序章 「22世紀後半史」

 

Act.1 「宇宙開発史」

 

 22世紀に入り、人類の宇宙進出は太陽系のほぼ全域と、アルファケンタウリ等の一部他恒星系にまで及んでいた。

 マイクロマシン、略称MMと呼ばれる文字どおりのミクロンサイズの機械類の実用化により、他惑星の地球環境化、いわゆるテラフォーミングの技術は21世紀後半に確立された。

 21世紀の後半には月面の開発が一段落し、火星、金星等内惑星と小惑星帯、それに木星の調査が終了し、月面よりの資材を用いて、火星のテラフォーミングと小惑星パラス、木星の衛星ガニメデの開発がスタートした。以降、宇宙開発は外へと広がり、アルファケンタウリ系への恒星間渡航調査も始まった。

 22世紀の半ばには、火星ではテラフォーミングの途上であり、二酸化炭素がその成分の90%を占めるものの、0.4気圧、平均気温摂氏3度の大気が存在し、平地のほとんどが小麦畑として利用され、全太陽系の実に30%の人口をまかなう一大農耕惑星と化している。人々はドーム都市で暮し、外へも普段着に簡易酸素マスクという軽装で出られるほどの環境が整備されていた。

 金星も同じくテラフォーミングの途上であるが、大気組成はやはり二酸化炭素が90%以上、1.5気圧、平均気温摂氏45度となっている。火星より遅くから開発されたため、環境の調整はまだまだで、国連惑星開発局のチームが農耕実験を始めた段階である。

 小惑星帯は、太陽系の開発が木星、土星と外へ広がっていくとともにその資源供給地として注目され、セレスやパラスの様な大きな星は、かつての月のような繁栄を見せていた。また、木星、土星の開発が進み、入植者が増加し、小惑星帯は貿易輸送の中継点としても発達した。

 木星系。木星はこの時代の動力源である融合系核燃料の供給地として着目され、開発が進んだ。過酷な環境を克服するための惜しみない新技術の投入、資金投入、人材の流入も多く、22世紀の木星系は太陽系の中心といった感さえあった。

 派手な木星系の開発の影になって目立たないが、土星系、天王星系の開発も核燃料精製プラントを中心に進んでいた。

 

 次世代の移民プロジェクトの中核として進んでいたアルファケンタウリの調査は順調に進展し、固体惑星が3、ガス状惑星が5、確認され、第3惑星ファーエデンは赤道直径が地球のほぼ二割り増し、海洋が在り、地表のほぼ半分を覆っている。大気の組成は二酸化炭素が50%、窒素が45%、酸素が4%。地殻の運動が確認され、地表の平均気温摂氏35度、平均気圧2気圧。生物は陸上には認められなかったが、海中にはプランクトンまでの動植物の存在が確認された。

 ファーエデンは移民における居住環境として火星や金星より有望視されたが、ファーエデンの価値は何より新発見の希少金属類、フレキシウムの存在だった。

 火成火山岩中に微量に含まれ、また、海中にも溶けこんでいるこの金属は、絶対零度近くまで失われない豊かな展性が特徴で、粉末状にしてセラミック精製時に混入させると焼結時に粒子間の緩衝剤となり、結果弾性のあるセラミックが作られる。

 また、混入量を増やすことにより、セラミックの線材加工も容易となる。このことは、二十世紀に製法が確立されながらも、その加工の難しさゆえコスト高に悩まされ続けた常温超伝導セラミックに激烈なる進化を促した。

 それまでの焼結時一体成形などという、恐ろしく手間のかかる製法から解放されたのだ。

 一躍注目を浴びたファーエデンにはフレキシウムの採掘公社が設立され、併設された監獄の流刑囚約100万人の強制労働による採掘がされるようになった。また、人口100万規模のドーム都市が5は建設され、300万の人が入植している。

 そして、アルファケンタウリ系第4惑星でガス状惑星のニアジュピターと、太陽系の木星との間に航路が開かれ、フレキシウムはニアジュピターを積みだし港、木星を荷上げ港として太陽系にもたらされた。

 この航路に使われる恒星間輸送船は、亜光速のスペースラムジェットエンジンを用いても、片道に実におよそ10年の歳月をかける。20隻が就役していたが、およそ2年おきに一隻の割合の定期航路であった。スペースラムジェットは燃料を宇宙空間に求めるが、亜光速に達するまでは熱核ロケットエンジンを用いるため、太陽系での港は推進剤の安い木星系が、アルファケンタウリ系での港はニアジュピターが、それぞれ選ばれた。

 そうした流れから、木星系には恒星間輸送船の建造、整備、補修用のドックが建造され、またフレキシウムの流入もあり、一大最新技術圏が形成され、木星系は核燃料の輸出と技術加工貿易で経済的に大きく成長した。

 

 

 

 

Act.2 ガリレオ同盟独立戦争(半年戦争)

 

 成長した経済力と技術力を背景に、22世紀半ばになると木星系及び外惑星圏では、国家として独立しようという気運が高まった。

 しかし、国連は莫大な収益を上げる外惑星圏の事業体等を手放す気はまるでなかった。

 市民運動に対し、にらみを効かせるべく、強力な軍隊を駐留させ、国連領事官府付きの国連警察を増員し、独立の動きを力で押さえようとした。

 22世紀後半に入るころには、街頭での市民のデモ隊と国連警察の衝突が、外惑星圏のそこかしこで見られるようになり、市民の中には独立運動家達による地下組織が結成されるようになった。

 

 西暦2169年、外惑星圏は歴史的な転機を迎える。

 木星の四大衛星、土星のタイタン、テチス等の外惑星系自治体が中心となって”ガリレオ同盟”を結成し、さらに国際連合から脱退する。保護観察領という名の、地球圏帝国主義の事実上の植民地支配からの独立を宣言した。

 この事態を国際連合が黙って見過ごすはずはなく、国連は木星及び土星系に駐留する国連宇宙軍の各部隊に独立運動の即時鎮圧を命じた。が、各駐留部隊はそれどころではなかった。

 

 ガリレオ同盟の独立運動に前後して、国連宇宙軍の外惑星系駐留軍は、深刻な反乱の危機に直面していた。

 外惑星系出身の士官や兵士が中心となり、部隊や戦闘艦単位でのガリレオ同盟への寝返りが相次ぎ、その数は駐留軍全部隊の実に80%にまで及んだ。

 もともと外惑星駐留軍は国連軍の中でも出世競争から脱落したものや疎まれ者、半端者の左遷先といった性格があり、反乱の種は十分にあった。

 長く続いた強大な権力の一極集中は、国連軍内部に深刻な腐敗を蔓延させていた。人事は正常に行われず、金権腐敗に支配され、健全な精神や良識といった物は次第に失われ、独善と妄執がはびっこっていった。

 それは、軍だけではなく、国連宇宙開発局の外惑星常駐員や、民間企業の外惑星支部等にも見られた。実質上の軍事支配による植民地政策は、外惑星系の社会全体を長年を掛けて反乱の温床として育てていた。

 これらの状況を巧みに利用し、独立運動に導いたのは、「ガリレオ同盟独立準備委員会」と呼ばれる地下組織である。

 構成員は外惑星系の各自治体や民間企業、国連軍外惑星系駐留軍等、広範囲に渡って多数存在した。

 彼らは巧みに社会に潜伏し、互いに連絡を取りつつ、世論を独立へ誘導し、時を待った。

 そして、自治議会への独立法案の提出、議会での審議と承認を経て全有権者による投票、可決。可決された法案に基づき、独立を宣言、同時に経済及び安全保証の互助条約としてのガリレオ同盟の発足、と、まっとうな手順を踏んだ。

 それを、国連行政府は駐留軍による鎮圧という、甚だ暴力的な方法で押さえつけようとした。

 ところが、現地部隊の反乱である。最終的に、外惑星系駐留の国連軍部隊の全戦力の、実に90%がガリレオ同盟に帰順した。これは全国連軍の兵力の内、実に20%に当たる。

 その戦力を、発足なったガリレオ同盟は同盟宇宙軍として再編する。

 

 ガリレオ同盟と国連の対立は次第にエスカレートした。

 経済的交流の断絶(全輸出入の停止、在外惑星系の地球系民間資産凍結)、ガリレオ同盟による在外惑星系の国連施設の接収及び国有化。そして、それらの資産の復帰権利を主張する国連側の反乱鎮圧軍派遣の決定。これは事実上の宣戦布告であり、ほどなく国連とガリレオ同盟は戦争状態に突入した。

 

 国連宇宙軍は、小惑星帯に駐留していた部隊を中心に他方面から部隊をかき集め、ガリレオ同盟側の倍以上の兵力を小惑星パラスの軍事基地、メタルハーバーに集結させた。これは残存する国連宇宙軍全戦力の内、実に六割強に相当した。

 集結させたは良かったが、艦艇や航宙機の整備、補給に手間取り、(メタルハーバーのメンテナンス能力に対し、過大な兵力が集中しすぎ、補給の手当もおいつかなかった。)ガリレオ軍の先制泊地襲撃、補給路破壊を許した。

 結果、国連軍は序盤からかなりの兵力を損耗させられた。満を辞してメタルハーバーを出るころには、集結時の八割弱まで兵力が低下していた。

 ガリレオ同盟側は国連宇宙軍艦隊が木星系に達するまでに機雷源の敷設や、小部隊の一撃離脱奇襲といった、徹底した斬減作戦をとる。国連軍は絶間ない緊張の連続を強いられ、兵力と兵士の精神力までもが奪われていった。

 それでも国連軍は、木星系到達時にガリレオ同盟軍の五割り増しの戦力を維持していた。

 そして、木星系外縁にて、ついに両軍主力による艦隊決戦が始まった。ガリレオ同盟軍は国連軍を迎え撃つに当たり、序盤は防衛に徹した。それでも戦況はガリレオ軍の優勢に展開した。

 国連軍は強力な航宙艦隊を持ってはいたが、航路警備や救難、警察行動等の任務しかなく、艦隊戦など訓練すら行ったことはなかった。

 対してガリレオ同盟では、独立準備委員会の内、軍事委員と呼ばれるチームが、外惑星圏駐留部隊の戦力で全国連軍を仮想敵に、艦隊戦のシミュレーションを繰り返し行い、独自の戦術ドグマを確立していた。

 艦隊戦を行うにあたり、必要不可欠な統一指揮系統のもとの連動すらままならない国連軍相手に、ガリレオ軍艦隊は縦横無尽の艦隊運動で翻弄し、分断、各個撃破していった。

 遅れて戦場に到着した国連軍の補給部隊を、待ち伏せしていたガリレオ軍の別動隊が叩くと、戦況はほぼ決まってしまった。本拠地に構えて補給線の短いガリレオ軍に対し、頼みの補給部隊を失った国連軍は、次第に弾薬、推進剤、食料の不足に悩まされ、メタルハーバーへの撤退を余儀なくされる。

 しかもガリレオ軍の執拗な追撃にあい、それは撤退というより、壊走と言った方が正しかった。

 援軍のあてのない籠城のゆく末は悲惨な結末を迎える。メタルハーバーに立て籠った国連軍も例外にはなれなかった。

 二週間とたたずに食料をめぐってパラスの民間人と国連軍の間に衝突が起こり、パラスは混乱に陥った。隙を見てとったガリレオ軍はすかさず海兵部隊を上陸させ、労せずパラスを制圧、占領した。

 ガリレオ軍はメタルハーバーに再集結し、着々と地球圏侵攻の準備を進めていたが、戦闘は中断し、戦争の行方は、以降は和平交渉のテーブルに持ちこまれた。

 

 和平交渉はガリレオ同盟の優位の内に進展した。

 パラスの国連への返還他、小惑星帯占領地域の放棄を条件に、外惑星系自治体の正式な独立とガリレオ同盟の承認。その他、前方、後方トロヤ群圏の同盟加入と、小惑星帯産金属類、外惑星産核燃料の公正価格取引市場の設定、新貿易協定の締結などの条件を引きだした。

 こうして約半年に及んだ「ガリレオ同盟独立戦争」は幕を降ろした。

 

 

 

Act.3 太陽系大戦前夜〜太陽系大戦前半

 

 半年戦争後、外惑星圏をもぎ取られた国際連合は、縮小を余儀なくされた経済力、その許す限りの軍拡を行うことになった。

 衰えても元々が巨大な経済圏を誇る惑星間国家である。本気になった時の経済発展はすさまじかった。

 国連軍は失われた戦力を急速に取り戻し、同時に大幅な組織の改変、と言うより新編成を行った。

 

 一方新しくスタートしたガリレオ同盟は、持ち前の最新技術による優秀な工業製品、従来よりの主力交易品の核燃料の二本の柱を武器に、小惑星帯、火星、月、地球などの国連経済圏やアルファケンタウリ圏との貿易、同盟圏内の内需の拡大等で、順調に成長していた。これにファーエデンとのフレキシウムの独占貿易を加え、次第に国連経済圏に対抗し得る経済力をつけつつあった。

 軍備については、ガリレオ同盟の首脳陣は際限の無い軍拡の空しさを知っていたので、装備については徹底した合理的ハイアンドローミックス構想、すなわち高性能の主兵装と、安価で大量生産の補助兵装の組み合わせを採用した。

 兵制については志願制だが、高度な訓練を施した小数精鋭主義を持って編成に当たった。

 

 半年戦争後、国連側に無視できないある損失が続いた。

 頭脳の流出である。優秀な技術者や学者のガリレオ同盟への移住が相次いで起こったのであった。

 その理由としてもっとも大きいのは、ガリレオ同盟によるフレキシウムの独占であった。

 半年戦争後、この新素材は国連経済圏にはガリレオ同盟を通しての輸入という形でしか入ってこないため、大変高価、かつ希少であった。もっとも、ガリレオ同盟においても高価なことには変わりはなかった。

 とにかく、国連経済圏におけるフレキシウムの絶対流通量が少なく、研究用途の需要にも事欠くありさまであった。

 そのため、核工学や材料工学などの著名人には、フレキシウムを研究するために木星圏に移る者が後を断たなかった。

 この頭脳流入により、ガリレオ同盟の潜在技術力は、基礎面から更に厚みを増し、大幅に向上した。

 

 半年戦争後、時間が立つにつれ、国連圏とガリレオ同盟間の貿易不均衡が次第に問題になりつつあった。

 安い値段で買い叩かれていた外惑星産の核燃料と、高い値段で売り付けられていた火星産の小麦の値段、および小惑星帯産の金属類の値段を、市場原理を導入して公正な価格を決めたため、それまでの差額が生じ、そのまま貿易収支の逆転につながった。

 更にフレキシウムの売買が追い打ちを掛けた。

 往時の経済力の復活を願う国連圏の財団は、経済の斜陽はすべてがガリレオ同盟の独立に起因しているという結論に達し、優勢な国連の軍事力によるガリレオ同盟領の再占領を企てる。

 一方、自らの勢力が国連よりも劣ることを冷静に受けとめていたガリレオ同盟は、軍の正面装備の充実もさることながら、とりわけ情報網の整備に重点を置き、情報の収拾、評価、操作等、情報戦では国連側を一枚も二枚も上回っていた。

 余談になるが、軍事用のセンサーや戦闘指揮システムなど、戦闘情報の面に於いてもガリレオ軍の装備の方が優秀だった。

 その優秀なガリレオ同盟の情報網は、国連の不穏な動きを一早く察知した。

 ガリレオ軍も対向上、兵力の整備や戦略、戦術の研究、新兵器の開発、戦時物資の備蓄など、いわゆる戦争準備を急ぐこととなった。

 こうして両陣営は互いを仮想敵として牽制しあい、太陽系は次第に開戦前夜といった様相を呈し始めていた。時に2177年初頭である。

 

 開戦を目前として、国連が先に動いた。

 火星の小麦取り引き市場を凍結し、輸出価格を固定料金に変更したのだ。

 不作による供給不足に伴う価格の高騰を押さえるため、というのが理由であったが、提示された価格は標準の十倍に近い金額だった。また、火星の小麦は確かに不作ではあったが、それほど深刻な供給不足に陥るほどではなかった。

 穀類を配給制に切り替えたガリレオ同盟は、すぐさまやり返した。核燃料輸出価格の値上げである。

 すると、国連は小惑星帯産金属類の輸出価格値上げを行って対抗し、ガリレオ同盟は合成プラスチック製品やフレキシウム加工製品の輸出価格値上げを行うなど、両陣営の経済紛争はエスカレートしていった。

 ことが最終的に全面輸出入禁止に及ぶと、国連側は万全の戦争準備を整えた上でガリレオ同盟に最後通帳をつきつけた。

 ところが情報戦で優位に立つガリレオ同盟は、この国連の動きを察知し、部隊の再編や配置など、国連軍の出撃準備が完全に整わない内に宣戦布告を行った。

 2177年12月。

 ガリレオ同盟宇宙軍・パラス攻略部隊は、メタルハーバー沖に集結した国連宇宙海軍アステロイド連合艦隊に対し、奇襲紛いの先制攻撃をかけ、壊滅に追いこんだ。

 この、開戦璧頭のメタルハーバー先制攻撃に、ガリレオ同盟軍は三つの新兵器を投入した。

 

 ガリレオ同盟軍、3大新兵器のその1は零式多様途戦闘機。後にガリレオ同盟軍将兵には「ゼロ」、国連宇宙軍将兵には「ガラクタ人形(ジャンクドール)」と呼ばれる、人型をした汎用作戦用の多目的戦闘機である。

 ゼロはそれまでの戦闘機がスタンドオフによる長距離撃破に重点を置き、長距離攻撃火力、正面装甲の充実を目指していたのとまったく異なるコンセプトで開発された。

 すなわち軽快な運動性と強力な近接火力である。

 ゼロは敵の火線をかわしつつ肉迫し、至近距離から必殺の一撃を見舞い、敵を葬る。国連軍の戦闘機であれ、戦闘艦であれ、固定施設であれ、例外なくゼロの前に骸をさらす結果となった。

 また、ゼロは違う意味で従来の戦闘機の常識を覆す運用がされた。

 セットで開発されたオリオン級、及びオブライエン級航空巡洋艦との共用による、陸戦機械化歩兵分隊風の運用である。

 オリオン級、オブライエン級航空巡洋艦はゼロの支援用と自衛用の火力しか持たず、戦闘単位としては「ゼロキャリアー」以上の意味を持たないが、構造が簡単で且つ安価である。攻撃も防御もゼロ任せだが、足だけは速い。

 オリオン級一隻、オブライエン級三隻と搭載するゼロ20機で一戦隊。快速を生かし、高機動部隊として戦場間を高速移動してゼロを進出鬼没にさせる。20機のゼロはシチュエーションに応じて攻撃、支援、戦闘、直援など、柔軟な運用がされる。

 人型であることが、ゼロに高い汎用性を与えている。武装の交換が迅速。且つ急激な用法の変化に耐える。そして戦場を選ばない汎用性。

 ガリレオ同盟軍は、ゼロを戦線正面に大量集中投入することにより、正面装備の数的劣勢を補って、なお戦果は余った。

 あらゆる任務を兼用するため、ゼロのパイロット達にかかる負担は過酷な物ではあった。しかし、選び抜かれた精鋭ぞろいのゼロのパイロット、「ゼロドライバー」達は、機体の性能の優位も手伝ってか、メタルハーバー襲撃戦における対空戦闘キルレシオは、実に112対1をマーク。全損耗2機という驚異的な戦果を上げた。

 

 ガリレオ同盟軍の新兵器その2が、ミラージュ級潜宙艦(ステルスフリゲート)である。

 駆逐艦サイズのこの艦は、両端の尖った葉巻のような艦形をしており、武装は艦首に四門装備された魚雷発射孔と、格納式の自衛用対空兵装一式のみ。

 この艦の最大の武器は、その隠密性にある。

 ジェネレーター兼用の通常推進用のタンデムミラー型熱核エンジンの他に、隠密行動用の、赤外線発生量が三千分の一というイオン推進式エンジンを持ち、艦の内部容積の約四分の一を占める蓄熱槽は、連続最大二百時間に渡って艦の発生する熱を吸収、冷却し、航宙艦船の宿命ともいえる赤外線の放出を押さえ込む。軍用の赤外線センサーですら、よほどの近距離でしか探知不能だ。

 その独特な艦形と表面処理は、アクティブレーダー波の99.99%までを正面へは返さない。

 隠密行動中のミラージュ級を補足できる長距離センサーは、重力センサーしか考えられないが、2178年の段階で実用化に達した重力センサーはなかった。

 従って、隠密行動中のミラージュ級は極めて発見されにくく、併用される76式イオン推進魚雷の高い非発見性とあいまって、対艦、対地攻撃に、ほぼ無敵の強さを示した。

 

 ガリレオ同盟軍の新兵器、その3は軍事用のMMである。惑星開発用のMMが出す微弱な電磁波がセンサーを狂わせることは、火星における集中大量使用等である程度知られていたが、それを純軍事用に強化した物である。

 また、MMは機械なので、散布濃度や拡散の具合、発進電波の強弱やオンオフ等をコントロールできる。つまりはこれをばらまいてレーダーによる探知の妨害や欺瞞情報の発信、電子戦の中継や情報収拾用のアンテナなどにも使えるのだ。

 

 ガリレオ同盟軍のメタルハーバー襲撃作戦、「スリータイガー」作戦は、これら三つの新兵器を、実戦で連係高度運用した初の作戦であった。

 これらの新兵装の装備部隊は、国連軍の目につかないところで猛訓練と練成がされていた。

 特に2177年に入ると、ゼロとオリオン級、オブライエン級のエンジン、兵装などは新型に換装され、主力兵装として再整備された。

 オリオン級、オブライエン級、ゼロから成るガリレオ同盟軍辺境艦隊は、開戦の半年前には極秘に天王星系に集結して艦隊戦の訓練を行った。

 そして、「スリータイガー」作戦のタイムスケジュールに従い、開戦前には前方トロヤ群周辺宙域で補給を受け、メタルハーバーの監視宙域ぎりぎりまで接近し、時を待った。

 一方、12隻のミラージュ級から成るガリレオ同盟軍潜宙艦隊は、国連軍にまったく探知されることもなく、メタルハーバーの港外沖に接近を果たしていた。

 国連軍は、宣戦布告時に木星系に在ったガリレオ同盟軍の主力艦隊の動向には注意を払っていたが、辺境艦隊の動きなどにはまるで無関心であった。ましてや見えない艦隊など気付くはずもなかった。

 ガリレオ同盟軍従来の主力、戦艦打撃部隊、空母機動部隊等から成る連合艦隊は、木星系に集結したまま動いてなかった。故に、国連軍は油断しきっていた。

 

 「スリータイガー」作戦はまず破壊工作から始まった。メタルハーバーに潜入していた工作員が、ミラージュ級に便乗して来た工作員を手引きし、レーダーシステムや対空迎撃システム、固定砲台、港湾施設等を破壊した。

 メタルハーバーが混乱に陥ると、次は港外沖に潜んでいたミラージュ級の艦隊が、港内に停泊する国連軍艦艇に対し、一勢に雷撃を敢行した。

 中、短距離攻撃用の魚雷しか持たないミラージュ級にとっては射程外からの攻撃だったが、工作班が目標の艦艇にビーコンを取り付けていた。

 12隻のミラージュ級から放たれた計48本の魚雷は、無慈悲なまでの正確さで、目標とされた駆逐艦22隻を、1隻あたり2本の命中で撃沈させた。

 残り4本の魚雷は別に外れたわけではなく、軍事用ジャミングMM(JMM)が詰められており、メタルハーバー付近に散布するのが目的だった。

 最初の破壊工作で潰されたレーダー施設を、代替装備によって回復し掛けたメタルハーバーの”目”は、またもや完全に潰された。艦隊の電子戦用艦艇すら盲目状態に陥っていた。

 セレス近傍宙域に待機していたガリレオ同盟軍辺境艦隊は、潜宙艦隊による雷撃の成功を確認し、ゼロ全機をメタルハーバーへ出撃させた。

 メタルハーバーの国連軍艦艇は、目標を捉えるセンサーやレーダーが効かず、基地の対空迎撃システムは沈黙し、艦隊を敵機から守るべき駆逐艦は雷撃により全て撃沈され、姿を消していた。ゼロの攻撃隊は、そこへ殺到した。

 唯一迎撃に出撃した国連軍の基地航空隊、及び空母搭載の戦闘機群は、戦闘官制の誘導もままならない完全有視界戦闘という、かつて一度も経験したことも無い状況に置かれ、ゼロの前に為すすべも無く撃墜され、実に224機が未帰還となった。

 そしてメタルハーバー港内に突入を敢行したゼロの攻撃隊は、ほとんどゼロ距離からのピンポイント攻撃により、港内の国連軍主力艦艇をことごとく行動不能に追いこんだ。

 まさしく、230年ほど前の日本海軍によるパールハーバー奇襲の再現、いや、それ以上であった。

 国連軍の艦艇はメタルハーバーから出ることも許されず、一方的に叩かれた。

 四波に及ぶゼロの反復攻撃により、メタルハーバー駐留の国連軍は壊滅的打撃を被った。若干のインターバルを置いて第五波の攻撃準備を整えたガリレオ同盟軍辺境艦隊は、国連軍に対し、降伏を勧告する。

「脱出する輸送船の追撃はしない」という確約を取った国連軍の司令官に、選択の余地はなかった。

 かくして、小惑星パラス、その重要軍港メタルハーバーは、再びガリレオ同盟軍の手に落ちた。

 国連軍の兵は意図的に攻撃から討ち漏らされた輸送船に分乗し、ジュノー、火星方面へ後退していった。

 辺境艦隊の後方で待機していたガリレオ同盟軍海兵隊はゼロ隊の援護の下、国連軍が引き払った後のメタルハーバーに上陸し、パラス全域を速やかに占領下に置いた。

 そして主力艦隊に護衛された輸送部隊と設営部隊が到着すると、メタルハーバーの再根拠地化がガリレオ同盟軍の手によって行われ始めた。

 物資の輸送は途切れずに行われ、ガリレオ同盟軍は小惑星帯制圧のための前線基地を着々と築きつつあった。

 一方、緒戦にまたも敗れたとはいえ、国連軍は小惑星帯を譲る気はまるで無かった。

 アステロイド連合艦隊を失っても、数的優勢は国連側にあった。国連軍は火星軌道内側の防備を固めると、余剰戦力、物資を小惑星ジュノーに集中させ、小惑星帯決戦の構えを見せた。

 両軍はパラス、ジュノー間に前線を形成して対峙しつつ、後方の補給線を確保し、物資の備蓄に勤めた。そしてお互いの補給路に対し、通商破壊戦を展開していた。

 かくして戦線は膠着状態に陥っていた。


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