視線に絡め取られて身動き出来ない。
自分の心臓の音が響いて、かろうじで自我を保つ。
呼吸を忘れるほど頭の中は真っ白だけれども・・・・・・・
どうにかしなくては。
「アニス」
そう呼ばれ、一瞬身体が震えた。
「・・・嫌なら、言って下さっていいんですよ。」
― ドウニカシナクテハ? ―
どうして?
私はこの先を望んでいるのに?
そう、やっと、やっと、女として見てもらえるようになった。
「嫌じゃ、ないです・・・」
「震えていますけれども?」
「違います。これは、その・・・」
「・・・・・・・・初めて、だからですか?」
「――― っ!
大佐はっ!・・・・・・・・その、初めてなわけ・・・・・・・・・・・ないです、よね・・・・・・」
「まぁ、それなりには。・・・・・・・・しかし、これからは貴女しか抱く気にはなりませんが?」
そう言って、眼鏡を外した、とても40には見えない大佐が優しい笑みを浮かべる。
「あの、・・・・・・私って、結構愛されちゃったりしちゃってるんですか?」
「そうですね、独占欲を愛と言うならば、それはそれはかなり愛されているでしょう。」
「ほぇ・・・」
「なんですか、その信じられないといった反応は。」
「いや、だって、その・・・私ばっかりがてっきり好きなんだと・・・」
「まぁ、アニスが頑張らなければ私の心は動かなかったでしょうね。
・・・・・・・・それほど貴女は綺麗になった。
他の男には触れさせたくない程に。」
頬を撫でられ、紅い瞳に見つめられ、実感する。
私が一番欲しかったモノ。
――――― 大佐の心。
「た、いさ・・・・・・・」
額に落ちる口づけ。
「アニス、恋人同士なのですから名前を呼んで欲しいのですが?」
「へっ!?」
そんなの考えた事もなかった。な、名前・・・・・・・・?
「じぇ・・・・・・・・・・・・・・ジェイ、ド・・・・・」
「はい。」
――――― うわわわわわわわ!!!!!!!
顔が火照るのが分かる。
名前なんて、呼ぶ日が来るとは思ってもみなかった。
それ程私にとって大佐は「大佐」で・・・・・・
「おや、どうしたのですか、アニス?」
「いやっ、そのぉー・・・ちょっと実感しちゃいまして・・・」
あまりにも近い関係になった事を。
―――――――― 幸せを。
「えへへへへ・・・」
自然と顔が緩み、緊張がほぐれる。
それを感じ取ったジェイドは優しく髪をすき、引き寄せ・・・・・・・・・・・・・・・・・・甘い 口づけを。
「っん・・・・・た、いさ・・・」
「アニス」
「あ、・・・えと、ジェイド・・・・・・」
「やはり、言いなれませんか。」
「う・・・ハイ・・・・・・・」
「まぁいいですよ。何度でも呼んで慣れて下さい。」
そう意地悪そうな笑みを浮かべるジェイドが、嬉しそうに見えるのは私の気のせい・・・・・・?
「むむむぅ・・・・イジワルですよ・・・」
「可愛い子ほど虐めたくなると言うでしょう?」
「う・・・・・・・・・・」
「ふふ、赤くなっちゃって。可愛いですねぇ。」
されるがまま、キスを受け入れるので精一杯。
「・・・・・・・忘れられない夜にしてあげますよ。」
――――――――― 夜は、長いのですから。