仕事が終わり、部屋に帰ろうとホテルのロビーに上がってきたら、
ククールがソファーに座っていて私は思わず小走りに近づいた。


「ククール!待ってくれてたの?」

「あぁ、お疲れさん。」


なんだか、こんな事言われるのは恥ずかしいなと思いつつ、以外と重労働だった仕事内容を話したわ。


「腹へってるだろ?何か食べて帰るか?」

「あ、ううん、いーの。仕事の後食べる様にお弁当もらったから。」


結構な疲れなのか、何だか早く部屋に帰りたい気分の私に

「そーいや、バニー服はどーしたんだ?」

「え?レンタルだもん、置いてきたよ?」

「ちっ、もったいない・・・・俺の部屋で着てもらおうと思ったのに・・・・・」

なんていつものククール。そしてやっぱりいつもと変わらない反応をしてしまう私。

「ばっ、バカっ!!
 何言ってんのよっっっ!!」



バシッ!!!



「ぜ、ゼシカさん、照れ隠しに本気で攻撃しないで下さい・・・・・」

「あっ!ご、ごめん!

 ・・・・でも、ククールが悪いんだからね?」



他の人の前でバニー服着ててもなんとも思わないのに、コイツの前だとなんだか恥ずかしい気がするのよね。
だから無理矢理ククールのせいにしてしまう。



「そーか?俺は自分の感情に素直なだけだが?」

「それがダメなの!ほら、私ご飯食べるから自分の部屋に戻るわよ!!」


とりあえずこの話を終わらせたくて、スタスタ部屋に歩きだしたわ。
後ろにあきらめた感じのククールがゆっくりついてくる。
何か言ってるようだけど、私は耳に栓をしてひたすら部屋を目指した。





「じゃあ、また明日ね。」

「えっ、ちょっと待て!」

「何?」



やっと自分の部屋で休める、と思った矢先に呼び止められ少し尖った口調になる。



「俺も一緒に入っていい?」

「?どーしたの、突然?」


本当に突然。予想もしなかった台詞にビックリしてしまった。


「いや、最近あんまり二人で話してないなーと。」

「そうかしら?まぁ、いーわよ。どうぞ。」



ククールの意図が分からず、でも表情を見る限り疾しいことを考えてもなさそうなので部屋に入れてあげたの。
とりあえずお腹がすいていたので、食事の準備を始めようと机にお弁当を広げたわ。



「あ、ククールも一緒にお弁当食べる?かなり多めに詰めてくれたの。」

「そーだな、あんまりメシ食べてないしな。」

「そーなの?」

「エイトが実は酒に弱くてさ。メシどころじゃなかったって。まぁ、ヤンガスは普通に食べてたけどな。」

「ヤンガスだからね(笑)」


いつもの他愛ない会話。でも意外な事を耳にし、聞き返してみたわ。


「それにしても、エイトってお酒に弱かったんだ?」

「俺もヤンガスも今日知ったとこ。あの豹変ぶりは見とくべきだが、俺はもうごめんだな。」

「そんなに変わったんだ!見てみたいかも・・・・」


実際私には想像できない。だっていつもニコニコしてて、でもみんなを引っ張っていくしっかり者だもの。


「ゼシカは酒は飲むの?」

「んー飲めなくはないけど、あんまり飲まないかな?」

「ククールはやっぱり好きなの?」

「まぁ、モノによるな。俺は果実酒が好きだからさ。」

「意外、なんでも平気で飲むからこだわりはないのかなって思ってたわ。
 
 おいしいんだ?」

「あぁ。あれならゼシカも飲めるんじゃないか?なんなら飲んでみるか?」

「あるの?」

「俺の部屋に開いたボトルがね。ちょうどうまい料理もあることだし、取ってくるよ。」

「うん、わかった。じゃあグラス出しておくね。」






・・・・そういえば、確かにこうして二人きりは久しぶりかも・・・・

野宿の時はみんな一緒のテントだし・・・・・・・






・・・・・・な、何ドキドキしてるのかしらっ!?

バカね、私ったら!これじゃククールの思うツボじゃない!






「お待たせ。」

「っっっっ!!!!」



思わずビクッとしちゃった。私の考えてる事はわからないはずなのに。



「・・・・・・?どーしたんだ?」

「いや、何でもないの!」

「そうか?」

「それよりグラスこれでいーい?」



・・・やっぱり不自然かな?



「あぁ、何でもいいよ。じゃあ、どうぞ、お嬢さん?」

「あ、ありがと・・・」

「どうだ?」

「・・・・・あ、おいしい!」



思ってた味とは違う上品な甘さに思わず顔が綻ぶ。
それをククールは横で見ながら嬉しそうに笑った。



「だろ?飲めるならやるよ。寝る前に飲むとぐっすり眠れるぜ?」

「うん、でもいいの?好きなんでしょ?」

「俺の好きなモノをゼシカも好きになってくれると嬉しいから♪」

「そ、そう!ありがとっ!」



どうしてそんな恥ずかしい台詞がサラッと出てくるのかしら!?
思わずドキッとしてしまい、顔をそむけちゃったわ!!!



「?ゼーシカちゃん?」



「何!?」



「なにそんなにドキドキしてるの?」



「してないわよ!」



こいつ絶対タチ悪いわ!



「へぇー?こっち向いて?」


「っ・・・・・っ///」

「・・・ほら、やっぱり!!」



向きたくなかったわ
自分で、自分の体温が上がってるのがわかるもの。

・・・・・・・でも、これはきっとお酒のせいなのよ。ククールが原因じゃないわ!!
って自分で自分に言い聞かせて、ククールの方に向いてみることにしたの。

そしたらアイツったら何だか子供みたいに嬉しそうに笑ってて・・・・・・・



思わずじっと見つめちゃった。

安心したのかも。

私はククールが好きだけど、ちゃんと気持ちを伝えられてるのかな?ってずっと思ってた。

でも、その笑顔は・・・・・・私の気持ちを知ってる上で向けられてる笑顔って思ってもいーのよね?






あ、気づかれちゃったかな?目が合っちゃった。



でも、なぜかそらす事が出来なくてじっとそのまま・・・・・・



ククールもどうしたんだろ?目がそらせないのかな?



笑ったククールの顔が見れて嬉しいけど、どうしたの、そんな真剣な顔して・・・?



なんて思ってたら、ククールの手が私の頬にそっと触れて・・・・・・・・・・






触れるだけのキス






ククールは優しく笑った。

でも、こんな私で物足りなくないのかな?

嫌なわけじゃない。でも恐くて・・・・・

そんな私を気遣ってか、冗談では言っても実際にはキス以外は何もしないの。



嫌じゃない。恐いだけ・・・・・。



じゃあ、私がほんの少し勇気を出せば喜んでくれるかな?





ちょっとだけ、でも、今の私には精一杯の勇気を出して、
頬にある離そうとしたククールの手を止めて、じっとククールを見つめてみた。



そしたらちょっとビックリした顔を見せて、今度は真剣な顔つきになったのを見て・・・・・・・



思わず目線をそらしたんだけど



遅かった。






いつもの触れるだけの短いキスじゃなく、長い、何だか体が熱くなるようなキス。



うまく呼吸ができなくて、少し離れようとしたら、強く抱き締められて身動きできない。



なんだかククールが別人みたいに見えてしまう。






やっと息ができるようになったら、今度は首筋にキスされて体がこわばる。

自分の心臓の音をこんなに感じたのは初めてだったわ。






嫌じゃない。でも恐い。






表面上は平気っぽく振る舞ってみても、やっぱりどこかで感じてる恐怖が私の手を震わせる。



どうして嫌じゃないのにこんなに怖くて震えるの?



必死に目をつぶって震えを止めようとするけれども、自分の心臓の音が聞こえるばかり。






「・・・・・・ごめん。」






そう言ったククールは動きを止めて、ただ優しく強く抱き締めてくれた。

謝るのは私の方なのに・・・・




・・・・・・・・ごめんね、ごめんなさい、嫌なワケじゃないの、ただ・・・・・・・・・




心の中で何回も何回もあやまるけれども、口には出せず、なぜか涙があふれてくる。

ククールはそれに気付き、もう一度ごめん、と言い涙を拭ってくれた。



ちがう、違うの、私の方こそ・・・・・・・・




声に出して言いたい。



でも思うようにしゃべれなくて、ただ首を横にふる。

私、どうしてこんなにダメな子なんだろう?



ただ、誤解だけは避けなければククールを傷つけてしまう。
何より拒まれる事が恐い彼だから。


私は精一杯ククールを頭から抱き締めた。

私の心臓の音聞こえるかな?

嫌なワケじゃないの。

いっぱい好きっていう気持ちはあるの。

でも・・・・・・・・






「ごめんね。」






一言、私はやっと絞りだした。



私の腕の中のククールがもぞもぞと上を向く。

ふと合った視線に二人とも自然と笑みが出た。



よかった、誤解されてないみたい。






その後はいつも通りに話して、いつも通り笑って。






ただ、別れる時のおやすみのキスが少し長くなったみたい。






明日は今日よりも少し近づいてるかな?