それは、一瞬の出来事。
思考回路がついて行かない。
いや、もう働いていないのか・・・



「アニスっ!!!」



   声が遠くなる。

   私、まだ恋もしてなかったのにな・・・・

   ・・・・でも、もう・・・・






「アニス、アニスッ!しっかりなさって!」

「ナタリア、落ち着いて!譜歌を歌うから大丈夫よ!」

「でも、私を庇って!」

「おい、大丈夫か!?こっちは片づいたぞ!」

「ガイっ!私、私・・・!」

「これは・・・酷いな、ティアの譜歌がほとんど効いていない・・・ナタリア、君も詠唱を。
 俺はルークとジェイドを呼び戻してくる!」

「そ、そうですわね、しっかりしなくては・・・アニス、絶対助けますわ・・・!」






   ここは、どこだろう・・・

   夢・・・?

   でも、なんだか寒い・・・

   暗い・・・殻の中・・・?



   外は暖かそうだな・・・・






「アニスッ!」

「大佐、ルーク!」
「おい、どーしたんだよ、血が止まってねーぜ!?」

「これは・・・まずいですね・・・」

「譜術を唱え続けてるんですけど、一向に血が止まる気配がなくて・・・」
「二人はそのままお願いします。
 ガイ、剣を貸して頂けますか。」
「あぁ。」


 ビリ――――


「お、おいジェイドっ!何服切ってるんだよ!?」
「直接見なければ原因は分かりません。
 っ・・・ここは・・・・・・・・・以前の怪我と全く同じ所ではないですか・・・」
「確かそこは何度も怪我をしてて・・・傷周りの細胞の回復が極端に下がってるんだわ。」

「厄介ですね・・・

 ティア、裁縫道具持ってましたよね?」

「え、ええ。まさか、大佐が?」
「このまま病院へ連れて行っても手遅れになります。
 ルーク、ティアの荷物から裁縫道具を取って下さい。」
「あっ、ああ!」
「俺は水を汲んでくる。」
「頼みます。
 二人とも、あとどれくらい唱え続けれますか?」
「終わるまでやります。」
「私もですわ!」
「分かりました、期待してますよ。

 ・・・・このままでは体温が奪われますので、気休めですが・・・」

「動かして大丈夫ですの!?」

「あまり動かしたくはありませんがね。
 草原の上より私のジャケットの上の方がまだ衛生的にもマシでしょう。」

「ジェイド、これでいいか?」
「ちょうどいい。ルーク、足の方を持って貰えますか。ゆっくり動かします。」
「あ、あぁ。」






「・・・・・・っっっ!!!凄い、血の・・・量・・・アニス、ごめんなさいっ!!」






「ナタリア、落ち着いて、譜術が乱れてる。」
「あ、ガイ・・・はい、すみません・・・」
「止血してもあまり意味がありません。
 縫合しますので、その間二人は敵を寄せ付けないで下さい。」
「あぁ。」
「ジェ、ジェイド、大丈夫なのか?」
「書物で読んだだけで実際に人で縫合するのは初めてですが、そんな事を言ってる場合じゃありません。」

「ルーク、大佐を信じるの。」

「・・・あぁ。俺は俺に出来ることをする。」
「頼みましたよ。」






   みんなの声がする・・・

   気のせいかな・・・?でも・・・・・

   ・・・・・・・?

   あったかくなってきた・・・?

   あぁ、私やっぱり死んじゃうのかな・・・・・・






「アニス・・・・アニス!」

   ナタリアの声だ・・・・



「しっかりして!」

   ティア・・・・



「死ぬにはまだ早いぞ!」

   ガイ・・・・・



「おい、しっかりしろって!!」

   ルークまで・・・・・・



「・・・しっかりなさい、アニス!」

   ・・・大佐・・・



   でも、暗くて何も見えないよ・・・

   助けて、みんな・・・

   大佐・・・・・・






「おい、ジェイド、どうなんだ!?」

「縫合はやり終えましたが、血を流しすぎたようですね・・・
 体温が下がってます。早急に宿屋へ行きましょう。」

「俺が先に行って部屋を確保してくる。」

「ガイ!俺も行く!」

「駄目だ。ルークは護衛を頼む。足は俺の方が早いからな。
 ナタリアとティアも譜術の唱えすぎで体力が少ないだろう。」

「・・・わかった。」

「というわけで旦那、先に行ってくる。」

「ええ、お願いします。」



「アニスは私が抱えます。ティア、ナタリア、立てますか?」

「・・・はい、大丈夫です。」

「私も大丈夫ですわ・・・」

「時間が惜しい。早歩きですが、ついてきて下さいね。」






   ゆらゆら・・・ゆらゆら・・・・

   あったかい・・・・なんだろう・・・・・?



   パパ・・・ママ・・・?






「!アニス!今アニスが動きましたわ!」

「えぇ、私のジャケットを血まみれにしたのです。
 助かった後にお礼を頂かないといけませんしね。・・・こんな所で死んでもらっては困ります。」

「・・・よかったわ・・・・アニス・・・・」

「おっ、おい、ティア!大丈夫かよ?顔が真っ青だぜ!?」

「大丈夫よ。少し譜歌を歌い過ぎただけ・・・」

「もう少しで街につきます。それまで、いけますね?」

「はい、大丈夫です。」

「無理すんなよ?」

「えぇ。」

「ナタリアも、大丈夫か?」

「大丈夫ですわ、ありがとう。
 それにしても、ルークが率先して人を心配するなんて・・・本当に変わりましたわね。」

「ぅ・・・もういいだろ、悪かったって!」

「えぇ、今のルークはとても素敵ですわよ。」

「っなっ!!何恥ずかしいこと言ってるんだ!」

「ふふ、照れることありませんのに。」

「っっ!!照れてないっつーの!!」



「おや、ガイが手を振ってますね。」
「きっと部屋の準備も済んでるのね、急ぎましょう。」
「ええ、そうですわね。アニス・・・もう少し頑張って下さいね・・・」






◆――――――――――






「ガイ、何号室ですか。」

「203号室だ。医者も呼んでおいた。」

「あぁ、助かります。やはり本職に見て頂かないとね・・・」

「ナタリアとティアには隣の部屋を取ってあるけど・・・」

「私、アニスの容態が落ち着くまで一緒にいますわ!」

「私も声をかけてあげたいから・・・」

「分かりました、しかし静かにお願いしますよ、特にルーク。」

「言われなくても分かってるって!」



   ・・・みんなの声が聞こえる・・・

   ナタリア・・・無事だったんだ・・・よかった・・・・






「あの、アニスの容態はどうですの、お医者様?」

「あぁ、心配なかろう。処置が適切に行われておる。
 後はこの子の気力と、体温が下がらないように暖かくして過ごす事じゃ。
 人肌で暖めてやるのが一番なんじゃが、まぁ、その辺りはお前さんらに任せるよ。
 ただ、火と、部屋が乾燥しないように水だけは切らさぬようにな。」

「分かりましたわ、ありがとうございます!」

「・・・はぁ・・・助かったのか・・・・ったく、ヒヤヒヤしたぜ・・・」

「あぁ、流石に今回は俺もヒヤヒヤしたな。旦那が居てくれて本当によかった。」

「・・・・よかった・・・・」



   ―――ガタっ・・・



「っティアっ!?おい、しっかりしろって!!」

「ちょっと見せてみなさい。
 ・・・・・これは、疲労・・・・じゃな。相当無理をしていたみたいだの。
 そこの金髪のお嬢さんもじゃ。顔色が悪い、無理はいかんぞ。」

「あ・・・はい、分かりましたわ・・・」

「俺、ティアを隣の部屋に寝かせてくるよ。」

「ずっと譜術を唱えてたんだもんな。ナタリアも、もうアニスは安心だからティアと一緒に休んだらどうだい?」

「えぇ、ではそうさせて貰おうかしら。私まで倒れて、心配かけるわけにはまいりませんものね。」

「あぁ、ゆっくり休むといい。」

「はい、ではガイ、大佐、アニスを宜しくお願いします。」

「あぁ。」

「では私も失礼させてもらおうかの。」

「あ、すみません、助かりました、ありがとうございます。」

「お大事にの。」










「・・・旦那?どうしたんだ?」
「いえ、何でもありません。」
「何でもないって感じじゃないが?」
「・・・ふぅー・・・・いえ、本当に何でもないんです。ただ、少し気が抜けてしまいましてね。
 さて、我々も安心した事ですし、休むとしましょう。」

「・・・旦那・・・・」

「なんですか?」

「眼鏡外したら若返るんだな・・・・」

「ガイ、アニスの添い寝は貴方に決定ですね。」

「えっ!?えぇー!!??わっ、悪かったって!!!」

「私は先にバスルームを使わせて頂きますよ。」

「あ、あぁ、それはいいが、訂正してくれよ!!おい、旦那!!」








◆――――――――――








「んっ・・・・んん・・・・」



   あれ・・・?私、どうしたんだっけ・・・・?

   ナタリアを庇って、怪我して・・・

   ・・・・・・・・・・??

   あったかいな・・・・・

   ・・・・・・?人・・・・・?


   金・・・・・髪・・・・・・・?




「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「おや、お目覚めですか?アニス。」

「・・・・大・・・佐・・・・」

「ええ。おはようございます。」



「って、えぇぇぇー!!!!????

 ちょっとちょっと!どうして私が大佐のうううううう腕枕ってもう、ああー!!!」



「それだけ元気があれば大丈夫でしょうが、あまり大きな声を出すと傷に響きますよ。」

「って、はぅあ!!い、痛い・・・」

「それはそうでしょう。酷い傷だったのですから。全く、無茶をするものです。」

「いや、はい、すみません・・・
 でも、あの、大佐?」

「なんですか?」

「その・・・放して欲しいんですけど・・・」

「あぁ、これは失礼しました。貴方が夜中痛みの為に動くものですから・・・痛みはどうですか?」

「痛いですけど、大丈夫だと思います。」

「そうですか、良かった。ではアニス、食事は食べれますね?」

「はい、大丈夫です。」

「ではこの部屋に持ってこさせましょう。」

「あの、みんなは?」

「あぁ、ティアとナタリアは隣の部屋です。
 ルークは先ほどまで居ましたが、ティアの様子を見に行きましたよ。
 ガイは罰ゲームです。」

「?罰ゲームって、何かしたんですか、ガイ?」

「ええ、少し余計な事をね。」

「・・・?」

「では、私は食事をお願いしてきますよ。ゆっくりしていなさい。」

「あ、はい。」




―――パタン




   ぽふ・・・・大佐の匂いがする・・・・

   ずっと大佐に抱かれてたのかな・・・

   ・・・・ずっと・・・・・



「ってもう!どうして照れちゃうかな!!」



   私は怪我人、私は怪我人・・・・








   ・・・・まだ大佐のあったかさが残ってる・・・・

   手とか・・・大きかったな・・・・

   男の人なんだ・・・・・



   20歳以上も年上なんだよ。
   相手にしてもらえるわけないじゃん・・・



   って何考えてるかな、アニスちゃんは・・・・





「・・・・・寝よ。」













   ――――― くすぐったい感情



   ――――― 憧れに似た淡い蕾



   ――――― 花咲かせるのはもう少し後のお話













◆―――――――――― その頃のガイ



「くっそー・・・・だいたい、水に漬けてる時間が短いんだよ。
 しかもしっかり血が染みちゃってるしさ。

 このっ、くそっ・・・・



 クリーニングに出せっつーの!」





――――― 血染めのジャケットと戦っていた。