどくなく、心地よい反面、少し物足りなさも感じていたのですが、終盤の切なさにほだされてしまいました。一気に涙で、泣いている自分に驚いたりしました。

松本花奈ちゃん、素晴らしかったですね。実は自分も昔はあんな甘え下手な子どもだったので、ハードボイルドな薫ちゃんには共感するところもあり、そんな女の子が他者と出会うことによって世界を広げるという、一種の覚醒の物語には心惹かれるものがありました。

原作は数年前に読んだことがあるのですが、面白かったという印象以外はあまり記憶に残っていませんでした。昔、RCサクセションのファンだったので、山口百恵の家を見に行って清志郎の話になるところはしっかり覚えていましたが。

鑑賞後に再読してみました。原作は短編なので、映画の方は当然かなり脚色してあるのですが、納得の行く脚色だったと思います。お父さんがちょっと原作と違うのですが、映画のお父さん、古田新太の好演もあり、とても存在感がありました。あっ、弟くんもとてもよかったです。

(2007.7.5 シネリーブル梅田・2)






転校生−さよなら あなた−


真正大林映画を堪能 / ★★★★☆


宮部ミステリーを大林流に料理した「理由」も素晴らしい作品でしたが、「転校生」を25年ぶりにリメイクした本作は真正大林映画!という感じ。懐かしくも楽しく、大林ワールド、堪能させていただきました。

前半は前作と似た展開ですが、後半はがらりと異なる内容。切なくて切なくて、心をかき乱されてしまいました。でも、心の中にすとんと落ちる切なさに頷くところもあり、さすが、大林映画! と納得したりして・・・・。とにかく、大林さんの映画、好きなんです。ファンタジーにこめられた想い、現実にはありえない物語から浮かび上がる「まこと」が心に染みました。

俳優陣も好演。特に主役のふたり、蓮佛美沙子と森田直幸のフレッシュコンビが素晴らしかったですね。古風な顔立ちの美少女、蓮佛美沙子が演じる男の子にニコニコでした(そういえば25年前の小林聡美にもニコニコなのでした)。長野の町や山に囲まれた風景も、ほっとする温かさに満ちていました。

変態大学生や旅回りの芝居一座、そういった脇のキャラも、昔からのファンにはうれしかったりするのですが(リアルなだけが映画じゃない)、イマドキの若い方にはどうなんでしょうか? 観客の年齢層が高めでちょっと心配しています(そういう自分も、もちろん高めです。笑)。

(2007.6.28 梅田ガーデンシネマ・1)






大日本人


滅び行く種族の矜持と哀しみ / ★★★★


松本人志には関心がなかったのですが、カンヌに招待された作品ということに興味を覚え観に行きました。で、ほとんど白紙状態だったのですが、賛否両論の本作、わたくし的にはとても面白かったです。

全然話の見えない導入部、何やら不穏な気配もあり、いったい何が始まるのかとワクワクドキドキ。そんな中で、高圧的に「野良猫ですか?」と問いかけるインタビュアーに、「人間もみんな野良みたいなもん」と曖昧に答える大佐藤さんにまず好感を持ってしまいました。この慇懃無礼なインタビュアーややり手のマネージャー(UA!)に対する、大佐藤さんのリアクションがおかしくも切なく、その表情にも味わいがあって、思わずまっちゃんを好きになってしまいそう(笑)な私でした。

古き良き時代を人々から崇敬されながら大らかに生きた四代目、時代の変わり目に悪あがきしたあげく自滅して行った五代目、そしてせち辛い現代、軽侮されながらもヒーローとしての生き方を全うしなければならない六代目、この滅び行く大佐藤一族に何らかの隠喩を見ることもできるし、六代目の現代社会に対するシニカルな視線、そして孤独感を背負った矜持には共感するところもありました。四代目への憧憬と愛着の混じった「ふれあい」にはちょっと涙が出そうになりましたが、そんな観客は少数派なのでしょうか?

擬似ドキュメンタリーとコメディの結合という構成はユニークだし、CG部分はけっこう笑わせてもらったし、あのチープなラストも悪くなかったと思います。あれを見たあとでは、他のエンディングがちょっと想像できないんですよね(笑)。まあ、傑作と呼ぶ気はありませんが、合格点は越えている作品であったと思います。次回作、もちろん観に行きますよ。

(2007.6.27 伊丹TOHOプレックス・7)




力 & 人志 & UA
この絵柄は本編の内容とは関係ありません




監督・ばんざい!


次回は泣かせて / ★★★★


映画はひとりで観に行くことが多いのですが、本作に限っては、誰かと一緒に観たかったかも。ただし、笑いのツボの合う人と・・・・、ふたりで笑えば恐くない(笑)。レディースデイに行ったんですけど、約15名の観客、誰も笑わないんです。静かな場内でひとり爆笑はちょっと恥ずかしい。で、抑えていたのですが、空手道場のところで辛抱たまらんようになってしまいました(笑)。

巷ではいろんな解釈がなされているようですが、わたくし的にはそんなことは置いといて、表層的な部分だけでも十分面白かったです。ゆるーいお笑い、結構好きなんですよね。自分の嗜好を再確認しました。ラーメン屋、フフフ、井手博士、ハハハ、思い出すだけで笑えてきます。

今さら「マトリックス」かよお、なんて意見も目にしましたが、あれはタケシ流の「リアルな嘘」に対する異議申し立てではないかと・・・・。そこに含羞が混ざっているところに、何か感動してしまいました。当然、自分自身に対する含羞もなきにしもあらず・・・・、なわけで。

しかし、私は北野映画というジャンルが好きなので、ギャング映画でも何でもいいから撮っちゃってください、って気分です。今回、「キッズ・リターン」の断片を観て、なおさら、その感を強くしました。

お笑いもいいけど、次回は「キッズ・リターン」や「あの夏、いちばん静かな海。」のような北野流リリシズムで、もう一度泣きたい私です。

(2007.6.20 テアトル梅田・2)






しゃべれどもしゃべれども


雨も風も心地よい / ★★★★


東京の下町を舞台にした落語家のお話に、泣いたり、笑ったり、とても楽しめました。

それぞれに鬱屈を抱えた四人の人間模様、その距離が徐々に縮まってゆくさまに心いやされ、観終わった時には清々しい気分になりました。人間関係がベタついていないところが気持ちよかったですね。落語には馴染みがないので、その良し悪しは分からないのですが、伊東四朗や国分太一の落語も面白かったです。達者な子役さんにもびっくりしましたが、俳優陣はみな好演でしたね。なかでも八千草薫さんにはほれぼれ。

下町の風景(雨のシーンが印象的)や都電荒川線、ほおずき市など、古い東京の情緒にも心和み、感動を押しつけるような作品が多い中、じわっと心に染み入る本作、とても好感が持てました。

(2007.6.14 梅田ガーデンシネマ・2)






悪い女〜青い門〜


ギドク・マンダラ−4 アンモラルな観音様 / ★★★★☆


ギドク特集、最後に観たのは三作目にあたる「悪い女」。これはわたくし的には傑作でした。私が抱いていたギドク映画のイメージにぴったり合致し、なおかつ、今までに観たどの作品よりも幸福感に満ちていて、大感激でした。

舞台は売春宿で主人公は娼婦。俗の極みともいえるそこから立ち現れるのは、しかし安らぎに満ちた聖なる世界。こんな物語を紡ぎ出せる映画作家が、ギドク以外に存在するだろうか。

娼婦を演じる女優さんが素晴らしかったです。客だけでなく、売春宿の主人やその息子、近隣の男とも性的関係を持つアンモラルな存在でありながら、全てを包み込むような女性性にあふれており、魅せられてしまいました。

「人はみな裸で生きている」、売春宿の主人が言うセリフですが、けだし名言。そんな人間群像を温かく包み込むギドクの視線が心地よい作品でした。

エンディングの幸福感を湛えた映像を、永遠に見つめ続けていたかった・・・・。

(2007.6.13 第七藝術劇場)






リアル・フィクション


ギドク・マンダラ−3 白昼の殺人者 / ★★★★


四本目に観たのは五作目にあたる「リアル・フィクション」。公園で似顔絵を描いて暮らす青年が、ある出来事を契機に自分の心に潜む怒りを爆発させ、過去にかかわりのあった人々を次々に殺して行く。殺される人間の日常生活が幾分滑稽なタッチで描写された後、主人公に唐突に殺されるあっ気なさ。その繰り返しはいささか現実離れしていて白日夢めいた感触もあり、呆然とさせられるのですが、しかし、どこか心地よいのは、主人公の怒りに共感している私がいたりするからなのか(笑)。

最後にある仕掛けがあるのですが、それは題名からも予想がつくものなので、それほど驚きはなかったのですが、鑑賞後に読んだ解説に「撮影時間わずか3時間20分」とあり、それには心底驚きました。35mmカメラ8台とデジタル・カメラ10台で撮影したとのことですが、画質の違う映像が混在しているところも白日夢めいて、面白い効果をあげていました。一見の価値ありですね。

(2007.6.12 第七藝術劇場)






絶対の愛


ギドク・マンダラ−2 処女作と最新作 / ★★★☆


ギドク特集、二本目に観たのは最新作ですが、ちょっと期待はずれ。「永遠の愛」を手に入れるために整形!? それはちょっと違うんちゃう(笑)というわけで、あまり共感できませんでした。邦題の「絶対の愛」にミスリードされたのかもしれませんが、「サマリア」とか「弓」のように、ある種の別世界に連れて行ってもらえると思っていたのでがっかり。

女優さんに魅力がなかったのも残念でした。ミス・コリアだったそうで、確かに美人なのですが、プラスアルファが感じられなくて・・・・。いつもギドク作品の女性には魅了されるのですが・・・・。

でも、ギドクっぽいところはいろいろとあるので、退屈はしませんでした。もしかしたら、見方を間違えたのかな、ブラックコメディーとして観ればよかったのかなと、もう一度トライしたい気もしましたが、時間が取れませんでした。次回作に期待します。

同じ日に処女作の「鰐」も観たのですが、9時5分スタートのレイトショーでもあり、「絶対の愛」にがっかりしたせいもありで(笑)、ちょっとウトウトしてしまいました。というわけで、評価は保留にしますが、ギドク的要素の詰まった作品で興味深かったことだけ、付記しておきます。

(2007.6.6 第七藝術劇場)






ワイルド・アニマル


ギドク・マンダラ−1 ギドク流フィルムノワール / ★★★★


東京では殆どの作品が一挙上映されたスーパー・ギドク・マンダラ、大阪では、日本未公開の二作品と劇場未公開の一作品のみの上映ということで、ちょっと残念だったのですが、処女作の「鰐」と最新作の「絶対の愛」も同時公開ということで、ギドク・ワールド、堪能させていただきました。

まず最初に観たのは、第二作にあたる「ワイルド・アニマル」。パリで出会った画家くずれの韓国人と脱北兵士が犯罪組織に加わり・・・・といったストーリーで、ギドク流フィルムノワールと呼んでもいいような作品。あまりギドクらしくはなかったのですが、ギドクっぽいところは、やはりいろいろあるわけで、とても楽しめました。

俗と聖というのが、ギドク作品を貫くひとつのテーマであると、私は思っているのですが、本作で聖性を担うのは脱北兵士、主人公ふたりの間に芽生える友情とともに、そのあたりにとても感動しました。覗き部屋で働く韓国人女性と不法滞在者であるハンガリー人女性、ふたりの女優さんが魅力的だったのもよかったです。

そうそう、リシャール・ボーランジェやドニ・ラヴァンも出演していて驚きました。前情報なしで観たので、そもそもフランスロケというのにも驚いたのでした。終盤の海岸へ向かうシーンは既視感はありましたが、いかにもフィルムノワール的でムードたっぷり。そのあとのシーンも見応えがあったし、いゃあ、いろいろとサプライズに満ちた作品でした。

(2007.6.5 第七藝術劇場)






歌謡曲だよ、人生は


企画はホームラン / ★★★☆


昭和歌謡の名曲をモチーフにしたオムニバス、という企画自体はホームラン性の当りだったんですけど、外野フライやファウルになってしまった球もあって、ちょっと残念でした。単に10話を並べて、プロローグとエピローグをつけただけという構成も芸がない感じです。ただ後半に面白いものが並んだので、130分という上映時間も苦になりませんでした。

わたくし的にヒットしたものを、好きな順に並べてみます。

1.逢いたくて逢いたくて
起承転結もあり、劇的興奮もあり、カタルシスもあり、さすがヒット・メーカー矢口史靖! 若者たちがマジになる瞬間、ちょっと感動してしまいました。妻夫木聡、伊藤歩、ベンガルというキャストも最高。
2.乙女のワルツ
中年男マモル・マヌーが回想する60年代の恋。人生に対する愛おしさが感じられる一編でしみじみ。恋人役の高橋真唯の切ない視線にヤラレた私、先週観た「黄色い涙」も印象的だったので、今、ちょっと真唯ブームです。エディ藩と鈴木ヒロミツ(合掌)も登場ということで、GSファンには懐かしいかも。もっともゴールデンカップスもモップスもグループサウンズの中では異色でしたが。
3.ざんげの値打ちもない
個性派女優余貴美子がいつもと違う役柄で魅せます。故松田優作主演の「ヨコハマBJブルース」の女版といった感じの和風ハードボイルド、いゃあ、雰囲気あったわあ。
4.いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー
わたくし的には「変だけど、いい男」というカテゴリーに分類される武田真治。そのうさんくさいキャラ(笑)を十二分に生かした怪作でした。相手役の新人女優さんの「うれし恥ずかし」といった風情も二重丸。ただ、血ノリの色がリアルすぎて気持ち悪かった(笑)。
5.みんな夢の中
どこかで見たような話なんですけど、熟年の役者さんたちの表情に和みました。こういうのに涙してしまうというのは、自分も年をとったということですね。

(2007.5.30 テアトル梅田・2)






黄色い涙


青春の回り道 / ★★★★


小説家志望が云々する働かない理由に、「それはちょっと違うやろ」と苦笑しつつも、青春貧乏物語に微笑してしまいました。青春映画って好きなもので、青春の夢と挫折というのもウイークポイントなもので、後半は涙々になってしまいました。こういう話だったら、「白紙の原稿用紙」といった記号だけでも泣けてくるんですよね(笑)。

嵐の五人、屈託が足りない気はしますが、それぞれ好演していたと思います。五人それぞれにエピソードが割り振られているので、確かにダラダラ感はあったのですが、そのエピソードのひとつひとつ、思い出すと泣けてきたりもします。全編に漂う温かさも心地よく、夢を口実にして、大人になるのを先延ばしにしているような青春の回り道、切なくて愛おしくて、心に染みました。

東京オリンピックの頃ということで、いろいろ懐かしいアイテムが出て来たのも楽しかったのですが、「ロバのパン屋」にはビックリ。大阪だけじゃなかったんだと、同行した母との間で話題になりました。

(2007.5.24 梅田ガーデンシネマ・1)






黒い眼のオペラ


薄ぼんやりとした幸福感 / ★★★★☆


「楽日」と「西瓜」を観てから半年も立たないうちに、蔡明亮の新作が観られるということで、とても楽しみにしていたのですが、直前に観た「百年恋歌」に大感激してしまい、少し散漫な気分で望んでしまいました。が、それが反ってよかったのか、退屈したという声が多い中、薄ぼんやりとした幸福感を感じながら、面白く観ることができました。

労働者に拾われ介抱された半死半生の男が、健康を回復して街をうろつき、目についた女のあとをつけ回す、といった脈絡もないストーリーが、いつもの長廻しで描かれているのですが、登場人物の行動がそれぞれ、ちよっと滑稽でもあり、また同時に愛おしくもあり、何だか微笑んでしまうのでした。

街のあちこちをさまようマットレス、氷嚢代わりに使われる緑色のジュース、男が女にプレゼントする(押し付ける)ライト、マスク代わりに使われるカップ麺の容器やビニール袋などの小道具にも、やっぱりちょっと微笑んでしまうのでした。

現代を生きる人間の愛への渇望と孤独が、蔡明亮の一貫したテーマであり、本作もまたそれを踏襲していると思うのですが、今までの作品、特に初期の作品に感じられた痛いほどの孤独感は影をひそめています。ここにあるのは、「世界は少しだけ、あたたかい」という宣伝コピー通りの、見方によっては、おだやかな安らぎさえ感じられる世界で、ちょっと感動してしまいました。もっと深い意味もあるのかもしれませんが、わたくし的にはこれでよしとします(笑)。

(2007.5.23 シネヌーヴォ)






百年恋歌


唯一無二の作家性 / ★★★★☆


侯孝賢が日本に紹介された頃から、ずっと彼のファンなのですが、近年の作品にはガッカリするところがなきにしもあらず。で、本作も恐る恐る観に行ったのですが、いゃあ、感激しました。

第一話が最高でしたね。侯監督って、演歌の人だと思っていたので(笑)、「煙が目にしみる」には意表をつかれましたが、そのファーストシーンから心を鷲づかみにされ・・・・。それに続く自転車のシーンにも、思わず心の中で「うわあ、侯孝賢だあ」と声にならない呟きが・・・・。60年代の恋の思い出。ノスタルジックで、愛しくて、切なくて、もう胸キュンキュンの幸福感に満ちた時間でした。映像と音楽とストーリーのマッチングが、わたくし的には絶妙でした。衣装も素敵でした。流行のファッションだけを小さなカバンに詰めて、各地をさすらう計分小姐という職業があったわけですね。そんな彼女たちの生活って・・・・、とちょっと切なくなってこぼれた涙が、いつしか至福の涙に変っていたのでした。しかし、地名を示す道路標識だけで、これだけ感動させる映画作家が他にいるだろうか?

第二話は「フラワーズ・オブ・シャンハイ」とテイストの似た1911年の物語。実は「フラワーズ・オブ・シャンハイ」は、侯作品の中で、唯一、私が眠ってしまった作品であります。しかし、今回は心に響くところがありました。舞台となる妓楼の、室内から捉えられる外光の美しさ、陰影の濃い室内で密やかに交わされる情愛の切実さなどが胸に染みました。サイレントというのにも意表をつかれましたが、ドビュッシーを思わせるピアノ曲の伴奏がとても美しく、静謐がはらむ緊張感に引きつけられました。

第三話は「ミレニアム・マンボ」と共通する題材。「ミレニアム・マンボ」も苦手だった私、これにもあまり実感は感じられなかったのですが、鮮やかに捉えられた登場人物たちの一瞬の感情、刹那を生きる若者たちのあがきのようなものに胸を突かれました。ここで意表をつかれたのはヒロインの恋人が○○だったこと。その○○がキーボードを打つ時の表情が忘れられません。

三話とも恋愛を描いているということで、どこか通底するところもあるような・・・・。しかし、決定的に異なる時代の様相・・・・。インティメートでありながら、同時に壮大でもある、非常に興味深い作品であると思いました。

とにかく、素晴らしい映像に魅了されながら、侯孝賢の唯一無二の作家性を、また(何度目でしょうか)再確認させられた作品でした。

(2007.5.16 シネマート心斎橋・1)






神童


瑞々しくて、愛おしい / ★★★☆


ラストが少し唐突で、どう解釈すればよいのか・・・・。それと、うたのような神童を目の当たりにしたことがないので、コンサートの場面では驚いたのですが、これが神童の神童たる所以であるといわれれば、納得するにやぶさかではありません。わたくし的には、それ以外に特に気になるところはありませんでした。

主人公ふたりの「意識の強ばり」とでも呼びたいような、心理的な葛藤に共感するところがありました。そこから如何にして解放されるかという物語、心地よく拝見させていただきました。演じる成海璃子と松山ケンイチ、瑞々しくて素敵でしたね。

柄本明とキムラ緑子の八百屋夫婦や、うたの同級生の踏み台少年など、脇のキャラクターにもけっこう癒されるところがありました。特に思春期真っ只中にある少年の想いや行動などが愛おしく、またその自然な演技にも注目でした。

室内の灯にしろ外光にしろ、光の捉え方が印象に残る映像、そしてピアノがたっぷり聴ける音楽も素晴らしかったです。

(2007.5.9 シネ・リーブル梅田・1)






東京タワー オカンとボクと、時々、オトン


四月の雪 / ★★★★


九州の言葉って温かくていいですよね。私の場合、大学時代、周囲に九州人が多かったので懐かしかったりもします。その九州を舞台にした母と息子、そして父の物語、しみじみと心に染みました。淡々と、しかし丹念に綴られる日常的なエピソードが、静かに情感を高めて行くという感じでした。

オカンの「何で頑張れんかったとやろね」という言葉、ズキーンと心に刺さる人はけっこう多いのではないですか。せっかく憧れの大学に入れたのに、無為に過ごす日々。しかし、それが青春だ(笑)。私も放蕩娘ではなかったにしても、やはり身につまされるところはなきにしもあらずで、ごめんなさいとありがとうに共感してしまうのでした。

演技派ぞろいの俳優陣、アンサンブルもとてもよかったと思います。勝地涼の登場はうれしいサプライズ。一番の儲け役でしたが、突出することなく、いい感じに目立っていました。渡辺美佐子と千石規子、超ベテランの女優さんの出演もうれしかったです。お母さんとそっくりの也哉子さん、演技うんぬんはさておいても、その効果は絶大でした。

(2007.4.26 伊丹TOHOプレックス・5)






かちこみ! ドラゴン・タイガー・ゲート


龍虎門のモットーは「仁者無敵」 / ★★★★


アナクロとシュールとノスタルジーが合体したカンフー映画(!?)。

私、カンフー映画、大好きなんです。変な映画も大好きなんです。当然、本作も楽しめました。心の中でツッコミいれながら(笑)、楽しませていただきました。

俳優さんが素晴らしかったです。ドニー・イエンはもちろんですけど、ニコとショーンの若手も頑張ってました。敵役も手強かったので、格闘シーンはすごーい迫力、堪能しました。清純なドン・ジェと妖艶なリー・シャオラン、女優さんがまた素敵でしたねえ。リー・シャオランの悪女の純情には泣かされちゃいましたよ。

それにしても、主役三人の髪型がそろいもそろって・・・・。すだれヘアと名づけましょうかねえ(笑)。60年代のヒッピーみたいな小汚い衣装もちょっと意味不明。でも、それが楽しかった(笑)。

実写部分の光と闇を強調した映像も美しかったですね。特に聖なる光に包まれているような、あの草むらのシーン・・・・。いゃあ、なかなか見所満載の作品でした。ツッコミ所も満載でしたけど・・・・(笑)。

ただCGがあまり好きじゃないので、見終った直後はちょっと減点と思いました。でも今は、原作が漫画ということで、こういうのもありかなという気になっています。

最後に配給会社さんへの苦言。吹替版は作らなくてよい。邦題もイマイチ。っていうか、香港映画と分からないじゃん。クドカンのナンセンス・コメディかと思いましたよ。「龍虎門の何たらかんたら」と、漢字使ってほしかったなあ。しかし、売り方が難しい作品ではありましたね。

PS 仙人のモデルは手塚治虫先生でしょうか?

(2007.4.25 伊丹TOHOプレックス・8)






ママの遺したラブソング


The Heart is a Lonely Hunter / ★★★☆


ある出来事のせいで泥沼にはまってしまった二人の男と毎日を無為に過ごしていた少女が出会い、そして最後には三人が輝きを取り戻す。その三人を結びつけたのは、実は死者の思い出である、という物語自体には心ひかれるものがあったのですが、登場人物のセリフから物語を読み取らせるという、その語り口はあまり巧みではなかったように思います。それに過剰な文学趣味にもちょっと辟易。ボビー・ロング元教授が口にする文学からの引用、あまり馴染みがなくて頭にすんなりと入ってこなかったのです。これが映画に出てくる名セリフだったら・・・・、なんて(笑)。でも少女の子供時代を知っている大人たちがそれとなく力を貸したりするところ、とても心に響きました。

南部の風土感とニューオーリンズの街並みを魅惑的に捉えた映像が素晴らしかったです。風景を見ているだけで癒されるような感覚がありました。とりわけ青い空と白い雲が印象に残りました。それに音楽もよかったです。エンドロールに流れる主題歌の、歌手の声が好きでした。

一度は男たちのもとを去ろうとした少女を引き止めるのは一冊の本。バスターミナルで読み耽る本のタイトルが見えそうで見えない。いったい何を読んでいるのだろうと、イライラしました(笑)。「The Heart is a Lonely Hunter」は映画化されたこともあり、邦題は「愛すれど心さびしく」。私も昔、自主上映で観たことがあるのですが、主役の聾唖の青年を演じていたのはアラン・アーキン。相手役が思い出せないので調べてみたらソンドラ・ロックでした。昔、ちょっと好きだった女優さん、今はどうしているのかなあ。

(2007.4.19 シネ・リーブル梅田・1)






プロジェクトBB


私がママよ by ルイス・クー / ★★★★


何だかんだいっても、やはりジャッキーの映画は見逃せないわけで、本作も前情報なしに観に行ったのですが、豪華な出演者にビックリ。まず相棒が、最近注目のルイス・クーだったのでニコニコしていたら、次に出て来たおじさんは、えっ、マイケル・ホイ!?。で刑事が、もしかしてユン・ピョウ!?。前に見たのはいつかいな? という感じで、ふたりともすぐには分からなかったですよ。トホホ(笑)。劇中のセリフじゃないですけど、まるで同窓会みたい、懐かしかったですよね。

ジャッキーといえども寄る年波には勝てないわけで、でもそれをカバーすべく、毎回、いろいろと打ち出してくる新機軸。今回は小さなオマケつきで楽しかったですよね。あの赤ちゃん、表情が愛くるしくて最高でした。赤ちゃんを巻き込んでのアクションは、もうハラハラドキドキ。危ないことはしてないはずと、頭では分かっていても、もう身体が反応してしまう。客席で身もだえしてしまう(笑)。そして、いつもながらの身体を張ったジャッキーのアクションにはやはり感動。

笑いあり、涙あり、定番の香港映画。いつもなら泣いちゃう私、今回は泣かなかったです。赤ちゃんパワーに頬がゆるみっぱなしでした。あっ、それと、NG集の最後も笑えました。お見逃しなく。

(2007.4.18 伊丹TOHOプレックス・5)






13/ザメッティ


恐怖の運だめし / ★★★☆


ヴェネチアで新人監督賞に輝いたという本作、決して悪くはなかったのですが、期待ほどではなかったかと・・・・。肝心の核になる部分が一種のショッカーなのに、予告編ですでに見ていたため、感興が殺がれてしまいました。何も知らなかったら、もっとドキドキしたかもしれませんね。

しかし、そこへ行き着くまでの謎めいた展開には引き込まれました。音楽のつけ方がちょっと稚拙で、突然鳴り出すその音楽もちょっと大仰なのですが、それが反って異様な雰囲気を生み出していたりして・・・・。見慣れない出演者も、みんな曰くありげで・・・・。

最も印象に残ったのは、その出演者たちの顔でした。金と欲と○○に突き動かされ興奮している顔、顔、顔・・・・。陰影の濃いモノクロの映像もあいまって、異様な迫力を生み出していました。わたくし的にモノクロ映画は好きなのですが、最近はほとんど見かけませんよね。で、とても新鮮に感じました。

グルジア出身のバブルアニ監督、ハリウッドで本作をセルフ・リメイクするそうですので、その前にオリジナルを観ておくのも一興かと。一見の価値はあると思います。

ところで、主人公以外の参加者は、ゲームの内容を納得した上で参加していたんですよね。実は、それがいちばん怖いかも・・・・。

(2007.4.11 テアトル梅田・2)






あかね空


東女に京男 / ★★★☆


夫婦の絆、家族の絆を描く時代劇、いくつか気になる点はあったものの、全体としては好感の持てる作品でした。

篠田正浩も加わった脚本はなかなか巧みであったと思います。長男を盲愛する母親の、そこにいたる事情があとから示されたり、結婚当初の出来事が終幕あたりで展開されるところ、すっかり引き込まれて涙々になりました。定石通りのストーリーではありますが、観終わったとあと、素直に温かい気持ちになりました。

優柔不断気味の京男と積極的な東女、ふたりの出会いから所帯を持つまでの前半はなかなか楽しかったのですが、中谷美紀の演技は少しアクセントが強すぎるような気もしました。母親になってからの後半との違いを際立たせる意図があったのかもしれませんが、もう少し抑え目の方がよかったのでは・・・・。しかし、終盤はほれぼれしました。

内野聖陽の硬軟二役はとても楽しめました。京都弁に違和感がなかったので、てっきり関西出身なのかと思ったのですが・・・・。岩下志麻や中村梅雀など、豪華な脇役陣もうれしかったですね。ただ、若手の演技にはもう一息の感が・・・・。でも、長男の顔のアップ、一瞬、本気が漲って、とても印象に残りました。

他に気になったのはCGのシーン。好みの問題かもしれませんが、あまりにも美しい画面に少し違和感を覚えました。

(2007.4.12 梅田ガーデンシネマ・2)






今宵、フィッツジェラルド劇場で


乗るなら聴くな by 白いコートの女 / ★★★★☆


まるでエドワード・ホッパーの絵画のようなシーンから始まる本作、カントリーミュージックとユーモアにあふれ、久々に古き良きアメリカ映画という感じで、思わずニコニコでした。

原題の「A Prairie Home Companion」は実在のラジオ番組で、その番組の司会者であるギャリソン・キーラーが持ち込んだ企画が元になっているとのこと。本作でもやはり司会者を演じる、このおじさんがなかなかチャーミング。ティム・ロビンスの親父さんといった風貌と低音の美声に思わずファンになってしまいました。原稿が見つからない時間稼ぎにダクトテープのCMを口から出まかせ、音効さんがそれに合わせて大活躍の場面は大笑いでした。

その他、カウボーイ・デュオ(!)の下ネタ連発に苦笑したり、ジョンソン・シスターズの楽屋での思い出話(ふたり同時にしゃべるのが、いかにもおばさんです。笑)にしんみりしたり、探偵と謎の美女にドキドキしたり・・・・。

名優たちの悠然たる演技、そして名匠の悠揚迫らざるタッチが何とも楽しい作品でした。しかし、祝祭気分に混じる一抹の寂しさ・・・・。私もまた来し方行く末に思いを馳せ、さはさりながら、「生もよし、死もまたよし」といった感慨を覚えました。

愛すべき遺作を残して逝ったアルトマンに合掌。

(2007.4.2 テアトル梅田・1)






パリ、ジュテーム


粒ぞろいのオムニバス / ★★★★


パリを舞台にした18話(!)からなるオムニバス。多少のばらつきはありましたが、エスプリの利いた佳品ぞろいでとても楽しめました。と書いてはみたが、「エスプリ」の意味が未だによく分からなかったりして(笑)。

それぞれの持ち時間は5分で、正直、退屈しているひまもなかったのですが、涙あり、笑いあり、中身が濃い、という感じでした。さらに「花の都パリは実は移民の街でもある」という視点を加えたことで、作品全体の幅と深みが増したように思います。

キャストが超豪華でした。久しぶりに見る懐かしい顔が多くてうれしかったのですが、男優さんはすぐに分かっても、女優さんは・・・・。女性の方が加齢による変化が激しいことを実感しました。でも、さすがにみなさん、味のあるおばさんになっていましたね。

私もベスト5を選んでみました。
1.コーエン兄弟編
何もしなくても可笑しい俳優、スティーブ・ブシュミが遭遇する不条理で悲惨な出来事、これはもう笑うしかない。

2.シルヴァン・ショメ編
お互いにぴったりの相手を見つけたパントマイム夫婦。他人がどう思っても、いいじゃないの、幸せならば。愛の核心をついているなと、大笑いしながらも大納得。カフェにいた双子の老嬢が、性格は悪いけれど素敵でした。おそろいのシックなワンピースにコサージュまでつけちゃって、とってもお洒落でした。

3.イザベル・コイシュ編
トリュフォーへのオマージュ風な一編。白血病の奥さんが鼻歌で歌うのは、「突然炎のごとく」の劇中でジャンヌ・モローが歌った「つむじ風」。これもすぐには思い出せなかった。まずジャンヌ・モローの顔が浮かんで・・・・。そういえば、私のパリに関する最初の映画的記憶は十代の頃にテレビで見た「大人は判ってくれない」でした。

4.諏訪敦彦編
今まで好きじゃなかったジュリエット・ビノシュに泣かされてしまった。ちょっと悔しい(笑)。

5.アレクサンダー・ペイン編
ひとりで異国にいるときの、孤独だけれど自由な感じにとても共感。最後を締めくくるのにふさわしい温かい一編でした。

(2007.3.31 梅田ガーデンシネマ・1)






蟲師


わび、さび的ファンタジー / ★★★★


原作は知らないのですが、日本昔ばなしのモダン・バージョンの実写化といった本作、余人はいざ知らず、私はすっかり引き込まれてしまいました。観たあと、2時間を越える長尺と知って、ちょっと驚いたぐらいです。

まるで太古のままといった自然がやはり圧倒的。あの風景を見るために、もう一度、観たいような気も・・・・。そこで展開される物語、起伏が乏しいので、退屈される方も多いようですが、わたくし的には「わび、さびの境」といった感じで、とても心地よかったです。漂泊を運命づけられた者と地に足をつけて生きねばならない者との別れ、ぬいやギンコの言葉に出せない想い・・・・。目には見えない心の中に生起する動きに静かに胸を突かれました。

ギンコの運命を受容する穏やかな諦念、淡幽の凛々しくて柔らかいしなやかさ、ぬいのやせ我慢の切なさ、そして心の奥深くから優しさが溢れているような虹郎、彼らのたたずまいにも魅了されました。脇役や子役も好演で、特に真火の表情がとても面白かったです。

惜しむらくは、やはりラストのあっけなさでしょうか。扇情的、感動的な描写は故意に避けているようですが、あそこはもう一押しあってもよかったのでは、と思います。でも、わたくし的には見応えたっぷりの作品でした。音楽や衣裳(特に淡幽の着物)もとてもよかったです。

(2007.3.28 梅田ブルク7・6)






松ヶ根乱射事件


人間だもの / ★★★★


「リンダ リンダ リンダ」は好きだったのですが、そのあとテレビで見た「ばかのハコ船」があまり好みじゃなかったので、本作もパスするつもりだったのですが、レディースディに衝動的に観に行ってしまいました(笑)。で、タイトルうろ覚え。冒頭の展開で「松ヶ根殺人事件」かと思ったら・・・・。

うーむ、ブラックというのか、オフビートというのか、何とも独特な世界。後半はずーっと笑いっぱなしでしたが、忍び笑いというか、含み笑いというか・・・・。で、心の中に浮かんでくるのは「人間だもの」という言葉。許してしまっているんですよ、あの情けない兄ちゃんも、あのどうしょうもない親父も。

でも、こちらの精神状態いかんでは、違う反応が起きたかも。「ばかのハコ船」では、女性の扱いが気になったのですが、本作でも、ちょっと嫌悪感すれすれの所はなきにしもあらずでした。けっこう際どいところで勝負してる感はありましたね。

ほめてるのか、けなしているのか、よく分かりませんが、実は面白かったです。兄弟で足の大きさを比べてるうちに喧嘩になってしまうところとか、兄ちゃんが決意して殴りこみに行くところとか、妙なリアリティがあって特に好きでした。

(2007.3.14 テアトル梅田・1)






エレクション


人間悲喜劇風味の「男の世界」 / ★★★★☆


香港黒社会の権力闘争を描くジョニー・トー作品。トーお得意のユーモア、今回は抑え気味ですが、やはりじわっと染み出す可笑しさがあり、濃厚なドラマとあいまって、見応えたっぷりの人間悲喜劇になっていました。スタイリッシュな映像は言わずもがなで、いやほんと、唸りましたわ。

俳優陣がやはり素晴らしいですね。穏健派のロクと急進派のディー。服装、家庭環境、そして性格と、何から何まで対照的なふたりのボスを演じる、サイモン・ヤムとレオン・カーファイが秀逸でした。レオン・カーファイは本作の悲喜劇性を体現する儲け役でしたが、それを受けるサイモン・ヤムの重厚な演技があってこそひときわ映えるというもので、どちらも主演賞を取ってるようですが、それも納得でした。その他、小林亜星似の長老(ズボンを引き上げながら根回しを画策する姿に思わず微笑)から命知らずの兄ちゃん(「ブレイキング・ニュース」の根性刑事、今回もイッチャッてます)まで、新旧いろんなタイプを集めたヤクザ群像から目が離せませんでした。

権力の象徴たる「竜頭棍」、その争奪戦がまた何とも・・・・。一本の棒を必死で奪い合う男たち、観ている間は夢中だったんですけど、あとから考えるとちょっと滑稽で、同時に切なかったりもしました。「契父」や「洪門会」の儀式など、中国の伝統的な習俗にも興味深いものがありましたが、そのような古き良き伝統も崩れて行かざるを得ない時代の波が、くっきり浮かび上がってくる構成も見事でした。

(2007.3.12 テアトル梅田・1)







怨念系ポストモダン・ホラー / ★★★★


冒頭から何の説明もなしに描かれる、いくつかの殺人事件がそれぞれ異様で、前半すっかり引き込まれてしまいました。ミステリーとしても成功しているのではないでしょうか。その答えが提示されたあとも残る不可解な部分、そこは観客の解釈に任せられているというわけで、なかなか興味深く観ました。

ホラーとしての怖さはあまり感じなかったのですが、心理的にはとても怖かったです。主人公の感じる不安感や犯人の動機、あるいは精神科医の言葉などに、現在という時にリンクしているかのような生々しい実感があり、「何かがおかしい」という黒沢監督の言葉に、私も深く共感するところであります。

冬の空気感の中で捉えられる湾岸地帯の風景がもうひとつの主役でしたね。まるで文明のあとのような荒涼とした光景に目を奪われました。豪華な俳優陣もそれぞれ好演しており、なかなか見応えのある作品になっていました。

(2007.3.7 シネ・リーブル梅田・2)






世界最速のインディアン


グッド・オールド・デイズ / ★★★★☆


アンソニー・ホプキンスは格別好きな俳優さんでもないので、パスするつもりだった本作、ここでの評価が高いので観に行きました。うーん、なるほど、爽快で心温まる、何とも気持ちのよい作品でした。

前情報なしで観たのですが、隣家の少年の完璧な昔顔に、いつの時代の話なのかと俄然、興味津々に。ツイストやら、ジェーン・ラッセルやら、どうやら60年代あたりかなと思っていたら、果たして12年前の墓標が1951年。

ベトナム戦争もまだ泥沼化していない60年代初頭、現在と決定的に違うのは人と人の間の距離感でしょうか。主人公にかかわる人々が好い人ばかりで、一種のファンタジーであるという見方にも頷けなくはないのですが、主人公がお茶を飲みに立ち寄った酒場でのシーン、よそ者を見つめる冷淡な眼差しにちょっとドキドキ。でもそのあとの展開で、まわりの人々を好い人にさせるのは、実は主人公のパーソナリティであったことが分かります。

人の心を溶かすような純真素朴な爺さまが何ともチャーミング。自分の足で立っている自力主義には頭が下がるし、そのうえ、甘え上手なのには思わず頬がゆるみます。まわりの温かい人々も個性たっぷりに描かれており、ずーっとニコニコしながら観ていたような気がします。

それにしても、この爺さま、レースへの参加手続きも取っていなかったところを見ると、具体的なことは何も知らないままに、地球を半周して己が聖地を目指したというわけですよね。あとから振り返ると、その猪突猛進ぶりが何とも愛おしく心に響きました。普通じゃないって、素敵だよね。

(2007.3.1 テアトル梅田・2)






幸福な食卓


勝地涼! / ★★★☆


半月ぐらい前に観て、レビューを書こう、書こう、と思っているうちに今日になってしまいました。観終わった時の印象は決して悪くなかったのですが、だんだんリアリティが足りないような気が・・・・。

でも、勝地涼が素晴らしかったです。実はそれだけ言いたくて、この文章をを書いています(笑)。今までのイメージとは全然違う役柄でしたが、超ポジティブな前向き少年、意外なことにピッタリでした。北乃きいちゃんも好演で、ふたりの清新な恋が素敵でしたね。怖いぐらい幸せな恋、ちょっと遠い昔を思い出させてもらいました。あと、さくらさんもとても良かったと思います。

余談ですが、懐かしかったのが「切磋琢磨」。高校時代、古文の先生の口癖だったんです。数年前に高校時代の同級生と話していて分かったのですが、その口癖、正しくは「君らも切磋琢磨してやねえ、社会に貢献する人にならんとあかん」だったそうです。下の句、私は全然覚えてませんでした。そういうことには関心がなかったということでしょうね。

(2007.2.14 梅田ピカデリー・3)






ユメ十夜


帰り道で・・・・ / ★★★☆


松尾スズキの第6話に抱腹絶倒。ちょっと反則ちゃうのんと思いながらも大笑いでした。でも、こんなになっちゃう前はどんなんだったのかなと、帰りに思わず原作の文庫本を買ってしまいました。各話それぞれ3ページ前後の短い文章なのですが、神経症的な怖さと奇妙なユーモア感を湛えており、なかなか味わい深く、とても面白かったです。

その元ネタを10分間の映像にどう展開させるか、というのが今回の命題で、さながら10組の監督によるイマジネーション勝負といった趣き。十話とも悪くはなかったのですが、わたくし的にはいろいろ詰め込んだものよりシンプルなものの方が好みで、特に原作のティストを色濃く残している第1話と第9話が好きでした。実相寺昭雄と久世光彦のコンビ(合掌)による第1話の美しい映像が印象に残ります。松尾スズキ篇がけっこう原作に忠実だったのは驚きでした(笑)。超拡大解釈ですが反則ではない、といった感じで、アイディア賞ですね。反則だったのは山下敦弘の第8話、ちょっと納得行かないです(笑)。

俳優陣も豪華でしたが、松山ケンイチ演じる町一番の色男・庄太郎の美しさにビックリ。デスノート・シリーズでファンになったので、こんなに綺麗な人だとは思ってなかったんです(笑)。緒川たまきさんも山本耕史クンも綺麗だったなあ。というわけで、目の保養にもなる作品でした(笑)。

(2007.2.11 シネ・リーブル梅田・1)






魂萌え!


熟年女優の演技を堪能 / ★★★★☆


いゃあ、すごかったですね。風吹ジュンVS三田佳子、本妻対愛人の一本勝負。「年上の愛人に負けられるもんですか」、「十年も愛人がいたことを知らなかったくせに」、二人の意地のぶつかり合い、青い火花が散ってるって感じでした。おふたりの演技がまた出色で、自分と境遇は違っても、どちらにも共感させられましたが、同時に切なかったりもするのは、阪本さんの手腕でしょうか。

しかし、ただ考えても埒が明かないことに拘泥していても、状況は変らないわけで・・・・。というわけで、見知らぬ世の中に足を踏み出し、あちこちに頭をぶつけながらも、もっと自由に、もっとしなやかに、魂の開放を遂げて行くヒロインに大いに共感。常盤貴子が演じる娘の視線の温かさも効果的でした。

あっ、忘れてはいけないのが加藤治子。あのしたたかばあさん、可笑しくて哀しくて、その存在自体が人間喜劇、基調はコメディの本作にさらに花を添えていました。

うーむ、亀の甲より年の功。まさに熟年パワー炸裂の一作でした。

(2007.2.7 梅田ブルク7・3)






ディパーテッド


ふたつの孤独 / ★★★☆


香港版「インファナル・アフェア」はもちろん好きですが、本作も決して悪くなかったと思います。どなたかも言及していましたが、主人公の年齢の違いがポイント。さらにアイリッシュという出自を絡ませたことで、香港版とは別物のアメリカ映画になっていたと思います。被差別者という環境に選ばれてしまった二人の若者の生き方が壮絶、かつ哀切でした。特にディカプリオ。香港版ではアンディ・ラウの孤独に胸を衝かれましたが、本作ではディカプリオの孤独が胸に沁みました。

あっ、そうか、悪いヤツ(アンディ)に共感を抱かせるような、ねじくれた物語構造という点から見れば、香港版が一枚上手なのかもしれません。それと、次に何が起こるか分かっているので、やはりサスペンスは半減でした。ジャック・ニコルソンの演技もねえ、ちょっと疑問。もともとあまり好きじゃない人なので、ちょっと辛口になってるかもしれませんが・・・・。

(2007.2.5 梅田ブルク7・6)






迷子


久々の蔡明亮−3 / ★★★★


蔡明亮がプロデュースした李康生の監督デビュー作。李康生は蔡作品で主役を演じてきた俳優ですが、今回、蔡作品で自分の母親を演じてきたルー・イーチンを主役にすえて本作を撮りました。

ストーリーはきわめてシンプル。公園のトイレで用を足している間に姿を消した孫を、祖母が探し回るというだけのお話。しかし冒頭、公園にいる通りすがりの人を巻き込んだドキュメンタリータッチのシーンに引き込まれてしまいます(一発テイクだそうです)。そのあとは普通の劇映画になっていますが、半狂乱の祖母が見知らぬ若者のバイクに座り込んで「孫を探して」と理不尽な要求、しかし次のシーンではその若者が親身になっているというようなストーリーが、言葉による説明なしに展開されて、けっこうニコニコしてしまいました。このメインストーリーとは関係のない不登校の中学生の話が時々挿入されるのですが、そのふたつの話が最後にひとつにまとまるという構成も面白かったです。新人監督らしく面白い画を撮ろうとしているのも微笑ましく、小品ですがなかなかの好編でした。

(2007.1.31 シネ・ヌーヴォ)






西瓜


久々の蔡明亮−2 / ★★★★☆


久々の蔡明亮、二本目は奇妙奇天烈な純愛ラブストーリー。惹かれあっているのに距離を縮められないふたりを、過激なセックスシーンとミュージカルシーンを交えて描くというもの。台湾では興行成績一位を記録したということですが、観客の大半は好き者のオヤジだったのではないかと推測いたします(笑)。しかし、そんなオヤジたち、ガッカリしたんじゃないかしらん。あまりにも即物的なセックスシーン、私は劣情よりも笑いを催してしまいました。でも、笑ったら変な人に思われそうで我慢してたんです。ああ、辛かった(笑)。

ミュージカルシーンの挿入は「Hole」で経験済みですが、今回はとってもキッチュで悪趣味すれすれ。蒋介石の銅像のまわりで歌い踊る60年代風美女たち(メイクが濃い)とか、高雄の観光名所・澄清湖で西瓜柄の傘を持ってヘロヘロ踊る群舞とか、いゃあ、奇天烈、でも、すごーく楽しいんです(笑)。楽曲は中華懐メロをそのまま使っているのですが、歌詞がぴったり合ってて、その辺も感心してしまいました。

というわけで、とても面白かったのですが、ラストが衝撃的。その意図も狙いも、訴えたいことも分かるんですけど、ちょっと唖然とするぐらい衝撃的だったのでマイナス10点。しかし、いかに効率的に物語を語るかということに腐心している映画が溢れる中、その対極にあるようなこの作品を私は高く評価したいと思います。

俳優陣も素晴らしかったです。主役の李康生はAV男優の役で腰ふりっぱなしだし、オードリー・ヘップバーンのようにチャーミングなチェン・シャンチーも頭の中が性的妄想で一杯の女を怪演するし、今まで李康生の母親を演じていたルー・イーチンもAV女優の役で裸身をさらすしと、本当に俳優陣の頑張りには頭が下りました。楊貴媚がまたまたゲスト出演していたのもうれしかったんですけど、実は彼女のミュージカルシーンがいちばん悪趣味だったのでした(笑)。

と、言いたい放題してしまいましたが、実はちょっと切なかったりもするラブストーリーです。

(2007.1.31 シネ・ヌーヴォ)




藝術大師 蔡明亮




楽日


久々の蔡明亮−1 / ★★★★☆


久々の蔡明亮、二本同時公開ということで、チラシを手にした時からとても楽しみにしていました。一本目の本作は、閉館する映画館を舞台に、映画そのものへオマージュを捧げた作品。物語らしい物語はなく、永遠に続くかのような長廻しで切り取られる、映画館のたたずまいこそが主人公。音楽もなく、セリフもほんの数行で、退屈する人の方が多いと思いますが、蔡明亮を観続けて来た私にとってはとても心地よい作品でした。

雨の降る夜、往年の武侠映画「血闘竜門の宿」が上映されている古びた映画館。「臨時休業」のビラが貼られてはいるが、多分そのまま閉館してしまうのであろう、最終日の最終回。客席に座る老人はスクリーンに映る自分の若き勇姿を見つめ涙を流す。映画もそっちのけで、怪しい行動をとる男たちは、孤独な心を抱え、他者への渇望に身もだえしながら、しかし、視線を交わすこともなくすれ違ってゆく。そして足の悪いモギリ嬢は黙々と自分の職務をこなしながら、晩御飯の餡饅を前に沈思黙考している。何も起こらないけれど、実は様々な想いや記憶の集積がそこここに浮遊しているかのような、その映画館の闇に、私はすっかり魅せられてしまったのでした。

PS 蔡作品の常連である楊貴媚と陳昭榮のゲスト出演もうれしかったです。

(2007.1.29 シネ・ヌーヴォ)






それでもボクはやってない


!!!! / ★★★★☆


綿密な調査と緻密な脚本が生み出した面白くてためになる映画。2時間半近い長尺、その半分以上は法廷シーンという地味な作品ですが、さすが周防さん! すっかり引き込まれてしまいました。観ている間ずっと、私の頭の中にはびっくりマークが点滅しっ放し。本当に驚きの連続で、考えさせられることも多々ありましたが、裁判員制度の導入が決まった今、他人事ではなく自分のこととして勉強になりました。

子どもの頃にテレビの洋画劇場で見た「十二人の怒れる男」がとても印象に残ってるんですよね。以前は、もし裁判員に指名されたら、あのヘンリー・フォンダのように正義を主張してやるなんて、わりとやる気満々だったんですけど、今はちょっと及び腰。軽い気持ちでできることではありませんよね。指名されないように祈りながら、ただ、「疑わしきは罰せず」という大原則だけは、肝に銘じておきたいと思います。

(2007.1.25 伊丹TOHOプレックス・5)






悪夢探偵


流血ホラー / ★★★★


ホラーは苦手なのに、松田龍平と安藤政信主演の塚本作品という情報だけで観に行き、たいへん怖い思いをしたうつけ者です(笑)。ああ、怖かった。あのシーン、一度目と二度目は何とか我慢しましたが、三度目には頭がクラッとなって思わず目を閉じてしまいました。いちばん肝心なところを見逃したような・・・・(笑)。

しかし、映画自体はとても面白かったです。一気に見せられてしまいました。恐怖感をあおる手持ちカメラ、水中シーンの青など、映像も印象に残ります。「人間性の回復」といった主題を、意外な方向から描いたユニークな作品といえるでしょうか。とても刺激的でゾクゾクさせられました。

俳優さんも素敵でしたね。龍平クンはますますお父さんに似てきました。今回のヘア&メイクが「陽炎座」の松田優作を彷彿させるので、なおさらその感を強くしました。

さて、問題はhitomi(笑)。演技は確かにヘタですが、そういうものは最初から要求されていないような気もします。ひたすら撮られるための被写体、ほとんどオブジェと化しています。オブジェとしてなら、当然OK。すこぶる魅力的でした。特に唇が肉感的で、アップになるとついそこに目が行くという、ほとんどオジサンになっていた私(笑)。低い声で抑えたようにしゃべる口調も好きでした。で、時々面白いこと言ってるんですよね。今頃、ふふっと笑っている私でございます。

(2007.1.17 テアトル梅田・2)






犬神家の一族


佐清(スケキヨ)再臨 / ★★★★


三十年前のあのすごい横溝正史ブーム、実は私も担い手の一人だったもので、当然結末が分かっている本作、当初はパスするつもりだったのですが、母のお供で観に行くことになりました。

前作と同じ大野雄二のあのテーマ曲(作品の世界観を十二分に表現した名曲ですよね)とあのタイトルロゴから一挙に引き込まれてしまいました。石坂浩二と深田恭子が交わす会話の速度が超スローで、一瞬、これは退屈してしまうかも、と懸念したのですが、それも杞憂でした。既視感は当然あったのですが、それも込みで楽しめるという・・・・。加藤武の「よーし、分かった」なんて、すごく懐かしかったです。当時、友達がしきりにマネしていたもので(笑)。

こういう和のおどろおどろした世界は元々好きなのですが、もしかしたら、以前のブームの時にインプットされたのかもしれませんね。出演者も豪華だし(菊之助さんが素敵)、凡百の娯楽映画とは一線を画しているという感じでした。

PS 余談ですが、私は長い間シンクロナイズドスイミングが好きになれませんでした。競技を見ていると、どうしてもあのシーンを思い出してしまうからです。せっかく忘れていたのに、また・・・・(笑)。

(2007.1.11 伊丹TOHOプレックス・3)





星取表点数

★★★★★ 100点
★★★★☆  90点
★★★★    80点

以下略




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