「出ていって。」



彼女の部屋から追い出された男は、もう何度この仕打ちを受けたことか。そして、いったい 何人目なのか。
今日も彼女は笑顔を見せることはなかった。



あれからいったいどれくらいたったのだろう?
いや、実際はそれほど経っていないはずだが同じ様な毎日に気が遠くなりそうだ。



私、何してるんだろう・・・・・



毎日仕事をこなし、充実していることは確かだ。・・・いや、充実と言えるのか。
常に感じるこ の虚無感はため息さえ日常にさせてしまう。

『あの頃は本当に充実していて楽しかった。』

そう思っても戻れないと知りながら、戻りたいと願ってしまう。



みんな、今頃何してるのかな・・・・・



会いたいな・・・・



あの頃、共に歩いた友を。
心許せる彼を思いながら、ゼシカは窓から外を眺めた。





 ◆―――――





「みんなはこれからどうするの?」

トロデーン城での盛大な宴も終わりかけの頃、エイトは問いかけた。

「あっしはとりあえずゲルダにこいつを返して、その後はパルミドに行こうと思ってるでやす。」
「オレは・・・・」
言いかけたククールは、一度表情を隠すように下を向き、次に上げた時には決意したようにハッキリと言った。

兄貴を探す、と。

予想していなかった訳ではない。
ただ、自分の予想ではなくハッキリ本人の口から聞かさ れると、想像以上のダメージに心が痛む。
それを耐えながら、自分もこういう時用に考えておいた返答を、心では拒否しながらも頭で押さえつけ、答える。


「私は、アルバート家を継ぐわ。」


そう答えた時に分かっていたはずだ。
継ぐからには、母が見合い話を持ってくる事も、 やっぱり私が受け付けない事も。


私の心に隙間なんてない。
誰も入り込める余地など残っていないのだ。

だけど、彼はそれを知らない。
知らせた所で、彼の目的は変わらないだろう。
「私を選んで欲しい。」なんて、自由を奪ってしまう事は願っていても口には出せなかった。
それほどククールにとって、 あの兄の存在は大きかったから。

でも、ただ、なんとなくだけど、感じる。
私はククールにとって・・・・・「大切な人」なんだと。

旅の間にそう感じることが出来たから、今こうして待つ事ができる。
今こうして、見合いを蹴飛ばす事ができる。

彼が目的を果たしたら私の所へ来てくれると、信じる事ができる。



相変わらず母は見合い話を持ってくるけれども、私がもう少し待って、と毎回言うものだから、
断っても文句を言わなくなった。





「早く来なさいよ、あのバカ・・・・・・・」










そう呟く瞳に「彼」が映るのは、遠い話ではなかった。

そして、彼はまず笑みをこぼしてこう言ったのだ。


「ただいま。」と。