Vivien's CINEMA graffiti 6




無花果の顔


桃井流ホームドラマ / ★★★★


「私がありきたりの映画を作るわけないじゃない」という桃井かおりのセリフが聞こえてきそうな、とても個性的な映画。「ああ、やってるやってる」って感じで微笑んでしまいましたが、中身はけっこうマトモ(笑)。家族の絆を描くホームドラマになっていました。

しかし、面白いかどうかは人それぞれかも。面白いと思えば面白いし、面白くないと思えば面白くない(笑)。正直、訳の分からないところもあったのですが、わたくし的には、筋が読めるような映画よりは、こっちの方が好きかも。

主役の山田花子は無口な役で、しゃべくりの方はほとんど桃井かおりのワンマンショーになってますので、女優桃井かおりのファンなら楽しめるはず。個性派ぞろいのゲストも、みんないい味出してました。

美術と衣装も一見の価値あり。とにかく色がきれいで、眺めているだけでも楽しめました。音楽もよかったですね。

PS 「お父さんのウィークリーマンションでの日々」がとても好きでした。何か、つげ義春の漫画みたいな味わいで・・・・。あの部分を膨らませて、一本の映画にしても面白そう、なんて思いました。

(2006.12.27 テアトル梅田・2)






パプリカ


映画ファンの夢の映画!? / ★★★★


今敏監督の作品は初めて。ベニスに出品のアニメって・・・・!?。好奇心を抑えきれずに観に行きました(笑)。

上映までの待ち時間にサントラが流れていたのですが、それがテクノ・ミュージック。懐かしくも新鮮で、なかなかいい感じと思っていたら、本編もとても楽しめました。

夢のお話だから、何でもありっ!。ブキミ可愛いあの行列シーン、さながらキッチュな万華鏡といったところ。キッチュというのは既視感もこみですから、何やら懐かしさもあって、ニコニコしながら眺めていました。

ヒロインも素敵でしたね。コケティッシュでキュートなパプリカと薄幸の美女風の敦子さん。私は敦子さんがすごーく好きでした。

粉川警部の夢をはじめとして、映画ファンの心理をくすぐる名画の引用も楽しく、何がなんだか分からないうちに、あれよあれよとあっ気にとられているうちに、最後はなあるほどぉと納得させられました。いゃあ、面白かったです。

(2006.12.13 テアトル梅田・1)






武士の一分


木蓮、紫陽花、彼岸花 / ★★★★☆


名人芸と呼びたいような山田洋次の世界ですが、毎回、サプライズがあるのもお楽しみのひとつ。「たそがれ清兵衛」ではあの死闘の凄絶美に魅せられましたが、「隠し剣 鬼の爪」では「えーっ、これだけ!」と肩すかし(笑)。

さて、本作のサプライズとしては、木村拓哉と檀れいの好演が挙げられます。軽口を言うことが愛情表現であるような可愛気のある男を、木村拓哉が演じることで生まれるユーモア感がなかなか新鮮。殺陣も決まっていたのには驚いたのですが、昔、剣道をやっていたとか。当初は知らなかった山田監督、それを知った時には「しめた!」と思ったと、一昨日のNHKテレビで話していました(笑)。

そして檀れい、おっとりとした中に芯の強さもある役柄、さらに若い頃の藤純子を想わせる美貌、すっかり魅了されてしまいました。今までどこにこんな綺麗な人が隠れていたのかと思ったら、宝塚の方だったのですね。ジャニーズVS宝塚、山田洋次の時代劇に新風を吹き込んでくれました。

さらに、桃井かおりや笹野高史など助演陣の演技も楽しく、なかなか見応えのある作品になっていました。前二作と比べると、深刻さを希薄にしたことで、かえって別種の味わいが生まれたように思います。

(2006.12.8 伊丹TOHOプレックス・1)






暗いところで待ち合わせ


穏やかな侵入者 / ★★★★


予告編でだいたいの筋が分かってしまったので、ちょっと鑑賞意欲をなくしていたのですが、友達の「『うつせみ』みたいかも」という言葉に気を取り直して観に行きました。

友達の言葉は半分冗談だったのですが、静けさの中に緊張感をはらんだ物語、確かに『うつせみ』に通じるところがあり、なかなか面白く拝見しました。

とにかく、主役のふたりがなかなかの好演。まず最初、チェン・ポーリンの目力にヤラれてしまいました。怒りと鬱屈と哀しみがこもった瞳にぐいっと引き込まれてしまったのです。田中麗奈がまた素晴らしかったですね。微妙な感情を繊細に表現する、そのたたずまいに次第に心ひかれて行きました。

現実の世界に居場所を見つけられないふたりの主人公が、言葉を介することなくその距離を縮めて行く・・・・。じんわりと心に染み入るような佳作でした。

(2006.12.4 シネ・リーブル梅田・1)






ウィンター・ソング


今年の期待はずれ賞 / ★★☆


金城武主演のピーター・チャン作品、見逃すわけには行かなかったのですが・・・・。

あっちゃー、全然、面白くなかった。ホントに全然、面白くなかったので、終映後にエレベーターホールでまわりの人の話に耳を傾け、クサしている様子の四人連れの方に声をかけたら、私と同意見でした。楽しめなかったのは私だけじゃなかったのね。よかった。

意欲作であることは認めますが、でも、ミュージカルシーンが何かしつこくて・・・・。あいかわらず小鹿のような金城クンは素敵だったけど、「シャイニング」みたいで・・・・。歌唱力に定評のあるジャッキー・チュン、今回はそれが裏目に出たような・・・・。その他、ぶつぶつぶつ・・・・。

でもでも、北京語だったからヒアリングの勉強にもなったし、レディースデイだったから千円だったし、損はしてないんですけどね(笑)。

ほんなら、文句いわんとき。ほんまやねえ、すいません。でも、実はけっこう期待してたんですよね。今年の期待はずれ賞は本作で決まりだ!

(2006.11.22 三番街シネマ・2)






明日へのチケット


一粒で三度おいしい。 / ★★★★☆


一台の列車に乗り合わせた人々の人間模様を描いたオムニバスですが、話に切れ目がなく、流れるように次のエピソードに移ってゆく構成が素晴らしく、さらに三話それぞれに異なる味わいがあって、一粒で三度おいしい映画でした(笑)。

老教授の現在と過去がない交ぜになったオルミ編。人生の晩年にある男のほのかな慕情、瑞々しくもあり、哀しくもあり、しみじみと心に響きました。これは思い出すと、ちょっと涙が出そうになります。

キアロスタミ編はあのわがままなおばさんにハラハラドキドキ。「もう、ええ加減にしときや」なんて、独り言をつぶやいていたような気もします(笑)。でも、携帯の着信音に脱力。そのあとの男たち(車掌さんや勘違いした男など)の行動に包容力があって、自分の心の狭さを反省(笑)。シニカルだけれど温かい、不思議な味わいでした。

そして、いちばん好きだったローチ編。一瞬、あっ気にとられて、そのあとニッコリしてしまう・・・・、何とも後味が爽やかで、最後を飾るのにピッタリでした。

スコットランドの若者たち、アルバニア移民、そしてサッカーとかけて、何と解く? 私の答えは「草の根外交」。

(2006.11.17 梅田ガーデンシネマ・1)






デスノート the Last name


スプンオフが待ち遠しい。 / ★★★☆


悪くはなかったのですが、無難にまとめましたという感じ。前後編を通じていちばん興奮したのは前編のラストということで、もう少し頑張ってほしかったという気もします。

でも、私の大好きな竜崎エルの出番が多くて楽しかったです。エキセントリックなのに人懐っこい竜崎エル、どこか昭和の香りもして、眺めているだけで頬が緩んでしまいました。あんな漫画そのもののキャラに血を通わせた松山ケンイチ君が一番の功労者でしょうか。わたくし的には今年の助演男優賞あげたい気分です。

どなたかもおっしゃっていましたが、スピンオフ、作ってほしいなあ。「竜崎エルの事件簿」、期待してます(笑)。

(2006.11.8 梅田ピカデリー・1)






深海 Blue Cha-Cha


深海に届く一条の光 / ★★★★☆


「夢遊ハワイ」と同じく、あまり話題になっていない台湾映画ですが、侯孝賢や蔡明亮を思わせるところもある本作、私はとても好きでした。

刑務所から出所したばかりのアユーという女性の他者との人間関係が主題なのですが、その繊細な感情のゆらぎを時には間近で、時には距離をおいて凝視し続けます。精神的に不安定でまともな人間関係を構築することができないアユーは、自閉と全的な依存を繰り返しますが、それが切なくもあり、また痛々しくもあり、さらには共感するところもなきにしもあらずで、涙々になってしまいました。しかしラスト、深海の底にいるような彼女に一条の光が届きます。思わず感極まり、トイレに駆け込んでひとしきり泣きました。

華流アイドル、リー・ウェイとのラブストーリーという宣伝がなされていますが、より重要なのはアユーとある女性との関係。その女性、アンねえさんを演じるルー・イーチン、台湾のどこにでもいるようなおばさん顔、見たことあるなあと思っていたら、蔡明亮の作品でいつも母親を演じている人でした。今回は主役で出色の演技を見せています。「うまく行かない時はチャチャを踊るのよ」という口癖の彼女が踊るシーン、ほんの数分に彼女の凝縮された人生が垣間見えるようで目を見張りました。アユーを演じるのは歌手のターシー・スーですが、やはり素晴らしいです。彼女が十年ぐらい前に主演した「藍月」という作品、大阪で開催された台湾映画祭で上映されたので、私も観ているのですが、その時とほとんど変わっていないような気がします。不思議なひとですね。

背景となる高雄(台湾第二の都市)の風景と音楽も印象に残りました。

監督のチェン・ウェンタンはデビュー作でベネチアの新人賞を獲得したということですが、私は第三作にあたる本作が初見です。今までその存在を知らなかったのが悔しくなるような、そんな素晴らしい作品でした。

(2006.11.8 シネ・ヌーヴォ)




ルー・イーチン & ターシー・スー




トンマッコルへようこそ


カン・ヘジョンにヤラれた! / ★★★★


テレビの朝のニュースから

動物園の檻の中にいる鶴の餌を、どこからかやって来た白鷺が外から横取りしようとします。鶴に頭を突かれながらも執拗に狙い続け、ついに餌の小魚を手に入れました。するとどうでしょう。そのあと、鶴が自分から進んで白鷺に小魚を与えたのです。

お腹いっぱいになったのでしょうか、それとも白鷺の頑張りにほだされたのでしょうか。どちらにしても、「仲よきことは美しき哉」。朝からニコニコでした。で、ニコニコしながら、本作の猪肉の一件を思い出したりして・・・・。

でも、こういう話を映画にするというのは、勇気があるというか、おめでたいというか・・・・。原作がお芝居と聞いて納得。本作もファンタジーにしたのは正解だったと思います。それでも賛否両論、好き嫌いが分かれておりますが、私は悪くなかったと思います。涙と笑いの波状攻撃、泣いたり笑ったりに忙しかったですよ。風景も美しいし、俳優さんたちも、みな好演でした。ただ、ラストのあたりは予想通りの展開で、もうひとひねり欲しかったような気もします。

それにしても、カン・へジョンがとてもチャーミング。彼女の放つお気楽光線にヤレれちゃった私でございます(笑)。

PS 双子の爺さんも可愛かったね。

(2006.10.30 シネ・リーブル梅田・1)






夢遊ハワイ


空と海のあいだで / ★★★★


台湾の青春映画。あまり話題になっていませんが、なかなの好編でした。

受験地獄や兵役といった、若者にとって切実な問題を織り交ぜながらも、全体としてはコメディ風味で、あとで思い出しても、ちょっと微笑んでしまうような気持ちのよい映画でした。

主人公は兵役についているふたりの若者。もうすぐ退役という時期に、突然降って湧いたように休暇をもらい旅に出ます。阿洲は悪友にひきずられてはいるものの心の優しい好青年。悪友の方は要領が服を着ているような悪ガキなのですが、根は悪くない小鬼(多分、その性格に由来するニックネームかな)。このふたりがじゃれあったり、ふざけあったりするシーンは、まさに青春。甘酸っぱい気持ちになりながら、つい頬がゆるんでしまいます。

このふたりに、受験ノイローゼでおかしくなってしまった女の子や、銃を持ったまま逃亡した後輩がからんで、痛みや苦さも決してないわけではないのですが、青い空と海のあいだでゆったり、のんびり進んで行くストーリー、何とも不思議な浮遊感に満ちていました。

若い俳優さんたちの演技、自然で生き生きしていて素晴らしかったです。木々の緑、画面いっぱいに広がる空と海、青い夜、花火など、美しい映像も特筆ものでした。

エンドロールのタイトルバックに流れるシーンがちょっと胸キュン。重要な意味を持っているシーンでもあって、そのエンディングがとても好きでした。終りよければすべてよし・・・。

(2006.10.25 第七芸術劇場)






ドラゴン・スクワッド


マイケル・ビーン! / ★★★★


日本のテレビドラマ「Gメン'75」にインスパイアされたそうで、丹波哲郎さん(合掌)もコメントを寄せている本作、わたくし的にはなかなかの拾い物でした。

とにかく俳優陣が豪華。香港、中国、台湾の若手に加えて、香港のベテラン、サモ・ハンとサイモン・ヤム。さらに敵側には「ターミネーター」のマイケル・ビーンや「M:i:V」のマギー・Q。あと韓国のホ・ジュノが中国の犯罪組織のボスを演じているのですが、この人たちが皆、いちおう主役級の扱いで、各人にそれぞれ見せ場があり、後半は山場の連続でお腹いっぱいになりました。

アクション描写はちょっと荒っぽいのですが、映像がスタイリッシュで雰囲気があり、使用した銃弾何万発とかの銃撃シーンがなかなかの迫力。前半はアクションでぐいぐい押して行くのですが、ある出来事を境に急にエモーショナルになって、いかにも香港映画という展開。でも、私はこういうの弱いんですよね。涙々になりました(笑)。

「プルートで朝食を」みたいに章仕立てになっていて(ちょっと違うか?)、赤地に黒字のタイトルが入るのですが、もちろん漢字。知っている四文字熟語も混じっていたりして、中国語学習者の私は単純にうれしかったです(笑)。

あとで考えると、エピソードも展開もわりと定石通りなのですが、テンポの早さと役者さんの魅力で観せられちゃいました(笑)。ベトナム人のスナイパーを演じるマギー・Q、今回は少し陰のある役でしたが、「M:i:V」同様カッコよかったです。マイケル・ビーンはお久しぶりという感じで、誰だか分からずに観ていたのですが、さすがに存在感があって、ホ・ジュノとともに映画に深みを与えていました。あと、若手の中の紅一点、どこかで見た顔だなと思っていたら、「カンフーハッスル」の盲目の少女。きれいなお姉さんになっていました。

(2006.10.18 ユウラク座)






カポーティ


彼と僕は同じ家で育った。 / ★★★★☆


カポーティは好きな作家のひとりなのですが、きっかけは映画。昔、自主上映会で「冷血」を観たあと原作を読み、それがとても面白かったので、その後、手に入る本は一通り読みました。有名な「ティファニーで朝食を」より、「草の竪琴」「クリスマスの思い出」といった子供が主人公の作品に心ひかれるものがありました。

それはさておき、予告編で「冷血」がらみと知って、俄然、興味が湧いた本作、期待通りなかなか見応えがありました。セレブリティである作家のエキセントリックな言動や、事件の関係者に近づくための手練手管を見ているだけでも面白いのですが、それ以上に、他者への共感から苦悩に至る人間的な姿に胸を衝かれました。真に独創的なものを生み出したいという、創作者としての業に導かれて、ついには自己崩壊へと向かう作家・・・・。こういうのを見ると、自分は凡人でよかったとつくづく思いますが、だからこそ、その人間ドラマが非常に興味深かったです。

ただ、原作で読んだ事件の真相はかなり衝撃的だったような記憶があるので、ラストのあたりは少し不満を覚えました。しかし二十年以上も前のことなので、私の記憶も当てにはならないのですが・・・・。

で、点数は85点ぐらいかなと思うのですが、フィリップ・シーモア・ホフマンはもちろん、他の俳優さんもみな素晴らしかったので、90点にしました。

(2006.10.13 梅田ガーデンシネマ・2)






フラガール


松雪さんの衣裳 / ★★★★☆


時代の波に押し潰されそうな斜陽の町の再生、一度は華やかなステージに立ったものの今は酒に溺れるダンサーの起死回生、そして田舎の少女たちの成長、この三つが絡み合った笑いと涙と感動の物語。まさに王道という感じですが、俳優さんの好演もあって涙々になってしまいました。

それにしても、松雪さんにはびっくり。ほとんどテレビドラマを見ない私、その認識はかなり古いと自覚しておりますが、実は「タカビーな女」というイメージしかなかったんです。劇中のセリフ「いい女になったなあ」に、違う意味でも頷いてしまいました。

さらにさらに蒼井優ちゃん。「花とアリス」のバレエにも目を見張りましたが、今回はフラダンスを立派にこなして、その身体能力の高さ、もう尊敬してしまいます。彼女が踊る三つのシーン、どれも名場面でした。それに何度か見せる、それぞれニュアンスの違う笑顔も素敵でしたね。

あと、松雪さんの衣裳が印象に残りました。ストライプでキメた登場シーンから、黒のセーターに緑のスカート、白の大きなペンダントが利いていた最後のシーンまで、趣味も仕立てもよいお洋服の数々、眺めているだけで楽しかったです。居酒屋で晩御飯食べるシーンの青いオーバーコートも素敵でしたが、その境遇との落差になおさらつのる侘しさよ、って感じがよく出ていました。どなたかスタイリストがついていたのでしょうか。エンドロールの間も泣いていたので、そのあたり見落としてしまった私です。

(2006.10.5 シネ・リーブル梅田・1)







ギドクに、魂、射抜かれて。 / ★★★★☆


今回は爺さんの妄執がテーマなのかと思っていたら、何と、これは純愛と呼んでもいいような・・・・。しかし考えてみれば、妄執と純愛は紙一重、人間の業の裏表ではないか・・・・。そんな人間の営為を、至高の高みへ飛翔させるキム・ギドク・マジック。ラスト10分、胸を射抜くイメージの連なりに圧倒されました。

主役の少女が素晴らしかったですね。「サマリア」にも出演していた女優さんですが、名前が変わっていたせいもあり、全然、気づきませんでした。それにしてもギドクの描く少女たち、「俗をまとった聖なる存在」といった感じで、いつも呆然としてしまいます

(2006.10.1 テアトル梅田・2)






シュガー&スパイス〜風味絶佳〜


冬の初恋物語 / ★★★★


観る前に、柳楽クンがシュガーで沢尻エリカがスパイス、甘ちゃん少年がホットなお姉さんに翻弄される話なのかなあ、なんて勝手に想像していたのですが、ちょっと違いましたね。でも、当たらずとも遠からずでしょうか。うぶな少年の初恋物語、初々しくて、切なくて、ちょっと昔のこと思い出しながら(笑)、泣いてしまいました。

ステロタイプなところも目につくので、クサす人の気持ちも理解できなくはないのですが、私は悪くなかったと思います。原っぱの真ん中にぽつんとあるガス・ステイション、アメリカン・スタイルのバー、スポーツカーを飛ばす白髪のご婦人など、ちょっと現実離れしたアイテムが醸し出す甘さが楽しかったりしました。それから、画面いっぱいに広がる空など、冬の空気感を捉えた撮影がとても心地よかったです。

俳優さんもそれぞれ素敵でしたが、私のお目当てはもちろん柳楽クン。演技うんぬんよりは、個性が大きな比重を占める感のある柳楽クンですが、瞬発力がすごいんですよね。クライマックス、もらい泣きを通り越して、実は大泣きしてしまった私です。

PS カタコトの日本語を話すチェン・ポーリンも素敵でした。今までそんなに好きじゃなかったのですが。

(2006.9.28 伊丹TOHOプレックス・5)






LOFT ロフト


耽美ホラー / ★★★★


ホラーは苦手なジャンルなので、熱狂的なファンの多い黒沢清作品も二、三本しか観ていないのですが、わたくし的に今年は中谷美紀イヤーということで、本作も観に行ったのですが、なかなか楽しめました。

何より映像の美しさがとても心地よかったです。窓から差し込む光、風に揺れる木々、霧の流れる沼・・・・。東京近郊の現在の話とは思えない、どこか異界めいたロケーションにも心ひかれました。そのあたりがドンピシャ好みでした。

お話のほうは不可解なところもあったのですが、私はそれほど整合性を求める観客ではないので、それはそれで楽しめました。あとで考える楽しみもあるし・・・・。で、観た翌日は、映像を思い出しながら、ストーリーを反芻したりしていました。

他の方はそれほど怖くなかったようですが、私は充分怖かったです。わりと妄想してしまうタイプなもので、ひとりで部屋にいる時に微かな物音がすると、ビクッとしてしまう今日この頃・・・・(笑)。

でもいちばん怖かったのは、自己に対する確信が揺らいで行くところかな、というのが今現在の感想です。主人公の三人が三人とも、少しヘンだったですよね(笑)。

PS お目当ての中谷美紀さんですが、今回はとても綺麗でしたね。眼鏡かけてるところがとても素敵でした。

(2006.9.25 テアトル梅田・2)






トランスアメリカ


ブリーとトビーの奇妙な旅 / ★★★★


よくよく考えれば、かなり悲惨な状況にあるふたりの主人公を、温かい視線で包み込むロードムービー。思わず吹き出してしまうユーモア、心にしみてくる切なさ、そして見終わった時にはとても勇気づけられる、そんな映画でした。

性同一性障害という題材は異色ですが、演出そのものはかなりオーソドックス。しかしロードームービーならではのアメリカの風景、旅の途中で出会う人々が織り成す、アメリカの縮図のような人間模様など、なかなか面白かったです。

主役のふたりが素敵でしたね。悪ぶってるわりには幼いところもあるトビー、人生そのものに戸惑っているようなブリー。その外見とは裏腹に、純で前向きなところがとても愛おしいふたりでした。演じる俳優さんも素晴らしかったです。

ドリー・パートンの主題歌が、また良かったですよね。エンドロールの歌詞を読みながら、その歌声に励まされるような気持ちになりました。

(2006.9.19 梅田ガーデンシネマ・1)






グエムル 漢江の怪物


怪しい快作 / ★★★★


「殺人の追憶」は堪能しましたが、「吠える犬は噛まない」はあまりにもブラックで・・・・と、わたくし的には今まで一勝一敗だったポン・ジュノ。本作は面白かったです。といっても、その面白さを説明するのはちょっと難しいのですが・・・・。いちばん好きだったのは、ちょっとハズしたユーモアのセンスでしょうか。突然、現れる怪獣にビビりつつ、笑わせていただきました。

個性たっぷりの主役一家はもちろん、いろんな人間描写がまた面白かったですね。さながら人間曼荼羅といったところ。私がいちばん好きだったのは浮浪児の少年A。「食べ物を盗むのは飢えた者の権利だが、お金には手をつけてはいけない」なんて、見上げた心根ではありませんか。この少年を演じていたのは、私のごひいきのイ・ジェウンではないかしらん。でも、はっきり映らなかったので未確認です。あと、ホームレスのおじさんも大活躍するし、そういった社会的弱者に向ける温かい視線も二重丸でした。

あっ、金髪のソン・ガンホも、年を喰った新井浩文といった感じで、意外と可愛かったですね。それから、もうどなたかに言われてしまったのですが、デビュー当時の薬師丸ひろ子を思い出させるヒョンソも天晴れでした。凛々しくて優しくて・・・・。

何か、B級っぽい作りが逆に楽しめる怪しい快作でした。

(2006.9.7 動物園シネフェスタ・1)






紙屋悦子の青春


薩摩漫才 / ★★★★


場内にひとり、すごくよく笑うご婦人がいたのですが、声の感じからすると、おばあさんに近いおばさん。時々、おじいさんに近いおじさんの笑い声も混じるので、ご夫婦で観に来られていたのでしょうか。おかげで、私もツラレて大笑いしてしまいました。

予告編から受ける印象とはかなり違いましたね。大阪人がふたりよると漫才になる、とよく言われますが、薩摩弁もほんのこておもしとかね(ちょっと違ってますか?、笑)。はんなり、まったりしている薩摩弁で交わされる会話、まるで昔の漫才のようで、ホンワカしてしまいました。

小林薫と本上まなみの夫婦漫才も、永瀬正敏と松岡俊介の青春漫才も、どちらも味わい深かったのですが、ボケ役の小林薫と永瀬正敏が秀逸。特に「ヘッセと弁当箱」の永瀬正敏が人の好い日本男子を体現していて、松岡俊介のやった事にも頷いてしまうのでした。

戦争を描くのにこういうやり方もあったんだと、「目から鱗」の本作、笑って、笑って・・・・、泣きました。

(2006.9.7 動物園シネフェスタ・1)






M:i:V


快楽逓減の法則? / ★★★★


息詰まるプロローグから人質奪回作戦へ、序盤のあたりは正に手に汗を握るといった感じで楽しんでいたのですが、その後も延々と続く見せ場、面白かったのですが・・・・、だんだん疲れちゃいました(笑)。で、振り子作戦のあたりでは、「そんなにうまいこと行くわけないやん」と、ちょっと意地悪になってしまった私。でも、額に青筋で全力疾走のトム・クルーズに機嫌が直りました。やっぱり、いちばん面白いのは生身の人間だ!

対するフィリップ・シーモア・ホフマン、わたくし的には、「マグノリア」の看護人さん(底抜けにいい人)が大好きだったのですが、そういうどちらかというと善人面の彼が演じる悪役、凄みがいや増して見応えたっぷりでした。さて、「カポーティ」では一体どんな顔を見せてくれるのか、期待が高まります。

女優陣では、高島礼子に似ているオリエンタル・ビューティー、Maggie Q がホレボレするほどカッコよかったです。それにしてもインパクトのある名前、暗号めいていて、スパイにはぴったし(笑)。

(2006.8.28 梅田ブルク7・7)






プルートで朝食を


不思議の国の子猫ちゃん / ★★★★☆


2時間7分とかなり長尺だったのに、エンディングが近いと悟った時、名残惜しい気分になりました。永遠に終わってほしくない、ずっとこのまま観ていたい・・・・。

70年代の懐かしいファッションとヒット曲に彩られた不思議ワールドで、「瞼の母」を追い求めるパトリックの旅、それがそのまま自分探しの旅になっているところが感動です。多分、原作を下敷きにしているのであろう章仕立ての構成がとても効果的でした。快調なテンポで展開される、現実と幻想のモザイク。実は暴力と隣り合わせのその世界で、どんな困難に出会っても、女性原理を貫きながら、前進、前進、また前進! 劇中の誰かれを魅了したように、最後には観客の共感をも勝ち取る風変わりなヒロインに拍手、拍手!

切なさと可笑しさが同居しているパトリック、私も抱きしめたいほど好きになりましたが、演じるキリアン・マーフィーは「バットマン ビギンズ」の悪役だった人ですよね。あの時もかなり異様で目が離せませんでしたが、今回は異端でありながらも愛すべき人間像を造形し素晴らしい演技でした。わたくし的には今年の主演男優(?)賞候補です。

(2006.8.23 テアトル梅田・2)






ハチミツとクローバー


海と自転車 / ★★★★


加瀬亮のファンなので、もちろん観るつもりだったんですけど、諸般の事情により延び延びになっているうちに、あまり世評が芳しくない。いったいどんな映画になっているのかしらと、逆に期待が高まりました(笑)。

オープニングの「桜の花は好きだけど、散ってくれるとホッとする」という意味の竹本のセリフにすごーく共感しましたが、これって、恋愛の心境にも似ていますよね。たとえば、好きな人の姿が見えなかったりしたら、心配で心配で・・・・。で、その恋も終わってしまえば、なんじゃらほい。あんなにドキドキしてたのが嘘みたい。穏やかーな気持ちに戻れたりして。そんなワクワクドキドキ、ちょっと思い出したりして、なかなかに心地よい映画でありました。

しかし、あまりにも生活感の感じられないところがねえ、もういい加減大人の私などは、ちょっと首をひねってしまったんですよ。でもでも、自転車に乗る竹本には、やっぱり泣いちゃいました。自転車って、ええわあ。とても映画的な乗り物だと思います。

俳優さんは、みんな良かったですよね。女優さんはふたりともとても素敵でした。櫻井翔クンも思いのほかの好演。あとのふたりはちょっと年齢的に無理があったかも(笑)。

ちょっと気に入らなかったのは猫ちゃんです。CGなんでしょうか。異様にボアボアしてて、最初はフィルムの傷かと思いました。でも、はぐちゃんの「海」の絵がとても気持ちよかったので、それでプラマイゼロにします。

(2006.8.21 梅田ガーデンシネマ・1)






ゲド戦記


海の染まる夕暮、星の降る夜 / ★★★★


いつのまにか、「テルーの唄」の懐かしいような切ないようなメロディが頭にこびりついて、この数日、頭の中でずっと響いていたのですが、本編ではその詞をゆっくり味わうことができて感激しました。

一言でいうなら、本作は「志のある映画」といえるでしょうか。もっとも「志のある映画」が傑作、秀作になるとは限らないのが世の常。しかし、わたくし的には決して悪くなかったと思います。確かにセリフが多く生硬な感も受けますが、そのひとつひとつの言葉に頷いてしまいました。宮崎駿作品で何度か経験した、訳の分からないうちに涙があふれるような、そんな圧倒的な感動はなかったものの、「テルーの唄」に歌われている「孤独な魂」を抱いた少年と少女の出会いの物語に心ひかれるものがありました。

声優さんはみんなぴったりでしたね。田中裕子の陰と香川照之の陽、特に香川さんの怪演が楽しめました。

ただ、他の方もおっしゃっているように、題名は変えた方がよかったかも。「ゲド?」、「戦記?」、観ながらちよっと首をひねってしまいました。

(2006.8.10 ナビオTOHOプレックス・1)






緑茶


男性向きの映画かも。 / ★★★☆


張元の作品は今までに2本しか観ていないので、あまりエラソーなことは言えないのですが、今回はかなり趣きが違うような気がしました。視覚的に楽しめる作品になっていたのは、クリストファー・ドイルの功績が大なのでしょうか。オープニングとエンディングはちょっと目を見張りましたね。ただ中身の方は、私はあまり共感もせず、他人事のように眺めていました。チャン・ウェンは何をしている人なのかな、お金はありそうだけど、あまり教養がある風でもないなとか、呉芳のお見合い、アレンジは自分でするのかな、雑誌にでも広告を出すのかな、と、つい余所事考えてしまいました。

王家衛の初期の作品のように、もっと青春風味が強かったら、もっと没入できたかも(笑)。でも、ヴィッキー・チャオはとても綺麗でしたね。高村薫さんに似ていたメガネ女子の方、とっても素敵でホレボレしました。

(2006.8.2 第七芸術劇場 )






DEATH NOTE デスノート


後編が待ち遠しい。 / ★★★★


原作の漫画は読んだことがないのですが、なかなか面白かったです。藤原竜也目当てで行ったのですが、松山ケンイチのキャラも強烈で目が離せませんでした。リュークの造型も面白かったですよね。

究極の正義を目指していたはずの夜神月が、自らが抹殺されるべき対象となるような犯罪に手を染めてしまう。さらには、自分の××まで・・・・。いったい、この落とし前、どうつけてくれるのよ。生半可なことでは許しませんよ(笑)。

続編が楽しみ!

(2006.8.2 梅田ピカデリー・4)






ゆれる


オダジョーの唇 / ★★★★☆


けっこう賛否両論なようですが、わたくし的にはたいへん面白く拝見しました。兄弟間の愛憎が入り混じった微妙な感情を裁判劇で見せるという着想が秀逸だと思います。昔から裁判劇は面白いと相場が決まっていますからね。中盤のサスペンスフルな展開に思わず引き込まれ、心の中で、うわっ、えぇっ、うーむ、などと声をあげながら、ちょっと前のめりで見ておりました。

俳優陣が素晴らしかったですね。なかでもオダギリジョーと香川照之、すごかったです。丁々発止の一本勝負、まるで格闘技みたいでした(笑)。今回はワイセツ感すら漂う嫌なヤツを演じるオダジョー(唇がみだらなのよ、笑)、意外や(意外でもないか、笑)ぴったりハマッてました。ちょっと考えても、他のキャスト、思いつかないです。香川照之がまたよかった。実直な男の心の底に潜むもの・・・・。洗濯物たたむ後姿や、橋の上で拒絶された時の表情、忘れられません。切なかったです。

だけど、人間って悲しいですよね。こわいですよね。売り言葉に買い言葉じゃないですけど、相手の反応しだいで、自分でも思いもかけないことをしてしまったり・・・・。で、それに対して、ご大層な大義名分を掲げてみたり・・・・。兄弟という極めて近い関係だから、とことん行き着くところまで行ってしまう・・・・。とても見応えのある人間ドラマになっていたと思います。

(2006.7.31 シネリーブル梅田・1)






胡同のひまわり


可愛い子猫が出てきます。 / ★★★☆


父と息子の確執と和解というのは、映画にとって永遠のテーマですが、本作ではそれほどカタルシスが感じられず、観終わった時の印象はあまり良くなかったのですが、あとから振り返ると、いろいろ見所があったように思います。

「他人にも厳しく自分にも厳しく」というのは、今はあまり流行らないとはいえ、一種の美徳といえなくもありませんが、このお父さんの場合はちょっと行き過ぎ。強制労働送りになったのも、あながち隣人のせいばかりではなく、この融通の利かない性格が災いしたのではないかと、思ったりもしました。しかし変わり者だからといって、その後の運命まで変わってしまうような仕打ちを受けるのは、何ともやりきれない話。今までの作品でもたびたび取り上げられたところではありますが、文革は中国人にとっては永遠のテーマなのかもしれません。あっ、今ちょっと思いついたのですが、あの四角四面のお父さん、現在の社会にはびこる汚職や賄賂といった不正へのアンチテーゼなのでしょうか。

張揚の前作「こころの湯」には、父子の愛情という本筋とは別に、失われてゆく北京の古い街並みへの哀惜が満ちていて、胸を突かれたものでしたが、本作では、同じテーマが哀惜というよりは諦観を伴って描かれ、その間に流れた時間や急激な変化にため息をついてしまいました。だからこそ、一昔前の胡同での生活をじっくり描いた前半は興味深かったですね。素晴らしいセット、その内外を行き来するカメラ、とても見応えがありました。

主人公の開く展覧会の絵が現代アートで意表をつかれましたが、有名なアーティストの作品のようです。映画の中では二人展ということで、別の作品も遠目に眺めることができたのですが、それも現代アートで興味深かったです。見所のひとつではないでしょうか。

それにしても、1976年というのは、地震があったり、毛沢東が死んだり、四人組が失脚したりと、激動の年だったのですね。その頃、私は何をしていたのかな、なんて・・・・。

PS 主人公がなかなか映画に行けないシーン、映画ファンとしてはやきもきしました。席を取って待っていた友達も、映画を楽しむどころではなく気の毒でしたね。映画ぐらい見せてあげてよ、お父さん(笑)。

(2006.7.24 OS名画座)






ココシリ


辺境ハードボイルド / ★★★★


最初に劇映画であることを示す描写があったのに、いつのまにかドキュメンタリーを見ているような気になりました。登場人物がみんな俳優とは思えない風貌の男たちだったせいもあるのでしょうか。過酷な世界で命を懸けて追跡を続ける男たち、思わずぐいぐいと引き込まれました。あまりにも馴染みのない世界で、男たちの行動の意味が分かるのは少し時が経ってから。ズボンを脱いで川に飛び込む、息もたえだえに走り続ける、そこでは生と死が隣り合わせ。別れの際の男たちの抱擁、あとから振り返ると切なくなりました。ただ価値観があまりにも異なるので、ちょっと簡単には感想が出て来ません。

興味深かったのは、台湾の監督、陳國富がエグゼクティブ・プロデューサーだったこと。ひと月ほど前に観た台湾映画「五月の恋」の製作には中国の田壮壮が名を連ねていたし、中国語圏の映画界、中台の協力はますます密になっているようです。

(2006.7.12 三番街シネマ・2)






玲玲の電影日記


「夢影童年」、原題が素敵です。 / ★★★☆


ご都合主義なところも目につくので、ちょっと評価に困るのですが、でも映画への愛はしっかりと伝わってきました。私もどちらかというと、後半のほうが好きです。十代の少女の鬱屈した想いに、一挙に感情移入してしまい、さらに映画の没落という時代背景もあいまって、涙々になってしまいました。

玲玲が母から「お姉さんなんだから我慢しなさい」といわれる「少年宮」、中国語のテキストで「小学生の課外活動」という説明を見たことはあるのですが、学費が高いというのは初耳でした。試験もあるんですね。誰でも無料で参加できるのかなと思っていましたが・・・・。

それはさておき、劇中で上映される映画がとても興味深かったです。「鉄道遊撃隊」なんて、今のCGと比べると全然チャチなんですけど、やっぱりワクワクしてしまいます。最後に上映される「小街」は青春映画でしょうか。ちょっと観てみたいですね。

ひとつ驚いたのは、一番最初にジョン・シャムの名が出て来たこと。ジョン・シャムは俳優として映画に出演していたこともある、香港のプロデューサーですが、天安門事件の時に活動家を西側に逃亡させたという噂があって、中国当局から睨まれていたと、雑誌(キネマ旬報臨時増刊「亜細亜的電影世界」、平成5年発行でした!)で読んだことがあります。それが今では中国映画をプロデュース。時代は変わりましたね。

(2006.7.5 OS名画座)






花よりもなほ


朝が来たよ / ★★★★☆


桃色と水色と紅色の縮緬地のような、美しいタイトルバックに思わずうっとり・・・・。本編もその色調のまま、はんなり、まったり、何とも心地よかったです。

それにしても、俳優陣が豪華なことに驚きました。宮沢りえちゃんと岡田准一クンだけでも、かなり豪華なのに、さらに続々出てくる意外な面子にニコニコ。芸達者ぞろいで、それぞれの個性が際立ちながらも、群像劇としてのアンサンブルも見事で、とても見応えがありました。

脱兎のごとく逃げ出す宗左を見たとき、私の頭の中に「人生、いかに生くべきか」という大きな疑問符が浮かんだのですが、結末は・・・・。まあ、いろいろな意見があるかもしれませんが、わたくし的には「異議なーし」。弱くたっていいじゃん。弱いからこそ見えてくるものもあるよね。人間の愛すべき弱さ、さらには卑小さまで包み込む、その視線の温かさよ。

美術、衣装、音楽、撮影、みんな特筆ものです。長屋のセット、素晴らしかったですね。いくつかのブログに黒澤明の「どん底」みたいとありましたが、私も同感。さらに「聖なる愚者」ぴょんぴょん孫三郎には「どですかでん」を連想したりしました。どちらも貧乏人の群像劇ですしね。

悲劇にもなりうる題材を心和む喜劇に仕上げた本作、まるで陽だまりでまどむろ猫が見た一場の夢のよう。優しさと温かさに満ちていて、穏やかな幸福感を覚えました。

PS みんな素晴らしかった役者さんの中でも、ダチョウ倶楽部の上島さん、役にぴったりハマりこんで、目が離せませんでした。それから、今まで情けない役が多かった加瀬亮、今回すごくカッコよくて素敵でした。そうそう、「誰も知らない」の木村飛影クンも出ていたみたいですね。どの役だったのかな。

(2006.6.28 梅田ピカデリー・2)






柔道龍虎房


神聖柔帝国(笑) / ★★★★☆


ジョニー・トーの傑作「ザ・ミッション/非情の掟」は、聞くところによると「七人の侍」にインスパイアされたらしいのですが、本作はずばり「黒澤明に捧ぐ」。というわけで、「姿三四郎」の藤田進と月形龍之介の決闘の場を模したらしいシーンから始まるのですが、香港のビルの谷間に突如現れる竹林(?)、かなりヘン。さらにそこで日本語の歌を歌うヘンな男。

と、いかにもジョニー・トーらしい人を喰ったオープニングが楽しい本作、しかしそのあとしばらく、全然話が見えないんですよね。トー作品を見慣れていない方にはこのあたりがネックになるかもしれませんが、ファンならワクワクせずにはいられないはず。この先どんな展開が待っているのか?

で、結論はといえぱ、今回は何と熱血感動篇だったんですよ。同時にちょっと切ない青春映画でもあって、私、胸が熱くなりました。生きる希望が湧いてきました。もうすっかりニコニコ気分で、映画館をあとにしました。

それにしても、主役から脇役まで、男たちが何とも可愛いんです。柔道という絆で結ばれた男たちは「人類みな兄弟」、嬉々として投げたり、投げられたり、そこには神々しいまでの(あるいは馬鹿馬鹿しいまでの、笑)稚気があふれていて、いゃあ、「男の世界」大好きな私には、「もう、たまりませーん」の世界でした。

巷では賛否両論らしい本作、わたくし的には「キル・ビル Vol.1」、ジョン・フォードやハワード・ホークスの西部劇(男たちの乱闘シーンが、昔、無性に好きだった「酒場の喧嘩」を思わせるのです)まで連想させて、ある意味では、映画の王道ではないかと思うのですが・・・・。

まあ、他人はいざ知らず、わたくし的にはツボにはまりまくり、好きなシーンがいっぱいあったんです。もう、しゃべりたくてウズウズしてしまうんです。でも、これから観る方の興を殺いではいけないので、ヒントだけ(笑)。風船、着ぐるみ、靴、紙幣、夜の路上でひとり・・・・、道場でふたり一緒に・・・・。

あっ、ヒロインもとてもチャーミングでした。彼女はわけあって日本語を勉強しているのですが、そのテープから流れる例文は「私は、映画館で、映画を観ます」。映画作家にして映画バカ、ジョニー・トーからのメッセージでしょうか、心して聞くべし(笑)。

PS 坊主頭のアーロン・クォクは藤田進に似ている。

(2006.6.13 第七芸術劇場)






嫌われ松子の一生


西鶴一代女ミュージカルバージョン? / ★★★★


昔、溝口健二の「西鶴一代女」を観た時、主人公のことを、友達は「自分から進んで不幸になってるみたい」と評したのですが、私の感想は「魚座の女なんじゃないかしら。求められると、尽くさずにはいられないのよ」。松子にもちょっとその気があって、もしかしたら魚座の女?(私の勝手な推測なので、間違っていたらごめんなさい)。かくいう私も魚座の女。で、松子には共感するところが多々あり、いつのまにか身を乗り出していた次第。最後はもちろん涙々でした。

それにしても中島監督の演出、すごいですね。最初は余りにも作りこんだ画面に少し違和感を覚えていたのですが、そのうち引き込まれてしまいました。二時間を越える上映時間、ずっとハイテンションを保ち続けるなんて、生半可な技ではありませんよ。

役者さんも素晴らしかったですね。個性派ぞろいの男優陣もよかったけれど、何といっても中谷美紀が最高、今年は絶好調ですね。黒沢あすかもよかったなあ。俗でありながらも粋でいなせで、ホレちゃいましたよ。わたくし的には、このふたりの友情がキモで、いちばん好きな部分でした。

数あるミュージカルシーンも楽しかった。星やら花やらが飛ぶ乙女チックなシーンも好きでしたが、土屋アンナや山田花子のゲスト出演がうれしい刑務所のシーンが白眉でした。

というわけで大いに楽しんだわけですが、比較すると、私は「下妻物語」の方が好きかも。疾走しっ放しで、ちょっと息苦しい感もある本作なのでした。

(2006.6.6 ナビオTOHOプレックス・3)






青いうた〜のど自慢青春編


木綿のハンカチーフ / ★★★★☆


このところの日本映画、わたくし的にはピンとこない作品が続いて不本意だったので、久々に「きたーっ!」って感じでした(笑)。青春映画、やっぱりいいですよね。

田舎の中学を卒業した四人の若者。「世の中、金やで」と東京に出て行く達也(すいません、大阪弁になってしまいましたが、本編では味のある下北の方言を味わえます)。知恵遅れの弟、良太。親の敷いたレールを走らなければならない俊介。達也を想いながら田舎で頑張る恵梨香。その青春の挫折と成長と書くと、ちよっとクサイんちゃう、と敬遠される方もあるかもしれませんが、まあ、ちょっと観てみてください。切なくて、みずみずしくて、いいんですよ。

演出は笑って泣かせる正攻法ですが、私が特に好きだったのは、全ての登場人物に温かい視線が注がれているところでしょうか。暴力団組長や、達也を悪の道に引きずり込む兄貴分といった悪役でさえも切なさを湛えて、それぞれの人生を思ってしまうようなところがありました。この兄貴分を演じている俳優さん、初めて見ましたが印象強烈。お調子者の悲哀っていうんでしょうか、沁みましたね。

もちろん主役の四人も素晴らしかったです。濱田クンの走ったり、殴りあったりする身体表現もよかったな。むつ市でロケしたという風景も抜群の効果で、あの山と海だけでも、もう一度見たいって感じです。さらに音楽。わたくし的にはやっぱり「木綿のハンカチーフ」が青春の思い出(微笑)。大学時代のクラスメートに九州出身者が三人いたのですが、彼らのテーマソングだったんですよ。恋人なんかいそうもないヤツも「東へと向かう列車で〜」なんて歌ってましたっけ(笑)。

あっ、私も大学教授のエピソードは余計な気がしました。でも、綺麗な緑魔子さん、見られたから、まあ、いいか。斉藤由貴のお母さんもよかったな。おふたりを久々に見られて、うれしかったです。

(2006.5.30 シネリーブル梅田・2)






クライング・フィスト


拳が泣いてるぜ / ★★★★


「春が来れば」に続いて、チェ・ミンシクが情けない男を熱演。そのオヤジぶりがあまりにも情けなくて、前半は「身から出た錆とちゃうのん」とちょっと冷ややかな目で眺めていたのですが・・・・。チェ・ミンシクのパートもリュ・スンポムのパートも、どこかで見たような展開で、ストーリー的にも新味はなかったのですが・・・・。前半と後半の転回点も、「ちょっと強引な展開やなあ」と思ったのですが・・・・。

いゃあ、後半は熱くなりましたね。泣きましたわ。ちょっと浪花節なんですけど、やっぱりシビレる「男の世界」でした。音楽もビンビンでよかったです。エンドロールで流れる曲がロック調なのですが、ヤケクソみたいな歌い方で、それでまた涙がこみあげて来ました(笑)。

俳優の魅力は大きかったですね。チョ・ミンシクはさすがの名演。さらに若手のリュ・スンポムが素晴らしかったです。ストーリーに新味はないと書きましたが、リュ・スンポムの不良ぷりっは、感情がじかに伝わってくるようで見ごたえがありました。脇役もどこかで見た人ばっかりだったのですが、チェ・ミンシクの弟分は確か「美しい夜、残酷な朝」でイ・ビョンホンをいたぶっていた人ではないでしょうか。とても印象に残る俳優さんだったので、またお会いできてうれしかったです。

ただ、撮影に関してはちょっと疑問があるんですよね。後半の試合のシーンなどはとてもよかったと思うのですが、前半の白っぽい画面に少し違和感を感じました。好みの問題かもしれませんが・・・・。

(2006.5.15 テアトル梅田・2)






うつせみ


悲しみを濯ぐ人/ ★★★★☆


洗濯、修理、水遣り、一仕事を終えると記念写真。テソクのすることを眺めていると、思わず口元がゆるんでしまうのでした。獄中での修練も含めて、まるで一人遊びに夢中になっている子供、あるいは子猫、そんな邪気のない小動物を想起させられ、微笑んでしまうのです。

映画からの帰り道、途中に橋があったのですが、景色を見ようと立ち止まると、歩いている時には気づかない揺れを感じました。その時、ふと、テソクは私たちとは異なる速度で生きているがゆえに、私たちの感知できないものに気づくことができるのではないか、と思いました。私たちとは違う時間、違う世界に生きている人だから、ソナの悲しみを一瞬のうちに理解できたのではないか・・・・。

「サマリア」を観た時、あのふたりの少女は、私たちの代わりに罪を犯し、そしてその罪を贖ったのではないか、と感じたのですが、本作のテソクは、私たちの悲しみを私たちの代わりに浄化してくれているように感じました。

とにかく観終わった時、私の心は穏やかな幸福感に満たされたのです。

で、昨日また観に行ったのですが、初めて気づくこともあり、今度はとても切なかったです。

(2006.5.10 梅田ガーデンシネマ・1)






ブロークン・フラワーズ


途方にくれて/ ★★★★


ヴェンダースもマリックも少し居眠りしてしまったのですが、ジャームッシュの久々の新作はなかなか面白かったです。あのダラダラ感がけっこう気持ちよくて、時々、クスッと笑いながら楽しませていただきました。

自分にも経験のあることなのですが、昔つきあっていた男の子から突然連絡があるというのは、サプライズのもたらす喜びはあっても、どちらかというと迷惑なんですよね。まあ、私は電話をもらっただけなので、あれほど気まずい思いはしなかったのですが(笑)。でも、四者四様のあの気まずさが、何とも切なくて、何とも可笑しくて、いゃあ、人生って喜劇ですね。でも、途方にくれたドンの遣る瀬なさ、ちょっと心に染みまする。

で、不思議なことに、最後にはドンに感情移入している自分がいたりして・・・・。この世界のどこかに私の子供がいたとしたら・・・・。一瞬後、女の私にそんなことはあるはずがないっ!と気づいて、心の中でひそかに爆笑。でも、そんな感慨をも呼び起こすとてもインチメートな作品でした。

音楽もよかったし(今日はあの主題歌が頭の中をぐるぐる)、配役はもう最高でした。女優さんがそれぞれ魅力的で、眺めてるだけでも楽しかった。また、その側にいるロリータやら、おしゃべり夫やら、ウインクする猫ちゃんやら、思い出すだけで微笑が浮かんできます。でも、いちばん好きだったのは花屋のお姉さんかな。それにミッシェル・ペペのエピソードは、ちょっと意外だったので胸を突かれました。

(2006.5.8 シネリーブル梅田・1)






メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬


慈愛に満ちた「男の世界」/ ★★★★☆


最近はアメリカ映画にそれほど興味がなくて、トミー・リー・ジョーンズにも何の思い入れもなかった私が本作を観たのは、予告編に魅きつけられたからです。国境地帯の荒涼とした風景も印象的でしたが、特に心ひかれたのは夕闇に包まれた野外カフェのシーン。

本編においてもこのシーンは、主人公ピートの「人となり」を示唆するようなシーンだったのですが、その描写がとても繊細で、トミー・リー・ジョーンズ、只者ではないと唸りました。もちろん、脚本もとても素晴らしいのですが・・・・。

「すばらしかった。美しい詩劇をみているようでした」というのは、加瀬亮の本作に対する賛辞ですが、同感するところがあります。物語は無数のピースから成り、それぞれのピースがあるいは美しく、あるいは優しさに満ち、あるいは啓示をもたらす。それは無味乾燥な説明などではなく、映像を通して直感的に伝わってくるものなのです。

どんな結末が待っているのか、どきどきしながらピートとマイクの旅に同行しました。そして映画が終わった時、ゆっくりと心を満たして行った感動。観終わったその時よりも、時を隔てるにつれ、その感動はさらに深まって行くのでした。

(2006.4.27 梅田ガーデンシネマ・2)






春が来れば


桜、桜、今舞い落ちる・・・・。/ ★★★★


チェ・ミンシク主演のヒューマンドラマという情報だけで観に行ったのですが、「大統領の理髪師」の名子役イ・ジェウンも出てきてうれしい驚き。イ・ジェウンは私の2005年度外国映画助演男優賞を獲得した小さな名優さん。今回も健気な少年ジェイルの笑顔に魅せられたのですが、田舎のツッパリボーイ、ヨンソクも何とも愛おしいキャラで、このふたりを観ているだけで、心の中が甘酸っぱくなってくるのでした。その他、素人の少年が演じているという同級生たちも自然で生き生きしていて、素晴らしかったと思います。

チェ・ミンシクは実は私の2004年度の主演男優賞。今回も彼を目当てに観に行ったわけですが、期待を裏切らない名演でした。いい年こいて夢を追い続け、定職もなく恋人にも愛想をつかされ、母とふたり暮らしの不肖の息子。私もある意味では、親の期待を裏切った不肖の娘なので、このヒョヌには身につまされ、涙々になってしまいました。もう他人事ではないという感じだったのですが、そんな息子に対する母の言葉がとても温かくて、何か救われるような気持ちにもなるのでした。

ヒョヌと母、ジェイルと祖母、ヨンソクと父など、家族が描かれている映画でもありました。すべての登場人物に向けられる視線がとても温かく、観終わってしみじみと泣きたくなるような、そんな映画でもありました。昔の日本映画のような感じもありましたね。

鑑賞後に知ったのですが、監督のリュ・ジャンハはホ・ジノの助監督だったそうで、情感あふれる作風は共通しています。炭鉱町に雪が降り始めたとき、それだけで涙が出てきました。ソウルへと向かう列車の車窓に見える海にも、こちらの感情が揺さぶられるような・・・・。

いゃあ、よかったです。こうして文章を書き綴っているうちに、また涙がにじんでくるのでした。

ただ難をいえば、描写が丁寧なせいか、少し冗長に感じるところがあり、また話を広げすぎたような気もしました。でも、もう一度観たい作品です。

(2006.4.5 梅田ブルク7・5)






SPL/狼よ静かに死ね


男泣き? / ★★★☆


前半はすごくノッて、サイモン・ヤムの演じる刑事たちと一緒に熱くなっていたのですが、後半の凄惨な殺しの場面に少し冷めてしまいました。あの殺し屋、マジで怖かったです。

しかし、生身の格闘シーンはやはり迫力がありましたね。ドニー・イエンはもちろんすごかったけれど、サモ・ハンも年齢と体型に似合わない敏捷さで、ふたりの対決には手に汗を握りました。でも、サモ・ハンのキャラ、ちょっと凄味ありすぎ。やはりマジで怖かったです。

この凄惨な暗さをどう取るかで、評価が分かれそう。私も数週間前に観て、ちょっと複雑な気持ちだったのですが、やはり香港カンフーのファンなら、一言いっておかねばと、筆を執ったしだいです。

今、オフィシャルサイトを見に行って思い出したのですが、音楽はよかったです。「魂を揺さぶる壮大な『バイオレンス・オペラ』の誕生!」というコピー、あながち嘘ではありません。女の私には刺激が強すぎたけれど、男なら泣くのかな?

(2006.3.21 ユウラク座)






THE MYTH/神話


冒険アクション+武侠映画=見所倍増 / ★★★★


大瀑布へと身を躍らせるジャックを見ながら「ほとんど馬鹿」とつぶやいてしまいましたが、いくつになってもバカをやめないジャッキー・チェン、すごいですよね。あまり世評が芳しくなく、ちょっと躊躇していたのですが、観に行って正解でした。

ジャッキー初の武侠映画というフレコミには若干の偽りありですが、往年の冒険アクションのテイストが感じられる本作、私はとっても楽しめました。世界各地を飛び回るだけでなく、時系列をも飛び越えた冒険アクション・・・・。そのアイディアが面白いじゃないですか。で、過去へ遡ることによって見所も倍増。たとえば豪華な衣装や甲冑、荒野での騎馬戦、チャンバラアクションなどなど。

実は私、泣いてしまったシーンが二ヶ所あるのですが、どちらも麗妃がらみ。風の中で舞い踊る麗妃、あふれる光の中、風にはためく美しい衣装。麗妃いうところの自由自在な感覚がこちらにも伝わってきて思わず涙でした。そしてクライマックス、ふたりの飛翔にかぶさる主題歌。ここは夢見るような感じで、やはり涙でした。こんなところで泣くかな、しかし(自分に対してツッコンでます、笑)。

風景よし(中国って絶景の宝庫ですね)、美女よし(インド美女もよかった)、アクションよし(ネズミ捕りには爆笑)、いゃあ、面白かった。ジャッキーも歳とったなんていう人もいますが、見方を変えれば、あの年齢でこれだけ頑張ってくれてるということで、文句いうたら、バチあたるでえ(笑)。

(2006.4.3 動物園シネフェスタ・2)






ブロークバック・マウンテン


ゲイ映画というよりは・・・・ / ★★★★☆


観終わって切なさが身にしみました。時代や環境、さらには自分自身の規制によって抑圧された愛情・・・・。ある者は罰を受け、ある者は孤独を生きることになる。それでも消し去ることはできないもの・・・・。

1963年のアメリカの片田舎に始まるカウボーイたちのラブストーリー、こんな題材は初めて観た気がします。非常に興味深かったです。

主演のふたりが素晴らしかったですね。ジャックとイニスの出会う場面、どきどきしました。ふたりのただならぬ気配にいったい何が始まるのかと・・・・。そして二十年の時の流れ、イニスの生き方に胸を突かれます。ジャックのあがき、身につまされます。

人間描写が秀逸、アン・リーの演出に感服しました。思わず引き込まれる語り口、繊細な心理描写、これまでの作品もすべて佳作だったと思いますが(「ハルク」は未見)、本作には風格さえ感じました。

(2006.3.26 シネリーブル梅田・2)






かもめ食堂


ご飯の力は偉大だあ! / ★★★★☆


「幸せってどこにある?」
「あったかいご飯の中にあると思うで」
というのは、阪本順治監督の「ぼくんち」に出てきた台詞ですが、蓋し名言。炊き立てのご飯だったら、おかずがなくてもごま塩だけでOKの私はつくづく共感したものでしたが、梅干と鮭とおかかのお握りの中にも、確かに幸せは存在するようで、本作にも大きな幸福感を覚えました。観終わって思わず涙がじわーっとにじんできたほどでした。

前作「恋は五・七・五!」は見逃したのですが、荻上直子監督、「バーバー吉野」からグーンと進化した感じです。オフビートの「バーバー吉野」も大好きだったんですけど、深い哀しみから至福まで人生のさまざまな感情を、さりげないタッチで描いた本作は、そのさりげなさに技あり!。

主演の三人も好きな女優さんばっかりで、見ているだけでニコニコ。泣き虫で、ちょっとお節介で、少し人懐っこい片桐はいりが大好きでした。小林聡美のたたずまいはお手本にしたいほど惚れ惚れしました。もたいさんの優しさにはあこがれました。日本かぶれの美青年豚身など、フィンランドの人たちにも心和みましたね。

登場人物以外にも好きなものがあふれていて、それだけで小さな幸福感を覚えたほど。たとえば、陽光がいっぱいのかもめ食堂。サチエさんの部屋の灯りや窓外の白夜。ヘルシンキの森や港、美しい街並みや市場などなど。とにかく北欧の空気感が最高でした。

お洋服と呼びたいような衣装の数々も素敵でしたね。サチエさんが着ていた古着風の小花模様のブラウスやもたいさんの鳥模様のブラウス、欲しいです。おばさんが古風なワンピースを着るのもとっても素敵と再認識。最近は片桐はいり風のカジュアル路線ひとすじでしたが、おしゃれの春になりそうな予感・・・・。でも、はいりちゃんもとっても素敵でしたよね。縞柄のパーカー、私も欲しいです。

朝一の回で、かもめ食堂のメニューの数々にお腹を鳴らしながらも、くつろいだ時間を過ごさせていただき、忙しい日々の中、生き返った心地がしました。その後、二、三日は他人に優しかった私です(笑)。

(2006.3.26 梅田ガーデンシネマ・1)






PROMISE


思えば遠くへ来たもんだ。 / ★★★☆


予告編の美しさに呆然となって、とても期待していた本作ですが・・・・。最初の馬蹄谷の戦いでまたもや呆然・・・・。「『カンフーハッスル』じゃないんだから」と、思わずツッコミを入れてしまいました。むむっ。

アクションの速度に、どうも説得力がないんですよね。美しい映像も二番煎じの感ありで、『HERO』のアクションシーンは荒唐無稽でも優美だったよねえと、つい比較してしまう私。しかし途中で「あっ、これは重力が少ない世界の話なんだ」と気づいて、比較することをやめてからは、けっこう楽しめました。ラストに近づくにつれて、ちょっと涙も出そうになったのですが、いちばん感動したのは「黒衣の人」の最後の言葉でした。本筋のラブストーリーの方はちょっと・・・・。

しかし俳優さんはみんな健闘。ここではとても評判のよい扇王子ニコラス・ツェー、わたくし的にも最高でした。美しいのはもちろん、アクションの軽さにいちばん説得力を感じました。金の指差し棒には笑いましたが・・・・。あれが画面に映るたびに、心の中で「おっ、また出ましたよ、金の指差し棒」とつぶやく私。おいおい(笑)。家来もみんな持っていたのが何とも・・・・。

真田広之の北京語は素晴らしかったですね。NHKのニュースで見ましたが、短期間のうちにあれだけの発音をマスターするなんて、抜群の運動神経が関係しているのでしょうか。私事ながら、中国語学習者の私、最初の一年間はノイローゼ状態でした。チャン・ドンゴンの北京語も悪くなかったですよ。自分の声なのでしょうか。俳優さんって、すごいですよね。

どうも話がそれましたが、巨匠・陳凱歌の作品としては不満は残りますが、まあまあ楽しめる娯楽作だったと思います。ところで陳凱歌の本質は、けっこう通俗的なのではないでしょうか。世評の高い『覇王別姫』も、私には通俗的に思えたのですが・・・・。ただ、それが悪いというわけではありませんので、念のため。で意外や、『花の影』が好きだったりする私です。

しかし今では、『黄色い大地』や『子供たちの王様』を撮った監督とは、とうてい思えないです・・・・。

(2006.2.11 梅田ブルク7・6)






エリ・エリ・レマ・サバクタニ


夢うつつ・・・・ / ★★★★


観ている間、ずーっと少し眠たかったのですが、決して退屈だったというわけではなく、妙に心地よかったのです。で、夢うつつで美しい映像を眺めていました。

前情報なしで観たのですが、「音」が主題の作品だったのですね。その肝心の「音」を好きかと尋ねられると困るのですが、前述の心地よさのいくらかはこの「音」に由来しているようでした。旧型人間の私としては、ナンシー・シナトラ(でしたっけ?)の挿入曲の方が何倍も好きだったりするのですが・・・・。

音を採集するミズイとアスハラの子どものように無垢な表情に魅きつけられました。波の音、貝の音、火の燃える音など、とても興味深かったです。この世は音に満ちているのですね。

北海道でロケをしたようですが、海沿いの断崖や草原、どこまでも続く道など、とても印象的な風景でした。似たような場所を旅したことがあって、その時ののびやかな気持ちを思い出したりしました。これも夢うつつのうちに・・・・。

でも、最後にははっきりと覚醒して、深い哀しみに襲われました。それは不在者に対する悲しみでもあり、いないけれどいるような、そんな感じに囚われたせいでもありました。

とにかく、ちょっと不思議な映画体験でした。

PS 最近観た「誰がために」で心ひかれたエリカに、また出会えてうれしかったです。全然タイプは異なるものの「誰がために」も映像と音楽がとても心地よい映画でした。

(2006.2.4 テアトル梅田・2)






THE有頂天ホテル


大阪では受けてました。 / ★★★★


けっこうみなさん厳しいですねえ。私は笑いっぱなしで、とても楽しめました。私以外の観客にもすごく受けていて、場内は笑いの渦でしたが、地域によるのでしょうか。ちなみに私は大阪で観ました。

予告篇を見た時に、オダギリジョーの演じている役と、金髪の美女を演じている女優さん(篠原涼子)が分からなかったので、劇場前に掲示されていた相関図で予習して本篇に臨みました。オダジョーの筆耕係、最高でしたね。思わず画面に向って「ダメだよ、それじゃ」と突っ込んでしまいました(笑)。でも、最後の笑顔にはこっちもニッコリ。篠原涼子のコールガールもとてもチャーミングで、わたくし的には、このおふたりに男優賞と女優賞をさしあげたいと思いますが、女優さんはみんなそれぞれ好演だったと思います。あっ、徳川膳部の付き人さんも最高でした。初めて見た方ですが、お芝居の人なのでしょうか。気になってます。

最後はみんな少しずつ本当の自分を取り戻すというストーリーも温かくていいじゃないですか。私はけっこう励まされましたよ。癒されもしました。特に好きだったのは麻生久美子と香取慎吾のエピソードかなあ。調子っぱずれの天使みたいな麻生久美子が大好きでした。

傑作だとかいうつもりはありませんが、少し時期がずれているとはいえ、初笑いにぴったりの映画でした。

PS 一緒に観に行った母は伊東四朗に向って「まだ言ってる」と突っ込んでました。母子そろって突っ込み体質(笑)。

(2006.1.26 三番街シネマ・1)






誰がために


風の映画 / ★★★★☆


あまり話題になっていなかった本作、前の週に他の映画を観に行ってその存在を知り、ちょっと気になったので観に行きましたが、とてもよかったです。始まってすぐに、まず風景を捉えた映像がとても気持ちがいいなあと思いました。バックに流れる矢野顕子のピアノも心地よくて・・・・。観に行くかどうか少し迷ったので、先にチラシを見てしまったんですよね。で、そのあとの展開が分かっていたので、少し切なくなったりもしました。

十年ぐらい前に観ていたら、加害少年の側に立ったかもしれません。マリのように将来がある少年の更生うんぬんとか言ったかもしれません。しかし、その時から今までに父を亡くしたので、被害者の側の気持ちにとても共感しました。私の父は病気で死んだので、もちろん立場は異なるのですが、かけがえのない人を亡くしたという点は共通で、民郎の喪失感や悲しみは自分のことのように理解できました。さらにそれが殺人ということになれば、少し想像力を働かせれば、その怒りを共有することも可能です。

しかし結局、人が人を裁くことはできないんですよね。安易な復讐よりは死者を忘れないこと、そこにしか安らぎはないのではないか。答えは提示されてはいませんが、私はそんな風に思いました。そして、映像と音楽が紡ぎ出した死者の思い出を、民郎と同じように、私もまた忘れられないかもしれません。

しかし何よりも、風が印象に残る映画だったともいえます。風の吹き過ぎる風景、風に揺れる木々や草、そして亜弥子の撮った風を捉えた写真などに、とても魅きつけられました。

俳優陣も素晴らしかったです。個性的な美貌のエリカ、複雑な想いを繊細に表現する池脇千鶴や烏丸せつこ(懐かしい!)など、女優さんに特に心ひかれました。

(2006.1.25 テアトル梅田・1)






ブレイキング・ニュース


人間喜劇風味の「男の世界」 / ★★★★☆


いゃあ、面白かった。ジョニー・トー、あいかわらず快調です。何が面白いといって、男たちのキャラですよね。大事件に遭遇して、千載一遇のチャンスとばかり、どうにも止まらないデカ魂、バカだけど根性だけは人一倍あるチョン警部補が最高でした。あの人が「俺が絶対捕まえる」と言うたび、笑いをこらえていた私でした。でも、だんだん愛しくなってきたりして・・・・(笑)。

そして犯人たちがまた素敵なんですよね(笑)。久々に犯罪者の側に肩入れしたくなりました。強盗団のリーダーと殺し屋の間に、一緒に料理しているうちに生まれた男の絆に、思わずニコニコ。さらにその二人とチョンの間に芽生える、お互いを認め合う友情じみた感情。「男の世界」やねえ。このあたりジョニー・トーの面目躍如といった感じです。

それに対して、うら若い女性の分際で上司をアゴで使うレベッカ。その抜擢にはちょっと訳ありみたいですが、それだからこそなお張り切って、私の能力を見せつけてやるわよと、これもどうにも止まらない。何とも嫌味な女を好演するケリー・チャン(笑)。

・・・・やっぱり私は、女より男の方が好きですわ(笑)。

さらにさらに人質親子(ここの息子がいちばんマトモ、笑)や、チョンの定年真近の相棒とか、脇も充実していて、さながら上出来の人間喜劇といったところ。警察の捜査をショーに仕立て上げるというストーリーも、鋭いところを突いているなという感じで、なかなかの快作でした。

(2006.1.14 シネ・リーブル梅田・2)






疾走


シュウジとエリの青春物語 / ★★★★


原作は読んだことがなく、予告篇の「暗い青春映画」というイメージだけで観に行ったのですが、予想もつかない展開でびっくりしてしまいました。いろいろシビアなことが次から次へと起こるので、心の中で、えーっ、えーっ、と叫びながら観ていました。

というわけで、ストーリーにはそれほどリアリティーを感じなかったのですが、逆に、いわば寓話めいたストーリーと、その中でもがく登場人物たちの言動や振る舞いが心に残り、観終わった印象は決して悪くはなかったです。

俳優陣も好演。寺島進や大杉漣はいうまでもありませんが、中谷美紀が特筆もので驚きました。最初は誰だか分からなくて、中谷美紀に似てるけど・・・・なんて。手越クンは元々けっこう好きだったんです。テレビの「堂本兄弟」にNEWSが出た時、その質問の受け答えが群を抜いて面白かったので、気になっていました。セリフは棒読みでしたが、悪くなかったと思います。「ピストルオペラ」から注目している韓英恵ちゃんは今回も素晴らしかったですね。切っ先の尖ったナイフのような女の子・・・・。

シュウジとエリの青春物語には心魅かれました。

(2006.1.14 梅田ガーデンシネマ・1)






あらしのよるに


2006年の映画始め / ★★★★


私の隣には子供が三人座っていたのですが、大人がひとりで観に来たのが奇異だったのか、隣の男の子(小学校低学年)に見つめられてしまいました。思わず微笑み返したら、なつかれたのか、その後、私が笑ったり泣いたりするたびに、注目されてしまいました。どこ見てんのよお(笑)。

どうもこの年頃の男の子には、あまり訴求力がなかったようですが、私はといえば、前半はニコニコ、後半はハラハラドキドキ、思い切り引き込まれました。特にガブの遠吠えからラストまでは涙々。

ところで話題になっている、同性どうしの愛がうんぬんとかは、私は全然感じなかったです。同性でもすごく気の合う友達だったら、あんな感じになるのでは・・・・。そういう人に出会った時の喜びとかも、本作を観ながら思い出したりしました。

とにかく、ガブとメイのキャラがとても好きでした。メイのお尻も好きでした(笑)。声優さんも健闘でやんす。

本作が今年の映画始めだったのですが、気持ちよく映画館をあとにしました。幸せ!

(2006.1.4 ナビオTOHOプレックス・8)





星取表点数

★★★★★ 100点
★★★★☆  90点
★★★★    80点

以下略




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