六月(1997.7)

給我

君がいなければどの夜も まるで火の上の蟻も同然
こんな風に僕の心を這い回り 頭を空っぽにさせちまう

そんなにつれなくしちゃだめさ 僕からどれだけの歓びを奪うんだ
君が答えてくれないのが恐い 人生の意味がなくなってしまうから

僕は君にうなずいてほしい この世の男はみんな愚かだって
ただ僕の愛情だけが特別で 差し出すものは心だけじゃない
僕は君に分かってほしい 君は僕の家屋敷さえ奪ってもいい
君には簡単に分かるだろ 僕は同情に満ちたキスがほしいだけ

君がいなければどの朝も 薄着で氷山にぶち当たったも同然
君は僕のこのか弱い胸に 真情という刃を突き刺すんだ

そんなにつれなくしちゃだめさ 僕の歓びをすべて奪ってしまうのか
君が答えてくれないのが恐い 人生の意味がなくなってしまうから

僕は君にうなずいてほしい この世の男はみんな馬鹿だって
ただ僕だけが最上級に勇敢で 火のように熱い胸を捧げている
僕は君に分かってほしい 君は僕の Pu Pu さえ奪ってもいい
君には簡単に分かるだろ 僕は火のように熱いキスがほしいだけ

BeSaMe 力をこめて与えてくれよ
(女)たとえあなたが毎日待っていても
(男)君がほしい明日なんていらない
BeSaMe BeSaMe Mucho
(女)たとえあなたが何をくれても
(男)最後の頼みをかなえてくれよ

Vivien's note :
「本当にカッコいい男というのは、自分を笑い者にできる男である」というのは、Vivien の持論のひとつなのですが、Mr.Mucho がカッコいいかどうかは、決めかねるところがありますね。では、陳昇は? うん、文句なしに本当にカッコいい。ためらうことなく自分を笑い者にする、あのユーモア感覚、Vivien は心から愛しております。ただし、時にサービス過剰で(あるいは単に調子に乗って)、下品になり過ぎるのが困る。自分は大明星だということを忘れないでほしいわ(笑)。

Pu Pu : 自動車



Mushroom

僕にはちょっと悩みがある 共感してくれる人を探し出せない
君は僕とは違うみたいだ 内心空虚を感じたりはしないのかい
この都会では冬夏晴雨にかかわらず 誰もが人喰いゲームに忙しい
路で魂のない死体が跳ね回っても 君は死ぬほど驚きはしない

故郷は風雨の中で泣き 一角獣は今も草山で笑い戯れている
Mushroom you can not eat
どうして愛情というゲームに興じないんだ
君の血走った目を見てみろよ 少し睡眠をとりたいだけだろ
幸福のキノコをやりたくないか どうせもう君は世紀の毒に当たっている

Hey Gentleman Gentleman You've better listen to me
どうして心の窓を開けようとしないんだ
窓の外にある青い海が君を自由に飛び回らせてくれる
(窓の外にある青い星空が君を自由に飛び回らせてくれる)
(窓の外にある青い海が君を歩き回らせてくれる)

悩みが大きくなる 僕の悩みが大きくなる
足を停めることもできず 行き場所さえもはっきりしない
こんなのは気に入らないが 見たところびくともしない
悪魔のような足取りで 毒を流したのはいったい誰だ

阿片館には恥知らずがいて 大スターは男か女か分からない
Mushroom you can not eat
どうして愛情というゲームに興じないんだ
この世界はもう性別も分けられず 聡明なだけではやり過ごせない
崇高なキノコをやりたくないか 他人より偉くなれると保証つきさ

誰もがゴキブリと共棲し 自分が流行の手先だと自覚している
唐朝ははるか昔の年代で 丹を練った李白とは知り合えない
二十世紀に生きるってことは本当にどうしようもないことだ
歌を歌える鯨だってすぐにいなくなるだろう
快楽のキノコを僕にくれ
Mushroom too dangerous you can not eat



候鳥

もし心までも盲目だとしたら 来た路を捜し出すことなどできはしない
帰航の燈火は次第に朧気になってしまったが 秋はものを思う季節

あそこが僕のよく知っている路 今でも待つ人はいるだろうか
忘れ去った少年の時間 偶然巡り逢った喜びが
記憶の中に埋もれている

もしかしたら僕はあまりに自分勝手だったのかもしれない
もしかしたら僕は浮雲を愛してしまったのかもしれない
傷だらけの身体とぼろぼろのリュックを見ても
君はなおもそばに寄り添わせてくれるだろうか

今度会っても 僕が誰かなんて聞かないで
僕は風の中で路に迷ってしまったんだ
どうやって昨日を葬ったのかは聞かないで
僕が恐れているのはこの人生でもう二度と会えないこと

この温かい腕の中で君を眠らせるために
砂だらけの羽でできた衣を脱ぎ捨てよう
ただ君のために美しい「勿忘草」を捜し出したい
この人生でそれを見つけられないのが恐いだけ

僕の造り上げた花園で君を眠らせるために
雪花の舞い落ちる草原にも行った
ただ君のために美しい「勿忘草」を捜し出したい
この人生でそれを見つけられないのが恐いだけ

今度会っても 僕が誰かなんて聞かないで
もしかしたら二度と会えないのかもしれない
だけどこうして飛翔を続け夢の中の花園に辿り着いた
ものを思う季節の中で
ごらんこんなに疲れ果てたこの渡り鳥は
必死でもがきながら君のそばに帰り着いたんだ

Vivien's note :
この「候鳥」から「旅程」、「路口」と続く三曲は、メロディ・ラインも美しく、詞もロマンティック。このアルバムの聴かせどころではないでしょうか。なかでも、「男の流浪する魂」を「渡り鳥」に例えた、この曲が Vivien の大のお気に入り。「君が僕を忘れられなくなるような美しいものを捜し出したい。恐いのはそれを見つけられないことだけ」なんて、陳昇の愛の伝え方は浪漫極了!

勿忘草(わすれなぐさ) : 原詞では「勿忘我」(僕を忘れないで)



旅程

雨の夜に窓の扉に寄り掛かり 日記を開いて昨日へ向かう
思い出は苦いコーヒーのよう 心の中でそっと絡みあって動いている
君はまるで動きの定まらない風 そして僕は風が起こるのを待っている雁
微風を受けながら空を夢見ても 風の中にいるのは僕だけではないのかも

僕は疑いに満ちた足どりで 雨と霧の中を歩いて来た
今僕らには分かっているのだろうか 歳月は待つことを望まないと
時間の中に埋もれたもの以外は あまりに寂しくて悲しく見える
だけど僕らが失ったのは果たして笑顔だけなのだろうか

君の面影が逆にますますはっきりして来るから もう心の中に君を住まわせることはできないと分かる
君みたいな人を一生かけて待っていたけれど 実際には僕は今まで後悔したこともなかった

君は白い雲に乗り僕の心の中に飛んできた 僕には今やっと分かる
最初なぜ君が承諾しようとしなかったのか
承諾された愛以外は あまりに寂しくて悲しく見える
だけど僕が失ったのは果たして歳月だけなのだろうか

君の面影が逆にますますはっきりして来るから もう心の中に君を住まわせることはできないと決める
君みたいな人を一生かけて待っていたけれど 僕は今まで後悔したこともないと君には分かるだろう

終わりにするのかしないのか 真夜中にそっと溜息をつく
終わりにするのか 僕にはできない君をひとりで真夜中に泣かせるなんて

君は言った 僕はひとりで寂しさを忍ぶのが好きなのだと
日記を開いて昨日へ向かう 思い出は苦いコーヒーのよう
なすすべもなく僕は思い出の中に包まれて行く

Vivien's note :
生命はきっと一本の線、互いに合い交わるのはほんの暫しの間だけ。ある人は言う。宇宙には果てがない、ちょうど生命に理由がないように。だから、僕は今をしっかりとこの手に掴み、君をしっかりとこの手に掴まえよう。(by 陳昇)

Vivien の大好きな村上春樹を連想させる言葉。このふたりには幾分共通するところがあると思うのですが、如何?



路口

月下美人が夜綻び開いて行く 静かに訴えかけるように
夜になると突然何かを思い出す
忘れることが必要なこと 過ぎ行く宿命と慣れるべきこと
生命はもう少年のように心を奪われたりはしない

君と僕は入り組んだ十字路で出会い
君がどの方向へ行くのか尋ねるのを忘れてしまった
いつか僕は空一杯の太陽を手に入れるかもしれない
しかし今はいつものように暗い夜に目覚めるだけ

*雁ははるかな北方へ帰って行った
  君の顔(名前)をもう思い出せない
  訳は聞かないで 生命は待ってくれないのだから
  (時間もまた引き留めることはできない)
  夕陽が海に沈み 今日に別れを告げる
  君の名前をもう思い出せない
  僕を責めないで 生命は待ってくれないのだから

花が夜歌を歌えば思い出すのは昨日だけではない
それはおそらくその旋律の中に君がいるから
僕には立派な信仰はないが 頭の中には美しいヴィジョンがある
しかし生命という歌の中 やがては何もかもなくなってしまう

人生がいかに短くとも 僕は恐くはない
しかしすべてがいつかは必ず空に帰すことが恐い
時間という河は ゆうゆうと歌いながら
今日という日に別れを告げても悔いることを知らない(Repeat*)

君が記憶の中を通り過ぎて行った
歳月は寂寥でも 君がいたから喜びがあった
僕がなぜ涙を流しているのか聞かないでくれ
君の涙ははるか遠くにある星の光
しかし寒い夜そっと僕を眠りから呼び覚ます
訳は聞かないで 後戻りはできないのだから
(Repeat*)

Vivien's note :
男の子が歌をいっぱい書いて、僕に歌えと迫るんだ。男は「いいのが出来てから、持って来いよ!」といつも腹を立てた。彼はそれでも書き続ける・・・・・。それであんな歌が出来て、男を驚かせたというわけだ。男の子はこうも言った。「歌詞は自分で書くのが決まりでしょ!」。男は一年かけて、やっと詞を書き上げたんだ。しぶといやっちゃで〜、ほんまに。(by 陳昇)

ご存知、金城武作曲、陳昇作詞の師弟愛の結晶。



老嬉皮

異郷の真夜中見知らぬ街角を行けば
あなたはうつむいて微笑みながら話す
ブロードウェイは旅人の気持ちなんて分かってくれない
帰った方がいいんだ 何年もいたらな

素晴らしい天国を探し出したいって
そんなとこに行けるのは渡り鳥だけさ
心の底に隠したラブソングを繰り返し歌い続けて
顔に降り積もった風霜を忘れるだけ

道に迷った渡り鳥は 我慢できずに叫んでしまう
僕はへこたれない
Don't wanna go home

New York city's just not my home town
そんなとこ旅人だけが行けばいいのさ
心の底に隠したラブソングを繰り返し歌い続けて
西風の中に紛れ込んで行くだけ

異郷の真夜中見知らぬ街角を行けば
I want a hug
I wanna go home

あなたが話してくれた半生の道のりを疑ってはみても
やはり夢は酔っ払いのようにバワリー街に転がっている
だけど幼稚な僕は気づくべきだった
あなたは本場の炒河粉を食べたかっただけなんだと

異郷の真夜中見知らぬ街角を行けば
I want a hug
I wanna go home

Vivien's note :
老嬉皮(老ヒッピー)は作家で、張艾嘉(シルヴィア・チャン)の叔父さんだそうです。



六月

六月の気持ちは夏が来る前のよう 晴れていても小雨が降り出す
さっと現れ急に消える 少女の憂いに満ちた気分
六月の単純な心に どんな物語が隠れているか当ててごらん
忘れられないあの男の子 そして頬に生えていた無精ひげ

Oh〜 Oh〜 悲しくても泣いちゃだめ
Oh〜 Oh〜 独りぼっちでも負けないわ
魚座生まれの女の子は 他人の誤りを責めたりはしない

六月の気持ちは春の後のよう 悲しみの中に小さな苦しみがある
過ぎた日の恋情 つまずいたのは自分なのだから泣きはしない

六月は愛らしい笑顔を浮かべて言う 「私は幸せなお魚なのよ」
果てしない人の海を泳いでいる男の子 君にどうして分かるだろう

Oh〜 Oh〜 悲しくても泣いちゃだめ
Oh〜 Oh〜 独りぼっちでも負けないわ
夢見がちな女の子は 他人の誤りを責めたりはしない

君の面影を忘れたくないから 夏が来ると六月はまた海辺に行った
だけど気づかなきゃ 君を愛したら苦労する だって晴れたり雨が降ったり
愛情から抜け出せないなんてバカだよ 髪型だってずっと同じじゃだめだろ
別れても傷ついたりしないって気づかなきゃ 彼を忘れるのが心残りなだけ

Oh〜 Oh〜 彼の胸の中で泣きたいけれど
Oh〜 Oh〜 彼がいなくても本当に平気よ
夢見がちな女の子は 他人の誤りを責めたりはしない

君の面影を忘れたくないから 夏が来ると六月はまた海辺に行った
だけど気づかなきゃ 君を愛したら苦労する だって晴れたり雨が降ったり
愛情から抜け出せないなんてバカだよ 髪型だってずっと同じじゃだめだろ
別れても傷ついたりしないって気づかなきゃ 彼を忘れることに決めるんだ

Oh〜 Oh〜 彼の胸の中で泣きたいけれど
Oh〜 Oh〜 彼がいなくても本当に平気よ
夢見がちな女の子は 他人の誤りを責めたりはしない

Oh〜 Oh〜 悲しくても泣いちゃだめ
Oh〜 Oh〜 独りぼっちでも負けないわ
Oh〜 Oh〜 彼の胸の中で泣きたいけれど
Oh〜 Oh〜 彼がいなくても本当に平気よ

Vivien's note :
映画「Jam」に主演したジューン・ツァイがモデルの曲。失恋した女の子を励ます、陳昇の優しい眼差し、温かい歌声が心に響きます。実は、この年の前半、かなり落ち込んでいた Vivien 。それは自分個人のことではなく、もっと漠然とした悲しみだったので、それに対する無力感も大きかったのですが、この陳昇の声に癒された部分がありました。Walkman でその声を聴き、涙を流しながら歩いていたことが思い出されます。今、思い返すと、かなり異様な光景ですが(笑)。



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