Jul.28,1990

RIVER WILLOW

第10号

MY FAVORITE MOVIES



時の過ぎゆくままに

先日、部屋の掃除をしていたら古い映画の前売り券が出てきて、自分の「物持ちのよさ」にビックリ! でも、こういうものって、結局いつかは捨ててしまうとしても(ある日突然、どうしてこんなものを、と思ったり)、なかなか捨てられないのよね。で、なつかしさもあってまじまじと眺めていたら(なかなか掃除が終わらない)、料金が安いのでまたビックリ! ジョン・ウェインの"Cahill"(邦題が書いてないけど何ていったかな?)が500円で、「ライムライト」が半端の520円。「ボギー! 俺も男だ」(同時上映・暗殺の森、ヘンな組合せ!)が550円。「上級生」が600円。「グライド・イン・ブルー」(同時上映・白熱、これは順当かな)が650円。「田園に死す」が700円。「走れ!つぶせ!急所を狙え!」の「ロンゲスト・ヤード」が800円。これが確か1975年だから、15年で500円上ったというわけ。他の物価と比べたらどうなのか分からないけれど、五割以上の上昇率はやはりひどいよね。もう少し安いと、私も助かるんだけど、といいながらも、二本立て前売り700円の大毎地下とか、500円の大毎地下名画鑑賞会にせっせと通い、お金を節約して本数をかせいでいるのであった。

昔は自主上映も盛んだったんだな。「特集・現代日本の青春映画」が三本立て500円。会場はフェスティバル・ホール(「仁義なき戦い」の三本立てもここで観たけど、信じられる?)。二番組あるんだけど、私の観たのは「斉藤耕一の世界」(小さなスナック、約束、旅の重さ)。他の二作品はもちろん秀作だけど、「小さなスナック」が意外と好きだった。パープル・シャドウズというグループ・サウンズの歌う、まるっきり歌謡曲の主題歌にはマイッたけど(画面に出てきて歌うシーンがあるのよね)、当時はトニー・パーキンスみたいだった藤岡弘と西野バレエ団にいた女の子(名前忘れた)との悲恋物語。けっこう泣いたような気がする。

「大阪シネ・サークル”埋もれた名画”フェスティバル」は料金不明。中之島の中央公会堂で「動物と子供たちの詩」と「コッチおじさん」、「哀しみの街かど」と「幸せをもとめて」の二番組。前売り券が二枚あるから、どちらも観たはずなんだけど、「哀しみの街かど」を観た記憶が欠落していてまたビックリ!(最近ビデオが出たので、そのうち見ようと思っていた)。アル・パチーノ主演なのに大阪ではなかなか公開されなくて、大喜びで観に行ったはずなのに・・・。「コッチおじさん」はジャック・レモン監督でウォルター・マッソー主演。孤独なおじさんが未婚の母の力になるというまじめな映画で、けっこう好きだったような気がする。

1975年12月29日(月)1時開始、と前売券にしっかりと年月日時間まで記してあるのは、三越優秀自主製作鑑賞会「8ミリ映画の新しい波’75」である。(来年こそあなたの映画を創りましょう)というコピーも添えてあって、あの頃の熱気を思い出した。そういえば、三越劇場の支配人だった面白いおじさんは今どうしていらっしゃるのだろう。無料の映画会をたくさん開催してくれて、よく通ったものだったが・・・・。

と、しばし追憶にふけってしまったが、時間と記憶の関係というのは本当に不思議だ。「幸せをもとめて」なんて大した映画じゃないのに内容を覚えているし、内容をおぼえていない映画でも、どこで観たかをしっかりと記憶していたりする。それが今は記憶のなかにだけ存在する映画館だったりして、時の流れを痛感してしまった。


MY FAVORITE MOVIES ☆ 6.4〜6.21

シー・オブ・ラブ
妻に捨てられた刑事が、その淋しさを隠そうともせず、彼女の再婚した同僚にからんでみたり、みっともないなあと最初のうちは思っていたんだけど、すごく老けてしまったアル・パチーノが好演していてだんだん感情移入してしまう。で、その孤独感が身にしみて、殺人犯かもしれない女に夢中になっても納得してしまうし、最後は素直によかったねと思える。結論をいうと、なかなか面白かったのだが、シングルの男女が雑誌に広告を出して相手を捜すという話、ちょっとコワイ。結婚めあての女にセックスだけがめあての男、それにシングルでないヤツもいたりして、いろいろ複雑。家庭に恵まれた刑事までがついフラフラと浮気するところなんてホントにコワイ。みんな孤独な大都会か・・・・。自分もそのひとりなのかもしれないけど、あまり実感はないなあ。日本とアメリカの違いなのかな。謎の女、エレン・バーキンは気持ち悪いぐらいセクシーなんだけれど、グシャグシャの笑い顔がなんとも可愛くて好きだった。

霧の中の風景
本当は存在しない父を求めて旅に出た姉弟。見知らぬ街の路上で瀕死の馬を見て泣きじゃくる弟の姿に、「世の中ってひどいよ」という「ルーカスの初恋メモリー」のなかのセリフを思い出した。そしてこの姉弟は私たち自身なのだと思った。人生のなかでよるべなく漂う人間の象徴なのだと・・・・。善と悪のあいだで揺れ動く人々のなかで、姉はさまざなま経験をする。暴行、恋する想い、それがかなわぬ切なさ、別れ。そうして少女期を脱した姉は生きる不安を知り、それをつぶらな瞳で見つめつづけていた弟は頼りない幼年時代を抜け出る。そして最後に辿りついた一本の樹。霧の向うに浮かびあがったあの一本の樹はどのようにもとれるけれど、私はやはり希望の象徴なのだと思いたい。この茫漠とした人生においても、なお抱くべき希望は存在するのだと・・・・。「カモメさん」という気狂いや美しい曲を奏でる物乞いのバイオリン弾き、そこには人生の美の結晶とでもいうべきものが存在しており、その美に感応しているかのごとき弟に心打たれた。そして、ゆったりとしたペースで展開されるひとつひとつのシーンが美しくて哀しくて、容易に忘れられない作品である。

バック・トゥ・ザ・フューチャー3
Part2はストーリーが複雑でついてゆけなかったのだが、Part3はまたラストに向かって一直線でなかなか爽快。それに西部劇というのが最高。ラスト・ウェスタン・ヒーロー、クリント・イーストウッドに敬意を表しているし、イーストウッド映画でおなじみのマット・クラークがバーテンの役なのもうれしい(酒場にたむろする老人三人組もどこかで見たような・・・・)。そして、ドクの突然の恋とその結末(歳のせいか、この恋にときめいてしまった)とか、短気なマーティの成長とか、「未来は自分の手で築くもの」という結論が、単純といえば単純だけど、いかにもスピルバーグ映画! で好き。馬と汽車の追っかけシーンもすごいし、こうなるとPart2の不出来が惜しまれる。

小さな泥棒
主人公の十六歳の少女は親に捨てられた子供。現実のなかに自分の居場所が見つけられなくて、映画館で夢を見ているという設定だけで切なくなってしまった。充たされない自分をもてあますかのように、大人の女のふりをしたり、万引きを繰り返したり、その裏にある飢えが切ない。映画館で知り合った年上の男との恋を続けながら、自分とよく似た男の子とも恋をする。叔父さんの窮地を救うために小型オルガンを盗み、若い恋人を救うために奉公先から金品を盗む。モラルなど縁がないかのようなこの少女は、しかし意地悪ではない。ラスト、強欲な闇堕胎婦からカメラを取り返し、お腹の赤ちゃんとともに旅立つ少女に涙があふれた。カメラは心を許しあった少女(ふたつの恋よりこの友情のほうが心に響く)がくれたもの。赤ちゃんは若い恋人とのあいだにできた子供。ひとつの決意とふたつの思い出だけを抱いて、少女は出発したのだ。主人公を演じるシャルロット・ゲンズブールはその存在じたいがあやうい感じで切ない。

ブレイズ
「本当に強い男は強い女を求める」、「いくつになっても男には子供の部分があり、いくつであっても女には母親の部分がある」というのは、私のひそかな持論なのだが、それがふたつともこの映画のテーマでもあって、まさに私の好みだった。歌手を夢見て山の中から都会に出てきた女の子が、悪い男にだまされてストリッパーになるいきさつがおもしろい。時は朝鮮戦争の真っ只中、「祖国のために一肌脱いでくれよ」という男の言葉にのせられて(お人好し!)服を脱ぐと男たちが大喝采。「愛を感じたの」とその商売を続けるブレイズ。しかし裸になっても心は一本気。鼻っ柱が強くて金で買われたりはしない。そこが気に入って惚れこむのが現職の州知事。悪態をつきまくる八方破れの、しかし貧乏人の味方でもある革新的なアール・K・ロングとブレイズ・スターは似たものどうし。どちらも真っ直ぐなところがあり、何があっても自分の信念は曲げないところに大共感! ポール・ニューマンの元気いっぱいのフケ役が魅力的だし、ブレイズの堂々たる母性も素敵。「つかのまの恋はスキャンダルだが、死ぬまで燃えれば伝説になる」という宣伝コピーもいい。持続は力だ。

サラーム・ボンベイ!
インドのストリート・チルドレンの映画というので、シアトルのストリート・チルドレンを記録した「子供たちをよろしく」(秀作!)のようなドキュメンタリーだと思っていたのだが、これは劇映画だった。類型的なところもあり傑作とはいえないのだが、どこか心ひかれるところがある。主人公のクリシュナをはじめとする子供たち、それに麻薬の売人、売春婦とそのヒモといった登場人物たちが、最下層の生活を営んでいても、どことなく威厳があって不思議な感じ。で、「神々の戯れ」などという言葉を思い浮かべたりもした。アメリカの子供たちは家庭崩壊の犠牲者(つまり、社会の矛盾のしわ寄せ)という面が強くて痛々しかったが、誰もが貧乏な国、インドの子供たちは元気いっぱいで明るくて、自分の置かれた環境の悲惨さを意識していないところがある。さらに映画の作り手も元気いっぱいで、それが伝わってくるのがうれしい。


あとがき 数年前に小劇場のお芝居に凝ったことがあったけれど、何かと制約の多い小劇場鑑賞は「楽したい性格」の私には不向きで、いつのまにか遠ざかってしまった。でも、やはり心ひかれるのが新宿梁山泊。今年も6月9日、中之島公園でのテント公演、「人魚伝説」を観に行った。大雨だったので迷いに迷ったすえ出かけたのだが、やっぱり大満足(超満員の桟敷席で足は痛かったけれど)。台本の鄭義信、演出の金盾進など在日韓国人の多い劇団なのだが、私の深層に眠る日本的抒情をよびさますところがある(去年の「千年の孤独」は特にそう)。台湾の侯孝賢の映画にもそういうところがあるし、人の想いに国境はないのだ、とつくづく思う。



HOME INDEX