Aug.25,1989

RIVER WILLOW

第3号

ホームボーイ/ルーカスの初恋メモリー



ホームボーイ ・・・ 回転木馬とカウボーイ

開巻早々、エリック・クラプトンのむせび泣くような音楽に乗って現れるミッキー・ロークはなんとカウボーイ姿。20年近く前の秀作「真夜中のカーボーイ」のジョン・ボイトでさえ、すでにアナクロで散々な目にあったというのに(舞台が大都会ニューヨークだったせいもあるけど)、今頃なによ、と思っていたら、案の定、黒人のチンピラにもバカにされるしまつ。しかし噛みタバコをペッと吐き出し、にらみつけるロークにチンピラどもは悪態をつきながらも退散。決して平坦な道を歩んできたのではない中年男のすさみが見えて、なかなかノレる出だしである。

そしてその古い外見にふさわしく、中身のほうも私たちのまわりではちょっとお目にかかれないタイプ。頭を打たれすぎたのか、時々、視界がぼけるというのに、相変わらずボクシングの試合に出ては、打たれていくらのその日暮らし。そんな男がホレた男と女。男は似たものどうし。真冬に郵便受けに捨てられていたというクリストファー・ウォーケン。「俺はなんてキレイなんだ。神様に感謝」などと言いつつ、精一杯メカシこんでいても、たかがコソ泥。そして女は、おじいちゃんの形見のボロ遊園地を後生大事にしている、やっぱりちょっと古いヤツ。

その男と男の友情というか、なんというか、たがいに相手の弱さを包み込むような関係は分かっていても、やっぱり泣ける。「あんたのためなら何でもするよ」と言われて、「変わったヤツだなあ」と答えるウォーケンの笑顔。見ているこちらもつられて笑い、そのあとちょっと悲しくなるような、そんな臆面もない笑顔。

そして女との恋。これもよくあるパターンで、やりたい放題やってきた男が、ホントにホレた女にはどうしたらいいのか分からないというもの。オートバイの後ろに乗せてもらっても、女の腰に手もまわせない。こういう場合には、やっぱり女のほうがオトナで少しだけリード。この恋も分かっていても、やっぱり泣ける。

遊園地の回転木馬、「おじいちゃんはお金のない子も乗せてやってうれしそうに見ていた。私は自分の番を夜まで待った」。今は動かない回転木馬を媒介にして、過去の辛かったこと、楽しかったことが一点に収束する。彼女がその遊園地を手放さなくてすむように、その資金を稼ぐために最後の試合にのぞむローク。分かっていても、やっぱり泣けた。

しかし、エリック・クラプトンの音楽とラスト・シーンがすばらしい。あのギターを聞きたくて、あのラスト・シーンを見たくて、「映画の日」にまたもや観に行ってしまった。そして思ったことは、ロークもなかなかよいけれど、それ以上にクリストファー・ウォーケンとデボラ・フューアーがよかったということ。生まれ方をまちがえた男の悲哀を明るく(!) にじませるウォーケン。ぐにゃぐにゃと崩れてゆきそうなロークを受け止めるフューアーの硬さ。一種、中性的な彼女が実に魅力的だった。

そして、もうひとつのお楽しみが遊園地の物置場。願い事をかなえる機械や未来を予知する機械、古くなった馬の乗り物。そんなガラクタがいっぱい詰まってる部屋。そこでミニチュアの回転木馬を動かし、じっと見つめるフューアー。昔、おばあちゃんとデパートに行った時に乗ったんだ、と懐かしそうに馬の乗り物にまたがるローク。こんな部屋があったから、いい歳をした男と女が素直になれたのかもしれない・・・・。


ルーカスの初恋メモリー ・・・ 17年後にも会えるといいね

少年映画といっても女の子もからむ初恋物語。でも、とっても気持ちのいい映画。主人公のルーカスはとびきり頭がよくて14歳ですでに高校生。チビでメガネで、そのうえすごい生意気と、いじめられっ子の資格は十分。趣味は昆虫の観察で、セミに感情移入しちゃってる。観察するのは虫だけかなと思ったら、女の子の観察も大好きで、テニスをしていた転校生のマギー(ふたつ年上)に一目ボレ。うまく仲良くなって、もうひとつの趣味のクラシックのコンサートに連れて行ったりするんだけど、それがマンホールの中だったりして。

というように、ちょっと変わってるルーカス君の口癖は「Superficial」。自分の住んでる豪邸も、組織人間のパパも、弁護士(だったかな?)のママも Superficial、フットボールの選手もチア・リーダーたちも Superficial。Superficialというのは、中身がないとか、意味がないという意味で、要するに「うそっぱち」ってことよね。14歳でも抜群に頭がいいので、このルーカス君は自分をとりまく世の中にいきどおりを覚えているわけ(ほんとはもうちょっと複雑なんだけど)。で、近頃の拝金主義や、見てくれだけの社会に、かなりうんざりいている私などは大いに共感。

ところが、マギーがフットボールの選手に恋してしまって、さあ、たいへん。ルーカス君はすっかり恋人のつもりでいたんだけど、マギーのほうは特別な友達と思っていたという、よくあるカンチガイ。で、どうするかというと、ルーカス君は Superficial なヤツらと同じ土俵に立つことを決意するのである。なだめられても、すかされても、冷たくあしらわれても、からかわれても、意地悪されても、いじめられても、恋した一念、頑張るのである。頑張って、頑張って、頑張るのである。

で、得た結論は、自分は自分でしかないということ。他の誰かにはなれないんだってこと。そして、どうしてもあきらめられなかったマギーへの想いも、少しだけ変質するのである。その時に言うセリフがほんとにすごくいい。認識の苦さと、喪失の痛みと、希望の甘さがいりまじった、大人になってしまった私からみれば、絶対不可能だろうなと思えるセリフ。でも、そんな風に思ったこともあったよねと、涙々になってしまった。

ここからあとはなくてもいい気もするんだけど・・・・。あれだけ特別な男の子がみんなと同じになる必要はないと思うから。だけど、大人になってしまった私だからそう思えるのであって、思春期まっただなかのルーカス君にはけっこう切実な問題だったのかも。それに、いじめてたほうのヤツらだって、ほんとは悪いヤツじゃないんだぜ、ってことも言いたかったのかもね。

最初、その気になってるルーカス君がとっても可愛い。マギーはすっかり僕のものと思ってるから、年下のくせに、あれこれ世話をやくのだ。頭はよくても、恋をしたのは初めてで、一生懸命やるんだけど、みんな的外れ。自分の世界に連れてっちゃおうとするんだけど、それが間違いなのよね。でも、恋ってひとりよがりなものなのでーす。大人になっても似たようなことしてるんだから。で、圧巻はタキシード。「友達がいないのがさびしい」と言うマギーをダンス・パーティーに連れて行くためにバッチシ決めるのである。ところが、そんなルーカス君を待っていたのは・・・・。

でも、とにかく、いや、やっぱり、頑張る男の子は美しい!!


あれから20年

松本隆・作詞、南佳孝・作曲の「ピース」という曲のなかに、「君の部屋のTVで月に舞い降りる船を見た」という一節があって、初めてその曲を聞いた時、スーッと過去に引き戻されるような感じがしたけれど、「1969」にもアポロの月着陸が出てきて、そうか、あれから20年なのか。キーファー君は「私ってビューティフル?」と迫る、友達の妹と駆け落ちするのに忙しく、TVを見ているひまもなかったようだが、隣のお調子者の女の子がひとりではしゃいでいるのがおかしかった。

数年前の「フォー・フレンズ」にもアポロが出てくるけれど、少し悲しいエピソードで、全体としては好きじゃないんだけど、ここだけは泣いた。大学の寄宿舎で主人公と同室の男の子が、天文学が好きなんだけど不治の病で、「僕の生きている間に人間が月に行けるかな」と言いながら死んでしまう。それから数年後、泥酔した主人公がソファーの上で目をさますと、TVで月着陸の中継。で、思わず「とうとうやったぜ!」と、今はなき友に呼びかけるのである。人はそれぞれの人生を生き死んで行く。でも、何があってもおかまいなしに、時代はどんどん進んで行くのだ。


MY FAVORITE MOVIES ☆ 5.19〜8.3

マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ
置き去りにされた子どもの悲しみ。それでも他者へのやさしさを失わないのがえらい。奇人変人村が愉快だ。

イマジン−ジョン・レノン
ジョンも置き去りにされた子どもだったんだなと考えると、ヨーコへの愛着がよく分かる。しかしこの映画は涙々。

君がいた夏
人はさまざまなものを失いながら生きて行くという悲しみ。でも消えることのない思い出や、ひとの残した想いがあるという喜び。

セント・エルモス・ファイアー
押しの一手のエステベス君と、一途に想い続けるマッカーシー君がよかった。私はエステベス・タイプに弱い。

トーク・レディオ
「刃物の傷は治るけど、言葉の傷は治らない」と、あいかわらず刺激的なオリバー・ストーン。今回は病理と病理の対決でかなりエグイのだが、この人の場合、エグさは問題意識の現われなのだ。しかし、スタッフのなかに「NAIJO NO KOU」で奥さんの名を出すという可愛い一面も。

メジャー・リーグ
日本語字幕も遊びに遊んで、最後は絶対、私たち観客も燃える! 頑張る男は美しい! 1960年代の香りもするよね。

1969
キーファー・サザーランドがついにハマリ役にめぐりあった。少し甘い気もするけど、好感のもてる、懐かしさあふれる青春映画。

インディ・ジョーンズ/最後の聖戦
リバー君の扱いには不満は残るが、父さんとマーカスのロートル・コンビが愉快だし、父さんは光を得るし、父さんと息子の和解もあるしで、よかったね。ホントにこれで最後なの?

小熊物語
生きて行くことは戦いだ。でもそこでは、小さなやさしさから大きなものが生まれることもある。小熊の鳴き声(泣き声?)がいい。

魔女の宅急便
空を飛ぶしか特技のない魔女が、普通の女の子以上に落ちこみ、傷つき、成長してゆく物語は、元少女としては涙なしには見られない。飛べなくなるのは大人になるということで、でも、他者への想い(少女性と言ってしまおう)によって空飛ぶ力を取り戻すところが感激!


あとがき TVで「ターザン」を見てクリストファー・ランバートが、「さよなら夏のリセ」でクリスチャン・ヴァディムが好きになる。シアワセ!!



HOME INDEX