一月の下旬は、厳寒の頃。「君を支える」が花言葉のシロタエギクだけが、花の絶えた花壇を、
その白銀の葉っぱで飾る頃だケロ。 その日の夜更け。ティシアは、ようやく部屋に帰ってきたケロ。 真っ暗な冷え切った部屋に、灯りも持たずに入ってきて、ぼくの「お帰り」に、 つぶやくように返事をしながら、後ろ手でドアを閉め、掛け金を掛けたケロ。 そして、そのままよろよろと部屋を横切り、ぼくの乗っているベッドに背をもたせかけて、 ずるずると床に座り込んでしまったケロ。 それっきり、何も言わず、じっと座っていたんだケロ。 …以前、ティシアの悪夢を占ったカリンは、言ったそうだケロ。 『その夢は、ティシアの過去と青い竜とに深く関わっている。竜に会えば、夢の謎も解ける。 青い竜に会えるのか、それは無数の可能性と選択肢の向こうにあって見えないが、 その最初の選択はティシア自身にゆだねられるだろう』と。 ティシアは、選択したんだケロ。謎の解けないまま、悪夢のような現実が迫ってくる道を、人々のために…。 …やがて、ティシアの背中が小さく震え始めたケロ。 ぼくは、黙って見ていられなくて、でも、何も言えなかったケロ。だから、そっとその背中に近づいて、 肩にそうっと前足をのせたんだケロ。 「かえるクン…あたし…」 不意に聞こえたティシアの声は、しゃがれて震えていたケロ。 「かえるが、嫌なんじゃ、ないの…。あたし…あたしが、あたしじゃ無くなってしまうのが、怖い…」 振り向いたティシアの頬から、涙がぽたりぽたりと落ちていたケロ。 ティシアの瞳に浮かぶあどけなさに、ぼくは胸がキリキリと痛くなって、 思わずその頬に前足を当てて、涙をすくい取ったケロ。 「うん…分かるケロ…」 …ティシアは本当に、どんな姿になったって、自分でいられさえすれば、さほど気にしないだろうと思うケロ。 この子は、どんな姿になったって、自分の生きたい道は自分で開いて行こう、という子だケロ。 「あたしでいれたら…みんなとも、一緒に生きていけるのに。どんな姿でだって、大丈夫なのに」 「うん…ティシアなら、きっと大丈夫ケロね」 「でも、あたしじゃ無くなったら…みんなのことも、分からなくなっちゃう…そんなの、絶対、嫌だよぉ…」 ティシアは突然、ベッドに向き直って、両手でぼくのお腹にしがみついたケロ。 「何になったっていい。あたしは、あたしでいたいよぉ…」 ぼくは、視界いっぱいに広がる桃色の髪を、そっとなでてあげたケロ。 かえるには熱すぎて乾ききった人間の肌も、今は全然気にならなかったケロ。 どれくらいたったケロか… …ぼくはようやく、言葉を見つけ出したケロ。 「ティシア…。ぼくら、生まれながらのかえるは、今のティシアと、同じだケロ。 一生懸命今を生き抜くために、生きているんだケロ。 だから、前みたいな呪われたぼんやりかえるじゃなくて、ぼくらみたいなかえるになれれば、 きっと大丈夫ケロ。呪いに負けて、自分を忘れたりしないケロ。ティシアなら、絶対、大丈夫ケロ!」 「…本当に、そう、思う…?」 「もちろんケロ。忘れそうになっても、ぼくがついてるケロ」 ティシアは、ふっ…と、笑うように息をついたケロ。 「かえるクン…カッコいいね」 「ケロ」 ぼくも、思わずコロっと喉を鳴らしたケロ。 ティシアは、ぼくに並んでベッドに腰を下ろしたケロ。 しばらく、黙って座っていたら、ティシアが大あくびをしたケロ。 「ティシア、疲れてるケロ? もう寝たらどうケロ? カッコつけついでに、夢を見張っててあげるケロよ。うなされそうだったら、起こしてあげるケロ」 「ん…お願い」 ティシアは、小さな子供みたいに素直にうなずいて、そのままコロリと横になって たちまち眠ってしまったケロ。 寝姿も幼い子供みたいだったケロ。 ぼくは、ベッドの天板の上によじ登ったケロ。 そして、彫り物のかえるのようにじっと止まって、その姿を見守ったケロ。 なんだか、ちょっぴり誇らしい気持ちが、お腹の中で膨らんでいたケロ。 べに龍が、動物好きのかえる好きなもので、ついつい人間相手よりもこういう話が多くなります。 ティシアシリーズは、ゲーム中にかえるクンが教えてくれる花言葉を使うことにしていましたが、この話は、 植物の少ない季節に、ちょうどぴったりの花言葉の植物があったので本当に助かりました。 |