「今日こそは聞かせてもらいますよ、アニス。
 何時まで導師をやっているつもりですか。」

「ですから、何時までも何も、次の導師が教団から選ばれるまでですよ。
 それが私の償いですから・・・・」

「私は納得行きませんと言っているでしょう。」

「ありがとうございます。でも、私は・・・私に出来る事を精一杯して償いたいと思っています。
 教団だけじゃなく、一緒に旅をした皆、お世話になった人達、それに・・・
 こんな私でも出来る事でしか償えないけれども、例え大佐が檻と言おうが
 この地位は罪滅ぼしには最適の地位なんです。」

「・・・・・そんな事はわかっています。」

「心配しないで下さい、私よりずっといい導師が育つまでの代わりなんですから・・・」






――――― 最初は繋ぎに最適だっただけ。



スコアが無くなった今、導師として求められるのは外交能力。
実質的にダアトのトップになっていたのは、テオドーロ市長からダアトを任せられたトリトハイム詠史だが
彼が教団を離れるわけには行かず、自由に動き回れて各国のトップとの面識があり
尚且つ今までずっと実際に導師イオンの手伝いをしていた為に
繋ぎとしてアニスが抜擢された。

スコアの無くなった未来、想像のつかない真っ白な未来に 「これから」 という希望を乗せて
若い彼女を選んだ、という文句を付けて。



実際彼女はよくやっていた。
周りからは頼りなく見られ、お飾りと罵られる事も少なくは無かった。
しかし、彼女が旅の間に築いたものが今彼女を助け、
彼女でないと成し得ない事があるのも事実で。

それにより一年前よりだいぶ非難は少なくなったが、それが逆にジェイドを焦らせた。
「このままでは繋ぎでは終わらなくなってしまう」と。

繋ぎでなくなってしまったら、いったい何時まで・・・?






「忘れられませんか?・・・・・・・・いや、乗り越えられませんか?
 貴女はもう檻から開放されてもいいはずです。」

「大佐・・・・・・・・・・・・」

「私には、檻を出ようとしているようには見えません。
 正直、貴女の心を今でも縛るイオン様が憎い。」

「っ・・・!!縛ってなんか!!」

「いいえ、私が知らなかったとでも思っているのですか?」

「・・・!!・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ご存知、だったんですね。」

「一緒に長い間旅をしましたからね。」

「確かにイオン様が好きでしたけれども、それとこれとは・・・」

「関係ないとでも?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「アニス、私にはおおよその想像はついています。
 丁度いい機会ですから、話し合いましょう。・・・・・・ちゃんと、聞きますよ。」

「大佐・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・・・・っ、・・・・・・・




 私・・・・・・・・・・・・・・・、私だけが幸せになってもいいのかと・・・・・思うんです。




 大好きなイオン様の幸せを奪ったのは私なのに

 そんな私が、新しい幸せを見つけてしまって・・・・・。

 最初は、ただ幸せだった。

 でも、幸せが募るたびにこんな私がこんなに幸せでいいのかって・・・

 イオン様の事を考えると、どうしても導師を辞めようと決断出来なかった。



 大佐・・・・・・私、凄く嬉しかったんです。

 こんな私を大佐が選んでくれた事、一緒に来て欲しいと言ってくれた事。

 でも、考えれば考えるほど、ダアトに留まる事しか結論が出なくて・・・

 だから私・・・・前にも後ろにも行けなくて、ずっと・・・ここに留まって・・・



 ・・・・・・・・・・・・ごめんなさい、大佐・・・・・・・・」



「・・・・・・・・アニス、貴女がそう考えるのは分かります。
 しかし、少し考えてみて下さい。
 イオン様もアニスの事が大切だと、・・・言っていましたね?」

「・・・・・・・・・・・・」

「月並みですが、そのイオン様が、アニスは自分のせいで迷っていると知ればどう思うでしょう。
 一番側に居た貴女になら分かるはずです、イオン様は貴女の幸せを願っていたと。

 ・・・・・いえ、今でも願っていると。」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「・・・・・すみません、貴女を追い詰めるつもりは無いんです。
 ただ、これだけは知りたい。

 アニス、貴女は私と結婚する気がありますか?」



「っ、あります!それは本当です!!」



「そうですか・・・・・・・・・・・・安心しました。
 では、する事は決まっていますね。」

「え?」

「後継者ですよ。育つのを待つのではなく、育てるのです。
 いい加減私も年なのでね、待っていてはいつになるか分かりませんから。
 貴女も、それならば納得出来るのではありませんか?」

「もしかして、私が育てるんですか?」

「他に誰が居るというんです。
 貴女が受け継いだイオン様の意思を、貴女が次に託さなければなりません。
 アニスが幸せになれるよう、自分でケリをつけて下さい。」



「・・・・・・待っていて、くれるんですか?」



「私としては連れ去ってもいいのですが、
 貴女自身が納得しなければ逃げられかねませんからね。」



「っ・・ふふっ、そんな事まで考えていたんですね。」



「最悪の事態を想定するのは当たり前の事ですよ。」






「・・・・・・・・大佐、ありがとうございます!」






「出来るだけ早くお願いしますよ。」

「はい!」

「早く毎日会いたいですからね。」

「っ!!/////」



「・・・・・アニス、その顔は卑怯ですよ。」



「卑怯なのは大佐ですよっ!!どうしてそう、サラッと言えるんですかっ///」

「どうしてと言われましても、決まっているでしょう。
 私が常にそう思っているからですよ。でなければ口になど出てきません。」

「分かりました、分かりましたから!!離して下さいっ!!!」

「おや、どうしてですか?」

「どうしても何も、私は勤務中なんです!!!」

「私は休暇中です。」

「関係ありませんよ!!とにかく勤務が終わるまで待って下さい!!」

「分かりました、勤務が終わるまでですね?」

「っ・・・!!・・・・・あ、えーと・・・・」

「ではアニス、また終わる頃に伺います。残業はしないで下さいよ?」

「・・・・・・わ・・・分かりました・・・・・・」



―――――ガクッ・・・・

























――――― 3年後


導師アニスの導師守護役として共にいた少女と、
勉強の為、常に行動を共にしていたフローリアン

この二人が次代の導師として立つこととなり、ダアトを、そして信者を導いていく事となる。