トワイライト 「おはよう、ルーン。今日も仕事?」 宮殿内の会話は、広く大きな部屋に吸い込まれていく。 ルーン18 フィリエル18の春。 ルーンがフィリエルに仕える唯一の騎士だった。 ユーシスもロットもアデイルの騎士として働いているため、ルーン一人が受け持っている。 と・・・言うよりはルーンが一人でいいと言い出したせいでもあった。 『フィリエルは僕が守る』この約束は果たせたのは確かだが、 たった一人の騎士しかつけないフィリエルには好奇の目に晒された。 「フィリエル、今日は礼儀と音楽の教室があるんだろう」 「ええ、そうよ。セルマの礼儀ってどこか古くさいんですもの。それに厳しいし、嫌になるわ」 「仕方ないよ。君は女王継承者なんだから」 ルーンは苦笑いしながらフィリエルをなだめる。宮殿での生活は厳しい。と言うより、息苦しい。 セラフィールドのような大らかさなんてものはひとかけらもないのだ。 それでも、フィリエルが宮廷にとどまろうとしたのは僕の研究が認められないのはおかしいと言い張ったせいだった。 『ルーン私、あなたの研究が公に認められるまでハイラグリオンにいることにしたわ』 『何言い出すだい。君は・・・』 『だって、アストレイア女王殿下・・・お祖母様は3人で決めなさいと言ったもの』 『そう言ったって・・・、君は本当に突発的な行動をするね。別に今までそうしてきたんだから、どうってことはないんだ。博士だってそうだったように』 がたっとフィリエルは椅子から立ちあがってこう言い切った。 『だめ!ルーンの研究が認められなきゃ、女王候補としてあくせく頑張った私の努力は一体どうなるのよ!もうきめたの。私、ハイラグリオンで 博士とルーンの研究を公認してもらえるまでここへ戻らない。』 といういきさつだった。 レアンドラも、アデイルもハイラグリオンへもう既についていた。 「フィリエル、やっぱり来てくれたのね。久しぶりだわ」 「ええ。結構無理矢理だったのだけれど」と ちらとルーンを見た。 「君たちは本当に変わっていないな。今日から女王としての教育が始まるというのに。おや。かわいこちゃんまできていたのか。これはひとつ、宮殿の暮らしも華やかになりそうな予感だな」 と嫌がるルーンをいじめていた。 その夜のことだった。 2人はバルコニーで夜空を眺めていた。 「ルーン、私ね博士がいなくなったときに思い知らされたのよ。アストレイア様は 博士のすることを禁じていたっていうこと。それにルーンも関わっていたこと」 ルーンは無言でしたを向いた。 「でも、いつかはきっと認められるってそう信じていたわ。まだ子供だったから」 「そう・・・」ルーンはフィリエルの横顔をふと見た。 あの時と同じ表情をしていた。博士がいなくなった日の夜。ロウランド家のバルコニーで見たときと。 「でも、今がチャンスなのよ。私はいなくなった博士の志をつぐことはできない。それはルーンの役目だから。私がやらないといけないことは、博士がどこでも好きなことができるようにしてあげたい。私は親不孝な娘だったから」 と苦笑いした。 「ルーンの方がよっぽど博士の子供みた・・・・」 「言っちゃいけない」 ルーンは突然フィリエルの言葉を遮った。 「君は何処にいても、親不孝だとしても博士の子だよ。博士とエディリーンの子。フィリエル・ディーだよ。少なくとも博士は君のことを良くは言っても悪くは言わなかったよ」 「・・・」 今度はフィリエルが無言になる番だった。 「君は、博士の宝だったんだ。博士はその宝を僕に譲ってくれた。大切な研究知識と共に」 「・・・ルーン」 「君を守ることが博士の意志なんだから、僕は君を守る。でも、博士の意志だけじゃなくて、これは自分の意志でもあるんだ」 ルーンの瞳の濃灰色に綺麗な星々が浮かんでいた。 綺麗だと思った。 「風邪ひくから中に入ろう。もう部屋にもどらきゃだめだよ」 「うん・・・でも、もう少しここにいる」 「ルーンのそばにいる」 「もう少しだけだからね」 とルーンはそっとフィリエルを抱きしめた。 細い温かい肩を抱きしめると、とても切なくなった。
|
TOP >>
長編です!第一回目は如何でしたでしょうか?感想等宜しくお願いします。 04/06/21 |