第2章 「最前線」

 

「退屈ねー……」

 ヴィアンカはカウンターについていた肘を滑らせ、ふくよかさよりはややシャープな印象を与える形のよい頬をカウンターにつけた。おとがいの高さで揃えたショート気味のボブカットのブロンドの髪もカウンターになだれかかる。

「ああ。」

 隣に座ったアルベール・クートーは、三杯目のノンアルコールビールをあおった。

「ねぇ、何分立った?」

「この店に入ってからなら十五分、ジュノーに着いてからなら一時間四十五分ってとこだな。」

「そう……で、後何分こうしてなきゃいけないわけ?」

「そうだな……」

 アルベールは上着のポケットからパームトップ端末を取り出し、カウンターに置いて開くと、ネットにログインして検索を始めた。

「あった。……後二時間くれぇだな。」

「えー、そんなに?」

「ああ。」

「拷問よぉ……ここってば何にも無いんだもん。ショッピングアーケードもアミューズメントパークもプールもアスレチックジムも、なぁ〜んにも。」

「あるのがカフェテリアとバーが兼用のパブレストランが何軒かたぁ、確かに泣ける話だな。ま、最前線の後方基地なんてこんなものか。」

 店は非番の兵士であふれており、そこかしこで歓声が上がっていた。勤務明けらしい下士官や兵卒がほとんどだ。

「おまけに居るのはむっさい男の酔っぱらいばっかだし。イイ男の一人も居ないかしら。」

「……おまえな、隣に居るのを誰だと思ってるんだ」

 アルベールは親指を自分に向けた。

「ああ、あんた、オトコだっけ……」

「あんだと!喧嘩売ってんのかてめぇ!」

「ああ、いいオトコねぇ、アルちゃん。どうどう。」

「ヴィ〜、きぃさぁまぁ〜」

「バーテンさん、こいつにもう一杯入れてやって」

 ヴィアンカは親指にのせた五百クレジットコインをバーテン目掛けて弾いた。バーテンは浮いたコインを空中でキャッチして、アルベールの前にノンアルコールビールの注がれたジョッキを置いた。

「ったく、こんなもんで俺の機嫌が直るとでも……」

 ぶつぶつ言いながらも、アルベールは四杯目になるNAビールに口をつけた。

(たまに本気で忘れるのよねー。こいつが男だって。)

 アルベールの、そこらの美少女が裸足で逃げ出す美しい横顔を見ながら、ヴィアンカは自分のノンアルコールカクテルのタンブラーに手を伸ばした。

(イイ男というより、綺麗な男の子よねぇ、やっぱし。)

 リアルタッチに作ったフランス人形とでも言うべき繊細な顔だちに白い肌、ショートワンレンのダークブラウンの髪、長めの睫毛に縁どられた、地中海の紺碧を思わせるコバルトブルーの瞳。スレンダーな体つきにしなやかな身のこなし。アルベール・クートーは、希に見る美少年であった。

(口は悪いんだけど、隣に居ると、つくづく立場無いのよねー。)

「あに見とれてんだよ」

「ばぁか。バーテンさん、あたしにももう一杯作って。グレープベースでおまかせ。」

 バーテンはヴィアンカの放ったコインを受け取り、空のタンブラーを引き上げた。

 バーテンがシェイカーを振るのを横目で見ながら、ヴィアンカは二週間前、士官学校卒業前に校長室に呼ばれた時の事を思い出していた。

 

「諸君ら二人に辞令が下った。」

 ヴィアンカとアルベールが入室して開口一番、校長はそう切り出した。

「卒業式を目前にして急な話だが、先方も急いでいるらしい。明日、港に入港する海軍の輸送船に便乗の話をつけてある。今日中に荷物をまとめておき給え。」

「……あの、我々は何処の配属になるのでありますか?」

「ジュノーの空戦隊でしょうか?」

 遠慮がちに尋ねる二人に、校長は辞令書を差し出した。

「輸送船の行き先はジュノーに違いないがね」

「統合作戦本部直轄部隊群……」

「……技術開発部?」

「そうだ。」

「校長、この辞令、配属先が詳細まで書かれていませんが」

「ジュノーに行って直轄部隊群所属の特務艦に乗り換え給え。これが出頭命令書だ。詳しくはそこで訊くように」

 校長はもう一枚の書類を差し出した。

「特務艦、“パイレーツ”?」

「……我々は戦闘機パイロット科の卒業生で技術科ではありませんが、技術開発部で何をさせられるんでしょうか」

「私も詳しくは聞いとらん。行けば解るとの事だ。……ジュニア戦競の優勝者と第三位の優秀な卒業生を御所望なんだ。つまらん事ではあるまい。」

「はぁ……」

 その翌日、ヴィアンカとアルベールは空間機動軍士官学校のあるスペース・コロニー、<ネオ・ダカール>を慌ただしく後にした。

 

「おい、ヴィー!入り口見てみろ」

「はい?」

 アルベールに肘で小突かれ、ヴィアンカは回想から我に返った。言われるままにスカイブルーの瞳をレストランの入り口へ向ける。

「……あーっ!」

 思わず叫び声を上げてしまった。

「恥ずい奴……」

 アルベールが隣で頭を抱えた。

「だって、アル、あれ、あいつ!」

 ヴィアンカの健康的に白い肌が興奮で赤く染まる。

「ああ、そうだよ、あいつだよ。」

 ヴィアンカの指さす先に、忘れもしない大理石を思わせる白すぎる肌、精悍さと繊細さが同居した整った顔立ち、柔らかなプラチナブロンドの髪に印象的すぎる血のような赤い瞳の男が、何気ない視線をこちらに向けていた。

「マコト・スガイ……」

 菅生誠は、海軍航空隊の略装にボンバージャケット、ズタ袋一つに何やら細長い包みを持ついで立ちだった。

 誠の方でもヴィアンカ達の姿を認めたらしく、席に近付いてきた。

「久しぶりねぇ。また逢うとは思わなかったわ、マコト・スガイ。」

「……あの時は世話になった。改めて礼を言う。」

「いいわよそんなの。それより座ったら?」

 進められるまま、誠はヴィアンカの隣に腰を降ろした。

 バーテンが注文を取りに来た。

「……ボンゴレ、ミックスサンド、フィッシュスティックコンボ。それにアイスティー」

 バーテンは頷くと水を入れたグラスを誠の前に置いた。

「よく食べるわねぇ」

「ここには着いたばかりだ。腹が減った。」

「この、細長いの、何?」

 ヴィアンカは誠の持っていた包みに手を伸ばした。

「触るな。これは祖父さまの形見だ。」

「あ、ご免なさい……」

 ヴィアンカは慌てて手を引っ込めた。

「よぉ、無冠の帝王。俺の事は覚えてるか?」

 それまでちびちびとNAビールをなめていたアルベールが、ヴィアンカ越しに誠に顔を向けた。

「……」

 誠は顔も向けなかった。

「無視はねぇだろう?」

 アルベ−ルは腰を浮かしかけた。

「やめなさいよ。」

 ヴィアンカはアルベールの肩に手を置き、たしなめた。

「……まァ、いいけどよ。」

 アルベールは素直に腰を降ろした。

「それにしても、妙な所で逢うわねぇ。と、そうでも無いか。ここって最前線だっけ。海軍のジュノー基地航空隊に配属になったの?」

「いや、ここには寄っただけだ。二時間後には船に乗る。」

「へぇ、わたしたちも船待ち。奇遇ねぇ。あ、料理来たわよ。」

「……」

 誠は運ばれてきた料理を手前に引き寄せた。

「ここじゃなきゃ、どこに行くわけ?最前線配属じゃないの?」

 誠は、料理が運ばれてくるとヴィアンカの問いには答えず、黙々と食べ始めた。

「……おーい」

 無視された格好のヴィアンカが肩をすくめた。

「自己中な野郎だな。」

 アルベールはため息をついた。それでも興味があったので問いを続ける。

「乗る船ってのは、海軍の空母か何かか?空母航空団に配属とか?」

「いや……海軍の艦船じゃなく……直轄軍所属の船だ……」

 誠は口に物を放り込む合間に答えた。

 ヴィアンカとアルベールは顔を見合わせた。

「それって……何だぁ?」

 言いかけたアルベールが誰かに肩を掴まれ、振り向かせられた。

「よーお、べっぴんさん。奥で俺達と一緒に飲まねぇか?俺っちのフネ、入港したとこでよぉ、あんたみたいな美人見んの久しぶりなんだよぉ。な、一緒に付き合ってくれよぉ。」

 酔った下士官だった。

「てめぇ、目は確かか?俺は男だ、この馬鹿野郎!おととい来な!」

 アルベールは荒々しく下士官の手を払った。

「おわぁあ」

 下士官はふらつき、手近かのテーブルに倒れ込んでひっくり返した。盛大な音が響きわたり、店中が静まった。

「なにすんだこのアマっ!」

 叫んだ下士官の言葉に、アルベールは頬をひくつかせた。

「……もういっぺん言ってみろ」

 ゆっくり歩きながら座り込んだままの下士官に近付く。そして衿を掴んで引き上げた。

「また始まった。」

 ヴィアンカは目をつぶった。

「あいつね、女に間違われたり顔の事からかわれたりすると、すぐにプッツン行くのよ。あーなると血を見ずには終わらないわ」

 聞いているのかどうかも解らないが、ヴィアンカはとりあえず一心不乱に飯を食っている誠に解説した。

 店中の客が見守る中、アルベールは下士官をぐいと引き寄せた。

「誰がアマだぁ?よぉく見やがれ!俺は男だ!」

 アルベールは右ストレートを下士官の顔面に叩きつけた。下士官は二、三メートルほど飛んだ後、また違うテーブルをひっくり返しながら床に沈んだ。

「おい、そこのヒヨッ子!」

「てめぇ、よくもやったな!」

 奥のテーブルの一団の兵士達が立ち上がった。アルベールに殴り飛ばされた下士官の連れらしい。

「おもしれぇ。ちょうど退屈してたんだ。かかって来な!」

 アルベールはファイティングスタイルに構えると、指招きをして男達を挑発した。

「この糞餓鬼ぃっ!」

「言わせておけば!」

「やっちまえ!」

 全部で六人が、アルベール目掛けて走ってきた。いかにも屈強そうな海兵隊員だった。

「死ねぇ!」

「そんなパンチが当たるか!オラァッ!」

「ぐあ……」

「餓鬼がぁ、なめるな!」

「そんな汚ねぇツラ、誰が舐めるか!」

 アルベールは喧嘩慣れしていた。かわしざま懐に飛び込んで急所に鋭い肘か膝の一撃。

「ムエタイか?」

 やはり、飯の合間に誠が訊ねる。見てないようで見てるのか。

「そ。ネオ・ダカールじゃ三日に一度は喧嘩してたわね。コロニー内に軌道防衛軍の士官学校と商船学校と技術高専があってね。それぞれの生徒がもう、四つ巴で寄ると触ると喧嘩よ。」

 ヴィアンカが見守る中、アルベールは見事な正統派スタイルのムエタイ式打撃術で海兵達と渡り合っている。六対一も苦にしていない。アルベールの喧嘩に煽られたのか、店中が騒がしくなってきた。

「いいぞいいぞ、やれやれ!」

「うるせぇ!」

「何しやがんだこの野郎!」

「てめぇ!」

「やりゃあがったなこん畜生!」

「イテッ、この皿投げやがったなぁ、誰だ!」

「じゃかあしい!」

「えーい、こうなったら誰でもかまわねぇ、食らえ!」

 アルベールと海兵から始まった喧嘩は、店中に広がりつつあった。

「ああ、喧嘩って、一端始まると何処でも同じね。何でこうなるのかしら。」

 ヴィアンカがちらりと横を見ると、誠は喧嘩の騒ぎなど何処吹く風とばかりに、相変わらず飯を食っていた。

「JSのカリーライス、追加」

「マイペースね、あんたって。」

 こんな騒ぎには慣れているのか、盆を盾に頭を守ったバーテンが律義にオーダーを取っていった。

「海軍の士官学校じゃ、喧嘩はなかったの?」

「やってたように思う。」

「巻き込まれたりしたこと、無いの?」

「一回生の時には何度か。その後は無い。」

「へぇ。」

 ヴィアンカは疑問に思った。何と言うか、誠のようなタイプは難癖をつけられて喧嘩に巻き込まれ易いタイプだと思ったからだ。

「よー、べっぴんのねぇちゃん、こんな野蛮なとこ抜け出して、静かな所で俺とイイコトしないかい?」

 酔っぱらった赤ら顔の大柄な兵士がヴィアンカの手をつかんできた。

「てめえ、俺の連れに気安く触ってんじゃねぇ!」

 酔っぱらいの後頭部に、後ろからアルベールが蹴りを入れた。

「ぐわっ!」

「ヴィー、大丈夫か?」

 ヴィアンカはカウンターのタンブラーを掴み、アルベール目掛けて投げつけた。

「おわっ!何しやがる」

「どわぁっ」

 タンブラーはアルベールの頬を掠め、アルベールの後ろに迫っていた男の顔面にヒットした。

「あんたねぇ、人の獲物取る前に、自分の獲物をちゃんと始末しなさいよ。」

「獲物、って…てめぇ、やる気だったのか?だったら見てねぇで手伝え!」

「しょうがないわねー。」

 ヴィアンカはパキパキと指を鳴らしつつ、スツールから腰を上げると、喧嘩の中に文字通り飛び蹴りしながら飛び込んでいった。

「カラテか。」

 一瞥すると、誠はカウンターに向き直り、食事を再開した。

「カリーライスのジャパニーズスタイル、お待たせしました。」

 バーテンが誠の前に皿を置いた。

 誠は応えずにスプーンを取った。

 その時、誠の後ろでテーブルが一つ、派手にひっくり返り、グラスや皿が宙に舞った。

 誠の頭上から落下物が襲いかかる。誠はスツールから動かず、振り向きもせず、頭を振ったり上半身を捻らせたり、右手のスプーンや左手のフォークで払いのけたりして落下物を避けた……が。

 誠は、まだ一口も口にしてないカリーライスを前にして、硬直した。誠のカリーライスには、チリにまみれた陸戦用のブーツがトッピングされていた。撒き散らされた落下物の一つだ。自分に降り懸かる物はかわせたが、目の前の皿にまでは及ばなかったらしい。

「……」

 誠は無言で立ち上がった。

「……うるさい」

 誠は振り向き、静かに呟いた。無表情はそのままだ。その誠の肩を誰かが叩いた。2メートルを超える筋肉隆々とした海軍兵だ。片手にレッド・チリペッパーソースで真っ赤になったピザの皿を持っている。

「おう、ハンサムなアンちゃんよお。涼しい顔してるなぁ。これでも食って熱くなってみるかぁ?ええ!」

 男は皿を振りかぶって、誠の顔面に叩きつけようとした。

 

「てっ、やっ、たっ!えーい!」

 ヴィアンカは二連打から肘、そして裏回し蹴りを叩き込んだ。必殺のコンビネーションだ。食らった空軍兵は床に沈んだ。

「さぁ、次は誰?」

 誰かが肩を叩いた。

「うらぁーっ!」

 ヴィアンカは振り向きざまにバック・ナックルを打った。

「うお!」

 かわされたのは読みの内。相手がひるんだ隙に体制を整える。

「……あら、アル。」

 振り向いた先に居たのはアルベールだった。

「相変わらずいいキレしてんな。」

「どうも……所でどうしたの?」

「何か様子が変だぜ。」

「へ?MPが来るには早くない?」

「いや、そうじゃなくてな。」

 アルベールは店の奥に視線を向けた。

「向こう、静かね……」

「気付いたか?さっきから、カウンターにヤツがいねぇ。」

「ヤツって、スガイ?」

「…俺、聞いたことがある。海軍士官学校に、とんでもなくヤバい奴がいるって。キレると誰にも止められない、人間竜巻みてぇな野郎がよ」

「それって、あいつのこと?、あいつがキレると、そんなにヤバイの?銃を抜くとか?」

「そんなかわいいモンじゃねぇらしい。」

「何なのよ、一体。血ィ見るくらいなら、もうなってるわよ?」

「あいつがキレたら血ィ見るどころじゃない、血の雨……いや、血の海になる、な。噂通りなら」

 ドォン!

 突然、重い物同士が衝突したような物凄い音響と、足元から地響きが伝わってきた。

 店中が静かになった。

 ヴィアンカが恐る恐る音のした方を覗き込むと、壁に十人足らずの男達が折り重なって押しつけられていた。全員戦闘力を一撃で奪われたらしく、気絶したり苦しげに呻いたりしている。

 一番手前の大柄な男の胸が赤く染まっていたが、それは近くに落ちているピザのレッドチリペッパーソースらしい。その男が吹っ飛ばされ、その進路上に居た何人かが巻き込まれて壁に叩きつけられたようだ。

 店の奥に、誠が居た。ヴィアンカには棒立ちしているように見えた。顔を見てみると、相変わらず無表情だ。

「てめぇ!」

 一人の海兵隊員が床に転がっていたスツールの足を掴み上げた。

「これでも食らえ!」

 そのままバットスウィングで誠に叩きつけようと構える。

「危ない!」

 ヴィアンカは誠に向かって叫んだが、ガンッ!っと、打撃音がしたかと思うと、海兵隊員はスツールと共に空中を壁に向かって猛速で飛んだ。その進路上にいる人間を巻き込みながら壁に叩きつけられ、またもや、ドォン!と言う音が響いた。

「側蹴り……」

 戦闘機パイロットに求められる、非常に高い動態視力を誇るヴィアンカでさえ、誠の動作は霞んで見えた。

 非常識に速い、左の側蹴り。海兵隊員と一緒に宙を飛んだスツールの足はVの字形にひん曲がっていた。直径五センチのステンレス・スチールのパイプである。低重力仕様とは言え、そう易々と曲がるものではない。壁に叩きつけられた男達は、またもや全員悶絶している。

「ありゃ、手加減してるな。キレきってねぇ。」

 アルベールはホッと息をついた。

「あれで?」

「ワザとスツールを蹴ってるぜ。それに、クッションになる人間がいる方に蹴っ飛ばしてる。良く考えてみろ、あいつが本気だったら蹴り一発で肋骨バッキバキの心臓パンク……いや、胸に大穴が開くぜ。」

「…そうね。」

 ヴィアンカは肯いた。あのスピードには、それぐらいの破壊力がありそうだった。

 誠の側にいた男達が、手に手に椅子やスツール、皿や瓶などを持って誠を取り囲んだ。一斉に飛びかかろうという気らしい。

「ヤバい雲行きよ。逃げた方がよさそうね。」

 ヴィアンカは退路を捜した。

「ずらかるか。」

 アルベールは出口を指した。二人はカウンターに背を向け、駆け出した。その背に空気を震わせる大音響が響いてきたが、二人が外に飛び出すまで、幸いにも猛速の人体は飛んでこなかった。

「MPだ。おとなしくしろ!」

 店からでた二人の前に、軍警隊員が一小隊分ほど列を作っていた。

「あちゃー……」

 ヴィアンカは天を仰いだ。

「随分派手だな。中はどうなっている?」

 中から響いてくる音の大きさに、MPの指揮官の曹長は首を傾げていた。

「今は入らない方がいいぜ。」

「何?」

 MPの曹長は、目を細めた。

「今入ると地獄を見るわよ。静かになるまで待った方がいいわ。」

「フン。中で市街戦でもやってるのか?」

 その問いに、アルベールは肩をすくめた。

「似たようなモンだな。」

 MP曹長は部下に指示を出して、ヴィアンカとアルベールを拘束させた。そして、自ら暴徒鎮圧用の電磁警棒を抜いた。

「……全隊突撃用意!」

「よしなさいって。」

「やめとけよ。」

 ヴィアンカとアルベールは、一応警告をした。

「全隊突撃!全員引っ捕らえろ!」

 MP達は、曹長を先頭に店の中になだれ込んでいった。

「……よせばいいのに。」

「仕事熱心な奴等だぜ。」

 店の中から響いてくる破壊的な音響は、しばらく止まなかった。

 

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