序章 「22世紀後半史」

 

<宇宙開発略史>

 22世紀に入り、人類の宇宙進出は太陽系のほぼ全域と、アルファケンタウリ等の一部他恒星系にまで及んでいた。

 マイクロマシン、略称MMと呼ばれるミクロンサイズの機械類の実用化により、他惑星の地球環境化、いわゆるテラフォーミングの技術は21世紀後半に確立された。

 22世紀の半ばには、火星ではテラフォーミングの途上であり、全太陽系の実に30%の人口をまかなう一大農耕惑星と化している。

 小惑星帯は、太陽系の開発が外へ広がっていくとともに、その資源供給地として注目され、また貿易輸送の中継点としても発達した。

 木星圏はこの時代の動力源である核融合燃料の供給地として着目され、開発が進んだ。惜しみなく技術、資金、人材が投入され、22世紀の木星圏は太陽系の中心といった感さえあった。

 

 次世代の移民プロジェクトの中核として進んでいたアルファケンタウリの調査は順調に進展し、特に第3惑星ファーエデンは移民における居住環境として火星より有望視されたが、ファーエデンの価値は何より新発見の希少金属類、フレキシウムの存在だった。

 この金属は、絶対零度近くまで失われない豊かな展性が特徴で、セラミック精製時に混入すると弾性のあるセラミックの作成が可能、かつ混入量を増やすことによりセラミックの線材加工も容易となる。このことは、加工の難しさゆえにコスト高に悩まされ続けた高温超伝導セラミックに、激烈な進化を促した。

 一躍注目を浴びたファーエデンにはフレキシウムの採掘公社が設立され、太陽系との間に航路が開かれた。フレキシウムは木星を荷上げ港として太陽系にもたらされた。

 木星系には恒星間輸送船の建造、整備用のドックが建造され、またフレキシウムの流入もあり、一大技術圏が形成され、木星系は核燃料の輸出と技術加工貿易で経済的に大きく成長した。

 

<ガリレオ同盟独立戦争(半年戦争)>

 成長した経済力と技術力を背景に、22世紀半ばになると木星圏及び外惑星圏では、国家として独立しようという気運が高まった。

 しかし、国連は莫大な収益を上げる外惑星圏の事業体等を手放す気はまるでなかった。

 国連は市民運動ににらみを効かせるべく、強力な軍隊を駐留させ、独立の動きを力で押さえた。22世紀後半に入るころには、街頭での市民のデモ隊と国連警察が衝突し、独立運動家達による地下組織が結成されるようになった。

 

 西暦2169年、木星の四大衛星、土星のタイタン、テチス等の外惑星系自治体が中心となって<ガリレオ同盟>を結成し、さらに国際連合から脱退する。保護観察領という名の、地球圏帝国主義の事実上の植民地支配からの独立を宣言した。

 国連は木星圏及び土星圏に駐留する国連宇宙軍の各部隊に独立運動の即時鎮圧を命じた。しかし、各駐留部隊は外惑星系出身の士官や兵士が中心となり、ガリレオ同盟への寝返りが相次いだ。その数は駐留軍全部隊の実に80%にまで及んだ。これは全国連軍の兵力の内、実に20%に当たる。

 その戦力を、ガリレオ同盟は同盟軍として再編する。

 

 ガリレオ同盟と国連の対立は次第にエスカレートした。

 ほどなく、国連とガリレオ同盟は戦争状態に突入した。

 

 国連宇宙軍はガリレオ同盟側の倍以上の兵力を小惑星帯の軍事基地、メタルハーバーに集結させ、木星圏へ進撃した。そして、木星圏外縁にて両軍主力による艦隊決戦が始まった。戦況は同盟軍の優勢に展開した。

 国連軍は強力な航宙艦隊を持ってはいたが、航路警備や救難、警察行動等の任務しかなく、艦隊戦など訓練すら行ったことはなかった。対してガリレオ同盟では軍事委員と呼ばれるチームが独自の戦術ドグマを確立していた。

 艦隊戦を行うにあたり、必要不可欠な統一指揮のもとの連動すらままならない国連軍相手に、同盟軍艦隊は縦横無尽の艦隊運動で翻弄し、分断、各個撃破していった。

 遅れて戦場に到着した国連軍の補給部隊を、同盟軍の機動部隊が奇手で叩くと、戦況はほぼ決まってしまった。補給部隊を失った国連軍は、メタルハーバーへの撤退を余儀なくされた。

援軍のあてのない籠城のゆく末は悲惨な結末を迎える。

 二週間とたたずに食料をめぐってパラスの民間人と国連軍の間に衝突が起こり、パラスは混乱に陥った。隙を見てとったガリレオ軍はすかさず海兵部隊を上陸させ、労せずパラスを制圧、占領した。

 同盟軍はメタルハーバーに集結し、着々と地球圏侵攻の準備を進め、火星周辺で小競り合いに及んだが、戦闘は中断し、以降は和平交渉のテーブルに持ちこまれた。

 

 和平交渉はガリレオ同盟の優位の内に進展した。

 小惑星帯占領地域の放棄を条件に、外惑星系自治体の正式な独立とガリレオ同盟の承認。その他、前方、後方トロヤ群圏の同盟加入と、小惑星帯産金属類、外惑星産核燃料の公正価格取引市場の設定、新貿易協定の締結などの条件を引きだした。

 こうして約半年に及んだ「ガリレオ同盟独立戦争」は幕を降ろした。

 

<太陽系大戦前夜〜大戦前半>

 半年戦争後、新しくスタートしたガリレオ同盟は、持ち前の最新技術による優秀な工業製品、従来よりの主力交易品の核燃料の二本の柱を武器に、小惑星帯、火星、月、地球などの国連経済圏やアルファケンタウリ圏との貿易、同盟圏内の内需の拡大等で、順調に成長していた。これにファーエデンとのフレキシウムの独占貿易を加え、次第に国連経済圏に対抗し得る経済力をつけつつあった。

 時間が立つにつれ、国連圏とガリレオ同盟間の貿易不均衡が次第に両者の対立の種になりつつあった。

 安値で買い叩かれていた外惑星産の核燃料と、高値で売り付けられていた火星産穀類、および小惑星帯産の金属類を、市場原理を導入して公正な価格を決めたため、それまでの差額が生じ、そのまま貿易収支の逆転につながった。

 更にフレキシウムの売買が追い打ちを掛けた。

 往時の経済力の復活を願う国連圏の財団は、優勢な国連の軍事力によるガリレオ同盟領の再占領を企てる。

 ガリレオ同盟の情報網は、国連の不穏な動きを一早く察知した。

 同盟軍も対向上、兵力の整備や戦時物資の備蓄など、いわゆる戦争準備を急ぐこととなった。

 こうして両陣営は互いを仮想敵として牽制しあい、太陽系は次第に開戦前夜といった様相を呈し始めていた。

 

2177年初頭、開戦を目前に国連が先に動いた。火星の穀類取引市場を凍結し、輸出価格を固定料金に変更した。

 穀類を配給制に切り替えたガリレオ同盟は、すぐさま核燃料輸出価格の値上げを行った。

 両陣営の経済紛争はエスカレートし、ことが最終的に全面輸出入禁止に及ぶと、国連側は万全の戦争準備を整えた上でガリレオ同盟に最後通帳をつきつけた。

 ガリレオ同盟はこの国連の動きを察知し、万全の戦争準備を整えた上で宣戦布告を行い、先制攻撃を仕掛けた。

 2177年12月。ガリレオ同盟宇宙軍・パラス攻略部隊は、小惑星パラスの軍港、メタルハーバー沖に集結した国連宇宙海軍アステロイド連合艦隊に対し先制攻撃をかけ、壊滅に追いこんだ。

 この、開戦璧頭のメタルハーバー先制攻撃に、ガリレオ同盟軍は三つの新兵器を投入した。

 その1は<零式多様途戦闘機>。後にガリレオ同盟軍将兵には<ゼロ>、国連宇宙軍将兵には<ガラクタ人形(ジャンクドール)>と呼ばれる、人型をした汎用作戦用の多目的戦闘機である。

 <ゼロ>はメタルハーバー襲撃戦における対空戦闘キルレシオ、実に112対1という驚異的な戦果を上げた。

 その2が、ミラージュ級潜宙艦。

 この艦の最大の武器は、その隠密性にある。通常推進用の熱核エンジンの他に隠密行動用のイオン推進式エンジンを持ち、艦の内部容積のかなりを占める蓄熱槽は、航宙艦船の宿命ともいえる赤外線の放出を押さえ込む。よほどの近距離でしか探知不能であり、隠密行動中のミラージュ級を補足できる長距離センサーは重力センサーしか考えられないが、2178年の段階で実用化に達した重力センサーはなかった。

 その3は軍事用のMMである。惑星開発用のMMが出す微弱な電磁波がセンサーを狂わせることは、火星における集中大量使用等である程度知られていたが、それを純軍事用に強化した物である。

 ガリレオ同盟軍のメタルハーバー襲撃作戦は、これら三つの新兵器を、実戦で連係高度運用した初の作戦であった。その様子は、230年ほど前の「日本海軍によるパールハーバー奇襲の再現」、とまで言われた。

 国連軍の艦艇はメタルハーバーから出ることも許されず、一方的に叩かれ、四波に及ぶ<ゼロ>の反復攻撃により、メタルハーバー駐留の国連軍は壊滅的打撃を被った。

国連軍はジュノー、火星方面へ後退していった。

 かくして、小惑星パラスは再びガリレオ同盟軍の手に落ちた。

 緒戦に敗れたとはいえ、国連軍は小惑星帯を譲る気はまるで無かった。数的優勢はなお国連側にあった。

国連軍は火星軌道内側の防備を固めると、余剰戦力を小惑星ジュノーに集中させ、小惑星帯決戦の構えを見せた。

 両軍はパラス、ジュノー間に前線を形成して対峙しつつ、後方に補給線を確保した。そしてお互いの補給路に対し、通商破壊戦を展開していた。

 2178年も半ば。戦線は膠着状態に陥っていた。


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