「ハッピーバースディ、ナタリア」
差し出されたのは大きな箱。横広で、高さはあまりない。
広さは約本2冊分くらいで、高さは小さなロックグラスくらいしかなかった。
「ありがとうございます、ガイ。…でも随分と大きな箱ですわね。一体何が入っているんですの?」
白い箱に濃桃色のレースリボン。無駄な飾りは一再無く、とてもシンプルな包装だった。
持ってみるとそれはナタリアが持てる程軽く、とりあえず音機関ではないと悟る。まあ普通に考えて、全く興味のない人間に音機関物をプレゼントし
たところで喜んではもらえないと、フェミニストな彼ならばとっくに気付いているだろう。だから違う。
では一体何か。
ともすれば、考えられるのは自分の攻撃に使われる新しい武器──つまりは弓だ。それならばこの大きさには納得がいくし、最近では折り畳み用
の弓も少なくない。また、重量も使用者の負担を減らすべく、改良を加えられて軽量化してきている。羽根とまではいかないが、それに近しい重さ
にはなっている。素晴らしい科学の進歩だと、ナタリアは作成した技術者達に心で感謝を述べた。
「きっと素晴らしい弓なのでしょうね。ありがとうございますわ、ガイ」
ナタリアがにこりと笑顔で再度礼を述べると、ガイは少し苦笑して「違うよ」と、答えた。
「え?この箱の中身は弓ではないのですか?」
「平和になったオールドラントに武器は必要ないよ。…第一、弓はこんなに軽くないだろう?」
「それは…そうですけれど…。ではこの箱の中身は…?」
「まあ開けてごらん?と言っても、キミのお気に召されればいいのだけど」
ナタリアはその『武器が入っているにしては軽い箱』をテーブルの上に置いて、レースリボンの結びを解いた。
箱の蓋をゆっくりと上げると、そこには艶やかな生地色をしたワインレッドカラーの一枚のスリットドレス。肩と鎖骨が広く見える紐結びタイプのドレ
スで、ロングスカート部分には長めのスリットが入っている。
全体的にあまり華美ではないレースが添え付けられていて、歩く度にそれがふわふわと揺れる様を想像させた。
「まぁ…、なんて美しいドレスですの…」
「お気に召して頂けたかな?」
「ええ、とても!……とても美しくて綺麗なドレスですわ…!」
うっとりと眺めるナタリアはまさに恍惚といった表情だった。
やはり年頃の女性なのだろう。美しい、綺麗、可愛らしいものにはそれなりの興味と憧れを抱く。
──無論、今までずっと一緒にいたのだからそれくらいはとっくに分かっていたのだが。
「折角だから着てみないかい?俺は部屋を出ているから」
「そ…うです、わね。……なんだかドキドキしますわ」
「はは、服を着るだけじゃないか。──じゃあ、着終わったら声をかけて」
「分かりました」
そして部屋を出て、静かにドアを閉めた。
ガイは小声で、誰にも聞かれないように一人ごちる。
「プレゼントはもう一つあるんだよ、ナタリア」
彼女はまだ知らない。
『男性が女性に服をプレゼントするのは、その服を脱がせたいという欲望の表れ』だと言うことを。
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