Mar.20,1993

RIVER WILLOW

第14号

ベスト・テン特集



1992年度ベスト・テン
 日本映画外国映画
青春デンデケデケデケ欲望の翼
シコふんじゃった。クーリンチェ少年殺人事件
阿賀に生きるふたりのベロニカ

エンジェル 僕の歌は君の歌ジャック・ドゥミの少年期

死んでもいい仕立て屋の恋

地獄の警備員フィッシャー・キング

赤と黒の熱情心の香り
遠き落日七小福
薄れゆく記憶のなかで紅夢
10あふれる熱い涙アメリカン・ハート
次点ナンミン・ロードポリス・ストーリー3
 
主女薬師丸ひろ子 (きらきらひかる)
主男三上博史 (遠き落日)
助女藤谷美和子(女殺油地獄、寝盗られ宗介)
助男田口浩正 (シコふんじゃった。)
特別賞The Rocking Horsemen (青春デンデケデケデケ)
 
主女コン・リー (紅夢)
主男ジェフ・ブリッジス (アメリカン・ハート)
助女カリーナ・ラウ (欲望の翼)
助男ジャッキー・チョン (欲望の翼)
音楽ズビグニュー・プレイズナー (ふたりのベロニカ)
特別賞ミシェール・キング (ポリス・ストーリー3)


邦画は全般的には低調であったと思うが、ベスト・スリーは文句なしに好き。映画館が共感の笑いで満たされた幸福な映画たちに、観ている私も幸福感を覚えた。それ以外は、気になるところはあっても、少しでも心をひかれる作品を並べてみた。というわけで、自分の趣味が如実に出た十本。「赤と黒の熱情」や「遠き落日」はワースト・テンにも選ばれかねない作品であるが、だからこその一票。前者の青臭さにも、一見、立身出世美談風の後者のそこここに見られる破調にも心ひかれたことを白状しよう。特に後者の力となっているのが三上博史。彼の演じる野口英世は相当にヘンな人なのだが、そのヘンな人に共感を抱かせるところがすごい。牧瀬里穂にフラれて泣き顔で画面の隅を横切るところや、「故郷に錦」でカッコつけながら母親に近づいて行くところは忘れられない(前年の岡本健一と同じく、演技賞にまるで無縁だったのが不思議だ)。同じように、作品自体はそれほど好きでなくても、俳優の魅力で選んだ個人賞−−わがままな小猫のような薬師丸ひろ子(復活!)とか、何を考えているのか分からない藤谷美和子(笑顔がクセもの)とか、人の好さが体型にまで現われている田口浩正とか、いっぱい楽しませてもらった。ロッキング・ホースメンの五人も素晴らしくて(個人的には魚屋の白井クンが一番好き。チックンはどこかで見たことがあると思っていたら、「野ゆき山ゆき海辺ゆき」の小学生だったんだね。大きくなったけど、顔はそのまま)、彼らの姿を追っているだけでも実に楽しかった(大爆笑の試写会で観たあと映画館でも再見したのだが、平日の午後は観客がまばらで笑い声があまり起こらず淋しかった。満員で観る方がおもしろい映画もあるんだ、と納得した次第)。

洋画の方はいつも通りの充実。ベスト・テン以外に印象的だったものは、「ハワーズ・エンド」「五人少女天国行」「ポンヌフの恋人」「シンプルメン」「ナイト・オン・ザ・プラネット」「ロンドン・キルズ・ミー」「バットマン・リターンズ」。旧作では「穴」「グラン・ブルー」「マルクス兄弟のコメディ」、あとレンフィルム祭で紹介された「キツツキの頭は痛まない」がとても好きだった。それにしても、今年はアジア(中国語圏)の作品が格別におもしろかった(キネマ旬報の「読者のベスト・テン」でアジア映画を十本選んでいる人がいたのだが、「パラダイス・パラダイス」や「傾城の恋」まで入れるのは、いくら何でも「贔屓の引き倒し」ではないだろうか。気持ちは分からなくもないが)。特に一、二位は正真正銘の傑作だと思う。青春の疼き、青春の痛み、思い出しても泣けてくるという・・・・。この二作も俳優陣が素晴らしい。「欲望の翼」の香港六大スター、「クーリンチェ少年殺人事件」の無名の少年、少女たち。彼らの何といとおしかったことか。これに「青春デンデケデケデケ」を含めて「60年代青春群像もの」にのめり込んだ年だともいえるのだが、その三者三様のストーリーにもまして、それぞれの独創的なスタイルが実に魅力的。映画には様々な可能性があるのだ、と実感させられた幸福な一年であった。


黒澤明再発見

去年の夏、WOWOWに加入したのだが、一番うれしかったのは黒澤明の名作群を集中的に観られたことだった。思い起こせば、黒澤作品をリアルタイムで観たのは「どですかでん」が最初。これが「世界のクロサワ」の作品か・・・・、と少し肩すかしだったのを覚えている(今度、再見して大好きになったが)。それと前後していくつかの旧作を観ていたのだが、それほど強い印象は受けなかった記憶がある。どうも「世界のクロサワ」というレッテルのせいで素直に観ていなかったのではないだろうか(どうも天の邪鬼なもので)。それにメディアの黒澤バッシングの影響をモロに受けていたふしもある(NHKで放送された「影武者」のドキュメンタリーで「清水宏治が集中的に怒鳴られて顔面蒼白」というシーンに、何てこわい人なんだと思った記憶があるのだが、「八月の狂詩曲」のメイキングでもやっぱり こわくて、でも、村瀬幸子も全然負けていなくて、ものを創る人というのはそれでいいのだと思った。ただ、そこばかりことさらに強調したNHKの姿勢はやはり問題であろう)。

しかし、「出会うべきものには出会うことになる」という私の信条通り、とうとう出会ってしまいました。何という素晴らしい作品群。ガツン、ガツンと頭をドツかれるような感動だった。今は、「八月の狂詩曲」に感動したあと、素直に(これが肝心)黒澤明に対せるようになったことも含めて、この出会いの幸福に酔っているところである。

しかし、演出の力もあるのだろうが、昔の俳優さんは素晴らしい。大部分の作品が男ばかりの群像劇で、基本的に「男の世界」の好きな私が嫌いなはずはないのだが、個性あふれる男優陣を見ているだけでもうれしくなってくる(私が好きなのは千秋実と三井弘次。余談だけど、志村喬は母方の祖父にそっくり。そして、父方の祖父に似ていたのが笠智衆。亡くなられて悲しい。ご冥福をお祈りします)特に若き日の三船敏郎の魅力には参ってしまった。「酔いどれ天使」のヤクザ松永にはもう絶句。感情移入のあまり、恥ずかしい思いをしてしまった。うちの両親も黒澤ファンなので、録画したビデオを貸してあげるんだけど、これはたまたま一緒に観ていて、嗚咽を聞かれてしまったのである。止めようとしても止まらなかったあの嗚咽・・・・。これからは黒澤明の作品は絶対にひとりで観ることにしよう。映画館の大きなスクリーンで観たいなあ(特に「赤ひげ」の井戸のシーン)。


あとがき 最近、好きだった映画は「ナースコール」。登場人物ひとりひとりの気持ちがすごくよく分かって涙々になってしまった。特にちょっと不機嫌な薬師丸ひろ子がよい。今年も主演女優賞あげようかなあ。



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