布魯塞爾的浮木


他在1999年9月9日夜裡飛越了阿曼海湾・・・・・・

彼は1999年の9月9日夜、オマーン湾を飛び越えた・・・・・

ドバイは宇宙人が去ったあとに見捨てられた、きらきら光る死の街ででもあるかのように、あたりには幻覚じみた気配が満ちていた。

自分の過去を追い求める、止むことのない追憶から、彼は夢現で目覚める・・・・・。もしかしたら・・・・・「Stop to asking myself・・・・・」、それが自分自身に告げるべき言葉かもしれない。

オマーン湾の油田は夜の大洋にオイルガスの炎をきらめかせていた。


オレンジ色・・・・・オレンジ色の光・・・・それが黒い大洋に不自然に浮かんでいるので、まるで白い日々に浮かんでいる、払いのけられない記憶を思わせ、彼は笑う。「結局、記憶は記憶にすぎない。払いのけねばならない必要でもあるというのか?」

早朝、立ち寄ったパリ。後部座席が荷物で塞がってしまったので、自然に前のドアを開ける。しかし運転手はかたくなに、助手席は「死亡の席」だから、人が座るべきではないと言う・・・・・

それが四十年間捜し求めて、しかし手に入らなかった欠損ででもあるかのように、ドアを開けてその席に乗り込む。

ああ! 死亡の席・・・・・。亡命の徒の旅路についに豊かさがもたらされる。移動するだけの無味乾燥な孤独がついに豊かさを手に入れる・・・・・。

ああ! 死亡の席・・・・・。もしかしたらそれは、亡命の徒に、パリの街頭で、申し分のないピリオドを打たせてくれるかもしれない。



陽光像健素糖

アフリカ人は音の出る玩具を手にして、道行く人に売りつけようとしている・・・・・

肥った白人は信号の前に立ち、しかし前に進もうとする気配はなく、信号はまた青に変わってしまう・・・・・

その日の陽光は美しいほど輝いていた。

その人は Son Morg という小さな村で、西陽に向い、しかし顔一面を涙で濡らしている・・・・・。君はその理由を聞きたいというのか?

もしかしたら千年前に約束した出会いかもしれない・・・・・。道端の一本の木、一棟の家、そして三万フィートの上空にジェット機が描く気道、そして旅人がひとり・・・・・


それは千年ぶりの出会い、あるいは待ち続けた千年・・・・・。彼はそんな感覚を好む。

宿命の出会いなのだ。そのような考えを持っていれば、すべてを一変させることができる。しかし、そう考える者はいない・・・・・

書物にもあるように、自分の行動を決めているのは君自身なのか、それとも君はただあるメカニズムを構成している小さな部品に過ぎないのか?

なぜ、その人は地球を半周し、しかし Son Morg という小さな村で、跪き、涙を流したりしているのか?

その陽光をどのように形容しよう? こんな風に言ってみようか。「陽光はまるで健素糖(訳註:キャンデー状のサプリメント)、甘いものが好きなすべての子供に向って投げ与えられている・・・・・」

その人はこの島である感覚を抱いた。「誰もが他人に関心を持たないという感覚」。「他人に関心を持たない感覚」、「他人から関心を持たれない感覚」である。彼はそれを申し分ないと思う・・・・・

ただ泳ぐために、百キロの道を、車を走らせた。

陽光はまるで健素糖のように、おやつが欲しいすべての子供たちに公平に照りつける・・・・・

ただ他人と陽光を奪い合うために、その人は地球を半周し、この無関心な小さな村にやって来たのだ。

彼はまた忘れてしまった。今日は何曜日なのか・・・・・、そして疑い始める。頭の中の何かに対する愛や憧れさえ、忘れようとしている事柄とともに、ことごとく削除されてしまったのではないか・・・・・

しかし、自分自身に対しても無関心になり始めたことに気づき、だからもう気にしないことにする。

飴が食べたかったのにありつけなかった子供は泣き喚くものだが、陽光はしかし健素糖のように、おやつが欲しいすべての子供に向って公平に照りつけているのだ・・・・・

もしかしたら、その人は、ただ日が落ちる前に、もっと陽光を手に入れたいだけなのかもしれない・・・・・。



ロ阿! 西班牙!

スペイン、僕はあなたをどのように形容すればよいのだろうか?

夜の10:00、無人の小さな町。大通りに向けて開かれた窓に向って、彼は窓辺に座っている。

前菜はトマトブレッド・・・・・

店主は速射砲のように羊のあぶり肉をすすめる。彼がきっと今夜の唯一の客になると思っているようだ。

一杯の酒を注文する。思いがけない成り行きだった。

パルマへはまだ30キロメートルの道のりである。


ここでは、夜の10:00に晩餐を食べることは正常なことなのだ。

「ああ! スペイン・・・・・僕はあなたをどのように形容すればよいのだろうか?」

彼は頭を悩ませる・・・・・

羊の肩肉の大きな塊を齧り終えると、子供の頃・・・・・お祖父ちゃんが作ったような葡萄酒を飲む。酒には陽光に照らされたあとに特有な、香ばしい風味があった。「子供の頃、お祖父ちゃんの酒を盗み飲みしたんだ!」。彼は笑う・・・・・

慇懃な店主が持って来るのは、今夜、その人の飲む何杯目の酒だろうか・・・・・

ただパルマの市街に戻ろうと夜の車を走らせていたのに、この晩餐は9:30から12:00まで続いた・・・・・

この夜の最後の客だった。さらに彼には分かっていた・・・・・自分がこの季節の最後の客でもあると・・・・・

空気の中には秋の気配が漂い始めていた。風が冷たい・・・・・風は確かに日ましに冷たくなって来た・・・・・

あの古い歌に書かれたように、「秋は・・・・・誰かを想う季節・・・・・」

スペイン南方のこの小さな町には、陽光に照らされたあとの匂いが満ちていた。



Three More Days・・・・・・

Manacor という大きな街を通り過ぎる。パルマから来た道は、柔らかいケーキを鋭利なナイフで切り取ったかのように、黄色い岩壁の間に深く落ち窪んでいた。

気候の関係かもしれないが、どこまでも続くオリーブ園には何もなかった。

目的地は Porte cristo という小さな港・・・・・

今日は風が少し冷たくなり、一船分の夢を壊されてしまった(壊されてしまったというわけでもない! 見るのもいやになったのだ・・・・・しかし彼は思う。こんな島の夜見る夢は、やはり船で量るべきではないか・・・・・)。その人は心の中で思案している。これから数日間の旅、どこへ行こう。ショパンが重病に陥った時も、この島で養生したと聞き、笑いながら考える。もしかしたら、これから数日間の旅はじっと足を停め、何もしないかもしれない・・・・・病人のようにゆっくりと痛みを止め、傷を癒すのだ・・・・・


昼頃から霧がかかり、車の窓ガラスに数滴の雨粒が落ちて来た。そうか、この特殊な気持ちは天気のせいだったのだ、と彼は思う・・・・・

しかし、思いがけず(思いがけないことでもない! ここではどんな天気も意外ではないのだから) Porte cristo の小さな町まで来た時、雲は消え失せ・・・・・また光り輝く太陽が見えた・・・・・

風が少し冷たい。ここ数日に比べると、風は少し冷たくなり始めた・・・・・

鍋蓋頭のスペインの子供が埠頭の端に立ち、所在なげに魚を釣っている。時間をつぶそうとしているかのようだ・・・・・

レンタカー店へ行った時、店主の疑わしげな目を眺め、きっぱりと言った。「Three more days」

しかし実際に言いたかったのは、冗談じみた「Three more years」という言葉だった!



西班牙蒼蝿

Porte Cristo はひなびた小さな漁港である。

ひなびた港に、泥臭い観光客。いたるところに青蝿がいる港。友達は言った。

「スペイン青蝿という媚薬があるのを知っているかい?」

「聞いたことはある・・・・・見たことはない・・・・・」

友達は腕に止まった青蝿を眺めながら言う。「これが正真正銘のスペイン青蝿だ・・・・・」

またたまりかねたように言う。「くそっ! こんな国では青蝿でさえ役に立つのか・・・・・」

魚を釣る小童の群れに向って、彼は大笑いし始める。


小童たちは中世の宣教師のような鍋蓋頭である。自分もあんな馬鹿げた頭にしてみようかと彼は思い、微笑み・・・・・微笑みながら、陽光を浴びている。

リーダー格の少年が、ポケットからマルボロを取り出し、他の子供たちに向って見せびらかしている。

のろのろと煙草に火をつけ、慣れてもいない手つきで、小さな子供たちに順に味見をさせる・・・・・

落ち着かない気分になるほど青い空。その何万フィートかの上空に一筋の飛行機雲が描かれて行くが、音は聞こえない・・・・・

彼は思う・・・・・日々の暮らしとはこういうものだ! 起伏があればこそ、日々の暮らしと呼べるはずだ。

彼は陽光を浴びて温まった身体をちょっと動かした・・・・・

心の中には、これからの数日の旅に対して、しかし何の心積もりもない。

思い出は・・・・・船のように去って行った。ちょっといい気味だという気になる・・・・・

思い出について行こうという気持ちなどこれっぽっちも持たずに、無色の大洋に漂っている・・・・・彼は、この島が、ここの人々が、好きなのだ・・・・・

白い家、白い船、白い気持ち・・・・・

これは来た道なのか? それとも行く道なのか・・・・・

彼は忘れてしまう、ここがどこであったかということも・・・・・

何も気にかけずに、そのまま目を細め・・・・・身体を伸ばす。しかし、耳元でわんわんとうなりをあげているのは気味の悪い「スペイン青蝿」なのだ。

( Photos by Vivien )



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