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彼岸過ぎのたそがれ


春がここまでやって来たケロ。
お昼の間はぽかぽかして、日なたは暑いくらいだったケロ。 でも、日が沈んだら、空気は一気に冷たくなったケロ。
ぼくは、窓枠に座って、外を眺めていたケロ。
春の空は、柔らかな薄紫にくれていくケロ。

ティシアは今日も、朝早くから出かけていたケロ。
昨日も、おとといも、その前も。毎日、毎日、夜が明ける頃に出かけて、星が空に満ちる頃まで帰ってこないんだケロ。
盗賊ギルド、教会、訓練所…行く先は毎日変わるケロも、やることはただ一つ。 …訓練して、自分を鍛えているんだケロ。
「今こそ、鍛えておかなくちゃって、そんな気がするの」
そんな事を言って出かけては、フラフラになって帰ってきて、ベッドに倒れこんでしまうんだケロ。

ティシア…それって…

もしかして、クタクタに…夢も見ないくらいクタクタになるために、やってるんじゃないケロ?
もしかして、休みなく鍛えていないと、かえるに戻ったら自分を無くしそうで、こわいんじゃないケロ?
もしかして、うっかり暇にしてて、心配している友人たちと顔を合わせてしまうのが、たまらないんじゃないケロ?

もしかして…もしかして…もしかして…ケロ…。

ぼくは歯がゆくて、両脚をばたばたさせたケロ。
窓のそばは、すっかり寒くなって、空には一番星が光っていたケロ。

ティシアは、まだまだ帰ってこないケロ。それはわかってるケロ。
でも、ぼくは、ずっと窓から通りを見つめつづけていたケロ。
ぼくには何にも出来ないから…こうやって、毎朝見送って、毎晩出迎えてあげるくらいしか、 できることはないから…ケロ。

もうあとわずかで、3月が終わるケロ…。



投稿図書館掲載時に、入れようと思っていたのですが、どうしてもお話としてまとまらなかったエピソードです。
今回ようやく形になったので、書き下ろすことが出来ました。
ティシアのかえるクンは、苦労性です(笑)


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