後 悔

 旅の仲間との食事を済ませると、ククールは決まって私の部屋に来ていた。いつもワインなどを持って来て、乾

杯もしないうちに1人で飲み、楽しそうにしながら自分の部屋に戻っていく。

 だけど、その日のククールはいつもと様子が違ったの。

「飲まないか」とワインを片手に部屋に入って来たんだけど、何だかそわそわして落ち着かない。「何かあったの?

」と聞いても「何も」と答えるだけで、そのあとはずっと黙っていたわ。ワインも開けずにテーブルに置いたままで何

かを考えているみたいだったの。

 私は、邪魔にならないようにソファに腰掛けていたククールの横に座る。すると彼は、柔らかい眼差しを向けなが

ら距離を縮めてきた。

「ククール?」

 突然のククールの行動に少し私は焦る。

 私は、ククールのことが好きだった。そのことに彼も気付いていて、ククールが私のことを好きでいてくれている

のも私は感じていた。お互いに口にしたことはなかったけど、気持ちが通じ合っていたわ。

 彼は、私に触れてきたり求めてきたりすることがなかったから、どこかで安心していたの。私のことを大事に思っ

てくれてるって。だから、私もククールを大切にしたかった。

 おもむろに口を開いた彼は、「オレ、この旅が終わったらさ……」とそこまで言ってまた口を閉ざす。

 私はククールの次の言葉を待った。何となく何を言うのかは、わかっていたんだけど。

 少し沈黙の中、私を見つめていたククールが私の肩にコツンと頭をのせた。私の頬に彼の髪が当たってくすぐったい。

 私はそっと柔らかい銀髪に触れるようにククールの頭を優しく撫でた。彼の苦しんでいる気持ちが伝わってくるよ

うだった。

 ククールから聞いたことはなかったけど、私は彼の悩みを知っていた。ククールを辛くさせているのは私のせい。

時折見せる寂しそうな彼の表情がそれを語っていた。

 ふとククールは自分の腕を私の腰に回してきて顔を上げた。思いのほか私たちの顔は至近距離で、交わった視

線を外すことができず、落ち着いていた私の鼓動が早くなる。意を決したような顔つきになったククールは、はっき

りと私に告げた。

「ゼシカが好きだ」

 そんなことを言われると思っていなかったから、私は驚いた顔をしていたと思うわ。

 だって、ククールのこんな毅然とした態度は初めてで、今まで2人きりでいてもそんなことを真剣に言われたこと

がなかったんだもの。

 何も答えられない私にククールは、ゆっくりと唇を重ねてきた。

 私たちの最初のキス。そして私の初めてのキスだった。

 ククールの口付けは、壊れ物に触れるように優しく、そしてしだいに私の唇を味わうように激しくなっていった。私

は抵抗をせず、彼に身を委ねる。

 純粋に嬉しかった。ククールの想いを受け止めて、自分の想いも彼に伝わって欲しいとそう思ったの。

 口付けをしたままククールは、私の腰を引き寄せソファの上に倒した。腰にあった彼の手はいつのまにか私の服

を脱がそうとしている。唇を離したククールの少し荒い息遣いを感じて、あまりにも早い展開に戸惑いながらも私は

目を瞑った。

 ずっとこうされることを望んでいた。このまま私は彼とひとつになる。

 ――そう思っていたはずだった。

 だけど、ダメなんだわ。ククールは迷っていたのよ。旅が終わったあとのことを。

 今まで私に触れなかったのは、決心が鈍るから。きっとそう。今ここで一線を越えたら後戻りができなくなる。

 胸に触れているククールの手を私は震える手で制止して体を起こした。

「ゼシカ?」

「やめて……」

 頼りない声で、だけど真っすぐククールを見据えて私はきっぱりと言った。

「私、ククールとそういう関係になりたくない」

「何で? ゼシカはオレのこと……」

「何勘違いしてるか知らないけど、私、アンタのこと何とも思ってないから」

 ククールは面食らったような顔をして私を見つめている。それなのに私の口からは思ってもいないような言葉が

どんどんと出てきた。

「この旅が終わってからのククールの行動も興味ない。今はただ旅を一緒にしている。それだけの関係よ。ククー

ルのお酒の相手だって仕方がないから付き合ってあげただけ」

 私は自分に言い聞かせているような気がしていたわ。口にすることで気持ちがおさまってくれるんじゃないかって。

「それってマジで言ってんの?」

 少し引きつった笑顔を浮かべながら、いつものようにククールは平常心を装ってる。傷つけているのはわかって

いたけど私は止まらなかった。

「何で嘘つく必要があるの? もう、これ以上変な気を起こされたら困るの。いいから部屋に戻って!」

「ゼシカ、オレは……」

 何か言いたそうにしている彼にかまわず、私は部屋からククールを無理矢理追い出してドアを閉めた。服を無造

作に脱ぎ捨てた私は、ベッドに倒れこみぐちゃぐちゃだった頭の中を落ち着かせようとする。ククールはドアの向こ

うで何度か私の名を呼んでいたけど、いつの間にかその声も聞こえなくなった。

 ずっと恐れていたことだった。ククールが自分の進む道を諦め、私を選ぶことを。

 これ以上深く彼の中に入ったら私はククールを独占したくなる。そしたら彼の負担になってしまうもの。そんなこと

したくない。

 拒絶して良かったのよ。私たちは別々の道を歩むべきなんだわ。

 自分でそう決めたはずなのに、私はベッドの上で泣くのを堪えられず涙を零していた。

 耳に残る私の名を呼ぶククールの声。触れてきた彼の手やあたたかい唇。いろんなことを思い出してしまって、

体が張り裂けるようなそんな思いから私は抜け出すことができなかったの。






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輝く月夜のルシャ様から頂きました!

本当はコラボしないと頂けないんですけどね!
ちょっとおねだりしちゃいました(笑)
こういうすごく切ないお話って大好きなんです。
すれ違いを経験して、ラブラブになってほしいですねvv
ありがとうございました!

ルシャさんのサイトへはDQリンクから飛べます。