貪婪之歌(1990.9)

然而

ついに 落胆しながら老いて行く
だが君の心の底に僕の名前はないままに

だけど君は永遠に知ることはない 僕がどれほど喜んでいたか
朝になって 君が僕のそばにいると気づく時
だけど君は永遠に知ることはない 僕がどれほど悲しんでいるか
夜になっても もう君のそばにいられることはないのだから

その髪が白髪まじりになる頃
君はまだ僕のことをはっきり覚えているだろうか
僕はどうしても君に言いたいことがある
遠く離れた場所で君を待っていても
君はもう二度と悲しむことはないと分かっている
I want you freedom. Like a bird

だけど君は永遠に知ることはない 僕がどれほど喜んでいたか
君がいたから 待つことでさえ温かいものに変わった
だけど君は永遠に知ることはない 僕がどれほど悲しんでいるか
君の心の中では 僕はやはり名もない存在なのだから

その髪が白髪まじりになる頃
君はまだ僕のことをはっきり覚えているだろうか
僕はどうしても君に言いたいことがある
遠く離れた場所で君を待っていても
君はもう二度と悲しむことはないと分かっている
I want you freedom. Like a bird

Vivien's note :
このアルバムは「私奔」と同時に手に入れたので、実は長い間放り出されていました。一度聴いた印象はとても良かったのですが、そのあとに聴いたさらに素晴らしい「私奔」に、半年ほど夢中になっていたのでした。その後、じっくり聴くことになったわけですが、このアルバムも大好きです。暗くて重いけれど、その暗さ、重さが Vivien には心地よかったりします。特に「これを言い終わらないうちは、安心できないんだ」と言わんばかりに、早口で歌われる歌詞が、生硬ではあるけれど心に響きます。

振り返ってみれば、このアルバムと「私奔」は一つの物事の裏と表という気もします。このアルバムがあったからこそ、大傑作「私奔」が生まれたのだ、といってもよいのではないでしょうか。



貪婪之歌

長い間、僕はただここへ行ったり、あそこへ行ったり・・・
山を見、海を見ても、臆病な自分を改めることは出来なかった
そして疑いや不安を呼び起こすあの巨獣が徐々に姿を現し―
そこで、僕はまたあの笑い者にされた夢見る騎士にならい、
老馬を引き、筆を握り彼のあとを追って行く・・・

もし山が歳月とともに崩れてしまうなら
子供たちは知ることが出来ない 何が確固たるものなのか
もし海の水が涸れ果ててしまうなら
詩人は感じることが出来ない 何が優しいものなのか
もし雲が飛び去ってしまうなら
渡り鳥は何に乗って温暖な故郷に帰り着くのだろう
もし星が空から落ちてしまうなら
母親はすぐに楽しい伝説を忘れてしまうだろう

耳にしたのはただ
命懸けで腐り切った権力の山に這い上がろうという話
目にしたことがないのは
足を止めて頭を垂れ傷ついた土地に口づけする人
目に入るのはただ
血眼になった得体の知れない狂った霊魂の群れ
貪婪の歌の中には忍ばせることなど出来はしない
寛容に満ちた言葉はただのひとつも
子供たちが大きく目を見開き手を取ってくれと頼んでも
母親は頭を振って逃れ善良な物語は語り尽くしたと答える

目隠しされて君には見えない
子供たちと土地の渇望する心情が
耳を塞がれ君には聞こえない
子供たちと土地の悲しみに泣き叫ぶ声が

自分に尋ねてみる
傷ついた土地を力を込めて抱擁する勇気があるのかと
自分に尋ねてみる
母親の前に跪き涸渇した乳水を吸い出そうとする真心が必要なのかと



夜奔

行方の定まらない悩み、肯定できない答
そして背中に負っている家と国の重責
生意気な少年時代に別れを告げる時
それらは一斉に宣言してくれるだろうか
解散と

大きな志を抱き満身に酒気を帯び
夢現の中でもかすかな声が聞こえて来る
ほんの少しの悲しみと十分な寂しさへと滑走しながら
窓外に目をやれば
燈火が流星のように留まることなく移ろって行く
胸の中には確かに南中国一の救いようのない楽観主義
そして分かってくれる人は少ないけれど
完全に錆ついてしまうことを良しとしない心

煙草に火をつけ思い煩うのはよそう
力を奮って自分自身を目覚めさせるのだ 自己の覚醒
故郷への思いはもう問題ではない
今の僕に必要なのは生意気な少年時代に別れを告げ
すぐにも無邪気さから遠ざかること
中国の問題はあまりに大きく
人生の問題は比較すればあまりに小さいと思う
誰も学ぶことなど出来はしない
どうすれば権威の影から逃れられるのか
権威の声はあまりに大きく
個人の声は比較すればあまりに小さいと思う
そこで相も変わらず愚かに興じることになる
明日を歌い上げるという遊戯に

どうしても必要なのは真理を疑うこと
彼は英雄的な人物であると君はなぜ言うのか
絶対英雄のはずだなんて
王宮をうろついている一頭の豚のように
自分の身体に染みついた腐臭を忘れ
でたらめな想像に溺れているというのに

腐った性根を改め
浪漫の心を失うことなく 大都会に歩み入ろう
世の中を渡って行くのは容易ではないが
まだよく理解できない道理があることを知っている
しばらくは黙っていてくれ

今の僕にはもう躊躇うことなど出来はしない
なぜなら心の中に領袖たらんと欲する志だけではなく
そのうえ自分というものを抱えているのだから
教科書の中の疑うことを許さない偉大な事跡
十二歳の思春期のように愛に焦がれる心情
それらはすべて次第に遠ざかって行く

大きな志を抱き満身に酒気を帯び
夢現の中でもかすかな声が聞こえて来る
ほんの少しの悲しみと十分な寂しさへと滑走しながら
窓外に目をやれば
燈火が流星のように留まることなく移ろって行く
胸の中には確かに南中国一の救いようのない楽観主義
そして分かってくれる人は少ないけれど
完全に錆ついてしまうことを良しとしない心

煙草に火をつけ自分を鼓舞しよう
社会はすでに無法にはびこる腕を展げ
粗暴に僕を抱き締めている
故郷への思いはもう問題ではない
今の僕に必要なのは生意気な少年時代に別れを告げ
すぐにも無邪気さから遠ざかること

Vivien's note :
夜汽車で都会へと旅立つ陳昇の胸をよぎる思い。期待や意気込み、そして社会に対する潔癖な批判など、青年の心の瑞々しさが、感傷を交えずに描き出されて、Vivien の胸をも熱くします。

生意気な少年時代 : 原詞では「惨緑」ですが、「惨緑少年 : 風度翩翩、意気風発的青年才俊」として解釈しました。



馬蘭枯娘

君を見ていると 君は敏感に視線から身をそらし
心の中に壁を築いてしまう 一枚の厚い壁を
人の群れを遠く離れた場所へと自分を遠ざける
最も信頼しているあの猫とともに

君は自分のために特殊な記憶を作り出したいようだ
現代の女の子が背負っているはずの伝統は
簡単に忘れられると君は言う
明るい毛の猫を飼い親密な名前を付けてはいても
昨日の夜一緒に散歩した男の子の呼び名は
いつだって覚えようともしない
ついに僕は知ることになるはずだ
個性のない都市に住んでいる特別な女の子を
出会いの歓びも別れの悲しみもすべて拒絶し
ただひとりで生きることを望んでいる
とても静かな場所に

秋は恋人を取替える季節だと誰もが言いたがるけれど
君は言う 私に必要な男性はこの社会では見つけられない
一週間借りていたビデオと萎れた野薑花を取り替えて
鳴らない電話を眺めながら思案する
夜中に私の話に付き合ってくれる人がいるかしら

Sherry 君がどうしても全世界の招きを拒むというなら
今夜君の綺麗な夢の中に僕を優しく迎え入れてくれないか
Kill me 悲しみの涙が溢れている瞳で心を奪ってくれ
僕は君のためにハモニカを吹きながら
枕元で優しく君の名前を呼んであげる

一晩中ぶらぶらしてきっと弛んでしまった靴紐をほどき
鏡の中の自分を眺め
夜中に不意に鳴り出して止まらない電話を眺めながら
嫌な男のことは忘れてしまう 野薑花を取り替えるように
そして「我愛 Ni 」という名の猫を抱きながら心を決める
今夜は人間とは話をしないわ

Sherry 君がどうしても全世界の招きを拒むというなら
今夜君の綺麗な夢の中に僕を優しく迎え入れてくれないか
Kill me 悲しみの涙が溢れている瞳で心を奪ってくれ
僕は君のためにハモニカを吹きながら
枕元で優しく君の名前を呼んであげる
Sherry

Vivien's note :
実は Vivien には Sherry 的な部分が多分にあります。猫は飼ってないけど。陳昇はどうもこういうタイプの女の子が好きみたいですよね。ということは、陳昇は Vivien が好き! どこか間違ってますかあ(笑)。



脱軌

誘惑は必ず生活のどんな片隅にも充満している
僕にはいつも聞こえている
片隅で理知と欲望のせめぎ合っている音が

疑問なのは自分が本当に問題にしているのかということ
問題は自分がまともな人間になっているかどうか
まともな人間ならどんな状況にも持ちこたえられるはず
持ちこたえて震えながらも取ろうとはしない妥協の歩み
歩み辿っているのはまるで革命のような試み
動物はいつまで圧力に耐えられるのかという試み
圧力はいつまで続くのだろう

我慢しているのはこの都市が僕にあげる喚き声
喚き声の中に溢れているのは誘惑
誘惑は必ず充満している生活のどんな片隅にも
片隅で日夜繰り返されている音
音が常に動揺させる僕の確信
自分は純真な歩みを迷い乱さないという確信
震えている僕の歩み

軌道を外れた列車に乗って
貪婪な場所へとやって来た
僕が住処にしたのは誘惑の都市
ここには満ち足りた住人はいない

軌道を外れた列車に乗って
貪婪な場所へとやって来た
僕が住処にしたのは誘惑の都市
ここには満ち足りた住人はいない
軌道を外れた列車に乗って
貪婪な場所へとやって来た
もし君が純朴な町を通りかかったら
どうか優しく僕に呼びかけてくれ

Vivien's note :
この歌詞、原詞では行の終わりの言葉が、次の行の頭に来るというしりとりになっているんですね。中国語ならではの面白い試みですが、日本語にするには苦労しました。



半生情

僕は君に分かって欲しい
たとえ僕のような年齢の男であっても
外見からは窺えない弱さや悲しみを必ず抱えており
どんな事にも耐えられるわけではないということを

君はまるで物の分からない子供のようだ
過ちを犯したことに気づかないまま
僕の心の中に鍵をかけ
しかし背中を向けて行ってしまった
僕に耐えられるか尋ねることもなく
だからこうして夢中で待っていたんだ
君が大人になるのを待っていたら
身体中傷だらけになり
泣きながら戻ってきて僕に言う
閉じ込めておいた昨日に帰りたくて来たのだと

想像してるような強さなんてない
半生も待ち続けられる強さなんて
悔恨のない牢獄を守り続けてはいても
そこには憂いがしみついている
僕は君の口から言ってほしい
僕の心の中の鍵をはずしてあげると
この憂愁を抱えながら
歳月とともに老いて行くのを止めてくれ

君と離れてから僕はどれだけ悲しんできたか
それだけでは足りずに
君は身体中傷だらけになり
泣きながら戻って来て僕に言うんだ
閉じ込めておいた夢の中に帰りたくて来たのだと

想像してるような強さなんてない
半生も待ち続けられる強さなんて
悔恨のない牢獄を守り続けてはいても
そこには憂いがしみついている
僕は君の口から言ってほしい
僕の心の中の鍵をはずしてあげると
この憂愁を抱えながら
歳月とともに老いて行くのを止めてくれ



憤怒與童女之舞

この都市に住む人間の中で
孤独でない者は少ない
もしある種の声にならない言葉があれば
夢を捜す者にしか聞き取れないのではないだろうか
いつも 僕はこんな風に問いかけている
――僕の仲間の「幼子」に

言い争いたくはない
永遠に同じ結末が待っているのだから
声をあげて泣き始める
自分との眠ることのない抗争を停止して
Someone's gonna missing you
それは君が子供だからだ
誰も知りはしない
憤怒を抱き締めながら無防備に踊るしかないことを

言葉にしたことはない 許されはしないという感覚を
絶えず傷つきながら 理知と欲望の衝突を忘れ去る
激しい感情はすでに散り果て
残されたのは甘く色褪せた逃れ難いという思い
ひとりきりになった時 身の程を忘れそれを噛み締める
Do you wanna dance ? Lady, Shall we dance ?
僕はすでにあなたを愛してしまった
狂気と憤怒のステップを

ある種の声にならない言葉がある
夢を捜している者だけが互いに聞き取ることができる
涙の跡がいっぱいの両目を閉じて
ただ心を静め一心に耳を傾けさえすれば

坊や疲れたのかい そっと身体を横たえればよい
窓の外の明日を 君は誰が気にすると思っているの
暗い夜が恐いと君は言う
だから僕たちは暗黒の果てに向って逃げる
盲目の飛翔を心のままに続け
時間さえ停滞している場所に身を隠そう
沸き上がる憤怒を抱きながら
望むのは君がついに理解すること
天使はすでに僕たちを見捨てたのだと
(恐れなどない場所)

Vivien's note :
このアルバムの中で一番好きな曲。歌詞は幾分、観念的ではありますが、陳昇の言いたいことを、Vivien は完全に理解できます。陳昇と Vivien は同じ種類の人間だから・・・・・。



小王子

僕の心は
名も知らぬ場所で座礁し動けなくなることがよくある
純粋で澄んだ波音が響いている場所で・・・・・
時には思い出すこともあるだろう
社会への適応力を欠いた傷だらけのあの友を
殆どいつも 彼は自分だけの世界に閉じこもっている

君はもうひとつの世界から来た人なのだろうか
どうして瞳だけでものを言おうとするの
生まれたばかりの綿羊のように柔弱で
望んでいるのはただ優しい頼れる両肩だけ

こんなこと他人に話すことなどできないよ
君は僕のあげたものを何もかも拒絶したのに
ただ広々とした海が見えたというだけで
興奮して海の神に酒を祭ろうとしたなんて
そのうえ高い声で叫んだんだ
「海の神様 どうか早く出て来て」

僕を置いて行かないで ゆっくり歩いて
幼子よ しばらくは泣くのをよそう
路はまだ遥かに遠く険しいのだから



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