RIVER WILLOW
第7号
7月4日に生まれて
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7月4日に生まれて ・・・ 怒りと希望を胸に |
人にはそれぞれの立場があり、それぞれの考えがある。主人公のコービックは、祖国を守るという大義を信じてベトナム戦争に志願しドロ沼を見る。そして誤って部下を射殺し、自らも九死に一生を得て帰還する。しかし、復員軍人病院のスタッフである黒人たちは、公民権運動には夢中になっても、リッチな白人の戦争で傷ついた帰還兵の看護という職務には忠実ではない。そこで長期間のリハビリを終え帰郷したコービックをあたたかく迎える家族。その家族のあいだにも意見の対立は存在する。さらに、金もうけに忙しい友はベトナム戦争に志願するなんてバカなのだとほのめかすし、独立記念日のパレードに軍服で参加したコービックに非難の声を浴びせる者もいる。自分もまたこの場にいれば、コービックの心中を察することもなく非難の声をあげる側にいたであろうことは確実だ。しかし、コービックのここに到る苦闘を見たあとでは少なからず胸が痛む。戦争反対はもちろん正義だけれど、正義を主張することが人を傷つけることもあるのだ。
本当に他人の身になることは難しい。だからこの映画でもっとも心を打たれるのは、コービックが、部下を誤射したという事実を犠牲者の家族に打ち明けるシーンである。夫を亡くした妻は「私は一生許せないけれど、主はお許しになるわ」といい、息子を失った母は「もういいのよ。さぞ、つらかったでしょう」と慰める。田舎の裕福ではない、さして教養があるとは思えない人々が、他人の身になることによって、その痛みを理解し許しを与える。そのやさしさが心にしみる。
それに反して許せないのが、共和党大会に集まった、そろいの服に身を固めた党員たちである。心の傷を乗り越え反戦運動家になったコービックをふくむ車イスの帰還兵たちを情容赦もなく排除するのだ。政治的見解を異にするとはいえ、肉体的ハンディを負った人々に対するやさしさのカケラもない行為。オリバー・ストーンは確かにこういう人間に対して怒っている。ストーンの処女作「サルバドル 遥かなる日々」でも、主人公はことあるごとに「ヤッピーのクソったれ」と毒づいていたが、運よく自分に与えられたぬくぬくとした環境に満足し、自分以外の世界、他者の苦しみや痛みに目を向けることのない人間に対してストーンは怒っている。
そして彼には怒る権利がある。貧しい若者だけが国のために戦うのはおかしいのではないかと、エール大学から志願してベトナムに赴き、戦争の実態を身をもって体験することによって、祖国に裏切られたことを知ったからだ。さらにその怒る権利を義務に変え、彼は闘う。真摯な人間がその真摯さゆえに裏切られる。ベトナム戦争は終わったにしても、そういう不条理がなおも存在する世界を、彼は許すことができないのだろう。そしてまた、自分をとりまく社会に対していささかなりとも違和感を覚えている私には、その怒りを共有することは容易だ。さらに矛盾に満ちた世界に目を向けるならば、その怒りを持続することも可能だ。それぐらいのことしかできないにしても、それぐらいのことはしたいと思う。それが変革への第一歩なのだから。そして、常に希望も忘れることなく・・・・。
この問題作に対してはかなりの悪評もあるようだが、それをふまえたうえで再見した。確かに粗いところがあるような気もするが、私にはそれが快感だったりもする。そのうえ、なににどうのように反応するかが近似しているようで、やはり涙々。とくに父と息子の抱擁が忘れられない。
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エド・ハリスのこと |
深海映画の真打ちといわれる「アビス」、けっこうハラハラしながら楽しんだんだけれど、見終わったときの印象は「ちょっと安易じゃない」で、決してよくはなかった。しかし、主役のブリッグマン夫妻の生と死をめぐるドラマが心に残り、だんだん「いや、悪くないよ」と思えてきた。まあ、結論をいうと「もう一息、惜しい」ってことになるんだけど、ブリッグマンを演じるエド・ハリスの功績は大きいと思う。頭なんかハゲていて、一見、ただのおっさんなんだけど、そのおっさん顔がだんだん輝いてくる。「俺がしないでだれがやる」と片道切符を手にするところなどは、アメリカ的ヒロイズムの体現といった感じで好きだった。
それから数日後、TVから録画しておいたチャールズ・ブロンソン主演の「マッド・ギャリソン」というアクション映画を見たら、"Introducing Ed Harris" というクレジットが出て、なんとエド・ハリスのデビュー作というわけ。原題は "Boderline" で、メキシコからの密入国にからむ殺人事件を国境警備隊のブロンソンが解決するというストーリー。大規模に密入国させたメキシコ人をタダ同然の労働力として全米各地に供給する組織があり、その黒幕はちゃんとした企業だったりして困ったもんだ。で、その手下の実行部隊長を演じるのが、今より若くて細くて髪の毛も多いエド・ハリスなのだが、このベトナム帰りの元海兵隊員はハッキリいって狂っている。しかし、いかにも狂っているという感じではない。ネジのしまりぐあいが普通の人より少しだけキツイとでもいえばいいのか、その微妙な狂い方がなかなか怖くて、印象に残る堂々たる悪役ぶりであった。
その翌日、ロバート・デ・ニーロ主演の「ジャック・ナイフ」の試写会に行ったら、またまたエド・ハリスが出ていて、「またお会いしましたね」で、他人とは思えなくなってしまった。もう一度おじさんに戻ったエド・ハリスはまたもベトナム帰還兵。しかし、今度は心に負った傷を直視できない弱い人間を演じていてしみじみと心にしみる。
そういうわけで、アメリカ的ヒーロー、狂った悪役、人生の敗残者と、ガラリと異なる役柄を演じるこの三本を並べてみて、エド・ハリス、なかなかあなどれない役者だ、と感心しているところである。
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MY FAVORITE MOVIES ☆ 11.23〜2.24 |
偶然の旅行者
登場人物が皆、私ならしない、できない、というような反則技を繰り出してくれるので、筋がどうなるのかまったく予想がつかずおもしろかった。ジーナ・ディビスはヘンな女なんだけど、生命エネルギーのあふれてる感じが私などにはまぶしかったので、結末には納得。
レディ、レディ!
私にとっての新旧二大アイドルの対決。当然のことながら、おばさまの勝ち。桃井かおりはホントにうまい。「女ひとりで生きて行くのは楽じゃない。でも、それほどイヤじゃないのよね」に、生き方はちがっても、大いに共感。ひろ子ちゃんはもっと精進して、もう一花咲かせてください。いつまでも待ってます。作品の出来はイマイチ。
早春、秋刀魚の味
招待券をもらったので観に行った小津安二郎特集。昔、「東京物語」を観たときは眠くて困ったけれど、今回は感激。歳のせいかな!? どちらの作品も人間関係がしめってなくて、とても気持ちがいい。
ノーライフキング
「自分の意志で生きる(頑張る)ことを決意したとき、世界は新しいリアルさを帯びる」という、この映画のテーマに感激。ただし、それほどおもしろい映画ではない。もっとおもしろくしてもいいと思うんだけど、市川準さんは映画になると、超まじめになるみたい。
マネキン
去年、この映画を二度観たんだけれど、二度目でもおもしろくてクスクス笑いっぱなし。ということは好きなんだ、と気がつく。清潔まじめ青年のアンドリュー・マッカーシー君が一生懸命にコメディしているのがかわいくて、ファンとしては感動してしまう。そして「ウォール街」の弁護士(つまり、「セックスと嘘とビデオテープ」でカンヌ主演男優賞のジェームズ・スペイダー)がヘンな部長さんを怪演しているのが楽しい。この人も見るたびにまるで違う人になっていてビックリしてしまう。
ウォータームーン
「意志の力は何よりも強く、人をひたすら思う気持ちは奇跡さえ起こす」というメッセージに感激。あとで、長渕剛と意見が対立して工藤監督が降板したというのを知った。そういえば、後半はかなり強引なところが無きにしもあらずであったが、私は嫌いではない。
トーチソング・トリロジー
心やさしいオカマさん、アーノルドの哀しい日々。幸せになるのは難しい。でも、「私は彼らを心から愛したわ。でも、十分じゃなかった」と言える人間は、いつか幸せになれるのじゃないか、いや、いつも幸せなんじゃないか、と思った。その心の持ち方がね。
二十世紀少年読本、ジパング
林海象の陰と陽、モノクロームと極彩色の世界。私はどちらも好き。哀しみを背負った人間たちのバラードといった感じの「二十世紀少年読本」のほうがもちろんいいけれど、ひたすらノーテンキな「ジパング」も楽しい。装置や小道具などのディテールもおもしろかった。
バットマン
期待していなかったせいか、すごくおもしろかった。ハデハデ衣装とギンギラメークで踊る、気持ち悪いぐらいノーテンキなジョーカーの生み出す「闇のカーニバル」といった雰囲気が、レイ・ブラッドベリの詩情+コミック風味とでもいえばいいのか、まさに好みだったのだ。
ニューシネマパラダイス
かって映画館は天国だった。そこには人生があり、愛があった。涙も笑いも、性行為も売春行為もあった。生があり、死があり、階級闘争さえあった。映写技師は全能の神と化し、人生の真髄(映画のセリフ)を口にする。しかし映画は夢だ。現実の愛は現実の人生で手に入れなければならない。それでも映画は夢だ。それがあれば生きてゆける。映画ファンにとっては、楽しく、かつ切ない一篇である。
上海ブルース
出だしがまるで「哀愁」のようで、すれちがい悲劇になるのかと思ったら、なんとこれがすれちがい喜劇。同じギャグをくりかえしたり、笑わせようとするのがミエミエで、最初はお義理で笑っていたんだけれど、だんだんホントに楽しくなってくる。いったいこれはなんなんだ!? おまけに女優さんが感動的にチャーミング! 最後はちょこっと涙まで出たりして、なんとも愛しい香港映画。シルビア・チャンが好き。
あとがき アカデミー賞候補の主要作品、三本とも大好きで困っています(自分が決めるわけでもないのにね)。しいて希望をいえば、男優賞はR・ウィリアムズ(いまを生きる)、監督賞はP・ウィアー(いまを生きる)、作品賞は「フィールド・オブ・ドリームス」にあげたい。実をいうと、いちばん好きなのは「7月4日に生まれて」なんだけれど、いろいろ複雑な気持ちなのです。でも、明日になればすべてが決まる。ドキドキ。
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