「真説?パーティーズ・ブレイカー」
黒瀬文喜知
 
序章「有馬協定」
 
 二00×年十二月末日、二十三時。兵庫県有馬町、猪ノ坊旅館。
 そのとある一室に、下は十四歳から上は二十×までの、うら若き乙女(?)達が十一人、一つのちゃぶ台を囲んでいた。
 狂乱を極めた宴会も終わり、どたばたした入浴も一段落し、全員が大晦日の、残り少ない今年を静かに過ごそうとした矢先に、由宇が招集をかけたのであった。
「いったい何なのよ、パンダ〜。こんな夜中に来いだなんてぇ。ちょ〜ムカつくぅ〜。」
 詠美は由宇を指して喚いた。背後では佳境を迎えつつある紅白歌合戦が、つけっぱなしのテレビから音量を押さえてBGMよろしく流れている。
「そうよ猪名川さん。一体何の用よ。」
 瑞希は不機嫌そうに言いながら、肩から前に流れてくる長い髪を、手で仕切りに背中へ流した。寝る前なのでいつもの横ポニーにはくくっていない。くくっていても余裕で腰まである髪は、実は同じくロングである彩やすばるよりも遙に長い。座布団にぺたんと座った今では、先端が畳に触れていた。
「わたし、もう眠いです。」
 瑞希の横で郁美は本当に目を擦っていた。その目で、横の瑞希の髪やら胸やらに交互に目をやり、「むむっ…」だの、「わ、わたしだって、あと五年もすれば…」だの、ぶつぶつと独り言とも寝言ともとれないような呟きを漏らしていた。
「そうよ由宇ちゃん。私達はともかく、郁美ちゃんや千紗ちゃんみたいな中学生もいるんだから、用があるなら早く済ませてくださいね?」
 南は人差し指を立て、横に振りながら諭すように言った。
「にゃあ。南のお姉さん、千紗、高校生ですぅ〜。」
 南の横で千紗がにこにこしながら訂正した。
「あらあら、ごめんなさい。」
 南はほほに手を添え、千紗にぺこりと頭を下げた。
「あの、私、今ついたところで。とりあえずお風呂に行きたいんですが…」
 鈴香はライダーズハーフジャケットを脱ぎながら控えめに言った。東京から休み無くバイクで走ってきたためか、顔が幾分青ざめている。全員が初めて見たであろう私服姿は、スキージャケットのようなごついオーバーオールにタートルネックのセーターだった。真冬にバイクだから、それなりの格好ではあるが。
「どうぞ…少しは、暖まりますよ。」
 彩は鈴香の前に、いれたてのお茶をそっと置いた。
「あ、ありがとうございます。」
 礼を言いながら、鈴香はいそいそとお茶をに口を付けた。体が冷え切っているようだ。
「ぱぎゅ〜。年末スペシャルの忠臣蔵、これから討ち入りのシーンですの。早く部屋に帰って、続きを見たいですの。」
 すばるはジト目で由宇を見た。
「にゃに〜?それってジョニーズのけっこう出てるやつのこと〜?アレって今日だった?」
 すばるの話を聞いて玲子は慌てて部屋の隅に転がっていた新聞を取り、ラテ番に目をやった。
「ぱぎゅ?じょにーず?」
 すばるは首を傾げた。
「にゃんと〜、この玲子サマともあろうものがチェック漏れとは〜っ!…まぁ、いいやミホかまゆか夕香がビデオ録ってるだろう…借りよ。」
 玲子はいじいじと畳にののじを書き始めた。
「…よっしゃ。全員そろてるようやな。」
 由宇はちゃぶ台を見渡し、一人足りないことに思い当たった。
「ん?あさひちゃんはどこや?」
 一同がきょろきょろと部屋を見渡すが、あさひの姿はない。
「すすすすす、すいません!わわわわ、わたし、ちょ、ちょっと、そ、そのレレレ、レコーディングに…」
 ふすまを開け、あさひが姿を見せた。慌てて空きスペースに座り込む。
「ふみゅ?れこーでぃんぐ?」
 詠美は首を傾げた。その他、メンバーの大半は同じように首を傾げていた。
「録音、つまり、『音を入れる』に引っかけたギョーカイ用語や。」
 由宇の解説に、瑞希はポンっと手を打った。
「あ、なるほど。」
 瑞希と同じように首を傾げていた面々は、それぞれ納得した面もちで肯いた。
「そそそ、その、ええ宴会でびび、ビール、の、飲み過ぎちゃったみたいで…」
 あさひは頬に手をやって恥ずかしそうに微笑んだ。
「ふみゅ?ふみゅ?ろくおん?なに?どーして?」
 詠美が一人、頭の上にハテナマークを延々浮かべながら悩んでいた。
 
「…さて、皆に集まってもうたんは他でもない、そろそろ決着を着けなアカン、そー思うたからや。」
 ひとり悩み続ける詠美をよそに、由宇は話をはじめた。
「決着って、何の?」
 瑞希が控えめに訊いた。由宇はにやりと笑った。
「またまた。瑞希っちゃ〜ん。わかっとるクセに。もう、いややわー。」
 由宇は笑いを納めて眉をつり上げ、瑞希を睨みつけた。
「このメンツでトランプするとでも思うたか?和樹のことしか無いやろうが!」
 その瞬間、部屋にどどーん、と雷が落ちた…ような気配を全員が感じた。部屋が暗転し、大音響の効果音と共に、一筋の稲光が駆け抜ける、そのような気配だ。漫画的表現で言うなれば、『超気合いの入った集中線にベタフラッシュ』だ。…とにかく、全員が絶句した。
「…ななな、何…」「ちょっとパンダーっ!あたしのポチきがなんだってゆーのよ!」
 唇をふるわせた瑞希をよそに、詠美が立ち上がって叫んだ。
「じゃかあしぃっ!ダレがオンドレのじゃーっ!」由宇のハリセンが一閃した。
「聞き捨てならないわ!」瑞希の幻の左が炸裂した。
「あらあら、詠美ちゃん。いけないわ。」南のフリッカーは、詠美のアゴにヒットした。
「和樹さんは…和樹さんは!」郁美のオーラが、物理的な衝撃波と化して詠美を襲った。
「詠美のお姉さん、千紗は、千紗わ〜っ!」千紗のねこぱんちは、詠美のボディを捉えた。
「待ってください!」鈴香はライダーズグローブを詠美の顔面に投げつけた。
「あなたのじゃありません!」彩は出涸らしのお茶パックを指で弾き、詠美に飛ばした。
「ぱぎゅうっ!」すばるの掌底は、詠美のレバーを抉った。
「かかか、和樹さんはっ、私と!」あさひの放ったCDは、詠美の髪を一房切り取った。
「だめよ〜?せんどーくんはっ!」玲子の熱いコブシが唸った。
 ずどどど、びしっ、ばしっ、どか、ぺち、びち、どん、すぱ、ばちこーんっ!十HIT!
 詠美の体は宙を舞った。
「…ふみゅ〜ん…」
 畳に沈む詠美。目はなるとうずを描いて回っていた。
「やはり、決着つけなアカンようやな。」
 由宇はくいっ、と眼鏡を指で押し上げた。不敵に微笑む。
 今の詠美の一言に対する反応が、全員の感情を物語っていた。そして、全員がお互いを恋敵と認識した。牽制し、ガンを飛ばしあった。
「…ここで、今から?」
 テニスのレシーブスタイルに似た、変則サウスポーのヒットマンスタイルに構えた瑞希が、わずかに微笑みながら由宇を睨みつけて言った。
 その一言で、全員が戦闘態勢に切り替わる。殺気が部屋中に充満した。
「まぁ、そう慌てなや。今は確かめたかっただけや。…みんな、譲られへんのやな。」
 由宇はハリセンを仕舞った。張りつめていた気を緩め、にこっ、と微笑む。瑞希はため息をついて、構えを解いた。他のメンツも戦闘態勢を解除する。
「やれやれ、相変わらず空気の読めんやっちゃな〜。ホレ、詠美ちゃ〜ん、生きとるかー?」
 由宇は詠美にそばに行き、抱き起こして活を入れた。
「…う〜ん…アレぇ?ココどこぉ?…やだぁ、パンダのどあっぷぅ…ゆめに出そぉ…」
 気の付いた詠美は、うつろな瞳であたりを見渡した。
「この。もういっぺん、ヤキ入れたろか?」
 由宇は、拳を震わせた。
 
「さて、全員和樹にホの字、かつ、誰にも譲れない。ココまではええな?」
 仕切り直した乙女達の秘密会談。一同は由宇の問いに、全員静かに肯いた。
「けど、由宇ちゃん。私達がどうこうしても、最終的には和樹さんの気持ち次第でしょ?」
 南の言うことに、全員がうんうんと肯く。
「うーん、流石は牧やん。もっともな意見や。そこで、ゲストの登場や。大志はーん!」
「うむ。呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃ〜ん、なのだ。ご機嫌麗しゅう、ま〜いしすたーず。」
「あ、お兄さんの友達の、変なおに〜さんですぅ。」
 千紗の言うとおり、ばしん!とふすまを開けていきなり登場したのは、何と言うか、やはり久品仏大志、その人であった。いつものジャケット姿でなく、湯上がりの浴衣に半纏の温泉スタイルが、妙に似合っていたりする。
「…で、何でコイツがゲストなの?」
 全員を代表して、瑞希が大志を指さした。
「ふっふっふ。いい質問だ、まいしすたー瑞希。」
 大志はどこかの坊ちゃん北米方面司令官のように、長い前髪を指に巻き付けた。
「我輩と同志和樹は幼い頃からの竹馬の友。そして今や我々は一心同体。お互いはもう一方の分身。互いがその半身なのだ。」
「あんたのそのカンチガイは聞き飽きたわ。一体何しに現れたのよ。」
 瑞希は握りしめた拳をぶるぶると震わせた。
「なんと、わからんのか、同志瑞希。」
 大志は大げさに肩をすくめた。
「我が輩と同志和樹は一心同体。ならば、奴がどの婦女子に最も興味があるか、などといったことは、手に取るよーに解る、そう言うことだ。」
 その瞬間、びしっ!と言う効果音の共に、部屋の空気が凍り付いた。…ように全員には感じられた。
「そんなの、じょていであるこの詠美ちゃんさまに決まってるじゃ…」
 立ち上がって拳を振りあげた詠美に、十人分の殺意を含んだ視線が突き刺さった。
「…ふ、ふみゅ…」
 詠美は、しおしお〜っ、とへたり込んだ。
「…聞かせてください。和樹さんは、誰のことが好きなのですか?」
 震える小さな声で、一歩踏み込んで訊いたのは、なんと彩だった。
「うむ、よかろう。」
 大志は眼鏡を指で押し上げた。
「ここしばらくの間の奴の様子、行動などから、長年連れ添った我輩の経験から言って…」
 大志はそこで一端言葉を切り、十一人の乙女達を見渡した。そして、その中の一人に指を突きつけた。
「同志、瑞希。」
「へ?」瑞希は目をぱちくりと瞬かせた。「わ、わたし?」
 大志はこくりと肯いた。 
「やっぱムネか?ムネなんかぁ〜?」「ちょ〜むかつくぅ〜!」「あらあら。」「生まれてくるのが五年遅かった、それだけなのにぃ〜!」「胸なら、私だって…」「にゃあ、にゃあ!」「ぱぎゅうっ!」「せんどーくんの、ばかぁ!」「かかか和樹さん、わわ、わたし…」「やっぱり、そうなんだ。…はは、わかってた、解ってたけど…」
 瑞希は頬を赤らめて座り込み、他の十人は絶叫する者、いじける者、困る者、悔やむ者、驚く者、エトセトラ。
「落ち着きたまえ、まーい、しすたーず。同志瑞希のリードは、わずかなものでしかない。」『え?』十一人分、見事に重なった。
「どういうこと?」
 瑞希が眉をつり上げて大志に迫った。
「ふむ。実のところ、同志和樹が今最大の関心を払っているのは、奴自身の同人活動。婦女子の事は二の次。正直言ってここにいる誰のこともドングリの背比べ…その中でも、同志瑞希が、ピーチのコスプレでクビ一つくらいのリード、と言うところか。」
「と、言うことは、大志はん。」
 由宇が眼鏡を押し上げ、大志に水を向ける。
「うむ。ラブラ〜ブなイベントの一つも起こせば、十分逆転可能だ。」
「そ、そんなぁ〜」
 へたり込む瑞希をよそに、他の十人は「よっしゃあっ!」とガッツポーズ。
 
 ひとしきり説明を終えた由宇は、全員を見渡した。
「…さて、主旨は解ってもらえたやろか?」
「ふふふ〜ん。つまりぃ、勝てばいいんでしょお?コレでポチきはめいじつともにこのクィーン詠美ちゃんさまのしたぼくよ〜。」
「さっぱり解ってへんやないかっ!」由宇はハリセンで詠美の後頭部をはたいた。
「ふみゅ!」詠美は後頭部を押さえてへたり込んだ。
「えっと、優勝者は、春まで和樹さんに自由にアタックできる。敗者は、自分からは会うのも声をかけるのも電話もダメ。街で見かけても隠れる。…きびしいですね。」
 鈴香が指折り数えて確認した。
「それでも、和樹から尋ねていくなり、電話がかかってくる分はしゃあないわな。この点は印刷屋の千紗ちぃや瑞希っちゃんが有利や。しかし、この辺がメリットの限界やろ。」
 全員が静かに肯く。
「とりあえず、バレンタインまでにケリつけるで。ええな?」
 南が手を挙げた。
「なんや、牧やん。」
「由宇ちゃん、本当に、その、ケンカで決めるの?やっぱりそれはいけないんじゃないかしら。」
「せやったら、他に何がある?」
「部数勝負よ!」詠美がしゅたっ、と手を挙げた。
「黙れ。」再び、由宇のハリセンが一閃した。
「ふみゅ〜ん…」沈む詠美。
「そりゃ、ウチもマンガやアニメやゲーム関係でケリつけたいトコやけどな、それやと有利不利がデカ過ぎるんや。それに、愛は戦って、勝ち取ってナンボやろ?」
 南は、渋々手を下げた。
「時間無制限、一本勝負。勝敗は一方の戦闘不能まで。ギブアップ有り。引き分け無し。直接殺傷力の無い物に限り、得物の使用可。…そんなもんか。全員、意義無いな?」
 手は、上がらなかった。
「ほな、一人一枚、引いてもらおか。」
 言いながら、由宇はくじの入った箱をちゃぶ台に置いた。





















△千堂和樹争奪杯・ストリートファイトトーナメント表
 
「よっしゃ、厳正なる抽選の結果、対戦が決まったで。一回戦の三試合は1月こみパの午前中。二回戦の四試合は同日の午後。いずれもこみパの会場で突発エキシビジョンイベント、ちゅう形でやる。牧やん、手配頼むで。」
「…しょうがないわね。」
 南はため息をついて肯いた。
「うふふふ。一回戦の第1しあいからいきなりメーンイベントね。にっくきパンダを最初にほうむれるなんて、ちょおラッキーだわ。」
 詠美は不敵に笑った。
「そらこっちのセリフや。手加減無しで、『もうやめて下さい、猪名川様』ちゅーまで、徹底的に泣かしたる。覚悟しときや!」
 約一ヶ月後の試合を前に、由宇と詠美は早くも激しく視線で火花を散らした…って、いつものことか。
 戦いはすでに始まっている。十一人の乙女達は挨拶も交わさずに次々部屋を立ち去っていった。もうすぐ十二時。年が明ける。明日は初詣だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ROUND 1 「猪名川由宇 対 大場詠美」
 
 一月こみパ、午前十一時。一般入場がはじまって一時間。シャッター前に陣取った超大手サークル「CAT or FISH!?」の前にあった長蛇の列は、早くも数十人を残すのみとなった。
「詠美んトコ、なんぼ午前完売がいつものことやっちゅーても、今日は早過ぎるな。」
 そろそろ第一試合の刻限と思って来てみれば詠美のスペースはいつもと様子が違う。由宇は、試合前にこちらを攪乱する策か、と考えた。
「むぅ、キャットオアフィッシュ、今回は手抜きでござらんか?」
「そ、そうなんだな。新刊三冊同時って噂もあったのに、一冊、そ、それもペラペラの十六ページで、しかもえ、えんぴつなんだな。背景も、やたらと白なんだな。」
「いかん、いかんでござるな〜。大場詠美は最近調子に乗りすぎでござる。」
 通りすがりのヲタクの会話がよぎる。
「なんやて?」
 由宇は、首を捻った。詠美のちゃらんぽらんはいつものことだが、それにしても非道すぎる。六十ページを越えるならともかく、たったの十六ページならば、詠美が本気を出せば一週間で仕上げまできっちり出来るはずだ。
「たったの十六ページがペン入れも出来んほど…時間がなかった?」
 第一試合は十一時十分開始で、場所は詠美のスペース前。整理のためのスタッフが集まってきた。
 試合開始一分前。スタッフが場所を空け始めるが詠美のスペースはその3分前に完売し、スタッフが整理しなければならないほどの人は残っていなかった。
 詠美は、頼まれたスケブをこなしていた。
『レディース・えーんど・ジェントルメェーン。これより、準備会による突発エキシビジョン・イベントを開始する!』
 タキシードを着込み、マントを羽織った大志が現れ、スタッフの用意したお立ち台に立ち、ハンドスーピカーを使って叫んだ。突然の騒ぎに、なんだなんだと人が集まってくる。
『諸君。これは、こんな騒ぎを起こしてはイケナイ、という教訓を込めての、ストリートファイトのデモンストレーションであーる。肝に銘じてくれたまえ。』
「…よう言うわ。」
 自分が仕組んだことは棚に上げ、由宇は毒づいた。
『赤コーナー、炎の萌え萌え仕事人、関西同人界の覇者、熱血眼鏡っ娘!サークル辛味亭主催、九十二パウンド二分の一〜っ、いながわーっ、ゆーぅーっ!』
『いぇーっ!』なんだかんだとノリのいいヲタク達が歓声を上げた。
 由宇は歓声に手を挙げて応えながら、スタッフの人垣が作る輪の中、リングに上がった。
『青コーナー、現役女子高生にして大手同人作家、売り上げ部数ナンバーワンを誇る同人界のクィーン!サークルキャットオアフィッシュ主催、九十四パウンド四分の三〜っ、
おおばーっ、えーいみーっ!』
『詠美ちゃんサマー!』『外ハネショートマンセーっ!』『八重歯萌えーっ!』
 由宇より明らかに多い声援をバックに、詠美がリングに上がってきた。
「…詠美ィ、あんた。」
 詠美のパーカーの裾からのぞく、生傷とバンソコだらけのナマ足を見て、由宇は不敵に笑った。
「ははーん。まあ、やるだけのことはやってきたみたいやな。」
 天才だとかうそぶいているが、詠美が実は努力派なのは、由宇や南を含め、ごく少数の人間しか知らない。原稿に手を抜いた分、修行してきたのだろう。
 詠美は由宇に人差し指を突きつけた。
「パンダぁっ!今日はポチきのことだけじゃなく、コレまでのインネンぜんぶにけっちゃくつけてやるわっ!」
 闘志剥き出しで吠える。由宇は、にまぁ、と笑った。
「上等や、大バカ。ウチも今日はきっちりイワしたる。」
 視線が空中で火花を散らす。
「はい、両者、来て。」
 審判役らしいスタッフが手招きする。
「…って、真紀はん?」
「マキちゃんがなんでそんなカッコしてんの?」
 由宇と詠美は、スッタフ衣装を着込んだコミックZ編集長、澤田真紀子女史を見て絶句した。
「好きで着てるんじゃないわよ!…南に頼まれたのよ。『公正な立場を保てるのは先輩しかいないと思うので、お願いします』、ってね。私だって、暇じゃないのに…」
 澤田編集長は、頬を赤らめながら、ぶつぶつと文句をたれた。
「まぁ、確かに真紀はんやったら安心やわ。しかし、後輩の頼みとは言え、ご苦労さんやなぁ」  
 小声で『写真撮っときたいわ』と付け加え、由宇はにたにたと笑った。
「南には色々と借りがあるのよ。…さて、勝負は時間無制限の一本。ギブアップ有り。どちらかが戦闘不能と私が認めるまでよ。刃物や鈍器など、殺傷力の有るもの以外なら得物を使ってもかまわないわ。それ以外は基本的にルール無用だけど、目つぶしなどの悪質な行為は反則と見なし、即失格にします。いいわね?」
「コレは?」「あ、あたしも。」
 由宇は愛用のハリセンと、ペンを出した。詠美もペンを出す。
「いいわ。ただし、そのペンで故意に目を狙うのはダメよ。」
「わかった。」「わかったわよ。」
 由宇と詠美は肯いた。再び、お互いの視線を闘わせる。
「それじゃあ、はじめるわよ。いい?」
 由宇は、パーカーを脱ぎ捨てた。下はいつもの長袖TシャツとGパン。
 詠美もパーカーを脱ぎ捨てた。その下は…。
「な、なんやてっ!」由宇は思わず後じさった。
「ふっふっふっ。」詠美は不敵に笑った。
 周りを取り囲んだギャラリーから、おお〜っ、と嘆息が重なる。
「ぶ、ぶるまぁ〜だっ!」「ぶるまバンザイ!」「ぶるまマンセーッ!」
 歓声と共に、カメラのフラッシュが瞬いた。
 詠美のパーカーの下は、ぶるまだった。由緒正しい学校指定の体操服。
 白い運動着の胸には、ご丁寧に『3−C 大庭』と大きく書いたゼッケンまで張られていた。それがまた、サイズにするとそうでもないのに、華奢な体つきに不相応と言ってもいいカップのムネを強調している。
「み、見事な心理戦や。大バカにしては考えたな。不覚にもチョイ萌えや…」
 言いながら、はぁはぁと荒い呼吸をしている由宇は、ちょっとアブなかった。
「しかし…しかし、ツメが甘いで、大バカ詠美ぃっ!上着はぶるまの中に入れなアカン!」
「え?」詠美の上着の裾は、ぶるまの外に出ていた。
「し、しまった、キムラ派かっ!」詠美は慌てて上着をぶるまにたくし込もうとした。
「ファイッ!」カーン。澤田編集のファイトコールと、無情のゴング。
「遅いわぁっ!」
 上着をぶるまにたくし込もうとした、その動作に気を取られたのが隙になった。
 由宇がハリセンを中村ノリばりにフルスイング。詠美の顔面を真芯で捉えた。
 ズガーン!「ふみゅ〜ん」
 詠美は吹っ飛ばされて、スタッフの人垣が作るリングの端まで飛んだ。
『おーっとぉ!猪名川先制だぁっ!ハリセンがジャストミートォッ!』
 大志の実況がうるさく響き渡る。
『いかがですか、解説の立川さん。』
『マトモに入ったな。アレはたまるまい。』
 いつの間にか詠美のスペースに実況席が設けられていた。大志の横に、こみパでよく見かけるガクランの大男が座っている。
 由宇は追い打ちに行かなかった。
「詠美、立ちや。起きあがりの足技なんざお見通しや。」
 飛ばされて、地面に寝ていた詠美は、ずばっと起きあがった。
「ふふん。かうんたーでしずめてやろうとおもったのに。」
 詠美の手にはペンが光っていた。
「ミエミエやっちゅーねん。…飛び道具戦か?受けて立つで。」
 由宇もペンを取りだした。
『皆様、流れペンにご注意下さい。』大志がギャラリーに注意を喚起する。
「くらえパンダぁっ!女王のペンっ!」
 詠美が手裏剣よろしく、次々とペンを放った。
「食らうかっ!」
 由宇はハリセンで詠美のペンを全てはじき返した。
「今度はこっちの番や。行くでぇ、大バカ!炎のペンッ!」
 由宇はピッチングのフォームからペンを投げた。ペンは、炎に包まれて飛んでいく。続け様に2本、3本。
「わわっ!」
 詠美は連続バク転でかわしていく。会場の床面に、炎をまとったペンが刺さっていく。
「ちょっとちょっとパンダぁ、なんで、なんでペンから火がでるのよぉっ!」
 詠美は由宇に人差し指を突きつけて喚いた。
「ふふん。それはなぁ…」
 由宇は人差し指を立て、ちっちっちっ、と横に振った。
「それは?」
「乙女のひみつや。」
 ぶち、と音を立て、詠美の中で、何かが切れた。
「あたまキタ。」
 詠美の両手の指の間に、計6本のペンが挟まれていた。
「ふふん。」
 由宇もハリセンをTシャツの背中に仕舞った。両手の指に、同じくペンを6本。
『立川さん、一体何が始まるのでしょうか?』
 大志が隣の雄三にマイクを向ける。
『荒れるぞ。』
 雄三は、その一言だけ言って黙り込んだ。
『はぁ。』
 由宇が先に仕掛けた。
「炎のペン、連弾撃っ!でやでやでやでやでやでやでやぁ〜っ!」
 由宇が両腕を振るうと、炎をまとったペンが、5,6本まとめて飛んでいく。それも続け様に。その様子は、まるで炎のシャワーだった。
「なんの!女王のペン、みだれうちっ!とりゃとりゃとりゃとりゃとりゃとりゃあ〜っ!」
 詠美も両腕を使って大量のペンを投げつけた。
 両者のペンは互いを結ぶ空中の軌道上でぶつかった。キンキン、と、ペン先同士が部ぶつかる小さい金属音がいくつも聞こえる。弾け合ったペンがあさっての方向に飛ばされ、ギャラリーに降り注ぐ。
「どわー!」「ひえーっ!」「うわー!」
 巻き添えを食ったギャラリーが引いていく。
 激しい飛び道具戦は、しかし三十秒も続かなかった。由宇と詠美は距離を置いて睨み合ったまま、肩で息をしていた。直撃はなかったようだが、両者とも服のあちこちに切れ目ができ、肌にも小さな切り傷がたくさんできていた。
『両者、タマが切れたな。』
 飛んできた流れペンを全て手刀で叩き落とした雄三が、ぽつりと言った。
 荒い呼吸をしていた由宇と詠美は、ほぼ同時に呼吸を整えた。
 由宇は背中からハリセンを取りだし、右前の抜き打ちのスタイルに構えた。
 一方、詠美は軽く拳を握り、左前の、やや右足に重心をおいた半身のスタイル。
 互いにじりじりと間合いを詰める。リーチは得物を持つ分、由宇が有利だ。ただし、身長は詠美が若干高く、手足のリーチも若干長い。
 得物を持たない詠美が先に動いた。右足を大きく踏み込んで、いきなり背を向ける。
 大技を警戒し、由宇はガードに備えた。
「!」
 次の瞬間、詠美の肩越しに左足の踵が由宇のハリセンを狙って振り下ろされてきた。
 浴びせ気味の裏回し蹴り。踏み込んだとはいえ、とんでもないリーチだった。
「ひょうっ!」
 由宇は慌ててバックステップでかわす。続けて、床に沈んだ詠美は、地を這うような右の回し蹴りを放った。
「おっと!」
 由宇はジャンプでかわす。着地したと思ったら今度は右のハイキックが来た。今度はダッキングでかわす。ようやく詠美に隙ができた。由宇は踏み込んでハリセンを振りに行こうとした。詠美の左の踵が浮いている。
「しまったっ!」
 詠美の右ハイキックとコンビネーションだった左サイドキックは、カウンター気味に由宇の鳩尾に入った。
「ぐはぁ!」
 由宇の体が九の字に曲がって横に飛ぶ。尻から着地した由宇は、その勢いで後転し、また尻から床にびたーん、と打ち付けられた。
『おっとぉっ!クィーン詠美ちゃんさまの左サイドが炸裂っ!猪名川ダウンか〜っ!』
『マトモだな。しかもカウンターだ。じわじわ効くぞ、アレは。』
 ギャラリーが沸く。
「ふふ〜ん。ぱんだぁ、こうさんするなら今のウチよ〜。」
 詠美は余裕を見せ、追い打ちに行かなかった。
「ぬかせっ!これしきで沈むかぁっ!」
 由宇は腹部を押さえながら立ち上がった。
(しかし、足クセの悪いやっちゃな〜。しかも、速い。あの足ワザ、どないかせんと…足技?そう言えば、詠美の奴、パンチの一発もないな…確かめるか。)
 由宇は息を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出した。
「行くでぇ。」
 ダッシュで踏み込み、得物のリーチを生かすように、ハリセンを上段にフルスイング。
 しゃがんでかわした詠美の動きが止まる間に、間合いを詰めてローキックに行く。
 詠美は跳んでかわした、いや、跳んだ体に、ひねりが入っていた。
「クィーン・トルネードッ!」
 一般には”延髄切り”の名称で知られる空中回し蹴りが、由宇の首を襲った。
 ばしんっ。受けたハリセンがたわむ。由宇は読んでいた。
「ちぃ!」
 着地した詠美の足を、由宇のハリセンが狙う。詠美は高く跳んでかわした。
「クィーン・ヒールッ!」
 空中から、ライダーキックばりの飛び込み攻撃。鋭い踵を、由宇はステップバックでかわす。これも読み切っていたような、余裕の回避だった。続けて、詠美は着地したしゃがみ姿勢から踵を由宇のアゴめがけて真上に蹴り上げた。由宇はスウェーでかわす。続けざまのハイキック+サイドキックのコンビネーションも余裕のステップバックでかわした。
「はぁ、はぁ…ムカツくぅ〜。なんで当たらないのよぉ〜。」
 立て続けの大技が不発に終わり、詠美は肩で息をしていた。
「そらあんた、足技しか来ぇへんてわかっとったら、避けるのはワケないわい。」
 由宇はためいき混じりに言った。詠美はビクッ、と、一瞬硬直した。
「…図星か。大バカ、あんた、手ぇが使えンのやな。」
 詠美はふんぞり返った。
「ふ、ふふん。しょぼしょぼなパンダ相手には、ちょうどいいハンデよハ・ン・デ。」
 なんだかんだで付き合いの長い由宇には、バレバレの虚勢だった。
「おおかた、無茶な特訓でもして痛めたンやろが…ったく。」
 由宇はワザとらしいぐらいに、盛大なため息をついた。
「…その若さで、こみパ最大手の同人作家。今の作風にはチぃと問題有るけど、性根入れ替えて真剣に打ち込んだら、こみパどころか、商業誌の世界でもクィーンになれるかも知れんアンタが、見所があるとはいえ、ビギナーでぺーぺーの男に入れ込んで、万年中堅のウチなんか相手にムキになってぇ。マンガ描きの命の手ぇまで壊して。…なんでやねん。和樹の何が、アンタをそこまでさせるンや…」
 詠美は顔を伏せた。
「…ポチは、かずきのマンガには、あたしが置いてきたものがいっぱいつまってる…」
 詠美の声は震えていた。
「かずきと一緒なら、あたしもとりもどせるのよ。あの、キラキラしたものが…」
 詠美は顔を上げた。まっすぐに由宇を見返す。
「だからっ!だれにもゆずれないっ!あたしはかずきといっしょにマンガを描いていくのよ!だれにも…アンタにも!じゃまはさせないんだからぁっ!」
 一気に言い切った。感情が高ぶり、肩で息をしている。
「ふん…」
 由宇は軽く息を吐き、眼鏡を押し上げた。
「あんたの想い、刻んだでぇ。」
 由宇は口の端をつり上げた。嬉しそうに。
「いっちょ前に、苦しんで、もがいとったんやなぁ。」
 ハリセンを下段に構える。笑いを納めた。
「今、楽にしたる…さぁ、来ぃや。」
「楽になるのは、アンタよっ!ミラージュ・キィィーックっ!」
 詠美は跳んだ。空中で身を捻り、ローリング・ソバットを斜めに打ち下ろしながら由宇に向かって飛び込む。
「甘いわぁっ!」
 由宇は間合いを見切り、ステップバック。詠美の飛び込みソバットは空を切り、着地。そこを狙って由宇がハリセンのスイングを叩き込もうとした時、詠美の足が跳ね上がった。
「!」
 着地した詠美の右足が、恐ろしい勢いで振り上げられる。それは打撃を狙ったものではない。振り上げた足の勢いを呼び水に、質量を支えにして、本命の左足が空中に弧を描く。描かれた弧状の軌跡の途中に、由宇のアゴがあった。
「がはっ!」
 由宇の体が宙に舞う。詠美の体は空中で後方に宙返りし、足から着地した。遅れて、由宇の体も背中から床に落ちる。何とか頭から落ちるのは回避した。背中が叩きつけられる。
「これで、ダウンよ!」
 勝利を確信した詠美の声を聴きながら、由宇は体の調子を確かめる。
(アタマはハッキリしとる。腕はいける。ちょっと足にキタな。背中が痛いが…いける!)
「猪名川さん、立てる?」
 澤田編集長が覗き込んでいた。由宇は応えず、かわりに飛び跳ね起きた。
「おおきに、真紀はん。」
 澤田編集長は、軽く微笑んで由宇から離れた。
「なんで立つのよっ!」
 必殺を確信した詠美が、驚くよりも怒りを露わにして由宇を睨んだ。
「コンビネーションからサマーソルトか。詠美ちゃんさまのサマーソルト…『チャンサマー』ってか?ナカナカシャレが効いとるやないか、詠美ィ。…せやけどなぁ、関西やったらその程度のシャレは、通用せぇへんのやっ!」
 由宇はハッタリをカマした。実際は相当に辛い。もう一発食らえば、間違いなく沈む。 詠美の振り足に驚いて咄嗟に勢いを殺さなければ、カウンターで終わっていた。
「泣かすぅ…ちょお泣かすっ!」
 詠美が構えた。由宇は詠美のぶるまからのびた足が、小刻みに震えているのを見逃さなかった。脅えているとか、武者震いの類ではない。
(細くて長くて、綺麗な脚や。そんな華奢な脚であんなワザ出しとったら、もたんわな。)
「温泉パンダは神戸の山おくに帰れっ!」
 かけ声と共に詠美が跳んだ。再び、ミラージュキック・コンビネーション。初撃の打ち下ろしソバットが由宇に迫る。
「二度も食らうかぁっ!ひっさぁぁぁーつっ、飛翔斬っ!」
 由宇は低く構えた抜き打ち姿勢から、全身をよじって跳んだ。竜巻のような勢いで旋回しながら上昇する。跳躍と回転の遠心力がプラスされたハリセンが、詠美のソバットを跳ね返した。続けて、回転しながら空中で二撃、三撃。それぞれ詠美の腹部とアゴを捉えた。

「ふみゅぅぅぅ〜…」
 詠美は全体重、プラス落下の加速度、加えてソバットの回転力がかかっていたところに、その全てを三重のカウンターで返された。
 由宇の着地と、詠美の落下はほとんど同時だった。詠美は受け身もとれなかった。
「詠美ィ、アンタはようやった。しばらく寝ときぃ。」
 ギャラリーが水を打ったように静まりかえる。由宇はしばらく詠美が動かないのを見届けてから背を向けた。
「…待ちなさいよ、ぱんだぁ…」
 由宇は驚いて振り返った。詠美が立っていた。しかしその脚はよたつき、まともに立つことすら辛そうで、全身も震えていた。そのおぼつかない足取りで、由宇に向かってくる。
「あたしは、負けないんだからぁ…」
 詠美の震える左手が、由宇の胸ぐらを掴む。右腕が後ろに引かれた。
「…詠美、やめや。ペンが持てんようになるで…」
「かずきといっしょにいられないなら…こんな手…いらなぁぁぁーいっ!」
 由宇は受けも避けもしなかった。詠美の右拳が、由宇の左頬を殴りつけた。由宇は殴り飛ばされた。
「ああぁぁぁーっ!」
 しかし、魂を振るわせるような悲鳴は、詠美のものだった。由宇は起きあがりながら、右拳を押さえて床にうずくまる詠美の悲鳴を、背中で聞いていた。
「救護スタッフ、急いで!」
 澤田編集長が詠美に駆け寄る。
「大庭詠美、戦闘不能。勝者、猪名川っ!」
『決まったぁーっ!猪名川由宇、二回戦進出ですっ!』
 大志のアナウンスも、ギャラリーの歓声も遠くに聞こえた。
「詠美…馬鹿な奴…」
 呟く由宇の肩に、手が置かれた。
「応急処置をしたスタッフによれば、骨に異常はないそうよ。まぁ、しばらくペンは持てないわね。」
 見上げると、澤田編集長だった。
「真紀はん…そうですか。」
 由宇は、ほっと息をついた。
「初戦突破おめでとう。私は第二試合があるから行くわ。あなたの次の試合は午後からよ。」 そう言うと、澤田編集長は由宇の脇を抜けて立ち去った。由宇は振り返ってその姿を見送った。ふと、その背中が振り返る。
「あ、そうそう。南は強いわよ。昼までに十分休憩を取っておきなさい。じゃあね。」
 今度こそ行ってしまった。
「…次は牧やんか…」
 唐突に殺気を感じた。振り返った、人混みの先。半分ズレた眼鏡の奥に、底知れぬ眼光を秘めたスタッフ姿。
「牧やん!」
 牧村南の姿は、人混みに紛れて見えなくなった。  
「ふふふ。負けへんでぇ。刻んだ詠美の想いの分も!」
 南の挑発に、由宇は新たな闘志を沸き起こした。
 
 十分後、コスプレスペース。袴姿のすばると、翔様コスに身を包んだ玲子が、新たな戦いの火蓋を切ろうとしていた。
 
 その頃和樹は、瑞希も大志も居ないスペースで、押し寄せる客を相手に一人で売り子に励んでいた。
 
−つづく?−

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