三叉の路

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彼らの出逢いは笑みと共にあった。
 
それは望んだ何かを手に入れる愉悦にも似ていたが、男はけして何かを手に入れたわけではなかった。彼女はその時から男にとっての唯一人。友であり、その思考の理解者であり……。それゆえにただ唯一の敵であった。
 
三叉の路。二本が交わり、一本は絶える。共には行き着ける先の無き、孤高の道。
 
彼女が求めたものは男と異なり、仮に同じであったとすれば、それもまた。互いに相容れる事は在り得なかったので………。路が一つ途切れる、ほんのひと時。三叉の路は交わる者に、何かを手に入れるような薄い満足を垣間見せる。ああしかし。飢餓に焼けた喉に、滴る雫は少な過ぎた。彼らはやがて、互いの道を絶つ日が来る。三叉の路の交わりは深く、けれども僅かに一瞬だけ。
 
彼らの出逢いは笑みと共にあった。
 
彼らは友であり、互いにその思考の理解者であり。それは幼い恋情にも似て、また互いを認め得ぬ自己愛でもあり。彼らは互いが自らに対する、ただ唯一の何かであり。だがけして、自ずから手を伸ばして掴む事の無い希薄なものでもあり。そして、それゆえにただ唯一の敵であった。
 
然れども、相対性の中で刹那は永劫でもあり………。笑みは互いに向けてだけ、その意味を謳う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
水に満たされた古代遺跡。水中神殿。古き知慧を随所に詰め込んだその地は、同様に各地に点在する遺跡群の中でもとりわけ高等魔術の恩恵に与る奉竜殿と並んで、多岐に渡る研究者達の知的好奇心を十二分に引き寄せて止まない。近年では、軍事拡大を思案するクレルモンフェランの軍関係者が出入りする姿も頻繁に見られる。古代遺跡の未だ片鱗さえ解明されていない不可解なエネルギーを軍事兵器への応用に試みようとする。それは有用な事に思えてその実、なんと浅慮であることだろう。使いこなせるかどうかも分からぬ力に手を出す。それはなんたる無謀。永き時と共に見続けてきた神々はそれを、人間の傲慢な愚行と呼ぶのである。
 
不穏な噂があった。水の遺跡に足を踏み入れたまま、戻らぬ者がいるという。一人二人というのなら、噂にさえならぬだろう。魔物も不死者も時にはあろうや。度々起こっていたそんな小さな事件が、古代設備の調査に派遣された大国の一師団が壊滅したとなれば話も変わる。寿命の半分を擦り減らして命からがら逃げ戻った兵が一人。その口から漸く真相が日の目を見る。
 
 
 
――――化け物だ。その辺りの魔物も不死者も雑魚同然。水底の砦には化け物が居る……!
 
 
 
棲みついた魔獣が、人を喰う。真実を告げた兵は逝った。最期まで怯えた瞳をして。そして水底の詳細は未だ闇の中。
 
フレンスブルクの街はそれ自体が一つの学びやと言っても過言ではない。魔術の名門、フレンスブルク魔術学院。そしてそこに属する教師達も彼らに師事を仰ぐ者達も、魔術の研究者であると同時に、街が所有する兵でもある。有事の際には戦う力を持つ戦力である。戦の気配薄れぬ動乱の世界にあってフレンスブルクが完全な中立を保つのには理由がある。『兵を貸す』のだ。つまるところ、何がしかの争乱とあれば魔導の力を行使する戦力として召喚される事になる。たとえばそれは、大国からの戦時参入であり、裕福な商人からの護衛依頼であり、魔物討伐の欠員補充であり。他の町のギルドとよく似たものであるが、その規模は桁が違う。そうやって、魔術の街は維持に掛かる莫大な費用を工面し、また全ての世界事象において常に中立を保持している。それは乱に関わらぬ平穏ではなく、強固に思惑の絡み合った牽制の安寧。
 
男にとってその街は、殊更に好く事は無くも、厭う理由の無い街だった。
 
そして、炎が舞う。眼に眩しい鮮やかな紅蓮が人の波を呑んでゆく。阿鼻叫喚の地獄絵図。その男レザードは、歩みを止める事無く奥へ向かっていた。崩れ掛けた陣を立て直そうとする剣士のものらしき声が男の耳を穿つ。レザードは眼鏡を押さえる手で口許を隠した。くぐもった笑い声は周囲の音に掻き消される。
 
水底の要塞、水中神殿。巣食う魔獣を征伐せよ、と学長直々に命じられたのは学院内でもトップクラスの精鋭ばかり。数にして約七十。動いた金は計り知れない。クレルモンフェランの王が自らしたためた書簡に折の学院長は院内きっての優れた魔導師達を見繕った。浅ましい見得も手伝って、副学長ロレンタ女史の咎めも聞かず………。
 
七十余りの魔導師達。彼らの大半は無論賢しく、そしてそれこそが命取りとなる。
 
クレルモンフェランの軍勢とフレンスブルクから派遣された術者の陣は踏んでいた。敵は水の中に在る、それは炎の不得手を意味するのではないか、と。往々にして、如何な事象をも得手を好む。なれば、水と氷には炎を以って挑むべし。自信と確信の奥、戦士達の士気は高かった………。
 
響く断末魔の合間にレザードは憐れみを込めて顔に薄く笑みの色を刷く。考えの足りぬ者達の末路はどれも同じよ、と。一と百が全てであるとするのなら、十と九十の間に差異は無い。所詮、百以外は同値なのだ。歩みを進める度に男の足元から熱気が湯気となって立ち上る。これが証拠。そう、対峙の魔獣は火を吹いた。炎を得手とし、水の玉座に反り返る。
 
 
「火を好まぬものが集う地にこそ、火を以てば支配は容易い、という事ですか」
 
 
なるほど、とレザードは満足げに眼を細めた。予想通りである。熱気に煙る空間。レザード自身は氷衣の呪によって快適の中にあるが、見遣る視線の先でつい先程まで動き回り人間であったものが干乾びてゆく。熱気に膝を折るまいと耐え凌ぐ勇敢な戦士達の声にレザードは思う。
 
ここは保ってあと数分でしょうが……ふむ。まぁ、それだけあれば充分ですね。
 
必要なのは学院長直々の職命ではない。己の予想通りならば、この地に巣食った魔獣は研究の良い材料である可能性が高い。男の目的など、初めからただそれのみ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
阿鼻叫喚の中、年の頃にしてようやく少女の域を脱したと思しき娘はやけに似合う艶かしい微笑を浮かべた。
 
名は聞いた事があった。他の良家の子息子女を易々と押さえ、後に学長となる現副学長ロレンタの師事を仰ぐ事を許された平民の出自。彼女の才は、本人にその意図が無くとも、学問に支配されたフレンスブルクの街では、文字通りひと夜のうちにその名を隅々まで知らしめる。異色の魔女とは娘の二つ名。貧民街のギルドで独学の魔術を使ったという女術者をロレンタが見つけてきたという。磨けば光るに違いない。学術を愛する女は、娘に学びの機会を与えた。慈悲と慈愛は彼女の信条だが、才に対する眼は厳しい。そんな人間が施しではなく、師事の場を与えたと聞けば、娘の才の有り様も自ずと知れよう。
 
誰もが興味と羨望と、そして揶揄を込めて娘を見た。娘の名はメルティーナ。本人でさえもそれ以上の詳しい名も出自も知らぬ。平民の、あるいはそれ以下の娘が、魔術の聖域と人の呼ぶ名門の中でも上に立つ者の眼に留まる。良くも悪くも娘の名は知れ渡った。
 
そして、人間という存在に興味を引かれなくなった男の耳にも。
 
学院において誉れの名高きロレンタ女史に師事を仰いではいるものの、レザードは知識に飢えていた。師ロレンタでさえも、既に彼に与えるものを持たない。否、彼女が与えようとするものにレザードは興味を持てなかった、と言うべきであるだろう。彼が求めたのは知識の、更にその向こうに広がる何かであったから。ゆえに、彼を理解し得る者は居なかった。レザードが易々と飛び越えた知識の壁。それよりもっと手前で凡人達は力尽きる。レザード・ヴァレス、彼は凡人達の言葉を用いれば天才と呼ばれる人間だった。理解など有り得ようか、取り巻く者達の言葉では説明のつかない次元に彼は立っているというのに。
 
何者にも得られぬ不可能たる理解。……ただ一人を除いて。
 
 
 
――――行かぬのですか?メルティーナ
 
――――その必要が無いじゃない
 
――――参考までに伺いましょう。何故です?
 
――――アンタと同じ理由よ
 
 
 
彼女以外には。彼女は後にも先にも、ただ唯一の理解者にして、それゆえに友であり、またそれが為に共に終わりまでは歩めぬ敵であった。二本の道が交差する三叉路。交わった先に残る道は一つだけ……。
 
学院長直下の研究室。学びの場を求める者達には広く開かれているフレンスブルク魔術学院の門だが、潜った門の先は狭い。街全体のほぼ大半を占める学院の中央棟、学院長室を有するそこは学生達にとっては天上の高みもかくや。魔術を志せば、誰もが一度は焦がれるように憧れる魔術の聖地。
 
そして、高みに一段近づくにつれ、優秀である者には周囲からの謂れ無き誹謗と中傷の雨が降り注ぐ。彼女もまた例外ではなかったし、他の者に比べればその度合いは高くもあったに違いない。才無き者は、身分の盾に縋るほか無い。独学で得た魔の力を行使するメルティーナには、後ろ盾が無かった。ただロレンタがその慈愛の精神ゆえに就学の機会を与えたというだけでは。
 
しかし、レザードにとって興味が引かれるのは、そんな師の慈愛ではない。彼女の持つ才もさる事ながら、それよりも何よりも……。
 
その貪欲さ。己の欲に、いっそ清廉にさえ感じるほどに従順なその飽かぬ精神の飢餓。禁忌さえ手段の一つだと納得する絶対的な合理性。それらを隠す事無く、無言のうちに語る瞳。その気配。とてもよく似ていた。その思想の根底が。驚くほど己に。
 
彼女は、男が自ら興味を持つに至らしめた、稀有な人間だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
紅蓮の風が古い石壁を撫でてゆく。灼熱の空間。水に沈む部分の多いこの遺跡の中では、既に蒸し風呂のような熱気が充満しそこに存在するだけで体力はむしり取られてゆく。ブーツの下で欠けた石畳がジュウゥゥ、と呻いた。氷衣の呪の加護無くては、一瞬で靴底が焼き付いてしまうだろう。今でも革の焦げるような臭いがしているのだから。
 
これは……焦げた靴とはみすぼらしい。まったく!靴屋に新しい物を注文しておかなくてはいけませんね。
 
周囲に屍となっていく者が呻く中、男が聞いたのは己の革靴の呻きだけ。これで目的の物が手に入らなかったら随分時間を無駄にしてしまった、と男は嘆かわしげに言う。凡人達の口は言うだろう。男の行為を、思考を、非情だと。あるいは、異常だと。そうなれば、男はきっと言うのだ。価値無きものを護らねばならない理由が、私にあるとでも……?柔和に笑みを浮かべて、男はそう問い返すに違いない。男は、戦士達の屍の上を渡りながら、奥へ進む道だけを重要なものだと判断する。歩みの先は、揺らぐ事も止まる事も無い。
 
最奥にそれは居た。そこは、自然が作り上げた巨大なホール。元は何かの祭事を執り行った広間だったのかもしれないが、長い年月の中に風化した、既に人工とは呼べない外的な力によって生み出されたものである。所々に残された古代遺跡によく見られる細工が、そこがまだ神殿遺跡の内部である事を教えるだけ。それさえも無いとしたら、そこはもう天然の洞穴でしかないであろう場所である。
 
水の城の主は怒りに狂い、吐き散らす焔が火山の火口もさながらの溶岩を生み出す。
 
焼かれ、あるいは食い千切られてゆく者達をゆったりと眺めながら、腕を組んで岩壁に背を預けるものが居た。氷衣の呪。この者もまた、己の身を護り得るだけの術を心得ていた。長い深緑の髪が肩先に揺れている。組んだ腕の先に気だるげに持たれる長杖。女術者。立ち位置の問題でレザードの場所からでは表情はよく見えない。だが前髪に顔の大半は隠れていても、その口許が何かに呆れたように薄く笑っている事は判る……。
 
名は、聞いた事があった。良くも悪くも、彼女の名は知らしめられていた。けれども、姿を見たのは初めてだった。
 
レザードは小さく感嘆の声を漏らした。ただの愚者ばかりと思っていたのだが……。そうではない者も居たらしい。途端に興味が湧いた。それは彼にとって非常に稀有な事である。人間という存在は彼にとって既に研究の対象でしかなく、個に対する興味は薄れていたはずだったのだが。
 
 
「貴女は、行かないのですか?」
 
 
声を掛けたのは己の方からだった、とレザードは思う。気分が震えるような何か。久方振りに味わう高揚感。興味とはそういうものなのだ。確かめるつもりで訊いた。行かないのか、と問うた。指示語を端折っても問題の無い相手だ、そんな事は気配だけで充分判る。助けには行かないのか?と愚問を問う。男の顔には愉快そうな表情。時にはゆとりある会話も風流であるだろう。返されるであろう答にある種の確信を抱きながら、求めた。予想通りの答を。
 
一瞬の窺うような気配の後、岩壁に背を預けたままの娘は妖艶に笑った。期待を裏切る事無く。彼女は。メルティーナは。
 
 
「既知を問うのは、馬鹿のする事よ」
 
 
彼女の傾げた首が少しだけ己の方へ向き、彼女もまた会話を楽しんでいる様子が見て取れる。男にとって期待が失望という形で裏切られなかった事は重要だった。くせの無い長い髪が肩から滑り、彼女はそれを掻き上げながら視線をレザードの方へ投げ掛ける。名乗ろうとしたレザードをメルティーナは制した。「紹介は結構よ、名前は知ってるわ。レザード・ヴァレス、でしょ。アンタ、有名みたいね」とメルティーナは組んでいた腕を解き、長い杖を持つ右手で自らの腰に巻きつけるように己を抱き、右の腕の上に左の肘を立てた。左手が女の線の細い顎に当てられる。
 
 
「『天才』…なんですって?困った事にそこら辺の馬鹿共はそれ以外の言葉を知らないみたいだから、それ以上は私も知らないけど」
 
 
嬉しかったと言っても可笑しくはないだろう、とレザードは思う。これほどまでに得難い何かを得た事があっただろうか。知識の壁を越えてみせた人間は初めてであったから。三叉の路が交わる。一瞬の交差が今始まる。ああ、なんというこの恍惚。何かが手に入るような、愉悦にも似た……。答の中に賢しさを見た。呆れながら答えた彼女は、笑う己の意図に気づいているのだから。似ている、と………そう思う。
 
 
「私も貴女を存じておりますよ。メルティーナ、ですね。お眼に掛かれて光栄の極み」
 
 
二人の居る場所からほんの数十歩で一体いくつの絶叫が上がった事だろう。彼らが、愉快そうに笑みを浮かべ合う間に。しばらくして、より大きな悲鳴が上がった。身体を縦に裂かれるというのはどのような感覚なのだろうか。本人に問うてみるのも面白いかもしれぬと男はちらりと思ったが、裂かれた本人はもう灰燼と散っていた。「まったく、煩いわね」とメルティーナは眉を顰める。そろそろ頃合いか、と思いながらレザードは眼鏡をくいっと押し上げる。
 
勇敢な戦士であったはずの者のなんとも情けない断末魔が飛び、二人は揃ってゆるりとそちらへ顔を向ける。「どう見ますか?」と問う男は女の技量を試した。眼鏡を押さえる仕草の裏に冷酷な愉悦の笑みを隠し、男の瞳が回答を催促する。「そうね……精々あと五分ってトコかしら」と、ゆっくりとした動作で腕を組み直したメルティーナが、大騒音の中心を見遣りながら確信を持った瞳で返した。
 
己に向かって、自信に満ちた返答をする者に、出逢った………。
 
 
「五分。確かにそうでしょうね。……行かぬのですか?メルティーナ」
 
「その必要が無いじゃない」
 
「参考までに伺いましょう。何故です?」
 
「アンタと同じ理由よ」
 
 
語尾上がりの疑問系。確信に満ちた問い掛け。喉を鳴らすようにくつくつと男は笑い、女は呆れたように苦笑を返した。「あの魔物の心臓なら、良い魔法薬ができると思うのよね」と言うメルティーナに「丁度良かった。私もあの魔獣を狙っていたのですよ。あの左眼を使いたくてね」とレザード。だから二人は待っている。助けになど行く必要があるものか。最も合理的な方法の、彼らはその駒に過ぎない。
 
メルティーナが岩壁から背を離した。もうすぐ五分になる。レザードが長いローブを翻し、眼鏡の縁を押さえ直す。
 
二人を除いた最後の一人の断末魔が上がる。猛る魔獣の血走った眼が二人を捉える。空間を振るわせるその咆哮。罠に掛かった哀れな獲物。狂ったように吼えながら、巨大な魔獣が飛ぶように迫って来る。二人の詠唱が重なった。
 
 
  ――― 汝 その諷意なる封印の中で安息を得るだろう 永遠に儚く ―――
 
 
大魔法セレスティアルスター。轟音と共に衝撃が降り注ぐ。刹那の後、一杯に満ちていた水蒸気が空間の全てを呑み込んで爆発した。凄まじい爆風がメルティーナの長い髪とレザードの呪衣の裾を、まるで微風にように軽やかに翻す。死した魔獣の屍が広いホールの中心に横たわっていた。
 
何が起こったのか。二人には既知の事であるがゆえに語られない。
 
広い空間に散りばめられた水の分子。水蒸気となったそれに刺激を加えてみるとどうなるか。湿っていた岩肌が炙られ続け、その表面が剥がれて落ちる。バラリ、と何かが崩れる音。土埃がもうもうと満ち、灰燼と散った者達の骸も。魔獣の咆哮は最後の仕上げ。広いホールに舞台の幕が上がる。砂塵の紗が掛かった視界の奥で。
 
降り注いだ大魔法。引き起こされたのは粉塵爆発。水が、炎を呼び覚ます。焔を得手とした魔物であるが為に、それ自身は衝撃と威力を緩和され、消滅には至らない。彼らが望んだのは、材料を得る事だったので。その為に待ったのだ、空間に蒸気の満ちるその時を。二人は炎を得手としたものに、より強き炎を以って制した。これが、一でも十でも九十でもなく、百の思考である。
 
 
「加減って今一つ苦手なのよね。ホントは待つのも好きじゃないけど」
 
「普通に相手をしては、折角の材料が消えてしまいますからねぇ」
 
 
「全くだわ。それにしてもやる気の無い詠唱ね、アンタ」とメルティーナが長い髪を肩の後ろへ払った。カツン、と足を踏み出した彼女の動きに合わせて氷衣の呪の涼しい風がレザードの隣を過ぎる。まだ、術を解くにはここは熱い。彼女も解っているのだろう。ああ、未だ興味が尽きない。これで終わりでは名残惜しい。レザードは魔獣の屍に向かう彼女の後ろ姿に声を掛けた。
 
 
「メルティーナ……是非、貴女の話を聞いてみたいのですが?」
 
 
それは確信に満ちた問い掛け。振り返る事は無かったけれども、彼女が薄く笑っているのが判る。
 
 
「ふ、メルでいいわ。アンタとは、面白い話が出来そうね……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
三叉の路が交わる。交差の一瞬、何か得難いものを得るような愉悦にも似た、強い恍惚を人は得る。
だが、三叉の路の交わりは深く、けれども僅かに一瞬だけ。
二本が交わり、一本は絶える。彼らはやがて、互いの道を絶つ日が来る。
 
それは幼い恋情にも似て、友であり、その思考の理解者であり。それゆえにただ唯一に敵であった者。彼らの出逢いは笑みと共にあった。
 
 
 
 
 
 

<Fin>





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玉響の微睡の逆薙様から頂きました!

このSSは私の誕生日プレゼントに、と頂きました!
もう、本当ごちそうさまです!!!
そう、そうなんだよ!こんなレザメルを求めてるんだよ!!
あぁ、もう本当ヤバイです。どんどんレザメルにはまって行ってます。
こんな素敵なSSを本当ありがとうございましたっ!!
そして、スミマセン、やっぱり背景無理・・・orz

逆薙さんのサイトへはDQリンクから飛べますv