Vivien's CINEMA graffiti 14




メビウス


ギドク流『聖痕』 / ★★★★☆


苦痛と快楽は紙一重、凄惨と滑稽も紙一重。痛い描写や凄まじい感情表現が満載のギドクの最新作、相変わらず面白いです。同時に、セリフは一切なしという意欲作でもありと、見応えのある一作でした。幼時に男性器を切り取られた主人公の一生を描くのは筒井康隆の小説『聖痕』ですが、性の何たるかも知らない幼児ではなく、性に目覚め始めた少年の性器が切り取られたとしたら、というのが本作です。

オープニング、不貞を働く夫につかみかかり、しかし夫の反撃を受けて派手に床に転がる妻。シルクのメリヤス編みなのか、肌触りのよさそなう淡いピンクのパンティがもろ見えで、「ギドク、絶対狙ってるわ」と笑いがこみ上げてきました。

というように、前半は自分的にはコメディ風味。高校生の息子の性器が切り取られるという驚天動地の出来事、その原因は他でもない自分自身にある父親が示す苦悩や悔恨。しかし、この父親の行動も少し見方をズラすと、滑稽にも見えてくるのです。深い悔恨を抱えながら、やおら拳銃を取り出す父。その銃口は・・・・、「えっ、そこですか」と私の内心の声。「いゃあ、絶対よう撃たへんわ」と思ったら、やっぱり撃てなくて・・・・。そのあとのインターネットで検索の段も、何か可笑しいですよね(家に帰って、同じように検索してしまいました)。

こんな風に書き出して行ったら、永遠に終わりそうもないのですが(ツッコミどころ多数につき、笑)、ひとつビックリしたのは、妻と夫の愛人の若い女をひとりの女優さんが演じているという事実。うわぁ、全然気づかなかった(ふたりともたわわな形状のオッパイが見えるシーンがあるので、そういうオッパイが夫の好きなタイプなのかなと、鑑賞中にチラッと考えたりはしたのですが)。妻の方はものに憑かれた役柄だけに、一種凄愴の美を湛えてもいるのだけれど、若い女はどちらかというと平凡な容貌。「顔がちょっと残念やなあ」などと思っていたのですが、その残念な女に光り輝く瞬間が訪れるのです。その展開には驚きながら、少し感動したりもしました。犯された女が犯し返すその時、その顔には慈愛があふれ・・・・。「うわぁ、何なの、このねじくれた物語構造!」と感嘆もします。

セリフがないので、俳優さんの身振りや感情表現が大きな役割を果たしますが、それ以前に皆さんの顔が印象的。上述の女優さん以外にも、チンピラ三人組のそれぞれの顔が「はあっ」と呆れてしまうぐらいハマっており、その顔に浮かぶ表情も秀逸で楽しめました。主人公が『悪い男』などのチョ・ジェヒョンだったのですが、鑑賞中には全然気づかなかった。男ぶりが上がっているせいですが、その男前がいろいろやらかしてくれるのが、これまた楽しめました。

筒井康隆の小説も寓話的でしたが、本作も性をめぐる寓話であると考えると納得できるし、ギドクの根源的なテーマである(と私が考える)「聖と俗」も窺える、実にギドク的な作品。でも、自分的には「おもろい」の一語に尽きる作品でした。

(2014.12.9 テアトル梅田・1)






俳優は俳優だ


ギドク×アイドル / ★★★★


ギドクの製作・脚本ということで観に行きました。題名から分かるように、同じくギドク製作・原案の『映画は映画だ』の姉妹編といったところ。ちょっと哲学的な趣きもあった『映画は映画だ』に比べると、もっとストレートな作品でしたが、自分的には「山椒は小粒でピリリと辛い」系の、とても好きなタイプの作品でした。

演じるということに取りつかれた青年の栄光と挫折を描く、異色の青春映画ともいえる作品。舞台や映画のシーンをないまでにして展開されるストーリーに見応えがあり、最初のシーンから引き込まれました。主演はMBLAQというアイドルグループのイ・ジュン。私は全然知らなかった人ですが、このアイドル君の演技が只者ではないということで、ちょっとビックリもしました(かなりハードなセックスシーンもあり)。日本のアイドルもこれぐらいの根性を見せてほしいな(笑)。

(2014.11.24 心斎橋シネマート・1)






最後の命


中村文則初映画化 / ★★★☆


少し前にマイブームだった中村文則作品の初映画化で、柳楽クン主演ということで観に行きました。子供時代の経験からトラウマをこうむってしまった二人の青年を描く作品ですが、キャストが好演でした。柳楽クンはもちろん、もうひとりの主演の矢野聖人も魅力的。モノクロに近い映像も魅惑的で、物語を極力その映像で表現しようとしているところにも好感を覚えました。とても真摯な作品ですが、自分的にはこの原作はそれほど好きではないのが残念です。

PS 中村文則の作品なら、『王国』を栗山千明で映画化してほしいです。

(2014.11.12 梅田ブルク7・7)






祝宴!シェフ


有点灰心 / ★★★


16年ぶりのチェン・ユーシュンの新作ということで、行きはワクワクしていたのですが、帰りは・・・・。退屈はしなかったのですが、映画というよりは漫画という感じの本作、ちょっとガッカリでした。

台湾ニューウェイブ以後、芸術至上主義に傾いていた台湾映画界にコメディータッチの作品で新風を吹き込んだチェン監督。大笑いさせながらも、突然抒情の溢れ出すその作品、特に『ラブゴーゴー』は大好きな作品で、手紙とブランコと透明人間、その三点セットに大泣きでした(未見の人には意味不明ですが)。

あの感じを期待していたら、見事に裏切られてしまった。鑑賞後に分かったのですが、台湾では大ヒットしたとか。去年の『あの頃、君を追いかけた』もそうでしたが、台湾大ヒット映画は好みに合わないということを痛感しました。

とにかく演出がくどくて、やりすぎ感満載。登場人物のキャラとか、演じる俳優さんとかが十分に個性的なのだから、もっとさらっと流すだけの方が面白かったのではなかろうか。

ただ美術はよかったです。台南の食堂街とか、台北の線路脇の宴会シーンとか、ポップなのに透明感のある色使いが素敵でした。線路脇で腕を振るうのは特別出演のウー・ニエンチェン。残り二名の料理人も特別主演のクー・イーチェンとキン・ジェウェン。この人たちにはいろいろと思い出があるので、その出演は嬉しかったです。

(2014.11.7 シネリーブル梅田・4)






レッド・ファミリー


資本主義は手強い / ★★★☆


ギドク脚本・製作ということで観に行きました。コメディと聞いていたので、もっと笑えるのかと思っていたのですが、そこは肩透かし。ギドクが監督していたら、もっとヘンな笑いに満ちた映画になっていたと思うし、自分的にはそういうのが好みなのですが、しかし、これはこれで悪くなかったです。

やはり脚本が秀逸。北のスパイからなる偽家族と韓国の喧嘩が絶えないダメ家族が隣どうしという設定が面白いです。そのふたつの家族の交流から、北のスパイに温かい感情が生まれてくるというストーリーが、コミカルな中にも説得力を持って描かれていました。家族問題から考える南北問題、やはり南北問題を扱った『プンサンケ』(これもギドクの脚本)のホームドラマ編といったところです。

キャストも好演でした。見たことある人が多くて、鑑賞後に検索してみましたが、野ウサギに「赤ちゃんができた」と迫るおばさんは『冬の小鳥』の寮母さん。隣の無茶苦茶な奥さんは『嘆きのピエタ』にも出てた人。この奥さんが何か妙に可愛かったな。

(2014.10.24 テアトル梅田・1)






まほろ駅前狂想曲


工藤ちゃんライター / ★★★☆


まほろ駅前シリーズの第二作、あいだにテレビドラマをはさんだせいか、一作目とは若干雰囲気が異なるような気もしましたが、瑛太と松田龍平の距離感や、二人の醸し出す空気感は相変わらず心地よかったです。

ただ原作既読のせいで、ストーリーに予測がつくせいか、幾分とりとめのないようにも思えました。ほぼ原作通りの内容が詰め込まれていて、焦点がぼやけたような気もします。

それにしても「できる女」と「できない男」の対比が何とも。自分は「できない女」なので、やっぱり「できない男たち」に共感してしまいます。

脇のキャストも豪華で、ワンシーンだけの特別出演の方も多く、そのあたりも楽しめましたが、髪形のせいか途中まで永瀬正敏に気付けなかったのは不覚。あのうらぶれ感がしみじみを通り越して、胸に迫りました。

(2014.10.20 TOHOシネマズ伊丹・4)






監視者たち


香港映画のリメイク作 / ★★★☆


香港映画『天使の眼、野獣の街』をリメイクした韓国映画。オリジナルはタイト(上映時間90分)でクール、なおかつ終盤がエモーショナルで涙々という、実は隠れた快作なのでした。

本作も大筋ではオリジナルを踏襲していますが、いくつかの変更は派手な見せ場を増やすためのもので、韓国映画らしいハードな作品になっています。中でも犯罪組織のリーダーはかなり役柄が変更されていましたが、チョン・ウソンが演じる初の悪役がなかなか魅力的、これはこれで悪くなかったと思います。

キーパーソンとなる太った男、オリジナルではラム・シューでユーモアも感じられたのに、本作では小汚いオッサンで、ここはちょっと不満あり(笑)。犯罪組織にももっと和気藹々のところがあったんですよね。

監視班の描写は悪くなかったですが、和気藹々度はオリジナルの方がもっと高かったのです。「定時に帰る女」と異名を取っていた私ですが、こんな職場だったら残業するのも吝かではないと思ったりしました(笑)。

いろいろ文句を並べましたが、キャストが好演(ソル・ギョングがハマリ役)、スリリングな展開も楽しめました。ただありがちのラストにはちょっとガッカリ(ここもオリジナルと違うところ)。結論をいうと、オリジナル−人間味+派手な見せ場=本作というところで、好みの問題ですが、自分的にはオリジナルの方が好みでした。

PS オリジナル公開時には日本でのリメイクが決定しているというニュースが流れていましたが、あれはガセだったのでしょうか? 期待はしてなかったけど、興味津々だったのに・・・・。

(2014.9.16 心斎橋シネマート・2)






郊遊<ピクニック>


あれから二十年 / ★★★★


デビュー作から現在まで、リアルタイムで見続けてきた監督はそう多くはないのですが、ツァイ・ミンリャンはそのひとり。実はファンレターを出したこともあります。デビュー作の『青春神話』と二作目の『愛情萬歳』が、大阪では同じ日に公開されたのですが、公開初日にまずベネチアグランプリの『愛情万歳』を観てとても好きになり、その頃は土曜日に映画を観に行く習慣だったのですが、次の土曜日まで待ちきれず、翌日『青春神話』を観に行ってしまいました。その『青春神話』がまたもや私好みの作品で、二作に感激したあまり、思わず手紙を書いてしまったのです。

あれから二十年、何と本作はツァイ監督の引退作とか(といっても、確定ではないらしい)。十代の頃から常に主役を演じてきたリー・カンションも今回は父親の役。いろいろと感慨深いものがありましたが、あいかわらずの長回しがいつにもまして過激で、特に終盤の永遠に続くかのような長回しは限界ギリギリ。これまでの作品に比べるとそれほど好きではないかもと思いました。しかし、あとからじわじわと来ているのです。

長回しに耐えかねたのか、私の後ろの二人連れは開巻10分で退席しました。何か私語を交わしており、ちょっとうっとおしかったので、出て行った時にはホッとしました。そこまでで画面に現れたのは子供が眠るそばで髪を梳き続ける女、森の中を歩いて行くふたりの子供、そして交差点で広告看板を掲げ続けるふたりの男という脈絡のないシーン。広告看板のシーンが繰り返されて三度目、左側の男がリー・カンションだと気づき、そのうらぶれた姿に思わず胸を衝かれました(それまで右側の眼鏡の人が男なのか女なのかと気を取られていたのでした)。

ふたりの子供と廃屋で暮らす、人生にも結婚にも失敗した男。彼の見せる表情や感情そのものが今回のテーマなのでしようか。歌うシーン、食べるシーン、キャベツと格闘するシーン、激情や哀しみや鬱屈や、さらには名づけようのない感情まで・・・・。うらぶれているのに、時おり見せる色っぽい表情、今回のリー・カンションにはちょっと胸がときめいたりもしました。

明確な物語はないので、いろいろな解釈が可能です。複数の女優がひとりの女を演じているようです。最初に現れるヤン・クイメイは捨てる女。二番目に現れるルー・イーチンは子供たちを救う女。三番目のチェン・シャンチーは家族を見守る女。鑑賞時には少し混乱したのですが、ルー・イーチンとチェン・シャンチーが同一人物であるのは間違いのないところ。そのチェン・シャンチーのパートが誕生パーティから始まるというのが意味深です。

それにしても、わずかな日銭を稼ぐ人間の掲げる看板が高級マンションの広告というのが何とも・・・・。リー・カンションの忍び込むマンション(『愛情萬歳』を思い出した)のモダンな部屋と一家の住む廃屋の対比も何とも・・・・。そういう社会的な側面から論じることも可能な作品でありますが、寡黙な画面から生まれる詩情や美しさにより魅せられる作品でした。

(2014.9.8 シネリーブル梅田・3)






円卓 こっこ、ひと夏のイマジン


阪急電車 / ★★★★


製作委員会に名を連ねているのは在阪の各テレビ局。在阪の関西テレビと読売テレビが手を組んでヒットさせた『阪急電車』のやり方を踏襲したと思われますが、そのわりに関西が舞台という情報は浸透していないようで残念。関西弁が楽しいし、作品的にも面白いし、阪急電車も出てくるし、関西の人は映画館に駆けつけましょう(笑)。

それと一般的な人気は有川浩>西加奈子なのでしょうか。かくいう私も西加奈子は「きいろいゾウ」を読んだだけで、いまいちよう分からん世界やなと映画の方もパスしたのですが、本作の世界観にはぴったりハマりました。小学校の時に少数派に憧れて左利きの練習をした前歴のある私、普通が大嫌いなこっこには大共感、その一言一句、一挙手一投足にニコニコでした。

関西弁で悪態をつく芦田愛菜が超チャーミングで超クール。小学三年生女子の気持ちを生き生きと体現する、その女優さんぶりがスゴイです。在日四世やボートピープルも混じるクラスメイトたち、演じる子役さんたちも個性たっぷり。子供たちが何やかややってるシーンは、それだけで楽しかったりしたのですが、こっこの家族のシーンも和めます(キャストもみな好演)。そして、そんな人々を分け隔てなく包み込む世界観が何よりも心地よかったりしました。

みんな悩んで大きくなった。小学校低学年も例外ではないと・・・・。これは絶対、原作を読むつもり。

鼠人間(『茶の味』にも出てた人)とか谷村美月とか、浜村淳とかお天気の蓬莱さんとか、チラッと出て来る人も楽しかったし、関ジャニ∞の丸山クンも好演でした。

(2014.6.30 TOHOシネマズ伊丹・6)






私の男


ちょっと苦手 / ★★★


物語は暗く重く、性描写や暴力描写も粘っこくて、嫌悪感とまでは行かなくても、少し居心地の悪い思いもしたのですが、終盤の浅野忠信のセリフにちょっと頬が緩んだりして。

そこから振り返ると、父性や男性性をも圧倒する女性性がテーマなのかと思えてきました。その女性性に少女性も含まれているところは好みだったりもしました。

撮影も語り口も秀逸だと思いますが、好きかと聞かれると応えに窮する問題作。しかし、ヒロインの花を演じる二階堂ふみには魅了されました。序盤の舌足らずなセリフ回しにちょっと作り過ぎではと違和感を覚えたりもしたのですが、その後、どんどん変貌する姿や表情から目が離せませんでした。

浅野忠信がその小さな手を握るまでのシークエンス、子役さんの表情からも目が離せませんでした。

(2014.6.24 MOVIXあまがさき・8)






GF*BF


報われない想い / ★★★☆


台湾の青春映画には同性愛を描いた作品が多いのですが、これもその一本。男ふたり(忠良、心仁)、女ひとり(美宝)の27年にわたる恋と友情の物語(心仁は美宝に恋し、美宝は忠良が好きで、忠良は・・・・)。そこに社会的、政治的状況も絡めているところが異色です。

1985年、1990年、1997年、そして2012年の出来事が綴られますが、1985年はまだ戒厳令が敷かれており(1987年まで続く)、1990年には民主化を求める学生運動が高まります。その1990年、主人公の髪形や服装がまるで『いちご白書』みたいで、頭の中の時代感覚が混乱してしまいました。その頃の自分はというと、あまり恩恵は受けなかったものの、いちおうバブルで浮かれていた時期になるわけですから、お隣の国でもずいぶん社会状況が異なるわけです。

しかし私が初めて台湾へ旅行した1994年には日本とさほど変わらない雰囲気であったような記憶があります。近代化のスピードがそれだけ急速だったということですが、そんな激変する社会的状況を背景に、造反することに理があった若者たちが、大人になり社会の一員として組み込まれて行くことで味わう苦みや痛みが、三人の恋愛における報われない想いとともに主題になっています。

自分的には、もっと短い季節だけに特化したような青春映画の方が好みなのですが、三人のそれぞれの心情や感情が切なく胸に染みる佳作になっていました。キャストの好演も見応えあり。高校時代から三十代まで(ひとりは四十代まで)を演じる三人、三人ともデビューの頃から観ている人たちなので、その成長ぶりも楽しめました。

リディアン・ヴォーンは『九月に降る風』の時はちょっと物足りないものがありましたが、今回はなかなかに魅惑的でした。学生運動のリーダーだった彼は、やがて有力者の娘と結婚し・・・・。その変節後の複雑な心情、身につまされます。他のふたりもよかったのですが、グイ・ルンメイは1997年の髪形が似合ってなくてちょっと残念だったかも。

(2014.6.16 シネマート心斎橋・1)






罪の手ざわり


HNは「水を求める魚」 / ★★★★★


ジャ・ジャンクーの久々の新作、極力、前情報をいれないようにして、とても楽しみにしていました。冒頭5分、ケレン味のある活劇タッチにワクワク、それに続く烏金山の惨劇後、これから一体どんな展開が、と息詰まった瞬間、画面にはこれまでの作品でお馴染みの長江を行く連絡船の映像が・・・・。

ああ、なるほどそういうことか。これまでも市井に生きる人々を描いてきたジャ・ジャンクー。本作では、辛抱たまらなくなった庶民列伝を描くつもりなのかという私の予測はぴたり的中しました。

鑑賞後に想起したのは黒澤映画。社会性と娯楽性を融合させたという意味で黒澤明的だと思ったのですが、もうひとつ思い浮かべたのがコーエン兄弟の『ノーカントリー』。「今現在、誰もが感じているはずの『何か変な感じ』が如実に(増幅されて)実感されます」というのは、自分の『ノーカントリー』についてのレビューの一節ですが、本作にも今現在の気分が色濃く反映されています。

鑑賞後に実際にあった事件を基にしていることを知って、またもやなるほど(そういえば、有力者皆殺し事件は新聞で読んだ記憶が)。中国の社会主義市場経済のどんづまりを見事に捉えているような世界観の中で、札束で横っ面を張られるような目にあった人々が反撃に出る・・・・。すごく、すごく共感しました。

もとより暴力や殺人が許されるものでないのは自明のことではありますが、人間の尊厳を保つための手段として暴力しか残されていなかった人々の存在。そういう状態こそが根本的な問題ではないのかと・・・・。やったもん勝ちのやりたい放題の強欲無限の輩から受ける、心理的というか倫理的というか、心に傷を負わせるような暴力に追い詰められた人間の捨て身の反撃に、ひどく共感してしまいます。

原題は『天注定』。何とも意味深でありますが、自分の国の出来事やありようを看過できないジャ・ジャンクーの心のうちが表れた力作。同時に黒澤作品のように娯楽映画としても成立させているところがなかなかにスゴイと思いました。

四つのエピソードの中では、最後のシャオホイとリェンロンのエピソードがいちばん胸に響きました。ふたりが何とも愛おしくて、対するナイトクラブの妖しくも禍々しい情景に心騒ぎます(台湾も香港も中国強欲社会主義に一役買っているというわけか、嘆息)。それにしても、若者が希望の持てない社会に何の意味があるのか。このあたりは日本でも他人事ではない気がします。

(2014.6.9 シネリーブル梅田・4)






ぼくたちの家族


穏やかに心癒される / ★★★★


立派な一戸建てが並ぶ郊外の住宅地、その情景を遠くから捉えた映像にふと、「幸福な家族はみな似ているが、不幸な家族は不幸なさまもそれぞれ異なる」という言葉が心に浮かびました。外側から見れば整然と美しい家並の、しかし、それぞれの家の中では一様でない暮らしが営まれている。

秀作『舟を編む』を経た石井裕也の新作は、母の余命が一週間という突然の宣告を受けた家族の物語。それをキッカケにさらなる問題が明らかになり・・・・。暗くて重くて、最初はどうなることかと思った彼らの物語に、いつしか、自分のことのようにも共感させられてしまう。

いかようにもドラマチックにできる題材を、さりげないユーモアを交えながら繊細に描く、石井監督の端正な演出が光ります。あざとさやこれ見よがしなところは皆無。しかし、自分たちの置かれた状況を打開しようと奮闘する男たちの物語に、いつしか、胸が熱くなってくるのでした。

自分的には、兄弟ふたりが朝、走り出すシーンで、突然、霧が晴れ初め、そこからラストまで、静かに穏やかに心を癒される時間が流れました。

登場人物にもたらされるそれぞれの変化を、リアルに体現するキャストも素晴らしいです。主演の四人だけでなく、ほんの数シーンだけ登場する脇役陣もみな好演。登場する誰もが愛おしく感じられる、そんな素敵な作品でした。

(2014.5.30 MOVIXあまがさき・7)






野のなななのか


大林宣彦的ワンダーランドEXPLODE / ★★★★★


なぞなぞのようでもあり、呪文のようでもあるタイトルに2時間51分という長尺。ドキドキ、ワクワクしながら臨んだ大林作品ですが、うーむ、これは・・・・。ちょっと唖然ともしてしまうし、陶然ともしてしまうし、さらに粛然ともなってしまうような作品でした。

前作『この空の花 長岡花火物語』のまさに姉妹編であり、あの時に感じた驚きや感動が再び味わえるのですが、さらにパワーアップしているという印象です(76歳のおじいちゃんが爆発してる!)。過去と現在、生者と死者、それらが混然となって織りなすリアルなファンタジーにしてロマンあふれる恋物語。同時に反戦映画でもあり、今現在、この社会に漂う違和感への異議申し立てでもありと・・・・。

中盤までは話が見えません、謎がいっぱい。しかし、終盤の怒涛のごとき展開に、ああ、そうだったのかと胸を揺さぶられます。中原中也の詩集、青い着衣の少女像、コーヒー、9月5日の終戦・・・・。セリフの洪水、響き続けるメロディー、上映が終わるまで息をつめて見守りました。その豊饒な映画体験に、帰り道でも、あのメロディーが頭の中に鳴り続けるのでした。

女優さんが素敵。常盤貴子と安達祐実、ふたりの瞳に魅入られます。新人の山崎紘菜のはつらつとした若さも魅力、彼女が自転車を走らせる観光案内のシーンが楽しかった(舞台となる芦別の自然が美しい)。終盤のよどみのない長セリフ、主役の品川徹にも驚嘆し、この老人は誰だと、帰宅して検索しました。無言劇で名高い転形劇場の人だった!(その舞台、昔、二度ほど観たことがあります)。

(2014.5.23 梅田ブルクセブン・4)






クローズEXPLODE


闘う理由、闘わない理由 / ★★★★


柳楽クン目当てで観たのですが、他のキャストも魅力的で予想以上に楽しめました。女の子には目もくれない喧嘩映画、ヌルーい恋愛映画が苦手な私には爽快とも思える作品でした。

このシリーズは第一作しか観ていないのですが、ケレン味たっぷりだった三池作品とは違い、ストレートな青春映画といった感じ。寓話的世界観で男子の生き方を描いた第一作も好きだったのですが、本作では、男子の生き方がよりリアルに追究されているように思います。

それぞれの闘う理由、闘わない理由。結論をいうと、みんな悩んで大きくなった(笑)。現実がいくらかは反映された世界観の中で、それぞれの抱える葛藤を乗り越えようとする悪ガキたち。そこでは暴力が一種のコミュニケーションツールとなり、拳の交わりから生まれる友情のようなものが心地よく、その過程で発せられるセリフの数々にもシビレます。

「俺が勝ったら友達になってくれますか」、早乙女太一の演じる加賀美遼平がいちばんクールだったし、早乙女クンの身のこなしも美しく、本作では一番好きなキャラでした。

単純に喧嘩道に邁進している登場人物の中で最も鬱屈しているのが永山絢斗。そんな彼に掛けられる「俺だって牛乳配達してるぜ」というセリフにはホッコリ。東出昌大は観る前はミスキャストかと思ったのですが、悪くなかったです。他のキャストより頭ひとつ飛び出しているスタイルのよさ、しかし猫背で瞳に哀愁を宿しているところ、けっこうシビレました(猫背の男って好きやわ)。

ワイルドな柳楽クンにも新しい一面を見せてもらったし、リンダマンもあいかわらずカッコよかったし、男の子たちを眺めているだけでも楽しい群像劇でした。

(2014.5.7 MOVIXあまがさき・2)






そこのみにて光輝く


ホップ・ステップ・大ジャンプ / ★★★★★


私事で映画を観る時間もないほど多忙だったのですが、約一ヶ月ぶりに観た本作は胸に染み入るような作品、やっぱり映画っていいですねと再確認しました。前作『オカンの嫁入り』でファンになった呉美保、その後、処女作の『酒井家のしあわせ』も観ましたが、両作とも好感のもてる佳作。本作も期待しながら鑑賞しましたが、その期待をはるかに超える秀作にちょっとビックリ。去年の『舟を編む』の石井監督級のうれしいサプライズでした。ホップ・ステップ・大ジャンプという感じ・・・・。

上映が始まり、まずシネスコ画面に意表をつかれました。シネスコを使うのは初めてだと思うのですが、その大きな画面がうまく生かされ、とても見応えがありました。たとえば山と海を捉えたシーン、港と坂道を見下ろすシーンなどの空間描写、あるいは海の中や部屋の中での官能的でありながら温かみのあるラブシーン。

トラウマを抱えた男と、過酷な状況を脱け出せない女の邂逅、ストーリーはまるで昔のATG映画のようですが、それが何とも魅惑的な作品になっています。下世話とも思える物語のそこここに射す光、それは人間の本当の気高さなのでしょうか。まるでフランス映画みたいというと語弊があるかもしれませんが、今の凡百の邦画とは一線を画す作品と思えました。今までの家族を描いた作品とは全く異なる題材をちゃんと自分のものにし、さらに深みも温かみも大きさもある作品に仕上げた呉美保。『舟を編む』のレビューでも同様のことを述べたのですが、呉監督を起用した製作者側と、それに見事に応えた監督の頑張りを高く評価したいと思います。

キャストも好演でした。主演の三人がとにかく素晴らしく、それぞれの気持ちがしっかり伝わり、終盤では胸を揺さぶられたりもして・・・・。特に菅田クンには、その愛すべき役柄もあり、すっかり魅了されてしまいました。控え目に寄り添う音楽もよかったです。シンプルな音楽に祭りの太鼓が重なるところ、ちょっと鳥肌ものでした。

(2014.4.29 テアトル梅田・1)






アイス


大阪アジアン映画祭−2 / ★★★★


二本目の『アイス』は台湾で映画製作を学んだミャンマー出身の新鋭監督の作品で、ミャンマーを舞台に中国系の男女を描いています。

貧農の青年が父親に言われるままバイクタクシーという仕事を始め、その客となった若い女とのかかわりを描きます。女は中国本土へ出稼ぎに行き、騙されて年上の男と結婚させられ、祖父の最期を看取るためようやく帰郷してきたところ。

貧しい境遇にある若者たちが、少しでもよい暮らしを送れるようにあがく姿とふたりのふれあいが淡々と描かれますが、重要なアイテムとして登場するのがカラオケ。中国帰りの女が歌うシーン、そして男が歌うシーン、そのふたつのシーンの間に流れた時間を想像させる語り口が秀逸です。ドラマチックなことは起こらないけれど、遅れてやって来た青春、そんな切なさが胸に染みます。

女の方は夫のもとに置いてきた息子と暮らせるようにと、つい悪事に手を染めますが、決して悪い人間ではない。男の方は無口で穏やかで、父親に逆らうこともないよい息子(着た切り雀のセーターが可愛かった。五線譜に音符の模様。でも、ちょっとほころびていたりする)。成り行きで女の片棒を担ぐことになりますが、待っているのは冷徹なラスト。

簡単には幸せになれそうもないふたりの姿から、世間のありさまや世界のあり方にまで思いを馳せさせるような感触もあり、この作品はかなり好みでした。

(2014.3.16 シネヌーヴォ)






上から見る台湾


大阪アジアン映画祭−1 / ★★★


毎年恒例の大阪アジアン映画祭、今回は『上から見る台湾』と『アイス』という二作品を見ました。

『上から見る台湾』はホウ・シャオシェンの製作による、台湾の情景を全編空撮で捉えたドキュメンタリー。台湾は小さな島国ですが、豊かな自然に恵まれ、古来より「美麗島」と呼ばれています。

前半はそんな台湾の美しい自然が捉えられていますが、後半は気候や産業構造の激変などによってもたらされた災害や自然破壊の描写が続き、ため息ばかりついていました。

しかし、作品の主眼はこの後半にあるようで、また日本に共通することも多く他人事ではないとも思えるのですが、そういう情景を延々と見せられてもなあ、と思わないでもなかったです。解決策として最後に提示されるのが有機農業というのも何か肩透かし。解決策というよりはヒント、心の持ち方を伝えようとしているのかもしれませんが・・・・。

ただ「自分たちは通り過ぎて行くだけの存在であり、後々の子孫によりよい未来を残さなければならない」という言葉はとても印象に残りました。

(2014.3.16 シネヌーヴォ)






土竜の唄 潜入捜査官REIJI


面白くなかった / ★★☆


程度の差こそあれ、いつも楽しめる三池作品。しかし、今回はダメでした。三池監督とクドカンの強力タッグというふれこみですが、どうもそれぞれの持ち味や面白みが相殺されているように思います。両雄並び立たずといったところでしょうか。

漫画を漫画っぽい映画にするというコンセプトなのかな。しかし、空回り気味で中途半端に思えました。それほど笑えなかったし、楽しくもなかったです。俳優の皆さんもはっちゃけているのは顔だけという感じ。その中で終始強面のふたり、山田孝之と上地雄輔は印象に残りました。

ただ終盤はビジュアル的に楽しかったです。

(2014.3.12 TOHOシネマズ伊丹・3)






永遠の0


責任者、出てこい / ★★★☆


最初は興味がなかったのですが、濱田クンや染谷クンが出てるし、監督が山崎貴なら観てもいいかなと思いました。でも、ちょっと忙しい日々が続いていたので、もういいかなあとも思い始めた時に、流行りもんが好きな母親が観たいと言い出して一緒に鑑賞。

映画が終わって
母「よかったけど・・・・、長かった」
私「CGのシーンが多かったよね」

しかし、自分的にはそのCGのシーンが見応えがありました。山崎監督的にもそっちの方に力が入っているのでは?

ドラマの方はそれほど押しつけがましくないところに好感を覚えます。現在を演じる俳優さんと過去を演じる俳優さんの対比も面白いです。現在の描写から、濱田クンはコツコツと地道に生きて来たんやろなあとか、新井浩文はそうとうヤバイことで財を築いたのかなあとか、それぞれの人生を実感させるような手触りがありました。

そして若い姿のまま消えた人々はどこまでも美しく・・・・。特攻とか人間魚雷とか、そういう話を目前にすると、いつも心の中で「責任者、出てこい」と叫びたくなります。

(2014.2.26 TOHOシネマズ伊丹・1)






ラッシュ/プライドと友情


好敵手物語 / ★★★★


A型ドM男とO型ドS男の対決?何もかも対照的な好敵手を描いたハラハラドキドキの物語。炎の中から蘇るラウダ、テレビのレース実況を眺めながら苦痛に耐えるその姿は求道者のごとく、女好きで自由奔放なハント、そのレースぶりも本能の赴くまま、あたかも野獣のごとく、その二人の対決はなかなかに魅惑的な「男の世界」でした。そしてそれぞれの女性関係が物語に深みや人間味を与えています。映画ファンとしてはリチャード・バートンやクルト・ユルゲンスの名前が出てくるのも興味深いものがありました。

Kink Kids による吹替版を鑑賞(剛クンが好き)。オリジナルよりは若干少年ぽさの残る声なのではと推察いたしますが、悪くはなかったです。ただラウダが「あほうめ」と呟く時はちょっと関西なまりのようでもあり剛クンの顔が頭の中に・・・・。エンドロールのあとに Kink Kids の歌と名場面集が流れるのが得した気分でした。

(2014.2.18 TOHOシネマズ伊丹・5)






スノーピアサー


珍作 / ★★★


賛否両論ありそうなポン・ジュノの新作ですが、今のところは賛の方が優勢みたいですね。私は否かなあ。ソン・ガンホとコ・アソンがやはり親子を演じた『グエムル/漢江の怪物』は「怪作にして快作」という感じでしたが、本作は自分的には「珍作にして微妙」でした。

地球温暖化を阻止するための薬によって凍りついてしまった地球、その白い世界を疾走する一台の列車。導入部はワクワクしたのですが、途中で先が読めるというか、わりと単純で図式的な世界観に思えました。

ティルダ・スウィントンの総理とか、細部の描写は確かに面白いのですが、同じような趣向が繰り返されると飽きてきます。間に挟まるバイオレンスシーンもドギツイわりに単調な感じがしました。

終盤になって「ティミーはどこ?」と興味が復活したのですが、クリス・エヴァンスの長い独白でまた冷めてしまい、感動的(?)なラストにも脱力・・・・。

原作は漫画だったんですね。途中で「ガンツかよ!?」とツッコミを入れた私、あながち的外れではなかったのか・・・・。

(2014.2.9 MOVIXあまがさき・8)






ペコロスの母に会いに行く


懐かしい顔がいっぱい / ★★★★


老親介護という、見たいような見たくないようなテーマで敬遠していましたが、近くの映画館での上映が始まり、またいくつか映画賞も獲得しているということで観に行きました。

2013年ベストワンといわれるとちょっと疑問ですが、確かに事前の予想を超える作品でした。認知症の母親を介護する男やもめと息子、その日常生活が切なくもあり、可笑しくもあり。しかし基調は、ボケることは悪いことではないという、その温かさが心地よく、泣き笑いしながら楽しめました。さらに介護問題だけではなく、老いた女性の過去の記憶として浮かび上がるその半生もしみじみと心に染みるものでした。

自分の親もボケないとは限らないし、いや、自分自身だって将来は分からないと、他人事ではなく共感するところもありました。長崎が舞台というのもポイント高いです(長崎弁が好き)。主演の赤木春恵さんをはじめ、佐々木すみ江さんや島かおりさんなど懐かしい顔に出会えたのもよかったです。

(2014.2.3 宝塚シネピピア・2)






危険な関係


勿弄愛情 / ★★★★


ホ・ジノとチャン・ドンゴンが韓国から参加した中国映画。ホ・ジノは大好きな監督なので観に行きましたが、有閑階級の恋愛ゲームという題材自体は好みではありません。しかし、原作の舞台を1931年の上海に置き換えた本作、めくるめく大メロドラマという感じで、予想外に楽しめました。

まずキャストが素晴らしいです。チャン・ツィイーとセシリア・チャン、ふたりの主演女優の美貌や個性が見応えたっぷり。チャン・ツィイーについては心理描写も微に入り細に入りという感じでとても共感できました。それに比べるとセシリア・チャンの心理描写が少し弱いようにも思えます。ラストはもっと泣きたかったところ。

チャン・ドンゴンも適役でした。年齢を重ねて以前のギラギラ感が薄まり、プレイボーイではあるけれども憎めない、その美男子ぶりにホレボレでした。中国語のセリフも自然で吹き替えかと思ったりもしたのですが、自分の声なんですね(そういえば、中国語は『PROMISE』で経験済みでしたね)。

美術や衣装や音楽も絢爛豪華、あふれる光や鏡に映る像を捉えたカメラも魅惑的。ただホ・ジノの作家性はあまり感じられなかったように思います。しかし、こういう大作も撮れるのかと感心しました。

(2014.1.20 TOHOシネマズ西宮OS・PREMIER)






名探偵ゴッド・アイ


初笑いの大笑い / ★★★★


2014年の映画始めはジョニー・トー、やりたい放題テンコ盛り、その過剰さにニコニコの130分でした。トー作品にしては長尺、それもそのはず、アンディ・ラウ&サミー・チェンというゴールデンコンビによるラブコメディ(日本では馴染みはないですが)に『MAD探偵 7人の容疑者』をプラスした内容。一本で二本分のお楽しみが味わえる、トー・ファンにとってはおもてなし映画ともいえる一作でした。

盲目の探偵と女刑事が難事件を解決するというストーリーですが、想像力を駆使して推理し、その想像を自分の身体で体感するというやり方が常軌を逸しており(笑)、真面目に見たら腹が立つかも。しかし、そのユーモア満載の荒唐無稽さにノッてしまえば楽しめること間違いなし。自分的にはちょっと現実離れした味わいが昔の映画みたいで懐かしいようにも思えました。

次から次へと現れる登場人物もヘンな人ばっかり。山の中に住む猟奇殺人者やらアパートで騒ぎを起こす狂恋婆さんやらカジノの賭客のエグいおばちゃんたちやら、アジア的というかトー的というか。エンタメ映画なので野暮は承知ですが、あえてテーマを抽出するなら「執着」でしょうか。何かに取りつかれた人間の、奇怪さと紙一重の切なさも感じられる一編。

しかし、かなり喜劇よりの作品なので、大笑いして楽しんだもん勝ちといったところ。ミステリーとしては謎解きがちょっと強引ですが、主演のふたりの若干オーバーなやり取りが絶妙で楽しく、さらにサイドストーリーのタンゴを踊る美女を巡る男の友情も私好みのトー風味でした(アンディと美女のダンスシーンが素敵)。

長尺なのに展開が早くて、「えっ、何?、何?」と何度か思ったし、目いっぱい詰め込んであるのでお腹いっぱいにもなったけど、最終的にはスッキリでした。やっぱりジョニー・トーの世界観は唯一無二、そのヘンさも超一級です(笑)。

(2014.1.14 シネマート心斎橋・2)





星取表点数

★★★★☆90点 大満足(年間ベストテンに入れる)。
★★★★80点 満足(年間ベストテンに入れるかも)。
★★★☆70点 ほぼ満足(年間ベストテンに入れない)。
★★★60点 悪くないけど、ちょっと気になるところがある。
★★☆50点 悪くないけど、かなり気になるところがある。
★★40点以下 好みに合わなかった(基本的には採点しない)。




HOME INDEX