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小雪の偶然


 あれは、「遊び」の花言葉を持つエノコログサが、すっかり枯れたネコジャラシを 風にそよがせる11月のことだったケロ。


 秋の夜は、静かだったケロ。
 冒険者宿のテーブルの上で、ランプがこうこうと灯り、 黙々とテーブルに向かうティシアの影を壁に大きく映していたケロ。

 夜は音もなく、更けていくケロ。



 ティシアはその午後遅く、呪いを解くため、竜の手がかりを探す冒険から帰ってきていたケロ。
 でも…ティシアを部屋まで送ってきたロッドとマーロの雰囲気から、上手くいかなかったことは 僕にも分かったケロ。
 二人が帰った後、ぼくも重い気持ちで、ベッドの上からティシアに話しかけたケロ。

 でも、当のティシアはけろっとしていたケロ。明るい調子で…
「ああ、今度の冒険? うん、ダメだった。目的地の、カガレス村に行けなくなっちゃった。
 地震で途中の橋が落っこっちゃったんだもん」
 まるで、『買い物の途中で雨が降ってきた』みたいな口ぶりだったケロ。

「じ、地震…ケロ」
 あまりのことに、ぼくはなんと言ったらいいか分からなくなったケロ。
 でも、そんなぼくにティシアは
「まあ、渡ってなくて良かったわよ。コロナに帰れなくなっちゃうとこだったわ。
 最悪、橋の向こうでも道が途切れてて、行くも帰るもできなくなって、立ち往生しちゃってたかもね」
 と、笑顔で言ったケロ。
「橋なんて、すぐ直るって。カガレス村には、それから行けばいいんだから!」

 それから、妙に悪戯っぽい顔になって、
「…それに、カガレスに行かなかったおかげで、人助けも出来たしね」
 と、付け加えたケロ。
「人助け…ケロ?」
 ぼくが聞き返すと、ティシアは、突然目をきらきらさせて、
「うん。…ね、ちょっと聞いてよ! その時、助けた人ってのがね…」
 と、言葉を切り、ぼくの方へぐっと身を乗り出してきて、
「ロッド親方の、昔の彼女だったんだよ! …ねえ、信じられる?」
「へええ…ロッドに彼女が…初耳ケロ」
 ぼくが目を丸くすると、ティシアは楽しそうにうなづいて、
「それにね、その人…リンっていうんだけど、リンって、 竜がいるって言うアトランティーナの出身だったのよ!」
「へえええぇ…偶然って、すごいケロ」
「でしょ、でしょ! それでね…」

 それからティシアは、晩御飯の時間まで、ロッドとリンの漫才みたいなやり取りのこととか、 リンを手伝って冒険したこととか、いろいろと面白おかしく話してくれたんだケロ。


 でも、その夜遅く…眠る時間になって、ティシアは突然、冒険から持ち帰った荷物を持ち出してきたケロ。
 そして、黙って、モンスターから強奪した戦利品を、仕分けし始めたんだケロ。

 夜は、音もなく更けていくケロ。

 ティシアは、ランプの明かりの下、一人、黙々と作業を続けていたケロ。
 そのランプの油も、しだいに底をつきかけていたケロ。

「ティシア、もう、だいぶ遅いケロ」
 ぼくは、そっと声をかけたケロ。
「もう、休んだらどうケロ?」
 するとティシアは、ピクンと体を伸ばし、振り返ってぼくを見たケロ。
「あ、かえるクン。まだ眠くないから…」
 そう言っている目がうつろだケロ。濃いクマもできてて…
「でも、疲れた顔してるケロ」
 ぼくが言っても、首を振って、
「あと、ちょっとだけだし…」
 そんなことを言いながら、万能薬を数える手元がおぼつかないケロ。
「そんなに疲れてちゃ、作業もはかどらないケロ。明日じゃだめなんだケロ?」
「うん…明日、訓練所に行こうと思ってるから…これも売らなきゃ…」
 言いさしたティシアの動きが止まり…しばらくぼくの顔をぼうっと眺めて、
「…訓練費足りにゅあいひ…」
 言い終わる前に、大きなあくびが出たケロ。ぼくは、ここぞと声を強くしたケロ。
「ほら、やっぱり。もう寝た方がいいケロ。働きづめは体にも毒だケロ」
「…うん、そうかも……」
 ティシアの声が、急に眠そうになったケロ。
「今日は…止めた。明日はやっぱり、誰かと遊びに行くことにするわ…」
 ティシアは立ち上がって、大きく伸びをしたケロ。
「かえるクンの顔を見ていたら、何だか急にくたびれてきちゃった…きっと夢も見ないくらい…」
「…どういう意味だケロ?」
「ありがとうってこと……おやすみなさい、かえるクン…」
「…?…おやすみケロ」
 そうして、ぼくらはそれぞれのベッドにもぐりこんだケロ。

 その後、カガレス村への橋の復旧は、結局見通しが立たないまま、日が過ぎていったケロ。
 …ティシアの夢見がひどく悪くなりはじめたのは、それから十日ばかりあとのことだったケロ…。


 投稿図書館のを、少々手直ししてみました。 投稿のお話は、書きたい部分が、充分書けていなかったので…。

 私はプレイ当時、本当に橋はすぐかけ直されるものと信じていました。その辺の住人が普段使っている 橋なら、かけなおされないまでも迂回路ぐらいできるはずだと…。
まさか、それっきり音沙汰がないなんて…。いまだにちょっと納得できなかったり。

 ところで、  ドワーフ族は結構好きなので(実はエルフよりドワーフの方が好き) ロッド親方は結構気に入っているのですが…。 この冒険で、ドワーフ族の「硬派で頑固で強欲な職人」のイメージがひっくり返り… こういうドワーフも面白くていいな、と思いますが、最初は驚きました。


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