魚説(2005.10)


魚丸


明日の天気は晴れだろう 魚たちが目覚めることを信じて
若い彼は船出を急ぐ 星がきらきら輝き始める

男の子たちはすでに成長し 村を照らす小さな太陽
女の子たちは三色すみれのよう 鮮やかな紅に燃える緑に

昨日はそんな風 今日もそんな風 草原に風が吹いている
今日はそんな風 明日もそんな風 草原一面に開く花

思い出はそんなに多くはない そこにいるのは僕と君だけ
絶対にだめだよ 僕を魚丸のように他の記憶と混ぜてしまうなんて

一途な草の茎が担えるのは ただひとつだけの花
一途な愛情が担えるのは ただひとり僕の君だけ

今日はそんな風 明日もそんな風 草原に風が吹いている
明日はそんな風 あさってもそんな風 草原一面に開く花

明日の天気は晴れだろう 路地に漂う夕餉の煙
若い彼は船出を急ぐ ふたりの約束を忘れないで

君は僕の生命を守る燈台 海に霧が出ても恐くはない
網にかかる魚はどれも同じではない 混ぜて魚丸にしてはだめ

明日はそんな風 あさってもそんな風 草原に風が吹いている
あさってはそんな風 毎日がそんな風 一日だって違いはしない

魚丸:魚肉で作っただんご




塔裡的男孩


草原の幼子が言う あの人は変だ 天使が戻らなければだなんて
君は彼に問う 戻って来ればどうなるっていうの 野菊が綻び開くだろう

独り呟きながら彼は路の果てへと向う そこにはただ風が吹き過ぎるだけ
僕が誰かなんて聞かないでくれ 僕は海辺の野菊の花

白い野菊の花には 白い夢があるのだろうか
無色の涙の痕 誰にもはっきり分かるはずはない

そうか君は塔に住む男の子だったのだ 思い出を守り孤独を守る
もう脱け出せると思っていたのに 忘れ去ってしまう前に彼の夢を見る

僕も彼のように変になったのかもしれない 彼の話が分かるなんて
こうして生きて来ても何ということもない いくつかの秋を過ごしただけ

君が秋を追い払ってしまってから もう花は開きはしない
僕は落花のように時の流れるまま いくつかの秋を過ごしただけ

白い鴎には 白い夢があるのだろうか
白い野菊の花 孤独を運命づけられた人なんていない

そうか君は塔に住む男の子だったのだ 思い出を守り孤独を守る
春の野花が風の中で寄り添っても 秋になれば別れを切り出す

そうか僕は塔に住む男だったのだ 深い情を抱いているかと問うてみる
もう脱け出せると思っていたのに 忘れ去ってしまう前に君の夢を見る

もう何年が過ぎたのか聞かないでくれ 我儘な旅人の君よ
こうして生きて来ても何ということもない いくつかの秋を過ごしただけ

君は我儘な人だ だけどいくつかの秋が過ぎただけ




夢河


夢はひとすじの河 僕は河辺に立っている
どんなに僕が叫んでみても 君の耳には届かない

君は身を翻して去り 河辺に姿を隠してしまった
どんなに僕が叫んでみても もうその姿は見えない

風が止んだあとなら もしかしたら聞こえるかも
岸辺で輪になっている河童が ピーピーと言う

河辺の葦草が 風に吹かれて空を飛ぶ
愛し合いたくてもまだ早い 言い終わればしかしすでに老いている

夢はひとすじの河 僕は河辺に立っている
子どもたちが僕のために見てくれる あちらにいるのは誰なのか

夢の中で叫ぼうとすれば 夢の河がじゃまをする
目覚めている時悲しくなるから 夢の中で叫んではいけない

見知らぬ老人が 頭を振りながら言う
彼の心はすでに疲れ果て もう呼び戻すことはできないと

風が止んだあとなら まだ耳に届くかもしれない
目覚めている時悲しくなるから 夢の中で叫んではいけない

河辺の葦草 白髪が空一面に舞う
愛し合いたくてもまだ早い 言い終わればしかしすでに老いている




漠然


時が凝結してしまったかのようだ 僕は広野に独り眠る
想像できない君 その顔に描かれているのは無関心

無関心は残酷、言葉もない 氷点で枯れて萎れてしまう
ただ自然に生まれ自然に滅びる 遊蕩の魂はしかし涙を流している

僕を君の心の底に埋めてくれ 花がなくとも悼むこともない
僕は目覚めることもなく 夢の中の小雪を抱きしめる

無関心は無色、どこまでも無色 情緒もなく融和できる
無関心には終点はない しかし昔に戻れる人もない

ベッドのふちに掛かるレースの縁取り 君の柔らかい美しい曲線
むしろこう信じたい 一夜の激情が長い日中の無言に換わるのだと

こんなに率直に掴まえて放そうとしない ポストモダンの夜に
願いはただ二度と目覚めないこと 夢の中のいつもの場所で約束する

見失われた子よ 君はなぜこんなにも透明なのか
君を愛そうとする人が 君の気持ちを見通せないほどに

見失われた子よ 君はなぜこんなにも無関心なのか
君を愛そうとする人が いつどこにいるのかも見極められなくなるほどに

今まで止んだことのない音楽 誰が悲しんでいるのか気にしたことはない
朝五時から夜九時まで幾つか街を過ぎ 無関心な人が夜帰るのは誰の元

もしかしたら無言こそ承諾の言葉なのかも ポストモダンの夜に
無関心な人は煩わしいのかもしれない 激情の時に生まれた承諾が

見失われた子よ 君はなぜこんなにも透明なのか
君を愛そうとする人が 君の気持ちを見通せないほどに

見失われた子よ 君はなぜこんなにも無関心なのか
君を愛そうとする人が いつもその目に涙を湛えるほどに




HOME PAGE SONGS INDEX