・・・・イオン・・・
・・イオン・・・


・・・・・・・・・・・イオン!!



「はっ!」

―――――額に汗がにじみ出る。もう・・・何日目だろう?この夢を見始めてから。

「・・・・・くそっ・・・・」




思い知らされた。
所詮、レプリカはレプリカなのだと。
音素で出来ているレプリカは、それを繋ぎ止める命が消えれば・・・

―――――亡骸すら残らないのだと。



人ではない・・・か・・・




「ルーク?どうしたの、こんな時間に?」

俺は頭を冷やそうと宿を出て星空を見上げていた。
後ろからかけられた心配そうな声に、何でもない風に見せるため、一度目を閉じ、振り返る。


「ティアこそ、どうしたんだ?女がこんな時間に歩いてたら危ないんじゃないか?」
「問題ないわ。返り討ちにするもの。」
「ははっ、確かにヤローの方がやられそうだ。」

平然とそう言ってのける彼女は強い。

心も強い。



・・・くそっ、情けないよなぁ・・・



「何か、悩み事?」
「いや、悩みじゃないかな。ティアは?何か悩み事?」
「ちっ、違うわ!」
 (ルークが出て行く音がして心配になったなんて言えない・・・)
「星が見たくなっただけ!」

「星か・・・・・・
 ここから眺めたら星なんて全部同じに見えるのに、全部違うんだよな・・・」

「何?またアッシュと比べてたの?」
「比べるっていうか・・・・・・
 俺が死んだとき、誰かの記憶にはちゃんと「俺」が残ってるのかなってさ。」


「何言ってるの!?」





「・・・・・・イオンが死んだとき、俺の腕の中で消えただろ?
 
 レプリカは亡骸すら残らないのだと初めて知って・・・ちょっと・・・な。」

「っ!!・・・・・・・ルーク・・・・」

「アッシュがもし死んでも、死んだという証拠に亡骸が残るが、
 俺とかイオンにはその証拠がないからさ・・・
 しかも、誰もいない場所で死んだら、その事実さえ分からなくなる。
 だから、せめて誰かの心には「俺」という存在を覚えていて欲しいな・・・・
 ・・・・・・・・・・なんてな。俺、贅沢かな?」

「バカッ!!!」

「ティ、ティア!?お、おい、どうしたんだよ!?俺、何か泣かすような事言ったか??」

「違うわよ・・・馬鹿過ぎて、泣きたくなっただけよ・・・・・・・・・・・バカ・・・」

「えっと・・・えーっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「・・・っ!!ル、ルーク!?」

「俺、やっぱ駄目だな・・・。泣かすつもりなんてなかったんだけど・・・」






「もし・・・」
「ん?」
「もし、ルークが本当に私の知らない所でいなくなってしまっても、
 私は見つけるまで死んだなんて認めないわ。」

「いや、だから俺消えちまうんだけど・・・」

「それでもよ!何も残らないなんてあり得ないわ!
 導師イオンの時だって、スコアの欠片が残っていたじゃない?
 それと同じように何か必ず残るはずよ!!」

「ティア・・・」

「それに、ガイも大佐も、ナタリアもアニスも・・・私も・・・
 貴方の事忘れるなんて、考えられないわ。それともルークは、私達の事忘れそうなの?」
「いや、そんな事ないけどさ!・・・たぶん・・・記憶が無くならない限り・・・
 いや、記憶が無くなっても・・・思い出せばいいんだよな。
 本当にあった過去なんだから。」
「ふふ、そうね。」

「ありがとう、ティア。」

「・・・・・・うん。





 ・・・・・・ところで、ル、ルーク?」

「ん?」

「いつになったら、その・・・放してくれるの?」

「わっ!!!ご、ゴメン!つい!嫌だったよな、本当ゴメン!」


「べっ、別に嫌ではないけれど・・・」


「ティア?」

「なっ、何でもないわ!」






―――――――――――






「おやおや、ルークは情けないですねぇ・・・」

「あぁ・・・あそこでどうして放すかな、あいつは・・・」

「ま、ルークらしいと言えばルークらしいんですが。」

「あれじゃ、いつまでたっても進展しないぜ・・・」

「それもいいんじゃないですか?」

「見てるこっちがイライラするっての!」

「まあ、でもよいものを見せて頂きました。ルークはどこまでもヘタレだ、と。
 あと、我々が心配する程ではありませんでしたね。」

「まぁな。というより、ティアが一番適任だろう。」

「ではルークが部屋に戻ってきたら、最近の腑抜け分を問い詰めて今の出来事で脅迫。
 明日から ビ シ バ シ 働いてもらわねば。」

「えっ!?それ俺も共犯!?」

「あたりまえでしょう、今ここにいるのですから。」

「トホホ・・・すまん、ルーク・・・」