Vivien's CINEMA graffiti 13




オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ


瀟洒な吸血鬼映画 / ★★★★


すぐには感想が書けない作品で、年を越してしまいました。画面をおおう闇、ひそやかで慎ましやかな吸血鬼たち。鑑賞中は少し眠気を催したりもして、どこか夢見心地でした。

人間を襲うこともなく病院から手に入れる血液。面倒を起こさないためというのもあるのだけれど、世の中には汚れた血が氾濫しているせいでもあると分かった時、この作品の訴えたいことがぼんやりと理解できた気がします。

生きづらい世の中で、主流からは距離を置き、それでも確固とした信念を持った生き方が瀟洒な背景の中で描かれています。魅力的な俳優陣、音楽や衣装も素敵でした。

(2013.12.24 TOHOシネマズ西宮OS・6)






ゆるせない、逢いたい


悲しい純愛 / ★★★☆


柳楽優弥と新人の吉倉あおいが主演のラブストーリーですが、社会的な問題も提示した真摯な作品。しかし、若いキャストの好演もあり瑞々しい作品になっていました。

恋に落ちた十代のふたり、ある行き違いから男子が女子をレイプしてしまう、その事件までの互いに魅かれあって行くさまや、事件後のそれぞれの心情や想いが繊細に描かれます。事件を起こすまでの男子側の心理描写が少ないようにも思えたのですが(柳楽クンをもっと見たかった)、孤独な十代男子の異性への憧れや不安感は伝わってきて、決して特殊な出来事ではなく、誰にでも起こり得ることであると感じられました。

事件後の女子の気持ち、男子の気持ちの描写も秀逸で、切なさに胸が痛みますが、それでも前を向いて行こうという決意に希望があり、女子の母親との和解もあいまって温かい余韻が残りました。

ただ手持ちカメラの多用は減点。陸上部に所属する女子が走るシーンを手持ちで捉えた映像に酔ってしまいました。

(2013.12.9 テアトル梅田・1)






ジ、エクストリーム、スキヤキ


絶妙の会話劇 / ★★★★


『コールド・ウォー 香港警察二つの正義』と同じ映画館で上映していたのでハシゴしましたが、緊張感で息もつけない『コールド・ウォー』とは対照的な脱力系青春映画ですごーく和めました。15年ぶりに再会した旧友の窪塚洋介と井浦新が、話の成り行きで昔の仲間・市川実日子と窪塚洋介の同棲している恋人・倉科カナを誘い一緒に海を見に行く、それだけの話。

その前段の窪塚と倉科、窪塚と井浦、市川と友人や同僚、それぞれの会話がダラダラだけど、時々クスッと笑えて頬が緩んでしまうという、何気に楽しい時間。海へのロードムービーの部分もやはり、時に四人で、時に三人で、時に二人で、ダラダラでグダグダの会話が交わされるのですが、あいかわらずクスッとしたり、同時に時には共感したり、そして次第に切なくなって来たりもします。その全く作為が感じられない自然体の会話がとても心地よかったのです。

最後まで見ると、15年前のある出来事(明示されない)とファーストシーンの井浦新のある出来事と、けっこう重いものが提示されているのが分かります。ただ説明的な描写やセリフはなく、解釈は観客に任されている感じ。そこで自分の解釈ですが、15年前の出来事と井浦新の現在の出来事は共通したものであり、ただ結果だけが異なり、その結果の違いがもたらす15年ぶりの邂逅をスキヤキで寿ぐ映画ではないかと・・・・。何が言いたいのか、自分でもよく分からなかったりもするのですが(笑)、人間は簡単に消えたりしてはいけないということ。消えたくなっても前に進まなければいけない(自分のためにも、友達のためにも)ということを、ホワッと和んでいるうちに認識させられたような気がします。

キャストが素晴らしいです。ダラダラでグダグダの会話にリアリティや面白みを与え、さらにそれぞれの表情や身振りでも魅了する主演の四人とそのアンサンブルが最高でした。

(2013.12.2 シネマート心斎橋・1)






コールド・ウォー 香港警察 二つの正義


クールな香港アクション / ★★★★


久々に観た香港映画はクールでタイトなサスペンス・アクション。警官5人が車両もろとも誘拐されるという事件に警察内部の次期長官争いを絡め、アクションあり人間ドラマもありで見応えがありました。行動班と管理班というふたつの部署、その長であるふたりの副長官の対立、誘拐された警官のひとりは行動班副長官の息子、消えた身代金を巡って警察内部の汚職事件を捜査する外部機関も介入と、二転三転するストーリーに釘付けでした。登場人物も多く、その所属と氏名が字幕で示されるのですが、あっという間に消えちゃうので油断できなくて、それも緊張の一因でした(笑)。

キャストが豪華。レオン・カーファイとアーロン・クォックが主演なのは知っていたのですが、特別出演のアンディ・ラウや久々のチャーリー・ヤンも出てきたり、若手のエディ・ポンとアーリフ・リーがイケメンで楽しかったりもしました。あと、それぞれの副長官の片腕を演じるラム・カートンとチン・ガーロウもいい味を出していました。

(2013.12.2 シネマート心斎橋・1)






かぐや姫の物語


虫愛ずる姫君 / ★★★★★


宮崎作品はいちおう全て観ているのですが、高畑作品は『火垂るの墓』と『おもひでぽろぽろ』だけ。本作もあまり関心がなかったのですが、かぐや姫が疾走する予告編を見て「何じゃこりゃ」と驚嘆。その後、六分間の予告編を目にした時に「絶対観よう」と思いました。

期待通りの傑作。今、ちょっと困っています。今年のベストワンはもう『風立ちぬ』と決めていたのに・・・・。

淡彩画風の絵で描かれ、時には遠景で時にはアップで捉えられる鳥や獣や草木や花。その映像がまず素晴らしいのですが、そこに込められた日本的な自然観にもとても共感してしまいます。生きとし生けるものの生命の輝き。そんな背景の中で成長して行く姫の一挙手一投足にも生きるエネルギーが満ちあふれ、魅了されてしまいます(赤ちゃんのシーンから釘付け)。

しかし、人の世は決して美しいばかりではありません。身分の隔たりや貧富の差、世俗の幸せを求める貪欲な心、そして自分の心に忠実であれば他人を傷つけることもあり、傷つけられることもある。生きるということは歓びでもあり、同時に苦しみでもあったのです。しかしそれでも、生きるということはやはり価値のあることなのだと、エンドロールの心に響く主題歌を聞きながら考えていました。

久石譲の音楽も秀逸。特に終盤のあの音楽にはちょっと唖然、ちょっと恍惚。劇中歌のわらべ唄は本作を解く鍵のように思えますが、高畑監督の自作だそうで、それもビックリでした。あっ、もうひとつビックリしたのが、姫と捨丸が○○するシーン。一瞬、宮崎作品かと・・・・。

(2013.11.25 TOHOシネマズ伊丹・4)






清須会議


人間百態 / ★★★★


歴史物は苦手ですが、この辺は大河ドラマなどでも何度も取り上げられているので、馴染みがないわけではない。しかし、それほど詳しいわけでもないというスタンスで鑑賞したせいか、とても楽しめました。織田信長の後継者を巡る家臣たちの主導権争いや駆け引き、登場人物それぞれの思惑や心情が巧みに描かれ、現代の人間でも共感できるような人間喜劇になっていたと思います。その人間性の発露を明るい側から捉えているところが秀逸。物語のその後を知っているので、明るいだけでは終わらず、そこはかとない哀愁も感じられるところが人間喜劇と呼ぶ所以です。

多彩な登場人物を体現する豪華キャストも見応えありですが、ひとりひとりにスポットライトを当てるので、若干冗長になったのは否めません。特に終盤はもっとテンポよく納めてほしかった気がします。衣装や美術や音楽も楽しめました。野を駆ける滝川一益のテーマ、後の方ではあのメロディが聞こえただけで笑ってしまいました。

(2013.11.20 TOHOシネマズ西宮OS・2)






夢と狂気の王国


猫と夕日の王国 / ★★★☆


ジブリについてのドキュメンタリー。情報としては既知のものが多く、それほど新たな発見はなかったのですが、仕事場をうろうろする猫と屋上の庭から見る夕景に魅了されました(緑の梢から差す木洩れ日も素敵)。

二郎さんの声が庵野監督に決まるまではけっこう詳細に捉えられていて、そこは面白かったです。「俳優の声はそれらしい人物を演じているからダメ」という宮崎監督の言葉には「なるほど」という感じでした。

ラストの菜穂子さんのセリフが変更された時に、庵野監督と鈴木プロデューサーが交わす「よかった、よかった」という会話には、私も客席で頷いてしまいました。

終盤に出てくるメディアの自己規制の話にちょっとゾッとしたり、シネコン行脚のシーンでは、どのシネコンも雰囲気が同じで、今はどこにいるのか観ているだけでは分からないというのも、現在の映画状況を如実に反映しているなとか、いろいろ思うところもあったりしました。

『夢と狂気の王国』というタイトルはちょっとハッタリ気味ですが、宮崎駿と高畑勲のクリエイターとしての業、そのふたりの天才に仕えているようで、実はすべてを仕切っているかのような鈴木敏夫、その興味深い三角関係の片鱗は伺えたような気がします。

(2013.11.17 TOHOシネマズ西宮OS・1)






四十九日のレシピ


ロリータ・イモ / ★★★☆


タナダユキ作品は『百万円と苦虫女』を観ただけですが、あまり好みじゃなかったので、本作も観るつもりはなかったのです。しかし、テレビで目にした二階堂ふみのインタビューに、俄然興味をひかれて鑑賞しました。継母の死をキッカケに自分を見つめなおす主人公の今を中心に、実父や継母、継母が関わった人々の人生模様を描いています。ちょっと見方を変えれば、今まで見えていなかったものが見えてくるといったポジティブさや、つまづいた人々を包み込む温かい視線が心に染みる作品。登場人物の感情の機微を細やかに描写しているところも好みでした。

ロケ地は岐阜のようですが、川沿いの家屋やススキが揺れる川原など情感たっぷり。何度か挿入された夕方や夜明けのマジックアワーの光にも魅せられました。

キャストもおおむね好演。石橋蓮司や永作博美の演技も味わい深かったのですが、自分的にはやはり二階堂ふみ。ロリータファッションに濃いメイクというイマドキギャルのキャピキャピぶりがキュートだったのですが、実はそれは自分を守るための鎧だったという境遇の少女を生き生きと体現していて素晴らしかったです。『今日子と修一の場合』で印象に残った小篠恵奈もちらっと出てきて、それもうれしかったです。

(2013.11.10 TOHOシネマズ西宮OS・3)






ばしゃ馬さんとビッグマウス


天童よしみ / ★★★☆


シナリオライターになりたいという夢をひたすら追い続けているうちに34歳になってしまった女性、そして大口をたたくばっかりで何もしない青年、この二人が主人公の青春ラブコメディということですが、けっこうリアル、切ないのを通り越してちょっと痛かったりしました。それと吉田監督独特のゆるいテンポは苦手かもです。今までの作品では『純喫茶磯辺』を観ただけですが、あの時も少し馴染めなかったりしたので。でも、浅草あたりで主人公たちがウダウダしている描写には和めたりもしました。

キャストはとてもよかったです。特に関ジャニ∞・安田章大の自然体の演技が秀逸。安田クンを見ているだけで楽しかったりしました。ジャニーズの男の子たちも侮れないですよね。さらに準主役で山田真歩が出演していたのも予想外でうれしかったです。それぞれの役名が天童義美とマツキヨ(マツモトキヨコ)というのも面白かった。

PS 同じ関ジャニ∞の横山裕主演で津村記久子の織田作之助賞受賞作「ワーカーズ・ダイジェスト」を映画化してほしいと以前から思っています。大阪が舞台の32歳の男女の軽いふれあいと、それぞれの日常生活を描いた小説。ベタなラブストリーではないのでちょっと地味ですが、一味ちがった青春映画になると思うのです。東映さん、いかがでしょうか(本作が東映作品だったことに、ちょっとピックリ)。監督は石井裕也を希望します。

(2013.11.4 TOHOシネマズ西宮OS・2)






R100


非日常からの逆襲 / ★★★★


『大日本人』が好きだった松本作品ですが、『しんぼる』はイマイチで『さや侍』はパス。本作も観るつもりはなかったのですが、週刊誌で目にした舞台挨拶の女優陣が豪華かつ個性的で、悪評に逡巡しつつも、やっぱり観に行ってしまいました。

何、これ(笑)。冒頭の冨永愛にあ然。カッコよすぎるやんか。それに続くSMクラブのメリーゴーラウンドにも意表をつかれたのですが、メリーゴーラウンドは大好きなアイテムで、その不思議可愛いテイストがまさに好み(そういえば、『しんぼる』の天使部屋もすごく好きだったのだ)。

その次はサトエリのおっぱいに目が釘付け。しかし、その場の居たたまれない空気に『アウトレイジ』の暴力バーを思い出したりして笑いがこみあげてきました。しかししかし、場内が静まり返っているので笑えない。ずーっと忍び笑いでお茶を濁していたのですが、警察での大森南朋と松本人志のやりとりに辛抱たまらんくなって、あとは遠慮せずに笑わせていただきました。

気の毒なお父さんの日常から逃避するという秘かな歓びが、逃避するべき非日常からの反撃を受け苦しみへと転化し・・・・、という不条理コメディ。何が可笑しいかは個人差が大きいようですが、自分的には今年一番笑えた映画かも。ツッコミどころがテンコ盛りなのもたまらんかった。心の中で「ダンカン・・・・(?)、タコ公園・・・・(微笑)、よだれくん・・・・(笑)、シンガポールのCEO・・・・(!?)、四十肩・・・・(微苦笑)」など、ある設定を借りて展開される、松本監督の奇想の数々を楽しませていただきました。

色味を抑えた映像や音楽も効果的だったし、ボンデージ姿の女優陣がみな魅惑的。綺麗どころはもちろんのこと、渡辺直美のダンスや片桐はいりの丸呑みも楽しかった。大真面目でヘンなこと言う渡部篤郎も可笑しかった。惜しむらくはCEO。もっと美人だったら、もっとよかったのに・・・・。まあ、傑作とか言うつもりはありませんが、似たような作品が並ぶ邦画界では貴重な「ヘンな映画」だったと思います。

(2013.10.21 梅田ブルク7・2)






今日子と修一の場合


今日子の場合、修一の場合 / ★★★★


奥田瑛二が安藤サクラと柄本佑の娘夫婦とともに作り上げた作品。『地獄でなぜ悪い』とはタイプの異なる対照的な作品ですが共通点がいくつかあり、続けて観たので面白く感じました。ふたつの話が並行して語られること、音楽が効果的に使用されていること(本作ではクラッシック)、そしてキャストの演技が素晴らしいことなどが共通点ですが、大きな相違点は本作ではふたつの話は交わらないこと。主人公ふたりの出身地が東北の同じ町で、東北大震災も絡んでくるのですが、あくまでそれは背景。しかし、時に挿入される震災時のニュース映像や震災後の風景にはやはり慄いてしまいます。

そして震災後の風景は、実は主人公ふたりの心象風景にも重なるという印象です。生きていればいろんな出来事に遭遇し、偶然の不運が重なって罪を犯してしまうこともある。そうして心に傷を負った今日子と修一というふたりの主人公の再生へと向かう物語が淡々と綴られて行きます。

いわばどん底の状態にあった修一は、新しい環境で周囲の人々に支えられ助けられ、一筋の光を手に入れる。一方、自らの犯した罪のせいで婚家を追われた今日子は東京へ流れ着いて落ちて行き、そのどん底で終わるという感じなのですが、しかし、それでも生きて行くうちには光のさすこともあるのでは、というのは自分の希望なのですが、瓦礫の中を歩いて行く今日子の姿に、そう願わずにはいられませんでした。

現在の社会状況を考えると他人事でもないようなリアルさが感じられます。悪い上司がいたばかりに、ロクデナシにひっかかったばかりに・・・・、今日子の転落と残してきた子供への想いが哀切です。一方、善い人や温かい人に恵まれた修一の物語は、そういうことがあってほしいという願望とともに心に染み入ります。

演技も見応えあり。主演の安藤サクラと柄本佑は以前から好きなのですが、今回も好演ですっかり引き込まれてしまいました。サクラさんの演じる風俗嬢、時には色っぽい主婦を演じ、時には無邪気なOLを装い、化粧や仕草で変わるその表情も見所でした。脇役陣もみなよかったのですが、小篠恵奈や和音匠など、若手の瑞々しい演技が特に印象に残りました。

(2013.10.13 MOVIXあまがさき・8)






地獄でなぜ悪い


みんなキレてる / ★★★★


いろいろテンコ盛りでやりたい放題の超面白い作品でした。映画オタクの青春四人組(クサいセリフを連発するんですけど、そのいちいちに共感してしまう、笑)と娘が主演の映画を作りたいヤクザの親分、そのふたつの話が並行して描かれ、それがひとつにつながったところからシッチャカメッチャカの大死闘。血糊の量が半端ないキルビル風味でしたが、最後はあふれる映画愛に泣けてしまうという、映画ファンなら必見作(!?)じゃなかろうか(自信はないけど、笑)。

オタクとヤクザのシーンが交互に、乱暴に切り替わるのですが、そのたびに変わる音楽も効果的でノリノリ。キャストも全員ノリノリの好演で、誰もがキレてる役柄でしたが、それがまたまた楽しかった。中でも二階堂ふみちゃんとその子供時代を演じる子役さんが最高でした。

ふたつの話がどこでどう結びつくのか、ちょっとワクワクしていたのですが、そこはちょっと・・・・。強引すぎるし、汚かったのは減点です。

(2013.10.4 TOHOシネマズ西宮OS・8)






許されざる者


見応えあり / ★★★★☆


オリジナルはもちろん観ていますが、あの辺からイーストウッド作品が好みでなくなってきたという記憶があり(それ以前のB級風味の作品は好きだった)、ほとんど印象に残っていません。というわけで全然別物として鑑賞しましたが、実をいうと、久々の柳楽優弥がお目当てだったりして・・・。

というわけで、作品的にはそれほど期待していなかったのですが、予想以上に見応えがありました。時代の転換期に、必ずしも自分の意志で選んだわけではない己の生き方を問い直される男たち、その心情や葛藤に心揺さぶられ涙々になってしまいました。同時に、人を殺すということや人の生き死にの重みも伝わって来る、心にズシンと響く作品でした。

キャストもみな好演。最初のうち、「柳楽クン、大丈夫かなあ」とちょっとドキドキしながら観ていたのですが、やがて作品そのものにすっかり引き込まれてしまいました。北海道の雄大な自然やその過酷さを捉えた映像も見応えがありました。

近頃の邦画界には希少な重量級の作品、もっとヒットしてしかるべきだと思うのですが・・・・。

(2013.9.30 TOHOシネマズ伊丹・8)






あの頃、君を追いかけた


有点幼稚 / ★★★


今までも佳作の多かった台湾の青春映画ということで、前情報入れずに楽しみにしていたのですが、開巻5分で「失敗した」と思いました。高校の教室で最後列のふたりの男子生徒が・・・・、何じゃ、こりゃ(笑)。終盤の展開とエンドロールから察するに、人気を博したネット小説の作者が自作を映画化したらしい。ということで、何だかすべてが納得できました。

お遊び満載、下ネタも満載、登場人物は漫画みたい(特に新竹でのルームメイトたち)、新感覚といえば、そういえないこともないのですが、自分的にはちょっと苦手なテイストでした。飯島愛の名が出てくる作品としては『九月に降る風』、地震の出てくる作品としては『花蓮の夏』、台湾映画の中でももっと切ない系が好みです。

とはいえ、ちょっと煩い細部を除けば、物語自体は胸キュンものの青春ラブストーリー。時々涙が出たりもしましたが、とくに海辺への卒業旅行や地震のあとのエピソードが好きでした。南野陽子に似た感じのヒロインも素敵。男子生徒の中では、主人公より前髪命のNBA志望の男の子(エディソン・チャンに似ている)がいちばん好みかな(って、他は・・・・。笑)。ついでながら、デブの阿和は秋元康に似ていたような(主人公の台詞「どの物語にもデブがひとり登場する」は名言やね)。

(2013.9.24 梅田ガーデンシネマ・2)






共喰い


女性像が秀逸 / ★★★☆


青山作品にしてはセックス描写が多くてちょっとビックリ。全編の二分の一ぐらいがセックスシーンという感じで、それも劇的(エロチック)ではなく、淡々とした描写が続くので、それほど面白いとも思えなかったのですが、最後の最後、女性たちのそれぞれの台詞にいろいろな感慨を覚えました。主人公の母、恋人、そして父の愛人という三人の女性が登場するのですが、その三者三様のたくましさに胸のすく思いもしたりして、『サッド ヴァケイション』に続く「青山真治の女性賛歌」のようにも思えました。

(2013.9.9 大阪ステーションシティシネマ・7)






風立ちぬ


夢を見る人 / ★★★★☆


ただ美しい飛行機を作りたいという夢を一途に追い続けた主人公、そして限りある日々を懸命に生きた恋人たちの物語。数日前に観たのですが、今は頭の中で、久石譲とユーミンのメロディが交互に無限ループ中です。

4分間の予告編は一度しか見なかったのですが、その時からすでに落涙。本編鑑賞中ももちろん涙々でした。夢を見る男を主人公に、関東大震災から敗戦までの戦前史を描く本作、ラストがちょうど3.11後の傷ついた日本にも重なるようで、「生きねば」というコピーが、まるで私たちを励ますエールのようにも思えました。

途中までは、今回の宮崎さんは一味違うなあとか、この棒読みのセリフは庵野監督だったよねとか(二郎のキャラにはぴったりの声に思えました)、運命の再会はまだですかとか、よそ事を考える余裕もあったのですが(その合間にも涙していたのですが)、二郎と菜穂子の再会からラストまでは一気、心を揺さぶられた時間でした。

鉄橋に吹く風、パラソルを飛ばした突風、紙飛行機を滑らせるそよ風など、風に彩られたとてもロマンチックな恋物語の結末。そして、純粋すぎて無知(シベリアのエピソードからうかがえる、その人となり)でもある天才が、時の流れに巻き込まれて犯すことになる罪の痛み。切なくも美しい作品でした。

(2013.7.22 TOHOシネマズ伊丹・1)






嘆きのピエタ


聖と俗、美と残酷 / ★★★★★


俗の極みから聖なる高みへと人間を解放する、この軌跡を見よ! 隠遁生活後の復活を示す、キム・ギドクの最新作は期待通りの素晴らしい作品でした。ギドク、やっぱり面白い、やっぱり大好き!

主人公は冷酷な借金取立人とその母を名乗る女。援助交際を行う女子高生とその父を描いた『サマリア』の裏返しのような物語ですが、現代の社会状況を背景とした倫理や贖罪といったテーマも共通しています。ただ、理屈では割り切れない印象もあった『サマリア』と比べ、本作では訴えたいことがかなり明快。しかし、結末が見えたと思った瞬間から、また思わぬ展開を見せるという物語の妙味、次々と意味が裏返って行く語り口が見応えありでした。序盤はわりと冷静に眺めていたのですが、それまでに語られていたことが、すべて違った意味を持ち始めた時から心を揺さぶられ、そして衝撃的なラストにため息が・・・・。

思わず目を背けてしまうシーンもあり、思わず笑ってしまうシーンもあり、相変わらずのギドク節ですが、彼の作品のいくつかに感じる、登場人物が自分とはまるで無関係ではないという感触が本作にも。あの母も息子も、自分に代わって悲しみ苦しんでいるといった、今の世界を生きる哀しみや切なさが伝わって来るのです。

キャストも好演、特に母を演じるチョ・ミンスに圧倒されました。鶏を掴んで登場するシーンから息をのみましたが(口紅の色が鮮烈、スカートも)、昔の小川真由美を彷彿とさせるような美しくも妖しい(怪しい)姿から目が離せません。演技も圧巻で終盤の悲しみの表情が脳裡に焼き付いてしまいました。息子のイ・ジョンジンは前半の冷たい無表情と、母を受け入れたあとの子供のような表情の対比が見もの。唐突にも思えるその変貌に思わず頬がゆるんだりして・・・・。しかし、そこから思い返される、それまでの孤独の深さがやがて心に染みわたり・・・・。

善と悪、愛と憎しみ、罪と罰、そして人間性に内在する聖と俗がからまりあった傑作です。

(2013.6.25 梅田ガーデンシネマ・2)






リアル〜完全なる首長竜の日〜


疲れるエンタメ / ★★★☆


何度か見かけた予告編には全然興味が湧かなかったのですが、最近、監督が黒沢清と知って観に行きました。久しぶりの黒沢作品はいつも通りやっぱりヘン。でも、けっこう楽しめました。

「センシング」とか「フィロソフィカル・ゾンビ」とか、似非科学用語という感じで、何か笑っちゃいます。といいつつ、「センシング」は「セイシング」と聞き間違いをして、「精神+ing」かあ、面白いなあとか一人合点したりして・・・・(笑)。現在の精神ではなく、それを形作っている過去の記憶の集積がテーマなのですね。自分にも何か思い出したくないことがありそうで、ちょっと身につまされる話でした(最近、大掃除している時に見つけたくないものを見つけてしまった・・・・)。

前半の何かヘンだなというかすかな違和感が、後半にそういうことだったのかと納得されて行く物語は見応えも快感もありましたが、鑑賞中、今はどの地点? とか考えながら観ていたようで、鑑賞後はどっと疲れ、その夜は8時ぐらいに寝ました(笑)。

(2013.6.9 TOHOシネマズ伊丹・2)






はじまりのみち


気持ちのよいオマージュ作 / ★★★★


原恵一による木下惠介生誕100周年記念映画は、若い日のひとつのエピソードを描くことで、木下監督の人となり、そしてそれからの人生を浮き彫りにしようとする作品。

戦争末期、脳溢血で寝たきりの母親を疎開させるために、リヤカーをひく木下とその兄、雇われた便利屋。一昼夜で峠を越えるその行程のうちに、家族や便利屋とのふれあいのうちに、木下監督が心理的な峠をも越えるさまが、繊細に瑞々しく描かれています。実話に付け加えられた原監督の創作の部分、その細部から木下監督を私淑するという原監督の敬愛の念が伝わり、とても気持ちがよい作品でした。

母親思いの、しかし信念を曲げない頑固者でもある木下監督を演じる加瀬亮をはじめとして、キャストも好演でしたが、実は私の好きな俳優さんばかりで得した気分。光石研と濱田マリは出演していることも知らなかったので、夫婦ゲンカをしながら現れた時にはニコニコでした(静岡の方言も面白い)。お調子者で邪気のない便利屋は、原監督の想いを託された重要な役所ですが、濱田岳の可笑しみと人間味のある演技が素晴らしく、大いに楽しませてもらいました。

真面目なユースケ・サンタマリアもよかったし、表情で魅せる田中裕子も素晴らしいです。宿屋の前でのワンシーンは、まわりの登場人物の表情も含めて見逃せません。そして、最初に便利屋に心を開いたのはあの母でしたよね。その男の性格、善良なるを認め・・・・、という感じで、ふわっと笑った顔がとても印象に残りました。

終盤の代表作の引用は賛否両論あるようですが、自分的には見応えありでした。特にテレビでしか観たことのない『カルメン故郷に帰る』、大画面だとこんな感じになるのかと感激でした(あの奇天烈なダンスシーン好きなんです)。実は木下作品はあまり観る機会がなく、引用されている作品の半分も観ていないのですが、これから機会があれば、ぜひ観たいと思います。

(2013.6.5 MOVIXココエあまがさき・9)






イノセント・ガーデン


背徳的なお伽話 / ★★★★☆


パク・チャヌクがいつの間にかハリウッドで映画を撮っていたのでビックリしましたが、チャヌクは大好きだし、主演がミア・ワシコウスカというのも魅力で、とても楽しみにしていました。その期待を裏切らない作品でしたが、今までの作品とはやはり若干テイストが異なり、しかし、そこがまた楽しかったりしました。

郊外の自然に囲まれた邸宅を舞台に、繊細で多感な少女を主人公にミステリアスな物語が展開されますが、目を覆うようなバイオレンス描写は影をひそめ、どちらかというとクラシカルな味わい。トリッキーな語り口も今までよりは控え目で、途中までは全然訳が分からなかったりしたこれまでの作品と異なり、物語自体はストレート。しかし精緻を極めた演出が秀逸で、謎めいたオープニングから引き込まれ、全編息をのみつつ堪能しました。

残酷で背徳的、しかし甘美でもある大人のお伽話(リトル・プリンセスはこうして大人に・・・・)といった印象。この世界観はチャヌクがアメリカに渡った成果なのでしょうか。世間的には悪趣味と評されたチャヌクの前作『渇き』も、私に言わせれば「洗練の極致」。本作も方向は違えどやはり「洗練」の一作で、洗練の語義により相応しいとも思えます。さらに、十代の少女が主人公というのもまさに好みで大満足でした。

美術や衣装や音楽も素晴らしく、撮影も魅惑的。キャストの好演も特筆もので、固い蕾のようなミア、不安に慄く瞳が印象的なニコール・キッドマン、清潔さと不気味さがないまぜになったマシュー・グード、容姿の美しさも際立つ三人の、少しずつ色調の異なる青い瞳に吸い込まれそうに・・・・。

(2013.6.2 TOHOシネマズ西宮OS・PREMIER)






グランド・マスター


面影集 / ★★★★


金曜日の初日のみ大き目のスクリーンだったので慌てて観に行きました。大画面に映像美がさく裂する、オープニングの雨中の格闘シーンからうっとり。葉問とルオメイの優雅で華麗な格闘、ルオメイと馬三の鉄道駅での緊張感のある格闘など、カンフーのシーンが素晴らしくて見応えたっぷりでした。

そのシーンの間に展開されるドラマの方はエピソード集といった体裁で、賛否が分かれそうですが、自分的には人生のエッセンスが詩のように描かれているという印象を受けました。葉問とルオメイの間で交わされる二通の手紙、葉問の手に残ったひとつのボタンなど、秘められた恋情が深く心に刻まれます。

そういった断片的な記憶から紡ぎ出されるマスターたちの面影。春の時代を動乱によって断ち切られた葉問の苦闘、日本軍と手を結んだ馬三の堕落と驕り、そして父のために何もかも投げ捨てるルオメイの復讐。日中戦争という暗い時代を背景に、魅惑的な映像で綴られる時の流れとそれぞれの人生の行方が切なく心に染みました。中でもルオメイの凋落、演じるチャン・ツィイーの表情の変化には胸を衝かれます。チャン・チェンの演じる一線天のことがちょっと分かり辛いのが難点でしたが、彼の最後のエピソード、白バラ理髪店でのエピソードに和めたのでよしとしよう。

PS 拡大ロードショーですが、GAGAさん、ちょっと拡大しすぎじゃないでしょうか。ウォン・カーウァイの映画にそんなに客が入るとも思えない。宣伝もちょっと騙しですよね。勘違いして観に来た観客に文句いっぱい言われそうでイヤだわあ。

(2013.5.31 MOVIXココエあまがさき・11)






中学生円山


「ファンです」 / ★★★☆


男子中学生のエッチな妄想の数々に爆笑しつつ、ちょっとクドイような気もしました。テンポもちょっと悪いような気もしましたが、でも、なかなか楽しめる作品でした。大笑いしているうちに、最後はちょっと泣きそうに・・・・。徘徊老人と小学生女子の恋の部分、胸を衝かれる台詞もあって心に染みます。韓流大好き主婦と元スターの部分は、最初のうち大笑いしていたのですが、そのうち身につまされてきました。憧れのスターが身近に現れたら、絶対、自分もあんな風になると自信があります(笑)。傍から見ると滑稽でも本人は真剣、そういう物事の二面性が生み出す切ない人間喜劇がいくつも詰まっていました。

円山一家と下井一家、団地のゴミ置き場にタムロしている主婦たち、日の丸背負ったレスリングコーチ、主人公の憧れの美少女など、いかにもクドカンらしい多彩な登場人物にキャストも適材適所。さらに、前情報なしだったので、「伝説のフォークシンガー」遠藤賢司(見せ場たっぷり)と「シバラマー」のヤン・イクチュンの登場はサプライズでした。ふたりともいい味を出してましたね。

(2013.5.29 TOHOシネマズ伊丹・1)






ビル・カニンガム&ニューヨーク


清貧の人 / ★★★★


驚きが一杯のドキュメンタリーでした。ニューヨーク・タイムズにコラムを連載しトレンドをリードしていると紹介されるファッション・フォトグラファーのビル・カニンガム、しかし、その暮らしぶりは清貧と呼びたいようなシンプルライフで、まずビックリ。部屋には家具ひとつなく、今までに撮りためたフィルムを全て保存しているというキャビネットが林立しているだけ。写真を撮るために街に出かける時は自転車、そして仕事用の上着はパリの道路清掃人と同じもの(でも青色が街に映えてオシャレに見える)。

取材のために訪れたパーティでは飲食を勧められても固辞、自分の撮った被写体をINとOUTに分類して掲載したファッション雑誌とは決別と、確固とした倫理観の持ち主でもあり、その筋が一本通った清々しい生き方にも驚かされます。彼曰く「金をもらわなければ口出しされない。すべてに通ずる鍵だ」。本当にその通りですよね。仕事の基本、ひいては生き方の基本を教えられたようで感激でした。

しかし、生意気盛りの悪ガキに「勝手に撮るな、カメラ壊すぞ」とスゴまれても、ニコニコと笑みを絶やさないチャーミングな爺さんは、何と、1929年生まれ。いゃあ、またまたビックリ。

「自由より価値があるものなんかないよ」。思い通りに自分の仕事に全エネルギーを傾け、それが喜びでもあるという幸せな人。その私生活を詳しく知る者はいないという謎の人。映画の最後にインタビュアーがいくつかデリケートな質問をしますが、その時の反応が興味深かったです。決してただの単純な人ではなく、また、社会に対する考えをつまびらかにはしないものの、能天気に現状を肯定しているだけではないことがうかがえたから。

「ファッションは鎧なんだ、日々を生き抜くための」。カニンガムの撮影したファッション的鎧の数々も画面にコラージュされて楽しめます。その他、パリ・コレクション取材の功績に対して勲章を贈られた際にはフランス語でスピーチしたり(この時のネクタイも可愛い)、仕事に関しては完璧主義者で編集者をウンザリさせながらも、その孫ほども年齢の違う編集者とのやり取りがユーモアたっぷりだったりと、とてもカッコいい爺さんなのでした。

(2013.5.23 梅田ブルクセブン・2)






セデック・バレ 第一部&第二部


ちょっとあざとい / ★★★


去年の大阪アジアン映画祭で上映された台湾映画。観に行く予定だったのですが、寒い夜間にシヌ・ヌーヴォまで出かけるのが億劫になって結局見逃し、他の作品の整理券を取るために並んでいた時、周囲の人たちが口々に絶賛するので悔しい思いをした作品。でも、実際に観てみると、皆、何であんなに興奮していたのか、ちょっと不可解でした。

日本統治時代の台湾、山深い村で起こった原住民の抗日暴動である霧社事件を取り上げたことは意義深いと思うのですが、演出が自分的にはちょっとあざといように思いました。監督のウェイ・ダーションはこの作品の製作資金を稼ぐために、前作『海角七号』にヒットする要素を詰め込み、思惑通り大ヒットさせ、ようやく本作を完成させたという経緯があります。第一部と第二部を合わせた上映時間は約4時間半という力作なのですが、ちょっとヒットさせる技を研究しすぎたというか、ワザとらしい演出にノリきれませんでした。特に第二部は見せ場がテンコ盛りのアクション映画と化し、これ見よがしの演出やドラマチックすぎる音楽など、自分的にはとても煩かく感じました。

ただ、実際の原住民の音楽を基にしている挿入歌や主題歌は好きでした。特に第一部、川辺に腰を下ろす主人公の傍に父親の亡霊が現れ、共に歌う(輪唱)シーンに思わず引き込まれ、「屈辱の生より、誇りある死を」と戦いを開始するラストまではかなり昂揚しました。素人の原住民を起用したキャストも存在感があって素晴らしかったです。

(2013.5.12&5.19 第七藝術劇場)






藁の楯


本音と建前 / ★★★☆


「日本全国民が、敵になる」というコピーや予告編の感じから、もっとカオスな映画を予想していたのですが、意外と正統派というか王道のサスペンスアクション。三池監督にしてはちょっと物足りない感もあったのですが、楽しめる娯楽作品、特に前半はハラハラドキドキの連続でした。後半は確かにツッコミ所もありましたが、前半の勢いのまま最後まで押し切られてしまったという感じです(笑)。

テーマについてはいろいろな見方ができそうですが、自分的には本音と建前の「建前」を貫き通そうとする大沢たかおの徒労感に共感するところがありました。日常的にも「それはちょっと違うんちゃう」というような不条理な出来事があったりもする今日この頃ですから。ただ演じる大沢たかおが苦手で、それほど強い共感にはならなかったのですが。

反対に大好きな藤原竜也のクズっぷりは超楽しめて(笑)、本音をいうと清丸よりも蜷川老人の方がウザかったです。「大金を積んだら何でもすると思っているのか、貧乏人をバカにするなよ」と鑑賞中に思ったりしました。

(2013.4.30 TOHOシネマズ伊丹・7)






ペタル ダンス


珠玉の女子映画 / ★★★★☆


石川寛監督の作品は初めて。ポスターを目にした2月頃からずっと気になっていたのは、キャストの顔ぶれが魅惑的だったからですが、作品自体も私の好みにぴったりでとても楽しめました。もっとも、ストーリー重視の観客からは「雰囲気映画」と貶されそうな作品。しかし自分的には、その雰囲気の作り込みだけでも感激しました。かすかに青みがかった灰色の空や海の映像、登場人物の衣装や静かな音楽まで、繊細に作り上げられた世界観が素晴らしいです。

宮崎あおいと安藤サクラの顔合わせに興味津々だったのですが、やはり見応えあり。さらに忽那汐里や吹石一恵、脇役の韓英恵や後藤まりこまで、女性キャストの見せる表情や仕種を捉えた画面から目が離せません。自殺を図った友人を訪ねるロードムービーですが、大きな事件は起こらない淡々とした展開。しかし、序盤の忽那汐里と韓英恵の交わらない視線のシーンから涙が滲んだりして、断続的に涙々の90分、共感度も100パーセントでした。

目に見えるいちばん大きな出来事は、ジンコ(宮崎あおい)の思い込みが生んだちょっとしたアクシデント。素子(安藤サクラ)に「とんだ災難だったね」と評される、その出来事が示唆するジンコの人となり。その災難のせいで、ジンコと素子の旅に同行することになった原木(忽那汐里)の女友達への想い。初めて会った原木に向けられる素子の笑顔など、画面に現れるささいな出来事に、切なくて涙したり、ふっと微笑を誘われたり、目には見えない「想い」が何度も伝わってくるのでした。そして、登場人物の間でも想いが通じ合い、ほのかな光が差し込むラストが静かな余韻を残します。

女子のさまざまな想いを繊細に捉えた詩的な作品、大好きな映画でした。

(2013.4.23 梅田ブルク7・3)






舟を編む


熱が伝わる / ★★★★☆


去年、予告編を初めて目にした時、監督が石井裕也ということに少なからず驚きました。石井監督の個性的な作風を愛するファンとしては、一抹の不安を抱きながらも、実は今年一番の期待作だったのですが、大器の片鱗さえ感じられる秀作に大満足。抜擢に応えた石井監督も見事ですが、石井監督を起用した製作者側の英断も称えたいです。

しかし考えてみれば、今までも変わり者を魅力的に描いてきた石井監督には恰好の題材だったとも思えます。辞書の編纂に携わった人々の奮闘を描く本作、軽味と真面目さと静かな熱の混じり具合が絶妙。序盤は石井流のユーモアにクスクス、穏やかな情熱につかれた人々のドラマに和んでいるうちに、終盤、静かな熱がこちらにも確実に伝わり、何度か涙が滲みました。

キャストも好演。松田龍平が新たな一面を見せてくれましたが、オダギリジョーもうれしいサプライズ。今風にいうと「チャラ男」、あの頃の言葉にすると「C調」(念のため調べてみたら、90年代には死語になっていたとか、苦笑)でしょうか。そんな男を生き生きと軽やかに好演し、最近あまり魅力を感じられなかったオダジョーの復活という感も。さらに、それぞれの個性が楽しい女優陣や、脇を支えるベテラン勢の手堅い演技も光ります。

辞書や言葉という題材自体もとても興味深く、言葉の持つ面白さや奥深さに改めて気づかされたような気がします。プラス、人間の愛おしさや人生の味わい深さを、大きな悲しみはささやくように、小さな喜びはハミングするように描く、どういえばいいのでしょうか、押しつけがましくないという意味で、暫定的に上品という言葉を用いますが、そんな上品な作品だったのは実は意外でもありました。同時にとても楽しめるエンタテイメントにもなっており、正攻法でも十分に面白い石井監督の、これからにも期待のふくらむ一作でした。

(2013.4.14 TOHOシネマズ伊丹・5)






千年の愉楽


路地裏の伊達男たち / ★★★★


若松監督にはあまり馴染みがないのですが、美男俳優のPV集のような予告編につられて鑑賞。やはり俳優陣が魅力的でした。高良健吾、高岡蒼佑、染谷将太の三人に井浦新も加えた四人の、それぞれの美しさや個性が見応えあり。特にイノセント(無知でもある)な高岡蒼佑が愛おしく思えました。染谷クンの出番は短かすぎ、そこはちょっと不満でしたが、作品自体もなかなかに魅惑的でした。

前情報なしで鑑賞、部落差別を扱っていることは鑑賞後に読みました。で、観ている時には、そこまでは分からなかったのですが、それでも貧しい出自ゆえに蔑まれていることは理解でき、そういう境遇にある若者たちが見せる生のあがきのようなものに共感しました。自分の美しさでいわば世の中に復讐しながら、その美しさゆえに自滅して行く若者たち、同時に死は解放でもあるかのような物語には、負の方向ではありますがある種のエネルギーが感じられます。若さに感じられる美、美に感じられる哀しみ、彼らを見守る寺島しのぶにも共感を覚え、彼女とともに若者たちの後ろ姿に(心の中で)手を合わせたりしました。

中上健次は最初の頃に一、二冊読んだきりで、あまり好きな作家ではなかったのですが、この原作はちょっと読んでみたい気がします。

(2013.3.14 第七藝術劇場)






毒戦


ジョニー・トー・ファン集合 / ★★★★


大阪アジアン映画祭で上映されたジョニー・トーの新作は、中国の麻薬組織と警察の闘いを描いた犯罪映画、全編を中国本土で撮影した初の作品だそうです。「男のロマン」系ではなく、『エレクション』のような実録ものに近いテイスト、ちょっと泥臭い感じもしましたが見応えたっぷりでした。

麻薬製造の際の事故が元で逮捕された麻薬組織のボス(ルイス・クー)が、死刑を免れるために警察の捜査に協力するというのを発端に、中国の煤けた風景の中、お得意のユーモアも交えながら緊迫感のあるドラマが展開されます。その風景に合わせたかのように、登場人物もアクが強く、その癖のある登場人物が面白いのですが、ちょっと唖然としたりもして(笑)。

中国語字幕もついていたので、ついそちらに目が行ってしまったのですが、登場人物の名前が大聾小聾や哈哈哥。日本語字幕では前者は聾唖兄弟。後者はちょっと記憶にないのですが(漢字のインパクトが強すぎて)、「哈哈」は笑い声の擬音で「哥」は兄貴という意味です。自分的にはこう書いてるだけで思い出し笑い。

中国当局の規制のため、当初の想定とはかなり異なる作品になっているそうです。どこがどう変わったのか興味津々ですが、警察がやたらカッコいいのも、そのせいなのでしょうか。捜査チームの隊長が哈哈哥に扮し、部下の女性捜査官が姐さんに扮しての潜入捜査など、見せ場がたっぷり。上司と部下の間には信頼も温かみもありと、人民の模範たる警察像といったところ。しかし、キャストのスン・ホンレイやホアン・イーの好演で人間味も感じられる人物になっています。

対する犯罪者側はかなりカッコ悪くて、でも、人間臭さがたっぷり。ルイス・クーは自分が生き残るためなら、親兄弟も裏切りかねない卑劣漢。聾唖兄弟はルイス・クーには大恩があり、忠節を示す行動を取るのですが、あとから考えると、そういうふうに形にして見せなければならないのは、実際には信頼関係がないからではないか、とも思いました。そんなさまざまな人間性も見所です。

トー映画の常連さんも終盤に登場しますが、ラム・シューが出てきただけで、場内に笑いが起こるというジョニー・トー・ファン集合の夜でした。トー監督も舞台挨拶のためだけに香港から飛んできたそうで、チケット買ったときには予定になかったことなので、大感激。三年前のアジアン映画祭でも来場されたのですが、その時は早くから心待ちにしていたのに・・・・、していたのに、日にちを間違えた大馬鹿野郎は私です(笑)。自分でも信じられない大ポカでしたが、映画の神様がそんな私を憐れんでくださったのでしょうか(微笑)。

(2013.3.8 梅田ブルク7・1)






ジャンゴ 繋がれざる者


真っ向勝負 / ★★★★☆


上映時間2時間45分、邦画なら絶対パスするのですが、タラちゃんの映画を見逃すわけには行きませんよね。期待通り楽しめる作品でした。マカロニウェスタン風味は、これまでもしばしばうかがわせていましたが、今回は真っ向勝負。しかし、主人公がドイツ人と黒人というのが意表を突いています。南北戦争以前のアメリカ南部、奴隷制を絡めたストーリーにも意表を突かれました。ジャンル・ミックスはタラちゃんのお家芸ですが、その幅広さに、またもやびっくり。人種差別に対するタラの見解がうかがえる展開に、「ふーん、ふーん」と感心しきりでした。

そんな私たち観客の代弁者のような存在がドクター・キング・シュルツ。クリストフ・ヴァルツの好演もあいまって、人間味あふれるシュルツにとても共感しました。その他のキャストもみな好演。キャンディランドでの腹の探り合いの部分、キャストの演技合戦が見応えたっぷりでした。それにしてもサミュエル・L・ジャクソンの演じるスティーブンが・・・・。ムッシュー・カンディよりこの人にムカつきました。

マカロニ・ウェスタンやブラック・ヒーローものはそれほど好きじゃないので、正直、採点は80点ぐらいなのですが、デリケートな主題に真っ向から挑んだタランティーノに敬意を表して90点。大好きな映画『ラスト・アメリカン・ヒーロー』の主題歌「アイ・ガット・ア・ネーム」が出てきたのもうれしかったし・・・・。あの曲が流れるシーンに高揚しました。

それにしても、フランコ・ネロっていくつになったのでしょう。オープニング・タイトルに友情出演と出たので、目を皿にして待っていたのですが、その必要はなかったですね。昔の面影が残っていてすぐに分かりました。

(2013.3.4 TOHOシネマズ伊丹・2)






ももいろそらを


インディーズ系ガールズムービー / ★★★★☆


地方都市に住む高校1年生女子が主人公の青春映画なのですが、とーっても気に入りました。主人公いづみの何やら怪しげな表情を捉えたオープニング、いったい何が始まるのかと思ったら、目の前に落ちている財布を拾うのを誰も見ていないか確認する表情だったのです。そこで思わず頬がゆるんでしまったのですが、そのあとも何度も、ふと気づくと自分の頬がゆるんでいる!

新聞記事の採点が毎日の日課といういづみですが、一日の総得点がマイナス500点ぐらいになるという、世の中をシニカルに眺めていたりもする女子高生。しかし、釣り堀仲間の経営する印刷工場が危ないと知ると、ぽんと20万円差し出したりする懐の深いところもあるのです(拾ったお金ではありますが、笑)。この工場主が兄貴と呼ぶように、とても粋な「お姐さん」の一挙一動が楽しくて、可愛くて、時に可笑しくて目が離せませんでした。

拾った財布には30万円という大金、持ち主はどうやらイケメンの名門高校生。別々の高校に進んでも今もつるんでいる女友達ふたりも巻き込んで、ちょっと少女漫画風味な物語が展開され、とても楽しかったです。前半で「はあっ?」と思ったところが一か所、終盤で「やっぱりそうするのか」と思ったところが一か所あった以外は、気になるところもなく、物語の成り行きにワクワク。

「はあっ?」といえば、『桐島、部活やめるってよ』でも女子高生が口にしていましたが、本作の女子高生も何度も口にします。『桐島』では攻撃的で怖かった言葉ですが、本作では仲間内のコミュニケーションの道具にもなっているところに注目。「はあっ?」で始まり「ごめん」で終わる会話の間に相互理解が進んでいるというような・・・・。

いづみが仲間以外の男子高校生に発した「はあっ?」はすぐには「ごめん」には進みません。しかし、その終盤の展開にいづみの成長が鮮やかに描かれ爽やかな余韻が残りました。

キャストが素敵。女子三人の瑞々しい演技や個性の違いが見所です。モノクロームの映像も素敵。夕暮れどきにはセピア色にも見えたりして、その中を駆けたり、歩いたりする女子高生の姿にちょっと胸キュン。音楽はついてなかったですよね。女子高生のポンポンと弾む会話がまるで音楽のようでした。

(2013.2.27 第七藝術劇場)






有りがたうさん


ありがとーう / ★★★★☆


『蜂の巣の子供たち』に感激したばかりなので、BSプレミアムで放送された清水宏作品を思わず録画してしまいましたが、これも秀作でした。タイトルの「有りがたうさん」は主人公、伊豆の山間を走る路線バスの運転手のニックネームだったことに、まず意表をつかれます。狭い山道、道を譲ってくれた通行人に「ありがとーう」と感謝の言葉をかけることに由来する呼び名。若くてハンサムで気の好い青年は、その地方のいわばアイドルのような存在で、演じる若き日の上原謙が素敵。また空軍のパイロットのような制服も素敵で、びっくりしてしまいました。

そんな彼の運転するバスに乗り合わせた人々の人間模様が、軽快な音楽に乗せて描かれますが、乗客の中には、東京に売られて行く娘と鉄道駅まで見送ろうというその母親もいます。世は大不況の時代、楽しいばかりではないのです。有りがたうさんが運転すると聞いて、バスを一台遅らせた流れ者の酌婦もいるのですが、桑野みゆきのお母さんという桑野通子が演じる彼女のキャラが見応えありです。拗ねたり、甘えたり、いかにも水商売の女という風情なのですが、ストーリーを推進させる重要な役割も担っています。

山や空や海の情景とともに、有りがたうさんが乗客以外の村娘や旅芸人の頼みを聞いたりするシーンも挿入されますが、山間の道路工事現場で働いていた朝鮮人の娘とのシーンが哀切です。道路が完成したので他の現場に移るという彼女の「父」についての頼み、バスで送るという有りがたうさんに「みんなと一緒に行くから」と娘が断ったあと、山間の道を粛々と歩む朝鮮人労働者の群れを捉えた画面の哀感・・・・。その他にもバックミラーやトンネルで切り取られた画面にも胸を衝かれたりしました。

繰り返しと省略、そこはかとないユーモア、ラストの昂揚、やはりとても心地よい作品でした。小野文恵アナウンサーと山本晋也が解説をつけてくれるのですが、映画が終わるなり小野アナが「ありがとーう」と上原謙の口マネをしたのがツボでした。私も思わずマネしていたところだったのです(笑)。ラストについて、小野アナが山本監督に「あれはこういうことですよね」と確認していたのは、最近の説明過多の作品に慣れた視聴者を慮ってのサービスなのでしょうか。昔の映画は今の映画みたいに何もかも説明する(見せる)ような野暮はいたしません(笑)。

(2013.2.22 NHKBSプレミアム録画)






脳男


トリオ・ザ・エキセントリック / ★★★


斗真熱もちょっと冷めかけている私ですが、染谷将太クンも出ているということで、やっぱりこれは必見作。このふたりに二階堂ふみちゃんも加えた三人の役柄がエキセントリックで楽しめました。斗真クンはやっぱり美しい。登場シーンからうっとりでした。松雪さんも好演で、このふたりの冷たいやりとりにゾクゾクさせられました。

しかし、作品全体の印象は健全というか、清潔というか、ちょっと物足りない感じもあったりして・・・・。もっと面白くできる素材だったのではないでしょうか。

二階堂ふみの相棒のキレッぷりも悪くなかったので、このふたりの関係をもっと観たかった気がします。染谷クンももっと観たかったし、警察関係の描写を少なくして、こちらに重点を置けば、危ない魅力を感じられる作品になったのでは・・・・(そういう趣旨ではないのかな。でも、自分的にはそういうのが好き)。

(2013.2.19 TOHOシネマズ伊丹・2)






奪命金


お金の世界 / ★★★☆


今回のジョニー・トーは「男の世界」ならぬ「お金の世界」。金融危機の起こりそうなある一日の三つのエピソードを、時制を行きつ戻りつさせながら描く脚本が秀逸だったのですが、自分的にはいまいち乗り切れない素材でもありました。ジョニー・トー映画のアイコン、ラム・シューも出演してなくて、キャストにもちょっと不満あり。リッチー・レンはあまり好きじゃない。ラウ・チンワンは嫌いじゃないけど、今回はちょっとやり過ぎかなあと(目パチパチが気になって、気になって、笑)。しかし、お金にまつわるサスペンス、充分ドキドキさせてもらいました。特にリストラ寸前の女性銀行員と年金暮らしの老婦人のやり取りが、どちらにも身につまされる部分があってヒヤヒヤもんでした。

(2013.2.11 心斎橋シネマート・2)






蜂の巣の子供たち


初清水宏 / ★★★★☆


近場のホール上映で清水宏作品を初めて鑑賞しました。噂には聞いていたので、その確認ということになってしまうのですが、それでも素晴らしい作品でした。終戦からまもない頃、下関駅で偶然出会った復員兵、戦災孤児たち、孤児たちを束ねる親分(傷痍軍人)、そして広島の家族と連絡の取れない若い娘が、別れと出会いを繰り返すロードムービー。復員兵と戦災孤児たちは、日雇いや住込みの肉体労働で金を稼ぎながら、山口から広島、四国、そして東京へと移動し、先に上京していた若い娘と再会すると・・・・。

キャストは素人で、その自然な表情や動きを捉えたドキュメンタリータッチの作品。シンプルなストーリーながらも、中盤までの伏線が終盤に見事に回収されて涙々、そしてラスト5分の高揚が素晴らしく、とても感動しました。

子供たちの個性的な顔が楽しいです。その中にひとり、サイパンからの引揚者もいて、母親が海で死んだというその子の境遇が哀切。悪役の傷痍軍人も含めて、みんなが傷ついていた時代なのだと胸が痛くなったりもするのですが、そこはかとないユーモアが漂う作風が心地よかったりもしました。

1948年作品ということで、音声に難あり。最初のうちは聴き取りづらいセリフにストレスを感じていたのですが、ストーリーをおもに人物の動きで見せて行く演出に、そのうち作品に引き込まれてしまいました。

(2013.2.10 みつなかホール)






ムーンライズ・キングダム


ジンジャー風味のスイーツ / ★★★★


互いに居場所を見つけられない幼い恋人たちが、この世界に温かく抱きとめられるまでの物語。鑑賞中にふと頭に浮かんだ言葉は「ヘタウマ」。キャストのちょっと現実離れした演技から思い浮かんだ言葉ですが、物語を効率的に語ることは度外視し、世界観の豊かさこそを目指すところにもその感があります。とにかく、核心となるテーマの周りにいろいろ詰め込まれている何やかやがとても楽しいのです。時は1965年ということで、まず衣装や音楽が懐かしくて素敵。ヒロインの家や小物も可愛くて素敵。アナクロ気味のCGの使い方も好ましい。

キャストも好演です。ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンといったビッグネームまでウェス・アンダーソン・ワールドの一員になりきっているところがニコニコ。個性的な子供たちも楽しかったのですが、特にジョン・レノンの子供時代(写真でしか知らないけど)はこんな感じかと思わせるシニカルな眼鏡少年と、ロジェ・ヴァディムの作品に出ていた頃のジェーン・フェンダ(『獲物の分け前』が好きだった)を彷彿させる問題児の双眼鏡少女、主役のふたりが素晴らしかったです。

ちょっと風変わりではありますが、キュートでチャーミングなラブストーリー、ジンジャー風味のスイーツといったところで、とても美味しくいただきました。

(2013.2.9 MOVIXココエあまがさき・8)






かぞくのくに


言えない想い / ★★★★


見逃していた作品がアンコール上映されたので観に行きました。個人の力ではどうすることもできない体制の壁によって引き裂かれた、家族のつかのまの再会を描いていますが、観客の感情や情緒に訴えることによって、その不条理性をいっそう際立たせる脚本が見事でした。

キャストもみな好演。いくつか主演賞を獲得している安藤サクラはもちろん、井浦新も素晴らしかったです。私がまず泣けてしまったのは、息子と再会した時の母親(宮崎美子)の満面の笑顔・・・・。一家の女たちが感情を明確に表す一方で、言葉にならない想いや、言葉にできない想いを、表情や佇まいで見せる男たちの姿にも切なくやるせないものがあります。いわば敵役の監視員のヤンも含めて、自分の置かれた状況に抗うことができない男たちの、胸の奥の気持ちを思うと心乱されるのでした。

(2013.1.28 テアトル梅田・2)






みなさん、さようなら


この世界に打ち勝つために / ★★★★☆


ある出来事のせいで一生を団地で過ごすと決めた中学生の物語。佳作ぞろいの中村義洋×濱田岳作品は今回も見応ありです。原作は数年前に読んだのですが、いい具合に忘れていて、また新鮮な気持ちで楽しめました。

前半の性の目覚めなどのあけすけな描写は、原作を読んだ時にもかすかな違和感を覚えた部分で、本作を観ながらその時の気持ちを思い出しました。しかし今回は、エレファントカシマシの挿入曲「さらば青春」がとてもノスタルジックで、そのシーンが心に染みたりもしたのです。もうひとつとても心に染みたのは成人式のシーン。無事に20歳を迎えた級友たちを、ひとりひとり眺める主人公の温かい視線に胸が熱くなるのでした(ある出来事が何であるか、知っていただけになおさら)。

女の子との恋も含めて、周囲の人々に助けられたり、励まされたりしながら、小さな世界で、しかし確実に成長して行く主人公を描き、同時に、その背景となる団地の盛衰を描くことでひとつの時代をも浮き彫りにする意欲的な作品。それは共同体からぬくもりが失われ、世の中が殺伐として行く過程でもあり、そんな世界に打ち勝つために、ひとり奮闘する主人公に心打たれたりもするのです。

真摯で滑稽な主人公を濱田クンが生き生きと体現。12歳から30歳までを違和感なしに演じられる、彼にしかできない役でした。脇役も含めて他のキャストも好演でしたが、特にオカマラスの永山絢斗に注目。ベンガルは時々大好きなのですが、今回はその時々。自分なりの美学を持った市井の一ケーキ職人、惚れてしまいそうでした(笑)。

(2013.1.27 テアトル梅田・1)








5windows


記憶の中の彼女 / ★★★★


『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の瀬田なつきの40分の短編です。前作は不思議可愛いラブストーリーでしたが、本作もまるで一編の詩のようなちょっと不思議な作品でした。横浜の黄金町を舞台に、2011年8月27日14時50分にそこですれ違った四人の男女を描いています。まるで詩の一行のような断片的な映像が、時間軸を行きつ戻りつしながら綴られ、登場人物のそれぞれの時間を見せて行きます。

路地にふと現れたひとりの少女、その瑞々しくて愛らしい身振りや表情に魅せられているうちに、時間は少し後戻り、自転車を走らせる少年、京急線の車内の少女、そして街を眺めている屋上の青年が登場します。その断片的なイメージの連なりのうちに、いつしか頭に浮かぶ疑問符。主人公の少女は他の人には見えていない?

他人にはその姿が見えない非現実的な彼女と現実の人間が一瞬すれ違う物語。しかし、その彼女の存在こそ、彼らがそこにいる理由なのです。記憶の中の彼女、夢の中の彼女に導かれて、街をさまよう少女と少年のつかのまの時間が瑞々しく切り取られています。姿は見えなくても、その存在は感じられるような。そこに誰かがいるような・・・・(最近読んだ小川洋子の短編集の中の『パラソルチョコレート』を思い出したりしました)。

夏の午後の風景、何度も繰り返される同じ時間、魅力的な登場人物たち、とても心地の良い時間が流れ、映画が終わった時には少し名残惜しいような気持になりました。

(2013.1.25 第七藝術劇場)






ブラッド・ウェポン


熱すぎる香港アクション / ★★★☆


ますますパワーアップするダンテ・ラム作品。今回はヨルダンとマレーシアを舞台に、国際テロ組織の細菌兵器を巡る闘いに巻き込まれる、幼い頃に生き別れた兄弟の運命を描いています。オープニングからヨルダン軍の協力を得たという迫力のある市街戦がこれでもかと・・・・。実は自分的にはこういうの余り好みじゃなくて、銀行強盗とか宝石的襲撃といった身近(?)なアクションのほうが好きなんです。舞台がマレーシアに移ってからもアクションのつるべ打ちは続き、お腹一杯を通り越してヘトヘトになってしまいました。

人間ドラマも熱いです。でも、こちらのほうは魅惑的なキャストもあいまって楽しめました。久しぶりのジェイ・チョウが観たかったのですが、ぐんと男っぽさが増していました。容姿が特に秀でているわけではないのに、何かオーラがあるんですよね。対するニコラス・ツェーはあいかわらず哀しい役が似合います。観ているうちに思ったのですが、ちょっと木村拓哉に似ているかな。陽のキムタク、陰のニコツェー、裏表という感じがしないでもない。名脇役リウ・カイチーも兄弟の父でもちろん出演。可愛い子役さんもまた出てきて、こういうお馴染み感は続けて観ていると楽しいです。母親を演じたのはエレイン・ジン。エドワード・ヤン作品によく出ていた女優さんですが、すごい久しぶりでした。

(2013.1.24 梅田ガーデンシネマ・1)






ドラゴンゲート 空飛ぶ剣と幻の秘宝


中国四千年の荒唐無稽 / ★★★☆


ツイ・ハークの3D武侠映画かあ、とちょっとニヤニヤしながら観に行きましたが、その予想通りトゥーマッチ感の漂うアクション・ファンタジーでした。特に終盤の竜巻の中での死闘は「中国四千年の荒唐無稽」という感じで、やりたい放題のツイ・ハークに微笑んでしまいます。しかし、この世界観に馴染みのない観客にはトンデモ映画と分類される恐れあり。まぁ、楽しんだもん勝ちといったところでしょうか(笑)。

「弓矢や槍が飛び出してきて怖かったのよ」と、昔、両親から聞いたことのある立体映画みたいに、剣や丸太が飛んで来てドキドキ。このあたりの見せ物感は好みでしたが、CG使いまくりのアクションはかえってチャチな感じがして、昔の『天地大乱』なんかのほうがもっとワクワクしたような・・・・。

しかし、素晴らしいキャストがその欠点を優に補っています。華麗なアクションを見せるジェット・リー、切れ者の諜報機関長官とうつけ者の情報屋の二役を好演するチェン・クンの男性陣もよかったのですが、女性陣がそれぞれ魅惑的で目が離せません。ちょっと苦手だったジョウ・シュンですが、今回の一途な恋情を秘めた女侠客は悪くなかったです。韃靼人盗賊団の女首領がグイ・ルンメイ、彼女が出演していることは知らなかったこともあり、また意外な役柄でもありで、うれしいサプライズでした。さらに美しい官女のメイヴィス・ファンが大人の魅力を見せ、凛々しい女剣士を演じるクリス・リーの中性的な魅力も捨てがたい。というわけで、四者四様の個性がとても楽しめました。

去年、ツイ・ハークの完全復活と謳われた『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』(大阪ではシネスコの両端をカットしたDVD版の上映だったので、レビューを書く気にもならなかった)よりも、私は本作のほうが好み。しかし数年前に公開された『セブンソード』のほうがもっと好みでした。

(2013.1.12 TOHOシネマズ西宮・9)






サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ


フィルムとデジタルをめぐる、私なりの雑感 / ★★★★


去年、『北のカナリアたち』を観に行った時、スクリーンがシネスコサイズになっていて、「ビスタじゃなかったの」とちょっと慌てました。「シネスコならもっと後ろの席にしたのに」と思っているうちに上映開始。すると、やはりビスタで一安心。ところが、両脇の薄明るい余白がそのままで、「幕閉め忘れてるよ」と思ったのですが、シネコンには幕なんてなかったのですね。

昔の映画館の幕が開くときのワクワク感を話す人がいて、その時のことを思い出したのですが、他のシネコンでも同様だったので、今はもうあの方式がスタンダードになっているのでしょうか。何かだらしいない気がして、ちょっと落ち着きません。それに第一目障りです。

のっけから余談になってしまいましたが、フィルムからデジタルへと移行しつつある現在の映画状況についてのドキュメンタリー、非常に興味深かったです。その良し悪しを決めつけるのではなく、監督や撮影監督や編集者など、製作者側のさまざまな言葉を集めてあり、なかなか示唆に富んでいて、いろいろと思うところがありました。

一昨年、『東京公園』はレッドワンというデジタルカメラを使用しているという雑誌の記事を目にしました。そのレッドワンも出てくるデジタルカメラ史に興味津々。『東京公園』のソフトなのにクリアーな映像は強く印象に残っています。確かに技術は進歩しているという感じですよね。

「フィルムによる上映はオリジナルとは別物」というのも身をもって実感したことがあります。『地獄の黙示録』を京都のわりと新しい映画館で観た時、画面にみなぎる「明るい狂気」に魅せられ、そのあと大阪で再見したことがあるのですが、老舗の映画館の古い映写機による上映のせいか画面が暗くて、全然印象の異なる作品になっていました(その映画館はそれからほどなくして閉館)。

多くの人に映画製作を可能にしたデジタルカメラですが、「紙とペンがあるからといって、誰もがよい物語を書けるものではない」という意味のデビッド・リンチの言葉が核心をついています。近年、上映時間の無駄に長い作品や酔いそうなほど手持ちカメラを多用している作品が増えているのは、デジタルカメラのせいだったのですね。これは過渡期の現象として、これから淘汰されて行くことを希望します。

パソコンやテレビで見る映画は映画と呼べるか。「うちのテレビは大きい」と言う人がいて、思わず笑ってしまいましたが、スマホとかで見て「面白くなかった」とけなす若者は、自分的には許せない気がします(笑)。本作でも触れていましたが、若い世代と旧世代では映画の概念が異なるようで、これも時代の流れで不可避のことなのでしょうか。ちょっと寂しいです。

HDカメラのDが何の略なのかも知らなかったという、技術的なことには疎い私にはとても勉強になる作品でした。デジタルシネマの歴史も面白く、その利点を理解できたのは大きな収穫。ただ安くて便利という理由で、デジタル上映化が一気に推し進められている興行面については、本当にこれでいいのかと漠たる不安を抱いています。同時に、そのデジタル化について行けないミニシアターの消失も、自分的には切実な問題です。

(2013.1.5 シネリーブル梅田・1)





星取表点数

★★★★☆90点 大満足(年間ベストテンに入れる)。
★★★★80点 満足(年間ベストテンに入れるかも)。
★★★☆70点 ほぼ満足(年間ベストテンに入れない)。
★★★60点 悪くないけど、ちょっと気になるところがある。
★★☆50点 悪くないけど、かなり気になるところがある。
★★40点以下 好みに合わなかった(基本的には採点しない)。




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