脚注

[i]装備で必要なものは渓流シューズ(底にフエルトを貼り付けた靴)、ヘルメット(安全のため。工事用でもOK)、ポリエステルの上下(下着も)あとは安全のためのロープの類ですが、経験者が同行する初歩の沢なら必要ない場合もあります。

[ii]3K」とは、以前にブームになった言葉で、厳しい職業環境を示す。

つまり危険、きたない、きつい、の頭文字をとって3Kと表現している。

看護師の仕事はこれに加えて、結婚できない、化粧ののりが悪い、の2Kが加わり、5K職場と言われる由。皆さんの職場では如何ですか?

この伝で言えば、沢登りは危険、臭い、きつい、となろうか?ことにポリエステルの衣類は汗をかくと、洗濯しても臭い匂いが消えないという。その原因は水の中の微生物によるとされている。私は沢は、きれい、気持ちよい、心安らぐ、の3Kだと信じている。

[iii]大衆文学の傑作といわれる「雪乃丞変化」の主人公。両親の敵を討つため、刻々とその姿を変え相手を欺くる美しい女と、それを助ける義賊をはじめとする善意の人々の姿を描いた、豪華絢爛な長編娯楽時代劇。三上於兎吉原作、美空ひばりの主演で昭和41年に映画化された。邦画

[iv] 北は霊前山より南は鈴鹿峠まで、伊勢湾と琵琶湖の間に聳える山脈。三重県側が急傾斜なのに反して、琵琶湖側は概して緩傾斜となっている。愛知川と野洲川は琵琶湖側の2大河川である。最高峰は御池岳(1247m)である。

[v] 腰に着ける安全ベルト。ナイロン製で強固な帯状になっており、各種の金具や、ロープをつけて安全を確保する。

[vi] (独語)鉄製の金具。岩の割れ目にハンマーで叩き込み、安全確保の支点として使用する。フランス語ではピトン。

[vii] 山登り中、朝と夕食は食事担当を決めて全員の分を一緒に調理するが、行動中の休憩時には、各自が用意した行動食を食べることになる。パン、果物や飴、餅など色々各自の好みで持ち歩くことになる。

[viii] 沢登りの最後、沢の源頭から稜線に辿り着くまでの登りの部分を言う。最後に潅木や、熊笹などが密集していると予想以上に時間と労力が必要となる。

[ix]道無き道を進む際に、平泳ぎの腕の動作のように、潅木の幹やその枝を両手でかき分けて進むことを言う。かなりの重労働である。

[x] 彼の現在の所在は不明であるが、2000年現在の同窓会名簿によると、四国の某新設医大麻酔科の助教授である。

兎に角、沢は「雪乃丞七変化」[iii]のように目まぐるしく変化します。圧倒的な迫力で流れ落ちる滝や蒼黒く深い淵が行く手を遮ぎります。鯉の滝登り風に飛沫を頭から浴びて滝身を攀じ登ったり(シャワークライミング)、思い切りよく淵に飛び込んだりして次々と難関を突破します。水面近くを岸に沿って溯ったり(へつり)、沢沿いに行けず手前から斜面を巻く(高巻き)必要もあります。

左の写真が筆者の沢登りの際の標準的なスタイルです。この時は淵での泳ぎを想定してライフジャケット を着けていますので、 

些か小太り気味に見えるのが残念です。ヘルメットを被ってハーネスを着けています。首からのタオルは好みです。ライフジャケットは何時もは、パス(泳ぐ必要がなければ着けない)です。それでは遡行記録に移りましょう。

沢登りの楽しみ

―鈴鹿、元越谷遡行記―

暑い夏の近郊の低山は、如何せん「蒸し風呂状態」になります。登山中のみならず休憩中も、汗が止め無く出て参ります。北海道、東北、アルプスクラスの稜線を除いては、夏の登山はひたすら、「暑い!暑すぎる!!うぅー(喘ぎ)」の一言に尽きます。余程のマゾヒストの方以外、御免こうむりたいものです。そんなうっとうしさを水に流す「沢登りの快楽」が今回の主題です。
「夏の登山は暑さとの戦(いくさ)である」
その点、沢は快適です。涼しく、水、燃料の心配は無いし(流木がイッパイ!)、釣りと山菜の知識に自信があれば、食糧の自給も可能デス。唯一問題なのが大雨!増水は極めて危険。即、高台に避難を!
谷底で水と戯れ、自然の恵み(景観、魚、山菜、きのこなど)を満喫する山登りのスタイル[i]ですが、人によってはクセになったり、反対に「3K[ii]の山登り」と嫌悪する方もおられます。最近でこそ乾き易い材質の衣類がありますが、本質的に「濡れ鼠」の世界ナンデスネ。まあそれが楽しいと言えば、そうなんですが...
1.沢登りの服装

元越谷遡行記

8/2(土)

大阪-名神―栗東IC〜<R1>〜22:00 野洲川、青土ダム公園幕営、宴会



今回の目的地は鈴鹿山脈[iv]の琵琶湖側に注ぐ野洲川の支流、元越谷である。例によって大阪で集合。栗東で降りて1号線を土山まで進み、此処から鈴鹿スカイラインの道標に導かれて野洲川を遡る。野洲川ダムの下流にある青土(「おずち」と読む)ダムサイトに恰好のレクリエーション施設が見つかった。その駐車場で幕営し、宴会だ。
沢ではカンカン照りの稜線と異なり、照葉樹の涼しい木陰が貴方を包みます。清き流れは至るところ、滝や淵を作り目を楽しませてくれます。深い緑の森と連続する花崗岩質の白く明るい滝の元越谷は、小振りながら流石、沢屋(沢登りを主な趣味とする岳人のこと)の勧める、出色の沢だと痛感しました。初心者が初めてこんな所に連れて行ってもらうと、クセになること、間違いないようです。
沢も人生も同じこと!事前に十分な文献的考察と机上分析を行い、そして実践時の現地での危険認識を再確認出来れば、あとは貴方の豊富な経験を発揮する実践の場所です。
思うままどんどん水に入り、思うままに遡行しましょう。汗も水に流れます。でもどうせ濡れているからと言って水中での(伏字)はご遠慮下さいネ。結婚式のスピーチで、「雨で濡れてズボンもびしょびしょになり、面倒くさいのでそのまま中で(伏字)を済ませた」エピソードを暴露されていた大学山岳部時代の後輩[x]がいたことを思い出しました。

8/3(日)

4:00起床6:30出発7:25入渓…11:00稜線…11:50水沢峠…14:00車―往路往復-18:00大阪

元越谷の入り口は分かり難いが、元越林道は直ぐにゲートがあって多数の車が駐車している。河原には大勢のキャンパーがいる。中には自家発電機から長いケーブルをテントまで引いている人もいる。どうも「キャンプとは不自由を楽しむ」生活スタイルであることが分からない人が多くて、困ったものだ。
ゲート前で身支度をして出発。そうこうする内にもう一組の沢屋さんが到着。人気のある沢にしては入渓者が少ない!などと思う。予備知識で得ていたように、林道を遡るにつれ数多くの砂防ダムが築かれているのに驚かされる。この林道もダム築造の為のようだ。

何れのダムも堰堤上には砂が堆積し巨大な河原となっている。下流は綺麗な淵となっているのがせめてもの慰めだが、以前はもっと素晴らしい谷であったろうと思うと、残念な気がする。ホンに何処までが必要な堰堤工事なのか?疑問に思いながら先を急ぐ。

猪足谷の林道分岐を過ぎ、2個連続する堰堤の上から入渓した。ハーネス[v]を着けていると、早速川に入ったIさんが「マムシを見つけた!」と大騒ぎしている。何を隠そう、私も大嫌いなのが蛇だ。ずるずると這って移動するのを見つけると、「蛇や〜!」と大声をあげて思わず飛び上がってしま    う。「蛇が嫌いなくせによく渓流釣りをしますね?」と友人が言うが、私はあの長いものが生理的に受け付けられないのだ。しかし姿を見なければ、入渓は気にならない!?

2.赤で決めてます。
3.大滝の落口 
4.元越大滝
5.へつり
最初は単調な河原歩きだ。天候は薄曇りで、とてもこの天気なら淵にドブンと浸かって遊ぶ気にはならない。間もなく出会った大きな淵を持つ美しい滝は、一見泳ぎを余儀なくされそうであったが、左岸から難なくへつることが出来た。30分程で落差15mの   大滝、なかなか立派だ。落ち口に2つ残置ハーケン[vi]があり落ち口の右を直登出来そうだったが、Kさんが中段から左岸の木の根交じりの壁を攀じ登って巻いた。残りのメンバーはロープに確保され、後に従う。
6.大滝の下
図7.桃源郷

此処は明瞭な滝を持つ仏谷との出合なので、迷うことなく左股に進む。  谷も狭まり急傾斜の涸滝が連続した源頭の雰囲気になる。鈴鹿や台高の沢はツメ[viii]が楽だ。殆ど藪漕ぎ[ix]らしいもの無く、あっさりと稜    線に辿り着いた。あとは水沢峠までのウンザリするような上り下りを繰り返し、登山道,林道を経て入山地点まで戻った。帰りは例によって「かもしか荘」で入湯し、汗を流してさっぱりして帰路に着いた。

図8.林道を下る
この際言っておかねばならないが、文献にあるように、最初の二俣を左に取ると恐しいほどの人工の堰堤にぶつかることになる。水沢岳への直登を望まない限りは、左股の遡行は退屈な選択肢になることを思い浮かべるべきであろう。(おわり)
登りはやや緊張したが、大滝の上でしばし休憩。各自思い思いに行動食を食べる。この上流では沢の風貌はガラリと変わり、美しい花崗岩の岩肌と広葉樹の林が眼に鮮やかだ。小さなナメやエメラルドグリーンの淵が飽きることなく連なり、漸く青空も見え出して、まるで桃源郷に遊ぶが如くである。皆さん、美しい沢に歓声を上げて進んでいった。二股の合流点は右股に取り、なおも先に進む。次第に水量も減少し倒木が目立つようになると、再度二股になる。